「増税は誰のためか」という対談集(扶桑社)を読んでいるのですが、その中で、
元財務官僚で嘉悦大学教授の高橋洋一氏が次のようなことを語っています。
国税庁が把握している法人が280万社、年金機構が200万社でズレがあることを
指摘したところで「80万件も少ないのはなぜかというと、社会保険料を企業から
徴収していないんです。(略)でも、従業員5人以上の会社は、全部、給料から
保険料を天引き=源泉徴収しているわけですよ。つまり従業員から保険料を
取っておきながら、年金機構には払っていない法人が何十万社もありそうなんです。」
という。
これに対して神保哲生氏が「支払ったと思っていたはずの保険料が、会社の
フトコロに入っちゃっている。そんな会社が80万社もあるわけですね。」と相槌を。
この人たちは、あまりにも中小企業の実態を知りません。中小企業の社長ならおそらく
みんな答えを知っています。社会保険に加入したくないから加入していないだけなんです。
当然、従業員の給与から健康保険料も厚生年金も天引きなどしません。「国民健康保険や
国民年金に加入して、自分で払ってね」と告げ、従業員も社会保険に加入したら手取りの
給与が減ってしまうから、入ってほしくなかったり、パートの主婦は、ご主人の扶養家族
から外れちゃうので入ったら損をすると思っているだけのこと。納めもしない社会保険料
を給与から天引きするような出来損ないの詐欺師みたいな会社は、少なくとも私は見た
ことがありません。
中小企業のこうした実態を知らずに元財務官僚が政権政党に助言したりしているという
のは恐ろしいことだと思いました。彼は、「これは新たに『歳入庁』を作って、税金と
保険料の徴収を一緒にすれば解決する問題なんです。」と語ります。しかし、そうなると、
毎月の給与から社会保険料が源泉徴収されて手取りが減る人、それとほぼ同額を会社
負担分として法定福利費を払わされることで利益を失う中小企業、社会保険に入りたく
ないと主張すること自体は脱法行為的とはいえ今まで払わないでいた保険料を払わな
ければいけなくなるパートの主婦など、消費税の増税どころではない国民負担が生じます。
大企業は中小企業に十分な利益を取らせてくれません。だから、少しでも安く従業員を
雇わなければならない。そこで、「雇ってあげるけど、社会保険料は入らないから、
国保に入ってね」となる。
この構造に踏み込まない限り、歳入庁を作って、社会保険への加入を強制したら、
まさに80万社に雇用されている従業員給与×社会保険料会社負担分の料率だけ
中小企業の利益が失われるわけです。社長と従業員の2人が対象だとしても、
80万社×2人×300万円?×10%=4800億円?という金額の納付を社長と従業員の
合計2人しかいないような会社群がしなければいけないわけです。社会保険料倒産で
死屍累々となりそうな気がするのです。しかし、高橋洋一氏は、徴収されて納付
されていない「財源」が中小企業にあると思っているわけで、この誤解は恐ろしい
ことだと思います。
税制とか中小企業の実態というものをこれくらい有名な人でも知らないのだということを
思い知らされて、愕然としたもので、ブログにまとめてみました。