【COTY】日本カー・オブ・ザ・イヤー【疑惑の選考】

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徳大寺有恒と岡崎宏司のCOTY辞任の弁(その1)


SAPIO 1990年1月25日号より

CAR OF THE YEAR
「日本カー・オプ・ザ・イヤー」
選考委員辞任宣言


GT-Rとセルシオに
優劣をつけられるか

徳大寺 おれはねえ、カー・オブ・ザ・イヤーでひと
つだけずっと疑問を持ってるのは、全員一致でノミネ
ートされたクルマが今まで1台もないことなんだ (選
考委員は第1次ノミネートで各10台ずつ選ぶことにな
っている)。普通、10台も選べば、そのうちの2、3
台は必ず満票になるのが自然だと思うんだ。だから間
違ってるともいえないけど、今回(89-90) の場合、
セルシオとスカイラインぐらいは満票なのが当然だと
思うけどなあ。去年も満票はなかったし、一昨年も、
その前もなかった。
岡崎 世の中には変わってる人もいるからねえ(笑)。
僕は、ファミリアのノミネート落ちに一番驚いたな。
だって、今やあれは全米ナンバー1のフォード・エス
コートに取って代わる世界最量産車のベースモデルだ
し、しかもクルマの出来もいい。
 まあ、日本カー・オブ・ザ・イヤーも今回で10回め
を迎えて、僕も徳さんも今回限りで選考委員を辞める
ことに決めたんだけど、今回は本当に選考が難しかっ
た。
徳大寺有恒と岡崎宏司のCOTY辞任の弁(その2)

徳大寺 『サピオ』のページを借りて、辞任の弁明を
しとかなきやいけないだろうな。今回はいろいろな意
味でこの賞も曲がり角に来てるね。たとえば、今やあ
らゆるセグメントであらゆるクルマが出てくるこの国
で、1台だけをイヤーカーとして選ぶ理由はなんだろ
うかということ。今回は特に、1台を選ぶということ
がすごく後ろめたいよ、おれ。
岡崎 確かに、4、5年前までは日本一を選ぶという
ことにも価値はあった。メーカーに気合いを入れさせ
るためにも価値があったし、ユーザーを啓蒙するとい
う点でも効果はあった。だけど、今回は1台1台コン
セプトが違うから、そもそも優劣をつけようがないん
だ。
 GT-Rとセルシオを比べろっていわれてもなあ、
これはどうにもならない (笑)。
 それにしても、各メーカーの意気込みはすごい。そ
して、当然それに対する世間の風当たりも強いんだけ
ど、カー・オブ・ザ・イヤーには、そこまでしてでも
絶対に取りたいとメーカーに思わせるほどの効果があ
るんだろうな。
徳大寺有恒と岡崎宏司のCOTY辞任の弁(その3)


徳大寺 だって、あの貰はセールスマンにとつてはあ
りがたいぜ。「このクルマは、わが国の自動車に関す
る権威が集まって選んだカー・オブ・ザ・イヤー受賞
車です」というセールストークが使えるわけだから。
受賞がかなりビジネスと直結する。だから、その効果
とバランスする寸前まで、メーカーは金を使うよ。
 もうひとつはメーカー同士のメンツだ。よそが取っ
て、うちが取れなきや恥だし、社内全体の志気にもか
かわるという風潮もあるらしいんだな。そういう社内
のプレッシャーで、広報担当者はかわいそうなくらい
だ。実際、広報の仕事って単純に評価できないものな
のに、この貧でマスコミ対策面だけが独り歩きして、
広報の"業績″をはっきり目に見える形に変えちゃっ
たんだから、罪つくりだよね。
 まあ、そういう考え方が日本企業をここまで押し上
げてきたわけだから、必ずしもだめとはいわないけど、
そろそろ金持ちらしい余裕みたいなものが、出てきて
もいいんじゃないかと、おれは思うけどな。
徳大寺有恒と岡崎宏司のCOTY辞任の弁(その4)


岡崎 選考委員の中には、箱根のテスト・デーだけで
しかノミネート車に乗っていない人もいるみたいだけ
ど、もっとしっかりと乗って、自分なりの評価をして
ほしい。何も専門家である必要はない。だけど、1年
に1度だけ箱根に行って、ちょこつと乗って点をつけ
るっていうのは問題だよ。
徳大寺 とにかく、このへんでカー・オブ・ザ・イヤ
ーにも、ある種の自浄作用が働いてくれることに期待
したいなあ。選考方法や、メーカーの選考委員に対す
る接待づけという現実も含めてね。実にくだらん意見
になって恥ずかしいけど、実行委員、選考委員、それ
からメーカーの良識が、今こそ望まれるんじゃないか
な。
徳大寺有恒と岡崎宏司のCOTY辞任の弁(その5)


日本車のレベルを変えた
スカイラインに10点

岡崎 僕の今回の配点をいうと、スカイラインが10点。
セルシオとインフィニティが5点ずつで、ユーノス・
ロードスターが4点で、レガシィが1点。
 スカイラインの10点は、走り最優先での評価。つま
り、あのクルマが世界に与えた技術的インパクトの大
きさと、これからの日本車のレベルを引っ張り上げて
いくリーダー的役割を果たすクルマとしても大いに評
価した。
 セルシオとインフィニティは、アメリカ、あるいは
ヨーロッパのこのクラスのクルマに、いろいろな意味
で大きな影響を絶対与えると。しかも世界じゅうのユ
ーザーにとってプラスになるようなね。この2台が4
万ドルクラスに与えたインパクト、これはやっばり世
界じゅうを大騒ぎさせてるわけだから、当然評価しな
ければいけない。
ユーノス・ロードスターは、単純にいってコンセプ
トが面白いし、本当に楽しいクルマをよくつくってく
れたな、という感謝の気持ちを込めて4点。
 レガシィは、今回乗ってみてすごくよくなっていた
から。それまではZ(フェアレディ)に入れようかと
思ってたんだけどね。
徳大寺有恒と岡崎宏司のCOTY辞任の弁(その6)

徳大寺 おれはね、毎年何か自分なりの、納得できる
ような基準を見つけて採点してきた。で、今回の基準
は何にしようかとずっと考えてきたんだけど、まあ今
回がとりあえず最後だしさ、「自分が好きなクルマ」
という基準にしようと決めたんだ。具体的にいうと、
セルシオ10点、スカイライン10点、ユーノス・ロード
スター3点、アコード(5気筒シリーズ)1点、レガ
シィ1点。
 まあ、こんな世の中だから、おれひとりぐらい、社
会的視点で選んでやろうかなとも思ったんだけどね。
セルシオもスカイラインも0点にして。
岡崎 でもさあ、何が社会性があるつていっても難し
いんだよな、くくるのが。
徳大寺 いや、おれはセルシオやスカイラインを反社
会的っていうんじゃなくて、つまり、金余り日本とい
っても、そんなにお金の行きわたってない人は、1億
2000万のうち相当いるだろうという考えがちょっ
とよぎったんだ。それに90年代は確実に原油高になり、
省エネの基本も忘れてはならないしね。
 でも、いざそういうふうに選ぼうとしても、ノミネ
ートされたクルマの中では適当なのが見当たらないん
だよ。ミニカだって、軽のくせにときにはリッター8
血しか走らない「ダンガン」なんだから(笑)。
徳大寺有恒と岡崎宏司のCOTY辞任の弁(その7)

岡崎 ファミリアも落っこちだしね。ただし、89年の
スポーツカーと高級車のラッシュは、ある意味で日本
の現実の象徴だから、それを反社会的と切り捨てるの
もなー。
徳大寺 外国でもこの種の賞はたくさんあるんだけど、
イギリスの『オート・カー・アンド・モーター』誌
(1895年創刊、世界最古の自動車誌)が今年から
始めた賞は、技術革新賞(Technical Innovation of
the Year)、環境寄与賞(Environmental Contribu
tion of the Year)、安全装備賞(Safety Feature
of the Year)、市場先行賞(Marketing Initiative
of the Year)、デザイン賞(Design of theYear)
という5つのイヤーカーを設定し、さらにスペシャル
ティ・メーカー賞、大規模メーカー賞、業界マン・オ
ブ・ザ・イヤーがあるんだ。あえて特別な1台を選ば
ない。これはひとつの見識だし、自動車と人間、そし
て自動車と社会の関係を前向きに考えていく評価軸と
しては、かなり体系的によくできた賞だよ。
岡崎 う−ん、やっばりとかくメーカー工作のウワサ
のあるヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーへのアン
チテーゼとして考え出されたのかなあ。
徳大寺有恒と岡崎宏司のCOTY辞任の弁(その8)


もはや世界が相手にしない人気投票じゃ
意味がない

徳大寺 ここで、89年の総括という意味でわれわれな
りの個人賞を出してみようじやないか。まず"岡崎賞″
は?
岡崎 ユーノス・ロードスター。スカイラインの10点
満点は冷静に考えた場合で、冷静さをなくしてってい
うと、個人的にはユーノス・ロードスターだね。実際、
もう買っちゃったし、すごく楽しんでるから。
徳大寺 そうやって見ると、ユーノス・ロードスター
って大したもんだよな。おじさんは2台目として買え
ばいい。そして、若いやつはあれ1台ですべてまかな
えばいいんだから。で、困るのは"徳大寺賞"。セル
シオもスカイラインも買っちゃったからなあ。でも、
あえていえばGT-Rだな。
徳大寺有恒と岡崎宏司のCOTY辞任の弁(その9)


岡崎 デザイン賞はZだろうな。技術革新賞は日産の
アテーサETS、もしくはホンダのVTECエンジン。
徳大寺 残念ながら、環境寄与賞は該当車なし。安全
装備賞は、これもノミネートされなかったセリカの機
械式エアバッグにあげたい。あまり目立たないけど、
従来のものよりかなり安くできるのがポイント。交通
事故死の急増は大問題だ。これからエアバッグをさら
に普及させていくうえで、あれはとても大切な技術だ
よ。
岡崎 市場先行賞を決めるのは難しい。どうしてもセ
ルシオ、インフィニティ、ユーノス・ロードスターに
よる新市場創造が、89年の最大の特徴だったからね。
徳大寺 そういう意味で、業界マン・オブ・ザ・イヤ
ーをひとりだけ選ぶのも難しいね。やっばりセルシオ
の鈴木主査、インフィニティの岡主管、スカイライン
の伊藤主管の3人だろうな。彼らは、見事に自分のキ
ャラクターを出しきったよ。
 そうそう、ユーノス・ロードスターの開発にGOを
出したヤマケンさん(山本健一マツダ社長/当時)も
候補に挙がる。このクルマの場合、実に大胆なセグメ
ントへの挑戦を承認した勇気を評価したいね。
徳大寺有恒と岡崎宏司のCOTY辞任の弁(その10)

岡崎 デザイン、環境、安全などは、自動車の根幹な
んだけど、これほど難しいテーマもない。もし、こう
いう選び方になれば、技術的なプレゼンテーションが、
えらい濃い密度で行なわれることになる。そしてわれ
われも、必死になって勉強しなければならなくなる。
これなら、僕は頭を下げてでも、また選考委員をやり
たいと思ってるんだ。これはもう、日本の自動車ジャ
ーナリズムだけでなく、メーカーにとつても、ひいて
はユーザーにとつても素晴らしいことだよ。そうすれ
ば、本当にいい技術を露出させていけるもんな。配点
に悩むよりも、そういう技術の内容に悩みたいと僕は
思う。
徳大寺 そうだね。いくら年男を選ぶお祭りのような
ものといったって、この賞がイベントとしてこれだけ
の価値を持ってしまったからには、もう"人気投票″
のようなものじゃ意味がないよ。日本ローカルの宣伝
向けではなく、その賞の価値が世界的に理解されるよ
うなシリアスなものであった方がいい。今のやり方は、
どう考えても論理的じゃないよね。