木冬かがみが大学でぼっちになっているようです20

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402人間失格×らき☆すた
 私に渡された三枚の写真には、同一人物が写っているらしい。
一枚目は小学校低学年の時の写真だ。
喩え凶悪殺人犯であれ幼い時を映した写真には、
可愛らしい子供の姿が映っている。そして私はそういった写真を見るたびに
悲しくなるのだ。こんなに可愛い時期があったのに、
どうして道を踏み外してしまったのだ、と。
だがこの写真を見ても、どうしても憐憫の情は湧いてこなかった。
そもそもその写真に写っている子供が全く可愛くないのだ。
少なくとも、あの女は人間を失格するべくして生まれてきた、
そう思わざるを得ない程には、憎らしい容姿をしていた。
 どの要素がこの童女を憎らしく見せているのか。
それはこの目に尽きる。
世の中の全てを睨み上げると同時に、
世の中の全てを見下すような矛盾に満ちた瞳。
この瞳を私は今まで何度恐れてきただろうか。
 二枚目は大学時代のものらしい。
三枚の写真の中では一番私が知っているあの女──柊かがみ──の面影を宿す一枚だ。
だからだろうか。こんなにもこの写真を破り捨てたくなる衝動に駆られるのは。
まるで今にも、写真の中の女が喋り出しそうな恐怖に襲われる。
見ているだけで不愉快な一枚である。
 さて、最期の一枚であるが…。
これも柊かがみのものであるらしい。なんとも形容しがたい姿が映されている。
いつの頃撮ったものかも不明だ。最早柊かがみを思わせるパーツなんて、
吊り目しか見当たらない。
403人間失格×らき☆すた:2008/10/02(木) 22:49:14 ID:6DOmGs3o0
いや…それ以前に、だ。この写真に写されているのはそもそも人間だろうか?
私も多数の精神疾患を抱えた人間を見てきた。
不幸な人間も多く見てきた。
だが、そういった人間達とは何かが違う。
不幸な人たちも精神疾患を抱えた人たちも、ある一点は共通していた。
あらゆる感情の重みに潰されている、という一点だ。
その重み故に、感情それ自体を一時的に封印してしまっている人間も居た。
だがこの写真に映っているモノは違う。感情というよりも
心そのものを──封印というよりむしろ──捨ててしまっている、
そんな印象を受けた。

 あの女の事など最早どうでもいいが、
写真と一緒に渡された三枚の便箋の内、一枚目を広げ、目を走らせた。
一体何が起これば人は心を捨て去れるのか、少しだけ興味を惹かれたのだ。

*

 「一枚目」
 物心ついたときから、私は周りよりも優れた存在であろうとしていた。
幼稚園や小学校ではクラスメイトと張り合い、
また家庭でもつかさやまつり姉さんと張り合っていた。
 この気質を幼い時は、単に負けず嫌いなだけだ、と思っていた。
だが実際は違った。単に、人間を見下していただけなのだ。
見下している対象より自分が劣ってしまう、それだけは避けねばならない。
その思い故に、私は周囲より優れた存在であろうとしていたのだ。
本当に何様のつもりだったのか。今思い出すと呆れてしまう。
自分は人間ではなく、より高次の存在、例えば神のようなものだと
思いあがっていたのだから。
404人間失格×らき☆すた:2008/10/02(木) 22:50:04 ID:6DOmGs3o0
 尤も、これはある意味啓示めいた思いあがりだったのかもしれない。
その後、見事に人間としての道を踏み外すことになるのだから。
それも、私の傲慢極まりない思いあがり故に。
尤も今の私に取ってみれば、人間を超えた存在である神も、
人間未満の存在である私も、人外という意味において等価だ。
 
 話が少し横道に逸れた。
さて、本題に戻すとしよう。
小学校高学年くらいからは常に学年トップクラスの成績を収めていた。
学年トップクラスにランクイン、これは中学校に入っても続いた。
もう中学生になる頃には、つかさを以前のような競争相手として
見る事は無くなっていた。むしろ、保護の対象だった。
優れている姉は不出来な妹を保護しなければならない、
そのような義務感に目覚めたのだ。
これも所詮は思いあがりでしかなかったが。
 とにもかくにも、中学時代までは私は無敵だった。
劣等感というものを知らなかった。
女王、当時の私を形容するのならばこの名称が相応しい。
尤も、実態は裸の女王様でしかなかったのだが。
 県内トップクラスの進学校、稜桜学園高校にもあっさりと合格した。
実際、つかさに勉強を教えながらでも難なく受かったのだ。
 稜桜に難なく受かった、その事で私の天狗っぷりは頂点に達した。
まだ稜桜に入ったわけでもないのに、
既に稜桜でも女王を気取る自分の姿を夢想していたくらいだ。
405人間失格×らき☆すた:2008/10/02(木) 22:50:29 ID:6DOmGs3o0
 だがそんな私の夢想も、稜桜高校入学後まもなく瓦解する事になる。
女王ではなくなってしまったのだ。

rst

*

 一枚目の手紙はそこで終わっていた。
私はこの女の事なんて、高校時代の三年間しか知らない。
だから、幼い時の話が書かれていたときは新鮮さを期待したものだ。
私の知らない柊かがみ、それが書かれているのではないのか、と。
 だが実際には、私のよく知っている柊かがみ像しか書かれていなかった。
高慢で尊大で傲岸不遜な柊かがみ。
新鮮味なんて全くなかった。
 それでも二枚目を手に取ったのは、気になる文節があったからだ。
柊かがみの唯我独尊が高校入学後まもなく打ち砕かれた、
という意味の最期の二行だ。
思い返しても、高校時代三年間通じて彼女は間違いなく女王気取りだった。
周りを蔑むようなあの目に射竦められていた日々も、
昨日の事のように思い出せる。
 だが、彼女は夢想が高校入学後まもなく瓦解した、と書いている。
女王ではなくなった、と。
 私が見てきた、周りを常に見下す高慢なあの女は
一体何だったのか。
どうしても気になった。
 その疑問を氷解させるべく、私は二枚目の便箋も開いた。