トニー★レオンpart60

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230魅せられた名無しさん
1人の優れたアーティストとして十分な敏感さを、彼は間違いなく持っている。
だが、彼はいつも楽しそうでない。
自分を見失うのがとても怖い、と言うのだ。
今、うまく行きすぎているからと。
――シルビア・チャン

1989年にフーロンと契約してから18年、その関係は変わらず、
どんな誘惑も彼を動かすことはなかった。
相変わらず人見知りで、プロモーションが嫌いで、写真を撮られるのが嫌いで、
大勢の人のいる場所では気詰まりでしかたがない。
人気者になり、自分の意思を通せるようになると、
世間への露出は人気に反してどんどん減っていった。
しかし、控えめなその態度は、決して彼の魅力をそぐことなく、
かえって神秘的なイメージをつくりあげ、ますます人は彼を追いかける。
彼の消息は1年間もわからないことさえあるが、
それでも人気投票では、依然としてトップの座に座り続ける。
231魅せられた名無しさん:2007/05/20(日) 15:25:03
だが、金城武はこれを成功とは決して考えていない。
「何が成功なんだろう? 
この仕事での成功の定義って、賞を取ることなんだろうか?
問題は賞を取れば成功なのか、それともいくら稼いだか、量で計れるのか。 
稼げば成功と言えるんだろうか?
ぼくのことなら、もし、いつか楽観的な人間になれたら、それが成功だな」

彼は自分を悲観的な人間だと言う。
何事に対しても、まず一番悪い面を考えてしまう。
「ぼくには、いつも、どんなものも自分のものじゃないというような感じがある。
生活もそうだし、恋愛もそう。すべては無常。
万事無常だと知りながら、
それでもその無常のものを、争って手に入れようとするんだ」

もしかすると、母親も祖母も仏を信じている人だったから、
金城武も仏と解き難い縁に結ばれているのかもしれない。
「あるとき、母親に連れられてお参りに行き、バスで家に帰る途中、
母はお参りに使った数珠をぼくの手にもたせた。
ぼくは、いつもと全然違い、バスで走り回らなかっただけでなく、
一言も言わず、静かに席に座っていた。時々、何か呟いたりして。
母もとても不思議なことに思った」
232魅せられた名無しさん:2007/05/20(日) 15:27:04
20歳の誕生日を過ぎたとき、自分はもう大人だと強く感じた金城武は、
多くのことに、別の見方をするようになった。
例えば、絶対とは、いったい何なのか?
「今日、正しいと考えることが、明日は間違っているとわかるかもしれない。
例えば酒を飲んでいる男女を見かけて、みだらだと思うかもしれない。
でも、そこにいて、彼らの話していることを聞いたら、
実は思っていたのとは全然違うということがわかるようにね。
人はただ習慣で自分の基準をあてはめ、物事を見ているに過ぎない。
しかし世界は多元的なもので、ある物事には必ず良い面と悪い面の両方がある。
ほとんどのことは一時的なものなんだ」

「君のいた永遠」の撮影中、シルビア・チャンは彼に『荘子』を読ませた。
ところがなんと、彼は余計うつうつとしてしまったのだ。
「読んでから、ますますいろいろ考えるようになり、
考えれば考えるほど気持ちが重くなった。
『なぜ』が、ドミノが倒れるように次から次へと襲ってきた」
金城武は、不意に身を正すと笑った。
その笑顔は、自分がなぜこんなことを話すのか、
不思議がっているかのようだった。
233魅せられた名無しさん:2007/05/20(日) 15:30:41
スターの恋人選びの条件を、人は聞きたがる。
一緒に仕事をした監督をどう思うか、
ここの天気風土人情をどう思うか、聞きたがる。

けれども彼がそこに座って眉をちょっとひそめ、
「何物も自分のものでない」感覚を語るとき、我々は、
学校時代の経験にしろ成長後の恋愛にしろ、
世界が彼にあまりにも早く無常を見せてしまったことを感じる。
この過去の経験が、彼の目に遙かな深さを増しはしたけれど、
単純な喜びをさらに得にくくさせてもいる。

数年前、金城武はインドに聖地巡礼に出かけ、仏教に帰依することを決めた。
「ぼくの帰依は何かを求めたいと思ったからでは全然ない。
帰依したからってお経を唱えるわけじゃない。ものぐさな人間だから」