――気がつくと、アタシは美琴の膝枕で横になっていた。
冷たい頬に触れる、温かな掌。
心配そうに顔を覗き込んでいた美琴が、ホッとしたように微笑む。
「よかった、気がついて」
「アタシ…?」
「ごめんね、葉ちゃん。そんなに驚かせるつもりはなかったんだけど」
どうやらアタシは、美琴を見たショックで貧血を起こしたらしい。
痛むところはないみたいだけど、やっぱり倒れたんだろうか。
身じろぎしたら、アタシの不安を見透かした美琴が先回りして言った。
「あ、どこもぶつけたりしてないから、大丈夫だよ」
「でも…」
「お兄ちゃんが抱きとめてくれたの。それからね、お姫様抱っこでソファに寝かせてくれたんだよ」
ふと覚えた違和感を無視して、無理やりカラダを起こす。
いきなり動いたせいか、また意識が遠のきそうになった。
仕方なく膝枕に戻ったアタシを見て、美琴が眉をひそめる。
「お兄ちゃんが昨日の夜いじめすぎたせいで、葉ちゃん、具合悪いんじゃないの?」
ローテーブルを挟んでソファに足を組んでいるアイツを睨んで、文句を言った。
可愛らしい恨み顔を向けられたアイツは、笑いながら自分を弁護する。
「そんなことはないと思うけどな。一回しかしてないんだし」
「ホントに?」
「嘘はつかないよ」
「でも、葉ちゃんさっきまで眠ってたんでしょ?」
「それは…、終わったのが、明け方近かったから、かな」
「あー、やっぱりお兄ちゃんのせいだー。そんなに時間かけてー」
「葉月ちゃんがなかなか素直になってくれないから、ついイジワルしたくなっちゃうんだよ」
「だからって痣なんかつけちゃうのは、ぜーったい、反則なんだから」
頬をふくらませた美琴が、そっとアタシの手首に触れた。
両方の手首に、軽く巻かれた包帯。
痛みがなくて、気づかなかった。