気付くと、見知らぬベッドの中央に座っていた。
周りを見渡すものの、ひたすら暗闇で何も見えない。
「気が付いたか? 男鹿」
声のする方を振り返るとスポットライトの中、尊大に足を組んでふんぞり返る姫川がいた。
「姫川……なんだこりゃあ?」
男鹿が疑問を投げかける。
姫川は「フン」と笑うと、
「イッツ・ショータイム! だ」
パチンと指を鳴らすと、ほかのスポットライトも一斉に姫川の方を照らす。
あまりのまぶしさに男鹿は目が眩みそうになる。
それでも手で光を遮りながらそちらを見つめていると、姫川の脇からすっと誰かが出てきたのがわかった。
「……邦枝?」
それは男鹿もよく知る東邦神姫の一人、邦枝葵だった。
男鹿の頭の中はハテナが止まらない。
ここはどこなのか? なぜ自分はベッドの上にいるのか? どうして姫川と邦枝が一緒にいるのか?
そして最大の疑問。
な ん で 邦 枝 は チ ャ イ ナ 服 な の か ?
邦枝葵は大胆にスリットの入ったチャイナドレスを着ていた。
ライトに照らされて分かりにくいが、こころなしか頬が赤いようだ。
「喜べ男鹿。クイーンが自ら相手をして下さるそうだ」
姫川が邦枝の背中を押しやる。
「せいぜい楽しむんだな」
ニヤニヤと笑いながらそう言うと、姫川は奥へと消える。
スポットライトも消され、室内の明かりはベッドサイドのみとなった。
だだっ広い部屋に男鹿と邦枝の二人が取り残された。
「……えーと」
沈黙に耐え切れず、男鹿が口を開く。
「邦枝、これは一体……」
言いかけると、カツカツとハイヒールの音を響かせて邦枝が近づいてきた。
ベッドに腰掛けると、艶かしい動作でハイヒールを脱いでいく。
脱ぎ終わるとベッドに上がり、男鹿と相対した。
見慣れぬ彼女のチャイナ服姿に、男鹿の目が引き付けられる。
結構似合うもんだなと思って見ていると、邦枝が口を開いた。
「何してるの? 早く服を脱がしなさい」
「は?」
予想だにしていなかった言葉が彼女の口から出た為に、男鹿が固まっていると、ヒュッと風切音がする。
バシィッ!
気が付くと、ビンタされていた。
「なんでっ!?」
「グズグズするんじゃないわよっ!」
邦枝が二発目を構えるのを見て、慌てて服に手を伸ばす。
「お前こういうキャラだったか!? つーかこれ、どうやって脱がすんだ……」
見たところ、ボタンなどがあるように見えない。
戸惑っていると、
「背中」
とだけ言われる。
なるほどと思って彼女の背に手を回すと、ファスナーらしきものがあった。
それをつまんで下に引く。
ジジ……と音をさせながら下ろしていくと、チャイナ服が肩からぱさりと落ちて、肌が露になる。
白い肌にくっきりと浮かぶ鎖骨が色気を醸す。男鹿の視線は自然と下へと下がる。
大きくはないが形の整った乳房がそこにあった。
その双丘のそれぞれの頂には、桜色に色付いた蕾がある。
思いがけず彼女がチャイナ服の下に何も身につけていなかったせいで、さすがの男鹿も動揺する。
慌てて目を逸らすが、目の前の彼女に片手で両頬をガシィッと掴まれ、無理やり正面を向かされる。
「ちゃんと見なさい」
「ほま……ひゃにひって……(おま……何言って……)」
「女王として命令するわ。私を抱きなさい」
「ほあ!?(はあ!?)」
意味がわからない。
邦枝は混乱する男鹿の頬から手を離すと、その手を後頭部に沿え、ぐいっと自分の方へ抱き寄せた。
男鹿は勢い良く彼女の胸に顔を突っ込んでしまう。
むぎゅっ!
ややボリュームは足りないながらもやわらかい胸に包み込まれ、男鹿は半ばやけくそになる。
手をそろそろと伸ばして、その透けるように白いバストをやわやわと揉む。
「はあ……っ」
邦枝が深い溜息をつく。
彼女の反応を見て、今度は揉みながら乳首を指の間に挟んで擦り上げる。
「あぁ……もう少し強く……そう……男鹿、上手よ……」
邦枝が目を閉じて気持ち良さそうに囁く。
彼女が初めて見せる女の表情に、男鹿自身も興奮してくるのを感じる。
「こっちも……」
手を取られ、もう片方の乳房に導かれる。
言われるままに優しく揉んでやる。
「んん……気持ちいい……。ねぇ、私のおっぱい吸って……?」
その通りに顔を下げ、乳首を口に含んで軽く吸う。
「あんっ……!」
邦枝が強く反応する。
「……そう、もっと強く……うむ、良いぞ、その調子だ……」
「…………のわあっっ!!?」
聞き慣れた声に勢い良く顔を上げると、ベッドの端にヒルダが座っていた。
「おま……何してんだよっっ!!」
「なに、女体に関するアドバイスをしてやっているだけだ。貴様初めてだろう?」
「そうだけど! いや、そんなことはどうでもいい! なんでお前がここにいんだよっ!」
「仕方あるまい。私がサポートせねばこの世界は終わってしまうのだからな」
「この世界……?」
「そうだ。さあ続けるぞ。今から言うキーワードが女を悦ばせるコツだ。心して聞くが良い」
「お、おう」
「キーワードは……」
「……キーワードは?」
「……保守!! だ!!!」
「……保守ってなんだあああっっ!!!」
ガバっと起き上がる。
「…………」
周りの景色が一変していた。
よく見ないでもわかる。ここは男鹿自身の部屋だ。
そして男鹿がいるのは、いつも寝起きしている自分のベッドだった。
「……夢オチっっ!?」
(終)
「姫川っ! いるんだろ、出てきやがれ!!」
バン!! 無数のスポットライトが一斉に点灯する。
そのまばゆい光の中から、リーゼントがぬっと現われる。
「くっくっく、オレだとよくわかったな」
「いや、わかるだろ!」
なめてんのか、と男鹿はつぶやく。
「さて、今宵もクイーンがお待ちかねだ。手段は問わん。男鹿、クイーンを満足させろ」
「ああ!? なんでオレがそんなことしなきゃなんねーんだよ!」
「忘れたのか? てめー、オレ様の舎弟だろうが。言うこと聞くっつったよな?」
「舎弟!? いつの話してんだ。あ、待てコラ!」
スポットライトが消され、再び姫川の姿は見えなくなった。
「なんなんだよ……」
ギッ……ベッドが軽く軋む音がして、男鹿は振り返る。
チャイナドレスを半分はだけた状態の邦枝がそこに座っていた。
その姿は先日と寸分も変わらない。
「男鹿……」
彼女は誘うように名前を呼ぶと、潤んだ瞳でこちらを見つめながら、ゆっくりとベッドに横たわる。
服が二の腕より下に落ちないよう手で胸元を押さえているが、その隙間からは柔らかそうな胸が覗く。
軽く膝を立てた足はスリットにより、普段殆ど見せることのない太ももの奥の方まで男の視線に晒されていた。
その艶かしい姿態により、男鹿の下半身は熱を帯び始める。
「邦枝……」
恐る恐る膝立ちで近づく。
だが……これは夢だ。夢の中で行為に及ぶなんてバカげている。
そんな風に頭では思っているのに、身体は止まらない。
彼女の身体を跨ぐと、首筋に顔をうずめる。
ふわり、とシャンプーのいい香りがして、さらさらの髪が男鹿の頬をくすぐる。
手は自然に彼女の身体を這っていた。温かくて柔らかい。邦枝は確かにここにいる。
「は……っ……」
動きに合わせ、男鹿の耳元で熱い吐息が漏らされる。リアルな感覚……これは夢じゃない!
そこからは夢中だった。
チャイナドレスをずり下げ、現われたさくらんぼ色の果実に吸い付く。
その甘くて瑞々しい果実は、適度な弾力で男鹿の舌を楽しませる。
手はすべらかな太ももを愛おしげに撫でると、ドレスの更に奥まで侵入する。
彼女は下も身に着けていなかった。指はすんなりと秘壷に到達する。
ゆっくりと指を泉に沈めていく。
くちゅり……と音をさせながら中の感触を確かめる。
「やぁ……ん……」
邦枝が身体をくねらせる。
気持ち良さそうな様子に安心して、指をもう一本増やしていく。
彼女の内部は中で指を動かすのが難しいほどに、ぎゅうぎゅうと締め付けてくる。
今にも吹き飛んでしまいそうな理性を、かろうじて繋ぎ止めながら指を抜く。
邦枝の足を開かせその間に割って入るが、そこでぴたりと止まってしまう。
(入れてぇ……けど、生はマズイよな……。かといってゴムなんて持ってねーし……)
「ほら男鹿、これ探してたんだろ」
考えていると目の前にゴムが差し出され、思わず受け取る。
「おー、サンキューな……って古市ぃ!!?」
いつからいたのか、ベッド脇の床に古市が座り込んでいた。
「避妊は大事だからな! ガンバレよ!」
親指を立ててウィンクしてくる古市にイラっとした男鹿は、パンチをお見舞いする。
「ぐはあっ!」
「うるせー! てめぇ、まさかずっと見てたのかよっっ!!」
「それがオレに与えられた役割だからな。ほら、続けろよ男鹿」
「いや……。てめぇがいるってことはアレなんだろ?」
古市はフッと笑う。
「そうだ。オレたちはこの世界を守るため、『あの言葉』を言わなければならない。わかるな?」
「……」
「さぁ、オレの左手に手を載せろ。準備はいいか男鹿? いくぞ……バルス!!!!!」
「保守はどうしたああっっ!!!」
ガバっと起き上がる。
「…………」
うん、自分の部屋だ、ここ。
前回と違うのは、下半身に違和感があることだ。
「寸止めだったのに、マジか……」
(終)