●おまえら男ならヒカルたんハァハァだよな?part2●
「だめ…だよ、進藤…!」
いち早くヒカルの意図を感じ取ったアキラが圧迫された喉で吐息がちに乞う。
言葉の割にあえて押し退けようとはしない無抵抗な態度に
ヒカルは一瞬怯むが、今まで何度か同じ言葉を自分が発しても
聞き入れてもらえなかったのだ。
なにより、アキラの柔らかな喉元を吸う感覚に一気にのめり込んだ。
「ん…っ」
目を閉じ、逆に顎を少し上向けるアキラ。理性が欲望に負けたようだった。
その時ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
弾かれたようにヒカルはアキラから後ずさりキッチンの椅子にぶつかって
危うく椅子ごと倒れそうになった。
続けてコンコンコンッと忙しなくドアをノックする音に、アキラは相手が誰か
気付いた様子で玄関に向かった。
「やあ、アキラ君、碁会所で進藤君とこっちに戻ったって聞いたから。
二人にお寿司の差し入れ。」
アキラがドアを開け、ニコニコしながら寿司折りを持った芦原が入ってきた。
そして椅子の背を掴んで突っ立ったままの進藤と髪が濡れているアキラに
怪訝そうな表情をした。
「…あれ、検討会してたんじゃないのかい?どうしたの?」
「進藤が疲れてて来てすぐ寝ちゃって。その間にボクはお風呂。進藤は今
目が覚めたばっかなんだ。」
平然とそう話してアキラはポットに水を入れてコンロに乗せた。
「そうか、それで進藤君、ボーッとしてるのか。顔が赤いよ。」
「あ、う、うん。」
ヒカルはわざとらしく眠そうに目をこすってみせた。
「…あれ、アキラ君、首のとこ…、」
芦原がアキラを指差し、再びヒカルの心臓が躍り上がった。
しまった、あまりに強く吸いすぎたのだ。
「え、何?」
アキラは無造作にボリボリと首をかいた。そして手をどけた跡を見て
ヒカルはギョッとなった。血が出ている。アキラが爪で傷つけたのだ。
「あーあー、アキラ君にしては珍しいなあ、掻き壊すなんて。」
芦原が素早くそこにあったティッシュを数枚取ってシンクで少し水に濡らし、
アキラの首にあてた。
「ありがとう、芦原さん。…いつ刺されたのかな。」
芦原に顎を預けてアキラはすっかりさっきまでとは別人に成り変わっている。
その様子を見た時、カッとヒカルは何か体が熱くなる感覚を持った。
「オレ、帰るよ。」
ヒカルは玄関に向かった。この部屋で、芦原の前で何もないように装おう事は
ヒカルには出来そうになかった。
装おうことが出来るアキラが、何だか腹立だしかった。
「えー、進藤君?」芦原が困惑する。
「進藤は疲れているみたいなんだ。」
さらりと受け流すアキラの言葉に追い討ちをかけられた。