高台の家に着くと、アタシを乗せたまま車は車庫に向かった。
車庫から家の中に入ると、そのままバスルームへと連れて行かれる。
仕方なくシャワーを浴びて、アイツが用意していたナイトウェアに着替えた。
細かな刺繍が美しい、フランネルのネグリジェとナイトガウン。
今夜はなんだかいろいろ、ここひと月ほどの週末とは扱いが違う。
それはともかく、今夜は千堂センパイが家にいるらしくて、落ち着かなかった。
アイツの家はコの字型になっていて、両翼をアイツと千堂センパイで使い分けている。
だから気にしなくていいよと、アイツは言ったけど。
リビングの向かい側に見える窓の灯は、やっぱり気になった。
そわそわしているのを見兼ねたのか、アイツは別の部屋にアタシを案内した。
初めて入る、こじんまりとした感じの、暖炉のある部屋。
猫足のソファに座ると、飲み物が手渡された。
「なに、これ?」
耐熱ガラスのマグにはレモンのスライスが浮かべられていて、シナモンの香りもする。
「ホットワインだよ。アルコールをちょっと飛ばして、蜂蜜とかを入れてある」
アタシがマグに口をつけると、アイツは向かい側のソファで、タバコに火を点けた。
「それで、どういうことなの?」
ホットワインはおいしかったけど、ひと口飲んだだけで、アタシはマグをテーブルに置いた。
早く用件を知りたい。
「あ、言ってなかったっけ。話があるって」
「聞いてない。ていうか、だったらなんでシャワー浴びさせたのよ」
睨まれたアイツは、ぬけぬけと答えた。
「久し振りに葉月ちゃんで、着せ替えごっこして遊びたくなったから」
あっそ…。
呆れていると、アイツが用件を切り出す。
「今日、美琴ちゃんを送って行ったときに、頼まれたんだ」
「だから、なにを?」
「矢澤サンに逢いに行くから、付き合って欲しいって」