【カイジ】堕天録の社長・村岡隆に萌えるスレ6【福本伸行】
「おはよう」
「あ・・・お、おはよう・・・」
土曜のお昼前。駅ビルはいつも人が多い。
それでも零くんは私をすぐに見つけてくれて声をかけてくれた。
「ごめん。もしかして待った?」
約束の時間より10分前に来たんだけど、すでに零くんがいて焦ってしまう。
「ううん。大丈夫だよ。俺もさっき着いたばっかりだから」
「そう、良かった」
「人が多いね」
「そうだね。土曜日だもんね」
「どれだけ人が多くてもすぐに見つけられるよ」
にこっと笑う零くんに私は素直に感心した。
「すごい。目がいいんだね」
「まあね。でも、それだけじゃないかも」
どういう意味だろう。それはそうと・・・・
「他の人は?まだなの?」
今日は文化祭の買出しで集まる予定だったんだけど、
私たち以外、誰も見当たらない。
きょろきょろする私に零くんがちょっと困った風に笑う。
「みんな用事が入ったんだって」
「えっ?」
そ、それじゃあ・・・今日は・・・・
「二人じゃ嫌?」
私はぶんぶんと首を振る。嫌なわけない!
「良かった。じゃあ、行こう。ご飯まだだろ?先食べよう」
こ、これって・・・デート・・・?!いや、違うよね!単なる買出しだし・・・!
変に意識してぎこちない動きの私の横で、零くんが機嫌良さそうに歩いてる。
あぁ、緊張する・・・。
ぎこちないく歩く私は、人ごみに飲まれそうになってしまう。
それに、やっぱり男の子だな。ちょっと歩くの速い・・・。
そう思っていると、いきなり零くんが振り向いた。
「ごめん。俺、速かった?人多いし、はぐれちゃうね」
そう言いながら、彼は左手を差し出す。
こ、これって・・・・
「えっ?あの・・・・」
「ちょっと照れるけど、はぐれるよりいいよね?」
「で、でも携帯があるから・・・」
はぐれても大丈夫。と言おうとした私を遮るように、
彼はさっさと私の右手を掴んでしまった。
「今日ね、何かのイベントがあるらしいよ。だからいつもより人が多いんだ。
そうだ。ちょっと見に行ってみる?」
イ・・・イベントとか・・・どうでもいい・・・。それより、今、この手・・・
ちょっと心臓がばくばくいってるんだけど・・・・。
心音が右手に伝わって、届いてしまいそうで・・・・困る・・・・。
屋外に設置されたイベントブースは、人気アーティストと企業のコラボイベント。
当然ながらすごい人で、本当に手を繋いでいないと、
すぐに人波に流されてしまいそうだった。
「あれ・・・あいつ・・・用事ってこのイベントだったんだ」
そういう彼の視線の先には、今日来るはずだったクラスメートがいた。
その男の子も私たちに気が付き、驚いたようにこっちに走ってきた。
「ちょっと、お前ら、何で・・・・?」
「何でって、今日が買出しの日だろ?」
戸惑うクラスメートに零くんが当然とした顔で言い返す。
「違うだろ!来週じゃん!変更になっただろ!」
「そう・・・・だった?・・・聞いてた?」
私も聞いてないので、首を振った。聞いてたらここに居るはずがない。
まず今回のメンバーってあんまり仲良くない人が多いから、
メアドを知ってるのも零くんだけだけなんだ。
だから、いつも連絡とかは零くんから来るんだけど・・・。
「ごめんね。俺が勘違いしてたみたい。じゃあ、来週にみんなで買いに行こう。それでいい?」
前半は私に、後半は憮然とするクラスメートに、零くんが爽やかに微笑んだ。
「仕方ねぇ・・・・?!おい!何で手繋いでるんだよ?!!」
急に出された怒鳴り声に、私は赤くなって手を離そうとしたが、
彼は逆にぎゅっと力を込めて離してくれない。
「あ、あの・・・」
な、何で怒ってるんだろ?!
わたわたする私の横で、零くんはにこりと笑って怒っている彼に顔を寄せた。
「牽制にきまってんだろ」
「お、お前!!」
何?今、何て言ったの?!
よく聞こえなかったんだけど、何か更に怒り出したよぉ?!
「またな。じゃ、行こう」
何か言おうとしたクラスメートより早く、零くんが私の手を引っ張って走り出した。
「あ、ちょっと!ぜ、零くん?!」
怒ってるの放っておいていいの??!
「待てよ!宇海!!」
後ろで怒鳴る声を無視して、何がおかしいのか、彼は笑いながら走る足を止めない。
人ごみに紛れ、後ろからの声が聞こえなくなると、彼はようやく足を止めてくれた。
「はあはあ」
「ごめんね。疲れた?」
「そ、それより・・・・さっきの・・・・」
「知ってたよ。あいつがあのアーティストの熱狂的ファンだって」
「?」
「だから、この日を先に指定したんだ。絶対に流れるだろうからね」
「??」
「やっぱり、来てたよ。あいつ」
また一人で面白そうにくすくす笑ってる彼に、私の疑問符が飛び交う。
えっと・・・確か勘違いとかって・・・あれ?・・・何か変かも・・・?
「どうしたの?」
笑って首をかしげる零くんに何も聞けなくて、私は「ううん」と首を振った。
まあいいか。こうして一緒に居られるんだし・・・。
「腹減ったな。昼飯行こうか。何がいい?」
まだ笑いが残る顔で私にそう聞いてくれた。
けど、その前に・・・なんていうか・・・・やっぱり照れるっ・・・!
「・・・もう人もそんなに多くないし・・・」
「・・・・・・心ってさ、縛れないじゃん?」
そっと手を見て言うと、彼は繋いだ手を離さずに、いきなり違う事を言い出した。
「やっぱり不安になるね。特にライバルがいると」
「ライバル?」
さっきのクラスメートのこと?
何のライバルなのかな?部活一緒だったっけ?
「もし、縛れるなら・・・・がんじがらめに縛りてぇ・・・」
少し下を向いた彼の呟きが聞こえない。
「何て?よく聞こえなかったけど・・・・」
私が恐る恐るそう言うと、彼はいつもの笑顔で顔を上げた。
「聞こえない方がいいよ」
そう言いながら、また私の手を引っ張って歩いていく。
今日の零くんはちょっと変だ。
よくわからないけど、今日一日。
手を繋いだままなのは決定事項となった。