洗車野郎ヒロシ 〜ヒロシスレの奴らは洗車が好き〜
深夜0:30、首都高湾岸線西行き・市川パーキングエリア。国道357号線にはさまれ、上には本線の高架。
普段は閑散としたこのPAに一台のキャデラックが入ってきた。ヒロシである。
高木の話だと水曜の夜頃には大体ここに来るという「あの男」を探しに千葉の端まで来たのだった、が。
「俺が早すぎたのか‥な?」
小型車レーンの駐車スペースには古いBMWと赤いインプレッサ、そして白いフェアレディZ。あの黒いポルシェはいない。
しかし、ヒロシは何か違和感のような「何か」を感じていた。この奇妙な感覚はなんだ?
しばらくすると、青いスカイラインがハザードを焚いて入ってきた。なんとも律儀なドライバーだ。
だが、様子がどうにもおかしい。時計は1時を回ったというのに駐車スペースに入ってきた車と出ていく車の差がありすぎる。最初に見たあの3台も出る気配が無い。
ドライバーらしき人物は外にいるから仮眠は無い。車種があまりにもかけ離れているからミーティングでもない。おかしい。
ふとヒロシは気付いた。こいつら‥一言も会話をしていない──
洗車野郎ヒロシ 〜ヒロシスレの奴らは洗車が好き〜Take2
よく見ればこいつら、車のルーフに何か乗せている。あっちのRX-8はフクピカ、むこうのZ33は超防水、手前の黒いスープラはシュアラスター‥。
何なんだ?こいつら一体何なんだ?薄気味悪いその場を離れようとPA休憩所内に行く。
交通情報掲示板を厳しい視線で見つめるツナギの若者が一人。
「まれにみるいい気温だ」
若者が独り言のように呟く。気温?たしかに洗車するには良い気温だが、よりによってこいつらここで洗車するつもりか?
時計は1時50分をさしていた。ふと駐車スペースを見ると、何故かジャッキアップしてガラコを塗っている車がいるではないか。
(PAだぜ?これだから素人はダメだって言われるンだよ!)
叫びたくなるような衝動を必死で抑え、キャデラックに戻るヒロシ。いつの間にか前に停まっているギャランのトランクには新品のプラセームが山積みになっている。
「く‥狂ってる──」
目の前で広げられている光景に軽い目眩を起こし、意識が遠のいていく。
時計は2時ジャスト。ハザードを焚きながらPAを出ていく集団。最後にヒロシが見たものは白いFDのボディに描かれた美少女キャラクターと『シアワセ、足りていますか?』
「足りねーよォ──ッ」
それから数分後、あの黒いポルシェが入ってきたがヒロシの意識はどこへやら。
黒服の男も気にする事なく走り去っていった。