●おまえら男ならヒカルたんハァハァだよな?part2●

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539敗着3
ヒカルはエレベーターの床をじっと見つめている。
車は意外にもRX−7。
大方マークU辺りだろうと予想していたヒカルは素直に驚いた。
エレベーターが停止し、扉が開く。
考えてみれば相手は二冠の棋士。自分はひよっこの新人棋士だ。
ヒカルは今更ながらに恐縮する。
ガチャガチャとキーを回す音が聞こえ、「ガチャン」と重い金属製の
ドアが鳴る。
一向にこちらを気に掛ける様子もなく、
「入れ」とだけ言う。
足を踏み入れると車の中と同じ煙草の匂いがした。
(塔矢の部屋にもあった・・・)
ヒカルはきゅっと唇をかむ。
「適当に掛けていいぞ」
上着を脱ぎ、緒方が初めてこちらを向いた。
低いモーター音。コポコポと水泡の音がする。
(魚・・・、飼ってるんだ・・・。)
ぼんやりとヒカルは思った。
「コーヒーでいいか?それとも、牛乳か?」
からかわれたのが分かり、ムッとした表情になる。
540敗着4:02/03/29 00:02
(神妙な顔をして・・・)
普段のヒカルとのギャップを思い、緒方は内心可笑しかった。
肱掛椅子を引き、
さてと─、
「何かオレに訊きたいことがあるんじゃないのか?」
ソファにちんまりと座っているヒカルと対峙した。
「あ、あの・・・」
膝の上でこぶしをつくり、意を決しているようだ。
「緒方先生は、塔矢とは・・・」
顔を上げじっと見つめてくる。
「オレは塔矢門下の人間で、彼は名人の息子さん。
 15歳にしてリーグ入りの若手最強の棋士だ。」
それがどうした、と言わんばかりにスラスラと応える。
ヒカルは困惑した。
(オレと、塔矢のような関係なのかよ・・・っ)
塔矢は明らかに初心者ではなかった。
そして、彼の周囲の人間で、思い当たるといえば─。
PCの台の隅に置かれている煙草─。
問い詰めたい─、問い詰めたいだけど、
それからのことが分からなかった。
自分は何を期待しているのだ─、と。