べるぜバブの邦枝葵は理想のママ その3

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826名無しかわいいよ名無し
「……来たか」
「薺さん!」
店内で見知った姿を認めて私は駆け寄る。
駅近くにあるこのカフェで、薺さんは私の下校時間を待っていてくれていた。

「お待たせしてすみません」
「こっちが呼び出したんだ。私こそ急に呼びつけて悪かったね」
「いえ。あ、この間のクリスマスの、びっくりしました! まさか早乙女先生と出場するなんて」
「あんな面白いイベント、出ないわけにはいかないだろ。……ま、その話は置いといて」
薺さんがじっと見つめてくる。
「お前、男鹿が好きなんだろう?」
「え……」
急にそんなことを言われて、私は思い切り動揺する。

「いえっ! あの、えーと……」
顔の前で両手をブンブンと振りながら、どう答えようか考える。
「私の前で隠す必要はないよ」
薺さんが優しく微笑む。
「……」
「あいつが好きなんだよな?」
あらためて問われて。私は観念した。
「……はい」
こくりと頷いた。

「やれやれ……」
薺さんはジャケットのポケットを探る。
「ほんとに……昔の私そっくりだよ、あんたは」
「えっ?」
「これやるよ」
テーブルに置かれたのは、小さく折り畳まれた紙包みだった。

「これは……?」
「開けてみな」
そううながされて、私は包みを手に取って開く。
一瞬何も入っていないと思ったが、よく見ると数ミリ程の小さな薬らしき物が1粒入っていた。
「島に古くから伝わる媚薬だよ」
「媚薬?」
「ホレ薬さ」
「ホレっ!?」
一気に顔が熱くなる。

「男鹿は鈍感だしあんたは真面目過ぎるし。このままだといつまで経っても進展しないよ」
「でも、惚れ薬って……」
「ちょっと薬の力を借りるだけだよ。効果は1時間。
束の間の恋人気分を楽しむも良し。なんなら、押し倒して既成事実を作っても……」
「押し倒し!? 既成事実っ!?」
自分には刺激の強い単語が次々出てきて、頭の中は軽くパニック状態になる。

「とにかく」
薺さんは真剣な顔になる。
「あいつのことが本当に好きなら、ちゃんと行動に移しな。大人になってから後悔しても遅いんだから」
827名無しかわいいよ名無し:2013/04/20(土) 01:35:16.19 ID:b+KKpWnd0
「薺さん……」
きっとこれは自分の経験からのアドバイスだ。
私はしっかりと頷き返す。
「ありがとうございます。頑張ります」
「……よし」
そう言うと、目の前の先輩は満足そうに微笑んだ。

「それで、この薬の詳しい使い方だが――」



――翌日。
私は聖石矢魔の調理実習室にいた。
私用で放課後の実習室を借りたいと申し出ると、あっさり借りることができた。
まずは第一段階突破だ。
手際良くコロッケのタネを作っていく。

後20分ほどでここに男鹿が来る約束になっている。
作りながら昼休みのことを思い返す。

「男鹿、ちょっといい?」
「おう」
「あの……今日の放課後、空いてる? 料理の練習の為に、試食をお願いしたいの」
「いいぜ」
「寧々たちにも頼んだんだけど、みんな都合つかなくて……って、え、いいの?(そんなあっさり……)」
誘う理由を色々考えてから挑んだのだけど、拍子抜けするほど簡単に約束を取り付けることができたのだった。

最後のコロッケを丸めると、薬を取り出す。
効果は1時間。食べた後最初に触れた人に惚れる、だったわよね……。
慎重に薬をコロッケに埋め込む。
「……これで良し」

パン粉をつけたコロッケを全て揚げ終わり、冷蔵庫からあらかじめ作っておいたサラダを取り出していると、男鹿が入ってきた。
「おっ、コロッケじゃねーか。うまそーだなー」
「ダーッ!」
「そ、そう?」
思いがけず男鹿に褒められて、少し嬉しい。

早速座ろうとする男鹿に、普段のクセが出てしまった。
「食べる前にちゃんと手を洗うのよー」
「お前……お母さんみてーだな」
しまった、光太にいつも言ってるからつい……。
「ほ、ほら! ベルちゃんいるんだから、男鹿が日頃からお手本見せないと! ね?」
あたふたと言い訳をする。

男鹿は聞いてるのか聞いてないのか、素直に手を洗うと私の向かいに座る。
「んじゃ、いただきまーす」
「はい、召し上がれ」
箸を手に取る男鹿を見て、あることに気が付く。
「あ、男鹿、食べてる間ベルちゃん預かっておこうか?」
今日のベルちゃんは、男鹿の頭にのっている。

「問題ねーよ。いつものことだし」
こっちが良くないのよっっ!
私は慌てる。このままコロッケを食べられたら、男鹿はベルちゃんに惚れることになってしまう。
「でっ、でも、食べにくそうだし……。それに、なんだかベルちゃん眠そうよ? 寝かしつけた方がいいんじゃないかしら!?」
ごめんベルちゃん……。
実際のベルちゃんは、眠そうどころか目をきらきらさせてこちらを見ている。
だけど男鹿には、頭の上のベルちゃんの表情はわからない。
「そうか? じゃあ頼むわ」
828名無しかわいいよ名無し:2013/04/20(土) 01:36:08.96 ID:b+KKpWnd0
と何の疑問を持つこともなく、私に預けてきた。

ふぅ、危なかった。
ベルちゃんを胸に抱きながら、男鹿が食べるのを見守る。
「うめーな、これ」
本当においしそうに食べるのを見て、私は嬉しくなる。
見る見る内にコロッケは最後の1つになる。

「ダッ!」
それまでおとなしくしていたベルちゃんが、男鹿の方に手を伸ばす。
「お、お前も食うか?」
男鹿はコロッケを箸で一口サイズに切ると、ベルちゃんに食べさせた。
本当の親子みたいね。
私はそんな二人を、微笑ましく見つめていた。

「ふー食った! ごっそーさん! うまかったぜ」
「ありがとう」
男鹿をじっと見る。見たところ特に変化はないようだ。
薺さんは即効性があるようなこと言ってたけど。もう触っていいのかしら? 不自然にならないように触らないと。
そんなことを思っていると、何やら胸に違和感を感じる。

「べ、ベルちゃん!?」
「アー」
違和感の正体はベルちゃんだった。いつもそんなことしないのに、今日はしきりに私の胸に触れてくる。
ベルちゃんの目はとろんとして、顔もほんのり赤い。
「何やってんだベル坊」
男鹿はまだ、ベルちゃんの様子がおかしいことに気付いていない。
一方私は、その変化の理由に思い当たる。
ひょっとして、ベルちゃんが食べたコロッケに薬が? ……ということは、私ベルちゃんに惚れられてるの!?

ビクン!
ベルちゃんの手が時折、服の上から敏感な箇所をかすめる。
やだ、赤ちゃんに触られて何反応してんのよ!
媚薬の効果なのか、ベルちゃんは赤ちゃんとは思えないほど徐々に、的確に私の感じる箇所に触れてくるようになった。
んん……ベルちゃん上手……じゃあなくてっっ……!

「……ベル坊?」
どうしよう、男鹿が不審に思い始めてる……!
「お、男鹿っ! ベルちゃんミルクが欲しいんじゃないかしら!?」
「ミルク? つっても、いつもミルクが欲しい時ってそんな風じゃねーんだけど……」
「ひゃんっ!」
「うお!?」
ベルちゃんが私の乳首のある辺りを強く握ってくる。
ああ、だめ、早くベルちゃんの気をそらせないと……。
「男鹿ぁ、早く……っ」
必死に懇願すると、男鹿は慌てて立ち上がった。
「わ、わかった! 今用意するからちょっと待ってろ!」


何がなんだかわからないが邦枝に涙目で頼まれたオレは、彼女に背を向けると急いでやかんに水を入れ、湯の準備を始めた。
粉ミルクを溶かし、程よい温度まで冷めたのを確認すると、振り返る。
「よし、出来たぞ! ……って、ぶはぁっ!」
ミルクを作っている間に、後ろはとんでもないことになっていた。
邦枝のブラウスは下着ごとずり上げられ、あらわになった胸にはベル坊が吸い付いていた。

「どっ、どっ、どーしてこうなったぁっっ!!」
「やぁっ……見ないで……っ」
邦枝の頬は、恥ずかしさからか赤く染まっていた。
「見るなって言われても……おいベル坊何してんだ、離れろっ!」
ベル坊を引き離そうとするが、こいつはひしっと邦枝にしがみついて離れない。