●おまえら男ならヒカルたんハァハァだよな?part2●
次の日。
棋院での手合いを終え、夕暮れ、
ヒカルは靴箱の前で深呼吸して、靴箱を覗きこんだ。
何も無い。ホッとするヒカルに、
伊角と和谷がすれ違いざま「何やってんだよ進藤!ラブレター待ってんの?」
ハハハ、と笑って声をかけてきた。
「何でもない、またな!」「おーっ」手を振る和谷と微笑む伊角にヒカルは御辞儀して、
『ありがとう・・伊角さん、和谷。オレ、もう多分、大丈夫だ』と心の中で呟いた。
「進藤君」ビクッと肩を震わせ、恐る恐る振りかえる。
「白川・・センセイ」白川は笑って進藤を見つめる。
「昨日電話したんだけど、泊まりに行ってたんだって?和谷君の家に。伊角さんと一緒に?」
「・・・」
「3人でしたのかい?セックス、覚えたからって、悪い子だ。進藤君」
ヒカルはカッとなり拳を振り上げた。
白川は穏やかな顔とは裏腹に強い力でその腕を制し、ヒカルに無理矢理顔をぶつけ、接吻をした。
歯がぶつかり、ヒカルの唇が切れた。血の味がして、ヒカルが暴れても、
それすら楽しむようにヒカルとの口付けを白川はやめなかった。
その時。塔矢アキラの驚いた顔が白川の肩越しにヒカルの目に映った。
「―――!塔矢!!」アキラは何か言おうとして口を動かし、
言葉は音とならずにヒカルの前から去った。
ヒカルは白川を突き飛ばし、吐き出すように、言った。
「・・・センセイ、白川先生!」「・・なんだい、進藤君」「先生」「・・・」
「―――先生は暗闇なんかじゃないよね。いっつも、
オレに会う時はいつも明るく笑ってた」
「それは、君が好きだったからだよ」「オレは―――」
「進藤君も、気持ち良かったでしょ?君は飲みこみが早い。碁だけじゃなくて・・」
ヒカルは首を激しく振った。
「・・先生、先生!もういいよ、オレ、オレ・・塔矢が」
「・・・塔矢君、が?」笑う白川をグッと睨み付け、ヒカルは叫んだ。
「わかんないけど、オレ、目を閉じたら一番初めに塔矢がそこにいて、
最後にいるのも塔矢なんだ。あいつの背中だけで、オレ、いいんだ。先生じゃ、ないんだ!」
「・・・」「そんなオレ、やだろ?塔矢の名前しか呼べない。
暗闇の中で、オレが呼びたいのは塔矢の名前だけだ。塔矢はオレの」「・・・」
「光なんだ」
さよなら先生、ヒカルはそう言って靴を履き、白川の前から走り去った。
「オレは―――先生が嫌いですって一言言ってくれたら、諦められるのに。進藤君は−」
白川はポケットの中のメモを破り、外に出て花びらと共に蒔いた。
「本当に可愛い。だからやっぱり、諦められる訳、ないな」