卓上ゲーム板作品スレ

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840NPCさん:2008/01/25(金) 23:00:01 ID:???
ひたすらにGJだ!
文章も良いし構成も見事、フツーに公式に採用されても違和感ないレベルだよコレ?!
それと投下報告ありがとう。
841NPCさん:2008/01/25(金) 23:25:43 ID:???
大作力作超☆GJ!
842NPCさん:2008/01/25(金) 23:48:08 ID:???
SUGEEEEE
これ関係の転生ネタはご都合主義って感じがして好きじゃなかったはずなのに、めっちゃすんなり読めたぞ!?
何事も調理法と業前か。GJだ。
843NPCさん:2008/01/26(土) 15:23:34 ID:???
ダブクロストライク読んで、紅葉と(ブラストハンド時代の)シャンカラ書きてえっと思ったんすが、
「まてよ・・・これエンドラインか?」と思ってしまったのが大失敗。
「全員でセブンフォートレスEXの負けロープレかよ!」という代物ができちまいました。
(紅葉は結局出てこないし)
はまって書いたんで、投下させてください。
ルール処理どーなん?とか気になる方はスルーお願いします。
844NPCさん:2008/01/26(土) 15:25:02 ID:???
ヒャッハー。来るが良い。
支援はピー中なので散発だが。
「ブラストハンド・・・」
紅葉が振り返り、ゆっくりと顔を寄せてきた。それを受け止めながら、苦いものが広がっていく。
違う。あの時はまだ、彼女は俺をこう呼ばなかった・・・。
ギイイイイン。無音の耳鳴りに似たシンバスワーディングフィールドが、浅い夢をかき消した。
<何だ?><どうした!?>
疑問と同時に広がるイメージ。漆黒の宇宙空間に浮かぶ、ミサイルの群れを従えたシャトル。
<馬鹿な!FH宇宙軍だと?><米露の施設を撤収したばかりの急造組織が、なぜこんな早く?!>
「落ち着け!小太刀、ジャミングを。上月は熱破壊攻撃!」
<ようし・・・><う、わあああっ>
<だめだ、あのミサイル、EXレネゲイド化されてる!><賢者の石クラスの高純度、干渉できない!>
「あわてるでない。EXレネゲイドが扱えるのは、FHのきゃつらばかりではないと思い知らせてやるだけのことじゃ。」
轟然とした意思があたりを圧する。俺も微かな笑みを浮かべて見せた。
「そういうことだな・・・・出る!モルガン、いいな!」
期待と信頼が、空気を満たしていく。
「小太刀、レーダー展開!上月はここから支援迎撃を!紅葉、対衝撃バリア待機。・・・久坂。」
ひそやかにあふれる不信と疑念を無視して。
「遊撃隊を水道橋方面へ。陽動で陸上部隊も来るかもしれない。頼むぞ!」
空を見上げたモルガンの背から、バサリ、とドラゴンの羽が現れ、額の竜燐が広がっていく。
「モルガン、いつも人型取ってなくてもかまわないんだからな。基地のシステムはスタンドアロンだが、お前が入れるくらいのフリーメモリはある。」
ぷっとふくれる顔を見ずに、カプセルの計器をチェック。
「な・・・わらわは・・・・それでは、基地の実情がわからんではないか!」
旧都庁のタワーから、モルガンの背に括り付けたカプセルで飛び立つ。
「俺が、UGN東京の、トップ、か・・・」
知らず知らずに、自嘲の響きが漏れた。
ふと浮かぶ、出撃時の奴の笑顔。
「国見、頼むよ!」
「久坂、何であいつは・・・・・・紅葉も、もうあの頃のようには笑っていないのに・・・」
後で分かった最後の平和の中、やってきた転校生。整った顔立ちと授業で見せた頭脳に一致しない軽薄さで、
いきなり紅葉にセクハラをかけやがり、紅葉と俺双方にぼこぼこにされたくせに。あっさりと笑顔を続けて、
数日せずに俺たちといるのが当たり前になっていた。
だのに・・・FHの動きがおかしい、と急遽エージェントが集められたUGN支部を、制圧したFH部隊の中に、あいつはいた。

「久坂・・・お前が俺の死刑執行人か?」
開いた扉へ投げかけた俺の言葉に。
「こい!早く!」
辺りをうかがいながら、牢獄を駆け抜けて。
「ここから出るんだ。」
ロックをあけながら。
「頼む・・・僕も、一緒に連れて行ってくれないか?」
崩れかけたUGN支部に戻った俺たちを待っていたのは、バロール能力に覚醒し、UGNに身を寄せていた紅葉。再会したその目に
映っていた俺は、二人になると突拍子のない冒険談を始めるなりかけの恋人ではなく、FHとの戦いを生き延びた歴戦の勇士だった。
そして、その隣に立って、久坂は会ったときと変わらずに笑っていた。
849NPCさん:2008/01/26(土) 15:27:59 ID:PXncJsIh
I
「紅葉を口説きたいから、UGNに寝返るだあ?こんな時に・・・」
新人類FHの世界支配。それは数週間も続かなかった。
FHの内部分裂で、ジャームに関わるすべてが暴露され。
指導者ばかりか、隣人も、いやまず自分自身も、一瞬の後に人外の力をふるう化け物になるかもしれない・・・
人類から、地球上から、平和も信頼もついえさった。
パニックの中ジャーム化とオーヴァードの覚醒は急増し、分裂したFHは社会をコントロールできぬまま争い続け・・・。
UGNが何故今も存在し続けていられるのか、俺自身不思議でならない。けれど、確かなのは、少なくとも俺は、何かを信じていたかったこと。

空の色が闇に溶け、星が瞬かぬまま散らばり始め。そこにモルガンが中継するワーディングのイメージが重なる。
「いくぞ。」
カプセルの床に手を当て、イメージの中のミサイルをにらみつける。モルガンの口が開き、無音の震動が確率崩壊波となって迸った。
ミサイルが塵となって崩れてゆく。ふっと息をついたとき、シャトルがゆっくりと動き出した。
「な・・・ばかな!奴ら、シャトルを東京に落とす気か?!」
「うろたえるでない!攻撃を続けよ!」
再び、無音無色のブレスがモルガンの口から迸る。一波、二波・・・。しかし、崩れたシャトルの向こうから現れたのは。
「もう一群・・・EXレネゲイドミサイル・・・」
ぐらり、とカプセルが揺れ、体が宙に浮いた。
「モルガン、何を!」
「我は約束の王の剣にして盾。王と仲間たち、命にかけても守り抜いて見せよう」
「お前は!お前自身は?!」
「我はエクスカリバー、王と共にあるもの。時経てばまた蘇る。お主なら打ち直すこともできよう。
ブラストハンド、我と名を共とする主よ。約束の王として、FHどもを蹴散らし、新たな世界を築くのじゃ!」
衝撃波で落下を減速しながら、シンバスワーディングフィールドを展開する。
「全員都庁基地を退去。チームごとに指定済みの地下拠点に散開しろ。今後の連絡は
シンバスワーディングフィールドでなく、EXレネゲイドネットワークを使用すること。繰り返す・・・」
<遊撃隊、FH陸戦隊と接触。交戦開始する。>
<基地撤退が終了するまで、ここから先へは通すな!>
戦車部隊の圧倒的な兵力。突撃をかける中に、久坂がいた。
「これで・・・僕を少しは信用してくれるか?紅葉さん、国見・・・」

衝撃と共にカプセルの底にひびが入る。ゆがんだドアをむりやり押し開け、歩き出そうとすると。
「竜は墜とされたわ。投降しなさい、ブラストハンド。」
「俺を、生かして捕らえようだと?」
ゆがんだ笑いが浮かぶのが分かった。衝撃波に爆発を載せ、FH部隊をなぎ倒して駆け出す。
853NPCさん:2008/01/26(土) 15:31:26 ID:PXncJsIh
連投早いな。猿さんくらわんようにな。
立ち止まれない。振り返れない。そうしたら、二度と立ち上がれないから。
ジャームとオーヴァード。FHとUGN。理想を鎧に、不信を武器にして、争いは果てしなく拡がるばかり。
ミラージュ・エンド。すべては白日の下に晒された。そして、戦いのはるかにかすんで、明日は見えない。

ステージタイトル:エンドライン’(ダッシュ)orミラージュエンド
 レネゲイド等の全情報が公開され社会が崩壊した、
 砂漠の戦場風のオーヴァード&兵器戦+ポストホロコーストサバイバル風ステージ。
 混乱による不安から、ジャーム、オーヴァード、EXレネゲイドの発生率がかなり高くなっている。
 FHは人類支配を続けようとする主流派、オーヴァードが宇宙から地球支配することを目指す宇宙派、
 ジャーム化をコントロールして全人類を強制進化させようとする進化派に分裂。ルカーン財団と提携し、
 人類との共存を掲げるUGNは、徐々に認められつつもFHクーデターのダメージを脱しきれていない。
 ・・・てな感じ。ついでにこのモルガンは、リプレイと同シンドロームでもロストエデン出身だったりします。
 ネタとの差に頭痛を抱えつつ終了です。スレ汚し失礼しました。
あ、支援ありがとうございました。
それでは改めて、失礼をば。
856NPCさん:2008/01/26(土) 15:39:33 ID:PXncJsIh
お、終わったか。これなら支援要らんかったかな。面白かったよ
857NPCさん:2008/02/03(日) 02:00:01 ID:???
「はい……こ、これでいいですか……?」
Janusは頬を染めながら、何重にも重なったパニエごと
ピコフリルに縁取られた三段フレアスカートの裾をゆっくりと持ち上げる。
「あ、あんまり見ないで下さい……恥かしいです…っ」
ガーターレスストッキングに包まれた、
微妙に女性的な曲線が少しずつ露わになってゆく。
やがてフリルで飾られた上端部が覗き、眩しいほど皓い肌が覗く。
両足間の隙間を形作るほっそりとした太腿は、微かに緊張と羞恥に震えていた。
そして……


シャドウランスレ1000に貼ろうとして間に合わなかった。
続きを読むにはJanuたん直々のお叱りの言葉が必要です。
858NPCさん:2008/03/07(金) 10:26:31 ID:???
と、とりあえず前編だけでもやってみよう。うん。各方面に色々とご迷惑おかけしてますが。


元ネタ:「ナイトウィザード」たぶん1st。
内容:子供時代捏造ネタ。こういうのお嫌いな方はたぶん見ない方がいいです。
傾向:ラブ……じゃないと思われ。

では。
859らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 10:28:08 ID:???
1・あかいおもいで<lunatic-dream>

月光を、鋼の塊がはねかえす。
光をはねかえす鋼の塊―――人の手によって鍛えられ、戦うための道具として研ぎ上げられた剣は、今まさに担い手の敵を突き貫いていた。
貫かれた相手は、目を最大まで見開きこの結果を理解できないような表情で、自身を貫く刃と担い手を見ている。
ここに勝敗は完全に決していた。

けれどその光景を端から見ることができるものがいたのなら、どちらが勝っているのか迷ったかもしれない。
貫かれた敗者は、担い手の握る剣以外の傷を負っていない。
逆に、剣を握る勝者はあちこちに傷を負っていた。
それだけではない。豪奢な白いローブを羽織る敗者は人間の大人の姿をしているのに、その相手は二桁になるかならないかほどの年頃に見える。
そしてそれ以上に、身の丈に合わぬ長い剣を握る少年の表情は、酷く憔悴しきったものだった。

敗者は問う。

「なぜだ。なぜ―――貴様のような子供一人の手で、私の計画が潰えるのだ」

その言葉は、信じられないという感情のままに。
少年はその年頃に似合わぬ戦意と、ほんの少しの苦味を抱えた表情で答える。

「……これは俺一人の力じゃない。
 この剣には、みんなの思いが乗せられてる。だったら俺が外すわけにはいかねぇだろ。
 お前は俺に、子供に負けるんじゃない―――俺たち全員に、負けるんだ」

それが相手に聞こえたかどうか。
少年の言葉が終わるのと時を同じくして、白い光の粒となって敵は虚空に溶け消えていく。

860らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 10:28:33 ID:???
その色はこの世界にあってとても目立つ光だった。
その世界は単色に染め上げられていたからだ。
空も、大地も、月光すらもそして―――少年から少し離れたところに倒れている3つの躯も。


すべてが、紅に染め上げられていた。


一人その赤い空間に取り残された少年は、白い光の粒子が消えてなくなるまでじっとそれを睨みつけていた。
光の粒子はちらちらときらめき、ゆらめいて舞いながらやがてすべてが虚空に消えた。
同時。
世界がもとの色を取り戻す。
大地は大地の色に。空は夜の闇に。月は欠け、白く優しい光を世界中にふりかける。
戦いは終わり、異常はなかったことのように消えうせる。それがこの世界の理だ。

けれど、全てが『もとに戻る』わけではない。
世界はそれほど優しくはない。あった出来事を、ただ法則の許すかたちに整えるだけ。
終わったものが、失われたものが元に戻ることはない。それはやはり理に反することだからだ。
それを理解していながら、ぐ、と歯をかみ締めて。


―――夜色の闇に、少年のあらん限りの叫び声が響いた。



861らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 10:30:12 ID:???
あさのあいさつ <sister's pray>


「うるっさい」
「ぐっはぁっ!?」

腹に突然襲いかかった衝撃と圧力に、布団に包まって貪っていた眠りの中から強引に引きずり出される。
なんとか酸素を取り入れようとしばらく悶絶した後、彼はがばっと布団を跳ね上げ暴行犯に叫んだ。

「なにすんだバカ姉貴っ!あんたは弟の命日を今日にしたいのかよっ!?」
「なに言ってんのバカ、あんたあのくらいじゃ間違っても死なないでしょ」
「弟を起こす時の対応としてはこれ以上なく間違ってるっつーのっ!?そんな信頼地面に埋めろっ!」
「ん?優しく起こしてほしかったわけあんた。あたしに何求めてんの、バカ?」

あー言うまでもなくバカか、とさらっと酷いことを吐く学生服の少女。
少女の名は柊京子、先ほどまで布団に入っていて彼女に殺されかけた少年、柊蓮司の姉である。
京子は、いつもの通りの茫洋さのある無愛想な表情で弟に告げる。

「ともかく、あんた今日は用事があるんでしょうが。
 だから寝坊するようなら起こせって言っといてその姉に礼の一つもないってのはどうなわけ?」

そう言われては柊としても黙るしかない。
苦虫を噛み潰すような表情で彼は答える。

「……アリガトウゴザイマシタ姉上さま。
 っつーかなんでせいふくなんだよ。今日は日曜だろ?」
「ちょっと学校の方に用があんの、仕方ないでしょ。
 ほら、あんたも時間ないんじゃないの?」

言われて時計を見ると、待ち合わせまで確かに時間がない。これから走って間に合うかどうか、微妙なところだ。
あわてて服を着替える柊を見て、京子がたずねる。
862らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 10:30:38 ID:???
「朝は?いるのいらないの?」
「いらね。食べてるヒマもないし食欲ねぇ―――いってきますっ!」

言うが早いか着替え終えた彼は、姉の前を通過し自分の部屋を出て、最短距離で廊下を駆け抜け玄関から外にとびだす。
玄関のドアがけたたましい音を立てて閉じる音を聞きながら、京子は一人呟く。

「……ったく。ご近所迷惑な叫び声聞かされる方の身にもなれってのよ」

その声には、どこか寂しさの欠片のようなものが混じっていた。

彼女は知っている。
たまに、彼女のいない時間帯にこっそり傷だらけで帰ってくることも。
まれに夜になり眠った後、夢にうなされることがあることも。
そしてそれについて彼女に話す気がないだろうことも。

真っ向から乗り越えるしかできない、不器用で損な性格のバカ。
そういう弟だ。
それを少し嬉しく思うこともあるが、もう少し家族に甘えてもいい気もする。
けれどそういう弟だからこそ、いつか真っ向から自身の苦しみを乗り越えるだろうこともわかる。
その『なにか』を自分(かぞく)に吐き出すことをよしとしないのなら、それを乗り越えるまで見守ってやるのが姉としてのつとめだと、京子は思う。

あーあ、とため息を吐き出して、彼女は自身の用事のために準備をはじめた。
―――結局は。彼女自身も、損な性格をしている弟の姉なのだったりした。


863NPCさん:2008/03/07(金) 10:31:33 ID:???
864らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 11:00:31 ID:???
べんちのふたり <benchplase>

なんとか待ち合わせに間に合った柊が今いるのは、近くの公園のベンチ。
その反対側に腰掛けるのは、待ち合わせの約束をした少女の弟、赤羽青葉である。
二人の間には、なぜか重苦しい空気が流れていた。

柊が青葉から聞いた話では、姉はしばらく家の用があるためそこで待っていてほしいと言伝を頼まれたのだという。
それに納得したものの、それから先に話が進むことはなかった。
また、青葉自身に用はないはずなのだが、彼は一向に帰る様子はない。
青葉が不機嫌そうな表情をしているのを感じた柊は、何か家に帰りづらい事情でもあるのだろうと適当にあたりをつけて放っておいている。
自分よりもこの手のことは待ち合わせの相手の少女の方が上手くいくことを知っていたし、
自身も今朝姉に割と酷い扱いを受けていたため同じ「弟」として同情したこともある。

と、いっても。柊の推測はまったくの間違いだ。
青葉が不機嫌そうなのも、家に帰らないのにも、別に家の事情があるわけではなく、原因はむしろベンチの逆の端に座る存在―――柊にあったからだ。
彼は弟として、家族として姉が大好きだった。
子供の頃は、姉は青葉の方だけを見ていてくれた。
彼女はあまり家から出ることがなく、幼い青葉の面倒を見てくれる、どれだけわがままを言っても、
困ったように笑って優しく許してくれる、憧れで自慢の姉だったのだ。
その関係が変わったのは、姉が柊と出会ってからだ。
柊と出会った後、彼女は自分から外に出るようになり、困ったようにでなく、楽しそうに笑うようになった。
それにあわせて赤羽家の団欒の時間に神社関係者でない子供の名前が上るようになり、姉が青葉と遊ぶ時間は減った。
その原因は間違いなくこの隣に座る少年だと青葉は思っている。
だからこそ、姉との遊びの時間に割り込んでやろうと思っている青葉には、この場を離れる気はない。
つまりは姉を取られたくない気持ちから起こるヤキモチなわけであるが、小学2年生にそれを理解しろというのはどだい無理な話だった。
865らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 11:01:18 ID:???
ともあれ、青葉は極力嫌いな柊を無視しようとしているし、彼はそれに触れないでおこうとしているため彼らの間に会話はない。
季節は5月。風はいまだ熱を持たないが、陽光がじりじりと肌を焼きはじめるころ。
空は青く、ちぎれた雲が流れるものの天気の変容はなさそうな平和な光景。
あまりにゆっくりと流れる時間に柊は一つあくびをして―――閉じたまぶたの裏に残っていた夢の残滓が、目の前の光景と重なって見えた。

***

朱く赤く、真紅に染まった天と地と―――何より紅い天の月。
ひょんなことから手にすることになった相棒。
その関係が結ばれてしばらくたったある日、どこからか現れた『敵』。
自分を子供扱いしながらも、協力して戦った年上の仲間達。短い間ながらも築かれた、戦友としての信頼。
そして―――

もう動くことができないと悟り、自分に力を与えた人がいた。
罠にかかりながらも敵の動きを封じ、自分にチャンスをくれた人がいた。
相手の魔法の対象になった自分を、身を挺してかばって命を落とした人がいた。

その結果、今自分はなんとかこの世界で息ができて。
こうして子供らしく遊ぶことができるのだった。
―――仲間が自分に望んだ通りの、子供の生活に戻れたのだった。

***

ぶん、と軽く頭を振って、柊は死色の夢を振り払う。
自身が子供だということを痛感させられて、その上で何とか生き延びた日から一ヶ月が過ぎた。
毎日は嘘のように穏やかに過ぎていって、あの悪夢が薄れていきそうな気がしてもいいはずなのに。
昼にどれだけ穏やかな日を過ごしても、夜には悪夢のような現実(ユメ)がやってくる。
彼自身忘れたいと思ったことはないつもりだが、忘れるなと夢に脅されているような気もしていた。
866らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 11:01:52 ID:???
あんな地獄から、一人救われた自分。
笑ってほしかった人がいた。
盾になって死んだ人がいた。
彼自身が傷つけた敵がいた。

あの戦場で命を散らした人々には与えられることはない日常。
今になってふと思う。
自分なんかに色々なものを託して死んでいったあの人たちは、何のために戦っていたのか。
ただ一人生き残ったあの戦場で学んだことは、自分にできることは本当に少ないということだった。
彼自身の能力が偏っているせいもあるが、一番大きな要因は年齢だ。
ようやく二桁になったばかりの年頃の子供にできることは限られている。
柊は自分の手を見る。年相応の子供の手。これですくいあげられるものなどどれほどあるだろうか。
いや、そもそも―――


生き残った自分は、何を成すべきなのか。


そんな、たかだか11の子供が抱くにはいささか大きい命題を抱えつつ、青い空に向かって大きくため息を吐き出し―――


―――感覚に従い、隣に座る青葉を思い切り突き飛ばした。

867らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 11:04:06 ID:???
よけいなちょっかい <fatal-point>

ころころと転がっていく青葉が睨んでくるが、柊はその視線をとりあえず無視。
あとで何か奢ってやるから黙ってろ、と内心で呟いた。

柊がこんな凶行もどきに走ったのにはもちろん理由がある。
彼が従った感覚というのは、相棒を手にしたその日から知覚することのできるようになったもの。
世界を侵略する意思への抗体能力。
侵略者に対抗する存在には必ず備わっている異常の知覚の能力だ。
もっとも、そう難しいことではない。
彼らは世界の常識の『外側』にあり、『内側』を守るために常に『境』を渡り歩く者。
その『境』こそが彼らが見極めるべき最前線。『境』と『内側』こそを守る者、それが『外側』にありながら『侵略者』に立ち向かう者たちだ。
どれほど日が浅かろうと、『境』を踏み破り『内側』の存在を引きずり込む存在を知覚出来ないはずはない。
つまりは、『そういうもの』が現れたということだ。

青葉を突き飛ばした反動で、柊もまたその場から跳び退く。
それと同時。
ばがんっ、と大きな音が響くと共にどこからか現れた長い管のようなものが、彼らが座っていた白い木のベンチを粉々に破砕した。
ベンチを砕いた長い管のようなものの先には、捩れた電極のような形の、禍々しい色の金属の先端がある。
電極とは逆にある管は、ひび割れたようになっている空間の割れ目から。
もうもうとベンチがあった場所から土煙が立ち込めるのとほぼ時を同じくして、空間の割れ目が卵の殻のように砕け―――


―――その向こうにある『外側』の脅威が顔を出す。


紅い世界。
それまで様々な色彩を帯びていた世界が、一瞬にして紅に染め上げられる。
色の変化に違和感を覚えるほど、先ほどまでとはあらゆるものの形が何一つ変わっていない。公園の遊具、木々のさざめき、空に浮かぶ雲。
868らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 11:04:51 ID:???
いや、一つだけ。
これまでの世界とは、一つだけ違うものがあった。


―――月。


青空広がる真昼に浮かぶ白い月ではない。そもそも、青空の時間帯に浮かぶ月が満ちていることはない。
しかし、その月に欠けはない。
そしてなにより。
その世界を染め上げているものこそが、欠けなきその月であるかのように。アカク、あかく、狂ったように紅い月。
もしもそれを見る者があるのなら、怖気と不安を抱かずにいられないほど。
本能的に拒絶したくなる類の色の月。

そこに降り立つのは、この紅い世界―――月匣の支配者(ルーラー)だ。
それは、理科の実験で配線に使うような赤と黒の導線を、ぐにゃりと捻り集めよじって人の形に整えたような、歪なヒトガタ。
おそらくは発語すらできないほど下級であろうが、この世界を脅かし『内側』を貪る魔の一欠けら。
エミュレイター、と。そう呼ばれる存在の顕現だった。

とはいえ、その感覚を知っている柊は冷静に状況を把握しようと努めだし―――自分の馬鹿さ加減にちょっと悲しくなった。
現れたエミュレイターの立つ位置は、青葉と柊のちょうど中間。
これでは彼を抱えてこの場から逃げる、という選択をするのは非常に難しい。
いくら非常時で体が勝手に反応したからといって、もう少しマシな選択ができなかったのかと少し思う。
とはいえ、泣き言ばかりもいっていられない。次にやるべきことを確認しようとしたその矢先。

月匣の中に、3つの気配が現れた。
869らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 12:00:58 ID:???
「そこまでだっ、エミュレイターっ!」

言ったのは、なにやら真っ白なスーツに身を包んだ若い男だった。
男は月衣から取り出したのだろうレイピアを、フェンシング的な構え方でたっぷりと時間をかけて構え、言う。

「この先祖伝来の剣にかけて、お前はここでぶつ斬り決定だっ!」

……刺突用剣である所のレイピア(細剣)でどうやって斬るのか、という疑問はこの際無視した方がいいのだろうか。
そんな彼を追うように、一人の同じ歳くらいの少女が駆け寄る。

「ちょぉっと孔助ぇー?アタシを置いていくなんてなに考えてんのよっ」

少女は、短く切りそろえた髪が印象的で、赤いパーカーと黒のジャージ姿だった。
と。彼女の目が青葉をとらえる。一瞬驚いたようにその瞳が大きく見開かれ、すぐに不満そうに細められた。

「うっそ、なんで一般人が混じってんのよめんどくさいなぁ」

……仮にも、侵魔から人を守るウィザードがそんな台詞を口にするのはよくないと思う。
さらに彼女を追うように、なにか魔術師というよりも怪盗紳士を勘違いしたような黒いスーツに黒いマントの男が現れた。

「亜紀、宮松。お前ら二人が先行しても、なんともならんぞ。
 それとそっちにも一般人がいるだろう。無事な方の安全を先に確認せんか貴様等は。この役立たず共が」

毒をどばどば吐き散らかしつつ、彼はさらに続けた。

「まったく、マクベイン氏も『では私は定時になりましたのでこれで失礼いたします』などと言って絶滅社に帰られたしな。
 この行き場のない怒りをあのエミュレイターにぶつけるために貴様等を馬車馬の如く使ってやるからありがたく思え」

……定時、あるんだ絶滅社。
そんな軽口を叩きながら、男はそれでも近くにいた柊を安全圏と思しき自分達の後方へと下がらせる。
870らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 12:04:34 ID:???
どうやらこの性格の破綻していそうな3人組、エミュレイターを追っていたらしい。
それから逃げていたエミュレイターは、近くに子供二人を見つけ、そこから月匣を張って餌にしようという段だったようだ。
しかし追いかけていたウィザードも馬鹿ではない。月匣が発生する直前、その空間に滑り込むことに成功していたのだ。……一人は定時退社したようだが。
確かに、よく見れば現れたエミュレイターは導線の中にところどころ黒いほつれが見てとれる。ウィザードと交戦し、劣勢にあった証拠だろう。

白スーツ男が、黒衣の男の言葉に落胆したようにツッコむ。

「なんだマクベインのおじさん帰っちまったのか。サクサクっとコイツ倒していつもの作ってもらおうと思ってたのにさー」
「孔介はいっつもマクベインさんにごはん奢ってもらいすぎなの。まったく、目の前に料理上手な可愛い女の子がいるってのにさ」
「料理上手とはお前のことか、亜紀?冗談も大概にしておけ。お前のアレは料理ではない。味覚のみを破壊する感覚破砕兵器だ」
「な、なによ亮ったら。そりゃマクベインさんの作ったのには遠く及ばないけどさぁ」
「比較するのが間違っていると言っている」
「それには同感、ってヤツだな」

柊が呆気にとられるほど、彼らの間に流れる空気は弛緩しきっていた。
ここは常識の通じない戦場。熟練のウィザードならば、どれほどの格下相手であっても、その場にあってここまでの緩んだ空気を生み出すことは絶対にない。
緊張をほぐすための多少の会話や軽口はあっても、命のやり取りをする相手を前にして、その相手から視線を外してまで仲間とだべることはない。
ましてや、あのエミュレイターの向こうには―――

エミュレイターの右腕が三つに分かれ、ムチのようにしなりながら電極の先端が3人のウィザードに迫る。
風を裂き迫る三本の電極に、反応したのは黒マントの男だった。手に握った高級品のステッキ式ウィザーズワンドを掲げ、防御魔法が完成する。
電極と導線の集合体が彼らを打つことはなかった。しかし、エミュレイターもまた無駄になる行動をしたわけではない。
そちらに追っ手のウィザード達が意識を集中している隙に、左腕を長く伸ばして近くにいたプラーナの供給源―――青葉を、捕まえていた。
871らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 12:07:12 ID:???
柊は憤りのあまり血液が逆流したかのような錯覚に陥る。
目の前で抵抗手段を持たない、自分よりも弱い存在を放っておくことなどできはしない。
もともとそう気の長い方ではない。もとが子供であることもある。勢いのまま飛び出そうとしたその瞬間、げ、と亜紀と呼ばれた少女が典雅ではないうめきを漏らす。

「あっちゃー。とろくさいわね、だからガキって嫌いなのよ」

こんな女に絶対助けられたくない、と本気で思えるようなことをさらっと言ってのけた。

その言葉に、怒りの矛先が分散されたことで柊には冷静になる隙間が生まれた。
思い出すのは、あの紅い日のこと。
自分にできることは少ないと、そう思い知らされた日のこと。
魔剣使いにできることは本当に少ない。あれもこれもと欲張れるほど、器用な類の能力者ではない。
だからこそ、相手をよく見てできることを探せという戦場の教訓が、まだ彼の中に残っている。
大きく息を吐き出す。
心が沸き立っている時こそ頭を冷やせ。猛りは熱く、感覚は鋭く、頭は冷たく。それぐらいがちょうどいい。そんな言葉を思い出しながら、それをノイズとして排除。
目の前には一匹のエミュレイターと、三人のウィザードと、一人の人質。
青葉を助けるなら、まず倒す必要があるのはエミュレイター。ただし、ウィザード連中がアテにならないことは彼自身のカンからも、これまでの言動からも断言できる。
そして、正直邪魔にしかならない連中がどうなるのかを見届けてからでも遅くはないと判断した。
ついでに、亜紀が青葉ごとエミュレイターを倒そうとしたら、その瞬間容赦なく昏倒させるつもりで月衣の中の相棒を強く強く意識する。
その感覚はひどく心強くて。心の中でほんの少しだけ、頼れる相棒に感謝した。

そんな柊の様子に何一つ気づくことなく。亜紀の言葉に冷や汗をかきながら、孔介は注意する。
872らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 12:09:05 ID:???
「おい亜紀、お前人質巻き込んでさっさと終わらせようなんて思ってないだろうな?」
「なによ、世界の平和のためにはいくら犠牲を払ってもいいっていうのが絶滅社の考えなんじゃなかった?」
「違うだろっ!?世界の平和のためには犠牲を払っても仕方ないっていうのが基本だっ!」
「どっちも一緒よ、結局自分が平和に生きるために犠牲を払ってるんだから。数が違うからなんだって言うのよ。
 そもそも、あたしイノセントの連中ってウザくてウザくて仕方ないのよねー。なんでわざわざ力のあるあたし達が力のない連中守んなきゃいけないのっつーかぁ?
 ま、イノセント連中がいないとあたしの生活成り立ってかないから仕方なく生かしてやってんだけどー」

……こんなのをなんで囲ってんだ絶滅社。そんなに人材不足か。

ちなみに。亜紀は本気でこう言っているのだが、孔介は亜紀を単に素直になれない奴なんだと認識している。
勘違いさせておいた方が亜紀にとっては都合がいいので彼女は指摘しないし、周りも亜紀が実行しない限りは問題ないから、ということで完全に無視している。

と、そんな風に二人が言い合い、精神衛生上から亮がそれを無視していたその時。
エミュレイターの魔法が発動した。
三つの闇色の塊が、三人それぞれを打ち抜いた。どさどさどさ、と倒れる音が空しく響き渡る。

エミュレイターの哄笑が響き渡る。
その腕に抱かれた青葉の顔色は、もはや青を通り越して真っ白だ。
それも仕方のないことだろう。ウィザードとしての才を持ち、英才教育を受けている日本の名門、赤羽家の子供であるとはいえ、彼自身はまだ7つ。
月衣も持たず、ウィザードとしての知識はあれどウィザードであるわけではない彼にとって抵抗の手段はない。
なまじこの相手の知識がある分、次に何をしてくるのがわかっているために恐ろしさがこみ上げてくる。
エミュレイターに襲われる、ということは単純な死を意味しない。存在そのものが消え去るということ。
死に対しての概念すら危うい小学校低学年の少年に、侵魔に襲われることとの違いが理解できているかは難しいが、その事態が『終わり』であることに変わりはない。
歯の根のかみ合わない恐怖。それが、赤羽青葉が絶対の終焉によってもたらされたものだった。
873らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 12:09:54 ID:???
エミュレイターによる、世界を軋ませる哄笑の中。


ふぅ、と。エミュレイターのものではないため息が、月匣の中にやけに大きく響いた。


ため息は、今まで騒ぎの蚊帳の外に置かれていた柊から。
まだ逃げていなかったのか、とぼんやりと思ってから青葉は不意に気付いた。
紅い月。それはエミュレイターの現れる前触れにして月匣の象徴。
ウィザードならぬイノセントは、この世界の中では世界結界に守られないため無力化されるはずだ。
つまり、この場には月衣持つ者―――ウィザードもしくはエミュレイター、もしくはそれに対する知識を持った者しか意識は保てないはず。
けれど、この少年は本当にただのイノセントだったはずだ。家柄もごくごく普通の中流家庭、何かしらの秘伝の跡継ぎというわけでもない。
柊はそんな青葉の混乱など気にせぬまま言い放つ。

「まぁ、そこの下手なエミュレイターよりもくさった性根してやがるバカ女が倒れてくれたっつーのはありがたいんだけどよ。仮にもプロだろ、一撃ってどうなんだ。
 ……っつっても、俺のツレまとめて殺そうとしやがったらすぐに気絶させてやろうとは思ってたが」

その言葉はどこまでもよどみなく。
ただただ淡々と事実を述べるように。
その姿があまりにもいつも通りの自然体で、青葉には逆に場違いに思えたほどだった。
しかし、青葉には姉と遊んでいる彼とは絶対に違うように感じた。自然体なようで、いつもとは違う。だって彼は、姉にこんな風に強いまなざしをぶつけたりはしない。
それはいつもとなんら変わりなく、気負いなく、自然な姿。
けれど。いや、だからこそ。

―――青葉はその姿にどうしようもなく憧れた。
874らむねとの中身:2008/03/07(金) 12:26:40 ID:???
と、とりあえず前編はここまでで。容量はなんとかなりそーです。
後編は午後から。
875NPCさん:2008/03/07(金) 12:27:55 ID:???
支援?
876NPCさん:2008/03/07(金) 12:31:14 ID:???
>>874
既に午後じゃん、ってツッコミは置いておいて GJ!
こういう正統派な柊なんて・・・・・・大好きだっ

後編も期待しております!
877らむねとの中身:2008/03/07(金) 13:49:56 ID:???
後編いきまーす。
支援は、今回入ると容量引っかかるんでやめておいていただけるとうれしい、です。
878らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 13:51:32 ID:???
のりこえるいま <leading-wind>

あまりにもあっさりと3人のウィザードがやられる姿を見ながら、やっぱりな、と柊は思った。
いくら手負いの下級エミュレイターといえど、気を抜いた挙句雑談などしていては倒せるはずもない。あまりにも緊張感がなさ過ぎる。
むざむざと人質になりそうなイノセントを見過ごすような連中が、優秀なはずもない。少なくとも柊はそんなウィザードを認めない。

そこまで考えて、ふと思った。

柊は、自分を無力だと思っていた。
こんな手で守れるものなどたかがしれている、と。
守れなかったものがあったから、そこで自分の無力を悔やんだ。
そこで、自分の立つべき場所を見失った。だからこそ、いまだに夢は苦しい。

ではなぜ、今再び剣を握ろうと思うのか。無力だと思うのなら、それに意味はないと理解しているはずだ。ならばなぜ今更?

は、と。馬鹿みたいな問いに笑みすらこぼれる。本当に馬鹿みたいだな、と思った。
たった一ヶ月前のことを忘れていたのだから、笑い出したくなるくらいの大馬鹿だ、とも思った。
彼は魔剣使いだ。相棒と生涯をともにすると決めたその時から、一つだけずっと心に決めていることがあった。

『やりたいことをやる』。

それは単純な願いであり、同時に最も難しい誓い。
「成すべきことを成す」ではない、「やりたいことをやる」のだ。
どこまでも自分の信念に従って、斬りたいものを斬り、守りたいものを守り抜く。ただそれだけの、しかし何よりも難しい道。
それでも、その誓いに赤い宝玉の剣は応えた。そんな誓いをしてしまった子供と共にあろうとする。

……後に、世界を敵に回すことになろうと、2万年異世界に置き去りにされることになろうと、神の手によって叩き折られることになろうと、
その誓いを見届けるために剣は彼と共にあり続けることになるわけだが今回はまぁ関係ない。
879らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 13:52:32 ID:???
手のひらが小さくて、こぼれたものがあることも、その痛みも、絶対に忘れない。忘れることなんか絶対にない。
けれど、それは今目の前で失われようとするものに手を伸ばすことにはなんら関係がないのだ。
やりたいからこそやっていることだ。自分が関わったものが失われることを、柊蓮司は見たくないからこそ手を伸ばす。
それがきちんと危機から逃れるまで手を伸ばし続ける。奪われたのなら、奪い返すために走り続ける。それだけだ。
青葉がいなくなるのは柊自身嫌だったし、いまだ現れない幼馴染が悲しむことは火をみるより明らかである。
だったら話は簡単だ。自身の力の有無など関係はない。今剣を握るのは意味がないことではない。やりたいことをやるために、戦う。
守りたいと思ったものを守るために。言い訳なんかしない。これは柊自身のわがままだ。けれど、そのわがままに人生を賭ける覚悟が決まってしまっていた。

―――俺は、俺のわがままを貫き通すそのためだけに戦う。

ただそれだけの話。
告げる。

「で、本題だ。お前、痛いのと今すぐそこのお前が抱えてるガキ離すの、どっちがいい?」

柊は、言いたいことを言い捨てて月衣の中から魔剣を引き抜きつつその動きをそのまま一歩目の踏み込みに繋げる。
プラーナを全力放出。地を蹴る瞬間に軽く炸裂させて渾身の力をこめて蹴り出す。
体は動く。
目は、先ほどまでの戦いをじっと見ていたことで慣れていた。
加速する景色に合わせて、意識もクリアになっていく。
剣で捉えられる間合いに相手をとりこむ。
エミュレイターはまだ柊がいた場所を見て笑っている。
相手の背後に周りこむ。
ようやく笑うのをやめたのが見えた。
相手の肩に飛び乗り、青葉を捕まえている腕を切り落として彼を左手に掴む。
エミュレイターがさっきまで柊のいたところに腕を向け、腕が裂けて鞭のように襲い―――体が傾いで、目標の位置を打つことに失敗した。

「痛いのがいいっつったのはお前だしな。ほら、なんつーの?人間(おれら)で言うところの『いんがおーほー』って奴だな」
880らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 13:53:27 ID:???
あまりに近い場所から響いた声に、エミュレイターは硬直する。
一拍おいて、耳が痛くなる音が響いた。それはもはや声ではない。けれど、悲鳴だとわかる絶叫。
暴れられて妙な仕返しを受けることを嫌い、すぐに飛びのいて離脱。青葉を勘違い魔術師の近くに置きざりにし、そのまま今度は取って返す。

捩れた導線の腕が、柊を吹き飛ばそうと横薙ぎに振るわれた。
その下をくぐり、さらに一歩踏み込む。
少し考えたらしく、彼の目を狙って一本の電極が突くように放たれた。
半身になってかわしながら、さらに一歩前へ。
足を止めようと数本の電極が足元を狙って放たれる。
足止めされるよりも早く右前へと跳んでかわした。
伸ばされた腕が鞭のようにしなって彼へと向かう。
剣の腹で張り倒して、踏みつけてさらに前へ。

間合いに入る。
踏み込む勢い。軸足を中心に体ごとひねって剣を振るい、今までのスピードを上乗せした一撃で、相手の首をはね飛ばす。
まだ足りない。
侵魔は人の形をしてるだけで弱点まで人間と同じわけではないと、一月前に学んでいた。
切られた首から、何本も導線が伸びて柊に襲いかかってくる。
それを見ても、彼はなお冷静だった。
あまり付き合いたい相手ではないし、せっかく『答え』がみつかったのである。青葉は返してもらったことだ、侵魔ごときに付き合うヒマなど柊にはない。

だからこそ、次の一撃で終わらせる。

全力でプラーナを開放し、その上でさらに一撃に力を込める。
紡ぐのは、今のところ彼が唯一知る魔法。
名目上魔法使いであるはずの彼が、なぜか他は知らないがたった一つだけ可能とする魔の法則にして奇跡。常識の外側の存在であることの証左。
881らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 13:53:49 ID:???
「……<エンチャントフレイム>っ」

炎が剣にまとわりつく。
たん、と地面を蹴り相棒を大きく振りかぶる。
最高到達点につくと同時、遠慮も会釈もなく、ありったけの力と想いを込めて振り下ろした。
切りつけた後から炎が吹き上がる。その一太刀でエミュレイターの命が消えるのが、相手を倒したウィザードにはわかった。

地面に降り立つのと同時、紅い月がかすんでいく。
からん、と音をたてて禍々しい色の石―――魔石が落ちた。
それを確認すると同時、魔剣を月衣にしまいこむと、柊はいまだ呆然としている青葉の手をとった。

「場所変えるぞ。たぶんもうすぐここは入れなくなるし、こいつらが起きるまで待ってたら捕まっちまう」

遊べなくなるのイヤだしな、といつもの近所の子供の顔で言った柊に、青葉は意思と関係なくこくりと頷いてしまい。
ずるずると引きずられて公園を後にした。

882らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 14:01:34 ID:???
らむねとやくそく <boys promiss-in the summer>

柊は、青葉の手を引いて近所の駄菓子屋に行った。
さっきの公園に向かう通り道であるため、ここで待っていれば待ち合わせの相手とすれ違うことはないはずだ。
顔見知りである店の主とたわいもない話をしながら、彼はポケットから小銭を出してラムネを二つ買い、一つを青葉に渡した。
店の前の吹きさらしのベンチに腰掛け、ラムネを口にしながら彼は青葉にたずねる。

「ケガとかしてねぇか?」

かなり荒っぽい助け方だったからケガでもしてたら大変だ、と思っての発言だったのだが、事実ケガのない青葉はこくりと頷く。
柊が無事に青葉を助けられたことにほっと息をついていると、青葉が逆に意を決してたずねた。

「あの……うぃざーどだったんですか、あなた」

舌ったらずながらも、当たり前と言えば当たり前の質問。
そもそも赤羽家はウィザードの家系である。専門教育を受けている青葉からすればそれは気になる事だろうとは、柊にも予測できた。
肯定の言葉は案外するりと口から出た。
彼自身がそうであることは当然イノセントに言えることではないため家族が知っているわけもなく。
つまりは今のところ誰にも言っていないことで。もしかしたら、誰かに知っておいてほしかったのかもしれない。

「ん。っつーか、俺その言葉もつい最近知ったんだけどな」
「いつから、ですか?」
「一月ちょっと前くらいかな、色々あって巻き込まれてよ。さっきの剣と会ったのが始まりだ」

ラムネ、気ぃ抜けるぞ、と言いながら彼はラムネを喉の奥に流し込む。
青葉にとってははじめて来た駄菓子屋で、はじめてのラムネ。ビンの冷たさが少し暑くなりはじめた気温になじんだ肌に心地いい。
ラムネを口に含む。炭酸ははじめてだったが、口の中に広がる気泡が弾ける感覚は、さっきからの怒涛の展開でマヒした心をほぐしてくれるような気がした。

そんな様子をちょっと楽しい気分でながめながら―――柊は、ここまで歩きながら考えていたことに意識を戻した。
883らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 14:03:32 ID:???
先ほども体験した赤と紅の世界。
彼は誓いを思い出した。だからこれからも戦っていけるだろう。けれど。
青葉は、ウィザードになる素質がある。それは彼の実家が赤羽家という強力なウィザードの家系であるからだ。
それはつまり、彼の身内はウィザードになるだろう素質が強く存在することになる。

思い出すのは、一人の少女の笑顔。
彼にとっての日常の象徴。たとえどれほど凄惨なところに行こうと、帰ってこようと思うときに浮かぶ心の灯火の一つ。

そんな彼女が、柊がこんなことになっているのを知ったらどうするか。
怒るかもしれない。泣くかもしれない。それ以上に―――その世界へ一緒について行こうとするかもしれない。
怒られるのは慣れているが、泣かれるのはイヤだった。
そしてそれ以上に、自分のせいであの暖かな笑顔が消えて、紅い世界に引きずり込まれるのは見たくなんかなかった。
それはとても勝手な願いだ。けれど柊は、やっぱり彼女に陽のあたる場所でずっと笑っていてほしかった。
勝手な願いだとわかっていながら、それでも彼は青葉に一つの頼みごとをした。

「―――言わないでくれるか。俺がウィザードだっていうの、あいつには」
「え……なんでですか?」

名前を言われなかったのに、何故か青葉には彼の言った『あいつ』が姉のことなのだとわかった。
ウィザードの子は生まれながらのウィザードになりやすい傾向もある。
が、それ以上に赤羽の家は歴史ある家としてエミュレイターに入り込まれないよう霊的防御も考えて使用人に至るまで全員がウィザードだ。
積んだ歴史の長い家は、結構そういうことを気にかけていることは多い。
むしろウィザードであったほうが、ウィザードの家には堂々と入り込みやすいはずである。にも関わらず、彼は姉が気付くまではいうなと言った。
あって当然の青葉の言葉に、柊は困ったような顔をしながらも、正直に答えた。

「あいつにウィザードの素質があるのは知ってる。
 けど、あいつはあんな血まみれの戦場には似合わねぇだろ。陽だまりの中で笑ってる方がずっと似合う。
 ウィザードだからってみんながみんな、殺し合いに参加しなくちゃいけないって決まりはねぇだろ」

その言葉に、青葉はむっとした様子で言い返す。
884らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 14:05:06 ID:???
けど、ぼくもねぇちゃんもあかばねのいえのにんげんです。
 あかばねはうぃざーどであるいじょう、なにももたぬひとたちをまもるぎむがあります」

『世界を救うことが選ばれたものにしかできないのならば、その選ばれたものは血を流すべきだ』
その言葉は、陰陽師と呼ばれるこの国で発達した魔術系統の始祖直系・御門家の家訓だ。
陰陽師をはじめとして、多くのウィザード達の心得になっている。御門の分家筋の赤羽ともなれば、その心得は物心つく前からの教訓である。
もっとも、小学生の青葉がその言葉をきちんと理解しているかは怪しいが。

糾弾するようなその言葉を聞いて、けれど柊はラムネの中のビー玉をながめたまま答えた。

「お前難しい言葉使うな……意味分かってっか?
 ……義務とか、家の人間とかそういうのは正直俺にはわかんねぇけどさ。
 それで血流すのが痛くなくなるわけじゃねぇし、大事な奴がそうなるの見て苦しくならねぇわけがねぇだろ」

青葉の言う言葉は確かに正しいのだろう、と柊は思った。けれど、彼には自分の願いが間違っているとは思えない。
吹っ切れた今なら分かる。あの血塗れの戦場に立って死んでいった人たちは、戦っていた人たちは。みんなみんな、自分の守りたいもののために戦っていたということを。
そして、それが今までえんえんと繰り返されてきて、今まで戦ってきた人々の選択の上に「今」があるのだということを。
それが奇跡のようなバランスの上で成り立っているということが、今は彼にもわかっている。
だからこそ、彼は望む。選択をする。自分自身のやりたいことを、願う。
知らないところで少女が泣いていたり傷ついていて、何一つ自分は知らないままで笑える日々を続けるなんていうのは嫌だった。
痛ければ痛いって言ってほしい。苦しいなら苦しいって言ってほしい。
どうしようもなくそれは柊のわがままで、相手の考えなど完全に無視しているけれど。
それでも。

―――ただ、あいつは泣く姿よりは笑う姿の方がずっといいと思えたから。

だから、と柊は言葉を続ける。


885らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 14:08:05 ID:???
「―――あいつの分まで、俺が戦うから。
    だからあいつにはその分、日のあたるところで笑っててほしいんだ」



―――笑っていてほしい。心からそうであってほしい。
―――俺は、あいつの笑ってる場所に帰ってこれるってだけで戦えるから。

それは、祈りにも似た誓いだった。
たった一人の少女に捧げる、日常を生きてほしいという心からの気持ち。
少女に日常を、自分の分まで生きてほしいと嘯いて、本来なら少年にこそ与えられるはずだった平穏な日常を、少女に渡したいと。
それは笑ってしまうほど子供じみた仮定だ。そんな思いに意味はない。彼が魔法使いとして覚醒することと、少女が戦いの場に赴くことには何の因果関係もない。
けれど。



――――――そんな願いを。たった一人の少年の幻想を、誰に壊す権利があるだろう。



その言葉を聞いて呆然としている様子の青葉を見て素に戻ったのか、柊は照れを隠すように視線を逸らして呟く。
886らむねといのりととあるなつのひ:2008/03/07(金) 14:08:38 ID:???
「……ま、俺のワガママなんだけどよ。
 で、言わないでいてくれるか?なんでも言うこときくからさ」

青葉は、目の前の少年に負けた気分だった。
けれど、どこかそれは心地よかった。柊の目がどこまでも真っすぐで、安心できてしまったところも原因だろう。
青葉もそんな気持ちを隠すように、近づいてくる足音を聞きながら一つだけ願いを口にした。

「……じゃあぼく、らむねもうひとつほしいです」

その言葉と同時。角を曲がって、青葉の姉が現れた。

***

それから、青葉は柊を慕うようになる。
姉に内緒の二人の秘密は。それから7年、少女自身が気付くその日まで―――守られることとなる。


end
887らむねとの中身:2008/03/07(金) 14:10:20 ID:???
お、終わったよう……。
「夢物語」書き終えてからもう一つなんか書きたいなー、とは思ってて、その後戦国乱世並みのカオス空間である某クロススレのリレーに巻き込まれて中断されてた話。
最後の方容量限界でびくびくしてた。超怖かった。
888NPCさん:2008/03/07(金) 14:19:00 ID:???
>>887
GJ&お疲れ〜
もし問題なかったら以下の内容でスレ立てする?>ALL住人


ここは自分が遊んだ卓上ゲームのプレイレポートやリプレイ、卓上ゲーム同士のクロス、
公式キャラやリプレイのSSなど卓上ゲームに関係する文章作品を総合的に扱うスレッドです。

・不要な荒れを防ぐ為に、sage進行で御願い致します。
・次スレは>>980を踏んだ方、若しくは480kbyteを超えたのを確認した方が宣言後に立ててください。
・各作品の初投下時は、元ネタとなるゲーム名も一緒に書き込んでもらえると助かります。
・801等、特殊なものは好まない人も居るので投下する場合は投下前にその旨を伝えましょう。
・内容が18禁の作品は投下禁止。 相応しいスレへの投稿をお願いします。

前スレ
卓上ゲーム板作品スレ
http://game14.2ch.net/test/read.cgi/cgame/1054980691/
889NPCさん
てなわけで、次スレ

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