●おまえら男ならヒカルたんハァハァだよな?Part42○

このエントリーをはてなブックマークに追加
952落日(六) ◆2DpdawnHik :03/07/16 22:07 ID:qge3rUkv
これは罰だ。
薄れそうになる意識の中でヒカルはそんな事を思った。
都を守る検非違使たるものが逆に盗賊に捕らわれて、陵辱を受けている。
耐え難い屈辱と苦痛。
苦しくて、悔しくて、自分の無力さが許せなくて、それなのに自分の肉体はこんな無骨な男どもの
狼藉にさえ快楽を感じ始めてしまっている。
罰だ。
自分の身を案じてくれた友の思いを踏みにじり、寄せられる同情をよい事に自分の欲しいものだけ
を貪り食った事への、自分の務めを忘れ悲しみだけに溺れていた事への、そして何より守るべき人
を守れなかった事への、守らねばならぬことに気付きもしなかった自分自身への罰だ。
だからきっと、俺はこの屈辱を甘んじて受けねばならないのだ。
これは罰だ。
それなのに、こんなに心もは苦しくて、悔しくて、屈辱と嫌悪に嘔吐しそうなのに、身体はこんな奴ら
の陵辱をさえ悦んでいる。もっと激しくもっと乱暴に、この身が壊れてしまうほどに、意識など、想い
など全て手放してしまえるほどに、もっと強く、もっと激しく、更なる陵辱を望む自分が確かにいる。
自分自身の浅ましさに、欲望の醜さに吐き気がする。
こんな醜く汚れた自分には、こんな夜盗こそが相応しいのかもしれないとさえ思う。
953落日(六) ◆2DpdawnHik :03/07/16 22:08 ID:qge3rUkv
醜い男の、異臭を放つ醜い一物が眼前に突きつけられる。顎をとらえられて、無理矢理口の中に
それを捩じ込まれた。饐えた臭気に吐き気がこみ上げる。けれど男はそれを許さず、ヒカルの髪を
鷲掴みにして揺さぶる。後ろは別の男のモノに穿たれ、腰を掴まれて揺すぶられる。
前後から責めたてられて、苦しいのに、苦しいはずなのに。
心のどこかが麻痺してしまったようで、もはやそれを嫌だとさえ感じない。
「早く代われよ、今度は俺の番だぜ。」
「待てよ、あと、うっ、くうっ…!」
後ろからヒカルを抱え込んでいた男が急かされて更に激しく腰を動かす。
「ちっ、それじゃ俺はこっちにするぜ。」
また、顎を掴まれて、口の中に押し込められる。反射的に咳き込みそうになった瞬間、後ろから
体内にまた熱い精が注ぎ込まれるのを感じた。
ヒカルの腰を抱えて余韻に酔っていた男は、別の男に強引に引き剥がされ、ずるりと彼が体内
から抜け出るのを感じたと思ったら、次には別の熱く猛り狂う男が押し入ってきた。
「あああっ!」
思わずヒカルの口から悲鳴が漏れる。けれど男はヒカルの様子になど躊躇せず、強引に自身
を捩じ込む。
「す、すげぇ、いい…」
954悪代官−真夏の企み−:03/07/17 10:32 ID:OkSMXrb8
「進藤、いい加減に機嫌直してよ」
「………」

ボクと進藤は今、八王子の夏祭りに来ている。
地元だといつ何処で棋院の者に鉢合わせするか分からなかったし、増してや和谷などの進藤の友達に会ってしまっては、
一緒に回るとか言って邪魔をされかねないからだ。
せっかくのこんな可愛い進藤は、他の誰にも見せたくない。だって進藤は今…。
「進藤、悪かったよ。ごめん」
「……」
ぷうっと頬を膨らまし、ボクを大きなクリクリとした瞳で睨む。はっきり言って全然怖くない…と言うか、寧ろ可愛い。
進藤は今、赤い生地にピンクや紫などのハイビスカスの花がプリントされた、それはもう可愛らしい浴衣を着ている。
…正確には、着せられている、だが。

事の始まりは一昨日の大手合の日。対局をお互いに終え、碁会所に向かおうと歩いていたら。
「なあなあ塔矢ぁ、夏祭り行かねえ?明後日に八王子ででっけえお祭りがあるんだってさ!」
「え?お祭り?」
「うん!へへっ俺さ、屋台の食べ物大好きでさー!花火もあるみたいだし…ダメ?」

ダメな訳が無い。進藤の甘えたようなこの声!!口元!!仕種!!
全てがボクを刺激するんだ…。本当はお祭りとか、そういう人込みは好きではないが、進藤が望むなら何処へだって…そう、アフリカの奥地や南極にだって行ける気がする。
ボクはニッコリ笑いかけ、進藤の頭を撫でながら返事した。
「うん、いいよ。」
「えっホント!?やったあ!よし、ヤキソバだろー?タコ焼きだろー?
焼鳥にとうもろこしに、あっ綿アメ!あとりんご飴にじゃがバターに!」
おいおい、そんなに食べるつもりか?進藤…。
まあいいけど、くれぐれも太らないでね。ボクは横綱のキミだけは見たくないから…。
「さっ、早く行こうぜ塔矢!」
進藤が明るく笑い、ボクの手を引っ張って歩き出した。

955悪代官−真夏の企み−:03/07/17 10:37 ID:OkSMXrb8
2

「ああ〜お代官様ぁ〜およしなはれ〜!」
「よいではないかよいではないか」
次の日の夕方。
ボクがテレビの電源を入れると、そこには着物の帯をぐるぐると取られていく遊女の姿が。
おそらく水戸○門か遠山の○さんだろう、ありきたりな時代劇のワンシーンだ。
「…待てよ?着物…?」
悪徳代官が女の帯を相変わらず楽しそうに引っ張っている。
それを見て、ボクは最高に素晴らしい事を思い付いた。

「そうか…これだ…!」

よし、早速準備だ!女用の浴衣を調達しなくちゃ。確かお母さんの箪笥に昔入ってた記憶があるな。ボクはお母さんの目を盗み、箪笥の中を開けてみた。

「あった!」

我が母ながら、ミーハーだなと呆れてしまった。だってそこに入っている着物や浴衣はどれもこれも色が派手だ。オバサンにはどう考えても似合わない。いや、それどころか、いくら若くても地味な顔には似合わない。それぐらい母の着物は派手だった。
「進藤ならどれを着ても着こなせるだろうな。」
そう言いながら、ボクは浴衣を吟味し始める。黒地に金色のラメ(だっけ?)が施された生地や、濃いピンク地に花火の模様が描かれた生地。どれも進藤に似合いそうだ。
そして小一時間程考えに考えた末、ボクは赤い生地を選んだ。
「これが進藤に一番よく似合いそうだな、決めた」
ちなみに帯は光沢のある黄色い生地を選んだ。以前町中で進藤似の可愛い子が、赤と黄色の組合せの浴衣を着ているのを見たからだ。
956悪代官−真夏の企み−:03/07/17 10:39 ID:OkSMXrb8
3
後片付けを終え、お母さんの部屋から出ると、ボクは一直線に電話に向かう。もちろん掛ける先は進藤の携帯だ。
プルルル…
コール音が響くとすぐに、進藤の明るい声が耳に届いた。
「もしもしー?」
「あ、進藤?ボクだけど。あのさ、お、お祭りの日は…ふ二人共浴衣を着ないか?」
ファッションに興味の無い塔矢がこんな事を言うなんて…と不審がられたらどうしよう。なんとか落ち着いた声で淡々と話すのだが、今握り締めている浴衣に身を包む可愛い進藤を思うだけで、ボクはかなり興奮してしまっている。だからなのかボクらしくもない、二回も吃った。
「うん、いいぜ!あ、でも俺の浴衣、もう小さくて入んねぇかも…」
「大丈夫、うちにい、いっぱい、ああるから」
「そっかあ、分かった!んじゃお前んち行ってから一緒に行こうな!!」
「う、うん!」
あわわ…またどもってしまった…でも進藤ってやっぱり鈍いな。どうやら取り越し苦労だったようだ、全くボクの企みに気付く様子は無い。進藤のそういう処、大好きだよ…。


−当日−

「おーっす!塔矢!来たぜ!」
遠慮のカケラも感じさせず、ズカズカと人の部屋の中に入って来た。そんな子供らしい進藤に愛しさを感じつつ、ボクは早速計画を実行に移す事にした。まずは…

957悪代官−真夏の企み−:03/07/17 10:42 ID:OrBIh9Os
4
「進藤、汗掻いてるね?…シャワー浴びなよ」
「え?」
「まだまだお祭りまで時間あるし、ね?」
「え、でも…」
「いいから、ほら」
半ば強引に進藤を風呂場に押しやり、シャワーを浴びさせる。そして風呂場のドア越しに進藤に呼び掛け、着替えの浴衣は棚の中だよと告げた。
「よし…これでいい」
実は計画と言ってもこれだけだ。ボクは一人拳にガッツを作り、自らも紺の浴衣に袖を通す。
鏡に映る自分の姿は格好良く、我ながら浴衣がよく似合うヤシだなと思った。普段は服装には無頓着だが、やはりボクは相当見た目が格好良いのだ。そんな格好良いボクの隣に並ぶのは、キュートで美人な進藤ヒカル…。
きっとすれ違う誰もが羨む事間違いナシだ。ああ…早く進藤上がらないかな…楽しみだ!


「…塔矢ー?おーい…」
あっ!進藤の声!よしよし上がったんだな?フフフ、これを待っていたんだ!ボクはダッシュで風呂場の前に急いだ。
「なんだい進藤!」
「あ、塔矢?…あのさあ、お前間違えて女用の浴衣置いてたんだけど」
本当に素直だな…。どう考えても間違える馬鹿いないだろ。故意にやらない限りね。
「ああゴメン、なんか浴衣あると思ってたんだけど、無かったから」
「は?どゆ事?」
「進藤、それ着てくれる?悪いけど…」
958悪代官−真夏の企み−:03/07/17 10:48 ID:OkSMXrb8
5
「はあ!?ヤダよ!いいよ、俺は私服で行くから!……って服ねぇじゃん!」
進藤の着てきた服は、すでに洗濯機の中でグルグルと回っている。当然着る事は不可能だった。ごめん、だってキミの浴衣姿をどうしても見たいんだ…。
「進藤の服は洗濯中だよ。ね、だからそれを着て?」
「ええ〜!?お前の服貸せよ!」
「それは出来ないよ。大体いつもキミはボクの服を馬鹿にするじゃないか?」
「うっ……」
「ボクがいつも傷付いてる事…知らないだろ」
嘘八百である。でも進藤は優しいから、こう言えばきっと…
「ゴメン…塔矢」
ほらね。やっぱりだ。今きっとドアの向こうでは、兎が耳をションボリと垂らせるように可愛く俯く全裸の進藤がいるんだよね…。な、なんか興奮してきてしまった。
「進藤謝らなくていいから…だから、お願い聞いて?」
「な、何?」
「浴衣、着て?…ね?」
「………………分かったよ」
ボクはその瞬間、今度は両手でガッツを作った。
やった!
やった!
今から進藤の浴衣姿が見られるなんて!
やったーー!
「ありがとう進藤!…さ、羽織ったら出てきなよ。着付けてあげるから」
「う…うん…」
と言っても、ボクだって気付けなんか本当はよく知らないが。まあなんとかなるだろう。
959悪代官−真夏の企み−:03/07/17 13:52 ID:OkSMXrb8
6
「塔矢…これブカブカじゃんかあ…」
裾を踏みながら赤い浴衣を纏った進藤が現れる。
ちょ、ちょっと待ってくれ…やばい。予想以上に可愛い。白い肌と真っ赤の浴衣のコント
ラストが絶妙だ…!しかも風呂上がり特有の火照り具合が!ボクの心の中はすでにハアハアで
一杯になってしまった。今すぐにでも押し倒して進藤の身体に触れたい!ああ〜どうしよ
う!でもそんな事したら、お祭りに行ける訳ないし…仕方ない、理性を総動員して頑張ろう!
「進藤、裾は長くていいんだよ。それを上げて帯で結び付けるんだから」
「そ、そうなのか?」
「うん、端折るから平気。…さ、進藤、手を左右に開いて」
「う…うん」
顔を林檎みたいに赤く染め上げ、両手を開く進藤は蝶のように華麗だった。
ああ〜理性が理性が…
「塔矢?どうかした?」
ハッ!いけない、我慢だ我慢!えっとまずは浴衣の丈を合わせないと。
ボクは浴衣の襟を掴み、それを少しづつ上に上げた。わざと踝を露出させ、素早く中帯で
巻き付け固定する。すると進藤が慌てたようにボクの手をきゅっと掴んだ。
960悪代官−真夏の企み−:03/07/17 13:56 ID:OrBIh9Os
7

「お、おい待て!下着は!?」
「下着…?」
「下着くらい貸せって!俺替えの下着なんか持ってないんだから!」
え、進藤…ノ、ノーパン!?そうか…そりゃそうだ。さっきボクが盗んだんだもん。(洗
濯機にはもちろん入れてない)浴衣の中には何一つ着ていない進藤ヒカルたん…ああ可愛
い!可愛い!ヤリたい!犯したい!…でも我慢だ。
「進藤、知らないの?浴衣のときに下着を付ける筈ないだろ」
はい、また嘘です、すいません。でも進藤は騙されるに決まってるさ。
「うそ!?小さいときに浴衣着た時はパンツ履いてたぜ?俺」
「…昔の風習でね。元服を迎えた男子は着物の下に下着を付けないんだよ」
「げんぷく?」
「ああ。古文で習わなかった?」
「う…分かんない…覚えてないや」
当たり前だ。ボクが勝手に考えた嘘だもの。いや、嘘からでた真にもなりかねない話では
あるが。なにしろ昔の奴らは変態が多いらしい。
「とにかく進藤はもう下着を履いちゃダメなんだ。分かるよね?」
「まあ…、みんな履いてないなら仕方ないけど…」
「そうそう。さ、早く着付けするからジッとしてて!」
単純でおつむが少々…いやかなり弱い進藤。
これが別の奴だったら馬鹿にする処だが、逆に進藤の場合はチャームポイントだ。
961悪代官−真夏の企み−:03/07/17 13:58 ID:OkSMXrb8
8
中帯を進藤の細腰に回し、前でぎゅっと縛り付ける。不意に顔を見上げると、間近に進藤
の顔があった。う、ムラムラする…。と言うか、もうボクの息子は完全にスタンドアップ
してしまって。うん…、抱き着くくらいなら……いいよね?
「…進藤!!」
「わっ!?」
ボクは勢いに任せ、進藤の身体を強く抱いた。肩の辺りに進藤のプニプニした頬が当たり
、心地良い。髪の毛のシャンプーの良い香りが鼻を擽り、花畑にいるかのようだ。
「ちょっ…塔矢ぁっ…やっ…離せって!」
「進藤…大好き…」
「バッ…!なっ何言ってんだよ昼間から!」
「進藤…進藤…」
進藤の細い身体が折れる程にきつく抱き締め、ボクは何度も進藤の名前を呼んだ。進藤は
イヤイヤと首を振り、手でボクをなんとか押し返そうとするのだが、イヤよイヤよも好き
の内と言うやつだ。構わず進藤の身体をより強く強く抱き締めてやる。
962悪代官−真夏の企み−:03/07/17 14:00 ID:OkSMXrb8
9
「とうやあ…離せよッ…痛いってば…!」
ヒカルたん(;´Д`)ハアハアヒカルたん(;´Д`)ハアハアヒカルたん(;´Д`)ハアハア!
よく2ちゃんねるにそういう書き込みを見掛けるが、まさに今のボクはそれなのだ。
ヒカルたん(;´Д`)ハアハアなのだ。も…もうダメだ…理性よ、グッバイ…。
「ヒカルた…じゃなかった進藤!」
俄かに進藤の頭を抱え、膝を折らせて畳の上に押し倒す。進藤はびっくりしてボクを見た
が、すぐに愛らしい唇を塞いでしまった。
「ふっ…!?んんッ!」
あまりにも唐突なボクの行為に、ヒカルたんこと進藤は頭が混乱しているようだ。目をパ
チパチ瞬きさせ、ボクを驚き顔で見つめている。でもそんな事はどうでもいい。とにかく
今は、進藤の口腔内を嘗め回す事しか頭にない。
「ん……ふうっ…!んんーっっ」
繋がったボク達の口元から透明の液が零れた。
それは細い筋を描き、進藤の首筋まで移動する。妙に艶めかしいその様をチラリと見なが
ら、進藤の下唇を軽く噛み、啄むように何度も口付けを繰り返す。
963学生さんは名前がない:03/07/18 02:25 ID:/2ZhROd2
  ▼〃ヾ
  (*゚ー゚) ホシュ
  ノ  | 
〜OUUO
~~~~~~~~~~~~

964学生さんは名前がない:03/07/18 16:52 ID:dduOfbAt
下がりすぎage
965落日 ◆2DpdawnHik :03/07/18 21:33 ID:8jaBq9FL
↓流血グロ注意。お食事中などは避けることをお勧めします。










966落日(六) ◆2DpdawnHik :03/07/18 21:34 ID:8jaBq9FL
いつまでこの責め苦が続くのだろう。
男共の何か言い争う声もヒカルの耳には入っていなかった。
がくり、と、ヒカルの頭を捕らえていた男が急に崩れ落ち、支えを失ったヒカルは地面に倒れこ
みそうになる。が、ヒカルの腰を掴んだ手がそれを許さない。
生臭い匂いがむっと立ち込める。何とか手をついて顔を上げると、つい先程までヒカルの口内
を犯していた男の背中が目に入った。
その背がぱっくりと割れて赤い血を流しているのが、闇の中にかろうじて見えた。
同時にヒカルの腰を掴んでいた男もそれに気付き、動きを止める。
「なっ…貴様、何を…」
頭上で刃がきらめくのが目に入るのと、ヒカルの腰を掴んでいた手が離れるのとはほぼ同時
だった。
「ああ…っ…!」
支えを失ってヒカルの身体は今度こそ地面にくず折れた。
967落日(六) ◆2DpdawnHik :03/07/18 21:34 ID:8jaBq9FL
どさり、と重たい身体がヒカルの上に倒れこんできて、ヒカルは呻き声を上げる。
「貴…様、こんな事をしてただで済むと……」
呻き声と共に切れ切れに呪詛の言葉が漏れるのが聞こえる。が、そのような言葉など耳にもい
れず、他の男共を切り倒した血まみれの手がヒカルの髪を掴み、男の身体の下からヒカルを引
きずり出そうとしている。既に朦朧とした意識のヒカルは悲鳴さえ上げられずに、男の手に従うし
かない。
更に彼はヒカルに覆い被さる男を足蹴にして倒し、ヒカルの身体を引き寄せ仰向けにかえすと、
下肢を割り開き、既に怒張しきった己自身をヒカルに勢いよく押し込んだ。
嗄れきったヒカルの喉からまた、掠れた悲鳴が上がり、背が弓なりに反る。が、既に何度も男達
の精を受け入れたヒカルの内部は、強引なその動きを難なく受け入れた。
男は目を閉じ小さく身体を震わせて極上の感覚を味わう。そして、熱く蠢きながら己を締め付け
るその感覚に小さな呻き声を上げた後、男は狂ったように腰を動かし始めた。
もはや意識も切れ切れに、ただ己の内部から与えられる感覚だけがヒカルを支配する。それは
もはや快感を通り越し、苦痛にも近いものであったが、ヒカルの肉体はその感覚から逃げ出す
事はできなかった。
せめて気を失ってしまいたい。意識だけでもここから逃げ出してしまいたい。そんな思いに気が
遠くなりかけていた、その時、恐ろしい悲鳴と共に突如男の動きが止まり、ヒカルの腰を掴んで
いた手に恐ろしいほどの力がこめられた。骨を砕くようなその痛みにヒカルは一瞬、己を取り戻
す。次の瞬間、男の身体はくず折れ、どさりと音をたててヒカルの上に落下した。
どろりと生暖かい液体が、ヒカルを更に汚すように伝い落ちるのを感じながら、ヒカルはようやく
意識を手放した。
968学生さんは名前がない:03/07/19 07:27 ID:3u45Igh4
ほしゅ
969悪代官−真夏の企み−:03/07/19 16:41 ID:DYg08HDw
10
「あっ…塔矢ぁ…やめ…」
涙まじりに懇願する進藤を尻目に、ボクは浴衣の上から進藤の股間に手を這わせていた。
もうかれこれ半時間は経っただろうか?

帯は中帯しかしていないので、簡単に着崩れる。ボクの手が股間の上を行き来する度服が
ずれ、白い首元やふくらはぎが露になるのが色っぽい。
「あっ…はっ……んッ…イ…イくっ…!」
進藤は本当に感じやすい。だから服の上からでも充分に気持ちが良いらしかった。ボクが
手の動きを早めてやると、進藤はあっけなく達してしまった。

「はぁッ…!はぁッ…あ…ッ…」
吐精後の脱力感からか、進藤は目を泳がせ荒い呼吸を繰り返す。
そんな彼を見て、ボクの頭は漸く理性を再び取り戻す。
「ご…ごめん進藤……つい…」
「っ……とーやの…ばかぁっ…!」
”ばかぁっ”だって。ああ〜可愛い!そんなうるうるした瞳でボクを見ないで進藤!
続きもしたくなっちゃうだろ…?
「悪かったよ、今度こそ何もしないから、それより乱れた浴衣を直さないと…。ね?」
「え…でも、浴衣の中濡れてて気持ち悪いよぉ…」
「浴衣は吸収しやすく渇きやすい生地で出来てるから平気だよ。
裏地が下着の代わりみたいなものだから(嘘)」
「ん…でも…」
「いいから、さあ立てる?進藤」
イったばかりの進藤を立たせ、再び浴衣を着付けに掛かった。しかし相変わらずボクのソ
コはパンパンだ。よし、行く前にトイレで一発抜いておこう。その方が後々のためにもなるし。

970悪代官−真夏の企み−:03/07/19 16:42 ID:DYg08HDw
11
「さ、後はこの帯を巻くだけだよ」
「う…うん」
黄色い帯を手に取り、進藤の身体を回しながら巻き付ける。その時の進藤がされるがまま
に回る姿が、昨日の時代劇の遊女と被った。−いや、今は脱がせているのではない。着せ
ているのだが。まるでビデオを巻き戻ししているみたいだな…。
あとは進藤が「やめてぇ〜お代官様ぁ〜」とでも言ってくれれば嬉しいが。
…まあ代官ゴッコは後のお楽しみという事で。

「はい、終わり」
軽く進藤のお尻を叩き、終了の合図とした。ボクは改めて進藤の浴衣姿を上から下まで眺
めてみる。ああ…やっぱり進藤、本当に可愛いよ…!
女の子みたいに撫で肩で肩幅が狭いから、浴衣のラインがとても綺麗だ。小振りだけどキ
ュッと上がったお尻のラインも可愛らしい。足元から微かに覗く踝から足先までも真っ白
で、思わずサワサワ触りたくなる。よく赤は男を惑わす色だとか言われているが、その理
由が初めて分かった。進藤のこの半端じゃない可愛さや色っぽさ。ただでさえ浴衣という
物は何処か情欲的ではあるが、駄目押しとも言える赤なんか羽織るからもうヤバイ…。
身体全身で「襲ってください」と言っているようなものだ。祭りに行ったら変な奴らから
しっかりと守らないとな。そう、それこそ裸で渋谷のセンター街をうろつくより危険な気がする。
「進藤、待っててくれる?ボクちょっとトイレ…。」
進藤を部屋に残し、ボクは急いでトイレに駆け込む。もちろん一発抜くためだが、あれ以
上あの場所に二人きりではボクの理性が再びグッバイしてしまうからという理由もあったり…。
「んッ…しんっ…どう…はぁ…っ!!」
手の平の白濁を洗面所で洗い流し、ボクと進藤は八王子へと出発した。
971悪代官−真夏の企み−:03/07/19 16:45 ID:N4XQ66aP
12
「な、なんか人多いな…みんなお祭りに行くのかな?」
中央線に乗り込んだボクと進藤。日曜だと言うのにやたら混んでいる。それはやはり祭の
せいなのだろうが、まるで通勤ラッシュの如く混みまくっていた。ボク達はドアと手摺り
の角になんとか立っていたのだが、電車が揺れる度に背中に人がのしかかって来る。
それが堪らなく欝陶しく、不快である。
…でも。
「なあなあ、返事しろよ塔矢ぁ!みんなお祭りに行くのか?なあ?なあ?」
「うん、多分…」
ボクは進藤を庇うように手を彼の頭の両脇の壁に突いていたので、かなり間近に進藤の身
体があった。その上電車が揺れる度に進藤の身体に完全に密着するのだ。正に背中は地獄
、正面は天国。甘い花のように香る進藤の体臭や髪の匂いがボクを誘惑するのには困るの
だが、それでも。我慢が大きければ大きい程、後の喜びは大きい筈だ。夢の代官ゴッコを
成し遂げる為にも、ここはキスだけで我慢しよう。幸いもう立川を過ぎたし、もう着くの
も時間の問題だ。ボクは進藤の頭を支え、そっと顔を近づけた。

972悪代官−真夏の企み−:03/07/19 16:47 ID:N4XQ66aP
13
「え……?」
「進藤、好きだよ」
ピンク色の柔らかい唇に自分のそれを押し付ける。何度味わっても飽きという物を知らな
いこの感覚は、まるで麻薬のようだと思う。んっ、んっ、と進藤は首を微かに左右に振り拒
むそぶりを見せるのだが、そんな仕種がまた可愛い。人前で、それも満員電車の中でこん
なコトをされるとは思いも寄らなかったみたいだな。まだまだ甘いね進藤…。男はみんな
狼なんだよ?いつ何処で豹変するか分からないんだ、気を付けてよ?
ボク以外のヤシ達には指一本触れさせないように…ね。
「んんッ…ふぁ…ふ…ぅ…」
お互いの舌を強引に絡めさせ、唾液を流し込んだ。反対に進藤の口の中をちゅうっと吸い
、隅々まで舐め回す。周りの視線は実は痛いくらいに感じてはいたのだが、もうこれは止
められない。ボクは八王子に着く迄ずっと進藤の口内を貧り続けた。

973悪代官−真夏の企み−:03/07/19 16:51 ID:N4XQ66aP
14
『八王子〜八王子です。八高線と横浜線の方はお乗り換えでどうたらこうたら…』

進藤の腰に手をやり、ボク達は改札を出た。もうそこはお祭り一色と言った感じで、興味
のなかったボクでさえも何かワクワクとさせられる。不意に進藤を見てみると、顔を真っ
赤にして何やらハァハァと苦しそうだ。どうしたんだ…?
「進藤?どうしたの?」
「んっ……」
「進藤?」
「だって…さっき電車の中で、あんな事…するから…!」
ああ…怒ってるのか。そりゃまあそうだな。ボクが進藤の立場ならキレてるだろう。
「ごめん、浴衣姿のキミがあまりに可愛いものだから…」
「しかも…まだ浴衣の中がなんかスースーして気持ち悪いんだよ…!
嘘つき!渇かないじゃん!お陰で服に擦れてっ…」
ハッとした様子で、進藤は口をパクパクさせている。服に擦れて、何だ…?
あ…、もしかして…進藤…キミは…!!
「進藤、感じちゃってたの?」
「!!!」
あ〜あ、顔を真っ赤にしちゃって…図星だな。
何でこんなに分かりやすいんだろう進藤って…。本当に可愛過ぎるよ。

974悪代官−真夏の企み−:03/07/19 16:56 ID:N4XQ66aP
15
「へぇ…やっぱり」
「ちっちがっ…だってパンツ履かなかったら誰だって気持ち悪いじゃん!
お前は平気なのかよ!」
「ああ、問題無いよ?キミみたいにスケベじゃないからね」
本当はキミ以外の人間はみんなパンツ履いてるんだけど。ボクの事、一切疑ってないみたい…。
「スッスケベなのはお前じゃん!さっきもキスしてきたり家でもあんな事してきたり!」
「あれは男なら誰でもする事さ。でも下着を履かないからって感じたりはしないよ?」
「なっ…イジワル…!」
目元に少し潤んだものが溜まっている。ああっ泣きそう!?やばい!さすがにこんな所で
泣かれては困ってしまう!ここは食べ物で宥めないと!
「わ、悪かったよ進藤!ヤキソバ奢ってあげるから許して?」
「……うん」
ええっ!?単純…進藤って単純…!こんなあっさり許して貰えるなんて。可愛いなあ本当。
「大丈夫、服が擦れるのもすぐに慣れるよ。
どうしても辛かったらその時はボクがどうにかしてあげるから。」

975悪代官−真夏の企み−:03/07/19 16:58 ID:N4XQ66aP
16

「わぁ〜すげえ!人が一杯だあ!な!塔矢!」
進藤が周りをきょろきょろ見回しながら、歓喜に溢れた表情でボクに話しかける。小学生
時代はポケモンマスターになるのが夢だったらしい進藤は、年齢的にはもう高校生だと言
うのに恥ずかしげも無くピカチュウのお面を首から後ろに掛けている。
「進藤…お面外したら?恥ずかしくない?」
「何で?ピカチュウ可愛いじゃん」
いや、そういう問題じゃ無いだろう。問題はキミの年齢…
「それに俺、よくピカチュウに似てるって言われてたし」
「え?」
ボクはお面をまじまじと見つめてみる。
う〜〜ん……。
そう言えば、でかい目とか頬とか口元とか…進藤をマスコットキャラクターにしたらこん
な感じか?色も黄色だし、進藤の色っぽいかも…?
「確かにちょっと似てる…気がするかな」
「お前もそう思うの?俺自身はよくわかんねーけど…ピカーッ!とか言わされたんだよな〜よく」
「……!!??」
い、今進藤が…進藤がピカチュウの真似したぁーーー!!と言うかピカチュウの鳴き声な
んか知らないけど!か、可愛い〜!!可愛い!可愛い!か・わ・イイ(・∀・)!!
「塔矢?な、なんだよお前!急にニヤって笑うなよ!怖いから!」
「あ、ああゴメン、なんとなく…」
どうやら無意識のうちに顔がニヤけていたらしい。でも仕方ないだろ?
だって進藤がピカチュウの声なんか真似するから!
「あ、塔矢!ヤキソバ奢れよな!行こっ」
芋の子を洗うように混雑した大通り、ボク達は手を繋いでヤキソバの屋台に向かった。
976落日(六) ◆2DpdawnHik :03/07/19 22:21 ID:U2hbDzWI
頬にポツリと何か冷たいものが落ちるのを感じて、ヒカルは小さく動いた。
身体の上に何か重いものが覆い被さるように乗っている。それを除けようとして突然、ヒカルはそ
の物体がなんであるか、思い至る。生臭い血の匂いが鼻をつく。己の身体が、もう動く事もない、
命を失った物体の下に閉じ込められていることを感じて、ヒカルは恐怖に身を震わせた。必死に
なって、まだ暖かさを残す重い肉を押しのけその下から這い出ようと、ヒカルがほんの少し身体
を動かすと、体内でずるりと何かが動くのを感じた。
瞬間、ヒカルの身体が硬直した。
「うぁあああああああああああああああああああ!!!」
絶叫と共に、どさりと重い音がして、ヒカルにのしかかっていた肉塊がヒカルの横に落ちた。
立ち上がることはかなわず、ヒカルは四つん這いになってよろよろとそこから逃れようとすた。
数歩動いた後、嘔吐感に襲われ、ヒカルは激しくえずいた。
ゴホゴホと咳き込みながら、ようやく一息ついて、恐る恐る振り返ると、そこにはあの夜盗達がまる
で一塊の小山のように重なり合っていた。男達のいずれかの身体に刀が突き刺さり、闇の中で刃
が鈍い光を放っていた。
つい、先刻まで、自分はあの下にいたのだ。
恐怖と嫌悪感に身体が震えた。一刻も早くこの場から立ち去りたかった。けれど、そこから動くだ
けの気力は、ヒカルには残されていなかった。
生臭い匂いが鼻をつき、身体全体がベタベタして気持ちが悪かった。夜闇の中ではそれが何かは
わからないが、それがあの男たちから流れ出た血であろう事は、容易に想像できた。そして下肢は
彼らが、そして自分が放った精液で汚れ、体内にも未だそれが残されているのだろう事も。ぐう、と
胃からまたこみ上げるものを吐き出そうとしたが、もはや吐くべきものも何もなく、苦い胃液を吐き
出すだけだった。
雨が次第に激しく降り始め、ヒカルの裸の背を雨粒が叩いた。
僅かに残されたヒカルの体力も体熱も奪っていくようなその雨が、けれど我が身に纏わりつく汚物
を洗い流してくれるのではないかと幽かな期待を持って、激しく打ち付ける雨を感じながら、ヒカル
は気を失った。
977落日(六) ◆2DpdawnHik :03/07/19 22:21 ID:U2hbDzWI
何かに顔を叩かれて彼は覚醒した。
雨は降り止んでいたが、代わりに激しい風が木々を揺する音が聞こえた。
また、何かが彼の体にぶつかった。風に煽られて折れた木々の小枝だろう。きっと、さっきも同じ
ように小枝があたって、意識を取り戻してしまったのだろう。ぴしゃりと濡れた葉が横向きに地面を
見ている彼の顔にぶつかって、彼の身体がひくりと動いた。
吹き付ける風に身を震わせながら彼はゆっくりと身体を起こした。
引き裂かれた衣が枝にひっかかり、風に煽られてなびいているのが目の端に入った。よろよろと
立ち上がり、腕を伸ばしてそれを取り、何とか原型をとどめているだけの単をかろうじて身に羽織っ
た。そしてよろめきながら、彼は足を動かした。振り向いてはいけない。振り返ってはいけない。振
り返って見たが最後、あれらが妖かしと変じて襲い掛かってくるような気がした。
あれほど激しく感じた雨でも、彼の身に纏わりつく汚れをすっかり洗い流すには足りなかった。泥
の匂いに混じって、血の匂いが生臭く彼の鼻に届いた。一歩一歩歩くたびに、下肢を伝わり落ちる
ものを感じた。汚れの上に濡れた衣を一枚羽織って、彼は陵辱の林から逃れ出ようと、必死に足
を進めた。
ぼつり、と何かが彼の背を叩き、ひっ、と小さな悲鳴を上げて、彼は思わず振り返ってしまう。それ
は続けざまにばたばたと彼の振り向いた顔を、肩を、背を叩く。ざあっと強い風が吹いて、彼のよろ
めく体は近くの樹に叩きつけられた。激しい雨が、また、降り始めてきた。もう涙も枯れ果てた汚れ
た面を上げて、彼は力弱い目で天を見上げる。けれどその目にはもはや何も映らない。月も星も
ないこの夜、ただ雨と風だけが彼にふりかかり、何かを映し出すだけの光はどこにもない。闇の中
で、叩き付ける雨が彼の顔を打ちながら、泥を流していく。ばらばらと叩き付けるような雨粒を感じ
ながら、彼はぎゅっと目を瞑り、小さく頭を振った。
そうして、彼はまた、ここから逃れようと、ゆっくりと歩き始めた。
>> Part40 988-994


『ヒカル』
と、懐しい声が、名を呼ぶ気がする。
向かいに座る人もない碁盤と対峙して、ヒカルは音もなくそこに石を置いた。
『ほら、ヒカル。どうしてヒカルは考えもなく、そこに置きますか。ここは
 はさむより開いた方がいいんです』
『別にいいじゃん、置きたいところに置いてかまわないんだろ?』
『でも、これでは勝負の行方が』
『いいよ、勝ち負けは。遊びだし』
『あ、遊びとはなんです、遊びとは! 囲碁というのはですねぇ、打つ手の
 一手一手に、その人の品格というものが実に如実に現れるものなのです。
 もっと真剣に……』
『あーーー、わかったから、次の手、打ってよ、佐為』
『………』
佐為の困ったように潜められた柳眉に見とれたところで目が覚めた。
今、もう佐為の思い出は、以前のように彼の胸をキリキリと痛めつけることはない。
それは秋の名残の赤い葉が、川面に落ちてどこか遠くに流れていくのを眺めている
気持ちにも似ていた。


十一月にもなると、宮中はにわかに落ち着かなくなる。
渡殿を行き交う女房たちの足運びも、気のせいかせわしない。
なにしろ、この霜月は睦月についで忙しい。新嘗祭、豊明節会、五節舞と大きな
行事が立て続けにある。
毎日の参議の内容も、まつりごと向きよりも、自然と近く行われる祭事の手順やら
役の割り振りやらの話が大部分をしめるようになるのだ。
もっとも、帝の御目にとまるような華々しい役どころは、すでに先の月のうちに
決められてしまってはいたが。
どこそこの家の誰それを、せめてその役どころの補佐として登用してほしいだとか。
なんとかこの機会に自分の娘が、どこぞの殿方の目にとまるように、はからって
欲しいだとか。
伊角の懐に届けられる金品は枚挙にいとまがない。
それをそのまま突き返すのは角が立つので、同等の価値のある楽器やら、調度品やら
に変えて、送り主の元に届けさせる。
そんな雑事に「伊角派」の面々――和谷や門脇、岸本といった面々は奔走していた。
中には、届けた品物を、伊角が籠絡できないからと、その和谷や岸本に渡そうと
するやからもいるらしい。
「まったく、これではまともに、今年の収穫の話もできやしない」
ぼやく伊角を、ヒカルは笑って眺める。
内裏の一角にしつらえられた、伊角のための控えの間にふたりは座していた。
さすがに十一月も半ばをすぎると空気も身をきるばかりに冷たくなってくるから、
御簾は降ろされたままだ。
その降ろされた御簾の下から、ツッとひとつの文が差し入れられた。
部屋の中のふたりは、その様子を黙って眺めて顔を見合わせ、一緒に溜め息を
つき、ヒカルがかったるそうに腰をあげて、その文を取りに行く。
「次の五節の舞において、舞姫付きの童女に、ぜひ我が二の姫を召し上げて
 いただきたく……」
その場に立ったまま、ヒカルが読み上げてみせたその文面に、伊角が首を
振った。
「もう五節の舞の御役目はみんな決まってるっていうのに…」
「伊角さんに言えば、なんとかしてもらえると思ってるのかもね」
ヒカルは言いながら少し御簾を高く上げた。
そこから眺める中庭は、せんだってまでの秋の美しい風情はない。萩もススキ
も、乾いた朽ち葉色になって力なく首を垂れている。背の低い紅葉も植わって
いたが、つい先ごろまで僅かではあったが紅の色を残していたその枝に、今は
ただ一枚の葉も残っていない。
「全部、落ちちゃったなぁ」
「近衛」
「なに?」
「お前、少し変わったな」
「……そうかな?」
「なんか、大人っぽくなった」
今まで顔立ちそのものは成長しても、その表情の中に変わらずにあった子供っ
ぽさが、急に消えうせた。
同時に、2.3日前まで伊角の胸を騒がしていた、あのどうにもむしゃぶり付き
たくなるような濃い色気も失くなって、変わりに残ったのは、朝に降りる霜の
白さにも似た、不思議な美しさだった。
「今までがガキっぽすぎたんだとか、和谷には言われそう」
ヒカルは御簾をそっと降ろす。
確かに自分は少し変わったのかもしれない。
佐為の死を聞かされて、信じられなくて悲しくて、それを受け入れようと足掻い
て、結局無理だと悟った。
忘れようとして、そんなことは出来ないのだと、反対に嫌というほど思い知った。
あいつはいなくなったのに、やはり自分が欲しいのは佐為だけだと、体に知ら
されて、諦めが付いた。
藤原佐為が好きだ。
自分はきっと、この想いと彼の思い出を、ずっと死ぬまで抱えて生きていくの
だろう。
不思議なことに、そう考えて初めて、ヒカルは佐為の死を正面から受け止め
られた気がする。
こういう諦めにも似たものの悟り方が、『大人になった』という言い方を
されるのなら、きっとそうなのだろう。
風が吹いて、枯れた萩の葉がかさかさと音を立てるのが、御簾の向こう
から聞こえてくる。
アキラに謝らなくちゃと考えた。
彼にはひどいことをしてしまった。
あの時の、彼になりふりかまわず縋り付いてしまった自分を思い出すのは恥ず
かしいけれど、でも、会って友人としての筋は通しておきたい。
それから、あかり。彼女にも甘えたいだけ甘えてしまった。幼なじみの気安さで。
あれから検非違使庁にも顔を出した。
加賀はヒカルをみるなり、また扇でこつんとヒカルの額をつついた。
「まったく。しっかりしてくれよ」
それで終わり。ヒカルは再び検非違使の仕事にも復帰した。
聞く話によると、あの日ヒカルに狼藉を働いた男達は、それぞれが遠い築後やら
石見やらに左遷になったそうだ。
ばたばたと荒く板敷きの廊下を踏みしめる音がして、和谷と門脇が部屋に入って
きた。
吹き込んだ空気の冷たさに、ヒカルは手首に鳥肌をたてる。
「まったく、みんな自分のことばっかでやってらんねぇよ! ちっとは政の
 ことも考えろっての!」
愚痴を吐く和谷を横目に、門脇が苦笑いしながら、伊角に見聞きしたことを
語っている。
「今日は、陰陽寮のお役目確認でね。清涼殿にあちらのお偉いさんが集まって
 るよ」
「また、妙なことにならないといいけどなぁ」
伊角が門脇がもちこんだ書類を眺、その端麗な眉をしかめながら、言う。
「そうだな、去年もあいつらが十日も前になってから、方角がどうのとか
 言いだして、儀式を行う殿が替わってエライ騒ぎだったっけな」
「あ、そうだ、近衛」
和谷が特徴ある癖の頭髪をゆらして、ヒカルの方を見た。
「倉田さんから聞いたんだけどさ、おまえ、賀茂アキラがどうしてるか
 知ってる?」
「え?」
「なんか、この三、四日、陰陽寮に顔出してないらしい。使いを出しても門も
 開けてもらえないとかで…。なんかあったのか?」

983落日(七) ◆2DpdawnHik :03/07/20 21:10 ID:OoZH3KZT
高熱にうなされながら、彼は夢を見ていた。
熱に浮かされた歪んだ視界の向こうに、白い人影が見えたような気がした。
懐かしいその人に手を伸ばし、温かな身体に抱きついた。焚き染められた香の薫りにうっとりと
酔った。優しい手が彼の髪を撫でるのを感じた。手はそのまま彼の衣の中へ滑り込み、彼の身体
を開いていく。優しい手の、唇の、通る跡からヒカルの身体は熱く燃え上がる。ヒカルの身体の上
を這う熱く濡れた感触に、喜びにも似た期待で彼の身体はひくりと震え、背筋をざわざわと何かが
伝うように感じる。身体の中心に熱が集まってくるのを感じる。圧し掛かる身体が、抱きしめる腕が
熱く燃え上がってくるのを感じる。もっと熱く。もっと激しく。早くそれが欲しい。誰よりも熱いおまえ
自身が欲しい。生きているその証を俺に与えてくれ。

「あっ、あああーー!!」
夢の中でヒカルは、待ち望んでいた熱い楔に歓喜の声を上げていた。
「あ、やぁ…、ん…んんっ……はっ…はぁっ…ぁあ……ぁ……い、…」
夢中になって彼の名を呼んだ。呼び声に応えるように、彼が自分の名を呼ぶのがわかった。嬉し
くて、悲鳴にも近い声を上げながら彼の身体にしがみついた。声に応えて一際強く打ち付ける動き
に絶頂の予感を感じて、より深く彼を感じようと、腰を動かした。
その時。
「……?」
熱く激しく動きながらヒカルを燃え立たせていた身体は突如その動きも熱も失い、ずっしりと冷たく
重く、ヒカルの身体に圧し掛かる。
呆然と、その冷たい体の背に手を回した。
「…いやだっ……どうし…て、」
絶望に震えそうになりながら重く冷たい身体を抱きしめた。
重たい身体がしがみ付いたヒカルごと、じわじわと水底へと引き込まれていくのを感じる。
淀んだ水の匂い。湿った泥の匂い。
次第に身体の奥まで染み透っていくように感じる冷たい、冷たい水。
嫌だ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
誰か助けて。
誰か。
984落日(七) ◆2DpdawnHik :03/07/20 21:10 ID:OoZH3KZT
「……近衛、」
助けを求めるヒカルの声に応えるように、耳に優しい声が届く。これは誰の声だったろう。思い出
せない。けど、誰だかわからないけれど、とても優しい声。優しくて、温かくて、だから…
「おまえは俺が守ってやる。」
この声は誰だったろう。わからない。わからないけど、でもこの声が優しいから、この胸が温かい
から、温もりを求めるように、広い胸に縋りつく。けれどそうして安らぎを感じていたのは一瞬の事
で、強い力で肩を掴まれて、ヒカルは身を縮こまらせる。けれどその手は強引にヒカルの顔を上
げさせ、誰かが自分を覗き込んでいるのを感じる。これは誰だ?なぜこんな恐ろしい目で自分を
見る?やめてくれよ。怖いよ。どうして?どうしてそんな怖い目で俺を見るんだ?それまではずっ
と、ずっと、優しくて、あったかい目で「大好きだよ。」と言ってくれた目が、どうして今はそんなに
恐ろしく底光りしているんだ?
「俺を、見ろよ…っ!」
知らない人に変貌してしまった彼が強引にヒカルの肩を揺さぶる。
「やっ…」
優しく温かい胸に縋り付いていたヒカルの身体は、そこから無理矢理引き剥がされる。そのまま
腰を掴まれて引き摺られるヒカルがどんなに手を伸ばしても、もう、そこには届かない。
「あ、いや…、」
ヒカルを捕らえた腕はけれどそのまま乱暴にヒカルの下肢を割り開く。
「いや、いやだっ……いや、やあああっ!!」
985落日(七) ◆2DpdawnHik :03/07/20 21:11 ID:OoZH3KZT
暴れる四肢をものともせず強引に割り込んできた肉に、ヒカルは悲鳴を上げる。けれどそれは
むしろヒカルの抵抗を、叫び声を楽しむかのように、乱暴に動き始める。悲鳴を上げ続けるヒカル
の顔が掴まれて無理矢理口を開けさせられ、押し込まれる。前後から貫かれてヒカルはもはや
声をあげることもできない。ヒカルを後ろから突き刺していた男が突如引き剥がされたかと思うと、
別の男がすかさず彼を捕らえて貫く。嫌悪しかないはずなのに、それでも自分の身体は快感に
支配され、意思に反して肉体は与えられる刺激を貪欲に貪る。頭の奥では嫌だ、と、もうやめて
くれ、と、悲鳴を上げているのに、自分の口から漏れる声は明らかに嬌声で。
「もう、ダメ…やっ、やあっ…あ、あぁ、もう…、許して…ぇ…」
けれどどれほど泣き叫び、哀願し、懇願しても許される事は無く、それらはヒカルを身体ごと心
ごと苛む。身体の外から、内から、黒い汚濁に汚され、そこから爛れ腐って崩れてしまいそうに
感じるのに、身体は尚快楽を感じて、震え、咽び泣く。熟れ過ぎて潰れる寸前の果実の放つ香
は芳香なのか腐臭なのか。
「ああああーーーーー!!」
絶叫と共に押し潰される。体全体にかかる重みに、腐った自分自身もぐしゃりと潰され、もはや
その形状も残していないように感じた。
それなのに、意識はいまだ完全に失われはせず、ぱたり、と顔に何かが滴り落ちる。
「ひっ…」
恐怖の記憶に身体を縮こまらせた彼の顔を濡らすのは、冷たい池の水ではなく、温かく生臭い
血しぶき。背にかぶさる身体は力を失って彼を押し潰すようにくず折れるのに、まるで最期の
抵抗のように、爛れ崩れそうに感じる自分自身の内部ではまだ何かがビクビクと蠢く。
「うわぁあああああああああああああ!!!」
986落日(七) ◆2DpdawnHik :03/07/20 21:12 ID:OoZH3KZT
自らの放つ絶叫に彼は悪夢から現し世へと引き戻される。
「あ…」
思わず漏らした声は低く掠れ、もはや身を起こすだけの力もなく、ただ呆然と眼を見開いて天井を
見つめる。その木目が、ぐにゃりと歪んだ。歪んだ映像はまるでこの世に恨みつらみを持って彷徨
う怨霊のようで、ヒカルはぎゅっと目をつぶる。
けれど目の裏には誰かの顔が映ったと思うと歪んだ映像は別の人物の顔に変わり、目まぐるしく
浮んでは消えてゆくその人たちがどこの誰であったのかを認識する間もない。それは良く知って
いる人のようであり、見たことも無い人のようでもあり、一瞬、懐かしさを感じて引き止めようと思って
も次の瞬間には別の姿に移り変わる。
最後に見えた白い面に向かって手を伸ばそうとしてもそれは遅すぎて、涙を流しながら目を開けた
ヒカルの視界は夕映えに紅く染められていた。

赤く燃えるような色に誘われるように寝台から這い出し、御簾を開けて外界に出たヒカルの目に、
壮大な落日に赤く照らされた世界が映る。燃え尽き落ちる寸前の太陽の最後の力が、世界中を
呪うように毒々しく赤く、全てを血の色に染め上げていた。
何もかもが赤く照らされている光景の中で、自分が血の海に溺れかけているような気がした。
壊れてしまう、と、思った。
いっそ壊れてしまった方がいい。
好きだとか嫌いだとか、いいとか嫌だとか、そんなもの、全部要らない。考えたくない。感じたくない。
いっそ壊れきってしまえば、痛いとか苦しいとか悲しいとか辛いとか、そんなものも全部感じなくなる。
もう、壊れかけているのかもしれない。
それでいい。
己など失くしてしまえばいい。
何もかも手放して、何もかも失くして、全て忘れてしまいたい。
この赤い、血の海に溺れて、己など全て失くしてしまいたい。
もはや己をここに引き止めるものは何もない。
落日のその最後の力が次第に光を失ってゆく中、ヒカルもまた闇の世界へと沈み込んで行った。
987落日(付記・一) ◆2DpdawnHik :03/07/20 22:31 ID:nShvjndz
京の都の一角に、口にする事を禁ぜられた屋敷がある。
その名は誰もが知っている。けれど問われてその名を応えるものはいない。五条の御息所と呼ばれ
るその女性は、今上帝の即位に纏わる暗い噂と共に、その存在そのものが禁忌であった。
だが禁ぜられても尚、口の端にのぼるものもある。それが噂と言うものだ。
口にする事を憚られるが故に、その噂はひたひたと冷たい水が染み透るように都に広まっていった。

禁域とも化したかの屋敷に、見目美しい童子が香に溺れていると言う。香に囚われた少年はただ人肌
の温もりを求めて、誰と言わずただそこにいる人に縋り付くのだと。ひとたび彼を抱いた者がその味が
忘れられずに再びその屋敷を訪れても、二度目の目通りを許されたものはいない、と言う者もいれば、
自分の知り合いは何度も通ったらしい、と言う者もいた。
ある者はその少年はかつて一時期宮中に見かけたこと少年だと言う。だが、どこで、誰と、と問われる
と口を噤み、そこでまたもや口にしてはならぬ名に当たる。
かつての帝の囲碁指南役、とそれさえも辺りを憚るように更に声を潜めて伝えられる。その少年はかつ
ての囲碁指南役の警護役であったと。けれどその言に、異を唱えるものもいる。その少年は追放された
人の後を追って同じく池に身を投げたのだから、その妖しの少年とは別の者であろう、と。どちらにせよ
不確かな噂の中で彼が何者であるかは誰にも確とは知れぬ。噂は噂にすぎず、それを確認する術は
ない。直接問うたところで返ってくるのは否定の返事しかない。禁ぜられたその屋敷に通うことはその
まま禁忌に触れる事であり、それは「ありえないこと」「あってはならぬこと」なのだから。
いや、問うべき相手すら明確ではない。「知り合いが人づてに聞いた所によると」と、噂はその出所さえ
曖昧に、真否を確かめることなど不可能であるのに、まるでそれが唯一の真実であるかのようにひた
ひたと流布していく。
988落日(付記・一) ◆2DpdawnHik :03/07/20 22:31 ID:nShvjndz
伝わるごとに少しずつ形を変えていきながら人伝に広まりゆく噂は、真実から最も遠い所がまるで真実
であるかのように形成されることもあれば、何の根拠もなく誰の弁ともなく、けれども確かに真実に近い
形が、混沌の中から浮かび上がってくることもある。だがそれを聞く者にとってはそれがどれ程真実に
近いのか、遠いのか、確かめる術はない。知り得る者がいたとすれば当の噂の的の本人以外にはな
かったろう。だがその本人が既に禁忌である時、また、物言わぬ、己を失った者である時、真実などと
言うものはもはやどこにも存在しなくなる。

今ではその名を禁ぜられたかの囲碁指南役の最後の因縁の試合の、その真実は果たしてどこにあっ
たのか。座間方の陰謀であったとか、不正を働いたのは実は対局相手の方であったとか、いや、そも
そも彼が不正など働くはずがない、と、亡くなった人を知る者は言葉少なにそうこぼした。だがそれは
負け犬の愚痴以上のものに捉えられる事はなく、内心それに頷く者はいても、「あるべきでない」噂を
はっきりと肯定する者も、また否定する者も、いよう筈もいなかった。
だから、口にすることを憚られる存在は速やかにその存在を抹消されていく。誰もが、そして誰よりも
最高権力者たる今上帝が、その事件を葬り去ってしまいたいと、なかった事にしてしまいたいと思って
いたのだから。
そして宮中にはまた禁忌が加わる。
「藤原佐為」という名はそのまま葬り去られ、口の端に乗せることを禁ぜられる。「先の囲碁指南役」と
いう呼び方でさえ、辺りを憚りながら低い囁き声でのみ音にされる。
そうして二重の禁忌に隠された噂だけがひたひたと、見えない水のように広がっていった。
989落日(付記・一) ◆2DpdawnHik :03/07/20 22:32 ID:nShvjndz
私は噂話というものは好まぬ。ましてやそれが己を遠ざけるように囁かれ、近づいたときにはぴたり
と話し止まれてしまうようなものは。初めは気にもかけなかったが、度重なれば気に障る。またもや
私の姿を見て口を噤んだ男を、耐えかねて捕まえ、問うた。「今話していた話を続けよ。」と。
「は…しかし……」
けれど彼は容易に口を割ろうとはしなかった。どうやらその話の内容によって私の不興を買う事を
恐れているようであった。馬鹿馬鹿しい。既におまえは不興を買っているというのに。
「私の前では話せぬ話があると?」
「いえ…そのような、」
「では、申せ。」
正面から睨み据えればもはや拒み続ける事などできる者はいない。
「……主上の思し召しとあれば…申し上げます。」
990落日(付記・一) ◆2DpdawnHik :03/07/20 22:33 ID:nShvjndz
「五条の…?」
その者の口からその名が漏れた時、私は鬼のような形相をしていたのかも知れぬ。
常なれば口にする事を許されぬ禁忌に、事もあろうにそれを禁じた当の本人に向かって口にして
しまった事に、彼の顔がさっと蒼ざめた。けれど私は先を促し、そこで話を断つ事を許さなかった。
怯えながらも彼は続ける。
彼の話に半ば耳を傾けながら、その女を思い出していた。
美しい女だった。けれど、それ以上に恐ろしい女だった。甘くむせるような香に溺れて、ただ一度、
契りを交わした。誑かされた、という方が正しいかも知れぬ。あの香の正体が何であるかは知ら
ぬ。けれどあの香に惑わされなければ、父の女と関係を持つなど、いかな自分と言えど、ありえ
ない事だったろう。人に知られれば二人とも身の破滅であろうに、何を思って憎いはずの女の息
子に手を伸ばしたのか。
真意などわかろう筈もない。
いや、それとも、あの頃既にあの女は壊れかけていたのかも知れぬ。なぜなら私に貫かれ私に
絡みつきながら彼女が呼んだのは、私ではなく彼女の息子の名だったのだから。最愛の息子を
失って、もはや恐れるものなど何もなかったのだろうか。それとも彼の死の遠因である私を肉欲
に引きずり込むことによって、復讐を遂げようとでも思っていたのだろうか。
甘い香に幻惑されながら、じっとりと熱く甘く、うねるように己を包み込んだ肉がその時私に与え
たものは、快楽よりも恐怖に近く、それ以来、私にとって女というものは恐ろしく、またおぞましい
存在でしかない。

そのような苦い思い出に耽っていた時に、また、もう一つの名を聞いた。
五条の御方。先の囲碁指南役。そのような呼び方でさえ、それは口に乗せられる事を禁じられた
名だった。言の葉に乗せることもなく、けれど確かに私はそれを禁じた。迂闊にその名を口にした
ものの行く末から、人々はそれが禁忌である事を思い知ったのであろう。その二つは私にとって
は全く違った意味で、二度と、触れたくはない名だった。
なぜそれらの二つの名がここで結び付くのか。
彼らが口を閉ざしたがるのもわかるような気がした。
991落日(付記・一) ◆2DpdawnHik :03/07/20 22:34 ID:nShvjndz
けれどそれでも私は先を促す。
「彼の警護役……?」
確たる証しは無いのですが、と彼は言う。当たり前だ。伝え聞いた噂話にそのようなものがあろう筈
がない。
だがそれが「彼」自身の事でなく、「彼」の警護役の事なのだと聞いて、私は途端に興味を失った。
そのようなつまらぬ噂話を、画策して自分から遠ざけようなどとしたのか。
彼に縁りの者がどこで何をしていようと、もはや自分には何の関わりもない。
ただ。
ふとその少年を思い出す。都人には珍しい明るい前髪の、明るい笑顔の少年であったように思う。
あのように目立つ容姿の者であれば、成る程、二つの禁忌に触れる事でも、人々の口の端にのぼり
口さがなく噂されてしまうものなのかも知れぬ。内裏でも何度か姿を見かけた少年の、その名は、何
と言ったろう。確かその名を聞いた時にはひどく合点がいったものだ。だが今、その名が何であった
かを思いだせぬ。
いや、思い出す必要もないだろう。
あの美しい囲碁指南役はもういない。
なれば、彼のかつての警護役が何だと言うのだ。
落ちぶれた家に落ちぶれた者が囲われているというのなら、それもまた似合いであろう。あの女が
見捨てられた子犬を拾っては慰み者にする事など、今に始まった事ではない。それが誰であれ、
自分が何か言い立てる必要などあるまい。
全てはなすがままに、流れのままに流れてゆくしかないのだ。

「よい。捨てておけ。」
そう言い捨てて、先に女御に取り立てた女の住まう宮へと足を運んだ。
992落日(付記・一) ◆2DpdawnHik :03/07/20 22:34 ID:nShvjndz
歩きながら彼のことを思い出していた。
実際の所、自分は何も目にしなかったし、だから何の確証もない。
けれど、誰も目にしなくとも自ずと明らかになる真実というものもある。
彼を責めたて、詰り、貶めようと言葉汚く罵った者の醜い顔が蘇る。自らの内部に醜い蛇を飼う者
ほど、他人を悪し様に罵るものだ。罵り言葉など、全てその者の内にあるものでしかない。
どちらに不正があったかなど、言うまでも無い事と思ったが、だがその時自分の胸中にあったのは
別の事だった。不正がどちらにあったかなど、どうでもいい事だった。彼が不正などはたらく筈がな
い。彼を知るものなら誰もがそれを知るだろう。
己を不正を言い当てられそうになって殊更に言い立てる者を彼は非難するように見つめ、それから
何かを求めるように私を見た。その視線を受け止めた私は、けれど己の罪を他人に擦り付けんと汚
れた言葉を吐き連ねるものよりも、さらに醜い顔をしていたのかもしれない。
私を見た彼の美しい面に浮かんだものは、驚愕と、不信と、そして最後に私が見たのは絶望と諦め
の混じった、凄惨ともいえる薄い笑みだった。

どちらに正義があるかなど、どうでもいい。
助けてくれ、と言えばよい。
助けを求めれば助けてやろう。
その代わり――

私の差し出したものは彼の求めたものでなく、それゆえ最後まで彼はそれを拒み、その結果、「帝の
囲碁指南役」は失脚し、この世から消え去った。
その事を悔やみはしない。他の道があったとも思えぬから。
993落日(付記・一) ◆2DpdawnHik :03/07/20 22:35 ID:nShvjndz
初めは拒まれているとは思わなかった。己を拒むような者がいるなど、思いもしなかった。
碁盤を挟んで彼と相対し、優美な白い指が自分の打った石に応えるとき、より正しい、美しい筋へ
と導こうとするのを感じる時、なぜか胸が高鳴るのを感じた。
それなのに、盤上ではあれほど優しく自分を導いてくれた彼は、一たび盤を片付けててしまうと、
こちらがどうとりなそうと、柔らかく微笑みながらも、きっぱりとそれらを拒絶した。どれ程高価な宝
物も、珍しい綾錦も、彼の心を動かすには足りなかった。
次第に苛立ちが混ざる。
それでも彼の姿を目にし、対局しながら彼の指導を受け、終局した後にはどこか硬く逸らされる彼
の眼差しを目にする時、正体もわからぬ何かが、胸の中で蠢く。そのざわめきが彼を引きとめよう
とし、だがそのざわめきが彼をまた遠ざける。己が彼を呼び、取り立てようとすればするほど、傍に
置こうとすればするほど、彼は自分を拒み、自分から遠ざかって行った。

それとも拒まれたからこそ自分は彼を望んだのだろうか。
わからぬ。
なぜなら生まれてからこのかた、自分を拒んだものなど彼を除いていないのだから。
994落日(付記・一) ◆2DpdawnHik :03/07/20 22:36 ID:nShvjndz
藤原の娘を愛しく思っていたわけではない。愛しいという想いなど知らぬ。ただ、自分の一存のみ
であの囲碁指南役を退けたから、その事で傾いてしまった天秤を元に戻すために、彼女を女御に
取り立て、いずれ子を産めば中宮となるのだろう。
どこか彼に似た面差しのある、その女が傍らから見上げている。
「つい先程まで、新しい女房と碁を打っていたところでしたのよ。
中々の上手のもので、よろしければ主上も一局いかが?」
「いや、碁はよい。」
「あら……確かにわたくしでは主上の相手は務まりませんけれど、あの者でしたら…」
「いや、よい。碁はもう、飽きた。」
「まあ。」
と、彼女は嘆息する。
「以前はあんなに夢中であられましたのに。」
そんな女御の言葉を他人事のように聞き流す。
彼でなければつまらぬ。
いや、碁に夢中だったのではない。彼に、夢中だっただけだ。
美しく優美な青年。白い指先から繰り出される一手。高らかな音をたてて打ち据えられる白と黒の
石。彼との対局は会話だった。自分の置いた石に彼が応え、その石にまた自分が応える。そうして
十九路の小さな都の上に築き上げられる世界。相手が彼であってこそ、その遊びに夢中になった。
その彼なくして、碁など、何が面白いだろう。
きっともう碁を打つ事は無いだろう。そんな気がする。
自分が碁を打たなくなって、残されたあの囲碁指南役はどうするだろう。
どうもしまい。彼は碁を打つ事よりも「帝の囲碁指南役」という名の方が大事なのだから。今更それ
を取り下げる気も無いから、あの者もそれで満足だろう。自分が碁なぞ打たずとも、内裏の中には
何の支障も無い。所詮はただの遊びだ。
995落日(付記・一) ◆2DpdawnHik :03/07/20 22:37 ID:nShvjndz
この都において、自分こそが中心たる太陽であることを知っている。
己の望みとは何の関わりもなく、内裏において、都において、この国において、自分こそが天を統
べる日で在った。望む前に全てを与えられ、この世にあるもの全ては己のために在った。それが
天子であり帝たる自分のさだめであり、またつとめでもあった。
何かを望むまでもなく全てを手中にしていた己が初めて望んだ人はけれど己を拒み、それ故に
ここから消えていった。ここに在るものは全て帝たる自分のためのものだから、その自分を拒む
ものはここに在る事はできない。彼はそれを知っていたから、自らここから消えていった。
全てを与えられると言う事はけれど全てを担うと言う事でもあり、だがそれを嘆いてもどうにもな
るまい。自分はそう生まれついてしまったのだから。
帝の子として生れつき、全ての中心たる日輪たることを約束され、また要求され、そして今、その
ようにしてここに在る。それ以外の在りようを自分は知らない。
けれど、日はまた没するものだ。

「何を笑っておられますの?」
女の声で、現世に引き戻される。
笑っていたのか?自分は。いつか己が没する時の事を思って?
それもよい。
己が没してもまた次の陽が昇り、都は変わらずに日々の営みを続けるのだろう。
ひとも、ときも、皆、儚い。
今日の日も、また、沈み行く前に最期の力を振り絞って鮮やかな夕映えを見せている。あれは
己が没する前の最期の輝きだ。
沈みきっても尚、己を忘れてくれるなと言いたげに残照は薄紅く都を染め上げている。けれど
それもやがては力尽き、都は黄昏の中に沈んでいき、そして日の力が完全に没した時、都は
闇に包まれる。
月のないこの夜、ただ星だけがほんの小さな煌きをもって闇を恐れる者どもを救うのだろう。
996落日・付記(二) ◆2DpdawnHik :03/07/20 22:39 ID:nShvjndz
残照は既に力なく、辺りは夕闇に包まれようとしていた。
今日の日の、夕映えの不吉なまでの赤さに人々は眉をひそめ、暗く赤く残る最後の光がその力
を失い、常なれば厭うはずの夜闇が訪れてやっと彼らは息をついた。
それでも月のない夜は人々を不安にさせる。
その為に、今夜にでもここを発とうとしていた彼は強引に引き止められた。
更に、湿り気を帯びた風が野分きの訪れを予感させ、今日こそは何があろうと旅立とうと思って
いたはずの彼を、この地へ引きとどめた。月の無い嵐の晩は旅立ちには危険すぎる。捨て切る
ことのできない理性が、それでも早く出立したいと叫ぶ感情を抑え、彼は不安な面持ちで空を見
上げながら、後ろ髪を引かれる思いで屋内へと戻った。

都から遠く離れた東国で、既に儚くなってしまったであろう人を思う。そして残された少年を思う。
彼を思うとざわりと胸が波立つ。そうしてあの日からずっと己を捕らえている焦燥感にまたもや、
身が焼け焦げるような苛立ちを感じる。
あの日、あの人とすれ違ったすぐ後にこちらへ下るようにと命ぜられた。
東国に人を喰らう鬼が出る。先に遣わした陰陽師はけれど逆に鬼に魅入られ、自らの身を鬼に
捧げ、彼の身を喰ってその鬼の力は益々強大になり、土地の者どもは夜ともなればただひたすら
怯えて家に閉じこもるしかなく、そして夜も更ければ、鬼は野を、里を流離い、恐ろしい、哀しい声
が、哀切な唄を吟じるのだという。
それを鎮められるのは、例え年は若くとも、今、都で最も力があると言われる賀茂明その人しかい
ない、と、言われて断ることなどできなかった。
唐突なその命に、「彼」と交友の深かった自分が、図って都から遠ざけらようとするのだろうかとも
疑った。だが勅命とあれば致し方ない。
997落日・付記(二) ◆2DpdawnHik :03/07/20 22:39 ID:nShvjndz
今は祓ってしまった鬼の、魂を裂くような吟が耳について離れない。
哀しい存在だった。
人の心の闇が凝縮し、それに押しつぶされて喰らわれた時、ヒトはオニと成る。陰陽師としてその
ような存在と相対したことは無かったではないが、けれどそれでもあのように哀しい存在を知らな
かった。
かつて愛した、そして自分を裏切った愛しい男を呪い、捨てられた自分自身を呪い、世を呪い、全
てを呪い、男の血をひいた幼な子を喰らい、ついには子を攫っては喰らう鬼と成り果てた女。
ひとは誰でもあのような鬼に成り得るのだろうか。
男が女を騙したのではない。裏切ったのではない。女は男の在りようを理解できず、男もまた、己
を曲げて女に寄り添うことはできなかった。

幼い吾子の柔らかな皮膚を切り裂き、血肉を啜りながら鳴く鬼の、哀しい、哀しい、哀しい、という
慟哭の声が、闇に吸い込まれながらも木霊していた。哀しく恐ろしいはずなのに、それでも背筋が
震えるほどに美しく、惹き込まれるような声だった。
その美しい悲鳴が未だ耳に残るような気がする。
女の、男への想いが妄執であったなら、男の、自らの業にかける心も妄執であったのだろう。
男が最後に手掛けた美しい蒔絵の手鏡は、けれど完成される事はなく、妄執を焼き払う炎となって
彼らを包んだ。天にも届くほどの火柱が、鬼を包み、鏡を包み、闇夜を昼に変えるほどの眩さで燃
え上がり、次の瞬間にはぱっと消え去った。
やがて訪れた朝の光の下、土も草も何一つ焼けた後など残さぬその場に、黒く焦げた丸い鏡が、
それだけが彼らの存在した証であるかのように、遺されていた。
998落日・付記(二) ◆2DpdawnHik :03/07/20 22:41 ID:nShvjndz
日の落ちる前にここにやっと辿り着いたという都人が、近頃の都の噂話をしている。
「帝の囲碁指南役が代わられたという話を聞きましたが…」
何気ないふうを装ってそのように話を向けてみたが、彼はそのような話は知らぬと言った。
「そうですか。」
噂にもならぬほどの事だったろうか。いや、宮中に参内するような貴族でなければそこまで細かな
事など知らぬのも当然なのかもしれない。
最後に見たあの人の、全てを悟りきったような静かな笑顔を思い出す。
都からここを目指して歩いている途中で、不意に足を止めてしまった事があった。何かもわからず、
ただ心がざわめいて、ここを離れてはいけない、戻らなければならないという衝動に駆られた。警護
の者さえいなければ、自分は勅命など投げ捨てて都を目指して走り出していただろう。
けれどそれは許されず、今、自分はここにこうして一人いる。
きっとその時に逝ってしまったのであろう人を思い、そしてまた、残された人を思う。
彼はどうしているだろう。最後に会えたのだろうか。会えなければ会えなかった事に、会ってしまえば
引き止めることもできなかった事に、きっと彼は苦しんでいる。
自分は何もできずとも、傍にいたかった。共に苦しみを分かち合いたかった。
999落日・付記(二) ◆2DpdawnHik :03/07/20 22:41 ID:nShvjndz
早く帰りたい。
何かとてつもなく悪い事が起きているような予感がした。
いや、予感だけではない。都の様子を占った占盤には、はっきりとその兆候が示されていた。
早く戻らなければ。でないと手遅れになってしまう。
「手遅れ」がどんな事態を示しているのかまではわからない。わからないから尚の事、心が急い
て仕方がなかった。
彼の死を嘆く心と、残された者と残された状況を憂慮する心が入り乱れ、平常心など保てようも
なかった。だが不安定な心が成すべき事を成し遂げるのを妨げ、焦るほどに物事ははかどらず、
益々心が乱れた。
都でも名高い陰陽師でさえてこずるほどの恐ろしい鬼、と人々は口にしたが、何のことはない、
その陰陽師が名ほどの力を持たなかっただけの事だ。
早く帰らねばならぬと気ばかりが急いて、精神統一さえできぬ己自身が苛立たしい。苛立つという
ことさえ、妨げにしかならぬものだと知っているのに。こんなにも自分は弱い人間であったのか。
己の非力さが無念でならなかった。

それでもようやく哀しい魂を鎮める事ができ、この地はひと時の安らぎを迎え、自分もまた、長い
事縛り付けられていた務めから解放されて、己が在るべき場所へと戻る事を許される。
明日になれば、日がまた昇れば、ここを発ち、都に向かう事ができる。
長旅に備えて少しでも身体を休めねばならぬのに、目が冴えて、心が騒いで眠れない。
それでも眠らねばならぬと無理矢理に目を閉じれば、目の裏に最後に見た美しく優しい笑顔が
浮かび、それはそのままかつて見た花の宴の姿に移り変わる。薄紅色の桜花。うららかな春の
日差し。舞い落ちる花びら。季節は冬に移りつつあるというのに、目に浮かぶ記憶に、柔らかな
春の陽を感じたような気さえした。
けれども、都にも東国にも、日はまた昇りそして没するけれども、冬が来ればまた春が巡り花
は再びほころぶのだろうけれども、春の日差しのようだったあの人は、没したまま、二度と昇る
事はないのだ。

落日・完
1000学生さんは名前がない:03/07/20 23:05 ID:Kxl/GTXt
1000ゲット準備中のヒカルたんをゲッツ

                    _
                      /  `ヽ、
                   /        ヽ
                   ¶       i
                       ||       ノ
                     ||      /
                   ||    ( 
                      ||    ヽ 
                    ||       \  ▼〃ヾ
                   ||       \(,,;゚Д゚)
_____________||_      ⊂    つ
              .∧_∧||  `・x、   (   ( 
              ( ´∀`||,    `・x、  \)\)
              (  つ@ノ       `・x、
              | | ||          `・x、
              (__)_||.            `・x、
                  
10011001
このスレッドは1000を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。