449 :
NPCさん:
■SEQUENCE 01
「まったく、なんでわたしがっ」
化粧室のドアを後ろ手で閉めると急に頬が熱くなってくるのを実感する。みんなの前では冷静に装っていたはずだが、独りになるとあまりの羞恥と屈辱に、身体がわなわなと震えて、手足から力が抜けるのを実感する。
膝に力が入らない。肘にもだ。
立ってはいるけれどまるで間接がゴムホースにでもなってしまったようにぐんにゃりしている。化粧タイルの床がふかふかの布団のように感じるほどだった。
持ってきたミニポーチを握り締めている。そのポーチの形からしてちゃんと力を入れて握っているはずなのに、握力が感じられない。
そこまでお酒は飲んでいないはずなのに。
これも精神が動揺せいているせいなのか。
「なんでわたしがぁ……」
再び呟いて、自分がいつの間にか肩で息をしていることに気がつく。困った。これは本格的に良くない傾向だ。
こんなに動揺していてはこの先が乗り切れない。定例の飲み会はまだ始まって1時間くらいしか経過していないはずだ。そう思ってヤヌスは古めかしい懐中時計をひきだしてみる。
(時間感覚も狂ってますか)
まだ開始30分だった。狂っているというよりは、周知と願望が脳内で時間を早回ししていたのだろう。途方にくれたようなため息が漏れてしまう。
抜けそうになる膝を叱咤して、むりやり鏡に向かう。なんとかこの頬の熱を沈めて、いつもの態度を取り戻さなければならない。席に戻れば多くの『部員』が待っているのだ。毅然とした態度できっぱりと! いつもの自分をアピールしなければならない。
弱みを見せればどんな風に付け込まれるか判らない。
ヤヌスはそう思う。
450 :
NPCさん:2006/05/14(日) 23:14:14 ID:???
「うぅっ」
ヤヌスは思わず鏡から目をそらしてしまいそうになる。正直に言えば、周り右をしてこのまま撤退したい。化粧室からではない。この居酒屋そのものからだ。
薄々判っていたので鏡を見ないようにしていたのに、そこには想像通りの自分がいた。
長い黒髪を、今日は下のほうでひとつにまとめている。涼しげな目元と、すっきりした唇。細いフレームの眼鏡。真っ白いブラウスに、紺色のタイ。そして同色のロングスカート。どこかの大学の司書のような地味な装い。
それはいつもどおりの自分だ。地味だけどどこに出たって恥ずかしくない格好のはずだ。
それなのに今は、装いはそのままに、顔だけが桜よりも濃い桃色に染まっている。茹でダコといっても良い。必死に表情を引き締めようと努力しているせいで、への字にしかめられた口元さえ、どこか無理をしている子供みたいに見える。
自分しかいない場所なのに、強がったようにひそめられる眉と、動揺が隠せない瞳は、まるで敵前逃亡するかどうか迷っている下士官のようだった。
それもこれも。
指先をそっと頭の上に伸ばす。シルクサテンで作られた、滑らかな感触。
このっ。
(なんで、わたしばっかりっ!?)
彼女の頭の上に鎮座する、ねこ耳カチューシャのせいだった。
(こんなものをつけてるからっ)
思わず胸の中で呪詛の呟きがもれそうになる。
先ほどまでの辱めを思い出したのだ。みんなの好奇の視線。揶揄するような軽口。くすくす笑い。
それも致し方ない。いつもは目立たない一般常識人だと自分を喧伝していた彼女が、定例の飲み会にこんなアイテムを身に着けて現れるとは、まさか誰も予想していなかっただろう。
(一番予想していなかったのは、わたしですよ。……神様、どうしてこんなことに)
451 :
NPCさん:2006/05/14(日) 23:16:49 ID:???
彼女がこれまで築き上げてきた常識人としての全ての信用は今日で完全に瓦解してしまったのだ。きっと皆は自分のことを腐女子のレイヤーだと思うのだろうな、とヤヌスは混乱して熱に浮かされたような思考で考える。
(レイヤーって、レイヤーです。そ、そ、そんなふしだらなっ)
いつの間に力が入っていたのか、自分の身体を抱きしめるように捕まえて、膝ががくがくしている。
(そんな誤解と妄想に満ちた視線を受けているなんてっ。うう、こんな恥辱、屈辱、絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に許すことは出来ませんっ)
席に戻っても、きっとやぬたん等という呼称でからかわれるのだろう。
自分が席にはいない今この一瞬でさえ、彼らは上等の酒の肴と場ありに自分の豹変を話題にしているに違いない。
そこでやり取りされている『わたし』は自分自身ではないと心を諌めながらも、あまりの恥ずかしさに呪詛の呟きが延々ともれて出てくるのを止めることが出来ない。
いっそ、このような耳など投げ打ってしまおうかと考える。しかし、そうするとその先の問題に行き当たるだろう。それを想起しただけで頬の熱が一段と燃え上がる。
――そんなことをしたら。
ぞくりと、背筋を走り抜けるものがある。
――ばらされてしまうかもしれない。
それではいっそトイレから帰らずに逃げてしまうというのはどうか。熱で浮かされたような彼女の意識において、それはとても素晴らしいアイデアのように思える。
さっさと帰宅してお風呂に入り、優しい布団に包まれて眠るのだ。明朝は六時に起きて部屋の掃除と洗濯を行い、七時前には朝食の支度をする。
健康的な生活。規律正しい朝の光景。
素晴らしい! それこそが人間のおくるべき文明的な態度というものだ。
そこまで考えて、自分の思考が逃避していることに彼女は気づく。
452 :
NPCさん:2006/05/14(日) 23:17:57 ID:???
なにしろもうすでにこの耳のことは露見しているのだ。少なくとも十人には見られてしまった。いまさら逃げたところで、事実は消えない。
いやむしろ、逃げたことにより、彼ら全員に自分の羞恥を知らしめ、未来永劫に渡ってつつかれる隙を与えるだけだろう。
やはりここは当初の予定通り、冷静かつ峻厳な態度を崩さず、「これはやむなく罰ゲームの結果受け入れているものであり、わたしはこのようなアイテムには興味もないし、まったく何の痛痒を感じていない」という態度を崩さないほうが上策だと、ヤヌスは判断する。
それに逃げたら逃げたで、やはりばらされるかもしれない。
「まったく、なんでわたしがっ」
鏡におでこを接触させる。ひんやり冷たくて気持ちがいい。
泣き言のような愚痴のような感情が溢れてくる。そんなシロモノは自分にまったく似つかわしくはない、とヤヌスは思う。
もっと整理された理路整然とした感情で自分は生きていたいのだ。目立たぬ地味コテとして板の片隅で秩序と良識を守っていくのだ。
しかしその理想とは裏腹に、化粧室に逃げこもっている自分がいる。
(ぜんぶ……)
ヤヌスは始まりの日に思いを馳せる。
(全部、あの雨の日にはじまったんだ)
453 :
NPCさん:2006/05/14(日) 23:19:00 ID:???
わかぞーだよー。可愛く書けてたらいいなー。
今日はここまでー。にしし。ここはやぬすさんのー。なのだ。
454 :
NPCさん:2006/05/15(月) 00:19:44 ID:???
『やぬたんかわいすぎるよやぬたん』
455 :
NPCさん:2006/05/15(月) 17:34:27 ID:???
■SEQUENCE 02
外は雨だった。
柔らかい針のような五月の雨が街を包んでいる。まるで遠いホワ
イトノイズのような響きは繭のように『部室』を包み込んで、なん
だか巣篭もりをしている小さな熊のような気分にさせた。
山手線の中ではマイナーな名前の駅前の薄汚れた雑居ビル。
キャバクラとかカラオケボックスとかが入ったいかがわしいこの
ビルの屋上にある管理小屋を、『部長』達がどうやって手に入れた
かはわからないが、この場所を知る有志はこのスペースを『部室』
と呼んでいた。
がらんと広いコンクリートの打ちっぱなしのスペースは30畳は
あるだろうか。安っぽい事務用のオフィスデスクと、会議用テーブ
ルにパイプ椅子をおいてもまだまだ空間がある。誰が持ち込んだか
合皮のソファに、一角には、四畳ほどの畳のスペースもある。
居心地はいいのだが、調度品はちぐはぐで殺風景なスペース。
それが『部室』だった。
GW。世間では黄金週間と呼ばれているが、今年は例年に比べて
非常に気温が低かった。夜でもちょっとうっかりするとコートが必
要なほど。また天候が優れないせいもあって、人出も多くないとの
ニュースが流れている。
観光や景気のことを考えるとあまり有難くない話でもあるのだが、
こんな雨にしっとりと閉じ込められていると、部屋にいるのもそん
なに悪くない。そう思える。
456 :
NPCさん:2006/05/15(月) 17:39:03 ID:???
「んぅ。うん〜ぅ〜」
この部屋に三つある事務机にはそれぞれ共用のPCが備え付けられてい
る。今となってはどこのオフィスでも眉をひそめられてしまうような旧
式のものだが、ネットを見るくらいなら何の問題もないものだ。
そのひとつの前で、ヤヌスは大きく伸びをする。白いブラウスに紺の
スカート。女学生風の対という地味な装いが、シニヨンにまとめた髪と、
細いリムに支えられた眼鏡が飾る聡明そうな表情によく似合っていた。
彼女が腕を大きく上に伸ばしたまま、首をかしげるように振ると、こ
ぼれた後ろ髪が肩をくすぐるとともに、こきゅり、と可愛らしい音がす
る。
思ったよりまじめに文章を書いてしまっていたのかもしれない。それ
とも、眼鏡の度がずれてきているのかな。
ヤヌスはそう思うと、細いメタルのリムを指先でちょんちょんと押し
上げた。
彼女のその仕草は清潔感と聡明さの同居した綺麗な横顔にたまらない
愛嬌を添える。彼女は否定するが、その様子はずいぶんと可愛らしかっ
た。
「お疲れ〜」
「ひと段落?」
畳を述べた場所に持ち込んだちゃぶ台に向かっていた二人の男が声を
かける。タバコを灰皿に押し付けて高い天井を仰ぎ見たのはダガー。
『部室』では古参に入る部類だった。とはいえ年齢はまだ二十台半ば。
とぼけた性格だが博識で、いつでも韜晦するような受け答えだがけし
て興奮したりしない適当さで、なんとはなしに、『部室』の事実上の管
理人を押し付けられた格好になっている。
ちゃぶ台の上のゲームを真剣に見つめながら声をかけたのは聖騎士。
それほど頻繁に出入りしているわけではないが、最近はここでボードゲ
ームをすることも多い。がっしりした体格だが、ずいぶん優しい顔をし
ている。
457 :
NPCさん:2006/05/15(月) 17:41:54 ID:???
二人はどうやらちゃぶ台の上のゲームで遊んでいたらしい。
『部室』には誰が持ち込んだか、大量の卓上ゲームがあった。まぁ、そ
ういう同好の士が立ち上げたのがこの『部室』だ。当たり前といえば、当
たり前だった。
「ダガーさん」
「ん?」
だがーはタバコに火をつけると、余裕をもった口調で答える。
「やっぱり、この“メンヘルストーカー女”どうにかならんすかね」
「ならんね」
聖騎士が指し示した盤上の駒の一つにたいして、ダガーは首を振る。
「ぐっ」
「だって、そっちの“おねだり家出娘”だってどうにもならないじゃん」
ダガーはダガーで、中央部にかかった橋のような場所近くに設置された
一つの駒を指し示す。どうやらその駒で、ダガーの攻撃のいくつかが封じ
られているらしい。
「な、なんですかっ。その不穏当な発言の数々はっ」
頭を抱えていたヤヌスは、耐えかねたかのように勢いよくそちらを振り
返る。将棋に似た盤上には、なにやら女の子の形をした駒が所狭しと並ん
でいる。
別に少女フィギュアを使ったからといってすぐさま激昂するわけでもな
いが、そのネーミングセンスは何なのか。
“おねだり家出娘”だって、それは、あの……。やっぱり彼氏の家に無
理やり住み着いちゃったりして、彼氏がどこへ行くにも泣き言ばかりを言
って、仕事に行くのも寂しくて邪魔をしたり、朝からしくしく泣いたり…
…。も、求めちゃったりするのだろうか。
「――っ。ふ、不穏当ですっ。ふしだらですっ」
大体のところ、そんな用語が発生するというのは、いったいどんなゲー
ムなのか?
「この健全なる『部室』でそんなゲームをするなんてっ、大体どこのメー
カーがそんな子供の教育に有害なる効果を波及させるような商品を世に出
したのですかっ。説明を求めますっ」
458 :
NPCさん:2006/05/15(月) 17:43:15 ID:???
「どこでもないよー?」
ダガーは相変わらず茫洋とした声で答える。
「ええ、これ。オリジナルらしいですよ。軍人将棋の。――軍人将棋2006
『俺の萌えを越えていけ』です」
聖騎士は生真面目に答える。
「ひっさしぶりにやると、軍人将棋もいいね」
「うーん、たしかに。熱いですね。それにこの感じだと、性能は同じでも
フィギュアの出来次第じゃマイデッキ作りたくなりますね」
顎に手を当てた聖騎士はのほほんとそんなことを言う。
「オリジナルって……」
ヤヌスはしばらく絶句する。うー。スレの人といい、この人達といい、
四六時中こんなことを考えているのだろうか。頬が熱くなるのを感じる。
自分だっていい年だ。別に男女の中をそこまで目くじら立てるつもりはな
いが、こういうのは、なんだかとても見過ごしてはいけない気がする。
「まぁ、やぬたん落ち着いて」
「そうですよ、やぬやぬ」
ダガーと聖騎士は、それぞれの態度のままやぬすに茶々を入れる。
「だから何度言えばわかるのです? この私は、断じてやぬたんでも、や
ぬやぬでもないのですっ」
彼女は、腰に手を当てたポーズで何度目になるか判らないお説教を二人
にする。頬が染まる。この人たちが自分をからかって遊んでいるのは判る。
これも女性が少ないジャンルの趣味を持ったせいからなのだろうか。まっ
たく理不尽だ。
私だけが何でこんな目に。困惑しながらも、恥ずかしさと、いたたまれ
ないような所在の無さを感じる。これはいじめだ。みんなで私が恥ずかし
がるのを楽しんでいるのだ。
だからといって抗議の声をあげないわけにはいかない。ヤヌスはそう思
う。
459 :
NPCさん:2006/05/15(月) 17:45:34 ID:???
はっきりと文句を言わないと、いつの間にか流されて、なんだか都合よ
く扱われるマスコット同然の存在になってしまう。自分だってゲームが好
きな一人のゲーマーだ。色眼鏡だけで見て欲しくはない。
「私はただの真面目で平凡な地味コテなのですよ? やぬたんとかやぬや
ぬなどという面妖な呼称には断固抗議しますっ」
震えないように気をつけた声で一気に言い切る。
ぴんと立てた人差し指をメトロノームのように振って言葉を強調する。
これでこの二人にも少しは伝わったに違いない。ふぅと、呼気を吐き出
す。
「ところでやぬやぬ」
「あなたには聞く耳というものが装備されてないのですかっ!?」
「あ。常備化するのは忘れてた」
まくし立てるやぬすの声を聞き流しながらダガーはとぼける。
「天が裂けても地が砕けても、人の時代が終わったとしても、私が
そんな呼び方を承服するなどありえないのですっ。いい加減悟って
くださいっ」
「まぁ、それはともかく、今朝さ」
――ごぅん。
ダガーの声を遮るように入り口のスチールドアが重い音を立てる。
「ちゃっす、ダガーさん、聖騎士さん、やぬりん」
現れたのは笑みを浮かべた青年だった。年のころは聖騎士やダガーより
若く、ヤヌスと同じくらいだろうか。大学生くらいのように見える。
春らしいジャケットが雨でしっとりとぬれていた。駅から走ってきたら
しい。
460 :
NPCさん:2006/05/15(月) 17:46:53 ID:???
「もうっ。やぬりんでもないのですっ!!」
ぱたぱたと駆け寄ったヤヌスは、タオルもない部屋だということに気が
つく。ちょっと迷った彼女は、ハンカチを取り出すと腕を上げて青年の額
の露を拭おうとして、ぴたり! と動きを止める。
「なぜ私が貴方の世話をしなければならないんですかっ!」
「いや、そんなこと言われても……」
梨銘は困惑する。日は浅いが、彼もこの『部室』に通う『部員』だった。
彼女の性格を知らないではないので、こんな急な反応にも苦笑がもれてし
まう。
「自分で拭いなさいっ。あと、ジャケットは脱いで衣文掛けに吊るしてお
くこと。皺になりますからねっ。まったく貴方達ときたら……」
彼女はさっときびすを返すと、備え付けのキッチンのほうに歩いていく。
ちょっと怒っているのかその足音は勇ましい。しかし、そんな時でも凛
々しいほどに背筋を伸ばして歩く彼女の姿は清廉な深山の花を想像させて
綺麗だった。
キッチンの入り口に着くと、彼女はくるりともう一度振り返る。
「これから紅茶を入れます」
はっきりした声で宣言する。
「……」
「……」
その声を聞いて、“抱きつき癖のお姉さん”がなぁ、と唸っていた聖騎
士も、手渡されたヤヌスのハンカチを丁寧にデスクに戻して自前のスポー
ツタオルを取り出していた梨銘も顔を上げる。
「これから紅茶を入れます」
そんな三人にヤヌスは再び宣言する。
一番最初に応えたのはダガーだった。あるいはそれはほかの二人に対す
る助け舟だったのかもしれない。
461 :
NPCさん:2006/05/15(月) 17:47:42 ID:???
「いいね。ご馳走になりたいな。梨銘も身体冷えてるかもしれないしね」
「あ、自分もです。ヨロシクおねがいするっす」
「自分もありがたいね。感謝!」
聖騎士と梨銘も、やっとどういう申し出なのかわかって頭を下げる。
「ええ、ご馳走します」
にこりと笑うヤヌス。いつもは理知的涼しげな眉が、微笑むと崩れて陽
だまりの子猫のようになる。でもそれは一瞬で消えて、委員長のようなポ
ーズで、もう一度念を押す。
「これは高級なダージリン・ファースト・フラッシュなんです。とっても
美味しいです。ですから、やぬたんも、やぬやぬも、やぬりんも禁止です
よっ。絶対ですからねっ」
彼女の厳しい念を押す口調に、三人がなんと応えたか。
数分後、お説教に疲れた彼女は力尽きたような憮然とした表情でキッチ
ンへと消えていくしかなかったのだが。
462 :
NPCさん:2006/05/15(月) 17:49:36 ID:???
ぼかーんぼかーん。ばくげきをしてみる若造だよー。
えっちを書かないのって大変なのだ。気がつくと
えっちを書いてるのは、たぶん病気ー。
澪と同じ種類に罹患してるのだー。がくぶる。
そんなわけで、しょにょ2でした。
463 :
NPCさん:2006/05/15(月) 17:51:19 ID:???
梨銘って誰?
464 :
NPCさん:2006/05/15(月) 20:25:52 ID:???
食スレでドキュソ侍時代からアレと梨について語ってる人くらいしか思い当たらん。
465 :
ダガー+ダークヒーロー枠:2006/05/15(月) 22:32:46 ID:DNqQSWWs
お、ダガーが出てる。俺萌えやってみてぇー
>464
オレもソレっくらいしか思いつかんかった。
あとナナシのアナグラムとか?
466 :
NPCさん:2006/05/15(月) 22:40:19 ID:???
ただいまー。
ぬことメザシをうばいあってきたわかぞーだよー。
そうそう、名無しさんなんだよ。
過去スレ調べてみても、やぬすさんに一番絡んでるのは名無しさんみたいだしー。
というか、なんか特定の人にからませたら、
なんか、わかぞーの命の危険を感じたので。たので。
われに、逃亡の用意ありー。だよー。
でも、今回は聖騎士さん萌え! だがーたん萌え!
つづきもかくのだよー。
467 :
NPCさん:2006/05/15(月) 22:47:25 ID:???
>462
『わたしは単なる通りすがりだけど誰が病気だ病気なのは喪前だ小僧』
『なの』
すげえ
どうやったらこんな萌えやぬーが書けるのか・・・
469 :
聖騎士:2006/05/16(火) 15:18:03 ID:???
>465
俺萌え出来たらやろうじゃないか
>466
つづき!つづき!
>468
不適切な関係を結んでいるヒトには寸止め系は難しい
(ひろゆきAA略)
470 :
NPCさん:2006/05/16(火) 16:56:36 ID:???
こんなやぬやぬは、俺が260億ペリカで落札。
家に持って帰って愛でるね。
471 :
NPCさん:2006/05/16(火) 20:47:49 ID:???
■SEQUENCE 03
やさしい雨音が『部室』を包んでいる。
五月の雨はどこまでも柔らかく、午後の明かりをけぶらせて街を抱きしめ
る。
繁華街から流れる古めの洋楽ヒットナンバーが、余計に静かさを際立たせ
ているようだった。
『部室』の中の四人は思い思いの場所でくつろいでいる。梨銘とヤヌスは
ソファーに。聖騎士は引き寄せたオフィスチェアに。ダガーは誰が持ってき
たかは判らないスツールに。
漂うかぐわしい香りはダージリン。ヤヌスがファーストフラッシュの説明
をしたが他の三人の男にはさっぱりだった。つまりはなにか高級なものらし
い。
しばらく前に彼女が購入して『部室』に持ち込んだ物なのだが、他に飲む
人もなく、彼女だけが少しづつ消費をしていく状態だったそうだ。ご馳走し
てもらうのは三人が始めて、ということらしい。
「美味いね」
梨銘は云った。果物のように芳しい香りとでも云うのか。上手に説明は出
来ないが、粋な味だと思った。
「悪くないね。ヤヌス、紅茶の趣味があったんだ」
ダガーもゆるゆるとカップを回す。
「うまー。煎餅が欲しくなるな」
聖騎士は愛用の座布団をひいた椅子の上で胡坐をかいている。彼だけはカ
ップが足りなかったせいで湯飲みだ。寿司屋で使うようなごついデザインの
それは彼の私物で、墨痕鮮やかに「すまいといけめん」と相撲体で書かれて
いる。
472 :
NPCさん:2006/05/16(火) 20:48:46 ID:???
「まぁ、ファーストフラッシュは旬のものというか、味、落ちますし」
ヤヌスは先ほど三人から呼ばれた呼称が気に入らないらしく、まだちょっ
と拗ねたような表情をしている。
「私一人だと、使い切らない気がしたものですから。――これは特別なんで
すからね」
念を押す仕草。そんな仕草が可愛らしいと云われているのになぁ。ダガー
はそう思う。この娘の場合、本人は真面目にやってるわけで、その様子を観
察するのが楽しいから忠告はしない。
「うん、さんきゅ」
梨銘はにかっと笑う。無防備な笑顔。とはいえ、この笑顔に騙されてはい
けない。黒さでは澪に匹敵すると噂されているルーキーなのだ。
「でも、誰か飲んだのかもですね」
ヤヌスは小首をかしげる。
「なんで?」
「いえ、蓋が。――瓶の蓋がですね」ヤヌスは、右手の人差し指と親指でわ
ずかに隙間を作ってみせる。
「これくらい、斜めに閉まっていまして。……違いますよ? 私はそんなに
不器用じゃありません」
「ふぅん。……でもここに紅茶入れるような人っていたかね」
聖騎士が呟く。もともと、キッチンを使う人が少ないのだ。たまにこの場
所で宴会をする時などは大活躍だが、それ以外の日常ではみんな洗い物が面
倒なのか、使いたがらない。
殆んどの『部員』はコンビニで飲料などを買って済ましている。ちなみに、
ペットボトルのごみなどは、帰り道にコンビニで個々人が捨ているというの
が、『部室』の暗黙のルールだ。
473 :
NPCさん:2006/05/16(火) 20:49:50 ID:???
「コーヒーはマルクさん、たまーに淹れますね。俺、一回ご馳走になったよ」
梨銘は紅茶を呑みながら云う。
「アレも美味しかったなぁ」
「梨銘は食い物の話をしてるときだけは本当に幸せそうな」
ダガーの突っ込みに笑い声が起きる。
「失敬な。ゲームだって女の子だって大好きさ」
胸を張る梨銘に聖騎士が頭を左右に振る。
「まだ実在を信じているのか。<知識:宗教>か<知識:次元界>とれ」
瞑目して茶を飲む古武士然とした聖騎士は、その雰囲気を台無しにするよ
うなことを云う。その言葉にダガーがむせる。
「リアルでもそんな事云ってるのかよ。じゃぁ、そこの生き物は何だ」
「生き物とは何事ですかっ」
指差されたヤヌスは慌てたように声を上げる。その声も無視するかのよう
に落ち着いた声で聖騎士は答える。
「ゲーマーだろ」
「……」
「じゃなければ、身内」
呆れたようなダガーと梨銘の視線を受け流して聖騎士は、大きな湯飲みに
紅茶のお代わりを注ぐ。天然ボケなのか器量の大きい大人物なのか、さっぱ
り判らない存在がそこには存在した。
「感動しましたっ。そうですよね!! ごく普通の慎みあるただのゲーマー
であるわたしを、ただのゲーマーと認めてくれる人がこんな場所にいるとはっ」
あんまりに嬉しかったのかヤヌスはお代わりをしたばかりの聖騎士に紅茶
を勧めている。その喧騒を横目に見ながらため息をついたダガーは梨銘に話
を向けた。
474 :
NPCさん:2006/05/16(火) 20:51:51 ID:???
「で、梨銘はどうなの? ゲーマー扱いなの?」
梨銘は思案するようにくるんと視線をコンクリートの天井に向ける。
「ゲーマーで身内の存在が、委員長でらぶりぃでツンデレと両立しちゃいけ
ない理由って何かありましたっけ?」
けろりと言い放った。
「まぁ、本文では禁止されてないね」
相変わらず私は嬉しいと聖騎士に感謝をしているヤヌスには聞こえていな
いようだ。ダガーはそれを感じながら、梨銘の言葉を肯定する。
「で、その延長線上で、同時におもちゃでもあるっての、そんな感じがいい
かな」
「それはさすがに、FAQで禁止されるんじゃないかなぁ」
コイツはコイツで始末に負えないな。ダガーはそう思う。もっとも、始末
に負えるような常識人が少ないのも『部室』の特徴のひとつなのだが。
「何の話を、しているんですかー?」
気がつけば、聖騎士から離れたヤヌスが二人を見ている。笑顔だ。
その笑顔の異様な迫力に、梨銘はじりっと、あとずさる。
「あはーっ」
「笑っても誤魔化せません」
ヤヌスは笑ったままで断固たる抗議の波動を吹き上げる。こればかりは余
人には真似の出来ない名人芸の域だ。
「いや、う。何ですか。最近のR&Rの動向についてダガーさんと対話を交わ
していたというか。――ね、ダガーさん?」
梨銘はその体勢のままダガーに話を振る。
475 :
NPCさん:2006/05/16(火) 20:53:37 ID:???
「聖騎士、いくぞー」
「えーっ!?」
しかし、驚いたことに、ダガーはいつの間にか服装を整えてバッグを背負
い、スチールドアの前に立っていた。
「しばし待たれい」
どうやら二人は食事にでも出るらしい。約束でもあったのだろうか。しか
し、梨銘を置いて逃げ出すことには代わりがない。
「どうやら公正で厳粛なる天は、このさい梨銘君にきっちりきっぱりとした
反省を求めているようですね」
迫力を増すヤヌス。前かがみの姿勢でソファの端にまで追い詰められた梨
銘に迫る。
「で、どのような会話をかわしていたのか、お姉さんに告白しましょうか。
もちろんごく普通の慎みあるただのゲーマーであるわたしにはなんら係わり
合いの無い話ではあると信じてはいるんですが」
わたわたと逃げようとする梨銘。しかしソファはそこで無常にも終わりを
告げ、転げ落ちるぐらいしか道は残されていない。
「うわっ。あまりにも冷酷ですっ。ダガーさんっ!?」
「いや、それは身から出た錆。待ったなしの状況だね、どうにかしなって」
「まじでーっ!?」
ばたばたと手を振る梨銘。ダガーと聖騎士は、イエサブに行くとか、松屋
によってとか話をしている。いつもの買い物コースだろう。
「ダガーさん、助けてっ。ヘルプミー! そんなに通ったってストブリ出て
ないすからっ。あれ、出るわけないすからっ」
にこにこと迫るヤヌス。恐怖に震える梨銘。その梨銘が放った言葉にダガ
ーが反応する。
476 :
NPCさん:2006/05/16(火) 20:55:59 ID:???
「あー。ヤヌスさん」
「はい?」
「梨銘のこと、いわしちゃって」
「委細引き受けました」
くいっと眼鏡のリムを指先で押し上げながら返答するヤヌスは、有る意味
世界で一番格好よい存在だった。
「うわぁっ。痛い、痛いでふぅ」
梨銘はまるでいたずらを見つかった子供のように、ヤヌスに耳を引っ張ら
れている。痛い、痛すぎる。握力がさほど強いとはいえないが、人体の急所
を心得た攻撃は、ダメージよりも痛みを与えてくる。
「うう、なんで俺だけにー。うー」
「泣き落としにかかったって、ダメです。さ、何を話していたか、告白しち
ゃいましょう」
ヤヌスは余裕のある笑顔で、梨銘の耳を捻るように引く。指がほっそりと
しているために、かえって力が集中するのだろう。気がつけば、梨銘の瞳に
はうっすらと涙がにじんでいるようだ。
「さ、告白♪ 告白♪」
いつものストレスからなのか、上機嫌になるヤヌス。ダガーから制裁のお
墨付きをもらって意気揚々と攻撃を加え続ける。
「カネコイサオ好きのくせに」
痛みに耐えかねたのか梨銘がぼそりとつぶやく。その瞬間、ヤヌスがまる
で石化したように動きを止める。
「な、なっー!?」
477 :
NPCさん:2006/05/16(火) 20:56:59 ID:???
わかぞーだよー。シーンの途中だけどよるごはんー。
ぬこうるさいー。ぬことごはんしてくるよー。
後ね、ストブリはでるよ。永遠はあるよ。
478 :
NPCさん:2006/05/16(火) 21:20:31 ID:???
静かな雨と蛙の鳴き声の中でのミルクティーは正気度の回復に必須なのかも。
479 :
NPCさん:2006/05/16(火) 22:30:04 ID:???
そのうち『部室』にぬこ連れたわかぞー氏が来て他の皆に萌えられる展開を
激・希望。
480 :
NPCさん:2006/05/16(火) 23:50:55 ID:???
「ん? どうかしたのかー? ヤヌスー?」
ヤヌスの素っ頓狂な声に、出て行く寸前だったダガーが声をかける。聖騎
士もすっかり帰り支度を整えて戸口で振り返った。
「いえ、何でもありませんっ。梨銘君がどうしても白状しないだけですっ」
ヤヌスはことさらに声を張り上げる。
「そうか。デーモンソードでなます切りにしてもいいぞ」
「お任せくださいっ」
ヤヌスの声に『部室』を出て行く二人。秋葉原のTRPG専門店にむかい、ど
こかで夕食でもとるのだろう。重いスチールドアの音が響くと、『部室』に
はヤヌスと梨銘の二人だけが取り残された。
「…………ぁぅ」
出て行ったダガーからは見えなかったが、ヤヌスの顔は絶望的なほど青ざ
めていた。夜道で自分の幽霊に出会った人間の顔色とはこれを言うのかもし
れない。無意識なのだろうか。スカートの膝の部分を握り締める手がせわし
なく動いて、しわを作ってしまいそうだ。
一方、爆弾発言をしたほうの梨銘も思いがけない激しい効果に居心地の悪
そうな表情をしている。自分の一言がここまで壊滅的な打撃をもたらすとは
予想していなかったらしい。
「……何を云ってるのですか。梨銘君。そ、そんな戯言でごまかしをっ」
自分を無理やり立て直したのは、ヤヌスのほうが早かった。まだ青い顔色
のまま、いつものように言葉をつむごうとする。しかし、その攻撃力は普段
とは比べ物にならない。
いつもの舌鋒がさわやかな切れ味の+3カタナ、キーン能力付だとすれば、
今は所詮メイス+1にも満たないほどだ。
481 :
NPCさん:2006/05/16(火) 23:51:51 ID:???
「いや、そんなこと言われても。水曜日、ほら。代官山で。でれっとした顔
で眺めてたでしょう」
ようやくこれが弱点だと納得されてきたのか、梨銘が続ける。さすがに女
性の嫌がる秘密をあげつらうのは良心がとがめるのか、のろのろと云った。
カネコイサオは一部で有名な服飾デザイナーだ。一言で言えば浪漫主義、
少女趣味と云うべきか。贅沢にフリルやレースをあしらったカントリー風の
デザインで一部のファンの熱狂的な支持を得ている。
もちろんカネコイサオと一口に言っても人気デザイナー、街で着られるよ
うな比較的大人しいデザインのブランドも持っているのだが、ヤヌスがうっ
とりしていたのはその中でも最も過激と目されるモノだったのだ。
「な、な、なっ。何を云ってるのですか!? それは真っ赤な他人の空似と
いうものですっ。卓ゲ板の良識派を自認する私がそんなふしだらなっ」
両手を振り回して否定するヤヌスはまるで子供のようにも見える。そのヤ
ヌスの様子が可愛らしすぎて、梨銘はつい一歩踏み込んでしまう。
「だって、携帯で撮ったし」
「……なんですって?」
高潮した顔をうつむかせて、小さく上目遣いににらみつけてくるヤヌスの
表情に梨銘の動悸が激しくなりかける。
「撮ったし」
どうにもならないです。と云ったときのダガーに似たあっけない簡素さで
梨銘は追い討ちをかける。その言葉にヤヌスは挙動不審なほどにうろたえる。
482 :
NPCさん:2006/05/16(火) 23:52:51 ID:???
「どういう種類の冗談だか判りかねますが、わ、私は清廉で尋常で平凡な地
味コテですっ。琥珀のレースやたっぷりと布地を取ったドレープやパニエで
膨らませたボトムなどに興味はないのですっ」
あうあうと眼を白黒させるヤヌス。
「小さなワイルドベリーを散らしたプリントが可愛らしい布地にも?」
「小さなワイルドベリーを散らしたプリントが可愛らしい布地にもですっ!」
パニック症状を起こしたようなヤヌスに、梨銘も次第に落ち着きを取り戻
す。真っ赤な顔になって否定するヤヌス。些細な言葉の一つ一つに反応して、
おろおろするヤヌス。
意地をはって否定をしているくせに、しゃべる端からぼろを出している彼
女は、とても可愛らしかった。
「んじゃ、画像見る?」
びきり、とまたヤヌスが石化する。
「……ぅぅぅ」
ソファーの上に正座したまま、がくり両手をつく。やはり普段の言動から
して、こんな少女趣味の服を好むのは恥ずかしいのだろうか。梨銘はそのあ
とヤヌスが店員に拉致されて店内に入り、そこでサマードレスを試着したと
ころまで見ていたりするわけで、それも何とはなしに撮影してしまったのだ
が、さすがにこのヤヌスの様子を見ていると言い出せない。
「神様。Janus, a health and clean ordinary.なのです。普通のごくまっ
とうなコテなのです。なのになんでこんな辱めに合わなければならないので
すか。ううう。これも全て……」
「全て?」
「梨銘君が悪いのですね」
ヤヌスがゆらりと立ち上がる。
483 :
NPCさん:2006/05/16(火) 23:54:21 ID:???
ただいまー。わかぞうだよー。
ぬことご飯食べてきたし、今日はこれでおしまいー。
おしまいの振りして別のとこに遊びに行くー。
やぬすさん、書いてて楽しいな。な。
問題はえっちがないところだけっ。なの。
484 :
NPCさん:2006/05/17(水) 00:18:52 ID:???
『やぬたんくぁわいいよやぬたん』
『でもストブリは発売されない』
485 :
ダガー+ダークヒーロー枠:2006/05/17(水) 00:24:01 ID:0aLAL8A+
カネコイサオよしッ!(グッ
妥協してインゲボルグとかにはできないヤヌたんハァハァ
わかぞうの君は頑張っておるのう
487 :
(゜∀゜):2006/05/17(水) 00:26:45 ID:???
才能あるねぇ。
わかぞうはパワフルでよいね。小官もかくありたし。
489 :
NPCさん:2006/05/17(水) 01:19:28 ID:???
こんだけかいて裏でも同じだけ書いてるからなー。
ばかげた分量。GJ!
490 :
NPCさん:2006/05/17(水) 01:50:19 ID:???
ちょーかわええ。ちょーなでさすりしてえ。なんだこれうひゃー。
491 :
NPCさん:2006/05/17(水) 10:55:41 ID:???
作品がすばらしいのはいいんだけど、コテつけてくれ>わかぞう
492 :
Janus:2006/05/17(水) 21:49:09 ID:???
こっちで発表されているとは気付きませんでした。以下、感想です。
・SEQUENCE 01
一体全体何を考えているのですか、私――耳の猫化SURGEのマスカレードを多少嗜むだけで、腐女子とかレイヤーとかでは断じてない、この凡人――に、ネコミミを付けるだなんて!?
まさか・・・
「『部室』の未来にご奉仕するニャン♪」
とか、
「『部員』様、私の下僕になりなさい♪」
とか言わせたいのですか?
死 刑 で す ! 被 告 『若 造』 死 刑 で す ! 判 決 死 刑 で す !
・・・但し、ネコミミ以外は通常の慎み深い描写であり、それでいて現実の私よりも美化200%であることを踏まえ、執筆完了またはそれに相当する期間の執行猶予を設けます。
・SEQUENCE 02
・・・誰が“抱きつき癖のお姉さん”です誰が!
しかも、この清廉なる一般人に絡み要員を用意? 特定の人だと命の危険を感じたから?
ほぼ正解ですその予感、ただし不特定の人でも危険はなくなりませんが!
我に、包囲追撃殲滅の用意ありです!
でもそれはそれとして、聖騎士さんが渋いですね。女性と同一の世界にいればきっといい人ができるはずなのに、あえてプレーンシフトして貞淑を守るストイックなゲーマーといった感じです。
欲を言えば、ダガーさん向けに「バツ1従姉妹」とか「甘えんぼ従姪」とか「双子の縮女」とかいった軍人将棋2006『俺の萌えを越えていけ』の駒が欲しかったなと思います。
493 :
Janus:2006/05/17(水) 21:49:55 ID:???
・SEQUENCE 03
私違うです断じて、委員長とからぶりぃとかツンデレとか・・・ましてや お 姉 さ ん キ ャ ラ で は ! !
しかもカネコイサオの過激なモノ? 知らないです興味ないです想像すらつかないです、そのようなゴスロリピンハな代物など!
カネコイサオは、もっと柔らかくて、懐かしくて、心を暖め胸の鼓動を高鳴らせる晴れ着なのです・・・って書いてありました!
それを・・それを・・・下 さ ね ば な ら な い で す 然 る べ き 報 い を、 梨 銘 さ ん と 若 造 さ ん に ! !
・・・というわけで、続きを楽しみにしています。
どのようなものが期待されているかは・・・わかっていますね(にっこり)?
494 :
(゜∀゜):2006/05/17(水) 22:05:36 ID:???
・・・・・・・・・・・とか言いながら、しっかりと見ているヤヌたん乙。
495 :
NPCさん:2006/05/17(水) 22:17:30 ID:???
こっちのほかに どこかあるのかな?どこをちぇっくしてたんだろう
496 :
NPCさん:2006/05/17(水) 22:18:20 ID:???
裏で書かれているダガーが格好良すぎる件について
497 :
NPCさん:2006/05/17(水) 22:56:12 ID:???
・・・すまん。実は漏れ、ダガーは素でカッコイイと思ってたんだ。
ダガー者はカッコイイというよりダンディだと思う。
499 :
NPCさん:2006/05/17(水) 23:14:47 ID:???
こんばんわー。わかぞーだよー。
なんかいっぱいレスがついていて嬉しいよー。
>>485 中途半端でやめないやぬすさんに乾杯!
>>486-490 あんがとー。みんなだいすきー。
>>491 コテハンつけるとひどい目にあうって聖騎士さんがいってた。
だめかなー。
>>492,493やぬすさん
現実に追いつくようにがんばって可愛く書くので、
死刑執行はもうちょっとご猶予を……。だよー。
あとね。あとね。ワンダフルワールドはヤヌスさんに
とても似合うと思うよっ。
……って、梨銘がいってた。悪いのは梨銘。ぼく書記。
なので罪はナイのです。許してください(正座
>>496.467.498
ダガーはかっこいいよっ。すごくダンディだよっ。
今日もばくげきー。でも、今日のは進行のかんけいじょう
すくなめかもー。かもー。ぬこごはん。
500 :
NPCさん:2006/05/17(水) 23:19:17 ID:???
■SEQUENCE 04
幽鬼のごときその動きは、いつものヤヌスからかけ離れた尋常ならざる気
配を漂わせている。
「いや、ちょっと! たんまっ! ヤヌスさん、たんまっ!」
ゆらりゆらりと揺れながら、壁際の棚に向かうヤヌスの様子は完全に行き
着くところまで行き着いてしまっている。
「少しも待てません」
「待って、凶器はやめようっ」
「凶器ではなくガイギャックスの最高傑作です」
分厚い書籍を鉈のように素振りしながら梨銘に近づくヤヌスは、普段の理
知的な印象からかけ離れていて狂猛な雰囲気を漂わせている。
猛獣と一つの檻に入るとはこのことか、と梨銘は怖気ずく。
(ううぅ。さすがにこんなやぬたんは見たくないよっ)
梨銘は、そんなつもりはなかったのだ。
ヤヌスに嫌われそうなことをするつもりはなかった。
ただそのときのヤヌスは少々気が動転していたし、梨銘だってヤヌスに重
さが1kgを超えるような書籍で殴打をされるのはいやだった。
だから、つい、ノリにまかせて云ってしまったのだ。
「あ、あ、あぅっ。ヤヌス! あの、画像。画像っ!」
「それがなんだっていうんですか、僕らが望んだ戦争だ! なのです」
ゆらゆらと不気味にゆれながら近づいてくるヤヌスに梨銘は必死に手をふ
る。
「着替えた後の画像もあるよっ」
「――っ!?」
「マジで。自宅パソにも保存済みっ」
両手で大振りなルールブックを抱えたヤヌスは、突然エネルギーが切れた
ように肩を落とす。腰を抜かしたようにソファーで必死になる梨銘の前で、
本当に精も根も尽き果てたように、立ち尽くす。
501 :
NPCさん:2006/05/17(水) 23:19:50 ID:???
「……やぬす?」
「……」
俯いたその表情はわからない。怒っているのか、呆れているのか、それと
も本当に嫌われてしまったのか、梨銘には判らない。
その気持ちは心の底から後悔と共にわき上がってくる。
ヤヌスの表情が判らない。判らないことが梨銘は怖い。その恐怖感は脅迫
的に喉につかえる。沈黙が怖いのだ。
何でこんなに怖いのか梨銘には判らない。これならいっそ、あのまま殴ら
れたほうが良かったと思う。しかし、後悔しても遅いのだ。
一度放たれてしまった矢は決して弓には戻らない。
「……あの」
「……ぅぅ」
「あのぅ」
気詰まりな内容のないやり取りの後。ヤヌスはきっぱりと顔を上げる。そ
こに浮かんでいたのは、憮然としたような決意。そして、怒り。
その表情に梨銘は胸が冷たく硬くなるのを感じる。こんな顔が見たかった
わけじゃないのに。何故こうなってしまったのだろう。
「判りました。梨銘君は、いったい何が要求なのですか。……非常に不本意
ながら、脅迫に屈しようではないですか」
「えっ、えぇー!?」
うろたえる梨銘にヤヌスは指先をメトロノームのように振りながら続ける。
怒りの表情は羞恥を押し隠す紅潮したものに変わり、自然と説明口調も、ど
こか早口になってゆく。
502 :
NPCさん:2006/05/17(水) 23:20:52 ID:???
「交換条件です。その情報を秘匿していただくに当たっての条件を伺いまし
ょう。夕ご飯などで如何でしょうか。いえ、けして賄賂とかそういうつもり
はないのですが、わたしにも私の事情というものがあるのですっ」
ヤヌスは腰に手を果ててことさらに胸を張って、眼鏡を押し上げる。
自分にはやましい所は一切無いというアピールなのだろう。
しかし、自信たっぷりに胸を張っているくせに、視線はちょっぴり逃げる
ように逸らされている。
「ううぅ」
(そんな、脅迫なんてするつもりはなかったんだけどなぁ。ぶたないでくれ
ればそれで、俺は別に)
――梨銘がそう考えているのをよそに、ヤヌスの脳内はさらに加速してしま
っていた。まずいことにそれもピンク方向に加速していたのだ。
ヤヌスは尚も交換条件として、紅茶を一週間ご馳走するとか、レポートの
清書をするなどを並べていたのだが、おろおろする梨銘の態度をどう誤解し
たのか、急激にうろたえる。
頬に桜色を一瞬で刷くと、何かに思い当たったように背を向けて、叫ぶよ
うに続けた。
「まっ、まさかっ! いや、そんな……」
「へ? え?」
その思考の速度についていけない梨銘はぽかんと事態を静観することしか
出来ない。
「いえ、そんな訳はないのです。それはドラマや漫画の見すぎというもので
す。梨銘君とて多少黒いものの常識をわきまえた『部室』の仲間のはずです」
興奮したように梨銘に詰め寄るヤヌス。その肩をつかんでがくがくと揺さ
ぶる。
503 :
NPCさん:2006/05/17(水) 23:23:09 ID:???
「そ、そんな理不尽かつふしだらな欲求はダメですよっ!? それは電波、
電波の仕業です。えちぃ毒電波を受信してはいけませんっ。人倫の道に従っ
た清廉で穏当な要求なら応える用意があるというだけで、そのような言語道
断な要求には断固従うつもりはありませんっ」
「ナニを云ってるですか、ヤヌスさんはっ!?」
「何って、そ、そ、そ、そんなことを私の口から言わせるのですかぁ!?
そういうプレイがお好みだとは、梨銘君のことを見損ないましたっ」
「プレイとは何事ですかっ」
「プ、プレイ。あああ、そ、そんな。私のような平凡なコテにそんな残酷な
要求が訪れるとは」
おろおろと視線をさまよわせるヤヌス。もう完全に混乱状態にある。
「へ、変態です。梨銘君は公序良俗を中央突破して私に対してふしだらな扱
いをしたいということですね? 言語道断許すまじきことですっ」
ヤヌスが幾分混乱気味なのも判る。
自分のひそかな少女趣味を知られたのだ、それは慌てもするだろう。
しかし、変態とはなにごとか。そんな風にいわれるのは、さすがにカチン
と来るものがあった。
さっきもこの流れで胸がふさがるような寂しさと怖さを味わったのに。
そう、静止する内心の声も堰とはならず、言葉が自律したように出てしまう。
「そんな要求、してませんっ。違いますっ!」
「変態なのにプレイじゃないとは。では、どんな要求があるというのですか」
梨銘は言葉に詰まる。このやり取りが売り言葉に買い言葉だとは判ってい
る。だがしかし、意地を張ってつめよるヤヌスに対して引くことなど所詮出
来はしないのだった。
「そんなに取引したいならいいですよっ。次の飲み会は、ネコミミだからね」
――こうして、『部員』の間に長く語り継がれることになる、いわゆる「乱
心やぬたんの飲み会」が開催される運びとなったのだった。
504 :
NPCさん:2006/05/17(水) 23:24:06 ID:???
以上04終了わかぞーだよー。
05からは飲み会に戻れるよー。うひひ。
んじゃねー。ぬこぬこー。
若造の君、今宵も乙でした。
もうコテハンわかぞーでいいじゃんよw
506 :
NPCさん:2006/05/17(水) 23:43:13 ID:???
なんだか、マジレスしたくなってくるかも。
507 :
聖騎士:2006/05/18(木) 00:42:05 ID:???
gj!
コテハンつけてもわかぞーなら楽しめるって!きっとな!
>506
やぬタンはゲイリーではなくシャドランを用いるのでは?とかそういう考証とか?
面白いのでこれで良いと思う。というかこれが良い。実に良い。
ぼくはこの作品で真実のやぬタンを知りました、これからボクの心の偶像にしようと思ふ。
508 :
NPCさん:2006/05/18(木) 00:49:21 ID:???
心から敬愛するシャドウランを血で穢すなどという蛮行を
ぼくらのやぬきゅんになせるはずがないじゃないか。えっちいよやぬたんやぬたんえっちいよ。
509 :
(゜∀゜):2006/05/18(木) 01:00:04 ID:???
猫ミミだっ♪ 猫ミミだっ♪
黒ネコミミと、黒のミニスカート希望っ!♪
510 :
NPCさん:2006/05/18(木) 01:02:29 ID:???
ばかっ! スカートはロングに決まってるだろっ!
その裾の翻りを気にして静々と歩く姿がいいんじゃないか! 中身の有様を想像するのがいいんじゃないか!
511 :
NPCさん:2006/05/18(木) 01:40:40 ID:???
>>509-510 昔の日本人はこういうときのために素晴らしい文化を創った。
「お色直し」
512 :
NPCさん:2006/05/18(木) 10:58:57 ID:???
「おもらし」
に一瞬見えた。もう末期だな漏れ。
513 :
NPCさん:2006/05/18(木) 12:35:24 ID:???
■SEQUENCE 05
「えーっと。あのさ」
店内には喧騒が満ちている。週末だ。『部員』が陣取った席は、この広め
の居酒屋の中でも端のほうだったが、多くの客の話し声が重なって、一つの
背景音のように空間を満たしているのだ。
その喧騒の中で、ビッケは肩身が狭そうに切り出した。
「ヤヌスさんなんだけど、かなりてんぱってなかった?」
「そうか?」
隣にいる暗牙が答える。飲み会が始まってから小一時間。場も暖まってき
て、ノリが良くなってくる頃だ。十人強のメンバーもさまざまな話題に興じ
てる。
「やぬやぬ?」
その話題に何人かの『部員』が加わる。ヤヌスは先ほど憮然とした表情を
崩さずに化粧室に立っていった。この場にはいないからこそ話題に出来る気
安さがそこにはあった。
「いや、今日のは反則でしょう」
「やぬたん可愛いよ、やぬたん可愛いよ」
「猫耳はぁはぁ」
『部員』達が、ここぞとばかりに盛り上がる。その盛り上がりに、他の話
題をしていた『部員』も加わり、場は一気にヒートアップしてしまう。
ヤヌスといえば、板のご意見番、良心である。板にあっては舌鋒鋭くふし
だらな意見を抑え、『部室』にあってはいつも清廉な姿勢を崩さず、凛々し
い態度で馴れ合いをしない。
綺麗な黒髪と理知的で涼しげな美貌に、実は隠れファンも多かったのだが、
彼女の潔癖ともいえる態度のせいで直接アタックをかける勇者がいなかった
のも事実である。
仮にアタッカーが現れたとしても、彼女はいつもの穏やかだが決然とした
態度で「私のような地味コテに過分なお言葉です。が、身近に大切な方がい
らっしゃるのでは?」とやんわり断ってしまうのは見えていたのだが。
514 :
NPCさん:2006/05/18(木) 12:35:57 ID:???
ヤヌスはそのイメージにそぐわず、いつも白いブラウスに紺色のスカート、
ジャケットという装いだった。そしてそれは今日も同じだ。
しかし、一点。一点のみが普段とは違ったのである。
その一点がこの大騒ぎを引き起こしていた。
彼女はいつもの物静かな容貌の上に、ネコ耳カチューシャを乗せていたの
だ。ネコ耳といってもふわふわと毛が生えたものではなく、黒く滑らかなシ
ルクサテンで作られたそれは、ちょっと見るとリボンのようにも見える。
しかし、実態はネコ耳である。素人からすればどちらでも変わりが無いよ
うに思えるが、それは浅はかな判断であって、リボンとねこ耳の間には主に
マニアにしか計測できないが深く険しい溝があるものと思われた。
『部活』の持っている伝統からすれば、ねこ耳はそこまで大騒ぎになるよ
うなアイテムではない。
『部員』の間で言えば冗談で済むようなことである。
事実この程度のことならば、罰ゲームとして行われることは良くあった。
先週もカタンで82連敗したビッケが「従わないと彼女さんに電突してやる」
と脅されて、メイドの女装でから揚げ弁当15個を買いにいかされていた。
だから問題は「ヤヌスが」という所にあった。委員長気質のクールビュー
ティーとして隠れファンの多かったヤヌスがねこ耳。これは十分以上の衝撃
を『部員』に与えたのだ。
「ヤヌっち、ちょー可愛ええ。ちょー撫でさすりしてえ」
「ねこ耳、反則。鼻血出そう」
『やぬたん萌えすぎ』
「いや、澪。飲みすぎだってばぁ」
『文句あるならもう優しくしてあげない』
『なの』
「うぐっ」
酒の酔いも手伝ったのか、『部員』は口々に感想を述べ合った。うっとり
と空中を見上げているものもいる。妄想の中のヤヌスがどんな痴態をとって
いるかは神のみぞ知る部分であり、余人には関与できない領域でもあった。
515 :
NPCさん:2006/05/18(木) 12:37:04 ID:0dI/P5Dm
「こら。飲んでますか。梨銘」
梨銘の横の空席、そこは本来ヤヌスの席なのだが、そこに滑り込んできた
のはダガーだった。皆が今日のヤヌスの異変を話し合っている間中、その話
の輪にも入れずなんとなく上の空の梨銘を見かねたのか、話しかけたのだ。
「あっと、ダガーさん。飲んでますよ」
「ふぅん」
ダガーはタバコに火をつけながら、雄弁な態度で目を細めた。その言葉は
はっきりとは云わないながらも、お見通しだぞ、と言われたような印象を梨
銘に与えた。後ろ暗いところがあまりにも大きい今日の梨銘は、やはりその
言葉にうろたえてしまう。
「ううっ。なんですか、ダガーさん」
「……いぇーい、のりのりだぜー!!!」
その梨銘に突然大きな声でグラスを差し出し乾杯を求めるダガー。にかっ
と笑った笑顔が、後ろ暗い梨銘をほっとさせると同時に、なんだかやけくそ
な雰囲気に雪崩れ込ませる。
「いぇーい! だぜー!!」
何の脈絡も無いダガーのノリノリ宣言に巻き込まれたように梨銘も叫んで
しまう。そしてダガーにつられたように手に持っていたサワーを一気に飲み
込んでいく。
炭酸が喉を駆け抜けるのが心地よい。緊張して喉が渇いていたのだろう。
あっという間に半分近くの分量を流し込んでいく。
「で、ヤったの?」
「どぶはぁーっ!?」
喉に流れ込んでいた液体は突然の言葉に期間に進路を変更してそこで猛威
を振るう。鼻の奥に流れ込んだサワーがつーんとした痛みを振りまき涙がこ
ぼれそうになる。
「げほっ、がふぉっ。けふんっ……。な、な、な、なにをっ」
「……《閨房戦》かな」
「それっていったい何のことですかっ」
突然の撹乱攻撃に梨銘は目を白黒させる。
516 :
NPCさん:2006/05/18(木) 12:38:04 ID:???
「ちっ。まだ判定前か。ノロマめっ。キミのことを見損ないました。リメイ
ボォーイ」
「何でいきなりペガサス社長なんですか」
「いきなりもなにも、最初からだよ」
ダガーは梨銘の追求をさらりと交わす。煙に巻くそのやり方は堂に入って
いて、梨銘には残念だが年季と役者が違うという感じだった。
そのとき、テーブルの端からおかえりなさーいという声が聞こえる。みん
なが笑顔で迎えたのは化粧室から戻ってきたヤヌスだった。いつものように
凛々しく背筋を伸ばしたヤヌスは、ちょっと冷たい感じがする理知的な顔で
口元を引き締めて挨拶を返している。
梨銘がそのヤヌスに視線を奪われた瞬間、ダガーは猫じみた軽妙さでする
りと席を抜け出していった。問い返す隙も無いほど完璧な逃走だ。
(うう、いったいどこまで判ってるんだ。あの人はっ)
梨銘は頭を抱える。まさか『部室』での顛末がばれているとは思えないが、
常人離れした能力を持つ『部員』の面倒を見ているほどの人だ、何を感づい
てるか判ったものではない、とも思う。
「お騒がせしました」
考えれば考えるほどなんだか宜しくない方向に気が回りそうになっている
と、ダガーが立ち上がったその席にヤヌスが戻ってくる。この席は壁際の隅。
目立ちたくないヤヌスがいつに無い強引さで引きこもってしまった場所だっ
た。
みんなの話の輪に加わるには多少不便な角度なのだが、今日はヤヌスに視
線が集中してしまうために、梨銘まで微妙な居心地の悪さを感じている。
ヤヌスは席に座ると、モスコミュールをこくこくと飲む。やっぱり少しは
緊張しているのかな。梨銘はその様子を見て思った。
ヤヌスはいつものように凛々しい清廉な表情をしている。ただ、梨銘の気
のせいじゃなければ、その眉が時折、何かを我慢するようにきゅうっとひそ
められるのが、不謹慎だが艶っぽくて可愛らしく思えた。
(とはいえ、嫌われたよなぁ)
517 :
NPCさん:2006/05/18(木) 12:39:10 ID:???
わかぞーだよー。昼休み投下ー。
ごはんたべにいくー。ながさきちゃんぽーん。
いてきまーす。
若僧ゴジョバ。
やぬやぬかわいいよやぬやぬ
519 :
NPCさん:2006/05/18(木) 16:43:12 ID:???
>>わかぞー
あのさ、いまさらだけど後で纏めたいんで、
数字ステハンか、トリップだけでも付けて欲しい。
それか、文頭かメール蘭に作品タイトルでいいからつけて欲しいんだ。
■SEQUENCE xx-1とかxx-2とかでいいからさ。
ほら、そんなとこに隠れてないで、やぬたんからもお願いしてよ!
520 :
NPCさん:2006/05/18(木) 16:57:23 ID:???
「あとでしめたい」か・・・。
こうして哀れわかぞーは519に校舎裏に呼び出され、
521 :
NPCさん:2006/05/18(木) 18:07:58 ID:???
>519
AutoFIFO機能の付いたクリップボード拡張ソフトの導入を進める。
文章の切り貼りに無くてはならんくらい便利。
522 :
(゜∀゜):2006/05/18(木) 18:53:29 ID:???
(゜∀゜)イイネ! サイコー!! ブラボー!!!
523 :
NPCさん:2006/05/18(木) 19:04:02 ID:???
>>519 「指定文字数改行だと読みづらい」だの、
「ルビは青空文庫形式ビューアに基づき|○○《△△》にしろ」だの、
「やぬたんはみんなのものであるとするやぬたん条約に抵触(ry」だの、
負担にさせるようなことを言い出したらきりがありません。
まとめるなんてのは自身の欲求でするものであり、自力で何とかするのが正論です。
というか、私が勝手にまとめて勝手に変換ミスっぽいところ直して勝手に書式を改めて
勝手に文節の気に入らない点を改変して勝手にルビとかが見やすいhtml版まで作って
勝手に卓ゲアップローダーにうpとか、そういう展開はありませんから!
524 :
NPCさん:2006/05/18(木) 19:12:58 ID:???
え、ないのー!?
ないのー!?
525 :
NPCさん:2006/05/18(木) 19:19:56 ID:???
526 :
NPCさん:2006/05/18(木) 19:36:22 ID:???
もってるじゃーん、やってるじゃーん♪
あ、あれー? 外伝のExtra Track01とか
澪×マルクは?(にこにこ)
この、照れ屋さんっ♪
527 :
NPCさん:2006/05/18(木) 19:52:26 ID:???
528 :
NPCさん:2006/05/18(木) 20:05:04 ID:???
まったく持って度し難いまでの分からず屋ですね。
これはあくまでもどのように編集しているかのプレビューであって、
ゲーム雑誌の新作ゲーム紹介にありがちなアレなのです。
大体澪編は澪編で別ファイルにきちんと整理整頓しております!
それが秩序というものであり、人間のあるべき姿なのです!
なお、ExtraはSEQUENCE03と04の間に挟むのがいいのか、
それともExtra総集編でファイルを作るかは検討中の課題であり、
現状では前者で行っていますが、Extraの書き足しがあれば
後者に移行するのが妥当と考えております。
ビューアについては「smoopy」にて実験したところ、ルビがきちんと表示されたので、
html表示ON青空文庫OFFで読むのが推奨環境になりそうです。
…というようなことを妄想するのは勝手ですが、現実をきちんと認識してください!
私がそのようなことをするなど、焼き魚が水槽で泳ぐ以上にありえませんから!
>>527 いいのかい? 俺はノンケでも平気で騙っちまう男なんだぜ。
529 :
ダガー+ダークヒーロー枠:2006/05/18(木) 20:14:08 ID:KsKj/DJ6
ワンダフルワールド吹いた
>496
オレよりバナナの養父ダガーの方が高性能であるが如し。
しかしわかぞーの人はリアル知ってて美化してるんじゃないんだろかコイツ
とか思ってしまってちょっぴり切ない。
530 :
NPCさん:2006/05/18(木) 20:53:08 ID:???
わかぞーだよー。よるだよー。
ごはんは帰りにたべてきたので今からお風呂だよー。
でもそのまえにばくげきー。
>>518,522,
わーいありがとー!
>>519 あう、読みにくくてごめんなさい。
もすこしまってー(もたもた)
さぎょうおそくてごめんー(もたもた)
>>520 わかぞーは執行猶予中なので免役特権なのだよー。
うひー。ぬこといっしょのじゆうないきものー。
>>523,525,528
わーい。すごーいすごーい。
よみやすそー。いいなー。こういうそふと、わかぞうもほしいー。
>>527 喰われちゃったら感想教えてねー。
そうゆうのはまだかいたことないの。
>>529 ふわふわのしゅるしゅるのふりふりだよねっ。
知ってたとしてもきっと変わらないんだよー。
だって、ぜんぶぜんぶ、だいじょうぶなんだもんー。
みんなかっこうよくてだいすきー。
531 :
NPCさん:2006/05/18(木) 20:56:14 ID:???
実際問題、この居酒屋に入るときにネコミミを渡した時にきつく睨まれた。
それっきり、一言の言葉も交わしていない。言葉を交わしていないどころか、
視線さえこちらには向けようとしない。
潔癖なヤヌスのことだ。相当怒ってるかな。と梨銘は思う。
売り言葉に買い言葉というのはあるし、あまりにもヤヌスがうろたえるの
が可愛くて悪乗りした部分はある。緊急回避的に身を守ろうとした言葉が余
計に自体を悪化させたことも認める。
そういったことは判っているのだが、いざヤヌスを前にすると、諸々の感
情のセーブが非常に難しくなってしまうのだ。ヤヌス以外ではそんなこと起
きないのに。
梨銘はそこが不思議でならない。
ヤヌスと話していると楽しい。
ヤヌスを見ていると嬉しい。
なのに、結果としては怒られたりお説教されたり冷たくされたり軽蔑され
たりといった、嬉しくない事態に遭遇してしまう。もっと上手にやれればい
いのに、何もかもが不器用で、いたらなくなってしまう。
不器用の上塗りだ。
「……浮かない顔ですね」
ぼそり、とヤヌスが言う。
「え?」
声をかけてもらったのが一瞬だけ信じられなくて梨銘は顔を上げる。ヤヌ
スは口を引き結んだ表情で、まっすぐ前方を見つめながら話しているようだ。
その表情は梨銘にはやはり不機嫌そうに見える。
――こちらを向いてはくれないんだ。
自分でも良く判らないが、悔しいような苛立たしいような感情が胸の水底
で揺れる
「そんなことないよ」
532 :
NPCさん:2006/05/18(木) 20:58:35 ID:???
「そう、ですか」
ヤヌスは低い声でぼそぼそというと、そのまま居酒屋の安っぽいカクテル
をこくこくと飲む。最初からかなりのペースで飲んでいるようだ。ヤヌスと
はあまり飲んだこともないが、ずいぶんお酒慣れしているんだな。梨銘はそ
んなことを思う。
「その割には。……さ、晒し者にしたり、嬲ったりしないんですね」
前方を向いたままのヤヌスの眉が、困惑したようにひそめられる。
憮然とへの字に引き結んだ口元が、不安そうに翳る。
なじる様な声は、他の人には聞こえないように潜められている。
「……」
「変態のくせに」
「……あのね、ヤヌス」
梨銘は意を決した。さすがにこのままじゃ居心地が悪い。胃に穴が開きそ
うだ。なんだか良くは判らないが、ヤヌスを放っておくのはいたたまれない。
現にそれほど飲んだわけでもないのに、胸の辺りが焼けたような感じがする。
ヤヌスにはっきり言おう。ちゃんと謝ろう。
ねこ耳なんかきっぱり取ってしまおう。
二三発分殴られるのは覚悟する。ヤヌスがこのまま抜け出したってかまわ
ない。責任はどう考えたって梨銘にあるのだ。
「ヤヌス、あの」
「やーぬたんっ!」
梨銘が決心をして話しかけようとした瞬間、芥が梨銘とは反対のほうから
近寄ってきて、ヤヌスを背後から抱きしめる。
「な、なっ!?」
突然のことにびっくりするヤヌスを背後から胸に抱え込んだ人妻は、ころ
ころと笑うとヤヌスの後頭部を胸の中でなんどもぱふぱふとする。
「今日のやぬたんは可愛いねぇ。思わず、きゅん☆ってなってしまいました
よ。あたしはっ!」
533 :
NPCさん:2006/05/18(木) 20:59:17 ID:???
「な、何を云ってるんですか、ふしだらなっ。そんなっ。芥さんっ。仮にも
言い交わした良人のある身でありながら、そんな、揺らさないで。当たって
ますっ、当たってますぅ」
「うーん。硬いこと云っちゃって。若い子にセクハラするのは楽しいなぁ♪」
背後からぬいぐるみのように抱えられたヤヌスは、相手が女性ということ
もあって、いつものようにきつい言葉も吐けずに抱きしめられて振り回され
るままだ。
その様子に当たり前といえば当たり前だが、テーブルの視線は集中してい
る。梨銘が見ると、ポテトサラダを箸で持ち上げて食べる途中で動きが固ま
っている『部員』までいる始末だ。
(GJ!)
(GJ! 芥さま!)
(GJ過ぎます! ご飯三杯ですっ)
周囲の賞賛の電波を無視して、芥は愛いやつじゃ愛いやつじゃと、悪代官
のRPを実演する。困ったようなヤヌスの懇願とあいまってたっぷりと5分
はテーブルを混乱と妄想に陥れた。
「こぼれちゃいます。カクテルが。放してくださいっ。芥さんっ」
「うぅーん。残念だなぁ」
ヤヌスの抵抗を十分に楽しんだ芥は、しぶしぶといった様子で漸くヤヌス
を解放する。
「いやぁ。いいねぇ。やぬたん堪能しましたっ」
ご馳走様のポーズで手を合わせる芥。ヤヌスは気を取り直したのか柳眉を
逆立てる。
「誰がやぬたんです。誰がやぬたんですっ! そういった誤解と妄想に満ち
た呼称は禁止ですと何度申し上げたらわかっていただけるんですかっ。だい
たい、芥さんはあんなに素敵な旦那様がいるのに、何で私なんかにかまうん
ですか」
534 :
NPCさん:2006/05/18(木) 21:00:29 ID:???
恥ずかしそうに芥に抱きしめられていた自分の胸の辺りを点検しつつ、口
早にまくし立てる。芥はまったく悪びれた様子もなく頬を膨らませながら続
ける。
「えー。だって、やぬたん可愛いんだもん。控えめな胸も感度良さそうで、
すっごくツボっす」
「〜〜〜っ!! だっ、誰が貧乳ですかっ!? 誰がやぬたんれふかっ?」
「……」
「……」
「……」
「こほん。――失礼。噛みました」
生真面目な表情を必死で保ちながらも頬を染めたヤヌスが、照れ隠しに指
先で眼鏡のリムを押し上げる。
(GJ!)
(やぬたんかわいいよやぬたんっ〜)
実際その仕草がテーブルに及ぼした効果はマスタードガスに匹敵するもの
があった。何人かの『部員』はサムズアップの姿勢で涙を流しながら悶絶し
ている有様なほどだ。
「いや、ゴメン。でも実際可愛いよ。やぬたん」
「うん。自信もっていいぞ」
「かわいいよやぬたん、はぁはぁ」
「ねこ耳、かぁいい♪」
「やぬっちらぶりぃ」
『萌えすぎ』
「萌えやぬ万歳〜♪」
一人が口火を切ってしまったせいか、皆が口々にヤヌスに言葉を掛け始め
る。ヤヌスは立ち上がりかけたままの姿勢で、好奇の視線と賞賛の言葉の集
中砲火を浴びる。
その表情はもう桜の色を越えて夕焼けの朱。
彼女はそれでも勇敢に顔を無理やりに上げて、凛とした声を保つ。
535 :
NPCさん:2006/05/18(木) 21:01:47 ID:???
「一体全体何を考えているのですかっ。一介の地味で平凡で真面目なコテで
ある私が、このようなねこ耳だなんてっ。私がこの耳をつけて電波を受信し
たかのような甘い戯言をもってご奉仕するとでもっ? 死刑です。そんな辱
めを企画した人間は全員死刑ですっ」
彼女は燃え上がるような頬の色を気にもせず、傲然と胸を張って指先をふ
る。
「私がこの屈辱的なアイテムを身につけているのは、ブロックスの勝敗にお
ける罰ゲームの一環であり、私の意図とはなんらかかわりがないことをここ
に明言しますっ。私は、私はっ……。ただの地味コテで、決してやぬたんで
もやぬみょんでもやぬりんでもやぬやぬでもないのですっ」
「でも、やぬたん。すっげぇ似合うよ」
『部員』の一人がポロリとこぼす。
「〜〜っ! だからっ!!」
その言葉が、もう限界ぎりぎりだったヤヌスの器に垂らされた一滴になる。
ヤヌスは抗議の叫びを上げる。その声はおそらく、大きく、鋭く。
テーブルの『部員』達から一瞬にして言葉を奪う。
「だからっ! わたしは、やぬたんではっ……」
真っ赤に頬を染めたまま、それでも凛と背筋を伸ばしたヤヌスの言葉が途
切れた。眼鏡のレンズが曇ってその表情が曖昧になる。
いつものあの言葉。『わたしは、やぬたんではないのです』が始まるかと
誰もが思った。
しかしその言葉が放たれることはなく、ヤヌス一人が立ち尽くす居酒屋の
中で奇妙なほど胸に訴える静けさだけが過ぎていく。
「――あなた達は」
ヤヌスがこぼした言葉は、大半の予想を裏切って川原の小石ほどに小さな
ものだった。
536 :
NPCさん:2006/05/18(木) 21:05:14 ID:???
「あなた達は。……わたしみたいにっ、地味な。なんでもない人間をからか
って、そんな事が楽しいのですか……。私がこうやって、いちいち反論する
のがそんなに楽しいですか」
その声は少しだけ水っぽくて、先ほど張り上げた声とは比べ物にならない
ほど弱かった。
「それは私は良識だとか公序良俗だとかを振り回して掲示板では煙たい存在
でしょう。部室でも掃除をしなさいとかゴミはゴミ箱へとか口うるさく云っ
てるかもしれません」
ヤヌスの滔々とした言葉が喧騒の中に流れる。
「皆さんが私みたいな小姑じみた女を嫌うのは判ります。……でも。だから
って、こんな扱いは酷いじゃないですか。私が何をしたって云うんですか。
わたしはごく普通の秩序を保ったスレや『部室』を望んだだけじゃないです
か。卓上ゲーマーにだってステキな話やかっこいい話があったって良いじゃ
ないですか。そういう場所がちょっとでもいい状態で長く続いたらって思っ
ただけじゃないですかっ」
瞳の光が滲む。
「私がこんなものを身につけているのが、そんなにっ。そんなに滑稽ですか。
滑稽ですよね。判ります。すごく判ります。笑っちゃいますよね。何を隠そ
う、私自身が一番笑っちゃいそうです。あはっ。ははっ。――でも、だから
といったって、晒し者にされたって……いえ、晒し者にだからこそ五分の魂
はあるんですよ?」
短い沈黙。
「こんなのは酷いです。酷すぎです」
居酒屋の喧騒の中で、このテーブルだけが静まり返っていた。
ヤヌスはその静けさの中で、ねこ耳をはずすと、テーブルに置く。
「楽しい宴に無粋、本当に失礼いたしました」
彼女は荷物を手に取ると、そのまま席を辞した。
――俯いたまま。
最後の最後までまっすぐ前を見詰めていたヤヌスが。
――俯いたままで。
537 :
NPCさん:2006/05/18(木) 21:08:02 ID:???
そこにいる誰もが、触ったら砕けてしまうようなガラス質の空気を共有し
ていた。誰も動けない。何もしゃべれない。それを一番強く感じていたのが
梨銘だ。
店を出るヤヌスの後姿が小さくなる。会計をすませて小さくなる。
胸がつぶれそうな思いで梨銘はそれを見るしか出来なかった。
ヤヌスの言い分は正当だった。悪乗りをした梨銘が悪いのだ。
「梨銘〜」
触れたら裂けそうなほどの空気を穏やかな人を煙に巻くような声が横切る。
梨銘が視線を上げた先には、ダガーのいつもどおりの姿があった。
面倒くさがるような、面白がるような表情。
その余りにもいつも通りの表情が梨銘をほんの少し引き戻す。
「今日のところは奢ってやる」
「え?」
「“ベトナムに行く前に戦争が終わっちまうぞ、アホ!”って云ってるんだ
よ」
呆れたようなため息をつくダガー。梨銘はその言葉で反射的に立ち上がる。
考えるより先に判ったのだ。いや、頭の中はまだヤヌスの後姿でいっぱいだ
った。自分でもなんで立ち上がったのか、何で上着を突っかけているのか、
何で歩き出しているのか判らなかった。
「“『部員』は許可なく死ぬことを許されない! ”ってこと」
有名な台詞の後半を引き取りながら聖騎士がその梨銘に荷物を押し付ける。
「あ、あのっ」
振り返る梨銘。何を云えばいいのかわからない。でも自分は何か大きな借
りを作ったような気がする。
「とっとと行けよ。萌え話スレのありとあらゆる兵器ぶつけられねぇうちに」
「はいっ!」
しかし、その借りの大きさを確認することも出来ず、結局梨銘は駆け出し
た。
行く先もわからない曖昧な喧騒の中へ。
小さくなった背中を追いかけて。
538 :
NPCさん:2006/05/18(木) 21:09:56 ID:???
わかぞーだよー。にーくこーっぷーんー。
今日の分はしゅうりょうー。
ぬこおなかいっぱい。05おわりー。明日は06ー。
それじゃ、おやみみなさーい。
539 :
NPCさん:2006/05/18(木) 22:43:19 ID:???
裏どこ?
540 :
NPCさん:2006/05/18(木) 22:45:04 ID:???
駄コテ板?
541 :
NPCさん:2006/05/18(木) 22:45:05 ID:???
地下……じゃねえしなあ?
542 :
(゜∀゜):2006/05/18(木) 23:16:41 ID:???
若造の君乙。
最近終了後のコメントも楽しみでしょうがないw
あぬあぬ可愛いよあぬあぬ
若造若造、その脳を啜らせろ。ちみっとでいい。
545 :
NPCさん:2006/05/19(金) 01:23:39 ID:???
>>若造の君
「わかみやつこのきみ」というお公家様かと(ry
なんとなく「君」が似合いそうだから。
でもにくこっぷんはマズいと思うよおねーさん。
547 :
NPCさん:2006/05/19(金) 01:46:26 ID:???
ミームをすすればいいの。それはなくならないの。
548 :
Janus:2006/05/19(金) 23:54:24 ID:???
>499
>あとね。あとね。ワンダフルワールドはヤヌスさんに
>とても似合うと思うよっ。
>……って、梨銘がいってた。悪いのは梨銘。ぼく書記。
>なので罪はナイのです。許してください(正座
恐縮です。お礼として、死刑執行の所要時間を2時間短縮しましょう。それだけ、苦しみも少なくなるはずです。
え、「梨銘がいってた。悪いのは梨銘。」?
連 帯 責 任 で す ! !
・SEQUENCE 04
誰の脳内がピンク色に暴走しているというのですか一体?
公序良俗を中央突破して私に対してふしだらな扱いをしたいのは、本当は若造さんなんですね?
変態です若造さん、禽獣です若造さん、人道に対する犯罪者です若造さん!
549 :
Janus:2006/05/19(金) 23:55:18 ID:???
・SEQUENCE 05
まったく何というか・・・
(息を大きく吸う)
「妄想の中のヤヌスの痴態」って何ですか一体? そんなものは、神ですらご存じないのです!
そう、例えば「ミススカート」の称号とともにミニスカから黒い尻尾をはみ出させて甘える姿など!
《閨房戦》って何ですか一体? 警棒戦の誤植ですよねそうですよね? 閨房術の心得も閨房哲学の嗜みもないこの凡人には、他の解釈は思い当たりませんでしたから!
「その割には。……さ、晒し者にしたり、嬲ったりしないんですね」 ってどういう意味です? 説明を求めます・・・
これでは、まるで晒し者にされたり嬲られたりすることを、私がどこかで期待しているように、純真な善意の読者さんが感じてしまうではありませんか!
それにセクハラは・・・ぱふんぱふんと揺れて当たっているとか、私の抵抗を楽しむとか、私の体型をどうこう言うとか・・・セ ク ハ ラ 禁 止 ー ! !
そして、そして・・・この地味コテの切なる願いを察した上で萌え上がる若造さんは、正 真 正 銘 の 鬼 畜 で す ! !
とりあえず・・・今からでも遅くはありません、健全路線に引き戻してください。そうすれば、<トール・ショット>(衛星軌道から地上を砲撃するマスドライバー)で楽にしてあげます。
い い で す ね (涙目)! ?
そして鬼畜萌えのやぬっぴ萌え。
551 :
(゜∀゜):2006/05/20(土) 08:11:03 ID:???
大丈夫だよー。
せいぜい抱き合ってキスか、お別れにキスくらいでさー。
けんぜん、健全。
552 :
聖騎士:2006/05/20(土) 09:12:33 ID:???
オレたちはとんでもない勘違いをしていたんだ!
>健全路線に引き戻してください。
>そうすれば、<トール・ショット>(衛星軌道から地上を砲撃するマスドライバー)で楽にしてあげます。
ってことは健全路線に戻すとヤられちまうぞ、わかぞー!
エッジギリギリを書きぬけろ!でも卓ゲ板のレギュは忘れちゃ駄目だぜ!
それはともあれ全く以っててえしたもんだ。
553 :
NPCさん:2006/05/20(土) 09:31:24 ID:???
健全に戻しても地獄。健全じゃなくても死刑。
どうせ駄目なら書いて死ねってことだな。
554 :
NPCさん:2006/05/20(土) 14:23:28 ID:???
漏れら的にはそうだな。>どうせ駄目なら書いて死ね
ちなみにJanus的には 「 と き め い て 死 ね ! 」
555 :
NPCさん:2006/05/20(土) 18:00:58 ID:???
あはー。わかぞーだよー。
ぬこにささみあげたらすごく喜んで、どっか行っちゃった。
うちのぬこは喜ぶとどっかいっちゃって、何か欲しいときだけ甘えてくる。
なんか理不尽。なんだよー。
>>539,540,541
ないしょー。ないしょのくるくるーw
>>543 わーい、ありがとー。でも面白いことは書けないのー。
ぬことご飯と布団の日々ー。
>>544 んじゃ、あじみをどうぞー。あんぱんまんなみの汎用性!
>>548 あぅっ(正座)
連帯責任!? ええーっ。ふしだらしてません、ほんとうですっ(必死)
まだ、ほら(資料としての書き込みを振り回して)やぬすさん一枚も脱い
でないし、チラとかもしてないし、撫でたり触ったり弄んだりしてないし!!
ぼくだって渋澤龍彦訳くらいしか知らないし! 読者もボクもそんな
淫らで背徳的な期待はしてないもんっ。ねっ? ねー?(みんなにふる)
そ、そんなわけで、最初から健全路線で書いていたこのSSはこれ以上
健全方面に引き戻すと、一回転して(裏返った!!)欲望に対して健全な
地下方面への成長を見せちゃうのですが、あ、あの、それは……だよね?(涙)
ps.やぬすさんにとって痴態ってどんなの?
>>552,553,554
でもでも、やぬすさんがえっちっちなとこって想像つかないです。
……つかない、かな? うん。仔細に検討してくるー。んだよー。
556 :
NPCさん:2006/05/20(土) 18:02:12 ID:???
■SEQUENCE 06
どの店からも有線の音楽が聞こえてくる。
明るくてポップな流行曲が寄せては返す波のように繁華街を浸している。
明るいネオンには楽しげに歩くグループ、酔ったサラリーマン、親しげな
態度の客引き、家路を急ぐOL、こんな時間にも塾に急ぐ子供達。
様々な種類の人間が、それぞれの目的に向かって足早に歩く。
そんな人々の間を、ヤヌスはうつむいて歩いていく。
どこへ向かうという当てはない。
ただ、繁華街をさっさと抜けて、もうちょっと人目のないところへ行きた
かった。
頭の中は羊の綿毛でも詰められてしまったように白い。
思考の瞬発力がなくなって、ただぼんやりしている自分を外側から眺めて
いるような精神状態だった。これも飽和というのだろうか。
(格好わるいな……)
肌寒い五月の風が頬を過ぎる。
暗い天には都会のあいまいな夜空。ネオンに照らされた灰紫の雲が低く流
れていく。星は一つも見えない。雨が近いのだろうか。空気には湿った感触
がある。
(いっそ、降ってくれれば良いのに)
多少自暴自棄な気分で思う。
ぐすり。
鼻がなる。
鏡を見なくても、自分がどんな顔をしているかはわかった。
今は亡き祖母に言われた言葉が蘇る。
――女の子が泣くときには、決して大声を立てたりしてはダメ。声を荒げた
らそれだけで不合格ね。しくしく泣けてやっと三流。目じりに涙をためて口
元を引き絞れて、やっと二流ね。
一流はね、涙を真珠みたいにほろりと一粒こぼしながら微笑めるの。そこ
までいけたらどんな男の子も手玉に取れるのよ。ええ、いちころですとも。
お祖母ちゃん? そうね。お祖母ちゃんは超一流ですからね。だからお祖
父ちゃんと結婚できたのよ。とでも云っておきましょうか。
557 :
NPCさん:2006/05/20(土) 18:03:18 ID:i7iFeo+e
あれはいつ云われた事だろう。
原因は忘れてしまったが、ヤヌスが悔しくて辛くて堪らなくて大泣きをし
てしまった時の事だ。祖母は穏やかな声で話しながら、大きなタオルでヤヌ
スを包んでくれていた。
――あらあら。そんなにお鼻を真っ赤にするものじゃないわ。女の子の中に
はね、先天的にキレイに泣ける娘がいるのよね。でも残念だけど貴方はそう
じゃないから。ほら、酷い顔してますよ、ヤヌス。鼻をかんで。
貴方は泣き方が不器用だから。それじゃ男の子に逃げられちゃうわ。超一
流になるまでは、泣かない戦略でいくのね。
思い返せばずいぶん酷い台詞を言われた気がする。
しかし長じて理解されて来たのは祖母の予言は確かなものであり、ヤヌス
の泣き顔はやはり上達しないということだった。
鼻をすすり上げる。
きっと自分の鼻も目じりも涙で赤くなって、酷い顔だろう。そうヤヌスは
思った。
困ったような表情でそれで意地を張る駄々っ子のような自分はとてもとて
も滑稽だろう。それは祖母の予言どおりに。そして祖母の作戦を守れなかっ
た罰のように。
視線を足元に落として歩く。祖母の言葉を守ってヤヌスはずっと視線を上
げて生きてきた。自分でも意固地で不器用だったとは思う。けれど他に選択
肢もなかったのだ。仕方がない。仕方がないが、羞恥と悔しさで胸が詰まる。
居酒屋のことを思い出すと涙があふれてきそうだ。
だからあえて思い出さないように歩く。でも、思い出さないように努力し
ていることは、本当はその考えが頭から去ってなどいないということだ。そ
んなことも判っている。
唇からはため息が漏れる。
自分らしくはないと思っても、どうにもならない。
558 :
NPCさん:2006/05/20(土) 18:04:01 ID:???
気がつくと殺風景なビルの屋上にいた。
コンクリートで作られた雑居ビルは不ぞろいなドミノのようで、足元の道
路にはネオンの光があふれている。給水塔とパイプが這い回る屋上は薄暗く
て見通しが悪いが、ヤヌスには慣れ親しんだ場所だった。
(あ……)
そう。結局は『部室』に来てしまったのだ。
他の場所を考え付かなかったのか。足が勝手に向かってしまったのか。
つくづく活動範囲の狭い人間だと、ヤヌスは自嘲する。
「ここにはいられない、ですね」
飲み会が行われている今、『部室』は無人だろうが、終わってしまえば酔
い覚ましや二次会、三次会で『部員』が帰ってくる可能性が高い。とぼとぼ
と二駅以上も歩き続けて疲れていたが、この場所には居られなかった。
それは今日だけのことではなく。
あんな醜態をさらしてしまった以上、もう『部室』に居続ける事は難しい
のではないか。ヤヌスは思う。自分のあの姿を見て、皆はさぞかしいやな思
いをしただろう。呆れ果てられただろうな。そう思うと胸がつぶれるような
気持ちがした。
(素直に家に帰ればよかった)
ヤヌスは頭を振る。そんなことにも気が回らなくなっていたらしい。
せめて紅茶だけでも持ち帰ろう。
そう思ってドアノブに手をかける。しかし、ドアは手をかけた瞬間内側に
開いた。
ヤヌスのことには気がついていたのだろう。
そこには怯えるような気持ちを押し隠す表情があった。
「――梨銘君」
ヤヌスの頭の中にいろんな思いが去来する。
――こんな事態を巻き起こす最初のきっかけになったひと。気さくで陽気だ
けど、悪ふざけと悪乗りをしてしまう人。何でこんな場所に居るのだろうか。
あの飲み会に居たのに。ああ、そうか。自分は歩いてきたから。電車を使え
ば先回りできるのか。それにしても、どういう理由でここに?
559 :
NPCさん:2006/05/20(土) 18:05:12 ID:???
思いは感情を連れてくる。
――そうか。自分を笑いにきたのか。そもそもねこ耳は梨銘が言い出したこ
と。途中であんな無様な幕引きになって、溜飲の下がる思いをしただろう。
そういえば、ワンダフルワールドのすみれ色のサマードレス。あの写真を
撮られていたんだっけ。
そのこともなんだか遠い出来事のようで。
――そうだよね。そういう意味で言えば、そもそも、私が似合いもしないよ
うな服を身に着けてこそこそしていたのが原因なのだ。でもあのフワフワと
したワンピースと白いサンダルは、卑しくも女の子に生まれたからには一度
は着てみたいではないか。たとえどんなに似合わなくたって。
――それは郷愁に似た強い気持ち。憧れなのだ。
梨銘は、重いスチールドアを開けた体勢のまま、ヤヌスと見詰め合ってい
る。その表情は大きな苦痛をかみ殺しているように沈痛で、痛々しいものだ
った。
――なんでこの人はこんな顔をしているんだろう。もっと無茶な要求をする
とか、大笑いするとか、馬鹿にするとかすればいいのに。もう、そんなこと
をしても、怒る気にもなれないけれど。全部終わってしまったことなのだか
ら。
「梨銘君。そこをどかなきゃ紅茶が取れないです」
ヤヌスが出した声は、自分で思っていたよりもずっと掠れた声だった。
ずっと嗚咽をこらえていたのだ。喉がひりついて痛い。その声は自分で聞
いてもびっくりするほど小さくて情けないほどだ。
その声で、梨銘の表情がもっと険しくなる。
――梨銘君は変な子。何がそんなに辛いんだろう。
ヤヌスは不思議に思う。
梨銘は何かを言おうとするように何度も口を開くが、言葉にならないのか、
そのたびに口を閉じてしまう。息苦しいような空気だけが時間を刻み込む。
――ああ。仕方のない子だなぁ。
ヤヌスは手を伸ばすと、自分よりも15cm高い梨銘の頭を優しく叩いた。
「これ以上苛めても、なんにもだせないですよ?」
560 :
NPCさん:2006/05/20(土) 18:07:40 ID:???
わかぞーですー。
連続書き込みしてると、途中で間違えてあげてしまったりする……。
ごめんなさいなんだよー。06おわりー。つぎは07−。
07でぜんぶおわりーのはずー。月曜くらいー?
がんばるのだーのだー。
561 :
(゜∀゜):2006/05/20(土) 20:39:19 ID:???
うひょー、どこのコバルト文庫だこれはっ!?
わかぞーすごい、偉い。ガンガレっ!!
『ないしょ禁止!』
563 :
Janus:2006/05/21(日) 16:01:13 ID:???
>550
誰がやぬっぴです誰が、誰が鬼畜萌えです誰が!
ときめかないです私のハート、羞恥プレイとか嬲り者とか! 言うまでもなく、後頭部に当たったり背後からまさぐられたりするようなことにも!
ましてや胸に秘めた切なる想いを公衆の面前に晒し出されて慰み者になるような所業には! 本 当 で す ! !
>551
接吻? この私に接吻をしろというのですか?
人のクチビルを何だと思っているのですか、この変態!
>552
健全ルートでは天国へと送り、鬼畜ルートでは地獄に叩き落します。
>553-554
生命が全てではありません。
私は、若造さんの魂の平穏と尊厳のために、健全ルートを推奨しているのです。
564 :
Janus:2006/05/21(日) 16:01:44 ID:???
>555
つまり、これ以上規制を厳しくすると、煩悩が暴発して一気に深夜展開に移行するというのですか?
(しばし黙考)
そんなことはありませんよね?
若造さんが、顔の形が変形してもなお殴られたり、二度と筆を握れなくなったり、男の人ではなくなったりといった、重大な結果をもたらすような、そういったことはありませんよね(にっこり)?
>ps.やぬすさんにとって痴態ってどんなの?
「どんなのって、そ、そ、そ、そんなことを私の口から言わせるのですかぁ!?
そういうプレイがお好みだとは、若造さんのことを見損ないましたっ」
>でもでも、やぬすさんがえっちっちなとこって想像つかないです。
>……つかない、かな? うん。仔細に検討してくるー。んだよー。
検 討 の 必 要 は あ り ま せ ん ! !
・SEQUENCE 06
561さんならずとも「それって何てコバルト文庫?」と言いたくなる様な内容ですが、綺麗な流れですね。
次が最終章だそうですが、このままの端整で健全な展開を期待します。
565 :
NPCさん:2006/05/21(日) 16:19:18 ID:???
>男の人ではなくなったり
ああ、まさかやぬぬんの装備欄に「モロッコの鋏」があるとは思わなんだ。
えろいなぁもう。
566 :
(゜∀゜):2006/05/21(日) 17:10:28 ID:???
>人のクチビルを何だと思っているのですか
♪真っ赤な薔薇は あいつの唇♪
やぬべぇはそゆこと詳しいよね〜。
>>563 ふはははは!甘いな!このうつけ者が!
団鬼六ばりの鬼畜ルートで嬲られるはそなたぞ!
実に待ち遠しいことよ!
569 :
(゜∀゜):2006/05/21(日) 21:15:28 ID:???
>Janusさん
『男の人ではなくなったり』ってどういう事ですか?
まさか、清らかで純粋なヤヌスさんが
>>565のような忌まわしいことを・・・。
いや、そんな事はないっすよね。
具体的に教えてほしいっす。
じゃあオレやぬん去り後の飲み会を盛り上げるために腹踊りするね。小力並みの。
571 :
イトーマサ死 ◆oARixvtIFA :2006/05/22(月) 12:27:36 ID:KMpdLt3B
ではオレが代わりにネコミミ着ける方向で。
【タイガーマスクだったと言う】
572 :
NPCさん:2006/05/22(月) 14:14:51 ID:???
わかぞーだよー。げーつよーうびー。
ぬこ、にゃんにゃかうるさいよ。もう夏の風だよねー。
>>561 えへへー。少女小説なのかな。かな。
藤本ひとみとか氷室冴子とかっ。
>>562 駄コテ板万歳次は杉井さんだ覚悟しろ風味なのよ。
>>564やぬすさん
そんなことなかったー。健全死守! 貞操死守! 断固鉄壁!
ぬこかんぜんぶそう! あーむどぬこふぉめのん!
えと、えっと、そういうプレイは好きじゃないです。
反省してますごめんなさい。
>>552,553,554
(聞き取れるかどうか判らないほどの小さな声で)
仔細に検討したんだよー。かなり考えたんだけど。
一個だけいけましたー。これだっ! って。
えと、あの……自涜。うん、あの、えへへ。
>>569 やぬすさんはそんなことしなくても「それ以上は嫌いになります」で
大抵の暴走を抑止できる気がするのだー。ぬこもお行儀よくなる最終勧告!
だから、そんなはしたないシザーハンドもってないよー。
>>570,571
わーい。えんかいえんかーい♪
573 :
NPCさん:2006/05/22(月) 14:16:39 ID:???
■SEQUENCE 07
「……っ」
梨銘は唇を噛む。ヤヌスは少し疲れて、ぼんやりしているように見えた。
肩を落とした姿は、いつもよりも小さく見えるほどだ。そんなヤヌスの姿
を見ていつも見ていたヤヌスの颯爽とした後姿を思い起こす。
背筋をぴんと延ばして歩く姿は気品があって意思を感じさせた。梨銘はそ
の姿を見て、苦笑めいた思いを持つとともに憧れてもいたのだった。
そのヤヌスが意気消沈している様を見るのは胸に鈍痛めいたものを抱かせ
た。
「ごめん」
云おうと思ってた言葉は出なかった。代わりに出たのは何の芸も無い単純
な謝罪だけ。
「ヤヌスを苛めるつもりなんて無かった。恥ずかしい目にあわせようなんて
思ってなかったんだ。ただ……」
「ただ?」
ヤヌスが梨銘を見上げる。
いつもの凛々しい眼差しはそこには無い。五月のまだ肌寒い夜の暗がりに
あるのは、地上のネオンの光も写り込まない黒曜石のような瞳。
強い光は無いけれど、不純物を除いたような綺麗な黒。
「……」
その色に梨銘は言葉を失う。「ただ」。その後は何だというのか。
何を云ってもそれは言い訳の言葉でしかないだろう。でも、本当に言いた
いのは言い訳では無かった。言い訳ではないのに、出てくる言葉は言い訳じ
みたものばかりなのだ。
もどかしい様な気持ちで梨銘はあがいた。
言葉がうまく出てこないのをこんな気持ちで味わうのはいつ以来だろう。
不器用な子供になったような気分で梨銘は押し黙る。
574 :
NPCさん:2006/05/22(月) 14:17:25 ID:???
「じゃぁ、一体なんでなんですか? こんなことして楽しいですか?」
ヤヌスの声に怒気が戻る。でもそこにはいつもの鮮やかさが無く、苛立ち
の色だけが在った。
「……」
梨銘はその声を忸怩たる思いで聴く。その声を出させたのは自分だ。
ヤヌスをヤヌスらしくしているものを奪ってしまったのは自分だ。
それはひどい罪悪に思えた。死刑執行されても仕方が無いほどに。
「……ヤヌス」
「ヤヌスだなんて呼び捨てにしないでください」
感じていた温度が冷えていくような、何かが失われていくような感触に梨
銘は恐怖を覚える。取り返しがつかなくなる前に、伝えなければならない。
でも、伝えるための言葉は品切れだ。
肝心なときになんて役に立たないボキャブラリィなんだろう。
「ちゃんと説明する」
梨銘は大きく息を吸った。それでも。梨銘は思う。
『それでも』ちゃんりヤヌスに説明したい。それは嫌われたくないという
気持ちよりもヤヌスのために。梨銘は思った。言葉が拙くても避け得ない局
面があるとするならば、それは今だ。
ヤヌスはその梨銘を表情の読めない黒曜石の瞳で見上げている。引き結ん
だ口元に怒った様な堪えているような想いを乗せて。
「時間は取らせないけれど、きちんと説明したいと思う。だから、聞いて」
梨銘は押しかぶせるように云った。
ヤヌスは、黙って小さく頷いた。
575 :
NPCさん:2006/05/22(月) 14:18:37 ID:???
正直に告白すれば、梨銘に勝算など無かった。
それどころかどんな風に説明するかという考えも無かったし、もっと言っ
てしまえば何を説明するつもりなのかもあやふやだった。
『なぜこんなことをしたのか?』
ヤヌスはそう尋ねている。
売り言葉に買い言葉だったから? ヤヌスが怒っていたから緊急回避?
それともヤヌスからかって遊びたかっただけ?
どれも嘘ではない。
そういった悪戯めいた気持ちがどこかにあったことは本当だ。
でも、それをヤヌスに説明してしまったら、全部が嘘になってしまう。梨
銘はそう思った。
言葉として形にしてみたら、そうなってしまう。
名前をつけたら、名前のとおりの存在になってしまうのと一緒だ。
そしてそう認識されたならば、言葉から漏れた「本当の部分」は無かった
ことにされてしまう。
部分としてはどれも本当なのに、相対としては殆どが嘘になってしまう。
本当に伝えたい部分だけがぽっかりと無くなってしまう感覚。それは、ま
るで食べてしまった後のドーナツの穴だ。ドーナツを食べ終われば、食べて
ないはずのドーナツの穴まで無くなる。
「昔……」
梨銘は何も考えずに切り出した。
仕方ない。結局伝えたい「本当の部分」は形じゃないのだから。そこに在
るものは気持ちでしかないのだ。
それは本来伝わらないものなのだから、伝わらなくても仕方ないんだ。梨
銘は半ば自棄な気持ちで思う。
迂遠だけれど、こんな方法でしか説明出来ない。
576 :
NPCさん:2006/05/22(月) 14:19:44 ID:???
「中学のころ、学校に行く途中の小道で黒い猫を見かけたんだよ。毎日同じ
場所でね。すごくハンサムで、格好良くて凛々しい猫でさ」
迷いながらもと言葉は出てきた。
「スレンダーで動きに品があって、尻尾が長いの。……先っちょがいつもゆ
らゆら揺れていてさ。
楡の木があって。いつもそこにいるんだけど、人間なんか眼中に無いって
感じ。友達なんかでも気にしてるヤツがいてね、たまに餌とかあげてたりし
ているみたいなんだけど、見向きもしないんだって。
きっと、その猫にとっては、人間っていちいち真面目に付き合う存在じゃ
ないんだろうなって感じてた」
梨銘の中にその猫の颯爽とした格好よさが蘇る。
それは肌触りを感じるほどに鮮明で梨銘の気持ちの深いところに感動を与
える思い出。
どうかこの気持ちが伝わりますように。祈るように梨銘は続ける。
「俺もそいつを気に入っててさ、通りがかりに挨拶するんだけど、いっつも
無視されてたんだよ。声をかけ続けたり、触ろうとするとすぐ逃げられちゃ
うしね。俺だけじゃなくて、皆そんな感じみたいでさ」
梨銘は小さく苦笑する。
実際当時は「なんて生意気な猫なんだろう」と思ったこともあったのだ。
「でも。一回だけ、近くに寄ってきて見上げてくれたことがあって。
喉を鳴らして綺麗な声で鳴いてくれたんだ。
『お前変なやつだなー』って言われたような気がするんだけどさ。んっと、
判るかな。『なーぉ』ってさ」
賢そうな瞳が見上げてきたときのことを思い出せる。
琥珀色の瞳は思慮深そうで、それだけで梨銘は飛び上がるほど嬉しかった。
「うまく云えないけれど、それがすごく嬉しくてさ。特別に感じて。わくわ
くした。どきどきして。大切にしようって思った」
577 :
NPCさん:2006/05/22(月) 14:27:25 ID:???
柔らかい天鳶絨のような一声と見上げた瞳の触れ合う感じが、当時の梨銘
にどれほど幸福感を与えてくれただろう。
それだけの力のある一瞬が、時間の流れの中には存在する。
それを実感するのは小さくは無い感動だった。
梨銘は自分の言葉が伝わっているかどうか心配そうにヤヌスを見る。
「判るかな?」
「……」
ヤヌスは応えない。黒い瞳で梨銘をただ見上げている。
「うまく言えないけどさ。俺はヤヌスに懐いて欲しかったんだと思う」
猫という生き物は自身の王で人間を主人だとは思わない。
犬は仲間と族長を持つが、猫が持つのは友人だけだ。梨銘は昔読んだ外国
の作家の言葉を思い出す。
――だから、人間は猫と仲良くなるためには頭を下げなければならない。猫
が認めてくれない限り貴方は猫と上手には付き合えない。
それはとても難儀な話に思えたが、たぶん正確な表現なのだ。
「……」
ヤヌスが何を考えているのかは相変わらず判らない。ただ黙って、約束ど
おり話を聞いている。
ヤヌスは約束を守っているのだ。猫以上に、ヤヌスは自身の王であり主人
だった。ヤヌスは完全に独立した人間で、彼女に近づいてみたいという気持
ちは自分の側の身勝手なんだな。
梨銘は自分がした説明で、やっと自分の気持ちに気がついた。
ああ、なんだ。――ヤヌスの頭を撫でたかったんだ。
触れてみたかっただけなんだ。
「……説明、終了」
梨銘は息を吐き出す。
上手に説明できたとはとても思えない。
けれど仕方が無い。そもそも伝わるというのが奇跡的なことなのだ。
あの猫が見上げてくれたのと同じくらい。それは奇跡的なこと。
578 :
NPCさん:2006/05/22(月) 14:28:16 ID:???
ヤヌスは梨銘の言葉が終わってしばたく口を開かなかった。
ただ黙って、梨銘を見上げていた。
彼女は黙って一つうなずくと、一歩前に出る。
そこは既に梨銘の中といってもいい場所で、彼女はわずかな動きで、自分
の頭を梨銘の顎の下に滑り込ませる。
桃の香り。梨銘はそれがヤヌスのシャンプーの香りだと気がつくのにしば
らくかかった。ヤヌスの考えがまったく読めない。
「――つまり」
梨銘の首筋に吐息が絡むほどの距離でヤヌスが呟く。
「梨銘君は、わたしのことを撫でたい。……そう云うのですね?」
「うぅ」
ヤヌスの言葉は梨銘の理解の範疇を完全に超えていた。そのうえ、かすれ
たようなヤヌスの声で改めて問われると、我が事ながらすごく恥ずかしい気
がする。
「違うのですか?」
「違わない。ような……」
ヤヌスが言葉を漏らすたびに、抱きしめられる至近距離でささやく唇から
吐息が漏れる。それを感じるだけで梨銘の体温は跳ね上がる。
「判りました」
梨銘が凍りつく。ワカリマシタ。そう聞こえた。
ワカリマシタというのは撫でて良いよという意味なのだろうか? 日本語
の文法ではそういう意味であるはずだ。
しかしヤヌス語では違うのではないか。そんな猜疑心さえ感じるほど唐突
な許可だった。
「判りました。といったのです。どうぞ撫でてください」
ヤヌスが自分の指先が届く場所でじっと立っている。
それは野良の猫が触れさせてくれるように貴重なこと。
579 :
NPCさん:2006/05/22(月) 14:29:25 ID:???
「――うん」
緊張して梨銘は震えそうになる。膝の力が抜ける。
「ただし」
ヤヌスがタイミングを見計らったように言葉を挟む。
「撫でた後には死刑です。被告、梨銘君は死刑です。判決死刑ですよ。然る
べき報いとしての神罰執行ですっ。それでも良いならどうぞ」
その潔癖な声は。
いつものヤヌスのように。いつも聞いていたあの声のようで。
梨銘はその言葉だけで胸が一杯になってしまう。
言葉は「死刑」だなんて厳しいのに。ほんのわずかにヤヌスの落ち込んで
いた姿を見ただけなのに。懐かしさと嬉しさで、限りなく優しい気持ちがあ
ふれてくる。
「死刑になるだけ?」
ヤヌスがこくりと頷く。梨銘の胸のすぐそばにヤヌスの小さな頭部がある
ために表情は見えない。抱きしめてはいないけれど、抱きしめているのと同
じような距離で。
触れてはいないけれど体温の伝わる距離で。
梨銘は頷いたヤヌスの髪をすくう。
指の間をさらさらと滑り落ちるそれは水で作った絹糸のよう。
野良猫を怯えさせない細心の注意をもって高鳴る鼓動を押さえ指を滑らせ
る。
「――。死刑になってもいいんですか」
ヤヌスの呆れたような拗ねたような声が聞こえる。
「死刑なだけでしょう? 嫌わないでいてくれるなら甘受する」
言葉に詰まるヤヌス。ぎゅっと拳に力が入り、身体が強張るのが判る。
梨銘は胸の中でゆっくり数を数えながらヤヌスを優しく甘やかすように撫
でる。1、2、3、4……。そろそろ限界かな、そう感じた梨銘は手を離す。
その瞬間ヤヌスは爆発するような速度で後ずさると弾けるように梨銘に背中
を向ける。
580 :
NPCさん:2006/05/22(月) 14:31:06 ID:???
「あ、貴方は何を考えてるんですかっ! 梨銘君っ。死刑ですよっ! 死刑
判決といってるんです。判りますか? 私はお説教してるんですっ。それな
のにお構いなしに中央突破で頭を撫でるとは、貴方は一体何を考えてるんで
すかっ。見損ないました。恥を知りなさいっ」
歯切れのいいヤヌスの声。抑揚のついた旋律が耳に心地よくて、梨銘は笑
みがこぼれてしまう。ああ、そうか。と梨銘は自分の想いがまた一つ腑に落
ちる。
「でも、嫌いになるって云われてないし」
「〜〜っ!! 何を云ってるんですか!!」
夜風に揺れるヤヌスの黒髪。その間に覗く彼女の耳が朱く染まっている。
「撫でられるのいやだって云わなかったし」
「〜〜っ! 梨銘君っ!!」
「いいよ。死刑。――できるなら、ヤヌスの膝枕で安らかにしちゃって欲し
いかな」
我慢できずに振り返ってしまうヤヌス。真っ赤に染まった頬と恨むような
視線が、眼鏡の中から上目遣いに見上げている。
「なっ、なんていう破廉恥なことをっ」
「抵抗しないよ?」
にこりと笑う梨銘。それはヤヌスをからかっていた日々と同じ言葉だけれ
ど、まるで違う気持ち。触れさせてくれたから。独立不羈の高潔さを持った
ヤヌスがあの日の猫のように一度だけ撫でさせてくれたから。
その掛け替えの無い貴重さが梨銘の胸を暖める。だから、嫌われるのは怖
いけれど、怒られるのは怖くない。
ヤヌスは梨銘のその表情に何を感じたのか、口を開いては閉じる。言葉を
捜して、その表情がめまぐるしく変わる。
「ね?」
「〜〜っ! う。うぅ。……ぐぐぐ」
じりじりと下がるヤヌス。
581 :
NPCさん:2006/05/22(月) 14:32:46 ID:???
い、いいでしょうっ。……今回のことは私のほうにも隙がありました。今
回だけは特例として執行猶予を認めますっ。いいですか、執行猶予ですよ。
決して貴方の罪がなくなったわけでも、罰が執行されないわけでもありませ
んっ。諸般の事情を鑑みてその執行を一時保留にするだけですからねっ」
ヤヌスはどこか居心地が悪いような逃げ腰で、それでも胸を張ってメトロ
ノームのように人差し指を振る。
「喉渇いちゃった。ヤヌス。なんか甘いものでも食べに行こうよ」
「ひゃんっ!? ななな、何を云ってるんですかっ!? 執行猶予の癖に!」
「だから、保護観察だよ。見張ってないと危険でしょう?」
「ダメですっ。それ以上の接近は禁止ですっ! 禁止! 髪の毛触っちゃダ
メですっ!!」
「もちろん許可があるまでそんなことしないよ」
「〜っ! 許可なんてありません。未来永劫金輪際あるわけないのですっ!
絶対に絶対に絶対にありえませんっ」
噛み付くようなヤヌスの反論。その言葉の一つ一つが今の梨銘にはくすぐ
ったい。
「そっか」
「なんですか、その微笑みはっ! 一体どういう意味なんですか! 釈明と
事情説明を求めます。さぁ!!」
「ん、判った。じゃぁその話はフレンチクルーラーでも食べながらにしよう
か」
「絶対ですからねっ。逃亡は許しませんよっ」
詰問とはぐらかしを。同意と否定をうちあわせながら、二人はスチールの
古ぼけた階段を下りてゆく。
後に残ったのはドーナツを食べた後のドーナツの穴。
梨銘が言葉にしなかったこと。ヤヌスが確認しなかったこと。
ドーナツを食べたあとでは形もわからなくなってしまった「本当のこと」
名づけることをしなかった「好意」だけが屋上に漂って、
やがて五月の夜風に散って行った。
582 :
NPCさん:2006/05/22(月) 14:35:36 ID:???
あはー。わかぞーだよー。
以上で07終了、ならびにこのSS終了っ!
やぬすさんが可愛く書けてれば良いなっ。でも本物のほうが
7の7乗倍くらいかわいいよー。めろめろーん。
ではではなんだよー。どっとはらいっ!
えっちなのを期待してた人はごめんなさいっ。
ぬこたいさんー♪
583 :
罵蔑痴坊:2006/05/22(月) 15:25:12 ID:???
一番乗りかにゃー
うむ、GJ >わかぞーどん
でもヤヌス嬢に「んもう わかぞーさんのエロス人!!」とかゆわれるチャンスを放棄するとはもったいねーにゃー
584 :
NPCさん:2006/05/22(月) 18:03:12 ID:???
>582
わかぞーさん乙&GJでした。
『食べてしまった後のドーナツの穴』の比喩と『一度だけ撫でさせてくれた』
猫の比喩が秀逸だと思いました。
多分、梨銘君の言った言葉は一番真意に近い『嘘』で、その上ヤヌスさんに
はちゃんと理解できていなくて、それでも梨銘君は真剣に伝えたし、ヤヌスさ
んは真摯に受け止めた。そのように読みました。
そして、そういう遣り取りを積み重ねる文章がとても綺麗だと思いました。
>583
なに、次回は地下スレでヤればいいのさ。
【誰に何をだ】
じゃあオレ達宴会組は、EDで皆で手をつないで輪になって踊ろうって踊ってるカットを入れるよ。
知ってか知らずか、ってやつで。
つまり乙。
586 :
(゜∀゜):2006/05/22(月) 18:33:00 ID:???
ありがとうわかぞーさん。
またの登場を期待しているよ。
587 :
523:2006/05/22(月) 19:09:09 ID:???
(GJ!)
(GJ! 若造さま!)
(GJ過ぎます! ご飯三杯ですっ)
さて、改行とか表記ゆれとかを気が済むように弄くり倒したので、
テキストビューアで一人楽しむとしますね。
588 :
NPCさん:2006/05/22(月) 22:14:32 ID:???
そうだな、結局コテハンも作品の印も付けてくれなかったので、
自分で抽出して悦に浸る事にしよう。
589 :
NPCさん:2006/05/22(月) 22:18:31 ID:???
文句があるなら読まなければ良いのに
わかぞーにゃん乙!
サバ缶でサバトの宴に参加したいが
よく考えたら私サバダメだったよ…orz
591 :
NPCさん:2006/05/23(火) 08:16:00 ID:???
猫の集会は、何も必要ない。
必要なのは、ただの目には見えないものを注視する瞳のみ。
592 :
Janus:2006/05/23(火) 23:31:51 ID:???
・SEQUENCE 07
何を考えているのですか一体、平凡な一介の地味なコテハンにすぎない、この私を撫で撫でするだなんて!
そもそも私は違うのです・・・ご褒美や愛情表現に撫で撫でしてもらうような、どこぞのこいのぼり支部長とは!
これまで猶予してきた死刑、この場で執行仕り・・・
(読み直す)
そういえば、そもそも死刑判決を下したのは「ネコミミJanus」が罪状だったのですが、こうしてみると私を猫に喩えるという伏線だったのですね。
また、梨銘があえて言葉にしなかった想いを私に示した(少なくとも、共感したような気にさせた)こと、
私が健全で清廉な一般人であるという事情を踏まえて健全清廉路線を守りきったことと併せて鑑みるに、
情状酌量の余地があると認めざるを得ません。
従って、無期懲役に減刑します。通常の慎みある一読者として、引き続き健全なSSを執筆することで罪を償うことを期待します。
ひとまずは、お疲れ様でした。次回作も楽しみにしています。
そっかあ、やぬにゅんは萌えキャラの研究も怠っていないんだなあ。
つか、なんとなくやぬしゅはシャドウラン専用てイメージがあったからちと不意を疲れた。
なのでこれからは、やにゃー、て鳴くといいよ、いいよ。
594 :
(゜∀゜):2006/05/24(水) 00:36:36 ID:???
これで『ネコ耳』は公式装備になったわけだ。
今小官はツンデレの真の姿を見た
596 :
NPCさん:2006/05/24(水) 02:01:27 ID:???
あはー。わかぞうだよー。
みんな、ありがとうー。なんだよー。
>>590 サバがだめでも、さばとはOKだよー。
ぬこがよじのぼっても我慢できれば参加おけー。
>>592 健全清廉路線まもりきったよ! 断固阻止! 鉄壁防御!
わーいわーい。無期懲役だよー。
……あ、あれ? 無期懲役だよ? うぇー。つみのつぐない?
やぬすさんかわいく書いたのにー。ごほうびのなでなではー?
でもそんなこというと、きっと怒られちゃうんだよー。しく。
でも、やぬすさんは
「えと、あの……自涜。うん、あの、えへへ」については
スルーしてくれたんだよ♪ わーいわーい。
次はこれでも良いですか(どきどき)
>>594,595
一度や二度のデレでは簡単にツンがなくなったりしないのがホンモノなんだよー。
597 :
Janus:2006/05/24(水) 20:58:54 ID:???
>593
誰がやぬにゃんです、誰がやぬしゅです、私の一体どこがこいのぼり支部長だというのです!?
>594
な り ま せ ん ! !
>595
現実を見ましょう。
>596
「自涜」? 「自涜」ってなんですか?
淫欲によって孤独の内に自らを穢す行いではないですよね? そう信じていいんですよね?
もし、万が一そうだとしたら、ましてその行いにこの私を利用するのであれば・・・
(両の拳を硬く握り締めながら、笑みを作る)
もちろん、どうなるかはわかっていますよね(にっこり)?
『やぬたんがするんじゃない?』
『あとばくげと』
599 :
NPCさん:2006/05/24(水) 23:52:28 ID:???
やぬやぬのオナ(ry
ええい、けしからん。まったくもってけしからん。
本官が責任を持ってこれは処分しておこう。
600 :
NPCさん:2006/05/25(木) 00:12:29 ID:???
わかぞーさん面白かった。ありがとう。
読み終わった後
>>564を振り返って、なし崩し的にほかの女の子と
良い雰囲気になってしまった梨銘の後ろで、名状し難き感情に教われ、
「最近、洋裁を始めたんです」と裁ち鋏(10S)をバタフライナイフを
扱うかのようにくるくる振り回すやぬたんを妄想した。
ちょっと萌えた。
601 :
NPCさん:2006/05/25(木) 01:40:56 ID:???
602 :
(゜∀゜):2006/05/25(木) 01:51:43 ID:???
>>597 えー、いいじゃんよぉ、ネコミミ(黒)。
かわいいよ、きっと。
若造くんも賛成するよ、他のみんなもっ!! ヽ(゜∀゜)/
絶対似合う、保障する。みんなに笑われないっていうか、
暗い時代にみんな元気でるっ!
603 :
Janus:2006/05/25(木) 19:53:43 ID:???
>598
誰がやぬたんです誰が、私が一体何をするというのですか!
>599
誰がやぬやぬです誰が、「オナ(ry」って何ですかドルフさん?
>600
振り回しませんそのような、モノウィップなダメージ・コードの鋏なんて!
そもそも私やぬたん違うですのに!
>601
糞便趣味の変態は嫌いです。
>602
か、からかわないでください!
604 :
NPCさん:2006/05/26(金) 01:07:17 ID:???
>糞便趣味の変態は嫌いです。
やぬたんが本気で嫌がってる! アーミンの漫画みたい!
>>603 はっはっは、あぬあぬさん。残念ながら599は小官ではないのでありますよ。
小官は「本官」という一人称は使わないのであります。
それに貴女の自涜ネタなら、小官の場合でしたらア
(ずぶずぶと毒々しい色の泡立つ沼へと沈んでいく
606 :
(゜∀゜):2006/05/26(金) 03:25:25 ID:???
>>603 からかってないよっ! ヽ(゜∀゜)/
いや絶対カワイイってばっ!!
ネコミミだけで女の子の魅力は三割くらい増すんだよ。
恥ずかしいんだったら、みんなで見えない所でこそっと見せてくれればいいしっ!!!
前に薦めたミニスカートだって若い子なら普通にしてるって。
っていうか長い方が今希少で目立つよ。
年頃の娘さんがオシャレしても誰も笑わないってば。
607 :
NPCさん:2006/05/26(金) 06:21:52 ID:???
なんかAVのスカウトとかやってそうだなw
608 :
NPCさん:2006/05/26(金) 10:43:55 ID:???
新宿スワン?
609 :
いつふた:2006/05/26(金) 21:21:47 ID:???
ゲーム:−(コテハンネタ)
形式:いつものふたり。
レス数:2+1
分割:なし。
時節:五月。
注意:本日作成。つい今し方書き上げたとこ。校正はほとんどしていない。
◇Janus 嬢は卓ゲ板の夢を見るか
「ねぇねぇ」
「あ〜?」
「>592にさ、『こうしてみると私を猫に喩えるという伏線』って書いてあるん
だけど」
「ああ」
「凄いよねぇ。流石だよねぇ。わかぞーさんてば、そこまでちゃんと計算して
書いてるんだねぇ。
そしてまた、そのことにちゃんと気が付くJanus さんも凄いよね。流石って
感じだよね」
「さて、それはどうかな? むしろ穿ちすぎ、深読みのし過ぎではないか?」
「え? ど、どうして?」
「猫に喩える伏線として、Janus 嬢に猫耳カチューシャを被せた。
ならば、犬に喩える場合は犬耳カチューシャなのか?
狐に喩える場合は狐耳カチューシャなのか?」
熊に喩える場合は熊耳カチューシャなのか?」
「そ、それは……犬耳娘や狐耳娘は普通によく見るし、熊耳娘も、割と可愛い
と思うし」
「赤カブトみたいな熊でもか?」
「あまりにもあんまりな例を出してくるなよっ!」
「大体、喩える対象は哺乳類ばかりとは限るまいが。
ミミズに喩える場合はミミズ耳カチューシャなのか?
オケラに喩える場合はオケラ耳カチューシャなのか?
アメンボに喩える場合はアメンボ耳カチューシャなのか?」
「なんでいきなり虫なんだよう!?」
「みんなみんな、生きているんだ友達なんだ」
「違っ! ぜんぜん違っ!」
「要するに、Janus 嬢に猫耳カチューシャを被せるというシチュエーションが
出て来たのは、物語の必然ではなく、単なる猫耳萌えのゆえである、という可
能性は、絶対的に否定できるものではないわけだ」
「わかぞーさん、ぬこ飼ってるし?」
「ぬこ可愛がってるし」
「って、そんなこと言ったら、わかぞーさんに対する判決がまた死刑に逆戻り
しちゃわない?」
「なに、物事が一周まわって元に戻ることはよくある話さ」
「おいおい、他人事だと思って……。
てゆーかミミズとかに喩えられたらJanus さん怒るよっ!?」
「しかし彼女はミミズに似ていると俺は思う」
「何でさ!?」
「卓ゲ板に、あるいは土壌に、コツコツと働きかけることによって、Janus 嬢
は板を活性化させ、ミミズは大地を耕す。
一見してウザがられることもあるが、たとえば農業、ガーデニングの世界で
は、ミミズは神様扱いの益虫。Janus 嬢にもそのような一面はあるまいか」
「や、確かにその存在が皆さんの為になっている、という一点では共通してい
ると言えなくもないけど」
「更にJanus 嬢は、地味だ地味だと自称しているものの、こうして単独にSS
が成立するほどの目立ちっぷりだ。
一方のミミズは土中に暮らしており地味なようだが、たとえば雨上がりの公
園など、道のそこここでのたくりまくるほど目立った活動をしている」
「あの、ミミズの場合、あれを称して『目立った活動』とするのはどうかと」
「そしてまた、黒っぽく湿った土の中に隠されているが、ミミズは可愛らしい
ピンク色の身体。
同様に、黒っぽくかっちりした服に隠されているが、Janus 嬢も可愛らしい
ピンク色の」
「わーっ! わーっ! ここ地上! そーゆー不穏当な発言は地下スレ逝って
からにしろーっ!」
「ん? 可愛らしいピンク色の洋服がきっと似合うに違いない、と言いたかっ
ただけだが?」
「……ごめん、地下スレへは一人で逝ってくるよ……」
・・・・・おしまい。
以上、夢にまで見るほど卓ゲ板にハマっているようじゃあ、リアルの生活は
覚束ないよなぁというお話でした。
613 :
NPCさん:2006/05/26(金) 21:30:46 ID:???
日本語でおk
614 :
NPCさん:2006/05/27(土) 00:27:27 ID:???
>>606 いっそのことネコミミ標準装備でもおkな何人いるかアンケートを取ってみては?
ちなみに漏れはおk
615 :
Janus:2006/05/27(土) 02:36:41 ID:???
>605
(銃を抜いて全弾叩きこもうとするが)
(だが、一瞬遅かった)
・・・逃げましたか。
>606-607
全く、そんな冗談ばかり言って・・・
え? 「AVのスカウトっぽい?」
・・・なるほど。606さんにはそのような魂胆があったわけですね。
>611
この私に「可愛らしいピンク色の洋服」?
似合いませんそのような、生足スリットの高尼僧服など! 某ROのやりすぎです!
そしてもう一人は地下スレ逝きの発想? 逝くなら地獄へ逝ってください!
>614
反対一人。
従って、そのような現実から遊離した非倫理的な妄想は否決されました。
616 :
NPCさん:2006/05/27(土) 02:43:42 ID:???
あはー。わかぞーだよー。ねこみみはね。
あれは勝手に梨銘がつけたんだよー。だからぼくははんたいなのー。
ねこ耳標準装備いくない! はんたい! だって早川先生に怒られるもん。
じゃなくて。いつも装備の標準装備だったら、
二人のときにこっそりつけてもらうのがなくなるもんっ! ひとりじめっ。
>>610 あはははは。正解なのだー。
ねこ耳はね、付けさせたいから付けさせただけなんだよー。
あ、あのっ。もちろん梨銘がだよー? ぼくじゃないよー。
でも萌えイメージってあるよね、モチーフっていうか。
やぬすさんは、すっごい人見知りする生真面目な小動物。ナキウサギとかねー。
澪は(以下略
あと、ミミズのえっちは(以下略
>>605 そんな場所で自涜ですか(どきどき)でも勉強になるのだ(めもめも
>>600 やぬすさんはかわいいので、みんなのアイドルなのです。です。
>>598 正解
>>596 は、はぃー(正座) わ、わかりました、絶対書きませんっ(書きかけを破きながら)
そうですよね。やぬすさんがそんな淫らな行為に耽るわけないですよねっ(正座
ねっ。
617 :
(゜∀゜):2006/05/27(土) 10:18:52 ID:???
>>615 えー、AVなんかにスカウトしないよー。
そしたらみんなに見られちゃうじゃん。
カワイイ娘は独り占めするのが男の願望だものー。
でもネコミミはやっちゃんならオッケー。
>603
『何って、ナニ?』
619 :
NPCさん:2006/05/27(土) 10:52:43 ID:???
真っ赤になって否定しているからなぁ。
何を想像しているのか気になるな。
真っ赤になっちゃうあたりほんとにやぬっぱは可愛いよな。
生足スリットの高尼僧服って何?
621 :
NPCさん:2006/05/27(土) 15:57:44 ID:???
「RO まぐろ」でぐぐれ。出てこないけど。
ラグナロクオンラインの職業の中にそういうのがあるらしいよ。
そうエロいやつ。やっぱりやぬきゅんはエロいな。
622 :
Janus:2006/05/27(土) 22:52:05 ID:???
>616
全ては梨銘のせいだというのですか?
わかりました。それでは彼を、中の人である若造さんごと処刑します。
それに、誰が可愛いアイドルだというのです一体!?
しかも私が自涜するのが正解? そ こ に 直 り な さ い ! !
>617
>カワイイ娘は独り占めするのが男の願望だものー。
なら、私みたいな地味コテなどAV送りというわけですか。
あなたには・・・不犯の生涯を・・・送る必要が・・・あるようですね・・・
>618
だから何とかナニとか言って描写を避けるそれは、一体何なのですか闇おりん!?
>619-620
悪いですか? 怒りと憤りに顔を真っ赤にして必死の形相で反駁することが、そんなに悪いことなのですか?
>620
誰がやぬっぱです誰が!
可愛くないですこの私、通常で尋常で平凡な一般的俗人であるこの私は!
>621
誰がやぬきゅんです誰が!
あの装束がえちぃかろうとえちぃくなかろうと、私みたいなどこにでもいるごく普通のぱっとしない転生二次職持ちが身に纏うことはないのです!
623 :
聖騎士:2006/05/27(土) 23:02:34 ID:???
じゃー生涯不犯のオレはわかぞー閣下に
新しいSSをお願いしても良いってことかしら。
わかぞー閣下、今後とも何卒(Januたん含めた)皆をドキドキさせる作品を
好きなペースでお書きくだされぃ。
>やぬ
いや、悪くないよ、全然悪くない。
そう、悪くないんだ。
625 :
(゜∀゜):2006/05/28(日) 03:54:23 ID:???
>>622 ひどい。俺様、女の子は誰であれ売り物にはしないよ。
「私・・・・(゜∀゜)君が言うほど・・・・可愛くありません」とか
「・・・・・どうして・・・・・私なんですか? 他にも・・・・たくさんいるじゃないですか。魅力的な女(ひと)・・・」とか
「そんなこと言って・・・。みんなと同じで(゜∀゜)君も私をからかっているんです」とか
「・・・・・ほ、本気なんですか・・・・」とか
「こ、後悔しますよ。・・・・ぜ、絶対。私・・・可愛くありませんから」とか
「性格だって・・・スタイルだって・・・洋服だって・・・・地味ですから・・・」とか
「・・・・・・本気・・・・なんですね」とか
「・・・・ほんとに・・・・ほんとに・・・・わ、わたしで・・・いいのですか?」とか
「後悔しない?」とか
妄想するだけですたいっ!!
626 :
NPCさん:2006/05/28(日) 12:15:23 ID:???
>>625 それいいわ。漏れの心にもスマッシュヒット。
627 :
NPCさん:2006/05/28(日) 19:31:44 ID:???
漏れの股間にもスマッシュヒット。
よし、ここはあえてわかぞーを襲うか。(腰をフリフリ)
628 :
(゜∀゜):2006/05/28(日) 22:59:32 ID:???
ばんざーい。少なくとも二人にうけたー。
しかもえっちいのなし。キャラもくずしてなし。
やりー
629 :
NPCさん:2006/05/29(月) 15:07:49 ID:???
やべえ、(゜∀゜)を襲いたくなってきたぜ。
とりあえずバックげとして、そのまま後ろから抱きしめよう。
630 :
(゜∀゜):2006/05/29(月) 20:56:15 ID:???
とりあえず、男ならお断り致します。
631 :
柊×ベル:2006/05/29(月) 21:52:24 ID:???
次号妄想
アンゼロット宮殿、その中を悠々と歩くポンチョをつけた女性。
「おっおのれ我が宿敵ベール=ゼファーよくもぬけぬけと……」
そう言ってマスクの男が襲い掛かってくるが、あっさりと弾き飛ばされる。
「何故あなたがここにいるのです?というか柊さん!貴方がいながらなんでここに連れてくるんです!」
アンゼロットがそう言って、キーキーうなる。ウィザードからはコグレロットモードといわれるモードに入っている。
ちなみに誰が言い出したかは不明だ。
「あら、私があなたと話をしたいといったら連れて来てくれたわ。この事態が嫌なのはお互い様でしょ?」
そう言って妖艶に舌をペロリと出す。
「貴方が、事件の解決を手伝うと、信じて良いのですか?」
「ええ、エミュレーターの中にも私達の存在を忘れ始めてるのがいるからね…面倒で仕方ないのよ」
それに、一番私の事を忘れて欲しくない人物がウィザードにいるからね。
心の中でそう呟く。
アンゼロットに睨まれて目を泳がせている魔剣使い、幾多の世界を救ったまさに英雄。
そうですとも、彼に私の事を忘れられたら、ちょっと悲しいわ。
この下らない三文芝居を終わらせて、
私の作った大きい舞台(月匣)の上で、赤いライト(月)を背中に浴びて、
血と命を対価としたダンス(戦い)をしましょう。
ねえ、柊蓮司(愛しい人)。
632 :
NPCさん:2006/05/31(水) 12:28:13 ID:???
>631
GJ!
連載終わった後でもいいんで
そのダンスの話を書いてくれるとスゲェうれしい。
633 :
Janus:2006/05/31(水) 21:25:36 ID:???
>623
聖騎士さんが生涯不犯であることに異議を唱えるつもりはありませんし、若造さんに新しいSSの執筆を依頼することも良いとしましょう。
ですが・・・誰がJanuたんだというのですか一体? 悔い改めてくださいその性根、撤回してくださいその妄言!
>625-627
そんな皆さんには、正義の鉄槌がスマッシュヒットします!
>630
つまり、629さんが何者であれ女性であれば、背後から抱きすくめられても拒絶しない、と・・・
『闇とはひどいなぁ』
『わからないから聞いているんじゃないか』
『なの』
635 :
(゜∀゜):2006/05/31(水) 23:10:25 ID:???
>>633 いや、女性だったら体力的に勝っているから背後から襲われても大丈夫・・・と思っていた。
・・・なにを想像したのかなぁ〜(゜∀゜)〜♪
636 :
(゜∀゜):2006/05/31(水) 23:11:55 ID:???
ところで何で「625」が駄目なの?
637 :
NPCさん:2006/06/01(木) 00:39:54 ID:???
>そんな皆さんには、正義の鉄槌がスマッシュヒットします!
ボ、ボク男の子だよ? それでもいいの?
……う、うん、わかった。けど、えーと…・・・やさしくしてよね?
638 :
(゜∀゜):2006/06/01(木) 21:43:39 ID:???
(゜∀゜)とヤヌやぬ
ヤヌやぬ 「正義の鉄槌、受けてみなさいっ!!」
(゜∀゜)「わくわく・・・・・・・・・・・・あれ」
ヤヌやぬ 「?」
(゜∀゜)「変身しないの?」
ヤヌやぬ 「(赤面しながら)しませんっ!!」
639 :
NPCさん:2006/06/01(木) 21:45:03 ID:???
>>638は、ヤヌやぬについて書いたのでありJanusなる平凡で善良な一コテとは全く関係ありません。
640 :
(゜∀゜):2006/06/02(金) 20:30:38 ID:???
えー、
ヤヌやぬ は ヤヌたん で やぬやぬ と 同じだよー。
641 :
NPCさん:2006/06/03(土) 15:52:58 ID:???
う〜、熱くて痛いよ〜……頭が
やぬちゃんは、やぬちゃんだよね?
642 :
NPCさん:2006/06/03(土) 16:06:11 ID:???
もちろん、やぬちゃんとJanusは無関係だよ。
643 :
NPCさん:2006/06/03(土) 16:22:29 ID:???
ではヤヌちゃんはネコミミをつけても大丈夫と・・・
644 :
NPCさん:2006/06/04(日) 15:33:14 ID:???
わかぞーのSSはあの駄コテ板の杉井ので終わりなの?
645 :
Janus:2006/06/04(日) 19:05:50 ID:???
>637
何を想像しているのですか? ねえ何を想像しているのですか?
>638
誰がヤヌやぬです誰が!
必要ないです正義の裁きを下すのに、変形スク水コスへの変身など!
>639-643
そんな言い訳が通用すると本気で信じているなら、ちょっと常識をしらなすぎです(苦笑)。
646 :
NPCさん:2006/06/04(日) 19:35:20 ID:???
>>645 >何を想像しているのですか?
知りたい?
647 :
Janus:2006/06/04(日) 23:16:16 ID:???
>646
興味ありません!
(何か言いかける646を制して)
萌えバナは好きですが、それより優先することがあります。例えばそれは、風紀というものです!
私の名はJanus、劣情を粛清する健全コテハン!
迷惑千万ですこの禽獣!
あなたの選択は二つに一つ、
A 制裁を受けて縛に付くか、
B 縛に付いて制裁を受けるかです!
648 :
NPCさん:2006/06/04(日) 23:18:18 ID:???
やぬたんはエロいなぁ。
縛っておしおきなんて。
649 :
NPCさん:2006/06/04(日) 23:44:21 ID:???
あるいはお仕置きしつつ縛るかだなんて。
650 :
NPCさん:2006/06/05(月) 00:11:33 ID:???
(スカートをおずおずとたくし上げながら)
…できの悪いこのNPCめに……お、お仕置きしてください…・・・。
651 :
(゜∀゜):2006/06/05(月) 00:34:56 ID:???
「ふふ・・・いい覚悟ですね。」
Janusは微笑むと『650』の手首を後ろ手にねじりあげ、すばやく縛っていく。
その縛り方は手馴れており、屈辱と痛みを効果的に与える匠の技だった。
Janusが力を入れずとも、『650』の動き自体で緊縛の痛みは増していき、
『650』の肢体は自らの罪で縛られ、責められ、罪を清めるのだった。
「い、いたい。」
「痛い?」
Janusは『650』を縛る手を止めると、にっこりと『650』に笑いかけた。
「傷ついたのは私の方です。私でいったいどういう妄想をしたのですか???」
Janus・・・ローマ神話で二つの顔をもつ神。
「ゆ・・・ゆるして」涙ながらに訴える『650』。
「許しません」
Janusの顔・・・それは二面性、人を騙すという意味にも使われる言葉。
罪人の悲鳴が部屋にこだました。だがそれで罪が消えるわけではない。
神は・・・ローマの神々は、愚かな人間には無慈悲だから・・・・。
652 :
(゜∀゜):2006/06/05(月) 00:38:10 ID:???
風紀を守るのもたいへんだなあ。
653 :
NPCさん:2006/06/05(月) 00:45:42 ID:???
あはー。
C 縛について制裁を受けてえちぃSSを書いて制裁をうけて縛につく
小官もエロいSS描いたら縛ってもらえるかなあうへへ
655 :
NPCさん:2006/06/05(月) 01:07:46 ID:???
656 :
NPCさん:2006/06/05(月) 01:49:45 ID:???
そうか。やぬたんの劣情を伴わない萌えバナを書けばいいんだ。
657 :
NPCさん:2006/06/05(月) 01:54:49 ID:???
萌えとはつまり劣情の一形態であると誰かが言っていた。気がする。
やぬきゅん萌え。やぬたん激萌え。
658 :
NPCさん:2006/06/05(月) 11:46:52 ID:???
やぬちゃん、本当にいつも頑張ってるよね
うん、可愛いと思うよ、わたし?
659 :
NPCさん:2006/06/05(月) 13:35:23 ID:???
>>657 おい、_NPCともあろうものが間違いを犯すな。
「きゅん」はオトコニョコにつける萌え敬称だっ。
660 :
NPCさん:2006/06/05(月) 14:43:50 ID:???
間違えたつもりは一切ないな。君シュレディンガーの猫の話を思い出してみ給えよ。
スカートの中を観測するまで、あるのか、ないのか、あるいは両方ついてるのか、わからないじゃないか。
661 :
NPCさん:2006/06/05(月) 15:12:26 ID:???
>>660 つまり、やぬたん(きゅん)はスカートをたくし上げなくてはならないわけだな!
662 :
(゜∀゜):2006/06/05(月) 18:47:00 ID:???
やぬちゃんは女の子だよ。
パンツ見たさにいいがかりをつけてはいけない。
663 :
Janus:2006/06/05(月) 23:40:50 ID:???
>648-649
誰がやぬたんです誰が!
えちくないですこの私、厳粛清廉ですこの捕縛と制裁!
>650
な、なんてはしたない!
孤閨に耐え切れず、寂しさの余り、その・・・「求めてしまう」ことを責めはしませんが、せめて地下でやってください。
(゜∀゜) さんとか(゜∀゜) さんとか(゜∀゜) さんとかが、盛りの付いたオス犬のように、あなたの望むことをやってくれるでしょう。
>651
以下のエラッタを適用してください。
誤:650
正:(゜∀゜)
>656-662
一つ、はっきりさせておきましょう。
通常の慎みある一般人である私は、やぬたんでもやぬきゅんでもやぬちゃんでもありません。
い い で す ね ! ?
>660
つまり、
「一般人の服の下、知りたい?」
「興味あり!」
ですか?
・・・なるほど、そっち方面ですか。
本格的な禽獣ですね。いいでしょう、制 裁 し て あ げ ま す ! !
>661
な り ま せ ん ! !
おっ するするスルーですかやぬきゅんは。
よーしちょいと同人誌で忙しいが一丁がんばってみっかな!
665 :
NPCさん:2006/06/05(月) 23:45:50 ID:???
ドルフの頑張りは、斜め上とか左下とかにいくから困る。
666 :
NPCさん:2006/06/05(月) 23:50:20 ID:???
>>664 あはー。わかぞーだよー。
うわーん、ぼくもスルーされたんだよー。
こうなったら初のコテ本をコピー誌でつくってドルフさんに委託だよ。
両A面マキシ状態なんだよー。
667 :
NPCさん:2006/06/05(月) 23:54:52 ID:???
言ったからにはやれよ、わかぞー。
そして続きはまだーというか、どこーというか。
どうなってるんだ?
わー、どっちもがんばれー!
669 :
NPCさん:2006/06/06(火) 08:16:53 ID:???
同人誌だとぅ。おのれ都会者どもめ、わしが首都圏から遥か離れた僻地に住まうを知っての所業であるな。
許せぬ許せぬ、ええい許せぬ。とらとかに委託してくださいお願いします。
>663
えー、ならないのー?
――ふむ、そこまでひた隠しにせねばならんとは、そのひらひらスカートの下
よほどの秘密があると見た。くふふ、隠し立て叶うとおもうてか! キシャー!
670 :
NPCさん:2006/06/06(火) 10:17:18 ID:???
無茶しやがって…(AA略
671 :
NPCさん:2006/06/06(火) 10:51:03 ID:???
調子に乗っているところを悪いが、そろそろ作品が読みたい。
_NPCさんはもういいよ。厨スレとか、いつものスレでやってくれまいか。
672 :
アマいもん:2006/06/06(火) 11:36:28 ID:???
澪『あのね』『みなごろしがいい!』『なの』
Janus「そうですね。では、みなごろしにしましょう」
ダガー「オレァ半ごろしのほうが好きだなぁ」
わかぞー「……(((( ;゚Д゚)))」
こうですか! わかりません!
673 :
罵蔑痴坊:2006/06/06(火) 14:29:16 ID:???
ふむう、では投下してみようかにゃー
過去の遺産だから手直しの時間が必要じゃが…
674 :
NPCさん:2006/06/06(火) 15:56:01 ID:???
>671
あ、うん。ごめんね。
675 :
NPCさん:2006/06/06(火) 19:34:42 ID:???
>674
謝らなくていいから何か書け
676 :
Janus:2006/06/06(火) 19:42:51 ID:???
>664,666
私みたいなどこにでもいるごくありふれた平凡な一般人をネタに同人誌を作成?
な、何を考えているのですか一体! 駄目です駄目です駄目です絶対に、たとえ日が西から昇ろうとも!
万が一断行したら、没収で焚書で坑儒ですから!
>669
そんなにスカートめくりが好きなのですか?
・・・まるで幼稚園児ですね。単分子チェーンソーで、体重や身長も幼稚園児並にしてあげましょうか?
677 :
NPCさん:2006/06/06(火) 19:44:43 ID:???
調子に乗っているところを悪いが、そろそろ作品が読みたい。
Janusさんはもういいよ。厨スレとか、いつものスレでやってくれまいか。
678 :
NPCさん:2006/06/06(火) 19:58:04 ID:???
別にやぬっさんが作品をうpするのを妨げてるわけじゃなかろう。
誰も書いてないだけで。
679 :
NPCさん:2006/06/06(火) 19:58:48 ID:???
>>677 Janusさんの作品も載るんだから大事に扱いたまえ。
680 :
NPCさん:2006/06/06(火) 20:03:02 ID:???
なんだかdjな。スレを無駄遣いするのは止めた方が良いとおもうが。
681 :
NPCさん:2006/06/06(火) 20:20:05 ID:???
これも作品の一つだ。「おやくそく」という奴だよ。
682 :
NPCさん:2006/06/07(水) 00:47:24 ID:???
>675
うん、そうだね。ごめんね。
>676
うん、大好きなんだ。ごめんね。
>680
そうだね、容量は大事だものね。ごめんね。
683 :
罵蔑痴坊:2006/06/07(水) 06:35:41 ID:???
HDの奥から引っ張り出してみたが、こりゃまた…ううむ
4年前か…当時はよほど暇だったのかな、俺
ちなみにブツはビーストバインド(旧)のセッション模様をSS風にアレしたやつ
手直しするのもなんなので、改行だけ弄って投下してみんとす
現在の視点でおかしな部分は後ほど一括で注釈入れていこう
684 :
罵蔑痴坊:2006/06/07(水) 06:42:51 ID:???
アルト(其の一)
彼女と死体の奇妙な関係
アルトという名前は彼女がつけたものではない。
生まれついての野良猫で、あちこちの街角でもらった名前の中で、気に入っていたというだけのものだ。
彼女はアルトのお気に入りだった。
他の人間達のように、やたら抱き上げて耳元に甲高い声で「かわい〜」などと喚いたりはしないし、むやみに餌をちらつかせ自分を飼いならそうともしなかった。
アルトが訪ねると彼女はいつもその家にいて、自分を招き入れてくれた。
何も言わずに食べ物を用意して、ただじっとこちらを見つめてきた。
最初は居心地が悪かったのでたまにしか来なかったのだが、そのうち当たり前のように通うようになった。
「猫は他の連中のように、軽々しく主人を決めたりはしないものよ」
母親はよくそう言ったものだが、彼女だったら御主人様にしても良いとさえ思えた。
彼女にはアルト以外に家族と呼べるものはいなかった。
その家に他人が訪ねてくることもなく、電話がかかってくることもなかった。
だが、それすらも理想的な条件だった。アルトにとっては彼女さえいれば幸せなのだから。
別れは唐突に訪れた。
ある雨の日にアルトは死んだ。
少なくとも肉体的には。
濡れるのを嫌い、塀の隙間から飛び出したところを車に轢かれてしまったのだ。
そこを渡りきれば、彼女の家だったというのに。
音を聞きつけたのか、彼女が玄関から裸足のまま駆けつけた。
恐る恐るアルトの体に触れて、そっと抱き上げた。
四肢が力なく垂れ下がり、急速に体温が失われていく。
彼女は理解不能の色を瞳に浮かべており、明らかに目の前の事態を飲み込めていなかった。
「なあんだ、アルト死んじゃったんだ」不意にかけられた声は幼い子供のものだった。
「しんだ・・・?」
彼女は通りすがりの小学生を振り返った。
「見りゃ判るじゃん。あーあ、生意気だからいつかとっ捕まえてやろうと思ってたのに」
「この子を知ってるの・・・?」
「この辺じゃゆーめーだよ。クロとかジジとか呼んでも反応しないのに、誰かがつけたアルトって名前にだけは振り向くんだもん」
685 :
罵蔑痴坊:2006/06/07(水) 06:47:53 ID:???
「アルト・・・この子の名前・・・」
呟く彼女に男の子が訊いてきた。
「どこかに埋めてお墓でも作ったほうが良いんじゃない?」
「おはか・・・?」
「おねーさんが飼ってたんでしょ。
あ、いや、なんとなくそう思っただけだから、違うんならほけんじょに電話して始末してもらえば良いんだけど」
子供ながら、さすがにその女性の様子がおかしいことに気付き、彼はそそくさとこの場を立ち去った。
取り残された彼女は、やがてアルトを抱いて玄関へと戻っていった。
後にはただ血痕だけが残り、それもやがて雨に消されてしまった。
「猫には寿命なんてないのよ。すきなだけ生きてすきな時に死ねるわ。
もしも死んでも、退屈だったら生き返っても良いかもね」
母親がよくそう言っていたのをアルトは思い出していた。
(僕は、まだ死ねない。死にたくないんだ。彼女ともっともっと一緒に居たいんだ)
その願いに応えるものがいた。
暗き深淵から力が湧き上がってきた。
しかし、それが何者なのかはわからなかった。
途切れた意識がつながったとき、アルトは既に土の下にいた。
最初はとても混乱し、かつ、困ってしまったが、慣れというのは恐ろしいものである。
頭上にあった石を介して周囲の状況を知覚できるようになり、そこでアルトは自分が死んでしまった後に何が起きたのかを理解した。
そこは彼女の家の玄関の脇だった。
あれから何ヶ月か経っているらしく、季節が変わっていた。
埋葬されて、墓まで建てられている。
つまり、彼女にとってアルトはもはや、死体でしかないということになる。
多分、とアルトは思いをめぐらせる。
ここで墓を抜け出せば、生きて彼女と再会できるだろう。
だが彼女にとって、その猫はアルトではない別の猫なのだ。
しかし死体のままならば、彼女は自分を心に留めておいてくれるのではないだろうか。
686 :
罵蔑痴坊:2006/06/07(水) 06:51:33 ID:???
こうして、奇妙な生活が始まった。
彼女はしばらく落ち込んでいたようだが、また何事もなかったかのように日常に戻っていった。
とはいえ仕事もせず、人とも会わずにただひっそりと隠れるように暮らすだけだったが。
ただ、アルトの墓だけは欠かさず手入れされていた。
しばらくしてから、アルトは彼女の名前すら知らないことにいまさら気付いてしまった。
表札すらないその家には誰も訪ねてこないのだから、当然といえば当然なのだが。
しかし、アルトの死から一年が経とうかというある日のこと。
その家に訪問者が現れた。
フードをすっぽりかぶった陰気な男。
当然のように出迎えた彼女に二言、三言何事かを囁いている。
アルトにかろうじて聞き取れたのは「ゲームが始まる」という一言のみ。
男が去った後、アルトの墓を見つめる彼女の顔には深い悲しみと苦悩が浮かんでいた。
ありえないことがおきようとしていた。
彼女が家の中を片付け始めたのだ。
まるでしばらく帰ってこないかのように。
生活臭のない家はあっという間に片付き、出発の準備が整った。
家の前に止まったタクシーに彼女が乗り込むのを見送りながら、アルトは言いようのない不安に襲われていた。
彼女はもう、帰って来ないのではないか?
死体は死体らしく墓に埋まっているべきだろう。
しかし、彼女を助けられるのは自分しかいないというのは直感的にわかっていた。
(カラスと保健所に気をつけておかないとな)
彼女はタクシー、電車と次々に乗り換え目的地に向かって進む。
彼女の乗った乗り物の運転手たち、同乗者たちは、今日に限ってやたら猫の死体を見かけることに気付き、もしかして首を傾げたかもしれない。
それも、すべてが黒猫だということに。
たどり着いたのは山奥の洋館だった。
まるで人が足を踏み入れたことがないかの様に荒れ放題の表道に、先日の雨の名残か足跡がひとつあった。
そこを彼女が洋館に向かって進む。それを見送りながらアルトは悩んでいた。
(どうやってあの中に入ろうか・・・)
687 :
罵蔑痴坊:2006/06/07(水) 06:56:54 ID:???
しばらくして館から物音がし始めた。
時折、窓に彼女らしい人影が映るが、その姿から察すると掃除をしているようだ。
とりあえず、危険な事をするために来た訳ではなさそうだと安心するが、それでも内側の様子が気にかかる。
そこに、下山中らしい少年たちの集団が通りかかった。
(・・・今の僕にならできるかもしれないな)
少年の中の一人の姿を頭に刻み込んで、アルトは機会を待つことにした。
次の日の夕方、屋敷の扉が遠慮がちにノックされた。
彼女は命じられたとおり<参加者>を出迎える為に扉を開ける。
しかし、そこにあったのはあどけない少年の姿だった。
薄汚れた黒い服を着ており、その肌は死人のように白い。
特徴的なのはどこか猫を思わせるその瞳である。
「あのっえーと、こんにちわ」
「この館に御用ですか?
失礼ですが、招待された方でないとお迎えする訳にはいかないのです」
その少年は彼女の姿に少し驚いているようだった。
確かに純正のメイド服などというのは、今の日本では漫画かアニメでしか見られない物だろう。
「でもあの、困ってるんです。仲間とはぐれちゃって。
一晩だけで良いんです。できればここに泊めてもらえませんか?」
本来ならそれは許されることではないのだが、なぜか彼女は答えてしまう。
「・・・仕方ありませんね。一晩だけですよ?」
「あ、ありがとうございますっと、うわ!」
少年の腰の後ろで何かがぴょこりと跳ねたようだった。
「? どうかしましたか?」
「えと、な、何でもない、です」
何かを押さえつける様な仕草で彼は答える。
念のため覗いてみるが、何かがいるような気配はない。
「では、こちらへどうぞ」
少年を二階の個室に案内する途中で、彼女が館に来るより先にたどり着いていた女性とすれ違う。
「あら、もしかしてその子も参加者なの」
その女性は雰囲気こそ物静かだが、彼女とはどこか違っていた。
立ち居振る舞いに隙がなく、何か緊張感のようなものがあった。
688 :
罵蔑痴坊:2006/06/07(水) 07:01:46 ID:???
彼女は一礼して、無言ですれ違う。
少年のほうは警戒しているのか、女性の姿が見えなくなるまで背中を見せないように進んだ。
「この部屋を使ってください。
何か御用でしたら私に申し付けてください。一階の玄関右側が私の部屋となっております。
・・・ところで、あなたのお名前は?」
「え?
な、名前はそのっアル・・・じゃなくて、あか、し、です。
そう、赤獅」
まるで今思いついたかのように、赤獅少年は告げる。
「三毛、はまずい。
そうだ、みか・・・です。赤獅 三果」
「・・・では赤獅様。退屈かもしれませんが、館の中はなるべく歩き回らないようにしたほうが良いかと思います。
・・・危険、ですので・・・」
「わ、分かりました。気をつけます」
戸を閉めて彼女が立ち去ると、少年は押さえつけていた腰の尻尾から手を離し安堵のため息をつく。
彼はアルトの変化した姿だったのだ。
「まあ、上出来・・・かな?」
アルトの母親はよく言ったものである。
「猫にとって姿かたちなんてどれほどの意味があるのかしら?
でも人の姿への変化ぐらいは猫のたしなみというものよ。
なぜって、人間を化かすのに都合が良いからよ」
それにしても、自分の意思と関係なく、尻尾が感情で跳ねるのは何とかならないのか。と、つくづく思う。
猫の姿のときはそれが自然だったのだが、この姿では不自然極まりない。
「とにかく、ここがどんな所なのか探らなくっちゃ」
彼女の忠告も忘れ、アルトは館内の探索を始めた。
こういう時こそ猫の人生経験が役に立つ・・・かと思いきや、二階の十二の客室には人の気配がほとんどなく、一階の部屋には鍵のかけられているものばかり。
二階にある部屋の一つからは、先ほどすれ違った女性と思われる気配がするので、この館にいるのはアルトを含めて三人ということになる。
「ほう、これは珍しいお客が紛れ込んだものだな」
その声は全く唐突にかけられた。
確かに先ほどまで誰も居なかった廊下に、今までずっとそこに居たかのように男がたたずんでいた。
689 :
罵蔑痴坊:2006/06/07(水) 07:04:01 ID:???
「まあ、ゲームの開始まではまだ時間がある。
それまでは何をしていようが勝手だしな」
屋内だというのにフードを目深にかぶり、表情もよく見えない。しかしその姿。
その陰気な声にアルトは覚えがあった。
(こいつは彼女を呼び出した・・・!)
得体の知れない男はそのまま何事もなかったかのように、部屋の一つに入っていった。
最初に会った女性の部屋の隣だ。これで、四人。
(今はもう、これ以上何も分からない。
情報が少なすぎる。状況が変化しないと・・・)
次の日の朝方、訪問者が二人現れた。どうやら正式な来客らしい。
アルトは自分の部屋にあった筆記用具で書置きを残した。
そして自分は天井裏に登り、変化を解く。
「赤獅様。・・・赤獅様? 失礼いたします」
メイド姿の彼女がやってきた。実際ここでの仕事がメイドなのだろう。
彼女は部屋の中に少年の姿がないことに驚き、続いて書置きを発見した。
(ありがとうございました。もういきます)
「よかった・・・」
それを読んで彼女は安堵したようだった。
その書置きを胸元にしまいこみ、部屋の片付けを始める。
ベッドがまるで使われていないことをしばらくいぶかしんだが、やがて次の来客者を迎えるために出て行った。
(彼女はこんなところに居ちゃいけない。
なぜだか分からないけど、彼女をここから救い出す。
それが僕の使命なんだ)
アルトは決意を固めると、再び機会を待った。
天井裏の闇の中で。
アルト(其の一) 了
690 :
罵蔑痴坊:2006/06/07(水) 07:35:27 ID:???
アルト(其の一) 解説
・アルトのアーキタイプ構成
バステト専用の人の姿「猫」に人間アーキタイプ「死せる者」をハイブリッドしたもの。
旧BB公式掲示板に投稿されたネタより拝借。
・生前の“彼女”との関係(>684-685)
ほぼ筆者の創作。“彼女”とは飼い主の絆を結んである。
・>母親がよく言っていた
おばあちゃんではないです。惜しい。
・>彼女を助けられるのは自分しかいない(>686)
SAだろう。セッション記録が残ってないので、この手の描写から推測してみるのも一興。
・>純正のメイド服などというのは〜云々(>687)
メイド喫茶の実現なんて予測できるかw
・>許されることではないのだが、なぜか彼女は〜(>687)
絆判定でお願いしたのだろう。
・アルトの外見(>688)
業:人間変身。尻尾は変異によるもの。
というか、これが無いとまともにセッションに参加できないw
・アルトの偽名(>688)
たしか、本気で考えておらず、とっさにでっち上げたはず。
・隠れる(>689)
PCの合流を阻害するため、本来ならあまり推奨されない行為。
BBの思想としても、他者と掛け合いをすることで罪や愛を稼ぐのが本来の姿勢。
ただ、このセッションでは予め「館でのバトルロワイヤル」と予告されていた。
戦闘力に欠ける探索系PCとして、見に回ったのである。…と自己弁護w
691 :
罵蔑痴坊:2006/06/07(水) 07:53:01 ID:???
涼士(其の一)
不可解なゲーム
警視庁資料編纂課。
名前どおり資料を編纂するだけの閑職で、問題のある警察官に仕事だけを与えておくためのリストラ前線基地。
そこに送られた者は、死んだも同然となる事から<死霊課>のあだ名で知られている。
・・・そう、表向きには。
魔物。世界の夜に住まうものたち。
かつては人の側と闇の側には明確な境界があった、・・・いや、無かったと言うべきか。
人の側は闇の側のほんの一部に過ぎなかったのだから。
人は増えすぎた。人は科学を妄信しすぎた。人は世界の夜に踏み込みすぎた。
そして境界は破られる。
当然おきる問題は、作り上げられてしまった常識や日常という名の幻想を打ち砕く。
しかし、いまや人の側にとっては、その幻想こそが守るべきものなのである。
魔物の存在は世界の闇の側においてのみ許される。
人間にとって存在してはならない、無かった事にしなくてはいけないものなのだ。
「こら高瀬ぇ、なんだ今日のあの有様は。
今日の仕事は奴さんにあのシマを退散願うのが目的だっただろうが。
それをいきなり発砲しやがって。
しかも撃ったら撃ったで当たりゃあしねえし」
死霊課の一室での説教。
されている側はまだ経験の浅い若手課員のようだ。
「すんませんです、先輩。
でもほら、あいつ説得とか効かないですし」
「そりゃ、おめえの勝手な判断だろうがよ。そら、始末書だ」
「(平和を守ってこれじゃ割に合わないよなあ)」
「何ぶつくさ言ってやがる。今日中に提出しとけよ!」
ベテラン課員はそう言い捨てて部屋を出て行く。
高瀬と呼ばれた若者はがっくりとうなだれた。
高瀬 涼士巡査。
日本の魔的治安を守る秘密組織<死霊課>の一員でありながら、彼には更なる秘密があった。それは・・・
692 :
罵蔑痴坊:2006/06/07(水) 07:56:37 ID:???
「おっと忘れるところだった。高瀬ぇ、課長が呼んでるぞ」
「は? 課長って一体・・・」
「課長っつったら、資料編纂課課長だろ。うちのボスだよ。」
「へ? ・・・ええーっ!?」
課長室の扉が遠慮がちにノックされる。
「入りたまえ」
応えて入ってきたのは恐縮しきった若手の課員だった。
「きみが、高瀬 涼士君か。いろいろと活躍は聞いているよ」
それを聞いて、若者の体が一瞬震えた。
「あの、よろしいでしょうか?」
「何だね」
「もしかして、俺、クビですか?」
「ああ、勘違いさせてしまったようだな。
私が言っているのは君の<もう一つの活動>のことだよ」
今度こそ、彼の動きが凍りついた。
「まあ、こちらとしても助かっている部分が大きいので、何も言わないでおくとして、だ。
そんな君の能力を見込んで、ある特別な仕事を受けて貰いたいのだが」
つまり、こう言っているのだ。黙っていてやるから手伝え、と。
「今渡した資料の人物が、明日、君の自宅に訪ねてくるはずだ。
仕事はその人物に関することだ」
覚悟を決めたのか、高瀬巡査はじっとこちらの言葉を聞いている。
これから告げる命令は、今の彼にとっては矛盾する不可解なものだろう。
しかし、今告げることを許されているのはこれだけなのだ。
「その人物が目的を果たすまで同行し、傷付けないように護衛をしてほしい。
そして、万が一その人物が危険だと判断されたときには、・・・その人物を殺せ」
案の定、しばらく彼は混乱した顔つきで今の命令を反芻していた。
日本を代表する対魔物組織でありながら、打つ手は気の利かない命令一つのみ。だからこそ、彼の退室際に思わず声をかけていた。
「高瀬巡査、たとえ君が何者であろうとも、私の部下であることには変わりない。
・・・生きて戻ってこい。それだけだ」
うなずいて、巡査は退室する。課長室を沈黙が満たした。
「後は、結果を待つだけか・・・」
693 :
罵蔑痴坊:2006/06/07(水) 08:02:40 ID:???
次の日、涼士の部屋を訪れたのは若い女性だった。
資料によれば月城 朔夜という名前らしい。
クォーターということだが、何人の血かは不明になっている。
「それで、あなたはどういう人なんですか?」
開口一番、訊かれたのは自分がまず訊ねようとしていた質問だった。
呆気にとられていると、さすがに彼女も性急すぎたと気付いたらしく、状況を語り始めた。
「まず私は、今日この住所に住む人を訪ねて同行しろ、としか命令されていません。
高瀬さん、ですよね。
ほら、この招待状のようなものに<・・・なお、護衛役として高瀬 涼士が同行する。本状の届いた翌日に下記の住所を訪ねるべし。云々>って・・」
見せてもらうと、確かにこの家の住所になっている。
だが、なぜ同行するのかという基本的な理由が<護衛役>の一言で片付けられているのだ。
確かに本人に訊きたくもなるだろう。
だが、そもそもその招待状の文章からは有無を言わせぬ意思が感じられた。
省みれば、自分とて何のために今回の任務が与えられているのかは知らされていないのだ。
「この招待状は昨日の朝、郵便受けに直接入っていたんです。
最初はただの悪戯かと思ったんですが、仕事先にいつの間にか長期の休暇届が出ていまして・・・」
朔夜は訳が分からないという様子で頭を抱えた。
「上司に問いただしたら、家族から生き別れの兄が見つかったので実家に帰っている間休ませてほしいと連絡があったそうなんです。
でも、私に家族なんて居ないんです!」
聞きながら涼士は、何か巨大な存在が自分たち二人をまとめて無理やり見えないゲーム盤に乗せようとしている気がしてきた。
それには多分逆らえないだろうし、恐らくゲームが始まれば逃げられない。
<もう一つの活動>のほうで、それは嫌というほど思い知っている。
「でも・・・」彼女は続ける「生き別れの兄が居る、というのは本当なんです。
といっても、最近知ったばかりでまだよく分からないんですけど。
でも、もしも兄に会えるんだったら・・・」
「そのために、この招待を受ける、と?」
「はい。
ですから、その、わがままを言うようですが、高瀬さんに同行していただきたいんです」
694 :
罵蔑痴坊:2006/06/07(水) 08:06:12 ID:???
断れるはずが無い。
たとえ彼女がどんな存在だろうと。
「わかりました。引き受けましょう」
その言葉に朔夜は心底喜んだようだった。
「有難う御座います。
ところで、最初の質問に答えてください。
あなたはどういった方なんですか?」
「いや、その、警察官ですよ。
それもただのダメ警官で。あはは・・・」
対魔物組織などといった所属はともかく、自分の任務の内容だけは絶対に知られてはいけないと思いながら、涼士は笑って誤魔化すことに専念した。
その屋敷はここ数年、人の出入りが全く無かったようだ。
朝霧に煙る山奥の風景に一体化したそれはまさに絵に描いたような洋館であった。
「お待ちしておりました。月城朔夜様と同行者の高瀬涼士様ですね」
ノックの直後に待ち構えていたかのように開いた扉の向こうには、それこそ絵に描いたようなメイドが控えていた。
彼女に導かれて二階の客室に上る途中、鋭い刺の印象の女性とすれ違う。
物静かだが隙が無く、こちらが隙を見せれば逆に一刺しでやられる。
そんな印象だ。
「食事は一日に二度。
食堂でとって頂きますが、もしも軽食をお望みでしたら申し付けてください。
お部屋のほうにお持ちしますので」
説明を終えると、そのメイドは他の部屋へ向かっていった。
どうやら彼女一人でこの館を切り回しているらしい。
「それにしても、何人が参加するんだ?」
朔夜とは当然別の個室だが、何かあったときの為に隣の部屋にしてもらった。
その部屋で涼士は一人呟く。
何のために自分たちが呼ばれたのか、あのメイドは何も知らされてはいなかった。
ただ、この屋敷に何人かの客が来ることは確かで、全員が集まったときに何かのイベントが始まるらしい。
「護衛役。てことは、何かから守らなくちゃならないんだよな」
その日の昼過ぎに、階下からノックの音が響いた。どうやら次の参加者らしい。
(様子だけでも見ておくか)
695 :
罵蔑痴坊:2006/06/07(水) 08:11:51 ID:???
階段に向かうと、ちょうどメイドに導かれて二人の人物が上ってきた。
一人はやたらと高飛車な子供で、もう一人はその執事らしく慇懃な老人だった。
「おい、そこの」
子供がぶっきらぼうに呼びかけてきた。
「え? 俺?」
「お前以外にいるか?
邪魔だ、どけ」
いきなりの事に気圧されて思わず退いてしまう。
すると、その子供が目を細めて優雅に一礼して見せた。
視線の先を追うとそこに、自分と同じく様子を見に出てきたのか朔夜が佇んでいた。
「え・・・? あの?」
どういうことか分からずに呆然としている彼女に、子供は恐ろしく冷酷な声で告げた。
「あなたは僕が手に入れるよ。楽しみに待っていてくれ」
夕方も近くなったころ、再びノックが響く。
苛立ちを抑えながらもう一度様子を見に出てゆくと、なんと今度は涼士の見知った顔だった。
(芝村 刀夜・・・! なぜここに?)
だが青年はまるでこちらを初めて見るような目付きで見返してくる。
思わず声をかけようとしたが、目線で注意を促された。
廊下の端から先ほどの少年が見つめている。
もう一方から屋敷では初めて見る、フード付きマントを被った男がこちらに視線を投げかけていた。
「あとで部屋に来るがよい」
すれ違いざまにそれだけを呟いて、刀夜はメイドの先導で客室のほうへ向かう。
しばらく経ってから刀夜の部屋を訪ねる。
都合のよい事に朔夜の部屋を挟んで涼士の二つ隣だった。
「久方ぶりだな。
まさかお主まで招待を受けていようとは」
「いや、おれはお付で来ただけなんだけどな。
それよりさっきのはどういうことだったんだ?」
刀夜は肩をすくめ
「わざわざ手の内を見せてやることもあるまい」軽く呟く。
696 :
罵蔑痴坊:2006/06/07(水) 08:15:26 ID:???
相変わらず用心深いやつだ、と涼士はあきれ半分、感心半分で確か高校生のその青年を見やる。
と、その手が部屋においてあったメモ用紙に伸びて、なにやら書きつけ始める。
(盗聴を用心して重要な会話は筆談にて行う。よいな)
涼士は今度こそあきれ返った。
とても自分より若いとは思えない。
芝村 刀夜。
かつて一度、ある事件で知り合い共に戦ったことがある。
さる剣士の転生者を自称しており、実際剣の戦闘においてはほとんど無敵と言ってもよいだろう。
さらに彼の家柄というか後ろ盾もかなりの影響力があり、できれば敵に回したくない人物の一人といえる。
(その女性の状況は、私のものとほとんど同じだな。
私も招待状を受け取った日に、勝手に長期の休校届けが出されていた。
一般的な参加者はそういう風に集められているのかも知れぬ)
「まあ、ここまで趣向を凝らされたゲームなら、少しは楽しめるのではないかと思ってな」
状況を整理しながら刀夜は嘯く。
俺もこんな根拠の無い自信が少しは欲しいよ。
などと内心思っていると、またもノックが階下より鳴り響いた。
「今日で四組目か? 千客万来だな。
まあ、待たされるよりは好いか」
様子を見に出ようと部屋を出たとたん、メイドが正面に立っていた。
「夕食の準備が出来ております。
私はただいま来られたお客様をご案内しますので、よろしければ食堂までお越しください。では」
朔夜をつれて一階に下りると、メイドが二人の客を連れて行った。
一人はとんでもない巨体の大男。もう一人はどこか陰気なハーフらしい青年。
一緒に来たようだが同行者ではないらしい。
「客室は十二あるから、あと最大四組まで追加されるな」
「まるで追加が来て欲しいかのような口ぶりじゃないか」
食堂には他の面子が揃っていた。
最初の女性にフードの男、子供と執事に自分、朔夜、刀夜。
続いて、今来たばかりの大男と青年が食堂に現れる。
697 :
罵蔑痴坊:2006/06/07(水) 08:19:39 ID:???
食卓には十人目の席があり、食事も用意されていたがそこには誰もいない。
どこと無く妙な雰囲気の中で食事会が始まった。
誰もがお互いを探り合っているのだ。
そんな中で、またもノックが響き渡る。
メイドが迎えに出るより早く玄関の戸が開き、ずかずかとひねた感じの若者が食堂まで上がりこんでくる。
「おやおや、おれっちが最後ってわけか。
ま、他人を待たせるのはかまわねえが、待たされるのは好みじゃねえしな。
ちょうど腹も空いてたから時間ぴったりってわけだな」
軽口を叩きつつ、十番目の席にどっかと座り込んだ。
しかし、腹が空いていたという割に食事には手をつけようとしない。
そこに、メイドがやってきて告げた。
「参加される方はこれで全員のようですので、今晩零時からゲームを開始するとのことです。
それ以降屋敷の外への出入りは禁じられてしまいます」
「逃げるなら今のうちということだな」
少年がこちらに視線を投げつつ呟く。
それを無視して刀夜がメイドに質問した。
「具体的なルールの説明を一切受けていないのだが?」
一瞬の間があり、最後に来た男が弾かれた様に爆笑しだす。
それ以外の参加者もやれやれと肩をすくめたり、馬鹿にしたような冷笑を浮かべたり、溜息をついたりと反応は冷ややかだ。
ただ、フードの男と執事と大男の三人は何も反応が無い。
「くく、若ぇのに大したユーモアセンスだなおい。
ここまできといて本気でルールを知らねえてこたあねえだろう」
「貴様には聞いておらん。
で、答えてもらえるかな」
刀夜は努めて平静を保ち、メイドの返事を待っていた。
「申し訳ありませんが。
私はあなた方のお世話をするように申し付けられているだけですので、そのような知識を与えられてはいませんし、お答えする権限もありません」
「では貴女の主人を出してもらおうか。
主催者なら説明の義務があるだろう」
「この屋敷にはおりません。今日中に会うのは無理です」
「連絡手段は? 先程は命じられてゲームの開始を告げたのだろう」
698 :
罵蔑痴坊:2006/06/07(水) 08:22:23 ID:???
「手紙です。
あらかじめ特定の条件を満たしたときに開封するようにと・・・」
「そこまでにしておきなさい」
食い下がる刀夜に、最初の女性が見かねて割って入った。
「ルールを知らない事が不満だというのならば、ゲームに参加しなければ良いだけの話でしょう」
「競争相手も減るからな」
ハーフの青年がぼそりと呟く。
「ともかく、今与えられている状況がすべてよ。
このメイドさんはただの世話役でしかない」
つまり、ルールを知らない参加者というのも、このゲームを設定した人物の演出、ということか。
「ったく、なんつう悪趣味な」
ひとりごちて涼士は頭を抱えた。
と、話が一段落したのをいい機会だと感じたのか、みなぞろぞろと退出を始めた。
メイドは思い出したかのように参加者たちに声を掛ける。
「朝と夜の七時から八時のそれぞれ一時間は、ゲームを一時中断し食事の時間とさせていただきます。
この食堂にてお待ちしておりますので、皆様どうかご無事で」
参加者たちは、なぜかみな朔夜に視線を投げかけてゆく。
それに気付いて涼士はまたも頭を抱える。
このぶんではどう考えても無事に済む訳が無かった。
(だが、なぜ朔夜なんだ?)
考えても答えが出るわけも無く、当の朔夜に肩を叩かれて部屋に戻る。
今夜は眠れそうに無かった。
涼士(其の一) 了
699 :
罵蔑痴坊:2006/06/07(水) 08:48:24 ID:???
涼士(其の一)解説
・涼士のアーキタイプ構成
死霊課/ダメ人間で、テクスチャは当時放送中だった某龍騎。
・課長室(>692)
視点がNPCである課長主観になっているのでわかり辛い…
・月城 朔夜
セッション開始前に提示されたNPC。
「生き別れの兄」とかはGMのサービスだったのだろうか?
・山奥の洋館(>694)
アルト(其の一)の洋館と同じもの。
メイドは“彼女”である。
・芝村 刀夜
れっきとしたPCだが、枠で言えばPC4以降。
アーキタイプは転生者(+強化人間)/魔剣。どう見ても和マンチです本当に(以下略)
・筆談(>696)
読み返した時デスノート吹いたw
・ゲームの開始(>697-698)
状況を説明しているようで説明せず、他の参加者との交渉の必要性を暗に示している。のだが…
とりあえず今朝はこんなとこで終了ー。
700 :
罵蔑痴坊:2006/06/10(土) 04:53:23 ID:???
アルト(其の二)
屋根裏にて
今日になって一度に来客が増えたようだ。
昼頃にまた二人。夕方近くにまた一人と二階の客室に通されてくる。
夕方に来た人物はアルトがいた部屋の真裏の客室に入り、後から入ってきた誰かと相談しているようである。
そちらを覗いてみると、どうやら朝方に来た二人のうち男の方が来ているらしい。
生真面目そうに見えるが、さほど頭が切れそうには見えない。
部屋の主の方は、その男よりも若く見えたが逆に危険な感じがした。
自らの欲求の為に何を引き換えにしても良いと、どこか心の底で思っている。
そんな危うい誇り高さが匂うのだ。
二人は顔見知りなのか互いの近況を語り合ったりしていたが、その一方で紙に何かを書き付けて確認しあっている。
何が書いてあるのかは遠すぎてよく読めない。
そのうちにまたも来客を知らせるノックが響く。
同時にメイド姿の彼女が、食事の用意が出来たので食堂に来るように告げていった。
チャンスだ。とアルトは内心喜びの声を上げる。
客の全員が食堂に集まるのなら、その間にいろいろ調べを進めることが出来る。
下の部屋に注意を戻すと、部屋の主はメモを灰皿で燃やしている。
どうやらよほど用心深い性質らしい。
もう一人は隣の部屋の女性を呼びに出て行った。
共に行動していることから見て、この三人はチームなのだろう。
たった今来た二人の人物も、それぞれの部屋に荷物を置いた後で食堂に下りていった。
それを確認して、早速行動に移る。
しかし、やはりめぼしい成果は無い。
ただ、例のフード男の部屋だけは、やけに人のいる気配が無かった。
(でも手がかりが無いことに変わりないんだよな・・・ん?)
朝方に来た二人のうち、女のほうの部屋のテーブルに手帳が投げ出されていた。
開いて見ると、予定などを書くシステム手帳なのだが、どうやら日記代わりに使っているようだった。
ただその日の予定が書いてあったり、何かトラブルがあったときに愚痴を書き込んだりしてある。
701 :
罵蔑痴坊:2006/06/10(土) 04:56:13 ID:???
(ずいぶん迷ったが、やはり行くことにした。
高瀬さんは信用できそうな人だし、私も兄さんに会いたいから。
家族と呼べる人はもう兄さんだけしかいないから・・・)
昨日の日付の欄にそれだけが書いてあった。
やがて、二階に人が上がってくる気配がした。
どうやら食事が終了したらしい。
アルトは急いで天井裏に引き返すが、例の二人は今度は女性も含めて再び隣の部屋で相談を始めてしまった。
相談といっても先程と同じく、会話上は他の客の品定めのようなことを話しながら、男二人がメモに何か書きつけあっているので、女性は実質参加できていない。
しばらく経ってから、さすがに不審に思ったのか女性のほうが訊ねた。
「さっきから何をやっているんですか?」
「いや、まだゲーム開始まで時間があるわけだし、暇つぶしをね。そら王手だ」
「え? ああ。うわそこにくるかまいったなあ」
若い方は堂に入ったものだが、年上のほうは誤魔化しているのがばればれであった。
おそらく女性を目の届く場所におきたくて同室させたのだろうが、目の前で自分に内緒の会話をされれば不審に思うのは当然だろう。
その時、部屋のドアがノックされた。
若い方がドアを開けるが、そこには紙切れが落ちているだけだった。
彼はすぐに戻ると言い置いて、出て行ってしまう。
しばらくして戻ってきたとき、彼はもう一人女性を連れてきていた。
「彼らは信用できるの?」彼女は屋敷で最初に会った女性だった。
「君はそういわれて信用するのか?」
問い返されると彼女はきっぱりと言う。
「私は信用したくない。誰一人ね」
それを聞いて、若い方が促すと残り二人は出て行った。
やがて女性が切り出した。
「彼らと組むつもりなら、悪いことは言わないから止めたほうが賢明だわ」
「どちらが賢明かは結果が証明してくれる」
相当の自信家らしい。猫でもそうは居ないだろう。
「あなたがその態度と同じくらい強くても、彼らと組んでいてはゲームに勝てないのよ」
「勝利条件に矛盾するというのか?
ならば、ゲームそのものをひっくり返すまでだ」
702 :
罵蔑痴坊:2006/06/10(土) 05:04:51 ID:???
「これ以上の忠告は無駄のようね。
仲間と思われたく無いから、もう行くわ」
呆れ返ったのか、女性は出て行ってしまう。
若い方の男はしばらく黙っていたが、出て行った二人に合流するためそのまま部屋を空けた。
誰もいなくなった部屋に、アルトは降り立った。
そして部屋の主である自信家の若者が残していった荷物の中から、一枚の紙を探し出した。
隣の部屋では、もうすぐ日付も変わろうかというのに論戦が続いている。
「結局、お主はどうしたいのだ。
このまま彼女を守りきる自信はあるのか」
「俺は・・・守ってみせる。
だけど、朔夜さんが危険な目に遭うのが嫌だと言うなら、今からでも遅くない。この館から出よう」
会話についていけず、朔夜と呼ばれた女性は問い返した。
「あの、守るとか危険とかって、一体どういうことなんでしょう?」
若い方に視線で促されて、年上のほうは意を決したように語る。
「朔夜さん。あなたは狙われています。
下手をすると命を落とすかもしれない」
「あくまで推測にしか過ぎないがな。
このゲームの参加者全員が襲い掛かってくる可能性もある」
雰囲気から、何か危険がある事は予想していたようだが、さすがにここまでの事態とは思わなかったらしい。
彼女は息をのむ。
「・・・! ゲームってそういうことだったんですか?」
「もしかしたらバトルロイヤル形式の殺し合いで、まずは一番弱そうな貴女から狙われただけかもしれないが、殺されかかっている事に変わりは無いな」
物騒なことをあっさり言いながら、若い方の男はまるでその展開を望んでいるように笑う。
「・・・でも、兄さんに会う為にここまで来たんです。
いまさら帰ることなんて出来ません!」
「わかった。なら俺は、何があっても君を護りぬいてみせる」
二人の決断を見届けて、若い方の男が恍惚にも似た表情を浮かべた。
「誇り高きその誓い、確かに聞いた。
この芝村刀夜が汝らの剣となりて敵を屠ろう」
その宣言に応えるかのように、時計の日付が変わった。
703 :
罵蔑痴坊:2006/06/10(土) 05:06:14 ID:???
全く同時に部屋のドアが吹き飛んだ。
「危ない!」朔夜を庇って男がドアの破片をその身に浴びる。
ドアの向こうに立っているのは子供と老人。
しかし、子供の方が放つ気配は、明らかに人のものではない。
その不遜な表情からは、どこか気品めいたものすら感じさせる。
「言っておいた筈だよ。
その子は僕が手に入れるってね」
「ふん。前菜を待たずにメインディッシュからとは、お子様らしい好き嫌いだな」
子供が放つ気配に当てられたのか、朔夜は気絶してしまっている。
それを確認し、刀夜と名乗った若者も気配を変える。
背中に二本の刀が鞘と共に現れ、両手に抜き放つ。
直後、一瞬にして間合いを詰めると二刀流で斬りつけた。
「ぐうっ、ゲームは勝った者が偉いんだ。
なら当然勝つのは僕に決まってる!」
少年の放つ魔気が、剣士に収束してゆく。
とたんに彼の目から普段の冷静さが失われた。
その一方で、男は気絶した朔夜を連れてトイレに入り込んだ。
閉まったドアが開いたとき、男の姿は変化していた。
その姿は、アルトの知識ではどうにも形容しづらいものであった。
あえて例えるなら、特撮番組の改造人間に中世風の甲冑を組み合わせた様なものか。
「刀夜、手を貸す・・おわっ」
突然斬りかかってきた刀夜の攻撃を、慌てながらも何とか受け止めることに成功する。
「まさか裏切ったのか?」無言の剣士を男は部屋の中に蹴り戻す。
甲冑男の表情は変化が無いが、声からは信じられないといった様子が伺える。
「ははは、味方同士で傷付け合うがいい!
・・・む? 何だ?」
いまだ入り口に立つ少年が何かに気付く。
振り向いたその鼻先を掠めて、狼男が踊り込んで来た。
信じられない速度で部屋の中央で組み合う二人に襲い掛かるが、熟達の剣士は即座に反応し、カウンターの要領で怪物の攻撃より早く斬り付ける。
「ぐわあああっ」
704 :
罵蔑痴坊:2006/06/10(土) 05:09:00 ID:???
その叫びにか、それとも血を見たことに反応したのか、刀夜の目に理性の光が戻る。
「ラピッドクロウ・・・か?」
「く・・・やはり手強いな」
忌々しげに舌打ちを残すと、人狼は来たときと同様に目にも留まらぬ速さで部屋から離脱してゆく。
いつの間にか少年と執事まで居なくなっていた。
刀夜はとりあえず廊下まで追ったが、諦めたのか部屋に戻ってきた。
しかし甲冑男のほうは、いまだに刀夜への警戒を解いていない。
そんな甲冑男に刀夜が告げた。
「・・・。ダメダメ?」
「ぐはあ」
呻いた男が床に蹲ると、とたんに変身が解けて元の姿に戻る。
「不覚にも術中に落ちたが、もう大丈夫だ。
それより今ほどの狼だが、覚えているか」
「確かラピッドクロウだ。
といっても人の姿の方は知らないけどな。
まさか参加者の一人だったのか」
二人が何やら確認しあっていると、またも廊下から何者かの気配が近づいてくる。
ドアの無くなった入り口に現れたのは、先程忠告に来た女性であった。
「やっぱりこういう先走った輩が現れたわね」
「今度は貴女という訳か」刀夜が再び身構える。
「勘違いしないで。私は争い事は嫌いなの。
気付いていると思うけど、もうこの屋敷から外へは出られないわよ。
ゲームが終了するまでは」
それを聞いて、刀夜が廊下に歩み出た。
得物で月の光が差し込む窓を斬り付ける。
しかし、通常ならば真っ二つになるはずのガラスには傷一つ付かなかった。
「結界か。ドミニオンの一種、アレナだな」
「これでもう逃げ場は無くなった。
これでも彼女を守りきれるというの?」
「最初から逃げる気など無いし、そのような気遣いは無用だ」
705 :
罵蔑痴坊:2006/06/10(土) 05:48:40 ID:???
(こいつダメだ)
ここまで事態を探るため、アルトは観察に徹していたが、それももう限界だった。
このままでは絶対に悲劇が起きる。それだけは避けられない。
この剣士が居る限りそれは確実だった。
部屋の中には元甲冑男一人しか残っていない。
しかも廊下の会話に気を取られて、肝心の朔夜は気絶したままトイレにほうりっ放しだ。
(僕は一体どうしたんだ?
何でこんな厄介ごとを・・・)
それは自分でも分からなかったが、これがおそらく猫の性分というものだろう。
アルトはトイレの天井から朔夜の体の上に飛び降りた。
「あら?」いち早く女性が気付き、他の二人も振り返る。
しかし、次の瞬間アルトはとびっきりの笑みを浮かべて見せた。
わずかな浮遊感と共に視界が暗転する。
そしてアルトと朔夜はその部屋から消失した。
アルト(其の二) 了
706 :
罵蔑痴坊:2006/06/10(土) 05:49:41 ID:???
刀夜(其の一)
ゲーム開始
<二分後>ただそれだけ書かれた紙切れを持って、芝村刀夜は一人食堂に立っていた。
「そろそろ二分経つが・・・」
人気の無い所の方が良かろうと思い、わざわざ場所を変えたのだが、誰かが来る気配はまるでない。
二分後に襲撃するという予告だったのだろうか。
二人が待つ部屋に戻りながら、そんなことを想う。
そもそもの発端はあの招待状だ。
あんなものは無視して、何者かが仕組んでくれた休日を楽しむのがまっとうな考えを持つ者の行動だろう。
だが、
<汝、我が下へと至りたくば、この招待を受けるが良い>
忌々しい「あの声」が聞こえてしまった以上、退くわけには行かなかった。
例え逆らおうとしたところで、どういう訳か様々な偶然により従わされる羽目になるのだ。
ならば、いっそのこと自らの意思でその状況へと飛び込んだほうが納得できるというものだ。
(芝村の名を持つ者は自らの進む道を自分の意思で切り開く)
部屋の前に、見たことのある女が扉にもたれつつ待っていた。
「場所はこちらで指定するのかと思ってしまったぞ」
声を掛けると、さほど驚いた様子も無く振り向き、応える。
「だったら書置きぐらい残すべきね。
二人だけで話がしたいの。入っていい?」
「少し待って欲しい。知り合いが中に居るものでね」
ノックと共にドアを開くと、正面にニューナンブの銃口が待ち構えていた。
「フリー・・・!」
高瀬がフリーズを言い終わるより早く、奴の顔の前の空間が小さく風鳴りを発していた。
前髪が一、二本はらりと舞う。
凍り付いた高瀬にすれ違い様言ってやる。
「ノックして来る者まで敵扱いか?」
「す、すまん。
それで、何かあったか?」
707 :
罵蔑痴坊:2006/06/10(土) 05:50:50 ID:???
それには応えずに、後ろを促すと例の女性が刀夜に続いて入ってきた。
「彼らは信用できるの?」開口一番言い放つ。
「君はそういわれて信用するのか?」
無駄だと思いつつも一応訊ねてみる。
「私は信用したくない。誰一人ね」
高瀬を促して、月城女史と共に隣の部屋で控えて居て貰う事にする。
これで望み通り二人きりというわけだ。
自己紹介も抜きで彼女はいきなり切り出す。
「彼らと組むつもりなら、悪いことは言わないから止めたほうが賢明だわ」
「どちらが賢明かは結果が証明してくれる」
どのみち止める積もりなど無いのだから、気になることはそれだけだ。
しかし、彼女は何が気に障ったのか、声の調子を少々硬くして言い募る。
「あなたがその態度と同じくらい強くても、彼らと組んでいてはゲームに勝てないのよ」
くだらない忠告などよりも、そういう情報のほうが有難い。だが、どういう意味だろうか。
「勝利条件に矛盾するというのか?
ならば、ゲームそのものをひっくり返すまでだ」
「これ以上の忠告は無駄のようね。
仲間と思われたく無いから、もう行くわ」
なぜか呆れ返った様子で、女性は出て行ってしまった。
しかし、何かおかしな所などあるだろうか?
(芝村の名を持つ者は自らの進む道を自分の意思で切り開く)
ゲームの勝敗自体には興味は無い。
問題は、自分の意思がその結果を選んだのかどうかだ。
「ゲームをひっくり返す・・・か」
刀夜はしばらく黙っていたが、やがて隣の部屋で待っている筈の、二人の許へ向かった。
時間は刻一刻と過ぎ去り、ゲーム開始まで三十分をきっていた。
「結局、お主はどうしたいのだ。
このまま彼女を守りきる自信はあるのか」
状況が不透明である以上、どんな議論をしたところで、すぐに煮詰まってしまう。
ならば味方同士の意思確認で士気を高めることが重要だろう。
708 :
罵蔑痴坊:2006/06/10(土) 05:52:00 ID:???
「俺は・・・守ってみせる。
だけど、朔夜さんが危険な目に遭うのが嫌だと言うなら、今からでも遅くない。この館から出よう」
結局は彼女任せという、微妙にヘタレた返答である。
彼女のほうは今までの会話について行けなかったのか、非常に基本的なことを問い返した。
「あの、守るとか危険とかって、一体どういうことなんでしょう?」
確かに状況をまるで彼女に伝えていないのは、場合によっては危険だろうし、彼女も自らの身に起きる事について知る権利はあるのだ。
刀夜が無言で促すと、高瀬は意を決したように語りだした。
「朔夜さん。あなたは狙われています。
下手をすると命を落とすかもしれない」
「あくまで推測にしか過ぎないがな。
このゲームの参加者全員が襲い掛かってくる可能性もある」
雰囲気から、何か危険がある事は予想していたようだが、さすがにここまでの事態とは思わなかったらしい。
彼女は息をのむ。
「・・・! ゲームってそういうことだったんですか?」
「もしかしたらバトルロイヤル形式の殺し合いで、まずは一番弱そうな貴女から狙われただけかもしれないが、殺されかかっている事に変わりは無いな」
そちらの方が手間がかからずに済むのだが。
などと思いながら、刀夜は朔夜の返答を待つ。
これだけ脅せば普通の輩は逃げ出して当然だ。
しかし彼が望むものはそうではないのだ。
「・・・でも、兄さんに会う為にここまで来たんです。
いまさら帰ることなんて出来ません!」
「わかった。なら俺は、何があっても君を護りぬいてみせる」
二人の決断を見届けて、刀夜の顔に抑えきれない高揚感が溢れた。
自分の中にある前世の記憶、剣士の魂が求めるものは、ありふれた殺し合いなどではない。
気高き意思を賭けた闘いなのだ。
「誇り高きその誓い、確かに聞いた。
この芝村刀夜が汝らの剣となりて敵を屠ろう」
その宣言に応えるかのように、時計の日付が変わった。
館全体が一瞬ぼやけ、現実感を失い、どこか作り物めいた非現実感が空間を満たす。
全く同時に部屋のドアが吹き飛んだ。
「危ない!」朔夜を庇って高瀬がドアの破片をその身に浴びる。
709 :
罵蔑痴坊:2006/06/10(土) 05:53:04 ID:???
ドアの向こうに立っているのは子供と老人。
しかし、子供の方が放つ気配は、明らかに魔物のもの。
その不遜な表情からは、どこか気品めいたものすら感じさせる。
「言っておいた筈だよ。
その子は僕が手に入れるってね」
「ふん。前菜を待たずにメインディッシュからとは、お子様らしい好き嫌いだな」
子供が放つ気配に当てられたのか、朔夜は気絶してしまっている。
それを確認し、刀夜も自らの力を解放した。
背中に二本の小太刀が現れ、両手に抜き放つ。
直後に空間を切り裂いて間合いを詰め、二刀流で斬りつけた。
「ぐうっ、ゲームは勝った者が偉いんだ。
なら当然勝つのは僕に決まってる!」
少年の放つ魔気が、刀夜の精神に直接向けられる。
(しまった! これは・・・)
思考を消し去って耐えようとするが既に遅く、高瀬への殺意のみが頭を満たす。
意識が暗転した。
「ぐわあああっ」
その叫び声、あるいは血を見た所為だろうか、刀夜の意識から殺意は消え去っていた。
目の前にいる人狼は、彼の記憶が確かならば一度あったことがある。
「ラピッドクロウ・・・か?」
「く・・・やはり手強いな」
忌々しげに舌打ちを残すと、人狼は目にも留まらぬ速さで部屋から離脱してゆく。
辺りの状況を確認すると、いつの間にか少年と執事まで居なくなっていた。
とりあえず廊下まで出てみるが、いまさら追っても間に合うまい。
深追いするよりは、術にかかっていた間に何が起きたのかを確認するべきだった。
部屋に戻ると、いつの間にか変身していた高瀬がトイレの前で身構えている。
多分、意識が無い間に奴を何度か斬り付けようとしたのだろう。
いまだに刀夜への警戒を解いていない。
とりあえず、危険が無いことを伝えるべきだった。
「・・・。ダメダメ?」
「ぐはあ」
710 :
罵蔑痴坊:2006/06/10(土) 07:04:37 ID:???
高瀬が呻いて床に蹲ると、とたんに変身が解けて元の姿に戻る。
相変わらず面白い奴。
などと思いつつ、小太刀を収めて近寄る。
「不覚にも術中に落ちたが、もう大丈夫だ。
それより今ほどの狼だが、覚えているか」
「確かラピッドクロウだ。
といっても人の姿の方は知らないけどな。
まさか参加者の一人だったのか」
以前、刀夜と高瀬が知り合った事件の際に、同じく関係していた魔物の一人である。
とはいっても、中立に近い立場だったため、相手がどんな奴なのかまでは二人にも分からないのであった。
と、またも廊下から何者かの気配が近づいてくる。
「やっぱりこういう先走った輩が現れたわね」
ドアの無くなった入り口に現れたのは、先程忠告に来た女性であった。
「今度は貴女という訳か」刀夜は再び身構える。
「勘違いしないで。私は争い事は嫌いなの。
気付いていると思うけど、もうこの屋敷から外へは出られないわよ。
ゲームが終了するまでは」
それを聞いて、刀夜は廊下に歩み出た。
得物で月の光が差し込む窓を無造作に斬り付ける。
しかし、通常ならば真っ二つになるはずのガラスには傷一つ付かなかった。
「結界か。ドミニオンの一種、アレナだな」
ドミニオンとは世界律の異なる、独立した次元世界を示す単語である。
アレナとはその中でも規模の小さい種類のものを示すが、規模が小さいとはいえ異世界であることには変わりない。
引き込まれれば容易に脱出できなくなるだろう。
日付が変わったときの異変はこういうことだったのである。
「これでもう逃げ場は無くなった。
これでも彼女を守りきれるというの?」
「最初から逃げる気など無いし、そのような気遣いは無用だ」
何を言うかと思えば、と内心苦笑しながら答えると、彼女もその答えを予想していたらしい。
711 :
罵蔑痴坊:2006/06/10(土) 07:05:13 ID:???
「相変わらずね。
でも近いうちに貴方も気付くでしょう」
その時、トイレのほうから何か物音がした。
「あら?」いち早く女性が気付き、刀夜と高瀬も振り返る。
気絶したままの朔夜の体の上に、どこから来たのか薄汚れた黒猫が乗っていた。
その黒猫は不気味なニヤニヤ笑いを浮かべて見せた。
次の瞬間、黒猫と朔夜はその部屋から消失した。
「な、なんじゃこりゃあああっ!?」
高瀬の悲鳴に近い叫びが部屋にこだまする。
チェシャ猫の業は猫の眷属の証。
つまりあの猫も魔物ということになる。
「まさかグルじゃあるまいな」
振り返って女性の顔をまじまじと見やる。
「私が貴方達の注意を引きつけていたから?
それなら声を出したりはしないし、今頃私も姿を消しているわ。
それよりも、焦ったほうが良いんじゃない?」
「わざわざ連れ去るのなら、とりあえず命の危険は無いだろう。
どうせ屋敷から出られないのだから、逃げ場は無い」
「・・・おい、そういう問題じゃないだろう」
さすがに半分キレかかった口調で高瀬が詰め寄ってくる。
「大体、何で彼女なんだ?
彼女にばかり狙いが集まる理由があるんだろう?」
「勝利条件、だな。
朔夜をどうにかする事でゲームの勝利を得られるのだろうが・・・。
そろそろ答えてもらおうか。敵対する気が無いというのなら問題は無いだろう」
問い詰めると、彼女は肩をすくめて答えた。
「争い事は嫌いってだけで、敵対しないとは言ってないわ。
でも、教えてあげても良いわよ」
改まった態度でこちらを等分に見やりつつ、重々しく告げてくる。
712 :
罵蔑痴坊:2006/06/10(土) 07:05:47 ID:???
「まず、一つは<彼女を殺す>事。
その時点でゲームが終了するわ。
もう一つは<彼女を護る一人が、それ以外の参加者を全員殺す>こと」
暫くの時間を沈黙が支配した。
「成る程、先刻の忠告はそれが理由か」
「すると、朔夜を護るならいずれは・・・」
高瀬が微妙な表情をこちらに向けてくる。
「まあ、私としては暫く動く気は無いから、お二人さんはせいぜい頑張るのね。
殆んどの参加者は私と同じ行動を採るだろうけど」
言い捨てて女性は去ってゆく。
何か他に気に懸かる事があるのか、考え込んでいる様子だった。
「とりあえず彼女を探そう。
まずは一階からだ」
その提案に、高瀬はなぜか乗り気でないようだった
「なぜ二階からにしないんだ?
今まで出てきた連中を除けば、残った選択肢は三部屋・・・ラピッドクロウが誰か判らんから実際は四部屋だろう?
メイド以外無人の一階は、そっちを当たってからでも遅くないんじゃないか?」
「あの猫が、参加者の内の誰かだと決まった訳ではないぞ。
彼女を監禁するにしても、わざわざ自室で行えば、踏み込んで下さいと言っている様なものだ。
もしかしたら今頃、無人の部屋でいかがわしい事をされているかも知れんぞ?
それに・・・」
「それに?」
うんざりした様子で高瀬が聞き返してくる。
刀夜は真剣な声で告げた。
「一晩で全員倒してしまっては面白味が無かろう」
刀夜(其の一) 了
713 :
罵蔑痴坊:2006/06/10(土) 07:09:33 ID:???
アルト(其の二)、刀夜(其の一) 解説
この二編は同じシーンを視点を変えて演出している。(また面倒な…)
よって解説も二編まとめて行う。
・覗きシーン(>700)
序盤は>696付近のシーンと重なる。
どうやらアルトから高瀬と刀夜に対して絆が無いようである。
絆があれば声を掛けたりして合流…あっれぇー? このセッションおかしくない?
※普通はPC同士でなるべく絆を結びあうのが推奨である。
・>荷物の中から、一枚の紙を探し出した(>702)
ここで招待状を抜き取った。参加するきっかけをつかむ為である。
・掛け合い(>702 >708)
この辺で愛や罪を稼いでいる。
・子供と老人(>703 >709)
魔王の息子と<目付け役>だろう。
刀夜に使用したのは<不和の芽>。
・>理性の光が戻る(>704)
・>意識から殺意は消え去っていた(>709)
対象が違うが、効果は解けたものと裁定された。
・ラピッドクロウ
シナリオ開始時に提示されたNPC。
・アルトの行動(>705 >711)
朔夜と接点を作る為、<ゲーム>に関わる為、高瀬と刀夜に積極的な行動をさせる為、etc…
本来接点が無いPCが関わろうと思うと、これくらい強引に動くしかないような気もする。
714 :
罵蔑痴坊:2006/06/10(土) 07:18:56 ID:???
・>食堂に立っていた(>706)
>701で拾った紙切れを見ての行動。
・「あの声」(>706)
転生者の<声なき声>(だったかな?)
・>前髪が一、二本はらりと舞う(>706)
俺TUEEE演出。
・勝利条件(>712)
この手のバトルロイヤルモノは最近ありがちになったが…。
・>残った選択肢は三部屋(>712)
登場した敵(子供と老人、女性)を除いたので。
715 :
罵蔑痴坊:2006/06/10(土) 07:20:15 ID:???
おっと、今日はこの辺でー
おやみみー
716 :
NPCさん:2006/06/10(土) 07:58:58 ID:???
>罵蔑痴坊 氏
感想一番のリー というわけでなんとなく色々と。
涼士君、変身後も龍騎だったんだ…ってことは刀夜は騎士?つか内容といいドミニオンといいどう見ても
ライダーバトルです本当に(ry
マジレスすると、緊迫感がある描写で、結構面白いと思う。続き見たいな。
あとキャラによる視点の違い、キャラごとに雰囲気が変わってて、うまく描けてるなあ。
難点を挙げるとすれば、設定がいかにも同人っぽいなあ、というところか。まあ、セッションの小説化だし、
そこをとやかく言うのは野暮だな。
時に罵蔑痴坊氏、こんな時間に投稿、挙句
>>715な時間におやみみって…どんな生活してるんですか
あなたはw
こんなところで。
717 :
罵蔑痴坊:2006/06/11(日) 00:09:09 ID:???
ども。>716殿
感想もらえるのって安心するねえ。
>刀夜は騎士?
確か、なんかガンパレだかの再現キャラだったかな? よー知らんが。
転生元は小太刀二刀流だから剣客浪漫ネタだろうけど。
文章に関しては、今ならもうちっと読み易く出来る自負はあるんじゃが。
問題は暇が無いことじゃな。[終わり]
さて、この作品って実は途中で終わってるんじゃよねー。
ダメじゃん4年前の俺。
とりあえず、出来てる分は載せるけど…残りの分を残ってる断片から再現できるかなあ?
まあ、そっちは機を見てやります。
718 :
罵蔑痴坊:2006/06/11(日) 01:22:09 ID:???
アルト(其の三)
彼女の部屋で起きた事
「猫には居場所なんて関係ないわ、自分の思うままに今居る場所を変えることが出来るものよ。
勿論、人間たちにとびっきりの笑顔で挨拶をするのを忘れてはいけないわね。
それが礼儀というものよ」
皮肉交じりに母親が言っていた事をアルトはぼんやり思い出した。
ここはどこだろうか。
明かりが点いていないが部屋の中らしい。
屋敷からは逃げられないとあの女性が言っていた。
ならば、ここはまだ屋敷の中だということになる。
緊張しながら辺りの様子を探ると、懐かしい気配がした。
猫の目を凝らしてみると、ベッドにメイドが眠っている。
アルトは無意識のうちに転移先を彼女の部屋にしてしまったようだ。
(ど、どうしよう、やっぱりこの姿のままじゃまずいし)
うろたえつつ、昨日と同じ少年の姿に変化する。
と、気配に気付いたのか彼女が目を覚まし始めた。
(こういうときは、えっと、えーと、そうだ!)
例によって母親の言葉を思い出し、アルトは意識を集中した。
「猫の魔力は相手の舌の動きを止めることが出来るわ。
うるさいお説教から逃げるときには便利なんだけど、結構疲れるから気をつけないとね」
緊張で集中が乱れそうになるが、何とか堪えて成功させる。
間一髪間に合ったようで、起き上がった彼女は声が出せなくなっていた。
「あの、落ち着いてください。
危害を加えるつもりはありません」
一瞬うろたえる彼女を宥めるべく声を掛ける。
「彼女を匿って欲しいんです。
えーと、出来れば僕も」
示された先に朔夜を認め、彼女はもの問いたげに少年の姿のアルトを見つめた。
719 :
罵蔑痴坊:2006/06/11(日) 01:24:24 ID:???
「その、二階でごたごたがあって、彼女が一番危ないみたいだったから逃げてきたんです。
何でかって言うと、僕もよく分からないけど。
でも、彼女は何も知らなかった。
仲間もぎりぎりまで誰も教えようとしなかった。
戦うことばかり考えて彼女がやりたいことは考えていないみたいだった。
そんなのって理不尽だと思いませんか?
戦いが好きなら勝手に殺しあってればいい。
でも、それに彼女が巻き込まれる筋合いは無いんです」
(何を言っているんだ僕は?)
見ず知らずの子供が感情をぶちまけた所でどうなるというのだろうか。
「・・・」
しかし、彼女は肯いてくれた。
無言のまま朔夜を自分が使っていたベッドに移す。
そして何かを告げようと口を動かすが、まだ舌が動かずに声が出せない。
「あ、何か書くもの要るかな。
えーと」
辺りを探る拍子に懐から紙切れが一つ落ちた。
刀夜の部屋から拝借した招待状。
それを認めて彼女の表情が変わる。
「あれ、どうしたの?」
そこで待て、という仕草を残して、彼女は部屋を出てゆく。
数分と経たずに彼女は布団一式を持ってきた。
もう舌が動くようになっていた。
「赤獅様も参加者だったのですね」
「あ、うん、えーと、昨日はてっきり違う屋敷に来たのかと思ってたんだ。
ほら、一度迷っちゃったもんだから」
苦しい言訳だと思ったが、彼女は疑いもしないらしい。
「仰るとおりにいたします。
・・・朔夜様も、ここに居たほうが安全でしょうし」
何かの想いを秘めた視線を、彼女は気絶したままの朔夜に投げかけた。
720 :
罵蔑痴坊:2006/06/11(日) 01:28:18 ID:???
しばらくして、部屋の扉が叩かれた。
「多分、刀夜様ですね。朔夜様を探してます。
赤獅様はあちらに隠れてください、ここは私が何とかいたしますので」
言われるまま、シャワールームに布団一式を持って隠れる。
「鍵を返しに来た」例の剣士の声が響く。
「朔夜様は見つかりましたか?」
「一階で探していないのはもうここだけだ」
「この部屋には私以外おりませんが」
刀夜の視線が一瞬、盛り上がったベッドに向いたが、気付かなかったようだ。
「邪魔をしたな、また借りに来るかも知れん」
立ち去った後、彼女も何やら支度を始めた。
「あちこち壊れてしまったので修理をしなくては。
何しろ私一人しか居ないのです」
あの惨状ではかなりの時間がかかるだろうが、手伝うわけにもいかない。
朔夜のこともあるし部屋で待つことにした。
「・・・ここは?」
明け方近くに朔夜が意識を取り戻した。
「ええと、ここは安全な部屋です。
一緒にいた二人の方も無事です。
でも、朔夜さんは狙われてるので隠れた方が良いだろうという事で、僕がこの部屋に連れて来たんです」
警戒の視線を向ける彼女を宥めるように説明する。
とりあえず嘘は言っていない。
朔夜は緊張を解いて、部屋を見回した。
「あなたしか居ないの? お名前は?」
「この部屋の持ち主が居ますけど、今は外に出ています。
えと、僕は赤獅 三果です」
「歳は幾つ?
家族は、いるの?」
「生まれてから今年でよん・・・じゃなくて、十二才です。
あと、家族は一人いたんですけど、その、生き別れちゃって・・・」
721 :
罵蔑痴坊:2006/06/11(日) 01:32:06 ID:???
「! そうだったの・・・ごめんなさい」
何故か朔夜はとても慌てていた。
どうやら、こちらを傷付けてしまったと感じているようだ。
よくは分からなかったが、何か自分と同じものを見付けて共感しているようだった。
「いやあの、僕の方は彼女の姿をいつでも見れるんです。
でも、彼女は僕が死んだと思っているから、直接会っている訳じゃなくて」
「・・・でも、それじゃ不公平だわ。
その人、お姉さんかしら?
彼女だって、あなたが生きていると知ったら会いたいと思うはずよ」
それはそうだろう。
だが、自分の死を見届けたのも彼女なのだ。
今、生きていることをどう説明できるというのだろうか。
「僕だって直接会いたいけど、そうするのが怖い・・・。
あの人はもう、一人で生きているから、その生活を壊したくない」
それは本心だった。
だからこそ土の下から一年近く彼女を見守ってきたのだ。
「もしかしたら兄さんも、今まではそうだったのかも・・・」
不意に朔夜が呟く。
それを耳にして、ようやくアルトは朔夜の部屋で目にした手帳の一文を思い出した。
同時に、何故この人を助けようと思ったのか、やっと納得できたのだった。
朝晩の七時から八時の一時間。
その時間帯だけゲームが中断され、食堂に食事が用意されるのだという。
その時間、メイド部屋の中で彼女が用意してくれた軽食を食べつつ、アルトはベッドで休む朔夜を見守っていた。
不意に何者かの気配が、閉ざされたドアの向こう側に現れた。
ノブがガチャリと音を立てるが、鍵が掛かっているため開かない。
しかしそれを確認すると、ドアの隙間から何か細長い刃物の様な物が差し込まれ、掛け金を難なく外してしまった。
アルトはといえば、いまさら寝ている朔夜を起こす事も出来ず、ただ成り行きを見守る事しか出来ない。
ドアの向こうから現れたのは、狼の頭を持った毛むくじゃらの男。
放つ気配は明らかに人間のものではなく、その格好がただの扮装でない事を示している。
刃物に見えたのは、そいつの爪だったのだ。
722 :
罵蔑痴坊:2006/06/11(日) 01:35:25 ID:???
(人狼だ・・・!
しかも、昨日の?)
胸にはいまだ治りきらない刀傷が残っている。
魔物ならば肉体的な傷はあっという間に治るはずだから、よほどの深手だったという事だろう。
と、狼男がいきなり掴みかかってきた。
とっさに避けようとしたが、あっさり襟首を捕らえられてしまった。
所詮、肉体能力が違うのだ。
「何が目的だ・・・?
何故彼女をさらった!」
「何って・・・朔夜さんは狙われているんだろ?
だったら匿った方が安全じゃないか!」
それを聞いて狼の声に訝しげなものが混じる。
「貴様、ゲームの参加者ではないのか?」
「違う!
あんたこそ、彼女を殺しに来たんじゃないのか?
他の連中みたいに」
「・・・ふん!」
唐突に床に投げ出される。
起き上がると、目の前に人狼の爪が突き付けられた。
「朔夜を護る気はある様だな。
ならば、命に代えて護れ!
護れなかった時は、お前を殺す」
「・・・わかったよ。
だったら教えてくれ、一体このゲームは何なんだ?」
しばし迷っていたようだが、どうせ巻き込むならば、と決意したのか語り始める。
「どうやら、本当に参加者ではないらしいな。
・・・俺も何が目的かは知らん、知りたくもないしな。
ただ、分かっている事は勝利条件についてのみだ。
朔夜を殺した者が勝利者となり、その時点でゲームは終了。
あるいは、自分と朔夜以外の参加者を全て殺した者が勝利者となる。
この場合は、最後に生き残った者でも可だ」
723 :
罵蔑痴坊:2006/06/11(日) 01:38:25 ID:???
知らぬ事とはいえ、アルトはこのゲームの重要な鍵となる人物をかっさらってしまったらしい。
「だが、もう一つだけゲームを終わらせる条件がある。
それは、このゲームの主催者の代理人を殺す事だ」
脳裏に一瞬、メイド姿の彼女が思い浮かぶ。
だが、どうやらそれは杞憂だったようだ。。
「そいつは参加者に成りすまして、ゲームの進行を監視している。
しかし、それが誰かは分からない。
だからこそ、俺は朔夜以外の全員を殺す気だったが・・・お前が朔夜を護っているならば、俺は代理人探しの方に集中できる」
アルトにしても第三の条件の方が目的に合っている。
しかし、この人は何故こうまでして朔夜を護る事にこだわるのか。
思い浮かぶ答えはあまり多くない。つまり・・・
「あなたは、もしかして朔夜さんの・・・」
「・・・いいな、必ず護れよ。
誰も信用するな」
みなまで聞かず、人狼は来た時と同様に姿を消した。
やがて、食堂も片付いたのか彼女が戻ってきた。
「あら、鍵が・・・?
誰かがこの部屋に来たのですか?」
「ええと、特に問題はないよ。
何とか誤魔化して帰ってもらったから」
これ以上、彼女の心配事を増やしたくなかったので、脅された事などは黙っていることにした。
「ならば良いのですが・・・」
その時、時計が八時を告げた。
直後に二階から轟音が響き渡る。
そして、再び静寂が屋敷を満たした。
「どうやらまた修理に出なくてはいけない様ですね。
では失礼致します」
そう言って彼女は部屋を後にした。
その日の夜の食事時間、食事を届けに来た彼女の顔は心なしか蒼ざめていた。
この数日間、働き詰めだったせいだろうかと心配していると、どこか本意ではない様子で切り出した。
724 :
罵蔑痴坊:2006/06/11(日) 01:39:32 ID:???
「赤獅様は、この部屋を出て行かれた方が良いと思われます。
無人の筈の部屋に人の気配があれば、他の参加者に気付かれ易くなるでしょうし・・・」
「え?
・・・うん、そうですね」
朔夜は気疲れからか、一日のほとんどを眠って過ごしていたが、アルトは立場上そうもいかない。
それに、メイド部屋に運んでくれる食事も、いつも二人分ではあまりにも不自然だろう。
いつか気付かれて、追及され、潜伏がばれる可能性もある。
「じゃあ、これを食べ終わったら一階の別の部屋に隠れます。
明日からの食事は、厨房の方に置いてくれれば勝手に食べますから」
「そう、ですか。
では、これを渡しておきます」
何故か残念そうな声で、彼女は鍵束を渡してくれた。
これで好きな部屋に隠れろということらしい。
「心配しなくても、時々朔夜さんの様子を見に戻ってきますから。
安心していいですよ」
それを聞いたとたん、彼女の体がびくりと震えた。
何かに怯えているのか、こちらに視線を合わせようとしない。
「彼女は言われた通りに匿っておきますので・・・」
「じゃあ、頼みます」
どうしてこの時、彼女の言うがままに部屋を出て行ったのだろうか。
人狼が言っていた事を何故忘れてしまったのだろう。
必然だったのか、運命の成せる業なのか。
今のアルトに、その時の彼女の真意が分かる筈も無かった。
アルト(其の三) 了
725 :
罵蔑痴坊:2006/06/11(日) 01:42:57 ID:???
涼士(其の二)
バトルロワイヤル
一階に着くなり、刀夜は鍵の掛かっている部屋のドアを打ち壊し始めた。
「お、おいおい何やってんだよ」
「見れば判るだろう。
それとも先刻の話を聞いていなかったのか?」
相変わらず問答無用だな、とは思ったが、それで済む問題でもない。
何より涼士は警官だった。
「別に壊さんでもいいだろって言ってるんだ。
器物損壊だぞ」
「壊せば通れるのに、わざわざ鍵を外すのは二度手間だと・・・む?」
意味不明な言い訳の途中で何かに気付いたらしい。
そちらを見やると、部屋からメイドが出てきたところだった。
扉を壊す物音を聞きつけて、という訳ではなさそうだったが、こちらに気付くなり近寄ってくる。
「・・・何を、なさっているのです?」
何故か声を掛ける事をためらっていた様だが、その問いかけは至極まっとうなものだ。
「ゲームは開始されているのだろう?
目的の物を探しているのだ」
「出来れば屋敷を壊さないでいただきたいのですが。
後で直すのは私ですので」
俄かに信じられない発言だった。思わず訊き返してしまう。
「え? 修理、出来るんですか?
あなたが?」
「他に誰も居りませんから」
事も無げに言ってのける。
「ともかく、これもゲームの進行上必要な行為なのだ。それを妨げてもらっては困るな。
それとも鍵を渡してくれると言うのかね」
なぜ素直に鍵貸してと言えない?
とは思ったが事態が一刻を争うかもしれないので、ここは黙っておくことにする。
「仕方ありませんね。
これをお貸ししますので、どうぞ存分に続けてください」
726 :
罵蔑痴坊:2006/06/11(日) 01:47:27 ID:???
鍵束を渡すと、メイドは別の部屋へと去って行った。
本来の用事に戻るらしい。
「何を呆けている。朔夜を探すぞ」
促されて我に返る。
しかし、こんな深夜に彼女がどこに行くのか、なぜか気になるのだった。
「収穫なし、だったな」
朝の食事時間。部屋を出るなり刀夜が呟いた。
そう、昨晩一階を探した限りでは何の手掛かりも得られなかった。
ということは、やはり参加者の誰かが彼女を捕らえているのだろうか?
ふと隣の部屋を見れば、吹き飛んで無くなったドアが完全に元通りになっている。
涼士の部屋に刀夜が来たときは、まだ新しいドアを据え付けている最中だった。
間もなく気配が無くなったので、今夜は応急措置だけかと思い込んでいたのだが・・・。
あのメイドは只者で無いらしい。
それはともかく、やり場の無い苛立ちを拳に込めて、朝日の差し込む窓にぶつけてみる。
結果、全く苛立ちは収まらなかった。
音も立てずに拳はガラスに止められていた。
「屋敷から出られない。
つまり、まだゲームは終わっていない。
すなわち彼女は生きている」
刀夜の言うことは理解できる。
一晩が経っている以上、焦ったところで仕方ないのも分かる。
それでも、苛立たずにはいられない。
朔夜が無事でも、ゲームは続行中なのだ。
昨晩あの女が言っていた勝利条件が、頭の中をこだましていた。
(俺は、どうすればいい?)
朔夜を殺す事など出来る訳が無い。
ならば護り切るしかないが、ゲームを終わらせる為には刀夜か自分が死なねばならない。
間違っても刀夜が自分から死んでくれるとは思えなかった。
確実に戦うことになるだろう。
(まずは、朔夜を助け出してからだ)
727 :
罵蔑痴坊:2006/06/11(日) 01:49:04 ID:???
とりあえず自分にそう言い聞かせて食堂へと向かう。
「やはり情報を集めなくてはな」
参加者の面々を待ちながら刀夜が呟く。
情報が有ろうが無かろうが、戦いになれば同じ事だろうに。
と内心皮肉を言ってみるが、それは涼士とて同じことであった。
やがて参加者が、二人を除き全員集まった。
「おンやあ?
お姫さンと餓鬼は寝坊かい?
ひょっとして、二人っきりでおマセな遊びでもしてンのかな?」
例の最後に到着した男が朝から下品な冗談を喚いている。
しかし昨晩と同じで、食事には一切手を付けようとしない。
執事だけが食堂に来ており、メイドに何か言って食事をトレイに乗せている。
どうやら部屋に運ばせる気らしい。
「あなたの主人のあの少年には、早くテーブルマナーを教えておくべきですな」
執事が後ろを通る際に、刀夜はわざわざ親切めかして挑発した。
執事は何も応えずに去って行った。
やはり刀夜は昨晩、少年を取り逃がしたのが不服だったのだろうか。
例の軽口男は今度は最後から二番目に来たハーフの男をからかっている。
「何でぇ、青い顔しちまってよ。
下痢気味かい? んン?」
「・・・なるほどな」
刀夜が意味ありげに目配せしてくる。
それ以外の面子は昨日と特に変わった点が無いのを考えると、やはり例の人狼は・・・。
「貴様もテーブルマナーを学んでおくべきだな。
大体、食事をする気が無いなら、部屋に戻って天井の染みにでも好きなだけ話し掛けているが良かろう」
「ケッ、辛気臭い食卓を盛り上げてやってンのによォ!
ま、ここは言われた通りにしておくとすっかな。
あんたらだけで思う存分楽しんどいてくれや」
軽薄な笑いを響かせつつ、軽口男は退場する。
邪魔が無くなったところで、刀夜が例の男に話しかけた。
728 :
罵蔑痴坊:2006/06/11(日) 01:52:45 ID:???
「昨晩は少々はしゃぎ過ぎだった様ですな。
まあ、我々も似た様なものでしたが」
「・・・何の話ですか?」
その男はあくまで知らぬ振りをするつもりらしい。
「いえ、顔色が悪い様ですので。
こういう旅先の宿ではなかなか寝付けずに、つい夜更かししてしまうものだなあ、という事ですよ」
「失礼、仰るとおり気分が悪いので失礼させてもらいます」
食事もそこそこに彼も退場してしまった。
と、昨晩助言してくれた女が、何か言いたげにこちらを見ている。
なんとなく言いたい事が判ってしまい、涼士はこめかみを押さえた。
案の定、彼女が食事を終えてこちらの後ろを通るときに、
「あんたら露骨すぎ」
と呟かれてしまった。
「問題は猫が誰なのかって事だな」
部屋に戻ってくつろぎながらも、問題点だけは指摘してみる。
ソファに座る刀夜は指折り数えて応じた。
「残った参加者は、フードの男、大男、下品な軽口男、だな」
「執事もいるぜ」ふと思いついて指摘する。
「ふむ、その可能性もあるな。
そして、どれも怪しいといえば怪しい」
フードの男と大男は、今までで一言も発言していない。執事もそうだ。
三人とも、猫というイメージには合致しないが、魔物というのは化けようと思えば大抵の姿にはなれるのだ。
「しかし、連中はまるで情報が足りないからな・・・。
一番それらしいのがあの軽口男だが、もしそうなら他の連中をあそこまで挑発するのは少々矛盾するな。
どちらかというと奴は道化師・・・」
刀夜が考え込む間に時計が八時を告げた。
直後、奥側の部屋から轟音が響き渡った。
「行くぞ、高瀬!」
迷うそぶりすらなく、刀夜が廊下に飛び出る。
奥側の部屋は二階を回廊状に囲んでいる廊下の反対側だ。
729 :
罵蔑痴坊:2006/06/11(日) 01:57:07 ID:???
駆けつけると、執事と少年がいた筈の部屋から大男がのそりと出てきたところだった。
ドアは跡形も無く、部屋の内部が丸見えだ。
壁には人の形をした血の跡が大小二つ、人間のものとは思えない巨大な拳の跡と共に描き出されている。
「テーブルマナーは覚えずじまい、か」
大男の方はそんな凄惨な背景も気にすることなく、隣の自室に姿を消した。
「この部屋に朔夜は、居なかったらしいな」
いまだ館が開放されていないことから、あの血の跡の片方が朔夜でない事は断言できる。
「普通の猫は、こんな殺し方はしない」
あくまでも仮定だが、これであの大男は猫でない事になる。
「ということは、残る候補は二人だな」
「よし、乗り込もう」
早速、軽口男の部屋の方に向かおうとするが、刀夜はそれを止める。
「待て。まだ奴らがどんな力を隠し持っているかも分からん。
昨晩とて、危うく同士討ちになるところだったのだぞ」
「朔夜が無事かどうかだけでも確認しないと!
戦うかどうかはその時決めればいいだろう」
「勝利条件を考慮すれば、遅かれ早かれ戦うのだ。
こちらが不利な条件で事を起こす義理もあるまい」
果たしてそうだろうか、と涼士は心の隅で思う。
今のうちに、こちらが能動的に動いておく事も必要ではないだろうか。
どこかの誰かが、警察の仕事は基本的に負け戦だと言っていたことを思い出す。
何もかもが明らかになってからでは手遅れになっている、というのは警官をやっていれば必ず遭遇する事例だ。
このゲームでわざわざ警察の役になることはない。
しかし何か有効な策があるわけでもない。
答えが出ないまま、時間だけが過ぎ去ってゆく。
こういう状況で、有効に見えて最もまずいのは、事態が変化するまで様子を見ることだった。
何も起きていない状況ならば、それは確かに有効な手段なのだろうが・・・
その夜の食堂は閑散としていた。
人狼と思われるハーフの男も、例の軽口男も現れなかった。
少年と執事が参加できる筈もなく、涼士と刀夜を含めて五人しか居ないことになる。
730 :
罵蔑痴坊:2006/06/11(日) 02:00:41 ID:???
二人も殺した大男は、相変わらず無表情で平然と食卓についている。
恐らく、戦うことになっても今と同じく無表情なままなのだろう。
例の女やフードの怪しげな男も似たようなものだ。
刀夜はしきりに様子を伺っているが、こんな消極的な方法で何が分かると言うのだろうか。
涼士は早くも情報面については諦めていた。
「明日になっても何も動きがなければ、私は自分の目的のために動くぞ」
自室に戻るなり刀夜はそう宣言した。
やはりこの青年も動かない状況に苛立ってきているのだろう。
「皆殺しにするのか?
彼女との約束はどうなる?」
よく憶えていないが、朔夜が兄に逢いたいと言った時にそれを助けてやると刀夜が約束した様な記憶がある。
直後のごたごたでうろ覚えだが。
「私は何も約束などしていない。
敵を屠ってやろうと申し出たのだ。
その答えを聞く前に彼女は攫われてしまったがな。
それに、もう一つ誤解している様だな」
この男の何を誤解できると言うのだろうか。
「私の目的はこのゲームをひっくり返す事だ。
顔も見せん相手の掌で踊ってやるつもりは毛頭無い」
目的こそ立派だが、そこに至る為の手段はあるのだろうか。
心配しても恐らくそんなものは無いだろうから、とりあえず別のことを考える。
やはり無茶でも二人の候補の部屋を探るべきだろう。
しかし単身乗り込むのは、あまりにも無謀すぎる。
ここはどうしても刀夜の助力が必要だった。
だが、肝心の刀夜がこんな調子では・・・
結局、いくら考えても答えが出ないことに変わりは無いのだ。
やがて日付が変わる。
ゲーム開始から丸一日が経過したのだ。
同時に部屋のドアが吹き飛んだ。
731 :
罵蔑痴坊:2006/06/11(日) 02:06:01 ID:???
「またかよ!」
入り口に向き直ると、人狼が怒りの気配を撒き散らしてそこに立っていた。
「朔夜を、どこへやった!」
「我々が知るものか。
それが分かれば即刻、取り戻しに向かっている」
あくまで冷徹に刀夜が告げる。
ラピッドクロウは部屋の内部に彼女の気配が無いことを確認すると、舌打ちを残して立ち去ろうとする。
「待て。
人の部屋に押し込みを掛けておいて、挨拶もなしか」
ドアの無くなった戸口から廊下に出るなり、刀夜が呼び止める。
確かにせっかくの情報源が出向いてくれたのだから、逃がすことは無い。
「昨日といい今日といい、ゆっくり話も出来ないじゃないか。
それとも獣の言葉しか話せないか?」
「話すことなど無い」
「では昨日の続きと行くか?」
あからさまな挑発である。
彼がこれに乗るとは思えないのだが・・・
「どうした?
その爪も、牙も作り物のプラスチック製か?」
さすがにここまで言われて引き下がれる訳が無かった。
人狼が唸り声をあげ、低く構えを取る。
「お、おい・・・」
怒らせてどうすると言おうとして、涼士は刀夜の目的が怒らせる事そのものだったと気付いてしまった。
剣士の表情を見れば情報云々よりも、この一日の鬱憤を晴らしたくて堪らないのが一目瞭然だったからだ。
「があああッ!」
二十四時間前と全く同じ光景が展開されていた。
獣人特有の運動能力を活かし、屋内の限られた空間内で目にも留まらぬ高機動の格闘戦を仕掛けるラピッドクロウ。
対する刀夜は二刀を構えたまま、いつでも斬り返せる体勢を整えている。
人狼が仕掛ける。一撃、二撃と。
カウンターで切り返す刀夜だが、確かに捉えた筈のタイミングで、二度とも外してしまう。
人狼の爪が剣士の身体を切り刻んでゆく。
732 :
罵蔑痴坊:2006/06/11(日) 02:07:39 ID:???
刀夜の二刀を二発づつ食らっていれば、勝負は決まっていた筈。
だが、ラピッドクロウの一撃は昨日より確実に伸びを見せ、剣士の鉄壁の構えをかいくぐっているのだ。
「こうでなくてはな。
今度はこちらの番だ。ゆくぞ」
刀夜が仕掛ける。二刀が今度こそ人狼の身体を捉えた。
よろめくが、さすがに一撃では倒れない。
しかし、二人とも互いにあと一撃喰らえば倒れてしまうだろう。
それに気付いているからか、両者はしばし動きを止めて力を蓄え、相手の隙を探りあう。
「・・・はははっ。あはははは・・・」
不意に、どこからか聞こえてきた女の笑い声。
「何だ?」
出所を探るまでもなく、笑い声の主は現れた。
廊下の端に立つ、奇妙な光に包まれた魔女。
明らかに尋常な存在ではない。
「く、良いところで・・・」
刀夜の呟きが聞こえたが、あえて聞かなかった事にしておく。
その女は人狼とにらみ合う刀夜の後方の端から近付いて来ている。
ラピッドクロウも気付いてはいるが、剣士と同じく構えを解く気配は無いようだ。
自然、相対するのは涼士の役割になる。
「ちょ、ちょっと待ってろ!」
扉の陰に一度身を隠して姿を現した涼士は、既に有機的なフォルムを持つ甲冑姿に変身を終えていた。
<もう一つの活動>のおかげで手に入れた力。
それがこの姿だった。
一方の魔女は律儀に待っていた訳ではないだろうが、目の前の事態に対して何の反応も見せずに、ただ気の触れた笑い声を上げているばかり。
「ままよ、シュートヴェント!」
繰り出した衝撃波は、しかし魔女の身に纏う怪しげな光によって逸らされてしまう。
即座に、そして初めて魔女が反応を見せた。
何気ない動作で手を振るう。
かすかに何か細長い糸らしきものが見え、慌てて身を翻した涼士の装甲表面を削っていった。
涼士(其の二) 未完
733 :
罵蔑痴坊:2006/06/11(日) 02:33:56 ID:???
アルト(其の三)解説
時間軸は其の二の直後(>705)より継続
・>少年の姿に変化する(>718)
<人間変身>は回数が限られているのだ。
シーン終了時に効果が終わるわけではないので、まだマシだが…。
・>声が出せなくなっていた(>718)
<舌を奪う>の業である。
・まくし立てる(>719)
ここで絆判定を要求してる筈。
・朔夜との会話(>720-721)
実際には、メタ情報として「生き別れの兄」について知っていたので、昨夜に共感させるよう会話をもっていったのだw
絆も芽生えるし、システム上正しい行いであるw
・人狼との会話(>722-723)
相手は<超嗅覚>とかあるし、隠しても無駄なので体を張って交渉。
戦力が欲しいという本音もあるしw
結果、隠された勝利条件を引き出すことが出来た。
・>二階から轟音(>723)
別視点で後述される
・“彼女”の様子(>724)
GMの伏線。
734 :
罵蔑痴坊:2006/06/11(日) 02:57:51 ID:???
涼士(其の二)解説
時間軸は刀夜編の直後(>712)より継続
・ドアを壊す(>725)
「破壊したい」のエゴ判定、だろうか?
・調査と情報収集(>726-729)
能力的に不向きなので全く進展しない
・>「あんたら露骨すぎ」(>728)
GMの本音だろうか?w
・大男の行動(>729)
GMはNPC達に設定したエゴで一定時間ごとに判定して、行動を決定していたようだ。
・様子を見る(>729)
文中の有効論は結果論だが、この手のセッションで慎重に行動しすぎて機を失うのはよくある現象である。
待ちに徹して雰囲気がだれてしまうという弊害もある。
・>自分の目的のために動くぞ(>730)
状況が動きそうに無いと悟ったらしい。
・>「朔夜を、どこへやった!」 (>731)
人狼は本文の時系列的には、前日の時点でもう居場所を知ってる筈だが…
編集時にアルト側の描写を一日すっとばしたんだろうか? 可能性はある。
・>確かに捉えた筈のタイミングで、二度とも外してしまう(>731)
愛で支援した記憶がある。つまり時系列はあってるのか…?
つまり、さっきの台詞はブラフか?
・奇妙な光に包まれた魔女
核心に向けて物語が動き出したようだ。
735 :
罵蔑痴坊:2006/06/11(日) 02:59:08 ID:???
編集済みの文章はこれで終了である。
あとは、部屋のどこかに残っている可能性のある断片的なメモを発掘して、それを組み立てるしかない。
とゆーわけで期待せずに待て!
736 :
罵蔑痴坊:2006/06/13(火) 12:55:58 ID:???
メモ発掘成功!
しかし、本気でメモなので、作品として再構築できるかどうかは未知数…
てか、こんな結末だったんかー…(ぉ
737 :
NPCさん:2006/06/13(火) 15:44:02 ID:???
続きがきになるところで切られては困ってしまうのでがんばれー!
738 :
NPCさん:2006/08/24(木) 12:55:44 ID:p386zo+/
期待AGE
739 :
NPCさん:2006/10/12(木) 22:12:33 ID:3+S0aEgm
「まあ、ゲームの開始まではまだ時間がある。
それまでは何をしていようが勝手だしな」
屋内だというのにフードを目深にかぶり、表情もよく見えない。しかしその姿。
その陰気な声にアルトは覚えがあった。
(こいつは彼女を呼び出した・・・!)
得体の知れない男はそのまま何事もなかったかのように、部屋の一つに入っていった。
最初に会った女性の部屋の隣だ。これで、四人。
(今はもう、これ以上何も分からない。
情報が少なすぎる。状況が変化しないと・・・)
次の日の朝方、訪問者が二人現れた。どうやら正式な来客らしい。
アルトは自分の部屋にあった筆記用具で書置きを残した。
そして自分は天井裏に登り、変化を解く。
「赤獅様。・・・赤獅様? 失礼いたします」
メイド姿の彼女がやってきた。実際ここでの仕事がメイドなのだろう。
彼女は部屋の中に少年の姿がないことに驚き、続いて書置きを発見した。
(ありがとうございました。もういきます)
「よかった・・・」
それを読んで彼女は安堵したようだった。
その書置きを胸元にしまいこみ、部屋の片付けを始める。
ベッドがまるで使われていないことをしばらくいぶかしんだが、やがて次の来客者を迎えるために出て行った。
(彼女はこんなところに居ちゃいけない。
なぜだか分からないけど、彼女をここから救い出す。
それが僕の使命なんだ)
アルトは決意を固めると、再び機会を待った。
天井裏の闇の中で。
アルト(其の一) 了
740 :
カイロン:2007/04/15(日) 15:10:17 ID:LQcfflvf
741 :
NPCさん:2007/06/05(火) 23:06:28 ID:???
アリアンロッド・リプレイ・ルージュ
3巻表紙の妄想してみた。
742 :
741:2007/06/05(火) 23:11:21 ID:???
ラインの街を出て、四人は霧の森と呼ばれている広大な森を目指して歩いていた。
先頭を歩いているのはノエル。その後ろに今回の道案内役のトラン、その左にクリス。最後尾はエイプリル。
薔薇の後継者は頭の上に音符が付いているのかと思う程ご機嫌に歩いている。洞窟や遺跡、いわゆるダンジョン内では無いのだから、多少は気が緩んでいても仕方が無いだろう。
神官と悪の組織の幹部は、互いを牽制しているように見える。
元情報部十三班の一人は、何気なく歩いてはいるが周囲の気配を探るのに余念が無い。
「トラン・・・本当にこの道で合っているのか?」
うさん臭い目を魔術士めいた帽子を被っている青年へ向けた。
「失礼なっ。これだから神殿は―!」
ほぼ反射的と言って良いような速度で反論する人工生命体。こんな掛け合いもどきも、この四人旅の中ではやはり日常茶飯事である。
何時ものパターンなら二人が延々言い合うのだか、今回は違った。
「合ってるのか?」
まさしく冷水が浴びせるかのごとく、後方のエイプリルが渋い声で口を挟んできた。
「・・・合ってますよ。まだ、目的の森は見えませんが」
一度クリスを睨み付けてから、肩越しにくすんだ赤に身を包んでいる女性に肯定の意を伝える。
「道が違ってたら信用丸潰れだぞ」
かなり淡々とした調子で言葉を付け加えてこられた。そうだそうだと言っている横の青マントはこの際無視しておく。
「大丈夫です、ちゃんとマップがあるんですから」
プラプラと地図をはためかせると、改めてトランはそこに書かれている地形を確認した。
どう考えてもこの道で間違い無い。自信を持って断言出来る。
――と、先を歩いていたノエルがくるりと振り返った。
「ほら、トランさんもクリスさんもエイプリルさんも、急ぎましょうっ。二冊目の『マビノギ』はすぐそばなんですからっ」
集めなければいけない第五の薔薇の武具である本の欠片の名前を出すと、そのまま彼女は男二人の間に割って入る。
むんずと『カラドボルグ』を腰に下げている少女は、
右腕を『アガートラーム』を着けている青年に絡め、
左腕を『ウィガール』を着込んでいる青年の腕に絡めた。
その様子を後ろで見ている『カフヴァール』所持者は、微かに口角を上げて三人を見守っている。
743 :
741:2007/06/05(火) 23:32:44 ID:???
そして碧の目の少女はガシっと男達の両腕をしっかり手に取り、茶色の髪
を揺らしながら前傾姿勢で歩き出した。
青年二人はそのまま引っ張られて進み出す。
「わわっ」
いきなりの行動に声を上げたのはトラン。無防備な状態だった為帽子を頭から落としかけ、右手でそれを押さえている。
クリスの方も少々驚いていたが、頬を緩めてその状態を受け入れていた。「どんどん進みますよーーっ」
明るい声で、勢い良く歩を進めるギルドマスター。
今まで、決して短くない期間を四人で旅をしてきた。
肩に薔薇のあざがあるこの娘は、十六の誕生日を迎えた時、自分の過去を探す旅へ赴き。
三人は、それぞれの所属している組織の思惑の元「薔薇の武具の継承者」たるノエルに近付いた。
だが、今の三人は「組織」とは関係無い「自分達の意志」で彼女と共に居る。
彼等はもう「仲間」なのだ。
だが、―この四人で居られる期間は決して――。
744 :
741:2007/06/05(火) 23:35:14 ID:???
「ノエル、気を付けろ。はしゃぐと転――」
「は、はわわわわわわーーっ!」
後方からの少女の冷静な忠告は、虚しくノエルの大声に掻き消された。お約束というか、見事につまずいたのだ。
身体をばたつかせてどうにかしようにも、腕は塞がっている。しかも勢いに乗っている為、結局は・・・。
ド派手な音を立てて、道連れ二人と共に地面に頭から綺麗に突っ込む事となった。
「「ノエル・・・」」
地面に突っ伏したまま、クリスとトランの諦め混じりの声が見事に重なる。
「す、すいません二人共〜」
地面から顔をはがすと眉を下げて心底申し訳無さそうに謝るノエル。
「・・・・・・まぁ、ノエルだしな」
内心、俺も巻き込まれなくて良かったと思いつつ、波打った長い髪を指に通し空を見上げるエイプリル。
空の青に雲の白が鮮やかに見える。この天気だと、雲行きが怪しくなる事は当分無いだろう。
相変わらずの風景。
その中から――これから起こる惨劇など、誰も予想しなかったのである。
745 :
741:2007/06/05(火) 23:37:37 ID:???
終わり。
今更だけど、
この四人を書いてみたかったんだよヽ(´ー`)ノ
746 :
NPCさん:2007/06/06(水) 01:48:08 ID:???
>>741 GJ!
いいねぇ、このパーティはほのぼのしていて好きだ。
最終巻の行方が本気で気になるよ。きくたけは仕事しる
しかし、過疎スレによく投稿する気になったね。個人的には地下で良かったと思うが……
747 :
NPCさん:2007/06/06(水) 12:11:50 ID:???
>>746 トン
地下しか投下できる場所が無かったら、あっちで投下したよw
でも折角このスレ教えて貰ったんだから、ここに投下した。
後悔はしてない(`・ω・´)
ただ、一カ所改行し忘れた箇所を見つけちまったのは・・・orz
748 :
NPCさん:2007/07/22(日) 19:45:32 ID:???
749 :
NPCさん:2007/07/22(日) 21:44:30 ID:???
ちょっくら落としてみる。
DXリプ・トワイライト3巻ネタ。
読んでない人はネタバレ注意。
日の光をカーテンでさえぎられたほの暗い部屋の中。
必要最小限の物しか置いてないその手狭な部屋の一角を占めるベッドの上で、1人の老人が眠っていた。
だが、その眠りは、到底穏やかなものとは思えない。
呼吸は荒く、その皺だらけの震える手は何かにすがるように天に伸ばされ、その額にはびっしりと脂汗が
浮かんでいる。
深く眉間に刻まれた皺は、まさに苦悶の一言につきた。
と、不意に老人が跳ね起き、何かに怯えるようにせわしなく周囲を見回し……そして、やっとのことで
それまで老人を苦しめていたものが夢であったことを確認すると、深く息を吐き出した。
「お目覚めかね、ドクトル?」
ふと、人の声がした。
ドクトルと呼ばれた老人が声をしたほうに目を向けると、そこには薄暗い闇の中に溶け込むかのような、
部屋に唯一の椅子に腰掛けた1人の黒衣の紳士の姿があった。
果たして、いつからそこにいたのであろうか……黒衣の男性は、それまで読んでいた本にしおりを挟んで
閉じると、ようやくこちらに顔を向け、優雅に立ち上がる。
老人は、この男を知っていた。
かつて老人と敵対し、そして老人の過ちをたった4人で食い止めたうちの1人。
「ギヨーム……といったか?」
名を呼ばれた眼鏡の男は、薄く笑い優雅に一礼した。
「随分とうなされていた様だが、悪い夢でも見ていたのかね?」
「ああ……いや、ちがうな。みていたのはわし自身の宿業だ」
ギヨームから手渡されたコップの水を一気に煽り、ドクトルは深いため息をつく。
「山住が、ダンテが、ゼノンが、ヴェアヴォルフが……そしてわしが今まで手がけてきた改造兵士たちが、
その実験台となった者たちが、私を責めるのだよ。
お前はなぜ、地獄に来ないのか、と……」
ギヨームは何も言わない。ただ、眼鏡の奥の静かな瞳で、ドクトルを見つめる。
そんなギヨームに、ドクトルはすがりつくような視線を向ける。
「なあ……わしは、いつまで償い続ければいいのだ?!
あの日、あの男に償えと言われた。償って償って償い続けろと言われた。
だがな、いくら償おうと、人の命を救おうと奔走しようとも、我が悪夢は……わしの宿業は消えない!」
ギヨームは知っていた。この、誰も出自も名も知らぬ老人が必死に医療行為を行う姿を、周囲から
「鬼気迫る」「まるで何かに怯えているかのように」と称されていることを。
そしてその責め苦のような過酷な活動の末に過労を起こし、こうしていまベッドに伏していることを。
不意に伸びたドクトルの手が、ギヨームの胸座を掴む。
いや……すがりついた、といったほうが正しい。
「わしのささやかな償いに対し……わしの犯してきた罪は大きすぎる!!」
まさに、「血を吐く」というが相応しいドクトルの悲痛な声だった。
ギヨームはあくまで無言。自身の胸座を掴まれていることなど気付かぬかのように、静かにドクトルを
見下ろす。
不意に、憑き物が落ちたかのように、ドクトルの手がギヨームの胸元から離れた。
「いや……わしにそんなことを言う資格などないことはわかっている」
俯いたドクトルは、か細い声を絞り出す。
「わしの犯した罪は……償っても償いきれるものではないのだから」
ドクトル皺だらけの手が、自身の顔を覆う。
「実はな……さっき話した悪夢には、続きがあるのだよ」
ギヨームは無言で、話を先を促すかのように視線を送る。その視線を知ってか知らずか、ドクトルは
静かに言葉を続ける。
「わしの周囲に今までの実験台たちが迫ってくる。わしはそれに抗う術など持たぬ。ただ震えて、断罪の時を
待つだけだ。
だが……そんな彼らの前に、立ちふさがる男がいるのだ。
大きな背中で。
ただ、悠然と。
そして、肩越しにこちらを振り返り、笑いかけるのだ。
晴れやかに。
爽やかに。
太陽のように輝かしく、な」
「…………………………」
ギヨームは、その言葉から1人の男を思い浮かべる。「快男児」という呼び名がこれ以上ないほどに
似合う、かつて苦楽を共にした友を。
「わしは、なんと罪深いのか……夢とは、自身の深層心理の現れと言う。
わしは自身の償いきれぬ罪を自覚する一方……救われたい、救ってほしいと願ってしまっているのだよ!」
再びの、血を吐くような懺悔の言葉。
「よいではありませぬか」
ギヨームの静かな声に、ドクトルは顔を上げる。見ればギヨームは、静かに優しく笑っている。
「最初は成り行きで旅をともにしただけだった。
だがそれ以降も彼と苦楽を共にしたのは、彼の非道を許さず弱者を見捨てない、彼のまっすぐな魂に
感化されたからともいえるでしょう。
言ってみれば……そう、『私たちの中にも、"快男児"はいた』のですよ。
そして。
あなたの夢の中に彼が現れたというのなら。
『あなたの中にも、"快男児"はいた』、と言うことなのでしょう」
「わしの中に……あの男が?」
ドクトルは、呆然と呟く。そんなドクトルに、ギヨームは優しく言葉を続ける。
「確かに、あなたの犯した罪は大きい。
しかし、あなたの中にもまた、"快男児"がいるというのならば……
あなたはもう、救われるべき人だ」
「だが、しかし!!」
ギヨームの、優しい言葉。その甘美な救いの言葉に、すがりつきたい思いはあれど。
そうしてしまえば、一層の罪を背負ってしまうといわんばかりに、怯えた声を上げるドクトル。
「わしの罪の大きさは! わし程度の償いでは、到底補いきれぬ!」
「たしかに、そうでしょうね」
あっさりと。
ごく軽く、ドクトルの言葉を肯定するギヨーム。
前言を覆すかのようなその言葉に、どういうことかと訝しがるドクトル。
そんなドクトルを尻目に、ギヨームは窓辺に向かい、勢いカーテンを開け放った。
「……………!」
その光の眩しさに、手をかざして目を細めるドクトル。やがて目が慣れると、彼らのいる二階の窓から
見下ろすそこには凄惨な……彼にとって見慣れた光景が広がっていた。
一言で言えば、野戦病院。
いや、病院とは表現したが、単に広場に毛布をしいただけの、お粗末な代物だ。
だがそれでも、窓から階下に見落とせる限りに、負傷した人々が無数に広がっていた。
戦火は絶えども、その残した爪あとは大きい。
いまだ治療を受けられず、血を流すままに苦痛に呻く男がいる。
ベッドの母親にすがりつき、泣き叫ぶ子供がいる。
全身を包帯に包まれた男がいる。
ほかにも、ありとあらゆる患者が存在し、そんな彼らを救うには人手も物資も食料も衣糧も場所も
時間も足りない。
「さてドクトル、これを見てどう思いますかね?」
「どうとは……それは、地獄絵図と言うほかないのではないのかね? わしの宿業の連鎖の末さ」
自嘲気味に答えるドクトル。
そんなドクトルに、しかしギヨームは笑って首を振る。
「そうにも見えます。ですが……」
そう言って、ギヨームの指し示す先には。
「私には、それだけとは思えないのですよ」
見れば。
苦痛に呻く患者の元に駆け寄り、その命を救わんと全力を尽くす医師の姿がある。
泣き叫ぶ子供に笑いかけ、元気付けようとする看護婦がいる。
治療が済み、一命を取り留めた患者のことをわが事のように喜び、しかし休む間もなく次の患者の元へと
駆け出す医師の姿がある。
敵もなく、味方もなく。
国籍も宗教も人種も関係なく。
人手が足りないこと、物資が足りないこと、そのほか諸々の悪条件を言い訳にせず、自らにできることを
全力で行なおうとする……そこにあるのは、ただただ命を救いたいと願う、まさに人間の尊厳の姿。
ただ自分の罪に怯え、そこから逃げるように医療行為を行う自分とはまるで違う、輝かしい姿だった。
「それが、どうしたというのかね?」
そんな光景から目を逸らすように俯き、低い声で切って捨てるドクトル。
しかし、ギヨームは気付いていた。その声に含まれる、かすかな、ドクトル自身でも気付かぬほんの
かすかな羨望に。
ただただ純粋に人々を救わんとする彼らの姿を、ドクトルが眩しく見ていることに。
そしてギヨームは、言葉をつむぐ。
「この野戦病院は、あなたが発端だそうですね?」
力なく、ギヨームの言葉に頷く。
この光景の発端が自分。それは事実だ。何の面白みもない、単なる事実だ。
あの日以来、贖罪のために場所を問わず、時を問わず医療行為に奔走してきた。
敵もなく、味方もなく。
国籍も宗教も人種も関係なく。
貪るように、と言う表現が似つかわしいくらいに、ただただ医療行為を行ってきた。
最初は、変わり者と笑うものばかりだった。
だがいつしか、そんな彼に頼るものが現れた。
応援し援助する者たちが現れた。
彼の傍らで、彼と同様の行為を行うものが現れた。
その評判を聞きつけて頼るものがやってきて。
さらにその評判を聞きつけて援助者達が現れて。
その末が、いま階下に広がる、野戦病院モドキだ。
しかし、しょせん個人の力には限りある。
押し寄せる人々に対し、人手も物資も時間も、あまりにも足りなすぎる。
いや、例えそれが十分であったとしても、彼に救える人間はあまりに少ない。
自身の犯してきた罪に対し、あまりにも少なすぎる!
「お分かりになりませんか、ドクトル?」
窓辺から振り返り、芝居がかった仕草で両の手を広げるギヨーム。
逆行の中に浮かぶそのシルエットは、さながら一枚の宗教画であるかのように神々しい。
「彼らは、財産も、名誉も、地位も、何も求めていない。
何の得にもならない、危険で過酷なだけのこの場所で――
ただ純真に、ただ崇高に、命を救わんと奔走している。
やがて彼らは、世界へと旅立っていくでしょう。
より多くの人々を救わんと。
より多くの幸せを守らんと。
そしてその崇高な姿に共感した人々が、
彼らを応援し、
彼らを手助けし、
彼らと手を取り合い、
彼らの志を受け継ぐでしょう。
……本当に、まだおわかりになりませんか、ドクトル?」
逆光の中で、ギヨームの口元が優しく微笑んだのが見えた気がした。
「そんな彼らの原点こそが、あなただと言うことに」
このわしが……原点?
ドクトルは、ぼんやりとギヨームの言葉の意味を考えた。
「ここであなたが救った人々は、さて何人でしょうかね? 100人? 200人?
確かに、あなたがやってきたことを考えれば、あまりにささやかな数だ。
しかし、そうやって貴方が救った命は、確実に存在する。
何の見返りも求めず、ただひたすらに命を救ってきた貴方の姿を胸に焼き付けた人々が、確かに存在する。
あなたのその姿に、崇高なる人間のあるべき姿を見出した人々が、確固として存在する。
そんな彼らが、世界中に散って、彼らの崇高な魂の命ずるままに、人々を救うでしょう。
そんな彼らの姿はまた、それを見届けたものの目に、救われた人々の胸に、
崇高な魂の姿となって残るでしょう。
そしてまた、そんな崇高な魂を受け継いだ彼らもまた、他人を救わんと活動を開始するでしょう。
そんな彼らの原点が、あなただ。
あなた自身が救った人間は、ほんの僅かかもしれない。
だが、献身的に人々を救わんとするあなたの姿を原点とするもの達が、あなたの行為を受け継ぎ、
より多くの人々を救う。
そんな彼らを姿を原点とするものが、彼らの志を受け継ぎ、さらに多くの人々を救う。
あなたには償いきれずとも、その後を継ぐ者が。
それでも足りなければ、さらにそのあとを継ぐ者達が。
いつかあなたの罪を補って余りある、多くの命を救ってくれることでしょう。
そして……」
ふと気付くと、外の様子が変わっていた。
なにやら騒がしい。いや、もとから場所が場所だけに罵声じみた矢継ぎ早のやりとりは日常茶飯事だが、
今回のそれはまたそれとは違ったものだった。
―――応援が到着したぞ!!
―――補給物資と食料もだ!
―――これで持ちこたえられる!!
漏れ伝わってくる、そんな歓喜の声。
それを背に、ギヨームは不敵に笑う。
「そしてそれを、私が守る。
あなたが原点となった救いの連鎖を、我がギヨーム財団が全面的にバックアップする。
灯されたばかりの希望の火を、私が決して消させない。
……おめでとう、ドクトル。
あなたの贖罪は、未来において果たされることが確約された」
「お、お、お、お……」
それは、甘美な言葉だった。おもわず、すがりつきたくなる。
だがドクトルには、それができない。
自らの罪の意識が、自分が救われることを拒否してしまう。
――そんな不器用な姿に、ギヨームはやれやれといわんばかりに嘆息とともに苦笑いする。
ギヨームは大股に歩き、出口へ向かった。
「……まぁ、色々話したがね、別に難しく考える必要はないのだよ」
そして、一気に扉を開け放つ。
「わわ!」「きゃっ!」「いて」「……重い」
そこに倒れこんでくる、子供の一団。
ドクトルはそちらに顔を向ける。どうやら、扉の向こうでひしめき合うように待っていたらしい。
ギヨームは屈みこむと、倒れた子供たちを助け起こす。
「あ、あの……」「……ごめんなさい」
いたずらを見つけられたかのように萎縮する子供たちに、ギヨームは優しく微笑みかける。
「怪我はなかったかい? おじさんのお話はもう終わりだ。いくといい」
「うん!」
その言葉を待っていたかのように、子供たちはわれ先にへと室内へなだれ込む。
そんな子供たちの背中を微笑ましく見送ってから、ギヨームは立ち上がり、その場をあとにする。
―――だいじょうぶ、せんせい?
―――せんせい、いたくない? いたくない?
―――せんせい、はやくよくなってね!
―――ドクトルありがとう! お母さんもうだいじょうぶだって!
―――僕のお父さんも、昨日目を覚ましたよ!
―――あのねあのね、お花つんできたの。ドクトルにあげるね!
―――ドクトル、僕もお仕事手伝ってるんだよ! それでね、僕も将来はドクトルみたいになるんだ!
―――………あれ? ドクトル泣いてるの?
―――ドクトル、泣いてるのに笑ってる。ヘンなドクトルー。
そんな声を背中に聞きながら、ギヨームは呟く。
「これが答えというのも、アリではないかな」
―――後年。
ひとりの老人が、とある小さな病院で息を引き取った。
第二次世界大戦時から戦後復興期にかけ、戦争で被害を受けた者たちを、人種国籍を問わず
救済し続けた人物である。
戦傷や疫病に苦しむ人々、貧困や差別に苦しむ人々。
そういった人々に、老人は我が身を省みることなく、救済の手を差し伸べ続けてきたのだ。
死の間際、病床に数多くの人々が感謝の言葉を述べに訪れた。
現在に至るまで、その老人の名と出自は不明のままであるが……
多くの人々に見守られて逝った老人の顔は、穏やかなものであったと言う。
そして、そんな彼の残した『種』が、受け継がれ、同じ志を持つものたちと寄り添い、
「国境なき医師団」として結実するのは1971年のフランスでのことである。
――その設立の影に、ギヨーム財団の尽力があったことを知る者は少ない。
以上。
トワイライト3巻のP297の最後の一文に、一行付け足したくて書いた。
我ながら酔った文章だとは思うが、反省はしていない。
途中、連投規制にひっかかって中断してしまった。
もし待ってた人がいたのなら、謝罪と感謝を。
763 :
NPCさん:2007/11/03(土) 23:30:54 ID:???
泣いた。マジグッジョブ!
764 :
NPCさん:2007/11/03(土) 23:35:09 ID:???
GJ!良い話だな!
765 :
NPCさん:2007/11/03(土) 23:52:45 ID:???
GJ。親父しか出ないってのがいいな、これw
766 :
NPCさん:2007/11/04(日) 00:04:56 ID:???
GJ!
767 :
NPCさん:2007/11/04(日) 00:23:00 ID:???
グッジョブ。マジでいい話落としてくれた。
中断された時は焦ったが待ってた甲斐があったよ…。
768 :
NPCさん:2007/11/04(日) 10:48:16 ID:???
くそ、泣いた。
電車の中だったのにどうしてくれるんだGJ。
769 :
NPCさん:2007/11/04(日) 11:12:57 ID:???
GJ!!!!
770 :
NPCさん:2007/11/04(日) 11:53:24 ID:???
ここまで俺の自演
771 :
NPCさん:2007/11/04(日) 11:55:24 ID:???
続編頼む!!!
思った以上に好評で、ありがたい限り。なのでちょっと調子に乗って、
>>771の要望に応えてみた。
老人は、死に瀕していた。
自身も優秀な医師であるため、余命はもはや尽きていることは自分でよくわかっていた。
だが、不思議と心は落ち着いていた。
心残りはある。後悔もあるし、償いきれない罪もある。
しかしそれでも老人の心には、「やれるだけやった」と言う充足と、彼が遣り残したことを受け
継いでくれるモノのいる安心感があった。
そんな彼の元には、ひっきりなしに人々が訪れる。
今まで、老人が行なってきた贖罪を、恩として感じた人々だ。
正直もはや、しゃべるのもつらい。
それでも老人は、訪れた人々一人一人に精一杯に笑いかけ、まだ治療の十分でないものには信頼できる
後進の者を紹介し、彼の年若い同僚達には丁寧なアドバイスを送った。
そんな人の波が途絶えた時、ふっと体が軽くなるのを感じた。
その時がきたのだな、とごく冷静に思った。
静かに目を閉じる。
走馬灯が回る。
まぶたに浮かぶのは、悠然と立つ雄々しい巨漢の背中。
そして、彼は肩越しにこちらを振り返り、笑いかける。
晴れやかに。
爽やかに。
太陽のように輝かしく。
その男の名は……
クレオパトラ・ダンディ。
「待て。なぜ貴様が出てくる」
「あらん、ご挨拶ねぇん。かつてのお仲間が天に召されようとしてるから、迎えに来たって言うのに」
「無用だ。というか空気読め空気を。ここは快男児が出てくる場面だろうが」
「あら、快男児もダンディも似たようなものじゃない」
「本編で使用済みの二度ネタを使うでない。貴様、ちょっと人気の名物キャラだからといって調子に
乗っておらんか?」
「そんなことないわよ。あえて言うなら……そうね、『ダンディは永遠にフ・メ・ツ☆』ってとこかしら」
「意味がわからん。帰れ」
「もおん、つれないシ・ト。ま、そういうのもいいんだけど」
「ウィンクするな。身を寄せるな。つつくな。顎をなでるな」
「もお、初心な人。研究一筋でこういうことに不慣れなのね?」
「男色に慣れてたまるか?! 貴様もっと論理的な会話は出来んのか?!」
「仕方ないわねぇ。じゃあ、論理的に言うわよ?」
「言ってみろ」
「そう、言うなれば……『美しさは罪』?」
「ピラミッドに埋葬されてしまえ。
――第一だ、このワシが天国になど行けるわけなかろう」
「あらん、そうなの?」
「無論だ。ワシの罪は、ワシ1人では償いきれんものだ。ましてやその尻拭いを、後進の者達に
押し付けてきた体たらくだ。どうあがいても地獄行きは免れまいて」
「そうでもないと思うけど?」
「……随分とあっさり言うでないか」
「だって、ずっと見てたもの。ナチ時代のことは置いておくとして、そのあとはずっと頑張ってたじゃない。
とってもダンディだったわよ?」
「……単なる贖罪だ。自らの罪滅ぼしのために、丁度いいものがあったから利用したに過ぎん」
「それだけだったら、あんなにお見舞いは来ないわよ?」
「…………」
「判ってくれた? じゃあ、行きましょう、心休まる天の国へ―――」
「断る。大体、貴様の導きで向かう天など、通常の意味での天ではない、もっと別の何かとしか思えん」
「この世界の創造主のお膝元よ? ホラ、間違いないじゃない?」
「ますます不安になるではないか」
「いいじゃない、とってもダンディで素敵な場所よ?」
「それが激しくダウトだと言っている」
「もう、ああ言えばこう言う……そんな分からず屋さんには、実力行使よ!
そーれー、超美麗ダ・ン・デ・ィ、スペぇぇぇぇース!」
「く、《ワーディング》か?! だがこれしきで我が知性は屈したりなどぉぉぉぉぉぉ――っ!」
――容態の急変の知らせを受けた主治医が見舞い客を掻き分けるようにしてベッドに駆けつけたとき、
もはや手の施し様ななかった。
だがそれでも彼は、尊敬するこの献身的な偉大なる名医師の命を一分一秒でも繋ぐべく、全力を尽くした。
「ドクトル! しっかりしてください、ドクトル!
僕はまだ、ドクトルに教えていただきたいことがたくさんあるんです!
ドクトルには、まだ感謝の言葉だって言い足りない!
だから、だから!」
「………………ぁ………………」
「え? なんですかドクトル!?」
「………………ぁ…………ディ……」
「聞こえません! ドクトル! 何を言おうとしているのですか?! ドクトル? ドクトル!」
「………………先生、患者はもう……」
「………………………そうか……」
主治医は、ずっと握っていたドクトルの手を、胸の前で組ませた。
そしてしばし瞑目。
「おやすみなさい、ドクトル………いままで、本当にお疲れ様でした」
そして主治医は、天を仰ぐ。その目じりには、光るものがあった。
「……僕は無力だ、身を託してくれた大恩人に対し、何も出来なかった……」
「そんなことありませんわ、きっとドクトルも、先生には感謝しています」
「……そうだといいんだけどね」
「きっとそうですよ。先生、見てください、患者のこの穏やかなお顔を………」
「………ああ、そうだね。まるで待ち焦がれた人に再会できたかのような、満ち足りた顔だね………」
「はい………」
以上。これにて本当に打ち止め。
私の好きな物語上のキーワードが三つあって。
一つ目は「誠実な行動が、正しく報われる」、
二つ目は「誰かと判り合い、絆が生まれる」。
で、最後の一つが「全部台無し」だったりするのです。
うん、まぁ、あれだ。
クレオパトラ・ダンディはリプレイ史上に残る名キャラだねってお話。
777 :
NPCさん:2007/11/04(日) 16:33:02 ID:???
>>772 この野郎!変なもの読ませやがって!GJ!なんだが笑っちまったじゃねえか!
778 :
NPCさん:2007/11/04(日) 18:43:08 ID:???
フイタw
泣き笑いしてるよw
王子の天国じゃなく天の元へ逝ったかw
779 :
NPCさん:2007/11/04(日) 19:52:31 ID:???
感動した!
780 :
NPCさん:2007/11/04(日) 20:24:23 ID:???
てめ、笑い死なせる気かこのGJ!
ドクトルの最期の言葉…それでいいのかよw
781 :
NPCさん:2007/11/04(日) 21:09:52 ID:???
7度読み返して、その度に涙した。
782 :
NPCさん:2007/11/05(月) 08:26:56 ID:???
マシーネン・ヤーパン並に台無しだw
あんたのSSすげー好きなんだが、サイトとか持ってないかい?
783 :
NPCさん:2007/11/05(月) 16:53:24 ID:???
あげる必要がありそうだ
784 :
NPCさん:2007/11/13(火) 12:41:20 ID:???
>>778 個人的には、王子の地獄と天の天国の二択、な気もするな。
…どっちがマシなんだか…
785 :
NPCさん:2007/11/15(木) 08:35:35 ID:???
>>784 真面目だがガチ過ぎな鬼にこづきまわされるか、大惨事な天使につきまとわれるか…
確かにどちらも御免被りたいよなあw
天ヒロインな天使っ子……(ごくり
787 :
NPCさん:2007/11/19(月) 06:14:16 ID:LqdNvBRQ
>786
>天ヒロインな天使っ娘
ただし声としぐさは田中天
788 :
アマいもん:2007/11/19(月) 08:27:20 ID:???
髪型は田中天! 声は田中天! 萌えるしぐさは原始の田中天!
……それは田中天じゃろか。
789 :
NPCさん:2007/11/19(月) 10:34:41 ID:???
そりゃ快男児も拳を突き出す
790 :
NPCさん:2007/11/20(火) 08:25:47 ID:???
むしろ"s"がリニアキャノンで突っ込み入れるw
とりあえず、柊蓮司卒業記念投下
* * *
「「「かんぱ〜いっ!」」」
「柊先輩、卒業おめでとうございます」
「みたかマサト! 俺はやったぜ、卒業してやったぜ!」
「……卒業したぐらいで胸を張って、どうするんです? 今までは『不幸学生』で済んでましたけど、これからは『不幸』ですよ、ただの『不幸』」
「ちょ、篝!」
「ただの言うな! ただのって!」
「……ツッコむとこは、そこなんですか?」
「柊蓮司……」
「おぅ、あかりん……。……それは何だ?」
「お弁当。命と私からの卒業祝い」
「えーと……、その命が見当たらないんだが?」
「命は目覚めたばかりだから、無理はできない。だから、今日はお休み」
「……ははは、な〜んだ。そいつを食ったからいないのかと思ったぜ」
「そう。このお弁当は、命が味見しながら私が作った。『……ああ、ヴァルハラが見えるよ』と、命は言っていた」
「……謹んで遠慮「……ガンナーズブルーム」
「よかったですね(ちっ)柊さん(けっ)卒業おめでとうございます。これで、これからは任務に集中できますね(面白くありませんねー)」
「本音駄々漏れなんだが、アンゼロット」
「ところで、先の戦いでロンギヌスメンバーに若干名の空きができたのですが……」
「断固として拒否する」
「柊さんはロンギヌス・ヒイラギ1号として登録させていただきました。よかったですねー」
「よくねーだろうがっ! つーか、ヒイラギ1号ってなんだよ!」
「そうですぞ、アンゼロット様。柊蓮司は、我々聖王庁が預かります」
「まぁ」
「行かねーから! ロンギヌスにも、聖王庁にもっ!」
「──では、ロンギヌスから聖王庁に出向。ということではどうですかな? ……とりあえず、このくらいで」
「あらあら、柊さんは、何度も何度も世界の危機を下げている人なんですよ。せめてこれくらいは……」
「おおおぅ、なんというっ! 無辜の人々の善意でなりたっている聖王庁に、このような暴利! ──というわけで、この当たりが限界ですな」
「聞けよ、おまえらー」
「柊先輩、卒業おめでとうございます」
「おぅ、エリスも進級おめでとうな」
「うんうん。それもこれも、毎日毎日れん…柊を、私が学校に引っ張って行ったおかげね」
「ご苦労様でした、くれは先輩」
「……どっちかつーと、俺が登校に付き合ってたんであって、……というか、学校に行ってただけで、出席は出来てなかったよーな……」
「くれは先輩はご実家のお手伝いですよね? 柊先輩は進路、どうされるんですか?」
「…………」
「はわわっ。えーと……うちで、バイトする?」
「……考えとく」
「ふふ、よかったわね、柊蓮司。あれだけ散々アンゼロットにこき使われて、それでも無事に卒業できたんだから」
「いやー、まったく……って、ベール=ゼファー! なんで魔王がここにいるんだ!」
「あら、私は大魔王よ。どこにいてもおかしくないわ」
「そーいう事じゃないだろうが!? 何しに来たんだ!」
「あら、敵同士とはいえ何度も一緒に戦った仲じゃない、つれないわね。んー……そうね、とりあえず行くところがないならうちに来る?」
「行くか!」
「ちゃんと有給あげるわよ」
「有給…………。はっ! ……相手は魔王、相手は魔王! そんな誘惑に乗っちゃー駄目だー、ダメだ──!!」
「──貴方、どれだけアンゼロットに搾取されてるのよ……」
「我が名は秘密公爵リオン=グンタ。ちなみに、柊蓮司がこれから受け取る給金は残ら……」
「止めろっ、止めてくれ──!! あーっあーっ! 聞きたくない、聞こえな──いっ!」
ガラガラガラ
「a──Hahahahah、Master卒業お……」
ピシャ
798 :
NPCさん:2007/12/29(土) 10:49:44 ID:???
「は〜、卒業出来て良かったわ〜。これで、父さん母さんにも顔向けできるってもんよ」
「いや〜、心配掛けて悪かったな姉貴。だがこれで、俺も立派な高校卒業……」
ぱーぱらぱら
「ちょいまち、電話。
『はい、柊……。えっ、荻原? 輝明学園の校長先生!?』
……えーと、蓮司。なんかさ、何度調べなおしても単位を取った記録が残ってないんだって。まるで『下がった』みたいにないんだって。だからさ、明日からも学校に来いって」
「…………。はっ? え? ……ちょ、ちょっと待てくれ!? ど〜いうことだそれはっ!!」
ぱーぱらぱら、ぴ
「待ちません柊さん、任務です。さ、さっそく現場に向かってくださいな」
ぱーぱらぱら、ぴ
「ふむ、柊蓮司。侵魔が出現したそうだ、向かうぞ、神の試練だ」
ぺらぺら
「……ベル」
「はぁ、パールがまーたよからぬことを考えているようね。行くわよ、柊蓮司」
「それで柊先輩。結婚式は何時にしましょうか? 新婚旅行は熱海がいいですね〜。子供は何人にしましょうか? 私は男の子と女の子一人ずつが希望で〜、それからそれから……」
「柊蓮司……。憎い憎い憎いshineshineshineshineshine..」
「絶滅社では、若い力を募集中でどりぃ〜む。連絡先は↓のTEL番号でどりぃ〜「柊くん「柊先輩「柊「柊さん「柊蓮司……」
「おぉおお俺にいったいどうしろと……!」
「……モテ…モテ…だね、お兄ちゃん……。うん、みんなのお願いを叶えてよかった……。……のかな?」
「よくない、よくないぞっ! 叶える願いはもっと吟味するべきだっ!」
「はわわ。……あー、えーと、うん。いってらっしゃーい。がんばってねー、蓮司ー!」
おしまい
* * *
反省? なにそれ、美味しいの?
800 :
NPCさん:2007/12/30(日) 09:13:28 ID:???
おつ!
どのキャラもそれらしくていいな!
801 :
NPCさん:2007/12/30(日) 23:55:13 ID:???
GJ!
エリスからの呼称が先輩だったり、TISがいることを考えると
アニメと小説版の合いの子ぐらいの設定か。
802 :
NPCさん:2008/01/20(日) 21:58:22 ID:???
しかしここも空疎だな。
803 :
NPCさん:2008/01/24(木) 15:53:12 ID:???
前に地下で愚痴ったらこっちで投稿すりゃいんじゃね?と言われました。
そんなわけで書きあがったもの、はじめてこういうところで投下してみたいと思います。
よろしいでしょうか?
返事があった、もしくは無言で3分立った場合投下したいと思います。
804 :
NPCさん:2008/01/24(木) 15:59:09 ID:???
では。
元ネタ:ナイトウィザード+α。α部分はオーラスしか出ないんで9割NWです
注意:きくたけリプのネタバレが含まれます。
少なくともNWのみこシリーズは全部読んでいる方でないと確実にネタバレます。
「全部読んだぜよっしゃ来い!」という方や「ネタバレ上等ォォォ!」な方はどうぞ。
「え?ネタバレなんて困るよぉ、おにいちゃん」というかたはブラウザをすぐ閉じましょう。
大丈夫ですね?では。
―――それは、いまはむかしのおはなし。
歴史の裏に消えてしまった、一つの流れが結末へ至るまでの物語。
集う英雄達が世界を守る話でなく
選ばれし者がとらわれの姫を助ける話でなく
裏切りを粛清しようと激情にかられる哀れな娘と
―――ほんの少しだけ、諦めるのが早かった愚か者のお話。
act.1 <last of firestarter>
雲一つない青空の下、海風吹き荒れる崖の上。
ただただ何もない野原に、一組の男女が向かいあって立っていた。
間は10mほど。その間に流れるのは、けして暖かいものなどでなく。ただぴんと張り詰めた空気だけだった。
男が、疲れたようにため息をつきながら問う。
「何回か襲撃はかわしてきて、最近ぷっつり来なくなったから諦めたかと思ってたのにな。
今度はお前かよ、翡翠」
翡翠と呼ばれた女は、その藍玉のごとき蒼の瞳にありったけの激情を込め、男を睨みつけて答える。
「お前を、私達が逃がすと思っているのか。
人類の希望を絶った大罪人。我らが仕えるべき方をその手にかけた裏切り者を」
まだ年の頃は16、7といったところか。
幼いともいえるその容貌からは想像がつかないほど、壮絶な怒気を放ちながら翡翠は男を睨みつける。
怒りで人が殺せるのならば、まさにその威を発揮できるだろう敵意を、男は何の気負いもなく無視してもう一回ため息。
半眼で少女を軽く睨みながら、再びの問いを放つ。
「それで。やる気なのか?」
まるで夕飯の献立をたずねるかのような気安い言葉に、翡翠は一瞬呑まれかける。
彼女は相手のことをよく知っている。こんな自然体から、幾度となく刹那の合間に敵を狩ってきた剣士であることも。
ここで是と答えれば、確実に彼を敵に回すことを理解している。
だからこそ、退りそうな足に渇をいれて叫ぶ。己がこの戦場から逃げないために。
「うるさいっ……お前のせいで、どれだけの人間の運命が狂ったと思っている!?
世界を守るために集められた者たちは一人、また一人と消えた!巫女様方は亡くなられた!世界は幾度も犠牲を払った!」
血を吐くような呪詛の言葉。それを浴びながら、男は拳を強く握り締めるが、その表情は変わらない。
そして男は、目の前の敵に向けて淡々と言い放つ。
「―――言いたいことはそれだけかよ?」
その切り捨てるような言葉を聞き、翡翠は今までこらえていた全ての枷を解き放つ。
身を焼く激情にかられながら虚空へと手を伸ばし
―――何もないはずの空間から、両刃の剣を抜き出した。
装飾は少なく、オーソドックスなスタイルの西洋の片手半剣。
鞘は見当たらず、どちらかというと実用的であろうその剣は、2箇所ほど通常の剣とは違う目を引く場所があった。
一つは刀身に彫りこまれた淡く輝きを放つ呪刻印。
見るものが見れば、その刻印は遠く北欧の地に伝わる『表威文字』・ルーンであることがわかるだろう。
そしてもう一つは、鍔の中心に据えられている青いオーブ。その玉が不思議な力を纏っていることは、見た者全てに伝わるほどだ。
それらの特徴は、彼女の引き出した剣がこの世の常識に測れぬものであることを示している。
地獄の底から響くような声で、翡翠は問う。
808 :
NPCさん:2008/01/24(木) 16:26:00 ID:???
支援が必要か?
809 :
NPCさん:2008/01/24(木) 16:37:49 ID:???
うんこかけるぞこら
810 :
NPCさん:2008/01/24(木) 19:29:01 ID:???
ごめんなさい、連投くらった後用事で今日は触れそうにないです。
明日投下続きしにきます
811 :
NPCさん:2008/01/25(金) 00:30:27 ID:???
おぉ待ってた。
「お前こそ、死の間際の言葉はそれでいいんだな?」
「冗談。俺にもまだやりたいことがあるんでな、そう簡単に殺されてなんぞやらねぇよ」
ありとあらゆる怨嗟を詰め込んだようなその言葉を、何事もなかったかのように軽口で返しながら、男もまた虚空へと手を伸ばす。
その先から引き抜かれたのは、翡翠と同じ形、同じ装飾の剣。
たった一つ異なる点は、鍔のオーブの色が違うことだけ。
それを利き手に握り、男は翡翠へと語りかける。
「来いよ。久しぶりに相手してやる」
「その言葉、後悔させてやるっ!」
そうして少女は地を蹴った。
***
天空に紅い月が昇る時、世界は『敵』に侵される。
月の門を通りて現れ来るのは魔の眷属たち。
人の子は魔の眷属に対し抗す力を持たない―――人知れず、壊れゆく世界。
そんな紅い月の下を、駆け抜け魔を狩る者の存在があった。
人々に忘れ去られた魔法の力をもって、紅い夜を駆け夜に闇を取り戻す者たち。その名は―――
夜闇の魔法使い(ナイトウィザード)。
act.2 <GIRL meets boy>
翡翠は、その家に養女としてもらわれていくことになった。
初めて来た日のことは、いくつになってもはっきりと思い出すことができた。
翡翠の生まれた小さな村は、侵魔との戦いに巻き込まれて村ごと消滅した。
その事件で、5歳だった翡翠はただ一人生き残った。
理由はわからない。
侵魔が見逃したのかもしれないし、あるいは後に翡翠がなることとなるウィザードとしての素質が彼女を守ったのかもしれない。
それでも結局、彼女が身寄りを失ったことにはかわりはなかった。
身寄りを失った翡翠を見つけたのは、侵魔に村が襲われたことを知り、訪れた近くのウィザードだった。
侵魔関係で身寄りを失った翡翠のことを不憫に思ったのだろう。そのウィザードは知人の家に彼女を預け、養子とすることにした。
そして彼女は、とてつもなく大きな木の門の前に立つことになる。
少女を拾った男が中から出てきた大男と話をしている。
難しい話をしていたのはわかるが、彼女には何を話しているのかまではわからなかった。
話が終わるか終わらないかの内に、翡翠は中から出てきた大男に手をひかれた。
彼女は、急に怖くなって自分を拾った男の方を見る。
男は、翡翠の方をしっかり見て言った。
「恐れることはない。この方はお前の父となる方だ」
翡翠にはその言葉の意味はわからなかった。けれど、男が真摯な目でそう告げたので、そうなのだろうと納得した。
怖がることはない、そう心の中で繰り返し、大男の手を握り返す。
怖くないわけがない。誰一人見知らぬ土地で、何が起きるかわからない不安で翡翠は押しつぶされそうだった。
大男はそんな華奢な少女の手を握ったまま、やや質素なつくりの屋敷の中に入っていく。
屋敷をある程度連れまわされた後、とある一室に入ると、その部屋には先に二人の人間がいた。
板張りの―――後に道場という場だと知る―――部屋にいたのはどこかやる気のない、翡翠よりも大分年が上であろう娘。
そして翡翠と2、3しか違わないだろう、その瞳を楽しそうに輝かせた活発そうな少年だった。
初めて会った時のことを、翡翠はいくつになっても忘れない。あれほどに鮮烈な出会いは、おそらくはこれからもないだろう。
自己紹介をされ、翡翠は戸惑う。
何をどうしていいのかわからない翡翠は、おどおどとしていた。それを見て、少年が翡翠に近寄ってくる。
彼女があまりの事態に混乱していると、少年ははっきりとした声でたずねた。
「お前、名前は?」
強いまなざしにさ混迷を深めながら、それでも何を話せばいいのか方向性を与えられた彼女は、泣きそうになりながら答えた。
「ひっ……ひすい、です」
「ヒスイ?
うん、いい名前だな。よく似合ってる。姉上とは大違いだ」
「なーにか言ったー?この馬鹿愚弟」
少年が一言余計な言葉を付け加えるのを聞いていたらしい年上の女性は、表情を変えぬまま少年に向けて容赦なく拳骨を落とした。
人間からしたとは思いがたい音を立てながら、顔面から板張りの床へと墜落する少年。
あまりの音に、少年が死んでしまったのではないかと翡翠が心配になったほどだ。
しかし直後、少年はがばりと身を起こして女性へと猛然と抗議する。
「何すんだこの暴力姉っ!」
「アンタの言葉の暴力のせいであたしの心は酷く傷つきました。慰謝料としてとりあえず巻き藁の刑に処そうと思うんだけどどう?」
「イヤに決まってんだろうがっ!?っつーかその程度で傷つくほど繊細な神経してねぇだろ―――」
「はぁい、今の言葉で刑が今すぐここでリンチにレベルアップしました。―――ってわけで、死ね」
どこからか取り出された木刀によって少年を唐竹割りにせんとする女性。それを神がかった反射神経によって白刃取りする少年。
ぎりぎりと力が拮抗する中、その緊張感に満ちた時間は唐突に終わりを告げた。
終わりを告げたのは、今までそのやりとりを見ていて混乱の局地にあった翡翠だった。
正確には。きゅるるるる、となんともかわいらしい生理現象が部屋中に響いてしまったからだったのだが。
その音に顔をりんごのように赤く染めて恥ずかしそうにうつむいてしまう翡翠。
恥ずかしさで頭が満たされてしまい、この場から消えてしまいたいほどの衝動にかられる彼女に、声がかかった。
「そーいやもう昼飯時だっけ、俺も腹減ったー。話はここじゃなきゃできないわけでもないし、昼にしようぜ」
「……それもそうね。何より今日から新しい家族になる子にひもじい思いさせてるとあっちゃ家の恥だし」
少年の声に、女性が頷いて木刀を納める。
助かった、と小さく呟いて、少年は翡翠の正面までやってくると手を差し出した。
彼女は差し出された手の意味がわからず、じっとその手を見ていると、少年は言った。
「ほら、行くぞ。お前まだどこに何があるかわかんねーだろ?」
その言葉は乱暴だったがどこか優しくて、おずおずと掴んだ手は暖かかった。
act3 <eve>
「ひーっすい」
翡翠は自分に呼びかけた人物の方を見て、微笑んだ。
「みやこ姉さま。ただいま戻りました」
名を呼んだ人物……義理の姉にあたるみやこは、いつも変わらぬ無愛想な表情の中で少しだけ楽しそうに笑った。
翡翠がはじめてこの家を訪れてから、10余年の時が過ぎた。
その間、様々なことがあった。
義理の兄やみやこと共に日々を過ごしながら、家に伝わる剣術を学んだこと。
家伝の二振りの宝剣の所持者の一人として翡翠が選ばれたこと。
この世界を侵す魔に対抗するための切り札の一つであるその宝剣を持って、翡翠が戦場に立つことになったこと。
義理の兄と共にその宝剣を持って、様々な仲間と出会ったこと。
守るべきであり、自身の生涯をもって仕えるべき人を見つけたこと。
そんな波乱に満ちた人生を送る翡翠の、よき理解者となってくれたのがみやこだった。
義理だとか血がつながっているだとか、そんなことは小さなことだと言って。
何度翡翠と一緒に笑ってくれたかわからない。
もっとも翡翠は、細かいことにこだわらないのは
多数の門下生を抱えて同じ屋根の下で暮らす者に対して寛容なこの道場そのものの家風のような気もするのだが。
「無事なようで何より。
お役目の方は大丈夫?仲間内でセクハラ働く奴がいたら言いなよ、山に埋めてきてやるから」
「大丈夫ですよ、皆真剣にお役目に取り組んでます。
―――みんな、早く青い空を取り戻したいですからね」
―――今現在。世界は未曾有の危機にさらされていた。
空に妖しく輝く紅い光の群れは、真昼でも燦然と輝き、空を赤く染め上げていて。
同じく、真昼の空に六つの星が突然に現れた。
かつて青かった空が青さを取り戻すことはなく。
世界の異変にいち早く気づいた一人の方士(風水術師のこと。NW的には陰陽師)が連なる山々を利用し、
巨大な結界を施すことで世界中に異常現象が伝播することを防いだ。
方士は自らの命をもって封印と成し、その強力な結界により侵魔達もこの周辺にしか巨大な力を振るうことができずにいる。
そして、侵魔による大規模な侵攻を終わらせるために立ち上がったのが青い髪の女神だった。
彼女はこの土地の守り神であったが、非常に情け深く、また人という存在を深く慈しんでいた。
ゆえに、この地に住まう人々を守ろうと立ち上がった。
この地に住まうウィザード達は、ある者は自分達の住む村を守るため、ある者は世界の危機を結界の内側だけで終わらせるため、
皆それぞれの理由でそれに合流していった。
そのウィザード達の軍勢は、それまであったしがらみや宗派別の対立など忘れ、ただ世界を守る為だけの軍勢に成り上がる。
今やその軍勢はもととなった青い髪の女神、彼女が危機に立った時に現れた吉兆の月よりあだ名をつけられた「蒼き月の神子」だけでなく、
神である女神とほぼ同じという強い光を放ち、祈りによって人々に活力を与える「紅き月の巫女」とその従者にして恋人のヒルコの担い手。
大きな神の力を下ろす依代とされる巫女の家系より輩出された最高の依坐、
「星の巫女」と彼女を守護する宿命を抱いた七本の魔剣を持つ守護剣士、そして「星の勇者」。
大戦団となったウィザード達は彼らを旗印として集い、世界の滅びに一歩も引くことなく立ち向かっていた。
真剣な表情になった翡翠の固さを取るためなのか、みやこは小さくため息をついて翡翠と共に「お役目」につく家族のことを切り出す。
「それで、あいつは今どこなわけ?一緒に帰ってくるはずでしょ?」
もしかして死んだとか?と軽く言うみやこ。
死線を日々くぐる生活である弟に対する発言であるとは到底思えないが、
長い付き合いの翡翠には、それが彼女なりの照れ隠しであることはわかっている。
くすりと笑って、答えた。
「えぇ、にいさまは出る前に少し蒼神子様に呼ばれて。なんでも大切なお話があったそうで」
「先に出てきちゃったってこと?」
「はい。蒼神子様もそう長い時間は取らせませんって言っていましたからね。すぐ帰ってくると思いますよ」
「ふぅん。昨日かえでちゃんがあいつのことたずねに来たから会いに行ってやれって言おうと思ったんだけど」
「―――そう、ですか。かえでさんが」
翡翠の顔が少し強張る。
かえで、というのは近所の神社の娘で翡翠と兄の幼馴染である。三人で家族同然に育ったため、姉のようにも思える相手だ。
幼い頃から翡翠や兄を引っ張りまわしては笑っていた少女で、翡翠の仕えるべき「星の巫女」の妹でもある。
うんうん、と頷きながらみやこは続ける。
「お姉さんのことも心配なんだろーね。
かえでちゃんも一緒に行きたいだろうけど、あんだけでっかい神社じゃ跡継ぎのことなんかもあって大変だろうし」
「そうですね。……ところでみやこ姉さま、私お腹すいちゃいました。何かありませんか?」
翡翠の言葉に、みやこが笑って二人は屋敷の奥に入っていった。
兄が帰ってきたのは、夕食の準備がちょうど終わった時だった。
翡翠は彼を笑顔で迎え、みやこは彼を運のいい奴、と睨んだ。
―――その光景が、翡翠が10余年過ごした中で『家族』としてあった最後の時となった。
―――翌日。
世界は一変する。
ct-outer 1 <星空と約束>
夜空。
星の海と言いかえてもいい満天の星空の下に立つのは、一人の青年と娘だった。
言葉少なに、青年が告げる。
「……悪い。約束、守れなくなる」
それに対する娘の反応は、激昂するでも泣き喚くでもなく、ただ平静だった。
「……諦めちゃうの?」
彼女の言葉に、青年は自身を嘲笑うように力なく笑った。
「だな。……全部考えた上で、これしかないって思っちまってさ」
情けねぇな、と。どこか悔しそうに、彼は言う。
青年は娘に全てを告げたわけではない。何があったとも、何を成すとも言っていない。
けれど娘にとっては青年のその言葉だけで。
それだけで、彼がもう帰ってくる気がないことだけは理解できたのだろう。
それがイヤでなかったわけがない。
これまでずっと一緒に育ってきて。一生に関わる大切な約束をして。
淡い思いを寄せる相手が帰ってこないということが、イヤでなかったわけがない。
それでも、少女は笑顔で青年に振り向く。
「しょうがないねぇ。じゃあ、ずっとここで待っててあげる」
「は?……お前、人の話聞いてたのかよ?」
「しっつれいねぇ、ちゃんと聞いてたわよ!
だから、ずっとここで。この場所で待っててあげるって言ってんの!
たとえあんたがもう戻ってこれなくても、あんたが転生するなりあんたの相棒が戻ってくるなり―――
ともかく、あんたがここに戻ってきたって私がわかるまで。いつまでだってこの場所であんたを待ち続けてあげるって言ってるの!」
その宣言を聞いて、一瞬目を丸くする青年。
次の瞬間彼は笑いをかみ殺しながら、ぽんぽんと自分よりも小さな幼馴染の頭を柔らかく撫でつけると、
視線を合わさぬまま、すれ違いながら言う。
「ばーか。そんなことしてないで、さっさといい男見つけて。元気なガキ生んで。幸せに暮らせよ」
「ばかとは何よ大ばかのくせしてーっ!」
大声で怒鳴る彼女に背を向けたまま、青年は苦笑して―――告げる。
「あーはいはい……かえで」
「なによ、大ばか」
「―――じゃあな。達者で暮らせよ」
娘―――かえでは。青年の背中をじっと見たまま、とうとうその言葉に返事を返しはしなかった。
青年の背中が見えなくなるまで、かえではその背中を睨み続け。
見えなくなった瞬間、その頬に輝線が引かれた。
透明な雫が生み出した線は、星の輝きをはねかえしてきらきらと輝く。
彼女は、見えなくなった背中にぽつりと呟いた。
「……だから、待っててあげるって言ってるでしょうが。
さよならなんかしてたまるもんですか、大ばか」
821 :
NPCさん:2008/01/25(金) 17:08:11 ID:???
しえん?
act4 <be saved the world -after->
金色に輝く髪を揺らしながら、憂い顔で遠くを見つめる女がいた。
彼女がいる部屋の襖が静かに開かれる。
「お呼びですか、暁の巫女様」
入ってきたのは翡翠だ。
その表情はどこか張りつめたものであり、彼女が緊張していることがありありとわかったのだろう。
日の出すぐの空のように金色に輝く長い髪をゆらし、暁の巫女と呼ばれた女は柔らかに微笑んだ。
「そんなに緊張せずともよい、翡翠。
私は別に、そなたを罰しようとしているわけではないのだから」
「ありがたき、お言葉にございます」
翡翠は辛うじてそれだけ告げると、再び押し黙ってしまった。
そんな彼女から目を背け、再び虚空を見る暁の巫女。静まりかえった場で、憂うように巫女は呟いた。
「……二人の巫女の葬儀が終わって、はや一月か。早いものだな」
大きな戦いがあった。
侵魔の群れとの最初で最後になるだろう大きな衝突が。
その中で多くの命が失われ―――そしてその最中、宿命によって縛られた巫女が、それぞれの命を散らしていった。
決戦以後、嘘のように侵魔はこの地から消え―――世界は救われたのだった。
人類陣営に最後に残った巫女である暁の巫女は、
戦う力を持ち合わせてはいなかったが、その神がかった戦略指揮で常勝の女神として崇められていた。
その巫女の力をもってしてさえ、戦場で失われる命はある。
彼女は全てが終わった後も、その償いと称してその地に留まり、事後処理をしていたのだった。
世界が救われて一月。その間目まぐるしい時間をすごした彼女の仕事は、あと一つを残すのみとなった。
巫女は、翡翠を憂いの表情で見た。
「のう、翡翠。そなたは成そうとしていることの重さを、本当に理解しておるのか?」
「私の成すことは裏切り者を狩り、家名に泥を塗った恥さらしを斬ることのみ。
成すべきを成す、そのことになんの重みを感じましょうか」
彼女の青い双眸に高熱の火が宿る。それは、紛れもなく彼女の本気の怒りのあらわれだった。
それを鏡のような銀色の瞳が見返す。
「だが翡翠よ、そなたが斬ろうというのはそなたの兄であろう」
「あのような者は、もはや兄でも血縁でもありませぬ。剣術の名家の名を地に落とし、すでに父もあれとは縁を切っております。
そも私は養子。血のつながらぬ兄など、他人も同然でございます」
憎しみさえこもった声で、翡翠はそう答えた。
先に言った決戦の前日。翡翠の兄は信じられない行動をとった。
人類陣営の旗印であった「蒼き月の巫女」を、星の巫女を守るための剣で殺め、逃走したのだ。
当然、人類陣営は大混乱に陥った。その隙をつき、侵魔の軍勢は一気に侵攻を開始。
それでもなんとか持ちこたえ侵魔を倒しきったのには、常に後方で的確な指示を下し続けた暁の巫女の存在があってこそだ。
しかし。
旗印を失い、神子に仕えていた使徒はいずこかへ消え、また有能な剣士が一人逃亡したことで
戦力が大幅に減っていた人類陣営は、大きな犠牲を払うことになったのだった。
この一月、その裏切り者を処断しようと守護剣士も含め何人もが幾度となく派遣されたものの、
いずれも敗北してこの地へ帰ることとなっている。
翡翠も何度も立候補したものの、兄弟殺しをさせるわけにはいかないと思われたのか、肉親として手心を加えると思われたのか。
一度たりとて許可が下りることはなかった。
けれど、いく度もの派遣の末心を折られたか志願する者がいなくなり、ついに翡翠のみとなった。
彼女の覚悟を問うため、暁の巫女は翡翠を呼んだのだった。
暁の巫女は憂いの混じったため息をつき、翡翠に言った。
「そうか……ならば、何も言うまい。
翡翠よ、無事に帰ってきておくれ。そなたまでいなくなってはさみしい」
「私ごときに、ありがたきお言葉でございます……必ずや、裏切り者を仕留め。巫女様の前に戻ってごらんにいれます」
では、失礼いたします。と翡翠はその部屋を出て行った。
その部屋に残された暁の巫女は、気配の去っていくのを感じながら一つため息をついて、
―――その唇を、酷薄な形に持ち上げた。
act5 <doublecross-wybarn −たった一つの、さえたやり方−>
その光景を見た翡翠は、思わず目を疑った。
裏切り者とはいえ、人類勢力のうちで三指に入るとうたわれた剣の使い手。
それこそが彼女の兄であり、それを彼女は誇らしく思っていた時期もあった。
その彼が。
今、翡翠の目の前で。
……どう見ても、子供のおもちゃにされていた。
「なー、にーちゃんおんぶー」
「おにいちゃんおにいちゃん、これー。これがほしいー」
「ねぇおにぃ、清音と八重どっちが可愛いと思う?はっきりしてよっ!」
「お兄さん、竹とんぼが壊れてしまったんだがどうしたら直るのかね」
そう口々に言い放ち、座っている青年にわらわらと群れる子供たち。
彼らの中心に立って子供たちに遊ばれているのは、かつて「人類勢力のうちで三指に入るとうたわれた剣の使い手」。
「つかさ、見りゃわかるだろーが。今志保と清隆背負ってんだから無理だっての。
つばき、そんなんでよけりゃもってけ。今の俺には必要ないもんだし。
清音、八重がまたため息ついてるぞ。それと、どっちも美人になりそうな顔立ちしてると思うぜ。
右京之介、どこをどうしたら竹とんぼが繊維に逆らって真っ二つになるのかわからんがそこまで壊れたなら作り直した方が早い」
待ってろ、と言って、両手であまりそうな数の子供をあやしながら、月衣から一節の竹と小刀を取り出し、慣れた様子で割って削りだしていく。
あっという間に竹とんぼの形になった竹を、竹とんぼをねだったまだあどけない子供に手渡す。
竹とんぼを受け取った少年は、満面の笑顔を浮かべてさっそく竹とんぼを空へと飛ばす。
青い空に、白と緑が円を描きながら舞った。
そういえば、このところとんと空を見ていなかったな、とぼんやり翡翠は思った。
あの紅い空を見るのがイヤで、青い空を取り戻すために彼女は剣をとった。
だから、一月前のあの日は翡翠にとって願いの叶う日のはずだったのだ。
なぜ忘れていたのだろう、と少し疑問に思って、長い間紅い空を見ていたせいで慣れてしまっただけだろうな、と適当に結論づけた。
ぼうっと空を見ていた翡翠の前を、先ほどまで青年に絡んでいた子供たちが駆けていく。
あわてて見つからないように木の影に隠れる翡翠。
幸い、子供たちは気づくことなく走り抜けていった。
突如追い込まれた緊張を解きふぅ、と胸をなで下ろす。
その時だ。
「おい」
今度こそ心臓が止まるかと思った。
声をかけてきたのは、先ほどまで子供たちに囲まれていた青年だ。
それは恐怖によるものではない。殺気も敵意もこもっていない懐かしい声に、彼女は一瞬だが戦意全てをくじかれそうになった。
先ほどの光景が彼女の思い出をゆるがした結果だったのだが、渦巻く想いに囚われた翡翠はそんなことに気づきはしない。
彼女は大きく息を吐き出し、決意を新たにする。
それを待っていたかのように間をおいて、声は続く。
「ここじゃ、いつさっきのガキ共に見つかるかわからねーからな。何も知らないガキ共巻きこむのはそっちの本意でもないだろ?
ついてこい、こういう血なまぐさいことにちょうどいいとこ見つけてある。案内してやるよ」
その言葉とともに、相手は先に歩き出す。
声をかける隙も与えられず、あわてて追いかける。
それは、子供の頃からの彼女の定位置で……昔を少し思い出しかけて、それが表に出てくる前に無意識下で封じ込めた。
***
鋭い踏み込み。呼気を吐き出しながら、一閃。
彼女の鬼気迫る剣撃を、受け止め力任せに弾き返す。勢いに踏ん張りきれず一歩退った翡翠に、容赦なく袈裟懸けの一撃が放たれた。
翡翠はそれを受け流せる体勢ではなく、できたことといえば剣を盾代わりに差し出すことだけ。
それでも、それは彼女の命を救った。
苛烈な一撃は翡翠を剣ごと大きく吹き飛ばす。
間合いが離れ、どちらにとっても攻撃の当たらない位置。戦うのなら距離を詰めるのは必須。
けれど、無防備になった翡翠を刃が襲うことはなかった。
青年は翡翠を吹き飛ばしたその位置から一歩も動かず、魔剣を肩に担いで呆れたように呟いた。
「それで終わりか?」
その言葉が、翡翠の心を激しくかき乱す。
見たことのある光景が重なって、心が折れそうになる。
剣術の稽古が辛くて泣いてばかりいた自分の、手をとる手があった。
「だったら帰れ、お前じゃ俺には何回やっても勝てねぇよ」
迷子になった自分が、その背を見失わないように歩調を合わせていた足音があった。
「別にわざわざ俺を殺しに来なくたって、もう普通に生きていけるだろ」
幼馴染の少女と二人でいるところを見ると、時に泣きたくなるくらい切ない気分になる背中があった。
「世界はとっくに救われたんだ。後は嫁にいくなりなんなりして、普通に暮らせばいいだろ」
「―――だまれ」
いくつも湧き上がる幻視に、翡翠は激情でふたをしようとする。
彼が自分達を裏切ったのは事実。そして、その裏切り者を斬ると言い出したのは彼女自身だ。
だから、過去などは忘れて役目に専念せねばならない。そうして、激情をたぎらせる。
「お前は、自分がやったことで何が起きたかわかっているのか」
剣を握り、激情を迸らせて立ち上がる。
逆に言うのならそうしていなければその場に崩れ落ちてしまいそうだった。
そのために、彼女はもう一度自身の心を確認する。
目の前の相手を家のために、死んだ仲間のために斬る。
亡くなった蒼き月の神子の仇をとるために、ここで殺す。
姉を失った幼馴染の少女の代わりに、そのあだ討ちを肩代わりする。
「いくつのものが失われたと思っている」
怒りに我を失った翡翠は気づけない。
彼女が剣を握ろうと思ったのは、空は青いほうがいい、なんて理由で剣をとった少年のためだったことも。
兄がいなくなった後彼女を襲ったのは、怒りではなく絶望と悲哀と虚無感だったことも。
青年がいなくなった後も笑っている幼馴染や義姉を見る度に、苛立ちがわくことも。
何人もの刺客が彼を倒せず、最後に自身が刺客として選ばれた時沸いた高揚感も。
「それを取り戻すことは不可能だ。だからお前は、私が斬るっ!」
怒りが、憎しみが、猛りが再び彼女を覆う。
翡翠の体から、多量のプラーナが吹き上がる。
突如現れた質量さえ持ちかねないほどのエネルギーに、びりびりと空気が震え、周囲の地面がめくれ上がる。
相手は、そんな彼女の激情を目の前にしてさえ平静に吐き捨てるように答えた。
「くるなら早くしてくれねぇか、そろそろ飽きてきた」
それが、翡翠のなかの何かをぶつりと絶ちきった。
渾身のプラーナを吹き上げながら、彼女は男に向かって腰溜めに剣を構えぶつかっていく。
彼女の突撃に呼応するように、相手は右からのなぎ払いで応じる。
激情のまま、翡翠は相手の名を叫ぶ。
「飛竜―――――――っ!」
二人の剣使いが交錯し。
―――分厚い紙の束を叩くような音と、何かが次々と砕けるような音が響いた。
***
翡翠のこれまでの経験と勘は告げていた。
相手―――飛竜の放った一撃は、彼女の突きよりも数段速く、翡翠の剣が届くより前に届く、と。
そして、翡翠にはそれを防ぐ術はなかった。
だから彼女はそこで倒れるはずだった。
なのに。
翡翠の剣は、深々と相手を突き貫いていた。
声が、出ない。
別に首筋まで数センチに迫った刃のせいではない。
この結果に、頭がついていっていないだけだ。
はぁ、と疲れたようなため息が耳元で響いた。
「……ったく、この一ヶ月長かったんだぞ。お前をずっと待ってんの」
どこか満足したような言葉に、え?とため息にも近い声が漏れた。
胸を貫かれ、肋骨をいくつも鋼の塊で砕かれてなお話す力があるというのは常識の外にあるウィザードゆえか。
それでも生物としての重要な部分を破壊された以上、彼に残された時間はもう、ない。
「あんなことしちまった以上、どうなるかぐらい俺にだって考えつく。
だったら、お前にやってもらうのが一番みんなが救われるし……なにより、お前にやられるんならまだ許せたしな」
これでもプライドの欠片みてーなもんはあるんだぜ、とどこか苦笑するような雰囲気。
それでようやく強ばっていたのどが動いた。
「なん、で」
けれど、頭が真っ白で言葉にならない。
心の奥でいくつも言葉が浮かぶのに、頭の中で焦点を結ばず言葉にならない。
その声が聞こえているのかいないのか、彼はゆっくりと剣をおろすと、長きに渡り共にあった相棒に語りかける。
「こんなとこまで付きあわせちまって悪かったな、次はもっといい使い手選べよ。
―――ありがとう、お前に何度も助けられた。最高の相棒だった」
背後の崖に向けて、彼は魔剣を放り投げる。
刃が太陽の光をちかちかとはねかえし、持ち主との契約が絶たれた赤い黄昏色の宝玉から光が消える。
しばらくしてぼちゃん、とはるか下の海面に重いものが沈み込む音が、むなしく響いた。
翡翠は、もう一度同じ言葉をくりかえす。
「なんで」
飛竜はなんとか、といった様子で右腕を持ち上げて翡翠を抱き寄せ、呟く。
「後味悪いことさせて悪かった。これでいいんだ、これで全部上手くいく。
ありがとう、な。ひすい」
それだけ言い終えると、彼の腕から力が抜ける。
触れていた手が離れることで、翡翠の心を押しつぶしてしまいそうなほど大きな恐怖が襲う。
いなくなる。
あの日からずっと、心のどこかにいつづけていた人が。
その声が耳に届くことはない。
その表情が変わることはない。
その背を目にすることはない。
もう二度と。
とん、と肩を押された。
翡翠は剣を持ったまま硬直していたため、剣が彼の体からずるりと嫌な音を立てて引き抜かれた。
体に空いた大穴から、栓を失った赤がごぷりと吐き出された。飛沫がぽつぽつと翡翠の体に降りかかる。
短い草の上に力なく横たわるその目に、何も浮かばぬ空が映る。
「あー……そらが、あおい」
それだけ、満足そうに笑って呟いて。
人類勢力で屈指の力を持つとされながら、裏切り者と呼ばれた男は永遠の眠りについた。
それが理解できたのか、頭の中で焦点を結ぶことのなかった言葉が、心が一つのことだけを強く叫んだために声になる。
「いや……いやぁ、にいさまぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
少女の声は、誰に届くこともなく―――青い青い空に、吸い込まれた。
act-outer 2 <終末と未来>
アンティーク調のテーブルと、同じく琥珀色の椅子。
その椅子に腰掛けてテーブルを挟み向かい合うのは、
豪奢な金の髪を巻き毛にしたこの場所の主と、楽しそうに笑っている色素の抜けた白い髪にうさぎの耳を持つ少女。
裏界第一位、『金色の魔王』・ルー=サイファーと『魔王女』イコ=スーだった。
イコは満面の笑顔で言う。
「だから言ったのですよ、ルー様。あの男を殺すなら、小娘を送らねばとイコは何度も言ったのです」
「許せイコ、そちの言葉を疑ったわけではない。周りの人間共の反感を買っては上手くことが運ばぬと思っただけだ」
ふん、と面白くなさそうにルーは言う。
彼女はこの度の策謀が失敗した時から不機嫌な日々を過ごしている。
それも当然といえば当然だ。神とはいえ自身が利用しようと思っていた者に計画を察知され、それを邪魔されたのだ。
大魔王と呼ばれるディングレイとアスモデートの賭けの話を聞き、それを利用してやろうと考え長い時をかけて準備をしてきた。
それを、たかが利用される道具の分際が一瞬にして破綻させてしまった。
憤懣やるかたない様子でいるルーに、イコはそういえば、とたずねた。
「小賢しい人間の男は死んだと聞いたですが、ソレ、本当にただの人間だったのです?」
「イコ、そちは我がただの人間と人外を見違えると思うてか?」
「そういう意味ではないのですが……ヤなことが起きる気がするのです」
果たして。本当にただの人間が存在からして次元の違う『神』と呼ばれるものを殺すことができるのか?
イコが不安に思ったのはそのことだったのだが、彼女に視ることができるのは『自身の関わらぬ未来』のみ。
なぜ「人」が「神」を斬れたのかについて、彼女の能力で知ることはできなかった。
眉を寄せているイコの不安を、鼻を鳴らしてルーは否定する。
「どの道、あの男はただの人間だ。もう二度とこの我の邪魔をすることは叶わぬ。
それでイコ、巫女どもが再びあの世界に生を受けるのはいつになるのだ?」
「へ、えぇっと……だいたい500年後になるのです。それまでどうするですか?ルー様」
「他の魔王どもが分不相応に世界を手に入れぬよう、目を見張っておれよイコ。
特に蝿の女王だ。アレは我への敬意など欠片も持ち合わせておらん、侵魔としての矜持があるかすら疑問だ」
「わかったのですよルー様。
あぁ、そうなのです。今度、ルー様にお目通り願いたい子がいるのですよ。あの子はもう魔王の爵位を与えてもいいと思うのです」
「ほう、その者名はなんという?侵魔から魔王に出世する者は昨今とんと見なんだが」
「カミーユっていうですよ。なかなか面白い子なのです」
君臨者と無垢な瞳を持つものは、すでに終わったことからは興味を失くし、早くも次へと目を向ける。
だからこそ、彼女達は気づかない。
その一つの終わりに、未来につながる希望があったことを。
そして、その希望を見逃したがゆえに。
再び同じ計画を実行しようとした、裏界の君臨者たる金色の魔王の前に、手痛い一撃を加えるものが現れることとなるのだが―――
それはまた、別のお話。
***
disillusion <RAGNAROK>
目を開く。そこに見えるのはいつもどおりの天井。
体を起こすと頬に涙が伝っていた。
寝巻きの袖で涙を拭い、彼女は起きあがって壁に立てかけられた相棒にふと目をとめる。
まじまじとそれ―――魔剣を眺め、ふっと彼女は笑った。
「今日の夢は、ひょっとしてキミの仕業?」
彼女も出会ってからずっとこの剣と共にあり、声を返すことはなくとも意思らしきものがある気がしていた。
けれど返事は返らない。声が出るわけではないから、当然といえば当然なのだが。
先ほどの夢には、とぎれとぎれでありながら、そこかしこに見覚えのある存在が出てきた。
彼女が持つ魔剣とほぼ同じ形をしていて赤い宝玉の収められた魔剣。
それもまた、この部屋にある。
もちろんその担い手は彼女ではなく、また担い手がこの部屋にいるわけでもない。
さきほどの夢を思い出して、少し彼女は苦笑した。
「そういえば……ちょっと似てたな、さっきの夢の男の子」
思い出すのは一人の少年のこと。
赤いオーブの剣を持っていた彼は、どこか夢の中の青年と似ている気がした。
似ているな、と彼女は思った。
翡翠と呼ばれていた、自分よりも前の相棒の使い手。
翡翠も自分も、もう二度と赤い宝玉の剣の使い手に会うことはないだろう。
夢はあそこで終わったため、翡翠がその後どんな人生を送ったかはわからない。
けれど、彼女には確信がある。
魔剣使いと魔剣の間には、目に見えぬつながりがある。
どれだけの時を離れていようと、どれだけの次元を離れていようと、赤い宝玉から輝きは失われていない。
それはつまり、彼らの間の縁は断ち切られていないということ。赤い宝玉の剣と彼とは再び出会う運命にあるということだ。
ならば、彼女のすることは一つ。
この世界を守るためにも、一緒に来てしまった彼の相棒のためにも、彼が倒す運命にあるというこの世界を襲う災厄を押さえ込み。
いつか。はるか遠い先の未来で、彼がこの世界に来てその災厄を打ち倒すための手はずを整えること。
未練がないとは言わない。
彼女にだって家族がいた。友達が、仲間がいた。抱えたまま終わらせようと思っていた淡い想いもあった。
けれど、今の道を選んだことへの後悔はない。
彼女は困ったように笑いながら、誰にともなく呟く。
「だってねぇ―――いのち、救われちゃったんじゃしょうがないじゃない」
この世界に来ることになったきっかけの戦い。
その最中、敵に隙を作るため彼女は囮になる選択をした。
それは戦術的に見るなら確かに最善手だった。彼女の身は危険になるが
―――というよりそのままなら絶対に死んでいた―――確実に相手にとどめをさせた。
けれど同じ任務についていた彼は、それをすることを拒んだ。
『うっせえっ、これを見過ごせるか……!』
彼女は目を伏せる。
あの時の彼の顔を、覚えている。
あの時の彼の目を、覚えている。
あの時の彼の声を、覚えている。
そのすべてを、彼女は今でもはっきりと思い出せる。
おそらくこれから先忘れることはないだろう、それほど鮮烈で心地よくて、切ない記憶だった。
一度やると決めたことは最後までやり通すのが、彼女の流儀。
そしてそれ以上に、借りた恩は絶対に返すのが、彼女の信念。
だからこそ彼女は、この終末期の世界で戦い続ける。彼が来るその日まで、彼の守った命でこの世界を守り続ける。
いつか、本当にこの世界を災厄から守る者がそれを斬るその時まで、恩を返せるその日まで、彼女も共に戦い続ける。
それこそが、彼女の誓い。
不意に、彼女の部屋の扉が叩かれた。
扉の向こうからは、この世界に渡ってからできた仲間の声がする。
「アキラ、おはようございます。あさですよー」
「ん、おはようシリウス起きてるよ。
私の分もごはん用意しといて。ちょっと身だしなみ整えたらすぐ行くから」
わかりましたー、と間延びした返事が返り、扉の前から気配が遠ざかっていく。
アキラ―――本名・七瀬 晶は己が相棒である青いオーブを宿した魔剣を月衣に収め、ふと気になって窓の外を見る。
そこにあるのは、彼女が来てから一度も晴れることのない曇天。
神々の争いに巻き込まれ、奈落に襲われ、常に変わりゆく空は、
時には夜のように暗黒に世界を閉ざし、時には禍々しい色に染め上げられたりもした。
それはこの世界の危うさを、最も如実に現している存在だった。
晶が聞いたところによればすでに本当の空の色を知らぬ子供たちすらいるという。
はじめてそれを聞いた時には、終末期の世界の悲惨さを思い知った気分だったのだが。
今、彼女はそれに合点がいったように呟く。
「あぁ、うん。やっぱり空は青いほうがいいよね」
―――さぁ、今日も頑張ろう。
晶は、踵を返して仲間達のところへと歩き出した。
以上です。
お、終わったよママン。僕もう休んでいいかな……?
改行規制と連投規制に泣かされ続けて何回書き込みボタンを押したことか……
とまあ、そんなわけでナイトウィザードの明かされて(作られて)いない戦いのお話でした
作者的補足をさせていただくと
・章題に「outer」の文字があるものについては剣の記憶にはありません
つまり、彼女の見た夢の中にはないシーンです
・夢の中のキャラの名前は公式に出ている一人を除いて作者が勝手に作って遊んでます。すいません
・夢の中の人間が各人の前世かどうかについては、皆さまのご想像にお任せします
長々と長文失礼しました。読んで下さってありがとうございます。感謝を。
839 :
NPCさん:2008/01/25(金) 19:48:12 ID:???
GJ!!
翡翠可愛いよ翡翠。
というか、晶がせつねぇ……
これはもう晶と柊の再会シーンを捏造したのをかいてもらうs(ry
840 :
NPCさん:2008/01/25(金) 23:00:01 ID:???
ひたすらにGJだ!
文章も良いし構成も見事、フツーに公式に採用されても違和感ないレベルだよコレ?!
それと投下報告ありがとう。
841 :
NPCさん:2008/01/25(金) 23:25:43 ID:???
大作力作超☆GJ!
842 :
NPCさん:2008/01/25(金) 23:48:08 ID:???
SUGEEEEE
これ関係の転生ネタはご都合主義って感じがして好きじゃなかったはずなのに、めっちゃすんなり読めたぞ!?
何事も調理法と業前か。GJだ。
843 :
NPCさん:2008/01/26(土) 15:23:34 ID:???
ダブクロストライク読んで、紅葉と(ブラストハンド時代の)シャンカラ書きてえっと思ったんすが、
「まてよ・・・これエンドラインか?」と思ってしまったのが大失敗。
「全員でセブンフォートレスEXの負けロープレかよ!」という代物ができちまいました。
(紅葉は結局出てこないし)
はまって書いたんで、投下させてください。
ルール処理どーなん?とか気になる方はスルーお願いします。
844 :
NPCさん:2008/01/26(土) 15:25:02 ID:???
ヒャッハー。来るが良い。
支援はピー中なので散発だが。
「ブラストハンド・・・」
紅葉が振り返り、ゆっくりと顔を寄せてきた。それを受け止めながら、苦いものが広がっていく。
違う。あの時はまだ、彼女は俺をこう呼ばなかった・・・。
ギイイイイン。無音の耳鳴りに似たシンバスワーディングフィールドが、浅い夢をかき消した。
<何だ?><どうした!?>
疑問と同時に広がるイメージ。漆黒の宇宙空間に浮かぶ、ミサイルの群れを従えたシャトル。
<馬鹿な!FH宇宙軍だと?><米露の施設を撤収したばかりの急造組織が、なぜこんな早く?!>
「落ち着け!小太刀、ジャミングを。上月は熱破壊攻撃!」
<ようし・・・><う、わあああっ>
<だめだ、あのミサイル、EXレネゲイド化されてる!><賢者の石クラスの高純度、干渉できない!>
「あわてるでない。EXレネゲイドが扱えるのは、FHのきゃつらばかりではないと思い知らせてやるだけのことじゃ。」
轟然とした意思があたりを圧する。俺も微かな笑みを浮かべて見せた。
「そういうことだな・・・・出る!モルガン、いいな!」
期待と信頼が、空気を満たしていく。
「小太刀、レーダー展開!上月はここから支援迎撃を!紅葉、対衝撃バリア待機。・・・久坂。」
ひそやかにあふれる不信と疑念を無視して。
「遊撃隊を水道橋方面へ。陽動で陸上部隊も来るかもしれない。頼むぞ!」
空を見上げたモルガンの背から、バサリ、とドラゴンの羽が現れ、額の竜燐が広がっていく。
「モルガン、いつも人型取ってなくてもかまわないんだからな。基地のシステムはスタンドアロンだが、お前が入れるくらいのフリーメモリはある。」
ぷっとふくれる顔を見ずに、カプセルの計器をチェック。
「な・・・わらわは・・・・それでは、基地の実情がわからんではないか!」
旧都庁のタワーから、モルガンの背に括り付けたカプセルで飛び立つ。
「俺が、UGN東京の、トップ、か・・・」
知らず知らずに、自嘲の響きが漏れた。
ふと浮かぶ、出撃時の奴の笑顔。
「国見、頼むよ!」
「久坂、何であいつは・・・・・・紅葉も、もうあの頃のようには笑っていないのに・・・」
後で分かった最後の平和の中、やってきた転校生。整った顔立ちと授業で見せた頭脳に一致しない軽薄さで、
いきなり紅葉にセクハラをかけやがり、紅葉と俺双方にぼこぼこにされたくせに。あっさりと笑顔を続けて、
数日せずに俺たちといるのが当たり前になっていた。
だのに・・・FHの動きがおかしい、と急遽エージェントが集められたUGN支部を、制圧したFH部隊の中に、あいつはいた。
「久坂・・・お前が俺の死刑執行人か?」
開いた扉へ投げかけた俺の言葉に。
「こい!早く!」
辺りをうかがいながら、牢獄を駆け抜けて。
「ここから出るんだ。」
ロックをあけながら。
「頼む・・・僕も、一緒に連れて行ってくれないか?」
崩れかけたUGN支部に戻った俺たちを待っていたのは、バロール能力に覚醒し、UGNに身を寄せていた紅葉。再会したその目に
映っていた俺は、二人になると突拍子のない冒険談を始めるなりかけの恋人ではなく、FHとの戦いを生き延びた歴戦の勇士だった。
そして、その隣に立って、久坂は会ったときと変わらずに笑っていた。
849 :
NPCさん:2008/01/26(土) 15:27:59 ID:PXncJsIh
I
「紅葉を口説きたいから、UGNに寝返るだあ?こんな時に・・・」
新人類FHの世界支配。それは数週間も続かなかった。
FHの内部分裂で、ジャームに関わるすべてが暴露され。
指導者ばかりか、隣人も、いやまず自分自身も、一瞬の後に人外の力をふるう化け物になるかもしれない・・・
人類から、地球上から、平和も信頼もついえさった。
パニックの中ジャーム化とオーヴァードの覚醒は急増し、分裂したFHは社会をコントロールできぬまま争い続け・・・。
UGNが何故今も存在し続けていられるのか、俺自身不思議でならない。けれど、確かなのは、少なくとも俺は、何かを信じていたかったこと。
空の色が闇に溶け、星が瞬かぬまま散らばり始め。そこにモルガンが中継するワーディングのイメージが重なる。
「いくぞ。」
カプセルの床に手を当て、イメージの中のミサイルをにらみつける。モルガンの口が開き、無音の震動が確率崩壊波となって迸った。
ミサイルが塵となって崩れてゆく。ふっと息をついたとき、シャトルがゆっくりと動き出した。
「な・・・ばかな!奴ら、シャトルを東京に落とす気か?!」
「うろたえるでない!攻撃を続けよ!」
再び、無音無色のブレスがモルガンの口から迸る。一波、二波・・・。しかし、崩れたシャトルの向こうから現れたのは。
「もう一群・・・EXレネゲイドミサイル・・・」
ぐらり、とカプセルが揺れ、体が宙に浮いた。
「モルガン、何を!」
「我は約束の王の剣にして盾。王と仲間たち、命にかけても守り抜いて見せよう」
「お前は!お前自身は?!」
「我はエクスカリバー、王と共にあるもの。時経てばまた蘇る。お主なら打ち直すこともできよう。
ブラストハンド、我と名を共とする主よ。約束の王として、FHどもを蹴散らし、新たな世界を築くのじゃ!」
衝撃波で落下を減速しながら、シンバスワーディングフィールドを展開する。
「全員都庁基地を退去。チームごとに指定済みの地下拠点に散開しろ。今後の連絡は
シンバスワーディングフィールドでなく、EXレネゲイドネットワークを使用すること。繰り返す・・・」
<遊撃隊、FH陸戦隊と接触。交戦開始する。>
<基地撤退が終了するまで、ここから先へは通すな!>
戦車部隊の圧倒的な兵力。突撃をかける中に、久坂がいた。
「これで・・・僕を少しは信用してくれるか?紅葉さん、国見・・・」
衝撃と共にカプセルの底にひびが入る。ゆがんだドアをむりやり押し開け、歩き出そうとすると。
「竜は墜とされたわ。投降しなさい、ブラストハンド。」
「俺を、生かして捕らえようだと?」
ゆがんだ笑いが浮かぶのが分かった。衝撃波に爆発を載せ、FH部隊をなぎ倒して駆け出す。
853 :
NPCさん:2008/01/26(土) 15:31:26 ID:PXncJsIh
連投早いな。猿さんくらわんようにな。
立ち止まれない。振り返れない。そうしたら、二度と立ち上がれないから。
ジャームとオーヴァード。FHとUGN。理想を鎧に、不信を武器にして、争いは果てしなく拡がるばかり。
ミラージュ・エンド。すべては白日の下に晒された。そして、戦いのはるかにかすんで、明日は見えない。
ステージタイトル:エンドライン’(ダッシュ)orミラージュエンド
レネゲイド等の全情報が公開され社会が崩壊した、
砂漠の戦場風のオーヴァード&兵器戦+ポストホロコーストサバイバル風ステージ。
混乱による不安から、ジャーム、オーヴァード、EXレネゲイドの発生率がかなり高くなっている。
FHは人類支配を続けようとする主流派、オーヴァードが宇宙から地球支配することを目指す宇宙派、
ジャーム化をコントロールして全人類を強制進化させようとする進化派に分裂。ルカーン財団と提携し、
人類との共存を掲げるUGNは、徐々に認められつつもFHクーデターのダメージを脱しきれていない。
・・・てな感じ。ついでにこのモルガンは、リプレイと同シンドロームでもロストエデン出身だったりします。
ネタとの差に頭痛を抱えつつ終了です。スレ汚し失礼しました。
あ、支援ありがとうございました。
それでは改めて、失礼をば。
856 :
NPCさん:2008/01/26(土) 15:39:33 ID:PXncJsIh
お、終わったか。これなら支援要らんかったかな。面白かったよ
857 :
NPCさん:2008/02/03(日) 02:00:01 ID:???
「はい……こ、これでいいですか……?」
Janusは頬を染めながら、何重にも重なったパニエごと
ピコフリルに縁取られた三段フレアスカートの裾をゆっくりと持ち上げる。
「あ、あんまり見ないで下さい……恥かしいです…っ」
ガーターレスストッキングに包まれた、
微妙に女性的な曲線が少しずつ露わになってゆく。
やがてフリルで飾られた上端部が覗き、眩しいほど皓い肌が覗く。
両足間の隙間を形作るほっそりとした太腿は、微かに緊張と羞恥に震えていた。
そして……
シャドウランスレ1000に貼ろうとして間に合わなかった。
続きを読むにはJanuたん直々のお叱りの言葉が必要です。
858 :
NPCさん:2008/03/07(金) 10:26:31 ID:???
と、とりあえず前編だけでもやってみよう。うん。各方面に色々とご迷惑おかけしてますが。
元ネタ:「ナイトウィザード」たぶん1st。
内容:子供時代捏造ネタ。こういうのお嫌いな方はたぶん見ない方がいいです。
傾向:ラブ……じゃないと思われ。
では。
1・あかいおもいで<lunatic-dream>
月光を、鋼の塊がはねかえす。
光をはねかえす鋼の塊―――人の手によって鍛えられ、戦うための道具として研ぎ上げられた剣は、今まさに担い手の敵を突き貫いていた。
貫かれた相手は、目を最大まで見開きこの結果を理解できないような表情で、自身を貫く刃と担い手を見ている。
ここに勝敗は完全に決していた。
けれどその光景を端から見ることができるものがいたのなら、どちらが勝っているのか迷ったかもしれない。
貫かれた敗者は、担い手の握る剣以外の傷を負っていない。
逆に、剣を握る勝者はあちこちに傷を負っていた。
それだけではない。豪奢な白いローブを羽織る敗者は人間の大人の姿をしているのに、その相手は二桁になるかならないかほどの年頃に見える。
そしてそれ以上に、身の丈に合わぬ長い剣を握る少年の表情は、酷く憔悴しきったものだった。
敗者は問う。
「なぜだ。なぜ―――貴様のような子供一人の手で、私の計画が潰えるのだ」
その言葉は、信じられないという感情のままに。
少年はその年頃に似合わぬ戦意と、ほんの少しの苦味を抱えた表情で答える。
「……これは俺一人の力じゃない。
この剣には、みんなの思いが乗せられてる。だったら俺が外すわけにはいかねぇだろ。
お前は俺に、子供に負けるんじゃない―――俺たち全員に、負けるんだ」
それが相手に聞こえたかどうか。
少年の言葉が終わるのと時を同じくして、白い光の粒となって敵は虚空に溶け消えていく。
その色はこの世界にあってとても目立つ光だった。
その世界は単色に染め上げられていたからだ。
空も、大地も、月光すらもそして―――少年から少し離れたところに倒れている3つの躯も。
すべてが、紅に染め上げられていた。
一人その赤い空間に取り残された少年は、白い光の粒子が消えてなくなるまでじっとそれを睨みつけていた。
光の粒子はちらちらときらめき、ゆらめいて舞いながらやがてすべてが虚空に消えた。
同時。
世界がもとの色を取り戻す。
大地は大地の色に。空は夜の闇に。月は欠け、白く優しい光を世界中にふりかける。
戦いは終わり、異常はなかったことのように消えうせる。それがこの世界の理だ。
けれど、全てが『もとに戻る』わけではない。
世界はそれほど優しくはない。あった出来事を、ただ法則の許すかたちに整えるだけ。
終わったものが、失われたものが元に戻ることはない。それはやはり理に反することだからだ。
それを理解していながら、ぐ、と歯をかみ締めて。
―――夜色の闇に、少年のあらん限りの叫び声が響いた。
あさのあいさつ <sister's pray>
「うるっさい」
「ぐっはぁっ!?」
腹に突然襲いかかった衝撃と圧力に、布団に包まって貪っていた眠りの中から強引に引きずり出される。
なんとか酸素を取り入れようとしばらく悶絶した後、彼はがばっと布団を跳ね上げ暴行犯に叫んだ。
「なにすんだバカ姉貴っ!あんたは弟の命日を今日にしたいのかよっ!?」
「なに言ってんのバカ、あんたあのくらいじゃ間違っても死なないでしょ」
「弟を起こす時の対応としてはこれ以上なく間違ってるっつーのっ!?そんな信頼地面に埋めろっ!」
「ん?優しく起こしてほしかったわけあんた。あたしに何求めてんの、バカ?」
あー言うまでもなくバカか、とさらっと酷いことを吐く学生服の少女。
少女の名は柊京子、先ほどまで布団に入っていて彼女に殺されかけた少年、柊蓮司の姉である。
京子は、いつもの通りの茫洋さのある無愛想な表情で弟に告げる。
「ともかく、あんた今日は用事があるんでしょうが。
だから寝坊するようなら起こせって言っといてその姉に礼の一つもないってのはどうなわけ?」
そう言われては柊としても黙るしかない。
苦虫を噛み潰すような表情で彼は答える。
「……アリガトウゴザイマシタ姉上さま。
っつーかなんでせいふくなんだよ。今日は日曜だろ?」
「ちょっと学校の方に用があんの、仕方ないでしょ。
ほら、あんたも時間ないんじゃないの?」
言われて時計を見ると、待ち合わせまで確かに時間がない。これから走って間に合うかどうか、微妙なところだ。
あわてて服を着替える柊を見て、京子がたずねる。
「朝は?いるのいらないの?」
「いらね。食べてるヒマもないし食欲ねぇ―――いってきますっ!」
言うが早いか着替え終えた彼は、姉の前を通過し自分の部屋を出て、最短距離で廊下を駆け抜け玄関から外にとびだす。
玄関のドアがけたたましい音を立てて閉じる音を聞きながら、京子は一人呟く。
「……ったく。ご近所迷惑な叫び声聞かされる方の身にもなれってのよ」
その声には、どこか寂しさの欠片のようなものが混じっていた。
彼女は知っている。
たまに、彼女のいない時間帯にこっそり傷だらけで帰ってくることも。
まれに夜になり眠った後、夢にうなされることがあることも。
そしてそれについて彼女に話す気がないだろうことも。
真っ向から乗り越えるしかできない、不器用で損な性格のバカ。
そういう弟だ。
それを少し嬉しく思うこともあるが、もう少し家族に甘えてもいい気もする。
けれどそういう弟だからこそ、いつか真っ向から自身の苦しみを乗り越えるだろうこともわかる。
その『なにか』を自分(かぞく)に吐き出すことをよしとしないのなら、それを乗り越えるまで見守ってやるのが姉としてのつとめだと、京子は思う。
あーあ、とため息を吐き出して、彼女は自身の用事のために準備をはじめた。
―――結局は。彼女自身も、損な性格をしている弟の姉なのだったりした。
863 :
NPCさん:2008/03/07(金) 10:31:33 ID:???
し
べんちのふたり <benchplase>
なんとか待ち合わせに間に合った柊が今いるのは、近くの公園のベンチ。
その反対側に腰掛けるのは、待ち合わせの約束をした少女の弟、赤羽青葉である。
二人の間には、なぜか重苦しい空気が流れていた。
柊が青葉から聞いた話では、姉はしばらく家の用があるためそこで待っていてほしいと言伝を頼まれたのだという。
それに納得したものの、それから先に話が進むことはなかった。
また、青葉自身に用はないはずなのだが、彼は一向に帰る様子はない。
青葉が不機嫌そうな表情をしているのを感じた柊は、何か家に帰りづらい事情でもあるのだろうと適当にあたりをつけて放っておいている。
自分よりもこの手のことは待ち合わせの相手の少女の方が上手くいくことを知っていたし、
自身も今朝姉に割と酷い扱いを受けていたため同じ「弟」として同情したこともある。
と、いっても。柊の推測はまったくの間違いだ。
青葉が不機嫌そうなのも、家に帰らないのにも、別に家の事情があるわけではなく、原因はむしろベンチの逆の端に座る存在―――柊にあったからだ。
彼は弟として、家族として姉が大好きだった。
子供の頃は、姉は青葉の方だけを見ていてくれた。
彼女はあまり家から出ることがなく、幼い青葉の面倒を見てくれる、どれだけわがままを言っても、
困ったように笑って優しく許してくれる、憧れで自慢の姉だったのだ。
その関係が変わったのは、姉が柊と出会ってからだ。
柊と出会った後、彼女は自分から外に出るようになり、困ったようにでなく、楽しそうに笑うようになった。
それにあわせて赤羽家の団欒の時間に神社関係者でない子供の名前が上るようになり、姉が青葉と遊ぶ時間は減った。
その原因は間違いなくこの隣に座る少年だと青葉は思っている。
だからこそ、姉との遊びの時間に割り込んでやろうと思っている青葉には、この場を離れる気はない。
つまりは姉を取られたくない気持ちから起こるヤキモチなわけであるが、小学2年生にそれを理解しろというのはどだい無理な話だった。
ともあれ、青葉は極力嫌いな柊を無視しようとしているし、彼はそれに触れないでおこうとしているため彼らの間に会話はない。
季節は5月。風はいまだ熱を持たないが、陽光がじりじりと肌を焼きはじめるころ。
空は青く、ちぎれた雲が流れるものの天気の変容はなさそうな平和な光景。
あまりにゆっくりと流れる時間に柊は一つあくびをして―――閉じたまぶたの裏に残っていた夢の残滓が、目の前の光景と重なって見えた。
***
朱く赤く、真紅に染まった天と地と―――何より紅い天の月。
ひょんなことから手にすることになった相棒。
その関係が結ばれてしばらくたったある日、どこからか現れた『敵』。
自分を子供扱いしながらも、協力して戦った年上の仲間達。短い間ながらも築かれた、戦友としての信頼。
そして―――
もう動くことができないと悟り、自分に力を与えた人がいた。
罠にかかりながらも敵の動きを封じ、自分にチャンスをくれた人がいた。
相手の魔法の対象になった自分を、身を挺してかばって命を落とした人がいた。
その結果、今自分はなんとかこの世界で息ができて。
こうして子供らしく遊ぶことができるのだった。
―――仲間が自分に望んだ通りの、子供の生活に戻れたのだった。
***
ぶん、と軽く頭を振って、柊は死色の夢を振り払う。
自身が子供だということを痛感させられて、その上で何とか生き延びた日から一ヶ月が過ぎた。
毎日は嘘のように穏やかに過ぎていって、あの悪夢が薄れていきそうな気がしてもいいはずなのに。
昼にどれだけ穏やかな日を過ごしても、夜には悪夢のような現実(ユメ)がやってくる。
彼自身忘れたいと思ったことはないつもりだが、忘れるなと夢に脅されているような気もしていた。
あんな地獄から、一人救われた自分。
笑ってほしかった人がいた。
盾になって死んだ人がいた。
彼自身が傷つけた敵がいた。
あの戦場で命を散らした人々には与えられることはない日常。
今になってふと思う。
自分なんかに色々なものを託して死んでいったあの人たちは、何のために戦っていたのか。
ただ一人生き残ったあの戦場で学んだことは、自分にできることは本当に少ないということだった。
彼自身の能力が偏っているせいもあるが、一番大きな要因は年齢だ。
ようやく二桁になったばかりの年頃の子供にできることは限られている。
柊は自分の手を見る。年相応の子供の手。これですくいあげられるものなどどれほどあるだろうか。
いや、そもそも―――
生き残った自分は、何を成すべきなのか。
そんな、たかだか11の子供が抱くにはいささか大きい命題を抱えつつ、青い空に向かって大きくため息を吐き出し―――
―――感覚に従い、隣に座る青葉を思い切り突き飛ばした。
よけいなちょっかい <fatal-point>
ころころと転がっていく青葉が睨んでくるが、柊はその視線をとりあえず無視。
あとで何か奢ってやるから黙ってろ、と内心で呟いた。
柊がこんな凶行もどきに走ったのにはもちろん理由がある。
彼が従った感覚というのは、相棒を手にしたその日から知覚することのできるようになったもの。
世界を侵略する意思への抗体能力。
侵略者に対抗する存在には必ず備わっている異常の知覚の能力だ。
もっとも、そう難しいことではない。
彼らは世界の常識の『外側』にあり、『内側』を守るために常に『境』を渡り歩く者。
その『境』こそが彼らが見極めるべき最前線。『境』と『内側』こそを守る者、それが『外側』にありながら『侵略者』に立ち向かう者たちだ。
どれほど日が浅かろうと、『境』を踏み破り『内側』の存在を引きずり込む存在を知覚出来ないはずはない。
つまりは、『そういうもの』が現れたということだ。
青葉を突き飛ばした反動で、柊もまたその場から跳び退く。
それと同時。
ばがんっ、と大きな音が響くと共にどこからか現れた長い管のようなものが、彼らが座っていた白い木のベンチを粉々に破砕した。
ベンチを砕いた長い管のようなものの先には、捩れた電極のような形の、禍々しい色の金属の先端がある。
電極とは逆にある管は、ひび割れたようになっている空間の割れ目から。
もうもうとベンチがあった場所から土煙が立ち込めるのとほぼ時を同じくして、空間の割れ目が卵の殻のように砕け―――
―――その向こうにある『外側』の脅威が顔を出す。
紅い世界。
それまで様々な色彩を帯びていた世界が、一瞬にして紅に染め上げられる。
色の変化に違和感を覚えるほど、先ほどまでとはあらゆるものの形が何一つ変わっていない。公園の遊具、木々のさざめき、空に浮かぶ雲。
いや、一つだけ。
これまでの世界とは、一つだけ違うものがあった。
―――月。
青空広がる真昼に浮かぶ白い月ではない。そもそも、青空の時間帯に浮かぶ月が満ちていることはない。
しかし、その月に欠けはない。
そしてなにより。
その世界を染め上げているものこそが、欠けなきその月であるかのように。アカク、あかく、狂ったように紅い月。
もしもそれを見る者があるのなら、怖気と不安を抱かずにいられないほど。
本能的に拒絶したくなる類の色の月。
そこに降り立つのは、この紅い世界―――月匣の支配者(ルーラー)だ。
それは、理科の実験で配線に使うような赤と黒の導線を、ぐにゃりと捻り集めよじって人の形に整えたような、歪なヒトガタ。
おそらくは発語すらできないほど下級であろうが、この世界を脅かし『内側』を貪る魔の一欠けら。
エミュレイター、と。そう呼ばれる存在の顕現だった。
とはいえ、その感覚を知っている柊は冷静に状況を把握しようと努めだし―――自分の馬鹿さ加減にちょっと悲しくなった。
現れたエミュレイターの立つ位置は、青葉と柊のちょうど中間。
これでは彼を抱えてこの場から逃げる、という選択をするのは非常に難しい。
いくら非常時で体が勝手に反応したからといって、もう少しマシな選択ができなかったのかと少し思う。
とはいえ、泣き言ばかりもいっていられない。次にやるべきことを確認しようとしたその矢先。
月匣の中に、3つの気配が現れた。
「そこまでだっ、エミュレイターっ!」
言ったのは、なにやら真っ白なスーツに身を包んだ若い男だった。
男は月衣から取り出したのだろうレイピアを、フェンシング的な構え方でたっぷりと時間をかけて構え、言う。
「この先祖伝来の剣にかけて、お前はここでぶつ斬り決定だっ!」
……刺突用剣である所のレイピア(細剣)でどうやって斬るのか、という疑問はこの際無視した方がいいのだろうか。
そんな彼を追うように、一人の同じ歳くらいの少女が駆け寄る。
「ちょぉっと孔助ぇー?アタシを置いていくなんてなに考えてんのよっ」
少女は、短く切りそろえた髪が印象的で、赤いパーカーと黒のジャージ姿だった。
と。彼女の目が青葉をとらえる。一瞬驚いたようにその瞳が大きく見開かれ、すぐに不満そうに細められた。
「うっそ、なんで一般人が混じってんのよめんどくさいなぁ」
……仮にも、侵魔から人を守るウィザードがそんな台詞を口にするのはよくないと思う。
さらに彼女を追うように、なにか魔術師というよりも怪盗紳士を勘違いしたような黒いスーツに黒いマントの男が現れた。
「亜紀、宮松。お前ら二人が先行しても、なんともならんぞ。
それとそっちにも一般人がいるだろう。無事な方の安全を先に確認せんか貴様等は。この役立たず共が」
毒をどばどば吐き散らかしつつ、彼はさらに続けた。
「まったく、マクベイン氏も『では私は定時になりましたのでこれで失礼いたします』などと言って絶滅社に帰られたしな。
この行き場のない怒りをあのエミュレイターにぶつけるために貴様等を馬車馬の如く使ってやるからありがたく思え」
……定時、あるんだ絶滅社。
そんな軽口を叩きながら、男はそれでも近くにいた柊を安全圏と思しき自分達の後方へと下がらせる。
どうやらこの性格の破綻していそうな3人組、エミュレイターを追っていたらしい。
それから逃げていたエミュレイターは、近くに子供二人を見つけ、そこから月匣を張って餌にしようという段だったようだ。
しかし追いかけていたウィザードも馬鹿ではない。月匣が発生する直前、その空間に滑り込むことに成功していたのだ。……一人は定時退社したようだが。
確かに、よく見れば現れたエミュレイターは導線の中にところどころ黒いほつれが見てとれる。ウィザードと交戦し、劣勢にあった証拠だろう。
白スーツ男が、黒衣の男の言葉に落胆したようにツッコむ。
「なんだマクベインのおじさん帰っちまったのか。サクサクっとコイツ倒していつもの作ってもらおうと思ってたのにさー」
「孔介はいっつもマクベインさんにごはん奢ってもらいすぎなの。まったく、目の前に料理上手な可愛い女の子がいるってのにさ」
「料理上手とはお前のことか、亜紀?冗談も大概にしておけ。お前のアレは料理ではない。味覚のみを破壊する感覚破砕兵器だ」
「な、なによ亮ったら。そりゃマクベインさんの作ったのには遠く及ばないけどさぁ」
「比較するのが間違っていると言っている」
「それには同感、ってヤツだな」
柊が呆気にとられるほど、彼らの間に流れる空気は弛緩しきっていた。
ここは常識の通じない戦場。熟練のウィザードならば、どれほどの格下相手であっても、その場にあってここまでの緩んだ空気を生み出すことは絶対にない。
緊張をほぐすための多少の会話や軽口はあっても、命のやり取りをする相手を前にして、その相手から視線を外してまで仲間とだべることはない。
ましてや、あのエミュレイターの向こうには―――
エミュレイターの右腕が三つに分かれ、ムチのようにしなりながら電極の先端が3人のウィザードに迫る。
風を裂き迫る三本の電極に、反応したのは黒マントの男だった。手に握った高級品のステッキ式ウィザーズワンドを掲げ、防御魔法が完成する。
電極と導線の集合体が彼らを打つことはなかった。しかし、エミュレイターもまた無駄になる行動をしたわけではない。
そちらに追っ手のウィザード達が意識を集中している隙に、左腕を長く伸ばして近くにいたプラーナの供給源―――青葉を、捕まえていた。
柊は憤りのあまり血液が逆流したかのような錯覚に陥る。
目の前で抵抗手段を持たない、自分よりも弱い存在を放っておくことなどできはしない。
もともとそう気の長い方ではない。もとが子供であることもある。勢いのまま飛び出そうとしたその瞬間、げ、と亜紀と呼ばれた少女が典雅ではないうめきを漏らす。
「あっちゃー。とろくさいわね、だからガキって嫌いなのよ」
こんな女に絶対助けられたくない、と本気で思えるようなことをさらっと言ってのけた。
その言葉に、怒りの矛先が分散されたことで柊には冷静になる隙間が生まれた。
思い出すのは、あの紅い日のこと。
自分にできることは少ないと、そう思い知らされた日のこと。
魔剣使いにできることは本当に少ない。あれもこれもと欲張れるほど、器用な類の能力者ではない。
だからこそ、相手をよく見てできることを探せという戦場の教訓が、まだ彼の中に残っている。
大きく息を吐き出す。
心が沸き立っている時こそ頭を冷やせ。猛りは熱く、感覚は鋭く、頭は冷たく。それぐらいがちょうどいい。そんな言葉を思い出しながら、それをノイズとして排除。
目の前には一匹のエミュレイターと、三人のウィザードと、一人の人質。
青葉を助けるなら、まず倒す必要があるのはエミュレイター。ただし、ウィザード連中がアテにならないことは彼自身のカンからも、これまでの言動からも断言できる。
そして、正直邪魔にしかならない連中がどうなるのかを見届けてからでも遅くはないと判断した。
ついでに、亜紀が青葉ごとエミュレイターを倒そうとしたら、その瞬間容赦なく昏倒させるつもりで月衣の中の相棒を強く強く意識する。
その感覚はひどく心強くて。心の中でほんの少しだけ、頼れる相棒に感謝した。
そんな柊の様子に何一つ気づくことなく。亜紀の言葉に冷や汗をかきながら、孔介は注意する。
「おい亜紀、お前人質巻き込んでさっさと終わらせようなんて思ってないだろうな?」
「なによ、世界の平和のためにはいくら犠牲を払ってもいいっていうのが絶滅社の考えなんじゃなかった?」
「違うだろっ!?世界の平和のためには犠牲を払っても仕方ないっていうのが基本だっ!」
「どっちも一緒よ、結局自分が平和に生きるために犠牲を払ってるんだから。数が違うからなんだって言うのよ。
そもそも、あたしイノセントの連中ってウザくてウザくて仕方ないのよねー。なんでわざわざ力のあるあたし達が力のない連中守んなきゃいけないのっつーかぁ?
ま、イノセント連中がいないとあたしの生活成り立ってかないから仕方なく生かしてやってんだけどー」
……こんなのをなんで囲ってんだ絶滅社。そんなに人材不足か。
ちなみに。亜紀は本気でこう言っているのだが、孔介は亜紀を単に素直になれない奴なんだと認識している。
勘違いさせておいた方が亜紀にとっては都合がいいので彼女は指摘しないし、周りも亜紀が実行しない限りは問題ないから、ということで完全に無視している。
と、そんな風に二人が言い合い、精神衛生上から亮がそれを無視していたその時。
エミュレイターの魔法が発動した。
三つの闇色の塊が、三人それぞれを打ち抜いた。どさどさどさ、と倒れる音が空しく響き渡る。
エミュレイターの哄笑が響き渡る。
その腕に抱かれた青葉の顔色は、もはや青を通り越して真っ白だ。
それも仕方のないことだろう。ウィザードとしての才を持ち、英才教育を受けている日本の名門、赤羽家の子供であるとはいえ、彼自身はまだ7つ。
月衣も持たず、ウィザードとしての知識はあれどウィザードであるわけではない彼にとって抵抗の手段はない。
なまじこの相手の知識がある分、次に何をしてくるのがわかっているために恐ろしさがこみ上げてくる。
エミュレイターに襲われる、ということは単純な死を意味しない。存在そのものが消え去るということ。
死に対しての概念すら危うい小学校低学年の少年に、侵魔に襲われることとの違いが理解できているかは難しいが、その事態が『終わり』であることに変わりはない。
歯の根のかみ合わない恐怖。それが、赤羽青葉が絶対の終焉によってもたらされたものだった。
エミュレイターによる、世界を軋ませる哄笑の中。
ふぅ、と。エミュレイターのものではないため息が、月匣の中にやけに大きく響いた。
ため息は、今まで騒ぎの蚊帳の外に置かれていた柊から。
まだ逃げていなかったのか、とぼんやりと思ってから青葉は不意に気付いた。
紅い月。それはエミュレイターの現れる前触れにして月匣の象徴。
ウィザードならぬイノセントは、この世界の中では世界結界に守られないため無力化されるはずだ。
つまり、この場には月衣持つ者―――ウィザードもしくはエミュレイター、もしくはそれに対する知識を持った者しか意識は保てないはず。
けれど、この少年は本当にただのイノセントだったはずだ。家柄もごくごく普通の中流家庭、何かしらの秘伝の跡継ぎというわけでもない。
柊はそんな青葉の混乱など気にせぬまま言い放つ。
「まぁ、そこの下手なエミュレイターよりもくさった性根してやがるバカ女が倒れてくれたっつーのはありがたいんだけどよ。仮にもプロだろ、一撃ってどうなんだ。
……っつっても、俺のツレまとめて殺そうとしやがったらすぐに気絶させてやろうとは思ってたが」
その言葉はどこまでもよどみなく。
ただただ淡々と事実を述べるように。
その姿があまりにもいつも通りの自然体で、青葉には逆に場違いに思えたほどだった。
しかし、青葉には姉と遊んでいる彼とは絶対に違うように感じた。自然体なようで、いつもとは違う。だって彼は、姉にこんな風に強いまなざしをぶつけたりはしない。
それはいつもとなんら変わりなく、気負いなく、自然な姿。
けれど。いや、だからこそ。
―――青葉はその姿にどうしようもなく憧れた。
と、とりあえず前編はここまでで。容量はなんとかなりそーです。
後編は午後から。
875 :
NPCさん:2008/03/07(金) 12:27:55 ID:???
支援?
876 :
NPCさん:2008/03/07(金) 12:31:14 ID:???
>>874 既に午後じゃん、ってツッコミは置いておいて GJ!
こういう正統派な柊なんて・・・・・・大好きだっ
後編も期待しております!
後編いきまーす。
支援は、今回入ると容量引っかかるんでやめておいていただけるとうれしい、です。
のりこえるいま <leading-wind>
あまりにもあっさりと3人のウィザードがやられる姿を見ながら、やっぱりな、と柊は思った。
いくら手負いの下級エミュレイターといえど、気を抜いた挙句雑談などしていては倒せるはずもない。あまりにも緊張感がなさ過ぎる。
むざむざと人質になりそうなイノセントを見過ごすような連中が、優秀なはずもない。少なくとも柊はそんなウィザードを認めない。
そこまで考えて、ふと思った。
柊は、自分を無力だと思っていた。
こんな手で守れるものなどたかがしれている、と。
守れなかったものがあったから、そこで自分の無力を悔やんだ。
そこで、自分の立つべき場所を見失った。だからこそ、いまだに夢は苦しい。
ではなぜ、今再び剣を握ろうと思うのか。無力だと思うのなら、それに意味はないと理解しているはずだ。ならばなぜ今更?
は、と。馬鹿みたいな問いに笑みすらこぼれる。本当に馬鹿みたいだな、と思った。
たった一ヶ月前のことを忘れていたのだから、笑い出したくなるくらいの大馬鹿だ、とも思った。
彼は魔剣使いだ。相棒と生涯をともにすると決めたその時から、一つだけずっと心に決めていることがあった。
『やりたいことをやる』。
それは単純な願いであり、同時に最も難しい誓い。
「成すべきことを成す」ではない、「やりたいことをやる」のだ。
どこまでも自分の信念に従って、斬りたいものを斬り、守りたいものを守り抜く。ただそれだけの、しかし何よりも難しい道。
それでも、その誓いに赤い宝玉の剣は応えた。そんな誓いをしてしまった子供と共にあろうとする。
……後に、世界を敵に回すことになろうと、2万年異世界に置き去りにされることになろうと、神の手によって叩き折られることになろうと、
その誓いを見届けるために剣は彼と共にあり続けることになるわけだが今回はまぁ関係ない。
手のひらが小さくて、こぼれたものがあることも、その痛みも、絶対に忘れない。忘れることなんか絶対にない。
けれど、それは今目の前で失われようとするものに手を伸ばすことにはなんら関係がないのだ。
やりたいからこそやっていることだ。自分が関わったものが失われることを、柊蓮司は見たくないからこそ手を伸ばす。
それがきちんと危機から逃れるまで手を伸ばし続ける。奪われたのなら、奪い返すために走り続ける。それだけだ。
青葉がいなくなるのは柊自身嫌だったし、いまだ現れない幼馴染が悲しむことは火をみるより明らかである。
だったら話は簡単だ。自身の力の有無など関係はない。今剣を握るのは意味がないことではない。やりたいことをやるために、戦う。
守りたいと思ったものを守るために。言い訳なんかしない。これは柊自身のわがままだ。けれど、そのわがままに人生を賭ける覚悟が決まってしまっていた。
―――俺は、俺のわがままを貫き通すそのためだけに戦う。
ただそれだけの話。
告げる。
「で、本題だ。お前、痛いのと今すぐそこのお前が抱えてるガキ離すの、どっちがいい?」
柊は、言いたいことを言い捨てて月衣の中から魔剣を引き抜きつつその動きをそのまま一歩目の踏み込みに繋げる。
プラーナを全力放出。地を蹴る瞬間に軽く炸裂させて渾身の力をこめて蹴り出す。
体は動く。
目は、先ほどまでの戦いをじっと見ていたことで慣れていた。
加速する景色に合わせて、意識もクリアになっていく。
剣で捉えられる間合いに相手をとりこむ。
エミュレイターはまだ柊がいた場所を見て笑っている。
相手の背後に周りこむ。
ようやく笑うのをやめたのが見えた。
相手の肩に飛び乗り、青葉を捕まえている腕を切り落として彼を左手に掴む。
エミュレイターがさっきまで柊のいたところに腕を向け、腕が裂けて鞭のように襲い―――体が傾いで、目標の位置を打つことに失敗した。
「痛いのがいいっつったのはお前だしな。ほら、なんつーの?人間(おれら)で言うところの『いんがおーほー』って奴だな」
あまりに近い場所から響いた声に、エミュレイターは硬直する。
一拍おいて、耳が痛くなる音が響いた。それはもはや声ではない。けれど、悲鳴だとわかる絶叫。
暴れられて妙な仕返しを受けることを嫌い、すぐに飛びのいて離脱。青葉を勘違い魔術師の近くに置きざりにし、そのまま今度は取って返す。
捩れた導線の腕が、柊を吹き飛ばそうと横薙ぎに振るわれた。
その下をくぐり、さらに一歩踏み込む。
少し考えたらしく、彼の目を狙って一本の電極が突くように放たれた。
半身になってかわしながら、さらに一歩前へ。
足を止めようと数本の電極が足元を狙って放たれる。
足止めされるよりも早く右前へと跳んでかわした。
伸ばされた腕が鞭のようにしなって彼へと向かう。
剣の腹で張り倒して、踏みつけてさらに前へ。
間合いに入る。
踏み込む勢い。軸足を中心に体ごとひねって剣を振るい、今までのスピードを上乗せした一撃で、相手の首をはね飛ばす。
まだ足りない。
侵魔は人の形をしてるだけで弱点まで人間と同じわけではないと、一月前に学んでいた。
切られた首から、何本も導線が伸びて柊に襲いかかってくる。
それを見ても、彼はなお冷静だった。
あまり付き合いたい相手ではないし、せっかく『答え』がみつかったのである。青葉は返してもらったことだ、侵魔ごときに付き合うヒマなど柊にはない。
だからこそ、次の一撃で終わらせる。
全力でプラーナを開放し、その上でさらに一撃に力を込める。
紡ぐのは、今のところ彼が唯一知る魔法。
名目上魔法使いであるはずの彼が、なぜか他は知らないがたった一つだけ可能とする魔の法則にして奇跡。常識の外側の存在であることの証左。
「……<エンチャントフレイム>っ」
炎が剣にまとわりつく。
たん、と地面を蹴り相棒を大きく振りかぶる。
最高到達点につくと同時、遠慮も会釈もなく、ありったけの力と想いを込めて振り下ろした。
切りつけた後から炎が吹き上がる。その一太刀でエミュレイターの命が消えるのが、相手を倒したウィザードにはわかった。
地面に降り立つのと同時、紅い月がかすんでいく。
からん、と音をたてて禍々しい色の石―――魔石が落ちた。
それを確認すると同時、魔剣を月衣にしまいこむと、柊はいまだ呆然としている青葉の手をとった。
「場所変えるぞ。たぶんもうすぐここは入れなくなるし、こいつらが起きるまで待ってたら捕まっちまう」
遊べなくなるのイヤだしな、といつもの近所の子供の顔で言った柊に、青葉は意思と関係なくこくりと頷いてしまい。
ずるずると引きずられて公園を後にした。
らむねとやくそく <boys promiss-in the summer>
柊は、青葉の手を引いて近所の駄菓子屋に行った。
さっきの公園に向かう通り道であるため、ここで待っていれば待ち合わせの相手とすれ違うことはないはずだ。
顔見知りである店の主とたわいもない話をしながら、彼はポケットから小銭を出してラムネを二つ買い、一つを青葉に渡した。
店の前の吹きさらしのベンチに腰掛け、ラムネを口にしながら彼は青葉にたずねる。
「ケガとかしてねぇか?」
かなり荒っぽい助け方だったからケガでもしてたら大変だ、と思っての発言だったのだが、事実ケガのない青葉はこくりと頷く。
柊が無事に青葉を助けられたことにほっと息をついていると、青葉が逆に意を決してたずねた。
「あの……うぃざーどだったんですか、あなた」
舌ったらずながらも、当たり前と言えば当たり前の質問。
そもそも赤羽家はウィザードの家系である。専門教育を受けている青葉からすればそれは気になる事だろうとは、柊にも予測できた。
肯定の言葉は案外するりと口から出た。
彼自身がそうであることは当然イノセントに言えることではないため家族が知っているわけもなく。
つまりは今のところ誰にも言っていないことで。もしかしたら、誰かに知っておいてほしかったのかもしれない。
「ん。っつーか、俺その言葉もつい最近知ったんだけどな」
「いつから、ですか?」
「一月ちょっと前くらいかな、色々あって巻き込まれてよ。さっきの剣と会ったのが始まりだ」
ラムネ、気ぃ抜けるぞ、と言いながら彼はラムネを喉の奥に流し込む。
青葉にとってははじめて来た駄菓子屋で、はじめてのラムネ。ビンの冷たさが少し暑くなりはじめた気温になじんだ肌に心地いい。
ラムネを口に含む。炭酸ははじめてだったが、口の中に広がる気泡が弾ける感覚は、さっきからの怒涛の展開でマヒした心をほぐしてくれるような気がした。
そんな様子をちょっと楽しい気分でながめながら―――柊は、ここまで歩きながら考えていたことに意識を戻した。
先ほども体験した赤と紅の世界。
彼は誓いを思い出した。だからこれからも戦っていけるだろう。けれど。
青葉は、ウィザードになる素質がある。それは彼の実家が赤羽家という強力なウィザードの家系であるからだ。
それはつまり、彼の身内はウィザードになるだろう素質が強く存在することになる。
思い出すのは、一人の少女の笑顔。
彼にとっての日常の象徴。たとえどれほど凄惨なところに行こうと、帰ってこようと思うときに浮かぶ心の灯火の一つ。
そんな彼女が、柊がこんなことになっているのを知ったらどうするか。
怒るかもしれない。泣くかもしれない。それ以上に―――その世界へ一緒について行こうとするかもしれない。
怒られるのは慣れているが、泣かれるのはイヤだった。
そしてそれ以上に、自分のせいであの暖かな笑顔が消えて、紅い世界に引きずり込まれるのは見たくなんかなかった。
それはとても勝手な願いだ。けれど柊は、やっぱり彼女に陽のあたる場所でずっと笑っていてほしかった。
勝手な願いだとわかっていながら、それでも彼は青葉に一つの頼みごとをした。
「―――言わないでくれるか。俺がウィザードだっていうの、あいつには」
「え……なんでですか?」
名前を言われなかったのに、何故か青葉には彼の言った『あいつ』が姉のことなのだとわかった。
ウィザードの子は生まれながらのウィザードになりやすい傾向もある。
が、それ以上に赤羽の家は歴史ある家としてエミュレイターに入り込まれないよう霊的防御も考えて使用人に至るまで全員がウィザードだ。
積んだ歴史の長い家は、結構そういうことを気にかけていることは多い。
むしろウィザードであったほうが、ウィザードの家には堂々と入り込みやすいはずである。にも関わらず、彼は姉が気付くまではいうなと言った。
あって当然の青葉の言葉に、柊は困ったような顔をしながらも、正直に答えた。
「あいつにウィザードの素質があるのは知ってる。
けど、あいつはあんな血まみれの戦場には似合わねぇだろ。陽だまりの中で笑ってる方がずっと似合う。
ウィザードだからってみんながみんな、殺し合いに参加しなくちゃいけないって決まりはねぇだろ」
その言葉に、青葉はむっとした様子で言い返す。
けど、ぼくもねぇちゃんもあかばねのいえのにんげんです。
あかばねはうぃざーどであるいじょう、なにももたぬひとたちをまもるぎむがあります」
『世界を救うことが選ばれたものにしかできないのならば、その選ばれたものは血を流すべきだ』
その言葉は、陰陽師と呼ばれるこの国で発達した魔術系統の始祖直系・御門家の家訓だ。
陰陽師をはじめとして、多くのウィザード達の心得になっている。御門の分家筋の赤羽ともなれば、その心得は物心つく前からの教訓である。
もっとも、小学生の青葉がその言葉をきちんと理解しているかは怪しいが。
糾弾するようなその言葉を聞いて、けれど柊はラムネの中のビー玉をながめたまま答えた。
「お前難しい言葉使うな……意味分かってっか?
……義務とか、家の人間とかそういうのは正直俺にはわかんねぇけどさ。
それで血流すのが痛くなくなるわけじゃねぇし、大事な奴がそうなるの見て苦しくならねぇわけがねぇだろ」
青葉の言う言葉は確かに正しいのだろう、と柊は思った。けれど、彼には自分の願いが間違っているとは思えない。
吹っ切れた今なら分かる。あの血塗れの戦場に立って死んでいった人たちは、戦っていた人たちは。みんなみんな、自分の守りたいもののために戦っていたということを。
そして、それが今までえんえんと繰り返されてきて、今まで戦ってきた人々の選択の上に「今」があるのだということを。
それが奇跡のようなバランスの上で成り立っているということが、今は彼にもわかっている。
だからこそ、彼は望む。選択をする。自分自身のやりたいことを、願う。
知らないところで少女が泣いていたり傷ついていて、何一つ自分は知らないままで笑える日々を続けるなんていうのは嫌だった。
痛ければ痛いって言ってほしい。苦しいなら苦しいって言ってほしい。
どうしようもなくそれは柊のわがままで、相手の考えなど完全に無視しているけれど。
それでも。
―――ただ、あいつは泣く姿よりは笑う姿の方がずっといいと思えたから。
だから、と柊は言葉を続ける。
「―――あいつの分まで、俺が戦うから。
だからあいつにはその分、日のあたるところで笑っててほしいんだ」
―――笑っていてほしい。心からそうであってほしい。
―――俺は、あいつの笑ってる場所に帰ってこれるってだけで戦えるから。
それは、祈りにも似た誓いだった。
たった一人の少女に捧げる、日常を生きてほしいという心からの気持ち。
少女に日常を、自分の分まで生きてほしいと嘯いて、本来なら少年にこそ与えられるはずだった平穏な日常を、少女に渡したいと。
それは笑ってしまうほど子供じみた仮定だ。そんな思いに意味はない。彼が魔法使いとして覚醒することと、少女が戦いの場に赴くことには何の因果関係もない。
けれど。
――――――そんな願いを。たった一人の少年の幻想を、誰に壊す権利があるだろう。
その言葉を聞いて呆然としている様子の青葉を見て素に戻ったのか、柊は照れを隠すように視線を逸らして呟く。
「……ま、俺のワガママなんだけどよ。
で、言わないでいてくれるか?なんでも言うこときくからさ」
青葉は、目の前の少年に負けた気分だった。
けれど、どこかそれは心地よかった。柊の目がどこまでも真っすぐで、安心できてしまったところも原因だろう。
青葉もそんな気持ちを隠すように、近づいてくる足音を聞きながら一つだけ願いを口にした。
「……じゃあぼく、らむねもうひとつほしいです」
その言葉と同時。角を曲がって、青葉の姉が現れた。
***
それから、青葉は柊を慕うようになる。
姉に内緒の二人の秘密は。それから7年、少女自身が気付くその日まで―――守られることとなる。
end
お、終わったよう……。
「夢物語」書き終えてからもう一つなんか書きたいなー、とは思ってて、その後戦国乱世並みのカオス空間である某クロススレのリレーに巻き込まれて中断されてた話。
最後の方容量限界でびくびくしてた。超怖かった。
888 :
NPCさん:2008/03/07(金) 14:19:00 ID:???
>>887 GJ&お疲れ〜
もし問題なかったら以下の内容でスレ立てする?>ALL住人
ここは自分が遊んだ卓上ゲームのプレイレポートやリプレイ、卓上ゲーム同士のクロス、
公式キャラやリプレイのSSなど卓上ゲームに関係する文章作品を総合的に扱うスレッドです。
・不要な荒れを防ぐ為に、sage進行で御願い致します。
・次スレは
>>980を踏んだ方、若しくは480kbyteを超えたのを確認した方が宣言後に立ててください。
・各作品の初投下時は、元ネタとなるゲーム名も一緒に書き込んでもらえると助かります。
・801等、特殊なものは好まない人も居るので投下する場合は投下前にその旨を伝えましょう。
・内容が18禁の作品は投下禁止。 相応しいスレへの投稿をお願いします。
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889 :
NPCさん: