MTG Sideboard Online 日本語版: 4th Edition
偉大なる白の業 〜白は「善い」色か?〜
Mark Rosewater
「白」の週へようこそ! 数ヵ月前、私たちは「緑」の週を実施することにしまし
た。私はその時、これはこのような色特集の最初の週になるということを約束しま
した。今週はその二番目となる、白の週です。前回にならって、私のコラムでは色
の持つ雰囲気と、その理念についての質問に触れていきたいと思います。
緑についてのコラムで述べた通り、私はマジックというゲームのもっとも大切な部
分は、カラーホイールにあると信じています。このリチャード・ガーフィールドに
よるユニークな革新的アイディアは、ゲーム的な機能と雰囲気を繋ぎ合わせるため
の仕組みです。(そう、機能と雰囲気は共存するものなのです。)ルールについて
研究しているルール・グルたちと同様に、WotCにはそれぞれの色の雰囲気の研究を
怠らないフレーバー・グルたちがいますし、私もその一人です。今日は皆さんに、
白という色の複雑さや豊かさが、どのように表現されるのかを伝えたいと思います。
◆誰が簡単だって?
カラーホイールの仕事を進めるにあたって、私たちはマジックの5色それぞれにつ
いて、次のような質問を設定しました。
・その色が配慮するのはどんなことだろう? どんな目的を持っているんだろう?
・その目的を達成するために、どんな手段を使うんだろう?
・その色が表現するのはどんなことだろう?
・その色が嫌悪するのはどんなことだろう? 何がそれを否定的な方向に駆り立て
るのだろうか?
・どうして味方を好み、敵を憎むのだろう?
・その色のもっとも強い力と、最も弱い点はなんだろう?
◆その色が配慮するのはどんなことだろう? どんな目的を持っているんだろう?
それぞれの色の理念は、それが何を望んでいるのかに支えられています。それぞれ
の色は、「世界はこうあるべきだ」と信じるイメージの世界を作り上げようと邁進
しているのです。では、白にとっとも価値の高いものはなんでしょうか?
それは、調和です。白はみんなが協調できるような世界を望んでいるのです。白は
共同体を好みます。白は、全体にとって良いことを望みます。白は全体に気を配り
ます。白は、みんなが互いに協力し合い、分けあって暮すユートピア的な社会で、
最も幸福を感じるでしょう。白の究極の目的は平和です。
ここで白という色と、「善」という概念の関係について、短い余談を挟みたいと思
います。善と悪は、人が物事を評価する際、それが自分の価値観を押し進めるもの
なのか、それともそれを脅かすものなのかを示すために使われる言葉です。それが
あなたが信じるものを押し進めるならば、「善」でしょう。あなたの信じるものを
脅かすならば、「悪」です。マジックのそれぞれの色は、それが求めるものを強く
信じています。ですから、それらは自らを「善」とし、対立する敵を「悪」とする
のです。
多くの人間は、大まかな信条を共有しています。(例えば、殺人は間違ったことで
す。)白の教義のいくつかは、このような人間の一般的な信条と一致しています。
それゆえ、白は時折、「善」の色であると見なされます。しかし、白は本質的に善
ではありませんし、悪でもありません。白は、マジックの他の色と同様に、善と見
なされることも、悪と見なされることも行うでしょう。それがどう捉えられるかも、
人によって違うのではないでしょうか。命を守るのは、非常に白らしいことです。
皆さんの多くは、これを善と見なすでしょう。国家全体主義もまた、非常に白らし
い事柄です。しかし皆さんの多くは、これを悪に分類するのではないかと思います。
私がこのことについて触れたのは、白と黒の相克を、「善と悪」「道徳と奔放さ」
「光と闇」「清浄と腐敗」というようなことから分けて考えるべきだと思うからで
す。白と黒の相克は様々な側面を持っていますが、「善と悪」というような捉え方
は、あまりにも主観的すぎて正確ではありません。例えば「全体の権利と個人の権
利」という要素を見てみましょう。これは社会主義と資本主義の争いと見ることが
できます。資本主義は、この議論では黒の側です。資本主義は本質的に悪なのでし
ょうか? 私はそうは思いません。(もちろん私に反対する人もいるでしょうね。)
黒に関しては(その「善い」面も含めて)、黒の週でもっと詳しくお話しします。
◆その目的を達成するために、どんな手段を使うんだろう?
白はそれ自身を救うだけではなく、世界全体を救おうとしているように見えます。
これは非常に大変なことです。いったいどのようにして、平和な世界を作るだけで
はなく、それを保っていくのでしょうか? その答えは構造です。厳密なルールや
法を定めることによって、確実に全てを支配し続けることができるのです。白はこ
のような法を、二つの異なった領域に広げようとします。
まず一つは、道徳的な法です。白は、道徳とはあらかじめ存在するものだと信じて
います。正しいことは正しいこと、間違ったことは間違ったことです。個人は正し
いことを行う義務を負っています。しかしそれだけではありません。個人は間違っ
たことを止めさせる義務も負っているのです。白のこの領域に対する欲求は、宗教
という手段をもって表れました。
白の二つ目の道具は、社会的な法です。これらは個人が全体の利益に反した行動を
取らないように定められたルールです。白は、全体の利益は個人の権利に優先する
と考えています。白が定める法は、全体が守られる事を保証するものです。白のこ
の領域に対する欲求は、政治と司法のシステムとして表れました。
このルールを作り、それを守ろうとする欲求は、白の機能の多くを定義しています。
白の守備的な性質は、色全体を通して見ることができます。例えばライフゲイン、
ダメージの軽減、攻撃者の除去、プロテクション、防御的なエンチャント、エンチ
ャント除去などです。R&Dはこれまで、白の核となる雰囲気に関連がある機能を探
し出すことによって、白の役割を広げてきました。この中で最も豊かであると証明
されたのは、白の「ルールを作り出す」という部分です。ですから、私たちはタッ
クシング(《プロパガンダ/Propaganda(TE)》のようなタイプのスペルで、対戦相
手が何かする時に対価を支払わせるもの)とルールを定めるエンチャント(《水位
の上昇/Rising Waters(NE)》のように、プレイヤーがどのようにプレイするか定め
たり、それに制限を加えるエンチャント)を白に移しました。このシフトはオンス
ロートで部分的に行われていますが、この後のセットにおいて徐々に増やしていく
予定です。
白のもう一つの守備的な側面は、平等をたよりにすることです。白は互いの場が同
じ状況になるように場をリセットする能力を持っています。このような理由から、
白には《神の怒り/Wrath of God(7E)》のようなスペルがあるのです。(そう、あ
の《ハルマゲドン/Armageddon(6E)》でさえ。)それに加えて、白は攻撃的な側面
も持っています。白はルールを破る者たちを、前もって罰するのです。白はその組
織を構築する力を、軍隊を組織するために使うことができます。個人の力は弱くて
も(小さいクリーチャーに頼ることになります)、彼らは互いに組織を形成します。
白いクリーチャーたちの能力(先制攻撃、《弩弓歩兵/Crossbow Infantry(7E)》の
ような射程攻撃、ダメージの軽減、《天使の従者/Angelic Page(7E)》のようなク
リーチャー強化など)は、互いにより効果的に働くことを助けてくれます。加えて
白には、《栄光の頌歌/Glorious Anthem(UZ)》のように、小さいクリーチャーの軍
隊を強化するための最も優れたスペルがあるのです。
白は環境をコントロールすることによって、ゲームに勝利します。守備的な姿勢を
取り、敵の脅威を食い止めるための道具を駆使します。ひとたび脅威が封じ込めら
れたならば、白の軍勢は勝利を収めることができます。その時々において、白はそ
の積極的な攻撃を、先制防御策として用いることもあるでしょう。(この戦略は、
一般的に「白ウィニー」として知られています。)
◆その色が表現するのはどんなことだろう?
自然のままを旨とする緑と、育成を重んじる青に挟まれた白は、バランスに優れて
います。白は過去を尊ぶことの大切さを理解していますし、同時に未来のために計
画を立てることの大切さも知っています。他の色に比べて、白は象徴性を利用しま
す。加えて白は、文明の色でもあります。ですから、白が表現するもののリストは
他の色に比べて長くなりました。
「秩序」「清浄」「信仰」「文明」
「構造」「法」「名誉」「構築」
「道徳」「政治」「勇気」「楽観」
「防御」「戦略」「騎士道」「忠誠」
「協力」「軍隊」「自己犠牲」「誠実」
「光」「組織」「共同体」「医療」
◆その色が嫌悪するのはどんなことだろう?何がそれを否定的な方向に駆り立てる
のだろうか?
白は自らの法に従っています。ですから、それに従わない者を許容することはでき
ません。白はそのような反抗を、非常に厳格に見ています。白が伝えるメッセージ
は次のようなものです。「法を犯した者は苦しむがよい。」
これは白の攻撃的な面が表れる所です。白は、それが悪人と考える者を止める、道
徳的・社会的な権利があると信じています。白はこのような者には、先制防御とし
ての攻撃を計画します。今それを止めさせなければ、彼らは後から白の生活を脅か
すでしょう。
◆どうして味方を好み、敵を憎むのだろう?
緑に対しては、共同体の大切さを理解していることから、有効色であると捉えてい
ます。緑もまた、個人の利益より全体の利益を重んじるからです。また青とは違っ
て、白は文明と自然を組み合わせた農耕的な生活を許容しています。
青に対しては、自制することの大切さを理解していることから、有効色であると捉
えています。白と青は共に、計画と規律に価値を置いています。青はルールの必要
性を理解していますし、長い目で物事を見る忍耐強さを持っています。
赤に対しては、社会的な法に敬意を払わないことから、敵対色であると捉えていま
す。赤は混沌を作り出したいときはいつでも、自分が望むことを行います。これは
白が切望してやまない秩序を飛び越えてしまいます。もし赤が思うとおりにしたな
らば、無政府主義が世界を覆い尽くすでしょう。白が平和を得ようとするならば、
赤は駆逐されなければなりません。
黒に対しては、道徳的な方に敬意を払わないことから、敵対色であると捉えていま
す。黒は自己中心的に、全体の利益よりも個人の欲求を促進しようとします。個人
の欲求を全てに優先させるほど危険なことはありません。黒は除去しなければなら
ない危険な腫瘍です。
◆その色のもっとも強い力と、最も弱い点はなんだろう?
白の最も強い力は、法を作り、それを保つことに発揮されます。もし白があなたに
法をプレイさせたならば、対戦相手はチャンスを見つけることはできないでしょう。
白の構造の弱点はその硬直性です。白は自ら定めるのは得意ですが、変化する状況
に速やかに適応する能力は持っていません。さらに白は全体に気を配りすぎて、個
々への視点をおろそかにする傾向があります。
◆白の騎士たち
R&Dにおけるカラーホイールに関する議論の間、私たちは色をどのように見ている
かを示すために、雑誌から絵を切り取って、巨大な壁掛けのカラーホイールに貼り
付けました。緑の週で、このセクションは最も議論の的となると証明されています。
もちろん、もう一度行わなければいけないでしょう。これらは私たちが、白に属す
ると考えたキャラクターたちです。
スーパーマン:コミックサークルでは「ボーイスカウト」として知られています。
スーパーマンはいつもルールに従っています。彼は非常に道徳的です。さらに、彼
は他者を守ることが自分の大切な役割だと感じています。このような行動は非常に
白的です。
アーサー王:彼の実践すべき主たる義務は、彼の臣民を助け、保護することです。
彼にはさらに、行動を導くための強い道徳規律があります。そして彼は、この保護
を構築し維持するために、構造を大規模に利用しました。
マージ・シンプソン(訳注:ザ・シンプソンズのキャラクター。一家の母親。):
私たちが行った楽しいことの一つは、シンプソン一家の人々がどこに属するのかを
決めようとしたことです。何回かの議論の後、私たちはマージを白に置くことにし
ました。彼女は一家の道徳の中心です。彼女とリサだけが、一家の両親のように思
えます。彼女は一家に取り決めを広めようとしているようです。また彼女は自己犠
牲的と言えるくらい一家を守ろうとします。
ジャン−ルーク・ピカード
(訳注:スタートレックのキャラクター。第二シリーズの船長。)
:宇宙連邦は非常に白的な組織です。道徳的な中心を持っていますし、ルールを愛
しています。ピカードは宇宙連邦にとって優れた戦士です。彼は強い道徳的尺度の
持ち主であり、彼の前に敷かれたルールによって人々を導きます。ピカードは構造
を楽しんでいます。彼の趣味は考古学であり、それは他の文明の構造を学ぶことな
のです。
ヴィラン - ネタバレ - :
(Watchmenというアメコミのキャラクターです。日本語版も出てるらしい。ネタバ
レだから読んでない人は見るなと書いてあったので略。いやマジすまん。)
あなたはこれで、白という色を理解しました。この先の「色特集の週」において、
私は青、黒、赤を考察することになるでしょう。
私が来週までにやらなければならい仕事が終わっていたら、また来週お会いしまし
ょう。
その時まで、あなたが対戦相手をあなたのルールでプレイさせることの楽しさを知
ることができますように。