ネギまの美空、マジイラネ

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92名無しかわいいよ名無し
彼女は立ち止まった。
学祭だというのに巡回警備などにまわされ退屈していたため、反応が遅くなっていた。
恐らくもう少し気を抜いていたら気付かなかっただろう。
どこか遠く、感覚の端に…魔力の動きを感じて、神経を集中させる。

「………」
「どうしたの?急に止まって」
後ろを歩く女性が声をかける。二人は揃ってシスターの装束を着ていたが、周りの仮装の中ではそう目立ちはしなかった。
「この感じ…高畑先生?……それに…」
「何かあったのね?」
「お姉様、パトロールを抜けさせてもらえませんか?」
「……理由を話してごらんなさい」
「あの一味…チャオが、動いたみたいです」
「…成程。それなら仕方ありませんね…いいでしょう。命令です、先行して状況を把握してきなさい。
後援を向かわせるよう連絡しておきます」
「はい。では…」
「気をつけてね…美空」

名を呼び終えるころには、もう彼女――春日美空の姿はなかった。
93名無しかわいいよ名無し:2005/06/25(土) 16:00:51 ID:jZ4fizZK
「ぐっ!!」
「ああっ!高畑先生…」
「さすがに頑丈ネ」
「この距離で弾丸の直撃を外すとは…やはり相当な実戦経験を積んでますね」

地下の暗闇の中、銃声が何度も反響している。
高畑は間隙を衝き、休まずに居合い拳を放つが、一つとして当たらなかった。
逆にそのスキに龍宮の手から何かが放たれ、気を抜いた足元に衝撃が走る。
――”羅漢銭”だ。

「なっ!」

高畑が石床に膝を突くと同時に、龍宮は黒く輝く銃口を高畑に向ける。

「残念だたネ。ここまでよく耐えたヨ」
「すみません、高畑先生。恨みはありませんが、仕事ですので」

高畑はここまでかというように頭を垂れた。
それを合図に龍宮の指に力がこめられた…その時。

光とともに、空気を揺り動かす風が巻き起こった。
そして高畑は、放たれた銃弾が眼前で消滅するのを、確かに見た。

「!!何だ、これは!?」
「(僕の魔法じゃない…誰が!?)」
「“アデアット”」

その場の誰のものでもない声がした。
人間大の柔らかな光が高畑と龍宮の間に出現し、何かの姿を為しながら消えてゆく。
…光の中に残っていたのは、3年A組出席番号9番、春日美空の姿に違いなかった。
94名無しかわいいよ名無し:2005/06/25(土) 16:03:36 ID:jZ4fizZK
「春日くん!?」
「春日!?いつの間にここに!?」
「ちょうど今来たばかりよ、龍宮さん。そして…チャオさん」

美空は微笑みを浮かべながら、ゆっくりとチャオに視線を向けた。

「成る程……やはりみそらサン、あなたが“切り札”だたみたいネ」

(切り札?どういうことだ…?)
高畑はあまりの状況に混乱を隠せないでいる。

「私には事情は分からないが…どうするんだ、チャオ」
「見られた以上…まとめて黙っててもらうしかなさそうネ」
「了解」

即座に三度、龍宮の拳銃が火を噴いた。
それぞれ肩に二発、腕に一発、避ける間もなく命中した。

…しかし美空は動じなかった。
突然、風穴の開いた銃創が輝きはじめる。
それは魔力の光だった。
美空の口が、微笑をたたえたまま小さく開く。

「容赦ないなあ、龍宮さん。けど…麻酔弾なんかじゃ無理よ」
「!!な…?いったい、何を!?」
「アデアット!」

その呪文に反応して、輝きが急に強さを増す。
光が消えると…そこにもう、傷口はなかった。

「…!驚いたネ…そこまでやるとは…」
「あれ、このぐらいの情報は調べてあったと思ってたけど」
「春日くん、これは一体…」
「えーと…私の能力みたいなものですよ。特殊な契約と術法を結んでるだけです」
95名無しかわいいよ名無し:2005/06/25(土) 16:05:14 ID:jZ4fizZK
彼女が細かい説明を省いたのは、能力の子細を敵に伝える訳にはいかなかったためである。
 大きく言って2つ。
”自身が自身と契約している”こと。
”自身の肉体がアーティファクトと化している”こと。
禁呪とも言われるリスクの強い術法をあえてかけることで、彼女はそれに見合った能力を得たのだ。
もちろん、そんなことを長々と敵の前で説明してやる暇も、義理もなかった。

「まあとにかく、私はこれ以上の暴挙を止めにきただけです。
 話し合いですむならそれで良し、無理であれば拘束させてもらうつもりです」
「そんなことはさせないネ…たつみやサン」

再度火を噴く拳銃が、今度は頭をまっすぐに捉えた。

「春日くん!」
「…大口をたたいた割には、あっけなかったな…」

焦燥していた龍宮の顔色がいくらか安堵したが、美空の額が輝き出すのを見て凍りついた。

「…ふう。やれやれ、乱暴ね」
「な…また…!?(今のは実弾だぞ!?)」

痛みすら感じていないようににっこり笑うと、同時にちょうど光が消えた。
額にはやはり傷一つなく、そこには健康的な肌色しか見えない。

「暴力は嫌いだけど、不可抗力ということで。神よ…お許しを。アベアット!」

そう言うと美空の姿は、忽然と目の前から無くなってしまった。

「消え…!?」
「“風花”」
「!!(後ろ!?)」
「…“武装消滅”!」
「なっ!銃が!?」

ケリは一瞬でついた。
美空は姿を目で追われることなく、背後に立っていた。
龍宮の銃が霧散するように消え、さらに反応する間もなく肘打ちを背中に叩き込まれる。
衝撃にたまらず倒れる龍宮。
全身に鈍痛が残り、すぐには立てそうもなかった。

その傍らに、いつの間にかチャオが立っていた。
96名無しかわいいよ名無し:2005/06/25(土) 16:06:10 ID:jZ4fizZK
「さすがネ、みそらサン。武装解除の上位“消滅”。
 戦闘に特化した風系魔法…そして“自己契約”に加え自身の“アーティファクト化”。
 こんな人がクラスにいたとはネ…」

(流石ね…もう気付くなんて)
美空の表情がにわかに引き締まる。

「ふふ、隣にいたのに気付いてなかったのね」
「魔力が気付かれないほどの実力者だたというコトか。…仕方ないネ」

そこでふと、チャオは龍宮に目をやった。

「チャオ!」
「たつみやサン、お仕事ご苦労ネ。けど…」

にっこりと、傍目には魅力的な笑顔でチャオが応じる。
だが、目は笑ってはいなかった。

「けど…失敗するヒトに用はないヨ」

手の装具が突然唸りを立て始め、共鳴するように龍宮の体が光りはじめた。

「…!チャオ、貴様…ッ…」

龍宮の声が終わるより早く、その姿が消失した。

「超君!いったい何を…」
「大丈夫です、高畑先生。ただの空間転移のようですから」
「!超君も魔法を!?」
「おそらくは…」

暗がりに立つその少女、超鈴音に、高畑は恐るべき威圧感を感じていた。
チャオは美空たちのほうに向かって、ゆっくりと歩を進めてゆく。

「もうワタシひとりで十分ネ…科学と魔法、2つを極めたワタシに敵はないヨ」
「…言ってくれるわね。投降する気もなし、か。
 ならば私も、神に代わってあなたを裁きましょう。ご覚悟を」
「ふふ…やってみるヨロシ」

 チャオがにわかに歩みを止める。
 中距離で対峙するチャオと美空。
地下水道の流れる音が、変わらず低く鳴動している。
(“契約時間”はあと2分…ってとこかな。急がなくちゃね)
美空がチャオを見据えた刹那、互いに強く地を蹴った。
鋭い金属音とともに、目映い閃光が暗い水面に爆ぜた。

(つづく)