「初めてにしてはなかなか上手いじゃないか……」
女は目を細める。
「次はここを吸って……」
掠れた声で言いながら片手で自分の胸を掴むと、乳首を口元に近づけてくる。
男鹿は鋭い眼光を崩さないまま、おとなしく口を開く。
「言っとくけど」
男鹿の口に触れるか触れないかのところで、動きをぴたりと止める。
「下手なこと考えんじゃないよ。万一噛み付いたりしたら、てめーの急所を潰す」
(……読まれてた)
男鹿は心の中で舌打ちする。
こうなったら、さっさとこの女を満足させて終わらせるしかないと腹を括る。
女の胸を揉みながら、差し出された乳首を口に含み、舌で刺激する。
「はあ……っ」
林檎はためいきをつくように息を吐き出す。
男鹿はその様子を冷たく見つめながら愛撫を続けていたが、不意に相手が体を起こしたことで中断させられた。
女は立ち上がる。
「そろそろあんたも良くしてやらないとね」
スカートの中に手を入れると、慣れた手つきで下着を下ろしていく。
黒のレースがあしらわれたそれを脱ぎ捨てると、先ほどとは逆向きに跨る。
いわゆる69の体勢になると、林檎が命令する。
「――舐めな」
男鹿は黙って舌を伸ばし、女のそこを舐め始める。
目の前の秘裂から滴る蜜を舐め取るように、ゆっくりと舌を動かす。
一方林檎は男鹿のベルトを緩めると、ファスナーを下ろし、硬く張り詰めた肉棒を取り出す。
「元気だねぇ」
舌なめずりしながらそう言うと、握った肉茎に舌を這わせ始めた。
「ぐっ……」
男鹿の口からくぐもった声が漏れる。
いやな女だが、下半身に与えられる刺激は別だった。
焦らすようでいて的確に男のツボを刺激してくる舌の動きに、射精感が一気に高まるのがわかる。
「イキたいんだろ? 遠慮なくおねーさんの口に出しな」
林檎にいいように弄ばれ屈辱を感じる男鹿だったが、その絶妙な舌技により我慢の限界に達する。
「で……るっ!」
「んんっ!」
先端が膨らんだと思うと、一気に粘液が迸る。
絡みつくように濃厚な白濁液が、ドクドクと林檎の口内を満たしていく。
やがて放出が収まると林檎は身体を起こし、再び男鹿の方に向き直った。
(なんだ……?)
男鹿が見上げると彼女は微笑んだまま、口を開けて中の液体を見せてきた。
さしもの男鹿も顔が赤くなる。
その隙を突いて、林檎が素早く男鹿の唇を奪う。
「んぐっ!」
男鹿の口の中に、先ほど発射した自身の精液が流し込まれる。
首を振って林檎を振り払おうとするが、当の林檎に顔をがっちりと押さえられている為、かなわない。
男鹿は流し込まれるそれを、飲み下すよりなかった。
林檎が顔を上げると同時に男鹿が咳き込む。
「ゲホッ!」
「あたしに飲んでもらえると思ってたかい? 坊や」
「……っのやろう……っ!」
「そんな顔するんじゃないよ。お楽しみはこれからさ」
そう言うと林檎は、脱ぎ捨てた特攻服の上に横たわると、足を大きく開く。
「出し足りねーんだろう? さっきのは濃かったねぇ。随分溜まってそうじゃねーか……来な」
こんな女に欲情したわけではなかったが、ここまでバカにされて退くのは男じゃねえと男鹿は考える。
躊躇なく林檎の上にのしかかると、硬度を保ったままの自身を充てがい、一気に貫く。
「ああっ!」
林檎が背を仰け反らせる。
男鹿はそんな女の様子に頓着することなく、激しく腰を打ち付ける。
この男慣れしているであろう女に、遠慮は無用と考えていたからだ。
実際、男鹿の動きはやや乱暴であるのに関わらず、林檎は快感に酔い痴れているかのように叫んでいた。
「いい……よ……、あんた、すごくいい……っ!!」
男鹿の腰に足を絡ませ、喘ぎ続ける。
そんな林檎に男鹿は何の興味も湧かなかったが、女と繋がっている部分だけは別だった。
出し入れする度に自分の物が肉壁とこすれ合い、快感が走る。
男の腰から下というのは別の生き物なのだろう。
本能のままに動き、貪欲に快楽を求め続ける。
冷め切った頭と熱く滾る下半身。今の男鹿には正反対の性質の物が共存していた。
「ねぇ……もっと深く……!」
求められるまま、女の足を肩に担ぎ上げるようにして、より深く挿入する。
「ひうっ!」
上げる声が一段と大きくなる。
男鹿の方も、先端が奥に当たる感覚が堪らなかった。
粘膜同士の擦り合いが激しさを増す。
限界が近づいてくるのがわかる。
「あぁ、奥、当たって……いい……いきそう……ああっ」
それを聞いて男鹿も、タイミングを合わせるようにピストンの速度を上げていく。
「イイよぉっ! イク……イッちゃうっ!! ……ああーっ!!」
男の精を搾り取ろうとするかのように収縮する肉襞から、男鹿は力ずくで肉棒を引きずり出す。
それは女の腹の上で痙攣しながら、胸、顔に至るまで、白い粘液を撒き散らしていく。
林檎は仰け反りながら特攻服を握り締め、ガクガクと全身を震わせていた。
お互いの荒い息遣いだけが聞こえる中、沈黙を破ったのは林檎だった。
「あたしにぶっかけるなんて、意趣返しのつもりかい?」
男鹿は無言で林檎を見据える。
「まあいいさ」
身体を起こし、口元の粘液を指で掬うと、ぺろりと舐める。
「思ってたより良かったよ、あんた」
「そうかよ」
男鹿はさっさと立ち上がる。
「抜きたくなったらいつでも来な。相手してあげるから、さ」
「ごめんだな」
元通りベルトを締め直しながら、そう答える。
「まさかまだ邦枝に期待してんじゃねえだろうなぁ? お前はもうあたしの――」
「オレを飼い馴らそうとか、つまんねー考えは捨てるんだな」
男鹿は吐き捨てるように言う。
「……あんたはもう邦枝なんかじゃ満足できないよ」
「お前に邦枝の何がわかる」
「わかるさ。あいつは……」
「可哀想な女だな、お前」
「なっ!」
出入り口の方へ歩き出す男鹿の背中に向けて、林檎は叫ぶ。
「必ずあいつの心を折ってやる! 二度と立ち上がろうなんて気が起きねぇように、ズタズタに……!」
男鹿は引き戸の取っ手に手を掛ける。
「やってみろよ。ただしその時は……」
振り返る。
「オレがてめーをぶち壊す。今日みたいに甘くはねぇ。泣き叫ぼうが許しを請おうが、ボロボロになるまでやってやる」
言い終えると、再び扉に向き直る。
「男をなめんじゃねーよ」
――ガラガラ……ピシャッ!
扉は閉じられ、教室に一人残される林檎。
「あいつじゃ満足できやしないんだから……」
林檎は座ったまま、自分の肩を抱いてうなだれた。
(終)