パピヨンの裁判は5月14日東京地裁815法廷で午後3時から!

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584√VдV株告人パピヨン ◆Iv51NPgOSk
「確か、このあたりにしまっておいたハズじゃが」
 村長はあっちこっちの箱をガタガタさせて探した。そのたびにホコリが舞い散る。
「おお、これじゃ」
 村長はお目当ての箱を見つけた。それはドラム缶ぐらいの大きさの箱だった。中を開けるとアパラスの実がたくさん詰まっている。
「本当に三種類あるんだ」
 アルカはそれぞれ手に取って確かめた。アルカが持っているアパラスの実は丸いが、他の二つの木の実は三角形と四角形をしている。
三角形のが思考の木の実で、四角形のが記憶の木の実とのことだ。色はどれも真っ白だ。
村長の話によると、最初にこの三つのアパラスの実を発見した男と食べた男は同一人物で、ただの冴えない中年男だったという。
 男は、大衆の目の前で自らが発見したアパラスの実を見せびらかし、三つとも食べてしまったとのことだ。
そしてすぐに妖怪に変身してわけのわからないことを言って暴れ出したらしい。男はその場ですぐに大勢に取り押さえられ、
しばらく妖怪でいたが、もう一度アパラスの実を食べさせたら元の人間に戻ったとのことだ。
この男も、パター山でアパラスの実を見つけたそうな。
「ようし、またパター山に行こう」
 アルカがそう言うと、村長は血相を変えて怒鳴った。
「ならん! 絶対にならんぞ!」
「え〜どうして〜」
 アルカは駄々をこねるような声をだした。
「どうしてじゃと? そんなの妖怪が出るからに決まっとる。
 バンパラス島の地図ぐらい見たことがあるじゃろう。パター山を抜けたらすぐに妖怪村じゃ、
 絶対に行っちゃならんぞアパラスの実も二度と取らないように」
 村長はそう言うと、アパラスの実を全て箱の中にしまった。
「ちぇっ」
585√VдV株告人パピヨン ◆Iv51NPgOSk :2009/05/17(日) 09:26:29 ID:bFNw+DBC0 BE:316119233-2BP(2010)
つまらなそうな顔をしたアルカと一緒に村長は倉庫を出て再び鍵を閉めた。
「おっと、もうこんな時間じゃ。今日は昼からゲートボール大会の開会式に出席せにゃならん。アルカ、何度も言うがくれぐれもパター山には近づかないように」
 村長はそう言い残してその場を去っていった。
 しかし、アルカはニヤリと笑って再び倉庫の前に戻った。
「へっへっへ」
 なんとかもう一度倉庫にもぐり込んでアパラスの実を頂戴しようと考えたが、
やはり扉は鍵で堅く閉ざされていて、どうしても中に入ることができない。
アルカは困ってしばらくウロウロと倉庫の横側や裏側を回っていたが、ふと別の扉を発見した。
それは非常口用のドアだった。しかも運が良いことにそのドアは鍵がかかっておらず、
アルカはまんまと倉庫の中に進入することに成功した。そしてアパラスの実を姿の木の実、
思考の木の実、記憶の木の実とそれぞれ三十個ずつぐらい近くに置いてあったカゴに入れて持ち出してしまった。
アルカはその後、すぐに自転車に乗って倉庫から逃げ去った。そして、しばらく自転車をこいだが、
もうこの辺りでいいだろうということで自転車から降りた。全速力でこいだので息をはぁはぁ切らしている。
(このアパラスの実をどうしようか?)
 せっかく倉庫から盗み出したのだから使ってみたくなるのが人情というもの。
特にアルカのような好奇心旺盛な少年ならなおさらだ。ためしに食べてみたい気持ちになった。
妖怪になってしまうとあってさすがのアルカも少し躊躇したが、
どうせもう一度食べればまた人間に戻れるとの安易な気持ちから好奇心の方が自制心に勝った。
「よし…ひと思いに…」
586√VдV株告人パピヨン ◆Iv51NPgOSk :2009/05/17(日) 09:27:56 ID:bFNw+DBC0 BE:2212831297-2BP(2010)
一息ついてから、アルカは一気にアパラスの実を三種類とも食べた。
《モグモグモグ》
《ゴックン》
「なんだ、なんともないぞ」
 すぐに体に変調はなかった。しかし、三十秒もするとアルカの体に流れる血流が徐々に激しくなり
ドクンドクン、バクンバクンと脈打って体に変化が訪れた。
「あぁぁぁ――っ 体が熱いぃぃ―っ!」
 それは恐るべき衝動だった。アルカはあまりの熱さにもがき苦しんだ。
「うおおおおお妖怪になるぅぅぅ」
 アルカはみるみるうちに人間から妖怪に変身してしまった。一口に妖怪と言っても色々な妖怪がいるが、
アルカは傘を三分の一ぐらい開いて逆さまにしたような、そんな妖怪になった。
目玉は大きく二つ飛び出るようについていて足は一本しかない。
だから歩くにはピョンピョン飛び跳ねるようにして進む以外になかった。
「オレは一体……」
 アルカは低い声を出した。妖怪になると声も変わるらしい。
アルカは人間だった頃の記憶を完全に失ってしまった。
587√VдV株告人パピヨン ◆Iv51NPgOSk :2009/05/17(日) 09:29:28 ID:bFNw+DBC0 BE:526864853-2BP(2010)
彼が辛うじて覚えていたのは自分が今まで人間であったことと、アルカという名前だけだった。
そして今、自分は妖怪なのだという意識からむしろ、今まで人間であったことを恥ずかしく思うのだった。
「妖怪になってみるとこっちの方かはるかに快適だな体は丈夫だし暑くもないし寒くも無いぞ」
 妖怪になったばかりのアルカは一本足でピョンピョンとあたりを飛び回った。
一本足で飛び回るのはかなり爽快で楽しくて仕方なかった。
しかし、それもすぐに飽きてなぜ今まで自分は人間だったのか、どうやって妖怪になったのかを
必死で思い出そうとしたがどうしても何も思い出せなかった。
 それどころか、アルカはアパラスの実のことすら覚えていなかった。
彼は地面に落ちているアパラスの実を見て、これが一体何なのか分からず、
不思議に思いながら地面から拾って全部カゴの中にしまった。
 彼はこれからどうしようかと悩んだ。妖怪のみなし子になってしまったアルカは
とりあえずアパラスの実が入ったカゴを持って道なりに歩き始めた。
自転車は置きっぱなしにしたままだった。妖怪の姿では自転車に乗ることもできない。
 小一時間ほどテクテクと歩いていると、向かい側から一人の若い男が農作業の途中なのか
クワを持って近づいてきた。その男はずっと下を向いて歩いていた上に目が悪かったので
なかなかアルカに気づかなかったが、すれ違う間際にふと気がついて仰天した。
男は自分の目を疑ったほどだった。