●おまえら男ならヒカルたんハァハァだよな?part2●
「ああ−!食った食った!」満足げに畳に倒れ込む和屋。ヒカルは伊角の皿に最後のもんじゃを乗っける。
「以外に美味かったね、ベビースター」ヒカルが言うと、
和屋は目を瞑ったまま笑って「新しい一手だったろ、進藤。食後に一局打つか?」と言った。
ヒカルは笑った。
夜も更け、何局か打った後、そうだ、銭湯に行こうぜと誘う和屋をヒカルはかたくなに拒んだ。
「オ、オレ、シャワーでいい、足、早く治したいし。碁石片付けとく。二人で行って来てよ」
ヒカルの言葉にじゃあ、と二人は出ていく。閉じるドア。ヒカルは並んだ白と黒の碁石を見つめる。
『進藤、二人で新しい棋譜を作ってみないか。今夜12時、ここで』
あのメモを思い出しヒカルはトイレに駈け込み吐いた。
「・・・チクショウッ!!」叫ぶと身体の奥に残る痛みが増す気がした。
忘れなければ。――――あれは塔矢じゃなかったのだから。
銭湯の帰り道、伊角がボソッと「なあ、和屋。進藤、またスランプなのか」「・・・違うと思うけど、でも」
和屋は口元に手を当てて、考えこむ。伊角は夜空を見上げた。
炬燵布団を布団代わりにし、ヒカルを真ん中に三人は川の字になって寝た。
寝返りを打つヒカルに、「眠れないのか?布団薄いもんな。お前ベットだっけ」と和屋が声をかけた。
「いや、大丈夫・・うん、ここ何日か眠れないんだ。今日は楽しかったから、きっと眠れる」「寝てないのか?」
「うん。・・・うん、眠れない時って、二人はどうしてる?」ヒカルの囁く声に伊角はむくりと起き上がり、
碁石を二つとってきて布団の上に投げ出されていたヒカルの両手に一つずつニギらせた。
「?」「オレはこれで大事な対局の前の晩、心を落ちつかせる」「へえ・・伊角さんらしいや。サンキュ」
ヒカルは小さく笑って、目を閉じた。
「・・暗闇が怖いんだ。オレ」
和屋は驚いて、「なら、明かりつけるぜ?ついてても眠れる、なぁ伊角さん」と言った。
ヒカルは笑って、「いいんだ、怖いけどさ、勝たなきゃ。なんだってそうじゃん」と言った。
「・・・」和屋は自分の片方の手をヒカルが白の碁石を握っている手の上から被せる様に握りしめた。
伊角もヒカルの逆の手を。
途端にヒカルが嗚咽を洩らす。
伊角と和屋は一言もヒカルに声をかけられず、ただヒカルが三日ぶりに眠りにつくその時まで、
ヒカルの手を碁石ごと握り続けた。