美琴の大切な話とやらは、なかなか要点に辿り着かなかった。
アタシを避けてあちこちに視線を逸らしながら、ぽつぽつと言葉を繋ぐ。
その頬が桜色に染まって見えるのは、最後通牒を怖れるあまりの、アタシの錯覚なんだろうか。
とはいえ、美琴の様子はやっぱりどう見ても、恋人と親友に裏切られていたことを知った女のコ、のあるべき姿からは、遠くかけ離れていると言わざるを得なかった。
ワケがわからず混乱していると、テーブルの向こう側で、アイツがくすりと笑うのが聞こえる。
アタシが笑われたのかと思ったけど、美琴もむっとした顔になった。
でも、それで覚悟が決まったらしい。
深呼吸した美琴は、アタシとまっすぐに目を合わせた。
――そして。
「アタシ、葉ちゃんが好きなのっ」
叫んだ美琴は、顔を真っ赤にしている。
その可愛らしさに見惚れながらも、アタシは戸惑いを口にした。
「…それは、アタシだって、美琴のことは大好きだけど」
「ちーがーうーのーっ。そーじゃなくてー」
「?」
「アタシの好きは、お兄ちゃんみたいに、葉ちゃんとエッチなこともしたいって、そーゆー好きなのっ」
……。
真っ白な頭の中に最初に浮かんだのは、やっぱりな、という納得だった。
やっぱり美琴は、アイツとアタシの関係を知ってるんだ。
さっきふたりが交わしていた会話。
両方の手首に巻かれた包帯の意味も、美琴は知っているようだった。
じゃあ、契約のことは?
アタシが裏切っていたことの意味を、美琴は知ってるの?
いつからアイツと関係を持っていたかも?
次々と湧いてくる疑問のあとに、やっと、美琴の告白の意味が腑に落ちた。
(葉ちゃんがいてくれるだけで、アタシはしあわせなんだから)
「美琴…」
涙声で呼んだアタシの頬に、美琴の掌が触れる。
溢れかけた涙を指先に移しながら、やわらかく微笑んだ。
「星凛祭のとき、お兄ちゃんに、葉ちゃんの恋人のフリしてもらったでしょ」
「…うん」
「そのときにね、気がついたの」
「……」
「アタシ、矢澤さんに嫉妬してた。まだ葉ちゃんを傷つけられる矢澤さんが憎くて堪らなかった。矢澤さんだけじゃない、
自分でお願いしたのに、本当の恋人みたいに葉ちゃんに触るお兄ちゃんにも、嫉妬してた。それで気がついたの。
アタシが本当に好きなのは、葉ちゃんなんだって。葉ちゃんのこと好きなのは、友達としてじゃなかったんだって」
――伝わってきた美琴の想いに、胸がつまった。
応えられるかどうかなんて関係ない。
ただ、自分が想う以上に想われているのだという幸せに、満たされる。
けれど、その幸福感に水をさす疑問を、アタシはどうしても、口にしないではいられなかった。
「あの、さっきから気になってるんだけど、その、お兄ちゃんて…」
「毬野センパイのことだよ」
ねー? と同意を求められたアイツが、にっこりと頷く。