【小説で】洗車野郎ヒロシ【洗車を学ぶ】

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120立志編1
暇だったので立志編ての作ってみますた。すいません。ヒロシ借ります。


夏−土曜の午後、ヒロシは洗車場に初めて所有した愛車、黒いR34でやって来た。
「いい天気だ。今日もピカピカにするぜ。」
コインを投入し洗車機に入れた。700円のワックスコースだ。
缶コーヒーを飲みながら洗車が終わるのを待つ。
「ヒョヒョヒョヒョヒョ・・・もったいないのぅ」
背後から声がした。声の主は清掃のお爺さんだった。ヒロシは車を買ってこれが
30回目の洗車。この爺さんはヒロシが洗車するのをいつも見ていて不気味に
思っていた。
121立志編2:2005/05/14(土) 21:20:06 ID:F5ORWg/40
「お前さん、3日と空けずに来とるのぉ」
「あぁ、折角車買ったんだ。大事にいつもピカピカで乗ろうと思ってね。幸い祖父が成金で金だけはあるから、もったいないってことはないよ。忠告ありがとう。」
爺さんはゴミ箱からクタクタになったエロ本を見つけ出し、喰い入るように読みながら言った。
「ヒョヒョヒョ・・・ワシがもったいないと言っとるのは洗車代じゃない。その車じゃよ。」
「どういう意味だよ。買って直ぐ5年もつ加工をしてもらったし、今日だってホラ。週に2回は洗ってるからピカピカだろ。」
ヒロシはさすがに少しムッとして言った。
「ピカピカか・・・ヒョヒョッ」
「爺さん。ちょっと失礼だろ。言いたいことがあるんならはっきり言えよ!」
「おぉすまなんだ。・・・そうじゃのぉ。口で言うよりも見た方が早いかの?」
老人は空を見上げながら続けた。
122立志編3:2005/05/14(土) 21:21:04 ID:F5ORWg/40
「今日はもう奴らは来んじゃろうから明日の朝4時。もう一度ここに来てるがええ。」
「訳わかんねぇこと言ってんじゃねーよ。なんだよヤツらって。それに4時って
早すぎるだろ。」
「ええから来るんじゃ。そうすれば全てが判る。・・・おっと。それからもう直ぐ
降るぞ。折角の愛車を濡らしたくなければさっさと帰るんじゃな。ヒョヒョヒョッ」
ヒロシは不機嫌そうな顔で帰路についた。5分も走るとフロントガラスにポツポツ
と雨が落ち始めた。
「ほんとに降り出した・・・あんなに天気良かったのに。あの爺さん何者だ?
それにヤツらって・・・」
123立志編4:2005/05/14(土) 21:22:26 ID:F5ORWg/40
翌朝4時過ぎ。少し白み始めた街を走るGTRの姿が。
「やべぇ。ちょっと遅れてるな。と言ってもこの時間。誰がこんな時間に
洗車してるってんだよ。眠てぇ。ふぁぁ。」
遠目にいつもの洗車場が見えてきた。この洗車場は駅からも遠く、
民家も近くにはない。周辺にあるのは洗車場を運営しているカーショップ
と飲食店やコンビニだ。

「え?まさか!?」
洗車場について愕然とした。5台の車が洗車している。しかもせっせと
拭き上げている。
「こ・こいつら何時から来てんだ?」車から降りながら呟いた。
「バカモン!4時と言ったじゃろうが!約束の時間に遅れるとはなんと
ルーズなヤツじゃ!」
清掃のじじぃが怒鳴った。
124立志編5:2005/05/14(土) 21:23:21 ID:F5ORWg/40
「悪かったよ。ちょっといろいろあったんだよ。」
一番近くで拭き上げ中の眼鏡の青年が突然。
「あー!じっちゃん。この人ぶつけてるよ。遅れたのはそのせいだねきっと。」
皆集まってきてGTRのリアバンパーの左側を見はじめた。
「ホントだ。こりゃやったばかりだな(笑)。よく見つけたな五郎。」
皆が指を指して笑っている。ヒロシは顔を真っ赤だ。
「こ・・これは自動販売機で缶コーヒーを買おうとして・・・。暗くてポール
が見えなかったんだよ。おい爺さん!あんたがこんな時間に呼び出す
からだぞ!」
「ヒョ?これが最近話題の逆ギレというヤツか?ヒョヒョヒョッ」
125立志編6:2005/05/14(土) 21:25:03 ID:F5ORWg/40
長身の男が割って入る。
「あぁ。笑ってすまなかった。でも夜間バックする時は先にヘッドライトで確認するとかしないとな。俺は修司。シュウって呼ばれてる。君は?」
「ヒロシだ・・・」
まだ不機嫌そうだ。
「まぁまぁ機嫌直して。オイラは五郎。よろしくヒロシ君。じっちゃんに声かけられるとは、君、ツイてるよ。」
「おい!自己紹介は後だ。早くしないと時間がないぞ。今日はアトがあるからな。皆、特に急げよ。五郎。お前は特に作業が遅いんだからな。」
シュウの声で皆自分の車に駆け足で戻って行った。
126立志編7:2005/05/14(土) 21:26:06 ID:F5ORWg/40
「おい爺さん。こいつら何モンだよ。それに爺さん、あんたは・・・?」
「ヒョッ?ワシはただのジジイじゃよ。奴らもただの洗車好きじゃ。」
「俺を呼び出した訳は?」
「まぁしばらく奴らのやることをそこで見ておけばえぇ。」
「チッ・・・」

しかし、そこから展開される光景はヒロシにとって驚きの連続だった。
「な・・・なんだあの布は?吸水力が半端じゃない。」
「ヒョヒョ。丈治じゃな?相変わらず拭き上げは早いのぉ。ヤツが使っとる
のはユニセームというヤツじゃ。シュウと五郎はプラスセーヌを使っとるのぉ。」
「しかもこのスピード。このペースだとあと10分もあれば終わるじゃないか。
なんだってこんな時間に・・・。」
「ヒョヒョッ拭き上げは迅速にせんとな。」
127立志編8:2005/05/14(土) 21:26:41 ID:F5ORWg/40
「ん?今度は何だ?水かけながら、何か手に持ってる・・・」
「おぉ。シュウは今鉄粉取り粘土をかけてるんじゃよ。」
「ね・・粘土?車にか?」
「ヒョヒョ。塗装面にはのぉ、鉄粉が突き刺さっておるのじゃ。その上から
じゃと何を塗ってもザラザラじゃし、効果も長続きせん。もっとも、いつも
かけてる訳ではないぞ。今日は特別じゃ。」
ヒロシが呆然と見るめる中作業がどんどん進んでいく。
128立志編9:2005/05/14(土) 21:27:44 ID:F5ORWg/40
「お、今度はワックスだな?しかも液体の。俺みたいにプロに任せれば
手作業なんてしなくてもいいのに・・・」
「ヒョッヒョッヒョッ」
「おい。なんかえらくチマチマとかけているな。もうちょっと景気よくできな
いのかよ?」
「まぁ黙って見ておれ」
シュウのワックスがけが完了したようだ。と思った瞬間。ヒロシはありえな
い光景を見た。
「お!おい!爺さん。あいつ正気か?せっかくワックスかけたのにまた
洗車始めたぞ!」
「ヒョッヒョッ。お前さんがワックスと思っていたのはコンパウンドじゃよ。
あぁして削りカスを流しておるんじゃよ。」
129立志編10:2005/05/14(土) 21:29:06 ID:F5ORWg/40
「コ・・コンパウンド・・・。聞いたことがあるぞ。俺がコーティングを頼んだ
ショップの人が言ってた。塗装を削るから使うなって。おい爺さん止めて
やれよ。」
「ほう。お前の頼んだショップはそう言ったか。まぁ間違いではないがの。
した方が良い時もあるんじゃよ。特に今日のように粘土を使うとの、
鉄粉が抜けた穴や粘土を引きずったキズが入るんじゃ。それをああして
均しとるんじゃよ。まぁヤツらは夏場にコンパウンドすることなど普通はな
いんじゃがの。今日は特別じゃて。」

シュウはプラスセーヌを取り拭き上げを終えた。6時を過ぎた。
五郎は作業が遅れているようだ。汗まみれになりながらまだコンパウンドを
かけている。
「こいつら・・・一体何時間やるんだ?」
130立志編11:2005/05/14(土) 21:30:09 ID:F5ORWg/40
次にヒロシが見たのはやはり見たこともない光景だった。
「おい。今度は何だ?あれはさっき拭き上げで使ってたやつだろう。
「ヒョヒョ。あれはシュウお気に入りのポリラックじゃ。コーティングじゃよ
。塗り方もいろいろあるがシュウはプラスセーヌで塗るんじゃよ。」
「ふ・・・拭き上げ用のもので塗るのか・・・?」

シュウはボンネットとルーフを一気に塗り終え、道具箱の袋から
大事そうに黄色い布を取り、ルーフの拭き上げを始めた。
「え?ほとんど乾かしてないぞ。いいのか?それにあの黄色い布は?」
「ポリラックは10分も乾かせば十分じゃ。シュウはああして二工程前に
塗った場所を拭き上げることで時間を効率良く使っとるんじゃよ。
そしてあの黄色い布はシュアラスターの鏡面仕上げクロスじゃ。粉の出易い
ポリラックの拭き上げには必需品じゃな。」
シュウは一通り施工を終え、もう一度同じ工程を繰り返した。
「二度塗りじゃよ。あーやって皮膜を少しでも厚くするんじゃ。」
131立志編12:2005/05/14(土) 21:30:56 ID:F5ORWg/40
シュウが施工を終えこちらに近付いてきた。
「じっちゃん。なんとか7時までに終終らせたぜ。」
「よう頑張った。水分の拭き上げはもちっと早くする必要があるの。では
ヒロシよ。お前さんの自慢のGTRとシュウのランエボを比較してみるがええ。」
シュウの車に近付くに連れ、ヒロシの体中から汗が噴き出してきた。
「な・なんだこの輝きは!景色が映ってるぞ!ツルピカだ・・・」
比較するまでもなかった。ヒロシの車には無数の線状のキズがついている。
132立志編13:2005/05/14(土) 21:32:24 ID:F5ORWg/40
「ヒロシ。君は車を大事にしているつもりで実は痛めていたんだよ。
黒い車を洗車機に叩き込むなんて・・・」
「いや。それはショップの人が、このコーティングは5年ももつ固いものだから、
普段の洗車は洗車機で十分だと・・。確かにこの線状のキズが気にはなって
いたんだが・・・。ショップの人はもともと黒い車のこのキズはきれいには
しきれないし、コーティングできれいになったから逆に目立つようになったんだと・・・。」

シュウと爺さんの目つきが変わった。
「お前さん。どこに出したんじゃ?」
「駅の近くのツルピカbPという店だけど・・・」
シュウと爺さんが目を合わせ
「やはりな・・・。あそこは線路の近くだと言うのに屋外で作業するとんでもない
ショップじゃ。5年ももつようなコーティングなどないわ。確かに黒い車を完全
にきれいにすることは難しいが、ある程度はできる。おそらく磨きも手を抜いとる
じゃろうて・・・お前さん騙されたんじゃよ。」
133立志編14:2005/05/14(土) 21:34:10 ID:F5ORWg/40
ヒロシはその場に崩れ落ちた。丁度丈治が自分の車の作業を終えて
こちらにやって来た。シュウはヒロシの腕をつかみ引っ張り上げて言った。
「立て。ヒロシ。高くついたがお前は学んだんだ。そして昨日、
この洗車仙人に声をかけられた。お前はついている。さぁお前の車を洗うぞ。
俺たちはその為に早めに作業を始め、日が昇る前に終らせたんだ。
さぁじっちゃん。店を開けてくれ。ヒロシのために洗車道具を揃えよう。」

爺さんは店のシャッターを開け、店に灯りが灯った。シュウと丈治が店に駆け込んだ・・・。
「せ・・・洗車仙人?爺さん、あんた一体・・・?」
五郎もやってきた。残りの二人はまだ洗車している。
「あーやっぱりダメだった。一度塗りしかできなかったよ・・・。
ヒロシ君、このじっちゃんはね。この洗車場とショップのオーナーでね、
この世界でその人ありと言われた洗車仙人なんだよ。君はその洗車仙人
に声をかけられたんだ。ホントついてるよ。」
シュウと丈治が戻ってきた。両手に沢山の洗車グッズを持っている。
「さぁこれが今日からお前の武器だ。定番商品で揃えている。コーティングは
俺と同じポリラックだ。さぁ時間がない。俺が傍で指導する。五郎!丈治!いくぞ!」
134立志編16:2005/05/14(土) 21:35:36 ID:F5ORWg/40

1台の車に4人で群がり、作業が進んでいく。
「違う!いきなりシャンプーするヤツがあるか!最初は濡らして汚れを
浮かすんだ!」
「ハイ!」
「水洗いは高いところからやるんだ!余った時間で下回りの泥を落せ!」
「ハイ!」
「スポンジを落すな!新しいの買って来い!硬いのはダメだぞ!
アイオンだ!アイオンを買って来い!」
「ハイ!」
「コンパウンドは小範囲ずつだ!エッジ部は塗装が落ち易い。気をつけろよ!」
「ハイ!」



135立志編17:2005/05/14(土) 21:36:36 ID:F5ORWg/40
9時を回った。すっかり陽が出ている。4人は洗車を終えた。
「終ったようじゃの。中目コンパウンドから始めたんじゃ。この時間に
終れば上出来じゃろう。」
そこにはシュウの車には及ばないもののヒワイな輝きを放つヒロシの
GTRがあった。
「さぁ恒例行事だ。五郎!コーヒー買って来い!」
7人は何とはなしに磨き終えた車を眺めながらコーヒーをチビチビと飲んだ。
ヒロシの頬は濡れている。
「みんな・・・ありがとう。こんな俺のために・・・」
「良いってことよ。今度はオイラの車を手伝ってよね。君の為に一度塗りしか
できなかったんだから。」
「五郎!自分の作業が遅いのを人のせいにするな!」
「ちぇっ丈治さんはいつも厳しいっす」
「ハハハハハ」
136立志編18:2005/05/14(土) 21:37:20 ID:F5ORWg/40
談笑している中洗車仙人が言った。
「シュウ。どうじゃなヤツは?」
「じっちゃんが見つけただけのことはある。吸収の早さが半端じゃない。
ヒロシならもしかすると・・・」
「うむ。ワシも少々驚いた。まさかコレほどとは。コイツならきっと・・・」

ヒロシはGTRに乗って洗車場を後にした。疲れていた。しかし爽快だった。
身を乗り出し怪しく光るボンネットに目をやると顔が綻ぶ。
助手席何か紙があるのに気付き手に取った。
「請求書 洗車グッズ1式 金弐万三千円也」

ガシャーン!

「あ。ヒロシ君。またぶつけたッス・・・」