熱戦が繰り広げられるロンドン五輪で、日本勢の戦いに財界、企業関係者も熱い視線を
注ぎ続ける。財界人には、競技団体のトップを務めるほか、人材育成に私財を投じる
“足長おじさん”も。選手たちにとっては心強い存在だが、一方で企業などの支援は
“もたれ合い”になりかねず、ハングリー精神をそぐ一因ともいわれている。お家芸と
呼ばれた日本の柔道が惨たんたる結果で終わる中、選手と“パトロン”の関係も見直すべき
ときにきているのかもしれない。
■試合観戦で卓球の虜に
4年前のリーマン・ショックの影響で、実業団スポーツのチームの廃部が相次ぐ中、例外的な
存在がトヨタ自動車だ。本体だけで野球、ラグビー、バスケットボールなど35の運動部を抱え、
女子サッカー「なでしこリーグ」のオフィシャルスポンサーも務めている。
昨年4月には、張富士夫会長が国内の各競技団体を束ねる日本体育協会会長に森喜朗元首相の
後任として就任し、スポーツ界全体への影響力を強めている。日本体育協会も各競技団体も
森氏のような有力政治家が会長を務めるケースが多いが、財界人も少なくない。
日本卓球協会会長を平成16(2004)年から務めるのは、大林組会長で関西経済同友会
代表幹事の大林剛郎氏だ。もともと卓球とは無縁で、前任の飯田亮氏(セコム最高顧問)からの
要請を断れずに就任を引き受けたというが、トップレベルの試合を観戦するうちに競技の面白さ
に開眼。17年からは「大林カップ・ジャパントップ12卓球大会」を冠協賛している。
本業では、自立式電波塔として世界一の高さを誇る東京スカイツリーを完成させたが、日本の
卓球は五輪で世界一どころか、北京までメダル獲得数はゼロ。しかし、今回のロンドン五輪で
石川佳純(かすみ)が日本人として初のベスト4進出を果たすなど着実に成長しており、
「卓球人口を増やしたい」と鼻息も荒い。
■テニス界の「足長おじさん」
ロサンゼルス五輪の具志堅幸司以来、28年ぶりとなる内村航平の個人総合優勝にわく日本体操
協会。会長は平成13年からイオン名誉相談役の二木英徳氏が務めている。昨年は東京電力福島
第1原発事故の影響を各国が懸念し、世界体操選手権の東京開催が危ぶまれたが、国際体育連盟
の評議会で日本の安全性をアピール。予定どおり10月に開催を実現させた。
日本テニス協会会長を11年務め、昨年5月、畔柳信雄氏(三菱東京UFJ銀行相談役)に
バトンを引き継いで名誉会長に就いた盛田正明氏(ソニー生命保険相談役)。テニス界では
有名な存在で、私財を投じて世界に通用する選手のテニス留学を支援する「盛田正明テニス
ファンド」で知られるテニス界の“足長おじさん”だ。錦織圭をはじめ20人近い選手が
同ファンドの援助を受けている。(※続く)
■結果を出せばボーナスも
五輪で結果を出した選手には特別ボーナスも待っている。トヨタが、かつて所属していた
女子柔道の「ヤワラちゃん」こと谷亮子がシドニー、アテネの両五輪で連続して金メダルを
獲得した際、1億円の報奨金と特別限定車を贈ったという逸話は有名だ。
ロンドン五輪でも、ミキハウスの木村皓一社長が男子マラソンの藤原新、卓球女子の平野
早矢香ら所属する5選手に対し、激励金として100万円を手渡しただけでなく、
「金メダルを獲得したら5千万円ぐらいはあげないといかん」と宣言している。
スポンサーの確保は選手にとって切実な問題だ。財界や企業からの支援は、ありがたい話だが、
場合によっては「もたれ合い」にもなりかねない。ロンドン五輪ではお家芸といわれ、体操や
水泳と並び、メダルの期待がかかった柔道が思い通りの結果を出せずに終わった。
「もたれ合いといわれる関係が選手を強くすることは決してない」とある関係者は指摘する。
スポンサー企業にとっても巨額の投資をしても結果が伴わないのならメリットは少なく、また
ファンも失望する。“パトロン”の支援を受け「参加するのに意義がある」と言っているようでは、
熾烈(しれつ)なスポーツの世界でメダルをとることは難しい。