○おまえら男ならヒカルたんハァハァだよな?Part38●

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952朧月夜 ◆2DpdawnHik :03/04/17 23:35 ID:CkueXrsC
割り込み失礼>イブンさん。

「黎明」の後の話。
センチメンタル度↑高、ハァハァ度↓低。
953朧月夜 ◆2DpdawnHik :03/04/17 23:37 ID:CkueXrsC
既に日は落ち、朧な月が東の空にぼうっと浮んでいる。
ぬるい風が頬を撫でた。
その湿った匂いに、雨が降るのかもしれない、と思った。
雨が落ちてくる前に辿り着けるだろうか、と思いながら、夕闇が次第に色を濃くしていく中、彼は足を急がせた。

薄闇に浮かび上がる誰もいないはずの屋敷の中に、何かが動くのが見えた。
何かを探すようなその動きに彼は眉をひそませた。
見捨てられたはずの主のいないこの屋敷に誰が何の用で?
盗賊?それとも何か妖しが?

音を立てぬようにそっと足を進める。
確かに、人影が動いている。
明かりの漏れぬよう手に持っていた灯りを塞ぎ、すぐにでも封じ込みの印を結べるように両手を開けて
、足音を潜めて忍び寄る。何者かを確かめようとした時に、衣が足元の草にかかったのか、かさり、と
音を立ててしまった。
瞬時に振り向いた人影に向かって大声で呼ばわる。

「そこにいるのは誰だっ!?」
「おまえこそ!何者だ!?」

闇の中から抜き身の太刀が翻り、彼はそれに対抗しようと一歩下がり、印を結ぶために両手をかざす。
と、風が吹き渡ると同時に気紛れな月が姿をあらわし、互いの姿を浮き上がらせた。

「…近衛…?」
「…ア……賀茂…?」
954朧月夜 ◆2DpdawnHik :03/04/17 23:38 ID:CkueXrsC
雲がまた月を隠し、ぱたりと雨粒が落ちてきた。
「何を…」
二人の声が重なった。
呆気にとられたまま、アキラはヒカルに向かって突き出していた手をゆっくり下ろし、ヒカルはかまえて
いた太刀を鞘に収めた。
どちらからともなく笑いが漏れ始め、次いで笑いながら互いに近づき、再会を確かめるように軽く抱きあう。
それからパラパラと降りだした雨を避けるようにヒカルはアキラの肩を抱いて、屋敷の中へと促した。

「ああ、驚いた。」
「オレだって、びっくりしたぜ。」
「盗賊か、それとも何か妖しかと思ったよ。」
「オレだってさ。」
「他に人が来るなんて思わなかったから…」
アキラの言葉に、ヒカルははたと思いついた。
「もしかして、おまえ、ずっとここに来てくれていたのか?」
「…ああ。」
家というものは人が住まなくなるとあっという間に寂れ、朽ちていく。
けれど主を無くしたこの屋敷は、まだその静謐な佇まいを残したままだった。それは、誰かがずっと
ここを心にかけ手入れを欠かさなかったからだという事に、今まで気付かなかった。
ここを、ここの思い出を忘れてしまいたくて、そして己を取り戻してからも、主のいない屋敷を見るのが
怖くて、ここを訪れる事ができなかった。その間、ずっと、ヒカルがこの家を意識の内から追いやって
いる時でさえ、忘れずに心にかけていてくれた人がいるから、ヒカルは悲しさや寂しさよりも懐かしい
思いで、再び訪れたこの家を見ることができたのだ。
「…ありがとう。」
「礼を言われるような事ではない。僕がそうしたかったから、そうしたまでの事だ。」
彼は静かに微笑んで、そう言った。
955朧月夜 ◆2DpdawnHik :03/04/17 23:38 ID:CkueXrsC
「月が…綺麗だな。」
屋敷の縁側に腰を下ろし,ぱらつく雨をしのぎながら空を見上げてヒカルは言った。
「ああ、朧月夜だね。そういえば雨も降っているのに。」
パラパラと降っては止み、また落ちてくる、もう冷たくはない雨が地面を濡らす匂いに混じって、どこ
からか、甘い香りが漂ってきていた。
くん、と鼻を動かしたヒカルに、アキラが言った。
「藤かな。確か庭の向こうに見事な藤棚があったような気がするが…」
「そうか、もう咲いてるのか。早いな、今年は。」
「そうだね、もう随分と暖かいから。」
あれは冬だった。いつの間にか季節は巡り、あの時、ぴりぴりと冷たく肌を刺した空気は、今では温く
穏やかに彼らを包み込んでいる。
「……久しぶりだね。」
「ああ…そうだな。」
あれ以来、姿を見かけることはあっても、言葉を交わしたことはなかった。
日々の忙しさに紛れ、失くしてしまったものを、遅れてしまった自分を取り戻そうとする内に、いつの間
にか空気はこんなにも柔らかく暖かく軽やかなものへ変わっていた。
「また今度、僕の家にも顔を出してくれ。君さえ、嫌じゃなかったら。」
「…いいのか?」
「なぜ?」
思いもよらなかった事を聞いたようにヒカルを見返すアキラに、ヒカルは戸惑いながら応えた。
「だってオレ…あそこにはもう行っちゃいけないのかと、思ってた。」
「そんな事…」
戸惑いがアキラにも移ったかのように、彼が口篭らせながら言う。
「僕が…君に、君はここにとどまってはいけないと、言ったから?」
「…うん。」
「あれは…」
困ったような顔をして、アキラは俯いた。
「もう来るなという意味ではなかったんだが…」
「うん……そうだよな。言われてみりゃそうなんだけど…」
「僕は…君が来てくれれば嬉しい。よかったらまた遊びにでも来てくれ。」
「……うん。」
956朧月夜 ◆2DpdawnHik :03/04/17 23:39 ID:CkueXrsC
オレがいなくなって、寂しかった?
ちょっとだけ、そう聞いてみたかったけど、言わなかった。
きっと優しい彼の事だから、「寂しかったよ」という答えが返ってくるのはわかりきった事だったから。
いつからこんなに臆病な人間になってしまったのだろうか、とヒカルは思う。
この屋敷に足を踏み入れるのも、彼の屋敷を訪れるのも、なんだか怖くて、尻込みしている間に
こんなにも季節は巡ってしまった。
変わらぬ静かな彼の笑顔に、なぜだか小さく胸が痛むのを感じて、ヒカルは視線を彷徨わせた。
そうして目に入ったこの部屋の光景が、更にヒカルの胸を痛ませた。
すっきりと片付きすぎた部屋はそのまま、ここで生活するものがいない事を告げていて、余計に主
の不在を際立たせているようにさえ思わせた。

あの頃、幾度となく足を運んだこの屋敷のこの部屋も、あの頃はこんなに寂しい場所ではなかった。
きれいに片付けられていても、それでもそこに住まうひとの匂いが、気配が、いたる所に感じられて、
それが心地良くて、ヒカルはすっかりくつろいで部屋の中央に転がった。
「佐為の衣、いー匂いだなあ。」
香の焚き染められた衣をぎゅっと握り締め、床にゴロゴロと転がっていると、
「お行儀が悪いですよ、ヒカル。」
と、優しくたしなめられた。
佐為の衣に包まれていると、佐為に包まれているような気がした。
そうやってうっとりと佐為の薫りに浸っていたのに、いつまでもそうしていたかったのに、結局は佐為
にその衣を奪い取られてしまった。
「せっかく香を焚き染めたというのに、台無しじゃないですか。
ああもう、こんなにしわくちゃにしてしまって。」
そう言ってぷんぷん怒る佐為が可愛いなあ、と思った。
本気で怒っているわけでもないのも、嬉しかった。
957朧月夜 ◆2DpdawnHik :03/04/17 23:40 ID:CkueXrsC
けれどその人はもういない。その薫りはもはやここには残っていない。
今、この部屋の隅に置かれている几帳に、かつてかけられていた衣も、今はない。
胸が締め付けられるような思いで部屋を見回していたヒカルの視線が、吸い寄せられるように、
部屋の隅に置かれた碁盤の上で止まった。
ヒカルの視線を辿ったかのように、アキラが言う。
「打つかい?」
「…うん。」
涙声になりそうなのをこらえながら、ヒカルはうなづく。
「うん、打とう。」
ヒカルは腰を上げ、部屋の隅に置かれていた碁盤を月明かりに照らされる縁側へと運んだ。

「賀茂?」
長考に入っていたヒカルがふと顔を上げると、対局者の姿はそこには無かった。
先程話にした藤を見にいったのだろうか。そう思って、ヒカルも庭に降り立つ。
香りに誘われるように足を進めると、やはりそこに、彼が立っていた。
「おまえの番だよ。」
声をかけると、彼は静かに振り向いた。
柔らかな月明かりの下、薄紫の花の甘やかな香りが漂う春の宵闇を、乱さぬようゆっくりと振り
返る彼に、目を奪われた。
「…香りが濃くて、すぐ下にいると酔いそうだよ。」
アキラが頭上の花を見上げて言った。
「どんな手を返してきた?」
そう言って、仄かに明るい薄紫の花の下で微笑む白い面から、目を離せなくなってしまった。
「あ…」
何か言おうとして、けれど言葉が出てこずに口篭るヒカルに、アキラは小さく首を傾げながら、
ヒカルの横をすっと通り過ぎて、元いた場所へと足を運んだ。
慌ててヒカルも彼の後を追った。
958朧月夜 ◆2DpdawnHik :03/04/17 23:41 ID:CkueXrsC
盤面を見て、アキラが小さな唸り声を漏らす。数手を交わした後に、今度はアキラが長考に入った。
月明かりの元に盤面を睨むアキラを、ヒカルはじっと眺めていた。
ずっと考え込むように顎を支えていた手が、ふと唇を擦った。
何気ない仕草が目に止まってしまって、ヒカルは心臓が小さく跳ねるのを感じた。
あの唇の感触を、まだ、覚えている。
突然、最後の夜のことを思い出してしまって、ヒカルは顔を赤らめた。
そして彼に気付かれぬようにそっと立ち上がり、逃げるように庭に下りた。
なぜ。
なぜ急に。
激しく暴れだした心臓を制御できずに、ヒカルは庭の立ち木に額をついて息を整えようとした。
突如甦る記憶の渦に、心と身体が混乱する。
熱い身体。熱い吐息。熱い囁き声。
熱く甘く、想いの内を告げる声。
違う。
あれは夢だ。あの言葉は。
夢だ。俺の都合のいい夢。
だってそれは俺じゃない。俺のはずが無い。

つうっと頬を伝わり落ちるものを感じてヒカルは自分自身に驚いた。
なぜ。
何が悲しくて俺は。
959学生さんは名前がない:03/04/18 13:36 ID:1kfA0zBZ

          カタカタ
      ▼〃ヾ ホッシュ!、ト…
       (,,゚Д゚)    __
       / つつ_/__/
   \(___ノ,,┳━━┳
960学生さんは名前がない:03/04/18 22:35 ID:QOrIy2A5

│   
│   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ '|  _____    
│   |        |  |゚  バー  ゚|         
│   |        |  |。 ヤマネコ 。|   
│   |,o       |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄            
│   |        |        
│   |        |
│______,|______,|_ ____           
 ̄                   \              ナンカ サイキン アツイヨナァ…
_________________l ̄ ̄ ̄''l         〃ヾ▼  
__|____,|__|______| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄l       (゚Д゚ ;)
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"""'''           """'''~"""'''""'''"""'''"し'`J'""'''"""'''
961学生さんは名前がない:03/04/18 22:48 ID:QOrIy2A5

日 凸  ▽ ∇ U
≡≡≡≡≡≡≡  〃ヾ▼   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 U ∩ [] % 曰 (゚▽゚*) <  ビール ヒエテルカラナ!!
_________|つ∽)_  \_______

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 ̄ ┻  ̄ ̄ ̄┻ ̄ ̄ ̄ ̄
962朧月夜 ◆2DpdawnHik :03/04/18 22:56 ID:zwaUjjvl
その時、混乱と嘆きを宥めるように、そっと頬に触れるものがあってヒカルは顔を上げた。春風が
枝を揺らし、しなやかな枝先の緑の若葉がさやさやとそよぎながら、ヒカルの頬を撫でたのだった。
もうとうに花も散ってしまった樹を見上げてヒカルは思う。
どうしてもっと早くここに来なかったんだろう。
きっと一月前にここに来ていれば、この枝垂桜も満開だったろうに。
かつては人の声で賑わっていたこの屋敷の、住む人の目を喜ばせたこの花は、今年は誰にも
見られることなくひっそりと咲いて、散っていったのだろうか。誰からも忘れ去られて。
他所で桜を見た時に、やはりこの屋敷のこの樹を思い出した。けれど、花が咲いても主のいない
その風景を思い起こす事さえつらくて、足を運べなかった。もっと早くここに来ればよかった。
「近衛…」
急に後ろから声をかけられて、はっとして無防備に振り返る。
「…泣いていたの…?」
驚いたように言うアキラに、ヒカルはぶんぶんと頭を振った。
泣いてなんかいない。そう言いたかった。
それなのに止まったはずの涙が、また溢れ出してしまった。何が悲しいのかわからない。けれど、
なにかがとても悲しくて。
「一月前に、やはりここに来た時に、」
ヒカルは驚いて彼を振り返った。
「ちょうど満開で……とても綺麗だった。月明かりにぼうっと花が霞んでね、」
夢見るようにうっとりと、彼は呟いた。
「風に枝が揺れて、花びらがひらひらと舞い落ちて、」
その風景を思い出すように彼は目を細めた。
「杯に花びらが落ちて、」
963朧月夜 ◆2DpdawnHik :03/04/18 22:57 ID:zwaUjjvl
そしてヒカルを見て、慰めるように、言い聞かせるように、言う。
「…また春が巡ってくれば、きっと同じように花をつける。そうしたら今度は…」
今度は君とこの桜を見に来れるといいね。だって一人で見る桜はやはりどこか淋しいもの。
そう思いながらアキラはヒカルに微笑みかけ、そしてもう一度、樹を見上げた。
また春がくれば、桜はきっと咲くだろう。見る人がいても、いなくても。
例えば、人も踏み入らぬ深い山の奥の、誰もその存在さえ知らぬ老木でも、寿命のある限り、春が
くれば花をつけるだろう。誰も見ていなくても花は咲く。花は咲く意味など考えない。この世にこうして
在る事の意味も、在るべきか在らざるべきか、その事の是非も、花は問わない。意味も是非も、
そんなものは必要ないからだ。
ただ、そうするしかないから、花を咲かせ、若葉を芽吹かせ、夏になれば生い茂り、秋にはまた葉を
落とす。そうやって誰も何も知らなくても、季節は巡っていく。
目の前に揺れる枝を手に取り、彼は若葉にそっと口付けた。

――綺麗だなあ。
夢見るような眼差しで樹を見上げ、それからそっと枝を取り口元へと持っていった彼を見て、ヒカル
は気付かれないように息をついた。
さっき、藤棚の下にいたこいつを見たときにも思ったけど。
賀茂って綺麗なんだ。
気が付かなかった。
どうして今まで気が付かなかったんだろう。
「近衛?」
優しい声で己の名を呼ぶ彼を見て、ヒカルはざわざわと胸がざわめくのを感じた。
この静かな眼差しが、熱く自分を見つめた事があった。
すらりと伸びたしなやかな身体は、熱く激しく自分を抱きしめた事があった。
脅し、強請り、半ば強引に彼を奪った。
なぜそんな事ができたのか、今思うとそんな自分を恐ろしく思う。
それでも尚、彼は静謐な佇まいを欠片も失ってはいない。
そして今は、こんなにも間近にありながら、もはや彼は自分に指一本触れようとはしない。
964朧月夜 ◆2DpdawnHik :03/04/18 22:58 ID:zwaUjjvl
触れて欲しいのか、俺は。
あれだけ貪っておきながら、それでもまだ足らずに彼の熱が欲しいと思うのか。
一度でいい。そう言ったのは自分ではなかったか。
今、こうして自分を見ている静かな瞳は、けれど自分のものではなく、誰か、自分の知らないひとの
ためのもの。普段の彼からは想像もつかない熱く力強い腕は自分ではない他の誰かを抱きしめる
ためのもの。
だから一度でいい。それ以上は望まない。そう自分に言い聞かせた筈だったのに。
涙が滲んで、彼の姿が朧に霞んだ。
衝動的に彼の衣の袖を引き、彼の肩に頭を落とした。
頭上で彼が息を飲んだのがわかった。
彼の身体が強張るのを感じていながら、ヒカルは彼の袖をぎゅっと握り締めて離さなかった。
離したくなかった。
「佐為…」
呪文のように、逝ってしまった人の名を呼ぶ。
混乱する心を、揺れる心を静めて欲しいと、助けを求めるように大好きだったあの人の名を呼ぶ。
助けてよ、佐為。
俺は俺がどうしたいのかわからないんだ。
何が悲しいかもわからないのに、涙を止めたいのに、止められないんだ。
教えてくれよ、佐為。助けてくれよ。
俺は自分が何が欲しくて何がしたいのか、わからないんだ。
教えてくれよ、応えてくれよ。佐為。
なあ。応えてくれよ。
なあ。どうして何にも言ってくれないんだよ。
どうして逝っちゃったんだよ。
どうしてなんだよ、佐為。
965朧月夜 ◆2DpdawnHik :03/04/18 22:58 ID:zwaUjjvl
佐為。
優しかった佐為。綺麗だった佐為。大好きだった佐為。
おまえがいないから、俺はこんなに苦しい。
おまえさえいてくれれば、こんな思いで苦しむ事は無かった筈なんだ。
おまえがいれば、おまえさえいてくれれば、それで俺には充分だった筈なんだ。
おまえがいないから、おまえが俺の横で笑ってくれないから、だから俺は、目の前にいる優しい
こいつに縋ってしまいそうになる。
苦しくて苦しくて、己の内に立てた誓いを破ってしまいそうになる。
一度きりと誓ったはずなのに。
また、彼を求めてしまいそうだ。
俺のものではないこの眼差しを、この熱い身体を、もう一度求めてしまいそうだ。
佐為。
俺の佐為。
おまえがいないから。
おまえさえいてくれれば、それで充分だったはずなのに。
いつから俺はこんな弱くなってしまったんだ。一人で立っていることも出来ないほどに。
おまえがいないからいけないんだ。
おまえが俺を置いて一人で逝ってしまうから。

縋るように袖を握り締め、涙をこぼすヒカルの背を、彼の手が宥めるようにそっと撫でた。
そんなに優しくしないでくれ。
いっそ俺を叱り付けてくれ。子供のようにいつまでも泣いているなと叱り飛ばしてくれ。
優しくされればされるだけ、涙は止まらずにまた溢れ出てしまう。
顔を上げ、訴えかけるように彼の顔を覗きあげる。
見上げた先の黒い瞳が、自分の視線を受けて揺れ惑う。
その惑いが、なぜだかとても苦しかった。
966学生さんは名前がない:03/04/19 12:26 ID:xHvaosOv

   
   ▼〃ヾ    ガバッ! / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
___(;゚Д゚)___   < ホッシュしなきゃ…!
|  〃( つ つ   |    \______________
|\ ⌒⌒⌒⌒⌒⌒\
|  \^ ⌒   ⌒  \
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967日記 ◆8glbRKJZxQ :03/04/19 16:06 ID:oc9Y2ZI7
 ヒカルは、植え込みのブロックの上に腰を下ろし、人の流れをぼんやりと見ていた。
―――もしかしたら、緒方の車が通るかもしれない…アキラが偶然ここに来るかもしれない…
そんな淡い期待を抱いていた。
 『ばっかでぇ…来るわけねえのに………』
来てくれたとしても、ヒカルには何を話せばいいのかわからない。どうせ、隠れるか逃げること
しか出来ないのだ。
 ヒカルは立ち上がった。いつまでもここにいても仕方がない。帰らないと両親が心配するし、
また、怖い目にあうかもしれない……ズボンの汚れを払っていると、後ろから声をかけられた。
アキラでも緒方でもない。だけど、よく知っている人の声だった。
「…………伊角さん」
手を振って、自分の方へ駆けてくる相手を驚いて見つめた。
『……どうしよう…会いたくない…』
 ヒカルは、背中を向けて、走り出した。よたよた走るヒカルに伊角は、簡単に追いついた。
「待てよ。」
肩を掴まれ、くるりと反転させられた。
「どうして逃げるんだよ?」
「……別に…逃げてなんか…」
俯いてモゴモゴと口ごもる。そうだよ。逃げたいわけじゃない。でも………
 肩におかれたままの手が妙に気になる。きっと自分の気にしすぎだ。だが、先ほどのことも
あり、ヒカルは必要以上に伊角を警戒していた。
「病気だって聞いたぞ?こんなところをフラフラしていて大丈夫なのか?」
気遣わしげな声音に思わず顔を上げた。声同様に心配そうに自分を見つめる瞳がそこにあった。
「伊角さん……」
 ヒカルは伊角を慕っていた。頼りになるお兄さん。大好きだった。……………そして、
和谷のこともそう思っていた。
 けれど和谷は自分を裏切った――――――ヒカルは唇を噛みしめた。
「どうした?気分が悪いのか?熱があるんじゃないのか?」
伊角の手が、額に触れようとした。咄嗟にその手を払いのけた。
「何でもねェ…何でもねェよ……!」
身体を捩って、肩に置かれた手もはずした。そのまま、ヒカルは伊角から身体一つ分離れる。
968日記 ◆8glbRKJZxQ :03/04/19 16:07 ID:oc9Y2ZI7
 「………進藤…」
逆毛を立てて威嚇する子猫のように自分を睨み付けるヒカルに、伊角は払われた手の持って行き場を
失ってしまった。
「どうしたんだよ…お前…」
伊角が一歩近づくと、その分だけヒカルは後ずさった。
「何でもネエったら!」
ちょっとでも触れたら、噛み付いてやる!と、言わんばかりのその瞳には、警戒と不安と
怯えが
入り交じっている。
 進藤はおかしい―――――最初に見たときはあまりの変わりように愕然とした。人違いでは
ないかと何度も目を瞬かせて確認した。掴んだ肩のか細さや、やせた頬の青白さは伊角を
慌てさせた。そして、それは外見だけの変化だけではない。ヒカルの中の何か確実に変わっていた。
 無理矢理ヒカルの腕を取ると、身体がビクリと震えた。
「や…離してよ…」
「進藤…どうしたんだよ?」
 道行く人が自分たちに好奇の視線を向ける。カップルの痴話喧嘩と間違われているのか
ひやかしたり、ヤジを飛ばしたりする。
『冗談じゃない…コイツは男だぞ…コイツのどこを見れば女と間違えるんだ…』
そう思いながら、自分から逃れようと抵抗するヒカルの顔を見直した。
 少女めいた華奢な作りの目鼻立ちや、折れそうなくらい細い身体をマジマジと見てしまった。
『進藤って、こんなだったけ?』
確かに以前から可愛らしい顔をしていたが、もっと少年らしい明るさや元気さを持っていたはずだ。
こんな…胸を騒がすような…こんな……身体の奥がざわめくような…色気はなかった…
 そんな自分の胸中を読んだかのように、ヒカルの顔色がサッと変わった。伊角の手を
振り解こうとますます激しく暴れる。
「やだ!離して!離せよ!」
「進藤…」
伊角は困り果てた。今のヒカルは酷く興奮していて、自分が何を言っても聞きそうになかった。
969日記 ◆8glbRKJZxQ :03/04/19 16:08 ID:525mMQsT
 そのヒカルの抵抗が、突然、ピタリと止んだ。驚愕に見開かれた瞳が、自分の後ろを
凝視している。
 伊角は後ろを振り返った。今日、自分が会う予定の人物が呆然と立っていた。
「和谷…ちょうどよかった…ちょっと来てくれ…進藤が…」
そこまで言ったとき、ヒカルの身体から、カクンと力が抜けた。ズルズルとその場にへたり込むと
身体を縮めて震え始めた。
「進藤?」
驚いて手を離した。ヒカルは両手で頭を庇うように蹲っている。
「やだ…やめて…お願い…」
その身体に触れようとすると、ヒカルは小さく悲鳴を上げた。
「や…殴らないで…助けて…助けて…」
震えながら何度も懇願する。伊角は、ヒカルの側にしゃがんだ。
「殴らないよ…大丈夫だ…誰もそんなことしないだろ?どうしたんだよ…?」
伊角の問いに答えず、ヒカルはただ、「助けて」と「許して」を繰り返し続けた。
 ヒカルをこのまま放っておく訳にはいかない。何とか連れて帰らなければ……。ヒカルの
腕を取って立たせようとすると、激しく首を振ってますます身を縮めた。
970日記 ◆8glbRKJZxQ :03/04/19 16:09 ID:525mMQsT
 「和谷…!何してんだよ…早く来いよ…!」
黙って立ったまま動こうとしない和谷に、イライラと言い放った。和谷は苦しげに顔を歪めて、
ただ突っ立っているだけだ。
「和谷!」
伊角の怒鳴り声に、ヒカルはビクリと身体を揺らした。
「………怖い!」
身体を竦ませるヒカルを慌てて宥めた。
「すまない…お前に言ったんじゃないんだ…」
伊角はヒカルを怖がらせないように、目で和谷を促した。だが、和谷は伊角を見てはいなかった。
彼の視線はヒカルに釘付けだった。そして、ヒカル自身は和谷の視線を避けるように蹲っている。
 和谷は小さく呻くと、二人に背を向け逃げるように走り去ってしまった。
「え?」
突然の和谷の行動に、伊角は間の抜けた声を上げた。そして、後ろ姿が完全に見えなくなるまで、
ボケッと見送ってしまった。
『…………………ちょっと待て…こんな状態の進藤を見捨てる気か?』
どういうつもりだ…!腹が立った。通行人は相変わらず、じろじろと遠慮のない視線を
浴びせかけてくる。
 だが、恥ずかしいなどと言ってはいられない。まずは、ヒカルを落ち着かせなければならない。
伊角は、辛抱強くヒカルを宥め続けた。ゆっくりと優しく慰める。
「大丈夫だ。誰もお前に何もしないから…泣かなくていいから…」
躊躇いながらも、ヒカルの髪に触れた。ヒカルは、一瞬、身を竦ませたものの先程のように
振り払ったりはしなかった。
「帰ろうな?」
ヒカルは一度だけ小さく頷いた。
971交際 ◆8glbRKJZxQ :03/04/19 16:10 ID:525mMQsT
あれ?間違えてないはずなのに、トリップが違う!?
なんでだ?
972山崎渉:03/04/19 23:50 ID:v4MjopMp
   ∧_∧
  (  ^^ )< ぬるぽ(^^)
973山崎渉:03/04/20 02:03 ID:xSHVt4dF
   ∧_∧
  (  ^^ )< ぬるぽ(^^)
974山崎渉:03/04/20 05:56 ID:ZB9XdVdQ
(^^)
975日記 ◆8glbRKJZxQ :03/04/20 15:46 ID:/vhICh0q
 まだ、宵の口だったおかげか、すぐにタクシーを捕まえることができた。後部座席に
ヒカルを抱きかかえるようにして乗せ、自分も後に続いた。住所はうろ覚えだが、場所は知っている。
 ヒカルは、今は、伊角に身体を預けてぼんやりと空を見ている。肩の辺りにヒカルの
体温を感じて何故だか胸の鼓動が早くなった。
「伊角さん……」
ぼうっとしていたはずのヒカルに、突然話しかけられてびっくりした。
「……!な…どうした?」
声が上擦る。
「ゴメン…迷惑かけて…」
「いや…そんなこと…」
迷惑だなんて思ってはいない。むしろ嬉しかった。今、ヒカルを守れるものは、自分以外に
いないと感じたとき、不思議と胸が昂揚した。
「………お母さんたちにこのこと言わないで…」
これには同意しかねた。ヒカルの様子は明らかにおかしかった。たぶん、家の人も気が付いて
心配しているはずだ。ヒカルの頼みなら何でも聞いてやりたいが、これは……。
「お願い…」
涙の滲んだ大きな瞳で見つめられ、伊角は両手を上げて降参した。
976日記 ◆8glbRKJZxQ :03/04/20 15:46 ID:/vhICh0q
――――パチ
 一人碁盤に向かう。手は淀みなく石を並べていくが、心はそぞろだった。様々な想いが胸に
去来した。
 本当に、ヒカルをあのまま置いてきてしまって、よかったのだろうか―――――アキラは後悔していた。
いくらヒカルが望んだからといって、本当に帰ってよかったのか……子供のように身体を
縮めて震えているヒカルの姿が脳裏に浮かんだ。
「どうして…進藤…」
 自分が求めているようにヒカルもアキラを求めている。それは間違いない。だけど、
ヒカルは何かに傷ついていて、その何かのためにアキラを拒んでいるのだ。
「緒方さんは、教えてくれないだろうし……。」
やはり、ヒカルの友人に訊いてみた方が良いのだろうか?
 最初に和谷の顔が浮かんだ。ヒカルの院生時代からの友人で、一番仲の良い……そして…
いつも挑むような目で自分を睨み付けてくる。
 溜息が出た。彼に訊くのは躊躇われた。他に誰か………あの人はどうだろうか?いつか、
ファミレスで会った人。確か…伊角…さん…とか言ったっけ………。ヒカルがとても懐いていた。
優しそうな人だった。
 伊角に相談するのは、とてもよい考えに思えた。彼もヒカルを可愛がっているふうだったから、
きっと手を貸してくれる。アキラとヒカルのじゃれあいをあきれながらも笑って見ていた。


――――――あれから何日たったっけ……。ずっと前のような気もするし、ついこの間のような気もする。
嬉しそうにポテトを頬張っていたヒカル。快活な笑い声が耳にずっと残っている。
「あの時はまだ、進藤はいつも通りの進藤で……」
明るい笑顔、無邪気な仕草。眩しい夏の陽射しそのままのヒカル。
「ボクに、風鈴をくれた……」
 窓の方に視線を向けると、あの時と変わらず愛嬌のある金魚が揺れていた。あの日以来、
ヒカルの肌には触れていない。一人で眠る夜は、胸の奥が苦しくて、何度もヒカルの夢を見た。
彼の洗濯したてシーツのような肌触りが恋しい…お日様の匂いのする柔らかい髪に顔を
埋めて眠りたい……切実に思った。
977日記 ◆8glbRKJZxQ :03/04/20 15:47 ID:/vhICh0q
 「いらっしゃいませ。」
伊角が店にはいると、メニューを脇に抱えた店員がすぐにやってきた。
「あ、待ち合わせなんです。」
そう言って、店の中を見渡した。目当ての人物はすぐに見つかった。
 耳のすぐ下で切りそろえられた艶やかな黒髪。端正な横顔。そして、何より印象的な切れ長の瞳。
 伊角は真っ直ぐそこへ向かった。考え事をしていたのか、アキラは、伊角が声をかけるまで
気が付かなかった。
「塔矢君…」
アキラは、ハッと目を上げて、それから慌てて頭を下げた。
「すみません…突然…」
「いや…」

 昨日ヒカルを家に送り届けて、すぐに自分も自宅へ戻った。タクシーの中から和谷の
携帯に連絡を入れたが、彼から返事はなかった。確かに和谷を無理に外に連れ出そうとしたのは自分だ。
彼は最近元気がなく、家に閉じこもりがちになっていた。伊角の強引な誘いを受けたもののあまり気乗りしない様子だった。途中で気が変わってしまったのかもしれない。
 伊角は和谷の態度を訝しく思いながらも、本当のところはヒカルの方が気になっていた。
頬に触れた柔らかい髪の感触や、あえかな息づかいがまだ耳に残っている。ヒカルのことを
考えるだけで、胸の奥に甘酸っぱいものがこみ上げた。
『どうしたんだよ!?いくら可愛くても…アイツは男だぞ…?』
見たことのない頼りなげな表情や、細い肩が伊角の庇護欲を駆り立てた。自分の心に突然芽生えた
感情は、伊角を戸惑わせた。いくら頭の中からヒカルの姿を追い出そうとしても、そのたび
鮮やかに蘇る。運転手が到着を告げたことにさえ暫く気が付かなかった。それほど、頭の中は
ヒカルのことでいっぱいだった。自分が信じられない。溜息を吐きつつ、家路を歩いた。
 「ただいま」
「あ、お待ちください。今、戻りましたので…」
伊角が部屋にはいると同時に、電話を受けていた母親がこちらの方を見ながら受話器の向こうに
答えていた。
978朧月夜 ◆2DpdawnHik :03/04/20 20:53 ID:f+3JUTjt
宮中で何度か彼の姿を見かけた。
辛い事は無いかと、聞いてやりたかったが、何も言わなかった。
無い筈が無い。
表立った理由もなく職を離れた彼が、また前のように戻ってきたとしても同じように迎える者は少な
かろう。むしろ大きな咎めもなく帰ってきた事を不審に思う者のほうが多かろう。かつて囁かれた噂
を元に彼を中傷し、また、厭う者もいるだろう。かつて君に暖かかったその場所も、今では針の筵に
近かろう。
けれどそれはもはや自分が関与すべき事ではない。
そして、それに負けるような彼ではないと、信じていた。
信じていたからこそ、彼をまた、元いた場所へと送り出した。
損なってしまった信頼は自分で取り戻していくしかないのだ。彼にはそれができる力があると、信じ
ている。だから、後姿を見送るだけで声はかけなかった。

桜の木に縋って泣いている君を見た時、僕は君に、君は彼を思い出して泣いているのかと、問いた
かった。けれど、そうだ、という応えが返ってくるのが怖くて、口に出せなかった。
手を伸ばせば届く筈の、こんな近くにいる君が、とてつもなく遠く思えて何も言う事ができなかった。
一月前に見たこの樹の、咲き誇る花々のように、華やかで艶やかだった、逝ってしまったあの人を
思い出す。
美しい人だった。優しい人だった。けれどただ一点、たった一つの事に関してだけ、とても厳しい人
だった。きっとその為ならば鬼にもなれる人だったのだろうと思う。だからそのたった一つの情熱を
汚されて、奪われて、彼はこの現し世に自ら背を向けた。
きっと、人が知るよりも遥かに、厳しく、激しく、怖ろしい人だったのかもしれない。
そうして、桜の精のように美しかったあの人が、やはり桜の花のように儚く潔く散ってしまった事を
思い、僕はその符号に一筋の戦慄を感じた。
979朧月夜 ◆2DpdawnHik :03/04/20 20:54 ID:f+3JUTjt
どうかこんなふうに僕を試さないでくれ。
布越しに肩から伝わる君に、僕の肩を熱く濡らす君の涙に、喜びか悲しみかもわからない情動に
震える僕を気付かれたくない。
思いのままに君を抱きしめ、あの時のように君を貪りつくしてしまいたい衝動に負けそうになる僕を、
宥めるように彼の枝がそっと僕の頬を撫で、胸がつぶれそうな想いで、僕はその樹を見上げた。
萌黄色の若葉をつけた枝は、春の風に優しくそよいでいた。
「佐為、」と、彼の名を呼ぶのが君の声に、僕の心は引き裂けそうに悲鳴を上げる。泣き出しそうに
なるのをこらえながら、君の背をそっと撫でた。壊れるほどに強く強く君を抱きしめたい気持ちを
必死で堪えて、今だけは優しかったあの人の代わりに君を慰めてやれるように。

こんなふうにいつも、いつも僕は思い知らされる。君の心を永遠に捕らえて放さないあの人の存在
を、その大きさを、その不在を、いつもいつも、思い知らされる。
例え君がここにいても、僕の腕の中にいたとしても、君の心はここから遠く離れて中空を彷徨い、
優しく美しかったあの人のみを求め続ける。
いっそあの人を憎めたらよかったのに。
君を置いて、一人で行ってしまった勝手な奴などさっさと忘れてしまえと、今ここにいる僕を見ろと、
どうして僕は言う事ができないのだろう。
今ここにいるのは僕だ。
今君を抱いているのは僕だ。彼じゃない。
彼はもういない。もうどこにもいない。
だから今ここにいる僕を見てくれと、彼の代わりでもいいから、それでも構わないから、せめて僕
を見て僕の名を呼んでくれと、どうして僕は言う事ができない?
そんな目で僕を見るな。
僕に縋って彼の名を呼び、彼を想って泣く君に、僕が一体なにをできる?
980学生さんは名前がない:03/04/21 12:41 ID:TIxn34Mh

              __________
             /  .〃ヾ▼      )     マターリ ホッシュ
            / ( ̄ (´ー`*) ̄0  /
         /~ ̄ ̄ ̄⌒⌒⌒⌒ ̄ ̄)
          / ※※※※※※※※ /
        / ※※※※※※※※ /  
     / ※※※※※※※※  /
    (___________ノ
981学生さんは名前がない:03/04/21 22:08 ID:hWwDbhic
                             〃ヾ▼
              ホシュ    (゚▽゚*)
                           |  U   テケテケ
                           |  |〜 ))) 
                           U゛ヽ)
982学生さんは名前がない:03/04/22 10:06 ID:yz04LuvW
>981 コエエヨ!!
>>950-951

ヒカルが、自分が瞳が捕らえたものに惑い、わずかに動きを止めたその隙に、
盗賊らしき男は再び袋を背負い直し、先をゆく仲間の後を追う。
「古瀬村、送れるなよ」
闇夜を忍び奔る足音に、ヒカル達の足音が加わる。
(なんで、ここに青紅葉が……)
まさか、今夜ヒカルが目を離しているこの隙に、盗みに入られたとでも
いうのだろうか。
あの屋敷が、盗賊達に荒らされたというのだろうか?
ヒカルの装束は、今日は狩衣ではない。走り易く足元をたくしあげた水干だ。
ここまで盗賊たちがどれほど追われ続けてきたのかは、足音からは推し量り
ようがない。が、それでも検非違使たちが、今夜は本気で自分達を捕らえようと
していること、そしてその作戦にも、彼らは気付いたのであろう。
先を走る一団が、二手に別れる気配がした。
大袋を背負った影は左に。鈴の音は右に。
「おまえ右行け! びびるなよ」
相棒の顔の判別もつきかねる程の夜闇の中、ヒカルは古瀬村がいるあたりに
小さく叫ぶと、自分は迷わず大袋を背負う影の方を追った。
足音が、あばら屋の裏側に小路に駆け込むのを、耳が捕らえる。
追って、ヒカルも飛び込むと、暗闇から延びて出た何かに足を掬われた。
らしくもなく、無様に地に倒れ伏したヒカルだったが、すばやく身を仰向け、
太刀を抜いて、自分の喉元めがけて降り下ろされた小刀を受け止める。
その刃を跳ね返し、慌てて立ち上がったヒカルの腰は、だが、次には、暗闇から
延びた何者かの腕にからめとられた。
今さらながら、しまった、と思った。
荒事の際には、必ずふたり一組で行動するように、あんなに加賀に言われていた
のに。
後頭部に激痛が走る。
目の前で火花が散って、ヒカルの意識は、奈落の底に落ちた。


内蔵を掻き回される異様な感覚に、正気が戻った。
泥臭い臭気が、どっと意識のうちに流れ込む。
盗賊の、固く反り返ったものが、すでにヒカルの奥深くまで埋め込まれていて、
その腰がヒカルの尻に打ち付けられる度に、喉の奥に吐き気のようなものが込み
上げてくる。
……この二年、佐為しか迎えたことのなかった場所を、こんなやつに。
……盗賊なんかに。
奥歯を噛みしめると、殴られた後頭部が鋭く痛んだ。
ヒカルは、己の置かれた状況を確認するため、ゆっくりと、薄く目を開ける。
闇の色だけが目の前に広がってる。
ここは何処なのか。
股間を行き来する、固い他人の陰毛の感触。
砂利にこすられる背中が痛い。
「おう、目が覚めたらしいぞ」
「検非違使様に、もうワレが、儂らの肉奴隷なのだと教えてやれ」
腰が持ち上がるほど、大きく突き上げられた。
肩に押されて動いた砂利の音とともに、ヒカルの口から、細い悲鳴があがる。
段々と闇に目が慣れてくると、自分を覗き込む、複数の男達の姿がわかった。
その向こうに屋根のように黒々と、視界を遮るもの。
水の匂いと、せせらぎの音。
たぶん、ここはどこかの橋の下だ。
「おめぇが、最初、こいつを連れて行こうと言いだしたときは、気でもふれたか
 と思ったが」
「まさか、検非違使様にこういう使い道があるとはなぁ」
「へっへっへっ……」
もう一人の男の毛深い手が、大きく開かされているヒカルの股の間に無遠慮に
差し込まれ、ヒカルが熱棒で突き刺されている部分の周囲を、指で嬲った。
ヒカルは眉をしかめ、足を閉じようとしたが、その動きは、中でヒカルの媚肉を
貪る男に、新たな快感を与えただけだった。

実際、盗賊達は逃げるので精一杯だったのだ。
男はこの若い検非違使を殺してしまうつもりで、刀を振り上げた。
だが、その男の目に映ったのは、倒れ伏した検非違使の闇夜に浮かぶ
濡れたように白いうなじ。
たったそれだけで、下半身が焼けるように熱く反応した。
仲間が降り下ろす小刀を受け止める、その太刀を抜く仕草さえが、妙に
色めかしい。
実は男装の女なのではないかと疑って、咄嗟に、立ち上がった若者の
その背後から、腰に腕をまわして引き寄せた。肉付きは薄いが、女の柔らかさは
ない。自分の腰にあたる尻の感触もまた、女のむっちりとしたものとは違うよう
に思われた。
男は、検非違使にもがく隙もあたえず、その頭にだまって、刀の柄を降り下ろ
した。
ものも言わずに、腕の中の体がくずれ落ちる。
ぞの場にいた三人の盗賊は、闇の中に力なく横たわったその若い検非違使の
体を、しばらくじっと立ち尽くして見つめていた。
三人は、今になって検非違使を手にかける恐ろしさを思い出していた。検非違使を
手にかけたとなれば、ただの強盗以上に罪は重い。
盗賊達は、あわてて若い検非違使の呼吸があることを確かめると、そのままそこ
から逃げ出そうとした。が。男は、その体を荷物のように担ぎ上げた。
他の盗賊がそれを止めたが、彼は黙って走り出した。
向かうは、仲間達と落ち合う約束のある橋のたもと。
闇の中にも黒々とよこたわるその流れの淵に、彼らは逃げ込むと、他の盗んだ
品々とともに、検非違使の体を地面に投げ出した。
ここまで担いできたその男が、検非違使の小袖の袷を開いて、あらわにした。
彼は、いまだにこの若者が男であることを疑っていたのだ。
ガサガサの松の木肌にも似た固い皮膚を持つ手が、獲物の胸をまさぐって、
そこに膨らみがないことを確かめた。
だが、その時にはもはや、男の中で荒れ狂う獣欲に、相手が男だとか、女だとか、
そういうことは関係がなくなっていた。
男を惑わしたのは、いったいなんだったのか――?
橋の下の暗がりで、小刀の刃が、水面のわずかな光りを反射して青白く光った。
音もなく検非違使の下袴が切り裂かれて、そのなめらかな手触りの若々しい肌が
あらわになった。
その光景に、端で見ていた二人の盗賊も、無自覚に喉をならして、唾を飲み込んで
いた。
男が、二本の白い足を押し広げ、その間に腰を入れる。
やがて、川のせせらぎの音に混じって聞こえ出す、不規則な男の激しい息遣い。
ジャリッ、ジャリッ……
男の腰遣いの激しさゆえに、検非違使の背中が河原の小石に擦られる音が、
わずかな虫の音に混ざって響く。
ただ女を犯すのとは違う、異様な興奮が盗賊達を支配しつつあった。
常に自分達を脅かす存在である検非違使を姦するのだ、盗賊である自分達が組み
敷いて犯しているのだというその事が、なんとも残酷な加虐欲を、彼らの中に
芽生えさせていた。
「そうだよな。女なら、お頭のお手付きになる前に俺達が手を出したら、えらい
 ことになるが、男なら問題あるまいよ」
「おい、つ、次は、お、俺にまわせ」
橋の下で、盗賊達がひそひそと言葉をかわす。
男の荒々しい息遣いに、野犬が唸るような低い呻き声が折り込まれる。
そして、その呻き声の感覚がいっそう短くなり、
「…うっ……ぐ」
ガマが押しつぶされたような快楽の声が上がって、男が暗がりの中でゆっくりと
立ち上がった。
その股間のものは、獲物の内蔵を貪って満足したのか、今はもう名残の液を
尖端からしたたらせたまま、ぐったりとうなだれている。
「お、俺も……」
着物の上からも骨の形がわかるほどに痩せこけて、背ばかり高い男がかがんで、
気を失ったままの若い検非違使の腰をつかんだ。
尖って、すでに白い涎をタラタラと滴らせている充血した陽根を自らの手で、
その欲望の穴の淵にさそう。
そのすぼまりは、すっかり柔らかくほぐされ、二度目の情交を待ち望んでいる
ように思えた。
痩せこけた男の、汁を含んで張りつめたそれが、検非違使の体の中に押し込まれる。
中に溜まっていたまだ生温かい樹液が、押しだされて検非違使の尻の肌の上に
幾筋かの白く細い流れを作った。
今度は河原に、荒々しい吐息と混じって、グチャリグチャリと湿った音が響く。
「こ、こいつ……。顔も、きれいな顔、してるぜよ」
男根を間断なく抜き差しさせながら、組み敷いた体にのし掛かり、体全体を
こすりつけるようにしていた痩せ男が、息を吐きながらつぶやく。
のぞきこんだ検非違使の、体つきから想像するより、ずいぶんと幼さのある顔立ち
に更に情欲をかき乱される。
その時、闇のとばりの中、砂利の上に放りなげられていた検非違使の若者の
指先が、ピクリと動いた。
ゆっくりと、まぶたが上がるのに盗賊達は気がついた。
「おう、目が覚めたらしいぞ」
「検非違使様に、もうワレが、儂らの肉奴隷なのだと教えてやれ」
その場を、常ではない高揚感が包んでいた。
見物している仲間の激に痩せ男が煽られて、検非違使の背中が浮くほど強く、
その体の奥まで串刺しにした。
988日記 ◆8glbRKJZxQ :03/04/22 23:00 ID:G/m3umXj
 アキラから連絡を貰ったとき、すぐにヒカルの件だと勘が働いた。もし、変わり果てたヒカルを
見ていなければ、間違い電話ではないかと思ったことだろうが………。そして、それは正しかった。
 アキラは、伊角が前の席に座ると、すぐに用件を切り出した。言葉を選びながら、慎重に
事情を話した。
「………ボクには何があったのかわかりません…最後にあったときはいつもの進藤でした…」
「電話で話したときだって、変わった様子はなにも……むしろ、携帯を買ったってはしゃいでたくらいで……」
アキラはそこでいったん言葉を切って、テーブルの上に置かれた自分の手に視線を落とした。
何かを堪えるように唇を噛みしめている。
「でも、どうしてオレに?進藤のことは君の方がよく知っているんじゃあ…」
あの“塔矢アキラ”を相手に物怖じしないヒカル。ズケズケと遠慮のない物言いに、呆れるのを
通り越していっそ感嘆するほどだ。そして、アキラは、それが当然であるかのように許している。
「進藤は、ボクに会うのを嫌がっているんです………」
アキラは忙しなく指を動かした。自分の置かれた状況に戸惑い、苛立っている。
 気持ちはわかる。あんなヒカルを見たら誰だって、じっとしてはいられない。助けて支えて、
ヒカルが怯えているすべての物をその瞳に映らないように覆い隠してやりたい……とは、
いうものの自分もその理由を知っているわけではない。
「でも…オレも事情は知らな……」
そこまで言いかけたとき、何かが頭の隅に引っかかった。何か重要な事を忘れている気がする―――――
 そう言えば、あのときヒカルは何に怯えていたのだろう?確かにその前から少し様子が
おかしかったが、それでもあのときまでは、ヒカルはまだしっかりと自分の意識を保っていた。
それが突然、ヒカルの身体から力が抜けて、すべてのものから自分を隠そうとするかのように
小さく蹲って震えていた。ヒカルは何を見たんだろう…………伊角は慎重に記憶を辿っていった。
989日記 ◆8glbRKJZxQ :03/04/22 23:01 ID:G/m3umXj
 どうしても思い出さなければいけない。ヒカルを見つけたとき…ヒカルを捕まえたとき…それから………
―――――まさか……和谷?
そんなはずがない。伊角は小さく頭を振った。どうしてヒカルが和谷を怖がる必要があるのだ。
和谷は一見粗雑だが、親切だし、面倒見も良い。ヒカルのことも弟みたいに可愛がっていたし、
ヒカルだって慕っていた。
 だが、一旦抱いた疑念はそう簡単に忘れられない。
「伊角さん?」
訝しげなアキラの声に、ハッと我に返った。
「どうかしたんですか?」
「塔矢君……悪いんだけど…もう少し…もう少しだけ…待ってくれないか…オレが調べるから……」
「―――!?何かご存じなんですか?教えてください!」
アキラは弾かれるように立ち上がった。椅子が、ガタンと大きな音をたてた。周りの視線が
一斉に自分たちに集中したが、それを無視して伊角に食ってかかった。
「お願いです!今、すぐ知りたいんです!」
その真剣な瞳に圧倒されそうになりながらも、伊角はぐっと見つめ返した。
「今は言えない――」
動揺を悟られないように声を抑える。
「すまない…」
伊角はアキラに向かって小さく頭を下げた。そして、伝票を片手に席を立つと、彼を
その場に残して、さっさと店を出て行った。
店の外では八月の強い陽射しが、伊角を射した。それを遮るように手を翳し、僅かに眉をしかめた。
「さて…と………」
行き先は決まっている。そのまま真っ直ぐ和谷のところへ向かった。
990学生さんは名前がない:03/04/22 23:03 ID:G/m3umXj
 アキラは大きく息をつき、倒れ込むように椅子に腰をかけた。
「伊角さんもダメか……」
彼も何かを知っているらしい。それなのに、アキラにそれを教えてはくれなかった。
『いや……彼は少し待てと言っただけだ……』
何もわからず右往左往するだけだった昨日までよりも、ずっと進展したはずだ。
 アキラは、緒方の所で会ったヒカルの姿を思い返した。手合いの日より多少はマシだったとはいえ、
あまりに儚げなヒカルの姿はアキラの不安を誘う。
『早く、いつものキミに戻って欲しい……』
ヒカルの笑顔を取り戻したい。まだ、変声期前のような少し高めの澄んだ声。舌っ足らずな
話し方。あの闊達な笑い声が聞きたい。

 すっかり冷めてしまったコーヒーを一口飲んだ。少し渋いその味に顔を顰めた。
『塔矢、オレのはミルクたっぷりにして!』
どこからかヒカルの声が聞こえてきそうだ。
 ふと、夏の初めに二人で交わした会話を思い出した。
「オレ、苦いの嫌いなんだよ…」
ヒカルはそう言って、景気よくミルクを注いだ。
「あーあ…すっかり白くなっちゃったな…」
自分の腕を眺めながら、ヒカルが溜息を吐いた。
「前はこれくらい焼けてたのにな?」
自分のカップの中身をアキラに見せた。
「進藤、地色は白いんだね…」
それは知っていた。シャツに隠された部分がどれほど白いかアキラはよく知っている。
991日記 ◆8glbRKJZxQ :03/04/22 23:03 ID:G/m3umXj
上とつなげてください。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 ヒカルは頷いた。
「前はさー夏休みは毎日泳ぎに行ってたんだよ。それこそ、お前が飲んでるコーヒーみたいな
 色になるまでさ…」
「それが、今は朝から晩まで碁のことばっか…」
「イヤなのかい?」
深い意味はなかった。話の流れから聞いてみただけだったのだが、アキラがそれを口にした瞬間、
ものすごい勢いでヒカルは否定した。
「まっさか!イヤなわけねぇじゃん!」
「嬉しいんだ…毎日、それだけを考えていられるのが…」
夢でも見るようにうっとりと呟くその横顔に暫し見とれた。そんなアキラの視線に気が付いたのか
ヒカルはアキラに額がつくほど顔を近づけ、「でもな」と一言、悪戯っぽく笑った。
「でも…ときどき…ほんのちょっと…ホントにちょこっとだけ、遊びてぇって思うけどな?」
唇に人差し指をあてて、「塔矢先生や森下先生にはナイショな」とウインクした。その仕草が
あまりに可愛かったので、ヒカルに抱きついてキスをした。

「進藤が元気になったら…そうしたら…」
海に行こう。夏が終わる前に一緒に出かけよう。いつか…じゃなくてすぐにでも…。
>>983-987


「放せ……、放せよっっ!」
人気のない河原に、ヒカルの声が虚しく響いた。答えるのは、草陰の
虫の音だけだ。
暴れる上体を、ヒカルの腕の二倍も太いような盗賊の腕が捕らえて、
砂利の上に押さえつけた。
「…う………っ」
「検非違使様は、まだ御自分の立場が、わかっていらっしゃらないようだ。
 教えてやれ、教えてやれ」
ヒカルの挟門に突き刺さったそれが今度は左右に大きく動かされる。
痛みより先に、痺れるような甘さがヒカルの背筋の上を走って溶けた。
まずい、と、思った。体の奥でよどんで溜まっていた、自分の一番暗くて
醜い部分を鷲掴みにされた気がした。
おそらく自分はこの責め苦に耐えられない。
ただでさえ、あの方違えの夜に、伊角に半端な昂ぶりのままに放りだされた
体は、ちょっとした刺激にも簡単に高められてしまう状態だ。
このままではきっと、自分は、浅ましく乱れて、下衆共の目にとんでもない
狂態をさらしてしまう。
暗闇に目をこらしても、見えるのは獣じみた盗賊の顔の輪郭と、空を覆う橋の影。
耳をすましても、聞こえるのは静かな川の流音と、僅かばかりの虫の声。草の
葉が風に擦れる音
助けなど、こようはずもない。
ヒカルは、肉の交わりの快楽に どこまでも弱い自分の体を呪った。
男が呻吟の声を上げながら、乱暴に中を何度も摺り上げる。ただ闇雲に出し入れ
しているだけのこんな動きにも、熱くなりつつある自分の体がいっそ疎ましい。
唇を噛みしめ、盗賊が早く終わってくれることを願いながら、欲情に自分の体が
蝕まれていくその音を聞く。
心には反吐がでるような嫌悪感しかないのに、体はその快楽を受け入れて、更なる
熱を求めている。
そんな自分に何より虫酸が走った。
盗賊が、より強いつながりを求めてヒカルの腰を抱え直し、その拍子にヒカルの口
から、鼻にぬけたような高い喘ぎが洩れた。
「なんだ、こ、こいつ、感じてるぜよ」
盗賊達の忍び笑いが聞こえる。悔しくて再度の抵抗を試みたが、今度は腕だけで
なく、肩まで盗賊がその膝をつかって地におさえつけ、がっちりと動けないように
されてしまった。
その体勢のせいで、その男の股間がすぐ頭の上に来た。その股間に隆々と自己を
主張する一物に、こいつもするんだろうか、と、ヒカルは暗く考える。
ほんの僅かでいい。反撃の機会がありさえすれば……。
ヒカルの中を苛む痩せた男の尖ったものが、いよいよ激しく細かく抜き差しを
始めた。
腹の底から熱い塊のようなものが込み上げてきて、それは喉で嬌声に変わり、
噛みしめた唇の間から虚しく漏れでた。
「ん,…っ、…ん」
自分の下肢が、益々火照って、その先の快楽を欲している。頂点を求めて
震えている。
(あぁ……、やだ、イキたくない)
しかし、ヒカルの思い通りにならない淫靡な体は、この悦楽を逃がすまいと、
中にはまっている男の根をよりしっかりと銜え込む。
「こいつ、男に、だ、抱かれなれてやがる」
「んっ、あ、ああっう!」
男が喜んだように猛々しく腰を強く引いてから、勢いをつけ、最奥に尖端を
押し込む。その動きに、しっかりと閉じていたはずのヒカルの唇が開き、
感極まったような喘ぎが、河原に高く響いた。
それに調子づいた男はいよいよ激しく中を攻めたてて、抱え込んだ若い体を
頂点の間際へと追いつめる。
「ぁ、や、ぁ、ぁ」
と、その時、はるか闇の向こうから、何かが激しく水を蹴立てる音が聞こえて
きた。
下流の方より、何かが迫り来る気配に、盗賊達がいっせいに動きをとめ、
ある者は伸び上がるようにして、暗闇の向こう側を凝視する。
松明の火が見えた。二つ。
照らし出された盗賊達が、眩しさに目を細める。
鋭い威圧の声がした。
「観念せよ、盗賊ども。松虫はすでに我らの手に捕らえられたわ。貴様らも
 頭目同様、大人しく我らが縄につながれよ!」
他所に配されていた検非違使達だ。一番の大物を見事捕縛し、さらにその部下も
一網打尽にしようと、捕らえた盗賊からこの場所を聞き出しやってきたのだ。
盗賊達は、突然の事態にとまどいながらも、おとなしく捕まるつもりはないら
しく検非違使が立ちふさがる下流とは反対の上流側へと駆け出そうとした。
ヒカルを犯していた痩せ男も、遅れて達上がる。その時、松明に照らされて、
その男がヒカルの中から抜いたばかりの茶色く汚れた男根が見えた。尖端から
精液を垂らしてぬめっている。あんな汚らしいものが、今の今まで自分の中に
入っていたのだと考えただけでヒカルは吐き気がした。
盗賊達は活路を見いだそうと、盗んだ品の詰まった袋もそのままに、川の中を
バシャバシャと騒がしい音をたて上流へと走り出す。
が、そこにも、松明を持ったふたつの影が立ちふさがる。
「逃げられるなどと、思わぬことだ!」
川上も川下も、計四人の検非違使に挟まれて、盗賊達は腰に帯びていた、手入れも
ろくにされていないような太刀を引き抜いた。
水音が夜の静けさを破り、検非違使達の美しく鍛えられた太刀の刃が、松明の
明りを移して、闇の中で橙色に映えて光った。
交わされる剣戟の音。
野太い悲鳴と川の流れに何か大きなものが倒れる音がして、あたりは再び夜に
相応しい静寂を取り戻した。
検非違使達が、川面を松明で明るく照らし出す。人の脛ほどしかない水深のそこ
にはすでに、ただの肉塊と化した塊が三つ、半分水につかって横たわっていた。
太刀の血糊を拭いて、検非違使達がこちらにくる。
ヒカルは慌てて、着衣を整えた。下袴は切られて脱がされてしまっていたので、
せめて上の単衣をきちんと着直す。無惨に蹂躙された下肢が隠れるように。
(何があったか、気付かれなきゃいいけど)
一番先頭の検非違使が、そこにヒカルがいることに初めて気付いたように声を
上げた。
「近衛じゃないか!」
検非違使達は一様に驚いたように、ヒカルに駆け寄った。
彼らの顔は知っていたが、名前を思い出せない。伊角の警護などで内裏に出仕
してしまうせいで、勤務時間がすれ違い、こういう風に名前を覚えていない仲間
がヒカルには何人かいる。
「何があった?」
河原の砂利の上に座り込んでいるヒカルの前にかがんで、その検非違使は
気遣わしそうに覗き込む。
夜風がつんとした血の匂いを運んできた。
他の者達は橋のたもとを調べて、彼らが背負っていた大袋を発見し、盗賊が
盗んだ品を検分しているようだ。
「怪我はないか?」
二十代半ばに見えるその検非違使は、ヒカルの単衣が泥土で汚れているのを
見て取って、肩や腕に大きな手傷をおっていないか調べ始めた。
「馬鹿な勇み足で、不覚をとったよ」
ヒカルは、袋を調べている検非違使達の方を気にしながら、苦々しさを押し
殺して笑ってみせる。
不意に、ヒカルの体を調べていた検非違使の手が止まった。
橋のたもとの方を見ていたヒカルはそれに気付き、目の前の検非違使に
視線を戻す。
彼は下をじっと凝視している。
その視線の先には、単衣の間からのぞくヒカルの腿があった。その内側に
こびりつく、いく筋もの白い粘液の跡が、松明に照らし出されて、妖しげに
光っている。
しまったと思って、あわてて単衣の裾で隠した。気付かれただろうか?
検非違使は、黙って再びヒカルの顔に目線を戻すと
「切り傷はないようだが、打ち身はどうだ?」
と、尋ねてきた。内心でほっと溜め息をついてヒカルが答える。
「うん。頭の後ろ、殴られて……」
検非違使の手がヒカルの後ろにまわって、髪をかきわけた。
「この辺か?」
「もっと左かな」
「ここか?」
鈍痛に思わず顔がゆがむ。
「うん、そこ」
「そうか」
そう答えると、検非違使は手をさらに下に移動させた。それはさらにヒカルの
首筋を伝って、泥で汚れた単衣の襟から、背中へと進入する。
ヒカルは、その動きの意味がわからず、自分よりひとまわりほど年上の検非違使
を見上げた。
背中を戦慄に似たものが駆け抜けた。
その検非違使は、暗い目をしていた。
ヒカルがよく知っている目だ。さっきまでだって、同じ目の色をした男が三人、
ここにいて、ヒカルを嬲っていたのだ。
997朧月夜 ◆2DpdawnHik :03/04/24 02:43 ID:1X04AVdZ
縋るように見上げる瞳に、惑うように揺れる瞳に、心がざわめく。
袖を掴んでいた腕が、背を撫でていた手が、小さく震えているような気がする。
発しきれない言葉に、唇が微かに震える。
動く事もできない。息をする事さえ、できない。
いっそ、いっそのこと。
この身体にしがみついてしまえば。
この身体を引き寄せて抱きしめてしまえば。

不意に強い風が枝を揺らし、立ち竦む彼らをばらばらと打った。
咄嗟に枝から庇うように、縋りつくヒカルの身体をアキラは抱き寄せた。
腕の中でヒカルが小さく身じろぎするのを、アキラは感じた。
肩に寄せるような彼の頭を片腕で支え、もう片方の手で背を抱いた。
「ヒカル、」
思わず、彼の名前が口をついて出てしまう。
「……ヒカル、」
そしてもう一度、ほとんど口元に近い位置の彼の耳にだけ届くように、そうっと、できる限りの優しさ
を込めて、囁くように彼の名を呼ぶ。
また穏やかさを取り戻した春風が、さわさわとしなやかな枝を揺らす。
風に乗って届く藤の香りが誘うように甘く鼻腔をくすぐる。
「ヒカル、」
呼びかけるたびに、彼の身体からふうっと力が抜けていくのがわかった。
同時に自分の心も、柔らかく安らいでくるのを感じた。
998朧月夜 ◆2DpdawnHik :03/04/24 02:43 ID:1X04AVdZ
何を、僕は。
一体何を、僕は望んでいたのだろう。
あの夜、僕の腕の中で君の命が消えそうになった夜、消えかけた細い灯火が奇跡のようにまた
揺らめき光を放ったあの時、誓ったはずではなかったか。
君がこの世に生きていてくれればそれでいい。
それだけでもういい。それ以上は望まない。
僕のためには何も要らない。

それなのに、何をまた、僕は望もうとしていたのだろう。
例えこの腕が彼の代わりに過ぎないのだとしても、君がそれを望むのだと言うならば、何を
惜しむ事があるだろう。
君がどんなに苦しんでいたか、僕は知っていたはずだったのに。
君がどれ程辛い状況に置かれるか、僕はわかっていたはずだったのに。
わかっていてそれでも尚、君を一人、送り出したはずだったのに。
せめて君が心細さを感じる時、涙を流したい時に、支えにもなれなくてどうする。
一時でも縋るものが必要なのだと君が言うのなら、僕の腕でよければいくらでも貸そう。
他所では泣けないというのなら、此処で存分に泣くがいい。
999朧月夜 ◆2DpdawnHik :03/04/24 02:44 ID:1X04AVdZ
そんな思いを込めて、片腕で抱いた彼の頭を優しく叩き、そして気付かれぬようにそっと、彼の
髪にくちづけを落とした。
「アキラ…」
小さな涙交じりの声で、ヒカルがアキラの名を呼ぶ。
「アキラ、ごめん。」
応えるように小さく、彼の身体を抱く腕に力をこめる。
「ごめん、でも、今だけは、」
「…いいんだよ。」
いいんだよ。君が気にする事は何もない。
今僕は君のために此処に在るのだから。僕の全ては君のものだから。
だから、今はもう。
今は、もう、いい。
何も言う事はない。

沈黙が安らかに彼らを包んでいた。
再開した時には東の空にぼんやりと大きく見えた月は、今は天頂から西に傾きながら朧な光を
放っていた。薄い雲はところどころ途切れ、その隙間からは星がきらめいていた。
春の夜の柔らかく朧な月明かりの下、互いの温もりに包まれながら、二人とも、それぞれが
それぞれの安らぎを感じていた。

<了>
1000学生さんは名前がない:03/04/24 02:52 ID:ttNjv4QC


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