●おまえら男ならヒカルたんハァハァだよな?part2●

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660暗闇1
棋院の帰り。進藤ヒカルは覗きこんだ靴の上に置かれたメモをボンヤリと見ていた。
『進藤、二人で新しい棋譜を作ってみないか。今夜12時、ここで』「お疲れ様」塔矢がすれ違いさま声をかけてきた。
「お、おうっおつかれ塔矢!」塔矢アキラは口元に静かな微笑みを浮かべ、漆黒の髪で風を切り、ヒカルの頬にかすかに当て通りすぎた。
16になった二人。今ではもう、ライバルと言っても昔のように碁盤の上以外で激しくぶつかり合う事はない。
だからと言って和屋や伊角さんのような楽しい囲碁仲間でもない、塔矢の存在。真っ直ぐに前を見て歩く塔矢の背中は、昔とちっとも変わってはいない。
「これ・・塔矢じゃないのかなぁ」
改めてメモを見る。「今夜12時、かぁ・・」

タクシーで近くに降ろしてもらう。こんな夜更けに棋院を訪れるのは2度目だ。大事な物をなくしたと気付いたあの夜。たくさん泣いた。バカみたいに泣いた。
今でもやはり、思い出すと胸は痛む。痛む事にホッとする。
靴を脱ぎ、真っ暗の闇の中、かすかに碁を打つ音がする。
「塔矢・・か?えっと、あの・・」ドアを静かに開ける。碁を打つ音が止まる。黒の視界、目を凝らしながら二、三、前に進む。
「え?」不意に後ろから抱き締められる。「うわっ」慌てて振りほどこうとして暴れるヒカルを締め上げるように抱く腕。
「くるしっ・・」その強い手がヒカルの喉に回される。
『殺される・・!』恐怖で震えるヒカルを見て、闇が小さく楽しげに笑った気がした。
ヒカルの喉に暖かく湿った唇が触れる。強く吸われ、痛い。小さな声を上げる。
初めての感覚で、何をされているかわからず動揺していると、突然、鼻をつままれ、思わず口を開けた途端、
強い匂いと共に、喉の奥に生温かい物を口内に押し込められた。
吐き気と共に眩暈がヒカルを襲った。自分の頭を押さえつける手を力一杯振りほどき、くしゃくしゃの髪でヒカルはどなった。
「塔矢!!塔矢なんだろ?なに・・すんだよっ・・!」
ケホッ、と咳きこみ、机にもたれかかろうとするヒカルに、再び闇がのしかかる。