●おまえら男ならヒカルたんハァハァだよな?Part43○
戸惑いと混乱を抱えたまま、ヒカルはふらふらと女房の案内のままに別部屋へ進み、しつらえられた
寝床へ身を横たえた。
けれど床に就いても、混乱はヒカルから眠りを奪ったままだった。
思いもかけなかった告白にヒカルは混乱し、困惑する。混乱のままに、逝ってしまった人の名を呼ぶ。
「さい…」
けれど目の裏に浮ぶのは花のように典雅で艶やかな微笑みではなく、柔らかで優しく穏やかな眼差し
ではなく、厳しく真っ直ぐに見つめる黒曜石の瞳。
耳に木霊するのは、「君だよ、近衛光。」と、己の名を告げる声。
唇に残る、軽く触れて離れていった柔らかな唇の感触。相も変わらず熱い身体。
思い出されるのは、懐かしいあの人でなく、彼の事ばかり。
「大好きですよ、ヒカル」と、かつて耳元で囁かれた優しい声を思い浮かべようとしても、それはつい先程
の静かな、けれど真剣な告白にかき消されて。
混乱のままに、ヒカルは逝ってしまった人を呼ぶ。
「佐為…」
けれど水面に映る人影が投げ込まれた小石によって乱されるように、その姿は揺らめいて乱れ、乱れた
と思うと次の瞬間には他の姿にすりかわり、
「どうして…どうして、佐為、」
目を瞑っても、耳を塞いでも、必死に名を呼んでも、瞼の裏に映るのはその人ではなく、戸惑いと混乱
に、ヒカルの頬を涙が伝う。
佐為……佐為、おまえが、見えない。
月が…明るくて……月があんまり明るく輝くから……星が、見えない。
見えないよ、佐為。
953 :
学生さんは名前がない:03/07/28 12:03 ID:JhtPujCJ
干すage
sage
水音が聞こえる。
早朝の張り詰めた空気の中で、アキラが禊の水を浴びているのだ。
戸の隙間から朝の光が室内に射し込んでいる。
あの時よりも、今朝はもう随分明るい。
天井を見上げたまま、ヒカルはここで過ごした日々の、最後の夜と、その朝との事を反芻した。
ではあの言葉は夢ではなかったのか。
ではあれは自分の事だったのか。
夕べの彼の言葉は今度こそ夢ではなく現実にあったことで。
かつて聞いた、自分が夢と思いこんだ言葉もやはり現実だったのだと、やっと悟る。
とんでもない大馬鹿者だと、よっぽど鈍感な奴だと思った、それは自分の事であったのか。
成る程、とてつもなく鈍感な大馬鹿者だ。
なぜ気付きもしなかったのだろう。
それでは自分はあの言葉を、望んでいたのか、望まなかったのか。わからない。わからなくなる。
その時は確かに嬉しかった。嬉しいと感じた。それなのになぜ、夢だと思い込んでしまったのだろう。
それではまるで、嬉しいと思いながらも彼の思いを拒絶したようなものではないか?
けれど水音に呼ばれたようにヒカルは起き上がり、戸を開けて庭に降り立ち、あの日の朝のように
井戸に向かった。
爽やかな風が肌に心地良い。
近づいてきた人の気配を感じてか彼が振り返り、ヒカルを認めて小さく微笑んだ。
髪をかきあげながら水を払うように軽く頭を振ると、飛び散った雫が朝陽をうけてキラキラと光った。
背も、体格も、ほとんど変わらぬだろうと思っていたのに、こうして明るい日の光の下で見る彼の身体
は、もはや少年のそれではなく、引き締まった鋼のような痩躯が、濡れた黒髪の艶やかさが、水を弾く
肌の白さが朝陽の下で眩しくて、ヒカルは思わず目を細めた。
かつて、一度とはいえあの腕が俺を抱き、あの胸に俺は顔を埋めたのか。彼の身体は熱く、彼の腕は
力強く、自分の中に押し入ってきた彼は雄々しく逞しく、そして彼の囁きは思いだしただけで顔が火照る
ほどに熱く甘かった。
一気に蘇る記憶に、ヒカルは頬を赤らめて彼の裸身から目をそらす。
その様子に彼が小さく笑った。笑われて、ヒカルは益々顔を赤くさせた。
そのまま言葉も発さずに彼は身体を軽く拭い濡れた衣を絞って井戸を離れ、ヒカルの横をすり抜ける。
後から振り返って彼の後姿を目で追った。何か言ってくれないかと追い縋りたい気持ちを断つように、
ヒカルは井戸端へと足を進める。水を汲み上げて手を濡らすと井戸水はひんやりと冷たく、口に含む
と仄かな甘みを感じた。
携帯電話から軽快なメロディーが流れ、着信ランプが点滅する。画面には、メール受信と
表示されている。相手の名前を確認して、ヒカルはうれしそうに笑った。
「塔矢からだ…」
手に入れたばかりの新しい携帯には、現在、一人しか登録されていない。だから、名前を見なくとも、
本当は誰から掛かってきたのかわかっていたのだ。
メールボックスを開いてみると、待ち合わせ場所の変更が指示されていた。今日、アキラは
『週刊碁』の取材で、棋院に行っている。午後には終わるので、その後、二人で碁会所で打って、
それからアキラのアパートへ向かう予定だ。
「どうして、場所変えたんだろう………」
ヒカルは、何度も首を捻った。いつもの待ち合わせ場所は、棋院近くの喫茶店。アキラが指定した喫茶店は、
棋院を挟んで反対側にあり、やや不便なところにあった。
ヒカルは和谷の暴走のきっかけとなった喫茶店でのキスを、見られていたことを知らなかった。
アキラがそれに連なる記憶から、ヒカルを遠ざけたいと思っていたことももちろん知らない。
「まあ、いいか……」
アキラにはアキラの考えがあるのだろう。待ち合わせ場所の変更なんて、たいした問題ではない。
「あーあ…アイツ早く来ないかな………」
テーブルの上に携帯ゲームを置いて、ヒカルは溜息を吐いた。コンピュータ相手の対局は、
簡単すぎて、ヒカルには暇つぶしにもならない。二度目にもらったメールには、約束の時間に
遅れそうだと入っていた。
少しでも早くアキラを見つけようと、ヒカルは外に視線を廻らせた。ちょうどそのとき、
ガラスを一枚隔てた向こうに知っている人の姿を見つけた。自分に気付かず、通り過ぎようとするその人に、
ヒカルはウィンドウを叩いて、振り向かせようとした。
ドンドンとガラスを叩く音がして、「何だ?」とそちらの方へ顔を向けた。よく知っている
相手が自分に向かって一生懸命手を振っている。
「進藤………」
手招きされるまま、伊角は店の中に入っていった。
「伊角さん…」
ヒカルがにっこりと笑いかけた。その笑顔に胸が高鳴る。最後に見たときより、ずっと健康そうで、
血色もよく、身体にもいくらか肉が付いているようだ。だけど、伊角の心を捕らえた儚さや
少女のような可憐さは今もその表情の上に留まっていて、平静に振る舞うのが難しかった。
「えーっと……ゴメンなさい…迷惑かけて…」
伊角が自分の前に座ると同時に、ヒカルは頭を下げた。
「いや、いいんだ。それより、もういいのか?」
「うん……もう、平気…」
ヒカルが恥ずかしそうに俯いた。 薄く染まった頬に、ほのかな色香を感じて目を逸らす。
アキラとうまくやっているのだと知り、少し胸が痛んだ。
「そうか………」
よかったと思う反面、残念だとも思う。ヒカルを救う役目が自分であればよかったのに―
と、ほんの少し考えていた。
―――――バカだな……オレは…
運ばれてきたアイスコーヒーを口に含みながら、自嘲した。ヒカルは伊角の顔に浮かんだ
笑みの意味を誤解したらしく、ニコニコと笑っている。そんなヒカルを愛しく思い、伊角も
本当の微笑みを返した。そして、暫く以前のように他愛ない会話を愉しんだ。
「伊角さん…大きな荷物だね。どこか行くの?」
ふと、ヒカルが伊角の隣の座席におかれた大きな紙袋に目をとめて、不思議そうに訊ねてきた。
伊角は、一瞬、どう答えようかと思った。これは自分のものではない。使いを頼まれたのだ。
ハッキリ言って気の重い……出来れば引き受けたくなかった仕事だが、どうしてもと
伏し拝まんばかりに頼まれ、了承してしまったのだ。
興味深そうに、紙袋を見ていたヒカルの顔から、見る見る血の気が引いていく。伊角が
慌てて、座席の下にそれを隠したが、もう遅かった。
「ヤダ、ヤダ、ヤダ………!どうして、そんなの持ってるんだよ…」
ヒカルが小さく悲鳴を上げた。
袋の中身は、あの日、ヒカルが和谷のアパートに置いてきたリュックだった。
「………頼まれたんだよ…」
伊角は、仕方なく事情を話した。
「いらない…!そんなのいらない!捨てちゃってよ!」
今にも泣きそうな声で、ヒカルは伊角に訴えた。
「でも、財布も携帯も鍵も入っていたぞ。大切なものじゃないのか?」
悪いとは思ったが、一応中身を確認させてもらった。どれもみな、必要なものに思える。
これがないとヒカルが困るのではないかと思ったことも、使いを引き受けた理由の一つだ。
「いらない……全部いらない……」
「進藤………」
伊角はどう宥めればいいのかと、弱り果てた。
「だって…だって…携帯は新しいの買った…塔矢が選んでくれたんだ…」
ヒカルが伊角に、真新しい携帯電話を見せた。
「か………鍵だって…ちゃんと新しいヤツもらったし……」
「リュック…リュックも……誕生日にくれるって……塔矢が……」
ヒカルはとうとう泣いてしまった。しゃくり上げながら、伊角に「捨ててくれ」と、懇願した。
ヒカルのその姿に、どうしようもなく哀情を催し、その柔らかい髪に触れようと、手を伸ばした。その瞬間、「ヒカルに触るな!」と、鋭い声が、伊角を制した。
その声の方に振り向くと、アキラが今にも喰い殺さんばかりに伊角を睨み付けていた。
「………アキラ…」
ヒカルも茫然として、アキラを見ている。
アキラが自分を剣呑な表情で見ていることを知っていながら、伊角はヒカルに暫し見とれた。
涙を溜めた大きな瞳や薄く開けられた艶やかなピンク色の唇。細く整った眉の上に、明るい
金色の前髪が微かに掛かり、その微妙な色合いが白い顔を彩った。息をすることも忘れたように、
ただその愛らしさを見つめ続けた。
「どうして、あなたがここにいるんですか!?」
険のある声に、現実に引き戻された。
「進藤に何をしたんです。」
アキラは、座っている伊角を上から、冷たい目で見下ろしている。ここが、喫茶店でなければ、
彼は自分に掴みかかっていたのではないだろうか?もちろん今でも、十分注目の的ではあるが………
和谷の一件以来、彼が自分に対していい感情を持っていないだろうと予想していた。直接の
関わりはないものの、ヒカルを傷つけた和谷と親しい自分を警戒しているだろうと思ってはいた。が、実際こんな風に接せられると酷くいたたまれない気持ちになる。ヒカルを
心配しているのは自分も同じだ。
「何をと言われても…」
返答に困ってしまう。自分は特に何をしたわけでもない。こんな使いは自分だってしたくなかったのだ。
でも…………
「伊角さんは悪くないよ!」
伊角が口を開こうとしたとき、ヒカルが二人の間に割って入った。テーブルの向こう側から、
手を伸ばし、アキラの服を引っ張り、自分の方へ引き寄せた。
「だけど………!」
「伊角さんは悪くない…オレが声を掛けたんだ…」
―――――それで、オレが勝手に泣いたんだ……
ヒカルは小さく呟いて、まだ涙が乾いていない小さな顔に無理矢理笑みを乗せた。
「伊角さん…オレのこと知ってんだ………」
「え?いや…オレは…」
狼狽えて、言葉に詰まった。ヒカルは、そんな自分を見てまた笑う。綺麗すぎる笑顔が胸に
痛い。
「これを届けに来たってことは、そう言う事だよね…………」
「ちがう……!ただ、頼まれただけで……」
ウソが下手だよね……伊角さん優しいなあ……………消えそうな声なのに、伊角の耳には
ハッキリと届いた。
「……………」
何も言えなかった。
ヒカルは俯いて、テーブルの上で組んでいる自分の手を見つめていた。小刻みに震える
それがヒカルの心情を表している。
「――――――伊角さん……オレ……アイツのこと怖い………」
あの時のことを思い出すと身体が震えて、息が出来ない―ヒカルは自分の身体を抱きしめた。
「怖くて………思い出したくない………思い出させないで……頼むから……」
顔を伏せて、両手で耳を塞ぐヒカルの肩に、アキラが手を掛けた。労るように、そっと背中をさすり、
耳元で何かを囁いている。
伊角は黙ってヒカル達を見ていた。入り込めない二人の絆に、安堵と寂しさが交互に去来する。
「わかった………これはオレが処分しておくから………」
「………ありがとう…」
アキラがヒカルを支えながら、立ち上がらせた。「ゴメンね」と伊角に謝り、立ち去ろうと
背中を向け、歩きかけたその足がふと止まった。
「伊角さん………」
「何?」と振り仰いだ伊角に、ヒカルが躊躇いながら問いかけた。
「あの……預かったのこれだけだった?」
「………?」
「………花はなかった?青紫の花の鉢植え………」
少し考えてから、ああと思い当たった。
「――リンドウのことか?アレも進藤の?………とってこようか?」
ヒカルは、 すぐに返事をしなかった。暫く黙ったまま、伊角とその側に置かれたリュックへと
順番に視線を移し、それから静かに首を振った。
「ううん………大事にしてくれているんだったら、いいや………」
「進藤…」
アキラがヒカルを促した。その時、一瞬伊角と目があった。 アキラは、軽く会釈をした。再び、
顔を上げたとき、彼の全身を包んでいた棘はもうなかった。
「“ヒカル”…“アキラ”………」
二人きりのときは、あんな風に呼び合っているのだろうか………
「あきらめた方が懸命なんだろうな…」
自分も彼も………伊角は薄まってしまったコーヒーを飲み干した。
HOSHU
「ゴメンよ………」
店を出るなり、アキラに謝られ、ヒカルは驚いた。
「え?え?何で、オマエが謝るの?」
「ボクが待ち合わせ場所変えたから………」
そんなことを一々気にするのはおかしいと思う。伊角に会ったのは偶然だし、声をかけたのは
自分だ。それに、伊角は何も悪いことをしていないし、アキラだって………。
「ヘンだよ…そんなの…」
「…………ゴメン…」
だから、どうして謝るんだ―と、大声で怒鳴りたい。アキラの心配そうな顔を見るのは、
キライではない。むしろ好きだ。
アキラの部屋に泊まった夜、彼は眠っている自分の顔を心配そうに何度も覗き込んでいる。
そのことに、ヒカルはちゃんと気が付いていた。それが嬉しくて、とても幸せな気分だった。
でも、今はその顔が堪らなく憎らしい。
「オレ、オマエのそんな顔大キライ!」
アキラが困ったような顔をする。言いたいのこういう事ではなく………でも、どう言えば
いいのかわからない。憎まれ口を叩く自分にイライラする。何より、彼にそんな顔をさせるのは
自分なのだと思うと情けなくて、涙が出る。
伊角の前でも簡単に泣いてしまったし………要するに、ヒカルは、アキラに八つ当たりしているのだ。
自覚はしているのだが、感情が抑えられない。
漸く元気になったとはいえ、ヒカルの情緒はまだ少し不安定だった。突然泣いたり、不機嫌になったり、
かと思えば酷く陽気に振る舞って見せた。アキラがそんなヒカルを気遣えば気遣うほど、
彼は不機嫌になる。ヒカルが自分の感情を持て余しているのがわかるから、アキラは以前のように
遠慮なしには怒れない。
「………………ゴメン…」
ヒカルが蚊が鳴くような小さな声で呟いた。小さな小さな謝罪の言葉。俯いた白い横顔を
前髪が隠してしまっている。
「………オレ……ヘン………ずっと…ヘンなんだ…………」
それだけ言って、ヒカルは黙ってしまった。
「――――海に行こうか………」
ヒカルがゆっくりと顔を上げた。
「え?今から?碁会所に行くんじゃないの?」
「碁会所はいつも行ってるし。」
「でも、でも、今から行くと夜になるよ?泳げないし、帰ってこられないよ?」
ヒカルはすっかり狼狽えていた。アキラの突飛な提案に目を丸くしている。
「いいよ。泳げなくても…帰れなかったら泊まればいいし。」
「泊まる?泊まるって……夏休みだぞ!もう終わりだけど…いきなり行っても、宿なんかとれネエよ!?」
アキラは混乱して喚くヒカルの右手首を掴んで、歩き始めた。泳ぐ泳がないはどうでもよかった。
もともとヒカルの具合を見て、いつか行ければいいと考えていたのだ。その時は、たぶん秋か…
もしかすると冬になっていたかもしれない。ただ、少しでもヒカルの気分が晴れればと、
それだけ願った。
電車をいくつも乗り継いで、漸く目的の場所に到着したときには、もう、日が暮れかかっていた。
「ほらぁ…だから、言ったじゃん…」
うんざりしたようにヒカルが溜息を吐いた。よほど疲れているらしく、砂浜にぺたりと座り込んでしまった。
アキラは黙って辺りを見回した。なるほど、もう人影はまばらで、いるのは寄り添いながら、
ロマンティックな海辺の夕暮れを語るカップルか花火の準備をしているグループぐらいしか
いない。だけど、風は優しく髪を梳いていき、潮の香りが身体の中を通り抜けていく。
アキラもヒカルの隣に座った。両手を後ろについて、身体をやや後ろに倒す。二人とも
黙ったまま、空の移ろいを見ていた。茜色から、紫…そして濃紺へと変わっていく様は
言葉に出来ないほど美しかった。暫くして、闇の中にボンヤリと炎が浮かび上がり、そこかしこで
華やかな黄や赤が爆ぜるのが見えた。
「…………病気のときってみんな優しいよな…」
ヒカルがポツリと言った。アキラは黙って続きを待った。
「風邪ひいて熱出すとさ…お母さんがオレの好きなものをいっぱい作ってくれるわけ…
お父さんもオレの欲しかったおもちゃおみやげに買ってくれたりして…」
ヒカルは砂を弄び、手の隙間から落としてはまた拾い上げた。
「でも、風邪が治ると、またいつも通りで……嫌いなもの残して怒られたり……」
近くにいてもヒカルの表情はよく見えない。だが、口調は穏やかで優しかった。
「そんで、オレ、つまらなくて…ずっと、病気のままでいればよかったって………」
そこで、ヒカルは話すのをやめてしまった。沈黙が二人を包んだ。アキラは何も言わない。
ヒカルの話はまだ終わっていないと思った。
「……………今、みんな優しいだろ……?オレが心配かけたせいだとは、わかっているんだけど……」
ヒカルは立てていた自分の膝に顔埋めた。
「オレはもう大丈夫だと思っていたんだけど………みんなが優しいから…………」
「………………やっぱ……まだ…ダメなのかな…って……」
ヒカルはそれ以上何も言わなかった。顔を伏せたまま、身体を震わせている。
――――――ボクはバカだ………
アキラは唇を噛みしめた。
何でも先回りして、ヒカルの前から危険なものを遠ざけていればいいと思っていた。ヒカルが
大切だから…傷つくところを見たくなかったから…そうやって守っていればいいと思っていた。
ヒカルは自分で一生懸命立ち上がろうとしていたのに、それに気付いていなかった。
「…………ゴメンよ…」
今度は、ヒカルも怒らなかった。代わりに顔を少し、アキラの方へ向け
「オレも、心配かけてゴメン………」
と、謝った。
静かな波の音と少し遠くで聞こえるはしゃいだ声。歓声が上がるたび、綺麗な火花が小さく
夜空に散った。
「帰ったら、オレ達もしような…花火…」
ヒカルの手が、砂の上の自分の手に重なった。
*ヒカルたんが爆走します*
- = ≡ ▼〃ヾ
(*゚ー゚)
- = ≡ ( O┬O
- = ≡ ◎-ヽJ┴◎ ゴオォォォ
いつもと変わらぬ涼やかな顔で朝餉の椀を置いたアキラに、ヒカルはぼそりと話しかけた。
「あのさ…賀茂、」
なにか?というように
「昨日の…」
もごもごと言うヒカルに、アキラはまるでなんでもない事のように応えた。
「僕が君を好きだって言った事?本当だし本気だよ。」
照らいもない真っ直ぐな物言いに、ヒカルはびくりとふるえる。
「冗談や酔狂であんな事が言えるとでも?」
けれど、身を縮こまらせたヒカルに、アキラはふっと笑って表情を弛めた。
「いや、いいよ。構わない。君が信じようと信じまいと。
ただ…言の葉に乗せてしまったことはもう取り消せない。取り消すつもりも無い。」
そう言いながら、すいとヒカルに向かって手を伸ばした。指先が頬に触れそうになってヒカルは身体を固くした。
「怯えてるの?」
半ばからかうような声でアキラが言った。
「あの時は…あんなに熱く、君のほうから求めてくれたのに?」
言われて、ヒカルの頬がかあっと赤くなる。逃げるように視線が揺れる。
そんな様子にアキラは微笑って付け加えた。
「そんなふうに怯えなくても、何もしないよ。
君の望まない事は金輪際何もしない。君の望む事以外は。」
「君が望まないのなら君には指一本触れないと誓おう。」
しかしそのアキラの宣言は逆に自分の奥の欲望を見透かされているようで、ヒカルは益々顔を赤くさせた。
「僕は君じゃないし、佐為殿でもないから、彼がどんな風に君を愛したのか、君がどんな風に彼を愛して
いたのか、その想いと僕の想いと、どこが同じでどこが違うのかはわからない。
ただ、君が好きだ。」
「ずっと、君が好きだった。」
白い指がヒカルに向かって伸ばされて、ヒカルは思わずぎゅっと目を瞑った。
けれど頬に触れるひんやりとした指先も、唇に触れる暖かな唇も、いつまでたっても降りてはこないので、
こわごわと目を開けた。
「君が望まなければ触れないと、言っただろう?」
「べっ、別に、俺は…っ」
「それはどっちの意味?僕に触れて欲しいって事?それとも触れては欲しくないという事?」
答えることが出来ずに真っ赤な顔でアキラを睨みつけるヒカルに、アキラは愛おしそうに目を細める。
「言い方が悪いね。ごめん。もう一度聞こう。君に、触れてもいい?それとも、いや?」
「いっ、いやじゃ、ない…」
必死に答えると彼の腕がすっと伸びて抱き寄せられる。
「ヒカル…」
耳元で囁くように名を呼ばれると、くらくらと眩暈がするような気がした。
「…一度でいいから君の気持ちを聞かせて。」
「ほんの少しでも、僕を好き…?」
わからない。わからないんだ。嫌いじゃない。嫌いなわけじゃない。
好きだ。好きだと思う。けれどそれを言っていい言葉なのかどうかわからない。
混乱してしまって、「好きだ」と言う言葉の意味がわからない。
「賀茂……俺…、俺、」
| ヾ▼
|▽゚) コソーリ ホッシュ!
⊂ノ
|
|
~~~~~~~~~~~~~~
973 :
山崎 渉:03/08/02 00:20 ID:IqAw+snR
(^^)
ty
975 :
不細工ですお:03/08/02 02:30 ID:ePkY+6Ww
pugera
>590
つづき
子どもの不読率10%(毎日新聞調査)(実物との出会いが少ない>>読書習慣が身に付かない)
W.W.ノートン(コロンビア大学)によるとアメリカの公立図書館約1万5千館
日本:町村未設置率60%以上
都市部:資料費5年で約半額に
出版界売り上げと図書館貸出の相関関係、出版不況のこの6年だけのグラフと図書館が増えてきた1970年を起点としたグラフでは様相が異なる。
アメリカではハードカバーの専門書のうち3,000部くらいは図書館が買うのであてにしやすい。日本は500部くらいであまりあてにならない。
本屋が専門書置かなくなった。専門書は中身見てから買う人が多い。図書館で中身見てからかう人が増えるかも。
出版界の総売り上げ2兆4369億円
図書館予算 公立360億円 大学308億円
いま500館の図書館にアンケートを依頼している。
文芸作家の収入
4,000部売り上げ 1500円の新刊 年2点 収入(経費込)120万円
1,500*10%*4,000*2=1,200,000
推理作家の収入(経費込)300万円
10,000部
1,500*10%*10,000*2=3,000,000
「……ごめん。」
小さな声と共に、ヒカルを抱きしめていた腕が緩む。
「済まなかった、無理強いをして。」
アキラの身体が離れていって、吹いた隙間風に、ヒカルは小さく身を震わせた。
縋るように見上げたヒカルに小さく微笑みかけて、アキラはすっと立ち上がった。
「もう、出かけなければ。」
そして小さく首を傾けてヒカルに問う。
「君は?」
「俺…」
今日は非番で、何の用事もない。
昨日は、もしもアキラに用事がないのなら、一日ここで碁でも打ちながらゆっくりと過ごそうと思って
いたのに。彼が用があると言うのならば仕方がない。帰ろうか。
そう思って腰を浮かせかけながら、次にヒカルは思いとどまって、もう一度アキラを見上げた。
「俺、ここで、待ってていい?」
え、と言うように、アキラが振り向いてヒカルを見た。
「考えたいんだ。」
すっと、アキラの顔が強張った気がした。
「考えて、ちゃんと答えを出したいから、だからここでおまえを待ってていい?」
僅かに目を見開いて、じっと見つめるアキラの視線を、ヒカルは真っ直ぐに見返す。
黒い瞳の奥で、何かが揺れ惑っているようにも見えたが、かれはふっと目を伏せ、静かな声で言った。
「…ありがとう。嬉しいよ。」
こうしてここで彼の帰りを待っていると、あの頃に戻ったかのような錯覚を感じる。
あの頃の彼を思い、そしてまた、昨夜の、今朝の彼を思う。
引き寄せられて、彼の腕の中に抱かれて、熱い想いを囁かれて、彼の溢れる情熱が恐ろしいと思った。
恐ろしい?なぜ?
だってあの時のアキラは、あの頃の俺は。
―――ほんの少しでも僕を好き?
ふと、僅かに怯えたような色を含んだ、彼の声が蘇ってきた。
馬鹿野郎。
今更、そんな事を聞くな。
俺が、何度おまえを好きだと言ったと思ってる。
我知らず、一筋の涙がつっとヒカルの頬を伝った。
おまえを好きだって、だから一緒にいたいって、離れたくないって、そう言ったじゃないか。
駄目だって言ったのはおまえじゃないか。
おまえを好きだから、だからおまえが欲しいって、それなのに嫌だって言い張ったのはおまえじゃないか。
辺りが夕闇につつまれてきたのを感じて、ヒカルは立ち上がり、灯りをともす。
庭から虫の声が聞こえる。夕風の涼しさに誘われたように、まだ薄明かりの残る外に出ると、西の空には
一番星がまたたいていた。
以前にもこうしてここに座って、今日と同じように、あの時は冬枯れた庭を眺めていた事があった。
夜空に瞬く星々は美しくて、佐為のいない世も、それでもまた美しいのだと、静かな安らいだ心地で星を
見上げていた。
あの時彼は何と言ったろう。
彼が想い人を語った時の、熱い眼差しが、寂しげな声音が、何だかとても哀しくて、彼が、自分以外の人
をあんなにも切なく語るのが寂しくて、辛くて、それが何かもわからずに俺は泣いていた。
俺は、馬鹿だ。
俺も、あいつも、大馬鹿だ。
どうしてあの時にちゃんと気付かなかったんだろう。
だって俺は淋しいと思った。俺の前で他の人のことなんか言わないで欲しいと思った。俺だけを見ていて
欲しいと思った。その事の意味に、どうして気付かなかったんだろう。
東の空を仰いでも、まだ月は見えない。
今日は十六夜。月が昇るのはもう少し後だろう。屋敷の主はまだ帰らない。けれど、月が昇る頃にはきっと
帰ってくると、ヒカルは何の根拠もなく信じていた。
遠くで、ギイィと、門の軋む音がした。
どくん、と、心臓が、大きく脈打ったのを感じた。
草を踏み分けて、彼がここに戻ってくるのを感じていた。
たまらずにヒカルは立ち上がり、廊下を走り、彼の元へと急いだ。
「アキラ……!」
彼の名を呼びながら、ヒカルはそのままアキラに抱きついた。不意打ちをかけられて、一瞬よろめき
かけたアキラは、それでも何とか体勢を整えてヒカルを受け止める。
「……ヒカル?」
「俺、おまえを好きだって、言った。」
アキラにしがみ付いたまま、ヒカルは続ける。
「言ったじゃないか、好きだって。何度も。」
ぎゅっと彼の衣を掴んで、彼の肩に顔を埋めたまま、ヒカルは言い募る。
「……あの時だって。
俺は好きだって言ったじゃないか。
…好きだから、だからおまえが欲しいって。
言われて怒ったのはおまえだ。
聞いてないのはおまえじゃないか。」
そしてばっと顔を上げて、アキラの顔を正面から見た。薄茶色の瞳の縁に、今にも零れ落ちんばかり
の涙が光って、アキラは返す言葉もなく、小さく首を振った。
「俺、何度も言った。
おまえが好きだって。おまえと一緒にいたいって。
その度に、おまえは駄目だって。
俺が何を言っても、いっつもおまえは駄目だって、そればっかり。
それなのにおまえが俺を好きだなんて…おまえが好きなのが俺だなんて、
思うわけ、無いじゃないか。」
「それは……それは、だって、君が無茶な事ばかり言うから。」
無茶だって?好きだから一緒にいたいって言うのが、どこが無茶なんだ。
好きなくせに好きじゃないふりをずっとしてたおまえの方が、よっぽど無茶じゃないか。
そのくせ、俺が好きだって言ったら、あんなに怒って、俺を乱暴に扱ったくせに。
「馬鹿野郎…!」
ぎっと彼の髪を握って引っ張ると、アキラが痛みに顔をしかめて、ヒカルを見た。
「無茶苦茶なのはおまえの方だ。無理ばっかしてるのはおまえの方だ。
ホントに、ホントにおまえが俺を好きだって言うんなら、」
アキラが目を見開いてヒカルを見た。
「本当にって、まだそんな事を言うのか?君は。」
真っ直ぐに見つめる鋭い眼差しに、心臓を鷲掴みにされた。
受け止めきれずにヒカルの眼差しが揺れる。
怒ったようにヒカルを見つめていたアキラは、不意にヒカルの身体を抱きしめた。
「ヒカル……」
熱い声で己の名を囁かれて、熱い腕で抱きしめられて、体全体で彼を感じて、ヒカルは目が眩む思いがした。
ずっとこの腕が欲しかった。この眼差しを自分のものにしたかった。
向けられる優しい目が、けれど本当は自分のものではないのだと思っていて、ずっと苦しかった。見た事も
無い彼の想い人を、心の底ではずっと羨んでいた。妬んでいた。
「本当に…?本当に俺を好き?ずっとおまえが想っていた人って、本当に俺だったの?」
「君以外にいる筈が無い。ずっと、君が好きだった。」
「だって、」
「ずっと、ずっと、もう思い出せないくらい前から、君が好きだった。君だけが好きだった。だから、」
アキラの手がそっと、ヒカルの柔らかな髪を撫でる。その優しい手が嬉しくてヒカルは仰のいたまま目を閉じる。
そして落ちてきたアキラの静かなくちづけを、ヒカルはそっと受け入れた。
hoshu
「ここもダメなら、駅に戻って待合室で夜明かししよう…」
アキラのこの提案にヒカルは怒ると思っていた。だが、意外にもヒカルは「いいぜ」と笑って
了承した。
「でもオレ、駅より海がいいな…」
青白い顔に似合わない明るい笑顔。
既に、四件断られている。ピークは過ぎているものの夏を楽しむ人はまだまだ多いらしく、
ヒカルが最初に言ったように、何処の宿もいっぱいだった。
「飛び込みでなんて、無理だよ。ぜーったい、ムリ!海で野宿決定!」
ヒカルは、笑って言った。
「そうだね。無謀だったかも…」
「ここで待ってて…」
ロビーの椅子にヒカルを座らせて、フロントに向かった。ヒカルは野宿でもいいと言ったが、
どう考えてもそれは、彼には酷だ思った。笑ってはいるが、顔色はあまりよくない。衝動的に
連れ出してしまったことを、今ごろになって後悔した。
アキラがヒカルの元へ戻ったとき、彼は椅子に身体を沈めるようにして瞳を閉じていた。
気配を感じたのか、ヒカルがゆっくりと目を開ける。アキラはそれを待った。
「とれたよ。」
アキラがそう告げると、ヒカルは安心したようなどこかガッカリしたような複雑な表情を浮かべた。
昨日、塔矢と海に行った。
突然何言い出すんだコイツとか思ったけど、行ったら結構楽しくて、何かスッキリした。
モヤモヤが風に吹き飛ばされたみたいな感じ。
宿は四件ことわられて、五件目でやっとゲットできた。
オレは海で野宿も楽しそうだと思ったんだけどな………………
四件ことわられたのは、満室もあったかもしんないけど、もしかしたらオレたち家出少年に見られたかも………
オレは大きめのDAYバッグだからまだしも、塔矢なんてセカンドバッグ一個だよ。
…………イヤ、だから泊めてもらえたのかな?
どう見てもアイツは家出するようには見えネエもんな。
真面目そうだし、人当たりいいし、冷静そうに他のヤツには見えるかもしんねえ。
ちぇ…ずるいよな…
泊まった部屋は和室で、もう布団がしいてあった。
海が見える大浴場があったらしいけど夜でどうせ見えないし、ちょっとつかれてたので
備え付けのお風呂で簡単に汗を流した。
最初は別々の布団に寝たんだけど、二人でいるのに別々に寝るのもヘンな気がして
オレは結局塔矢の布団に潜り込んだ。
エッチはしなかった。
帰る前にもう一度二人で海を散歩した。
「今度は泳ごうねと」塔矢が言ったから、オレも「うん」って答えた。
みんな楽しそうで、真っ黒に日焼けして、オレが自分と比べていたのをアイツは気付いていたみたい。
何か、久しぶりに書くとキンチョウする。
スゲー間だがあいたけど、オレ、ここには楽しいことしか書きたくない。
フツーの日記と違うけど、いいよな。
ぬれた髪でベッドにダイブ。
塔矢に怒られるかと思ったけど、アイツは笑って見てる。
今日のアイツはキゲンがいい。
オレは逆におもしろくない。
今日二人で花火をした。
打ち上げいっぱい買っておいたし、塔矢にもらった花火も持って公園に行った。
普通の花火もして、打ち上げ花火もして、それからトリに塔矢の花火をした。
パラシュートつけて落ちてきたカエルの人形は黄色だった。
黄色はオレのラッキーカラーだ。
そう言ったら、塔矢がオレのカエルを欲しいと言った。
…………いいけどさ…オマエ…コレ、オレにくれたんじゃねえの?
そしたら、アイツはオレの顔の横にカエルを並べて、
「キミにそっくりだ」
と、言いやがった。
ガ―――――――――――――――――――――――――――ン!!!
ショックだ………
「色といい、目の大きなところといい…兄弟みたい…」
もうイイ!ダマレ!
「カワイイってほめているんだよ?」
絶対ほめ言葉じゃネエ!
塔矢がかき氷が出来たって言ってる………食べ物でつれると思っているところがムカつく………
しょうがネエから許してやる……
濡れた髪にタオルを引っかけて、ヒカルがベッドに倒れ込むのを横目で見ていた。
ヒカルはちらりとアキラの方を見て、様子を伺っている。ちょっとむくれたような不機嫌な
顔つきは、本人の思惑とかけ離れてヒカルを妙に可愛く見せた。
アキラは何も言わずに立ち上がる。前を通ったとき、ヒカルがベッドの脇に置いた自分の
荷物を引っ張り寄せて、中からノートを取り出すのが見えた。
「日記書くの?」
「うるせえ…!」
拗ねた口調で、そっぽを向いた。ご機嫌斜めな原因はわかっている。アキラは笑って部屋を出た。
「オマエさあ…もうそろそろアレ外せば?」
ヒカルがイチゴのシロップのかかったかき氷を口に運びながら、言った。
「アレ?」
問い返したアキラに、彼は無言で指を指した。指された方角から、微かに硬質の澄んだ音色が聞こえる。
「もう、九月もすぎてるんだぜ…?」
かき氷を頬張りながら、風鈴を気にするヒカルがなんだか可笑しい。
「やだよ。キミと夏のイベントを一通りすませるまで外さないよ。」
「ガンコだな!金魚すくいなんか、来年までもうねえぞ。」
一年中つるす気かよ―と、ヒカルが呆れた声を出した。
「いいよ。それまでずっとつるしておくから……」
それに対する返事はなかった。もっとくってかかってくるかと身構えていたのに、拍子抜けだ。
そう思いながら、ヒカルを見ると、彼は今にも泣きそうな顔をして、氷の器にじっと視線を
注いでいた。
「………ありがとう…」
実際は器を見ていたのではなかったのだろう。そうやっていないと、泣いてしまうから、
ムリに意識を集中させていたのだ。
急にしんみりしてしまった空気を振り払うように、ヒカルが明るく笑った。
「金魚とったら、やるからな!」
「…………うん…楽しみにしておくよ…」
アキラは、ヒカルのために二杯目の氷にレモンのシロップをかけた
?桃色片想い?
. /´⌒`ヽ,
へ@______// _______
\(ノノノハ/ /
∩从^ 。^从∩< ねるぼ
|三三三三三三| \_______
| .MOMOKAN. |
| 〆`/'  ̄`ヽ |
2003年、夏。もうすぐ8月になるというのに、気温は未だに30度以下だった。時折顔を出す太陽も、今は雲に隠れるばかりで頼りない。
和谷はコンビニから出ると、どんよりとした不安定な空を見上げた。本来ならギラギラと太陽の光が照りつけ、蒸し暑い空気の中をセミたちが大合唱する頃なのに、冷夏のためか、その光景はどこにもなかった。それどころか街中では早くも秋物を身に付けている者までいる。
和谷はやれやれと思うと、歩き出した。この寒い夏のせいか、進藤ヒカルが風邪をひいたのだという。和谷はそのお見舞いに、ヒカルの家へと向かっていた。
「・・・あ、和谷」
ヒカルはベッドから起き上がろうとしたが、顔を苦痛に歪ませるとベッドへ倒れこんだ。
ヒカルの母親によると、熱はもう下がり元気になってきたのだが、頭痛がひどいため、起きていることができないらしい。
「おい、無理するなよ」
和谷はそう言うと、ヒカルをベッドに寝かせ、布団を整えた。
ヒカルは痛みのせいか、息が荒かった。額には大粒の汗がにじみでていて、髪の毛がはりついている。
和谷は近くにあったタオルで額をぬぐってやる。その時に額や頬、首筋に触れてみたが、思ったよりも熱くはなかった。熱は確実に下がったのだろう。しかし汗をひどくかいている。
和谷はふと思い出し、持ってきたコンビニの袋からペットボトルを取り出した。
「のどかわいてないか? ほら、これ買ってきてやったぞ。進藤がこの前飲みたいって言ってた新発売の炭酸飲料」
ヒカルはそっと目を開けた。そこには夏の真っ青な青空と入道雲のイラストが描かれたラベルが貼られている透明な炭酸飲料があった。ヒカルは嬉しそうにわずかに微笑んだ。
「アリガト、和谷」
和谷はそれを見てハッとした。ヒカルの苦しみを抑えた笑顔、汗でしっとりとした前髪、濡れたつぶらな瞳、上気した頬、薄く開いた赤い唇、そしてそこからもれる熱い吐息。
病気のせいだとは分かっていても、和谷は出会った頃の元気でやんちゃな少年とは違う、艶かしいヒカルの姿に目どころか心も一瞬にして奪われてしまった。
「・・・和谷?」
突然自分を見つめて動かなくなった和谷を不思議に思い、ヒカルは少し小首をかしげた。
「・・・和谷、どうかしたのか?」
ヒカルはそっと手を和谷の目の前にかざした。
ヤベェ、めっちゃカワイイ。和谷はその手を握って抱き寄せ、今すぐにでも滅茶苦茶に抱きしめたい衝動にかられた。
しかしそんな妄想を追い払おうとでもするように、ヒカルの手を払いのける。
「いや、何でもねェよ」
そう言うと、和谷はいきなりブンブンと頭を振り、きちんとセットされた髪をぐしゃぐしゃっとかき回した。
「わ、和谷?」
ヒカルは和谷の突拍子もない行動に驚きの声をあげ、心配そうな顔をした。
「あ、いや、何でもねェから。気にすんな」
和谷はわざとらしいくらいヘラヘラと明るく笑った。しかし心拍数は急激に上昇し、背中には冷や汗をかいていた。
ヤベェぞ、これは。和谷は焦りはじめた。
和谷にとって、ヒカルは単なる友達というか手間のかかる弟みたいな存在だった。
今日だって、夏だからって腹でも出して眠ったから風邪ひいたんだろうと思って来ていた。
それなのに風邪をひいたヒカルを見て、からかうどころか、欲情してしまっている自分がいる。いったい何を考えているんだ。和谷は少しでも落ち着こうと深呼吸をした。
しかしヒカルは和谷がそんなことを考えているなど少しも思わずに、無邪気に話かける。
「なあ、それくれないのか?」
「え? あ、ああ」
ヒカルの視線の先には、先ほど和谷がコンビニで買ったペットボトルがあった。そのペットボトルのラベルには『少年サイダー』と書かれている。その炭酸飲料の発売をヒカルはとても楽しみにしていた。
「なあ和谷、これ飲みたくねェ?」
自販機にある夏季限定発売の炭酸飲料『少年サイダー』の広告ステッカーを指差
し、ヒカルはつぶらな瞳をらんらんと輝かせた。
「“少年時代に飲んだ、あの懐かしい味を”だって。オレ、小学生の頃は夏祭り
とか行くと必ずラムネ飲んでたんだよな〜」
「そういや進藤って、夏になると炭酸よく飲んでるよな」
「やっぱ夏は炭酸飲んでスカッとしてェし。それにさ、ハワイアンスプラッシュ
とか、オレの好きな炭酸飲料って夏限定が多いからさ。あぁ〜あ、ガブ飲みしてェ。
早く夏になんねーかな」
それは会社帰りの疲れたサラリーマンがビールを飲みたいと言っているのと同
じ感覚なのだろうか。ちょっと親父くさいと思いつつも、炭酸飲料の発売を楽しみ
に待つという子どもっぽさに、和谷は笑った。
「なんだよ」
ヒカルは笑われたことにムスッと頬をふくらませた。和谷はまた笑い、くしゃっ
とヒカルの頭を撫でる。
「なんだよ、子供扱いすんなよ」
ヒカルはむきになって和谷の手をどけようとする。そういうことするから子供っ
ぽいんだよと言うと、和谷はまた笑った。
「なんだよ、くれないのかよ」
ヒカルは少しふくれっ面をした。和谷は慌てて、ペットボトルを手に取り、ふたを開けた。するとプシューという音をたてて、泡とともにあの懐かしいラムネの爽やかな甘い香りがあたりに広がった。
ヒカルにそれを手渡すと、ヒカルは待ってましたと喜びを表情に表し、ペットボトルを口にあてる。
しかし寝ながら飲んでいたため、うまく飲むことができず、口の端からダラダラとこぼしてしまう。それらは頬や顎を伝い、枕や着ていたTシャツに染みをつけた。和谷はその雫の行方をじっと見つめていた。
「あ〜あ、こぼれちゃった」
ヒカルはベタベタするのか、鬱陶しそうにそれらをTシャツでぬぐった。
炭酸飲料でしっとりと濡れた赤い唇から目が離せない。キスしたい。今すぐにでもキスしたい。和谷はそんな衝動を抑えながらじっと見つめていた。
するとヒカルが恥ずかしそうに笑って和谷のほうへ向いた。
「和谷、ちょっと飲ませてくんない」
ヒカルはためらいながらペットボトルを和谷に渡す。
「えっあっ、えええぇぇ!?」
和谷は驚き、震える手でそれを受け取る。
「ちょっと恥ずかしいけどさ」
ヒカルは少し照れ笑いをした。ヒカルは恥ずかしさよりも楽しみにしていた炭酸飲料が飲めないことのほうがよっぽど嫌らしい。
和谷は少し戸惑いつつも、よしっと何か決心をしたかのように(もしくは喜びのあまりのガッツポーズ)右手で拳をつくると、持っていた炭酸飲料を口いっぱいに含んだ。
開けたばかりの炭酸飲料は、泡がシュワシュワと口の中ではじけ、ちょっと痛かった。
和谷はペットボトルを床に置くと、ヒカルの顔を両手で固定し、薄く開いた唇に躊躇することなく口付けた。
「・・・ん、・・・んんぅー!!」
ヒカルは力の入らない手で和谷を殴る。しかし全く抵抗にならないその行為に和谷は気づかない。
ヒカルと和谷の口の隙間からは、ヒカルが飲み込めなかった炭酸飲料が次から次へとこぼれてゆく。
和谷はそれに気づき、少しづつヒカルの口へと流し込むようにした。ヒカルはコクッ、コクッと小さくのどを鳴らして飲み込んでいる。
やがて和谷の口は空っぽになったが、ヒカルから口を離さなかった。それどころかラムネの味がするヒカルの唇や舌を、しゃぶりつくかのように荒っぽいキスをする。
ヒカルは頭痛と息ができないことの苦しさから、何とか解放してもらおうと和谷の手を思い切り引っ掻いた。
「痛っ!!」
和谷はようやくヒカルから体を離した。手にはうっすらと引っ掻いた跡が残る。
ヒカルは酸素不足のせいかひどく息を荒げている。目にはたくさんの涙を溜め、キッと和谷を睨んでいた。その姿はまるで怒りに震えた子猫のようだった。
「和谷、・・・何するんだよ」
ヒカルは明らかに怒っていた。しかし和谷はその顔さえもかわいいと見つめている。
「何で、こ、こんなこと・・・」
ヒカルは頭痛をこらえながらベッドから起き上がると、軽蔑をこめた目で和谷を見下ろした。そして何度も何度も口をTシャツや布団などで拭う。和谷はその行為にムスッとした。
「オレは、・・・口移しでなんて頼んでないぞ」
ヒカルは涙ながらに訴える。
「え? だっておまえ・・・飲ませてくれって」
和谷は何が悪いのかわからないとでもいう顔をする。その姿はふざけているようには見えなかった。どうやら和谷は勘違いをしたのだろう。
しかしそうはいっても、ヒカルは和谷の行為を許すことはできなかった。
\∧_ヘ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
,,、,、,,, / \〇ノゝ∩ < 1000取り合戦、いくぞゴルァ!! ,,、,、,,,
/三√ ゚Д゚) / \____________ ,,、,、,,,
/三/| ゚U゚|\ ,,、,、,,, ,,、,、,,,
,,、,、,,, U (:::::::::::) ,,、,、,,, \1000とった香具師はネ申。/
//三/|三|\ ∧_∧∧_∧ ∧_∧∧_∧∧_∧∧_∧
∪ ∪ ( ) ( ) ( ) )
,,、,、,,, ,,、,、,,, ∧_∧∧_∧∧_∧ ∧_∧∧_∧∧_∧∧_∧
,,、,、,,, ( ) ( ) ( ) ( )
「オレが言いたかったのは、赤ん坊にミルクをあげるように飲ませてくれっていう意味だ。それに
普通そう言ったからって・・・口移しでなんてしねェぞ!!」
和谷はそれを聞くと、ついにやってしまったかと、背中がサーッと冷たくなるのを感じた。
さっきの、あのヒカルの艶かしい姿。あのせいで理性がふっとんでしまったのだろう。和谷は唇を噛んだ。
二人を包む空気が異様なものに変わる。ヒカルは依然として怒りと軽蔑の目で睨んでいる。きっとここでどう言い訳しても、何も変わらないだろう。
和谷は帰ろうと、黙ってヒカルに背をむけて立ち上がった。それと同時にドサッという音が後ろでした。振り返ると、ヒカルがベッドに倒れこんでいる。
「おい、進藤! 大丈夫か?」
急いでヒカルのもとへ駆け寄り、体を抱き起こした。
ヒカルの体はさっきよりも熱く、衣服は汗で体にはりついている。おまけに顔を覗き込んでみると、顔が赤くなっていた。熱が上がってしまったのだ。
和谷は急いでヒカルをベッドに横たわらせようとした。しかしヒカルの服が汗で湿って冷たくなっているのに気付く。このままの状態では余計ひどくなってしまう。
着替えが必要だと思い、和谷はヒカルの母親のもとに行き、新しい衣服とタオルをもらってきた。
せっかくお見舞いに来てくださったのに悪いわねと言う母親の前で、和谷は構いませんよと立派な好青年を演じてみせた。まるで自分は善人であるということを印象付けるかのように。
996 :
学生さんは名前がない:03/08/04 20:27 ID:9I99HnJs
?
997 :
学生さんは名前がない:03/08/04 20:28 ID:hddFqIZq
そうか
998 :
学生さんは名前がない:03/08/04 20:34 ID:MzA7Y4MM
あげ
1001 :
1001:
このスレッドは1000を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。