膝を抱えて俯いていたアタシは、立ち上がってカバンからケータイを取り出した。
まだ忘れていなかった、矢澤さんのケータイの番号を打ち込む。
通話ボタンを押す前に、大きく深呼吸した。
しっかりしないさいよね。
いつまでも逃げてるだけじゃ、なにも解決しないでしょ。
ちゃんと話し合って、本当に終わらせなくちゃ。
このまま美琴に、心配をかけ続けるワケにはいかないんだから。
決心して通話ボタンを押そうとしたら、反対に着信を知らせる音が鳴り響いた。
せっかくのところを邪魔されムカつくあまり、表示を確認もせず電話に出る。
『いま美琴ちゃんが車を降りたところなんだけど、これからそっちに――』
聞こえてきたアイツのセリフを、アタシは不機嫌に遮った。
「ちょっと、なんなのよいきなり」
『だから、これからそっちに戻るから、泊まる用意をして待ってて』
「今日は無理。平日だからもう奈々子さんがご飯用意してくれてるし、真咲だっているんだから」
『それは葉月ちゃんが自分で解決するしかない問題だね。別にオレの名前を出してもらっても、こっちはいっこうに構わないよ?』
「……、ご飯食べてからでいいでしょ。真咲の方は、なんとかするから」
『んー、まあしょうがないか。いいよ、それで。八時頃迎えに行くのでいいかな』
「八時半がいい」
『わかった。公園についたら電話するから』
八時半ちょっと前に電話がかかってきて、アタシはこっそり下宿を抜け出した。
公園の入口横に停まっていた車に乗り込むと、エンジンをかけながらアイツが言う。
「なんて言って出て来たの?」
「関係ないでしょ。アタシの問題なんだから」
嫌味ったらしく答えてやったものの、実際のところ、ウソをつく必要はなかったのだ。
下宿の部屋に戻ったアタシを待っていたのは、真咲の残したメモだった。
明日は週半ばの祝日、さすがに強行軍すぎるので帰らないと言っていたのだけど、気が変わって帰省したらしい。
真咲に余計な心配をさせないで済んだことに、アタシはホッとしていた。