「今日、矢澤さんに逢って来たよ」
「……」
「葉ちゃんのことで、いろいろお話ししてきた」
アイツに知らされていたことだったから、驚きはなかった。
どうして矢澤さんの連絡先がわかったのかとか、矢澤さんがよく逢ってくれたなとか、疑問はいろいろあったけど。
「……、矢澤さんは、なんて?」
「それは、葉ちゃんが直接自分で聞いて」
「え?」
「逢って欲しいんだって、ふたりきりで」
「…いいの?」
訊ねるアタシに、美琴はこくりと頷いて見せた。
それから、穏やかな表情で問いかける。
「ねえ、葉ちゃん。もしも矢澤さんが、いまならまだ間に合うって言ったら、どうする?」
アタシはまだ頼りない感じのするカラダを、慎重に起こした。
ふたりの視線に見守られながら、ソファに座る。
隣の美琴と正面から目を合わせて、自分の想いを告げた。
「アタシの答えは変わらないよ。二年前から、ずっと」
いまにも泣き出しそうな顔の美琴が、黙ってアタシを抱きしめる。
アタシも華奢な肩を抱き返して、やわらかな髪に頬を寄せた。
「ごめんね、心配かけて。でも、もう、ちゃんと終わりにするから」
いつの間にか席を外していたアイツが、リビングに戻ってきた。
テーブルに置かれた紅茶のカップから漂う、甘酸っぱいアプリコットの香り。
喉の渇きを覚えたアタシは、いただきますと断って、カップに手を伸ばした。
アイツの家に泊まってベッドを共にして、ほとんど一晩中責められたあとに爆睡してたら無理やり叩き起こされて、シャワーも浴びてないのに寝間着姿でリビングに連行されたと思ったらそこに美琴がいて。
というこの状況の、根本的問題が少しも解決されていないことを、オーバーロード寸前のアタシの頭は、ちょっと忘れていたのかもしれない。
矢澤さんとアタシの問題よりももっと大きな問題が、美琴とアタシとアイツの間にあると思い出させたのは、美琴だった。
「それでね、葉ちゃん。アタシ、もうひとつ大切なお話があるんだ」
「……、うん」
いまさら聞くまでもないと思いながら、カップをソーサーに戻して、次の言葉を待つ。
情状酌量の余地なし、覚悟はできていた。
アタシがしてきたことは、どんな言い訳を重ねても、赦されることじゃない。
美琴は優しいから、矢澤さんとのことでは、アタシを気遣ってくれたけど…。
「あのね、アタシ、いままでも、ホントは気がついてたんだと思うんだけど」
「……」
「でも、やっと、ちゃんと自覚できたっていうか。えと、それでね」
「?」