パピヨンの裁判は5月14日東京地裁815法廷で午後3時から!
アパラスの実
好奇心旺盛な青年だった―――。
彼の特徴を一言で表現するなら、おそらく島の人間の誰もがそう口にするだろう。
と、いうのもこのバンパラス島自体がそんなに大きな島ではないのだ。
実に不思議な島で世界地図には載っていないし、どこの国の領土なのかすらハッキリしない。
二十年前にオーストラリアの難破船が島の南端に乗り上げたとき、その船の乗組員が
「ここはどこの国か?」と聞いたが、村長はじめ誰一人として答えられなかった。
人口も五百人といない。だから彼に限らず島民はそのほとんどが顔見知りで
ちょっと悪いことでもして誰かに見られようものならどこに逃げてもすぐに捕まってしまう。
この島は別の島や外国との交流が何もなく、島民は全て自給自足の生活だった。
大人たちは狩りをしたり釣りをしたり農作物を育てたり木の実を取ったりと、
原始的な仕事をしていたが、この島の人たちは昔からずっとそうやって暮らしてきたのである。
「アルカ」
父親が彼を呼んだ。アルカは右手に釣竿を、左手にバケツを持っていた。
バケツの中には魚がいっぱい入っている。父親と一緒に釣りをして帰る所だったのだ。
「何? お父さん」
その声はかなり高かった。アルカの身長は高くもないし低くもない。
太ってもいないし痩せてもいない。顔は丸っこくて髪は真っ直ぐで耳が半分かぶるぐらいの長さだった。
肌はきれいで白っぽい。アルカは目が良かった。両目とも視力が2.0ある。
おかげで釣りや狩りの時、誰よりも遠くを見渡せた。
「今日は果物を取りに行こうか」
「えっ、山の中に?」
アルカが父親に聞き返した。彼は来月で十四歳になる。
足が速く運動神経も良いので彼はこの年齢で釣りも狩りも一通りこなすことができた。
しかし、山の中には一度も入ったことがなかった。
「いいの?」
父親は首を縦に振った。果物が取れる山と言えば、
島の北西に位置するパター山以外にない。しかし、この辺りは妖怪が出て危険なので
島の子供はもちろん、大人さえめったなことでは近づかない。
パター山で果物を収穫する際には大人がライフルを持って妖怪に襲われないよう
十分に注意しながら急いで収穫するのである。ところが、今日は雲ひとつない晴天で見晴らしが
良かったことと、釣りが大漁で機嫌が良かったことが主な理由だったのか、
父親は唐突にパター山に行こうと言いだしたのである。
「そんなに深入りはしない。注意すれば大丈夫だよ」
アルカが緊張していたので父親はリラックスさせるように言った。