「――それでね、矢澤さんに逢ったあとにね、アタシが本当に好きなのは葉ちゃんだって、はっきりわかったでしょ。だからお兄ちゃんに、アタシの正直な気持ちを話したの。そうしたらお兄ちゃんも、葉ちゃんとの契約のこと、打ち明けてくれたんだよ」
契約のことを知っている、とはっきり告げられたことで、アタシはどこかホッとしていた。
もう隠す必要はないのだ。
アタシがずっと美琴を裏切っていたこと、その理由も、全部。
「…でも、それとセンパイがお兄ちゃんなのと、どういう関係があるのよ?」
今度疑問に答えたのは、アイツだった。
「葉月ちゃんには話したことなかったけど、オレも、何年か前に妹を亡くしててね」
「……」
「だから、毬野センパイにはアタシのお兄ちゃんになってもらって、アタシは毬野センパイの妹になることにしたの。それだと、ちょうどいいでしょ?」
ちょうどいいって…、なんだそりゃ。
脱力したアタシは、ぐったりとソファにカラダを預けた。
まだ血の気の足りていない頭で、なんとか状況を把握しようと努める。
結局、美琴がアイツを好きだったのは、亡くなった二番目のお兄さんとアイツを重ね合わせていたから、ということになるワケか。
兄を亡くした妹と、妹を亡くした兄と。
そのふたりが欠けたものを補い合おうとするのは、一応、理屈としてはわからなくもない。
でもそれってつまり、アイツが美琴にフラれたってことじゃないの?
だって美琴が本当に好きなのは、アタシなんだから。
もう一度カラダを起こしたアタシは、向かい側に座っているアイツを見た。
視線に気づいたアイツが、紅茶のカップを戻したソーサーをテーブルに置く。
アタシは真っ直ぐに疑問をぶつけた。
「センパイは、それでいいんですか?」
「オレにとっては最初から、美琴は妹みたいなものだったからね」
「代わりだったってこと?」
「いや、どっちかっていうと、美琴の方が本当の妹みたいかな」
「……」
負け惜しみ、という感じはしなかった。
確かに思い返してみれば、アイツの美琴に対する態度は、王子様な恋人というよりは、王子様なお兄さんという方がしっくりくるものだった、ような気もする。
契約を結んでアタシと関係を持っておきながら、大切な美琴に対してまるで罪悪感を持っていない