「言っておくけど、フカすだけなんてなのは無しだよ。」
「分かってるよ。うるさいな。」
加賀に吸い方を聞いたことがある。
1度口に入れてもう一度吸って肺に入れる。ヒカルは一気にそれをやった。
「かはあっ!」
強い刺激が咽の奥を走り、ヒカルは激しくむせ込んだ。
アキラはテーブルに頬杖をついて楽しそうにヒカルを観察している。
ヒカルは意地になってもう一度吸い、同じようにむせる。舌がしびれてきた。
「無理しないでいいのに。何か飲むものあげるよ。」
アキラがキッチンに向かい、ヒカルはその隙にタバコを灰皿に押し付けた。
ふと見ると、部屋の片隅に碁盤と碁石があり、
その上に一冊の詰碁集が乗っていた。
ヒカルは腕を伸ばしてそれを取るとパラパラとめくってみた。
「ぼろぼろだ…。何度も何度も読み返したんだろうな…。」
アキラが何か飲み物を出してくれたら、一局打って、そして帰ろう。
さっきの碁会所での事は何かおかしな夢でも見たんだ。
ヒカルはそう考えた。キッチンでポットのお湯が湧く音が微かにしていた。
だがアキラがいる気配がしない。
「塔矢?」
キッチンを覗き込もうとしたヒカルの耳に、シャワーを使う音が入って来た。