1 :
名無し左京:
24世紀初頭。
恒星間有人飛行を可能にした人類は、宇宙にその新たなる住処を求め、
太陽系の各惑星にその橋頭堡を築きつつあった。
地球周回軌道には既に2,000を超えるコロニーが建設され、人類は
新たなる開拓の時代を今まさに迎えようとしていた。
2321年。
ハル・ショーターが16歳の誕生日を迎えたところから、この壮大な
物語は幕を開ける。
<続く。次の方よろしく>
2 :
ななしサンダーバーズ:2001/01/19(金) 12:20
朝、ハル・ショーターは調整槽の中で目覚め、油虫型生体兵器へと変貌していた。
3 :
名無し4:2001/01/19(金) 13:46
ハルは、毎朝母親に起こしてもらわねば起きられないほど、ぐうたらな少年だった。
当然今日も母が起こしに来るだろう。
しかし、今日の朝は一家にとって特別の朝になるはずである。
なぜなら今日は、誰もが心待ちにしていた、ハルの16回目の誕生日であるから。
4 :
名無し777:2001/01/19(金) 14:02
朝7時。いつもどおり、ハルを、起こしに行こうとした母親は、すでに服を着替えて階段から下りてくる
ハルを見て、驚きの声をあげた。
「まぁ、あんたが自分から起きてくるなんて、何年ぶりだろうねぇ ハル」
すでにテーブルで朝食を取っていた妹のアイラも、くりくりした目をさらに見開いて、ハルを見ている。
「変な油虫になる夢を見て目が覚めちゃったんだよ」
ハルは言った。
5 :
名無しさんといつまでも一緒:2001/01/19(金) 18:32
何となく面白そうなのでage
だったら書いてくれよ
7 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/19(金) 22:17
どっかで聞いたことある話だな。>3
8 :
4の続き:2001/01/19(金) 22:18
その時である。
9 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/19(金) 22:29
「もう、このへんなことばっかり言う三つ首オウム。ママンは嫌いよ」
ageage時であるときであるだなだなだな
「スクールで流行ってるんだ。最高にシューターなんだよ」
その日は、16歳になったハル・ショーターが、
宇宙技術訓練センターに入所する朝だったのである。
この時代、宇宙開発の最前線に立つ技術士になることは、
多くの少年少女たちの夢だった。
ハルは、合格率0.4パーセントの難関を気合で突破し、
輝ける未来への第一歩を、今まさに踏み出そうとしていた。
ブラッドベリっぽくなってきたな。
13 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/20(土) 23:41
「うるさいわね、このオウム!」
「あっ、やめて!」
玄関を出た所でハルの背中に衝撃が襲った。
「ぐはっ」
驚いてハルが振向くと、拳をグーにして眉を怒らせた女が立っていた。
「綾乃! なんだよいきなり」
「なんだじゃないわよ!」
女の名前は、綾乃・ベッケンバウアー。隣に住んでるハルの幼馴染だった。
15 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/21(日) 13:53
「いったい何だ?この前十分構ってやったじゃないか。」
「なんであたしが落ちてあんたが受かってんの!?」
17 :
名無しさん@お腹いっぱい:2001/01/21(日) 17:03
気色ばむ綾乃をなだめようと、ハルは言った。
「仕方ないさ。試験の結果なんて時の運だ。綾乃、おまえの方が
いつもオレよりは優秀だったのは皆知ってるさ・・・」
だが、昔から気性が男勝りな綾乃は収まらない。
「絶対、絶対に私もセンターに行くわよ。明後日からの補欠試験を
受けてくるから」
「・・・補欠試験? そんなの申し込んだのか?」
ハルは、半分呆れながら言った。
なぜ、女だてらに綾乃はこうも宇宙なんかに出たがるのか。
18 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/21(日) 18:12
なんにせよ、ずっと一緒に育った綾乃と別れるのを
寂しく思っていたハルは、心から彼女の試験合格を願った。
そして、何か励ましの言葉をかけてやろうと思ったが、
プライドの高い綾乃には逆効果だと考え直し、かわりにこう言った。
「おまえの性格からしたら、軍人の方が似合ってるんじゃないかー?」
19 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/21(日) 20:02
三つ首のオウム「ジュブナイルになってきてるてる」
21 :
名無し左京:2001/01/22(月) 13:47
ハルがもう一度、そんな綾乃との会話を思い出していたのは、
訓練センターの入所式典の最中だった。
壇上では、センター所長の歓迎の辞が終わり、続いて、ハルたち合格生
の今後の指導教官からの訓辞が行われようとしていた。
細身の、冷徹な目をした男が、壇上に現れた。
年の頃はまだ30代だろうか。
「17期合格生の諸君。難関を突破し、訓練センターへ入所を
許された君たちを歓迎する。
私が、君たちの指導教官となるレナード・ノッティングヒル中佐である」
22 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/22(月) 19:51
訓辞は余計な装飾の全くない、簡潔なものであった。
その言葉からは、過酷な宇宙空間で生きてきた者だけが持つ
厳しさが感じられ、会場の雰囲気が目に見えて引き締まっていく。
訓辞の終わる頃、壇上の中佐と一瞬視線が重なり、ハルはどきりとした。
23 :
名無しさん@お腹いっぱい:2001/01/23(火) 15:09
壇上のレナード・ノッティングヒル中佐がニヤリと笑う。
今回の新入りには上玉がいるな。
24 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/24(水) 15:42
「何だ、あのオヤジ・・・・」
ハルは背筋がぞっとするのを覚えました。
さてはゲイか・・・?
その時中佐の背後の巨大スクリーンにハルならぬHAL9000が現れた。
「やあ」
26 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/25(木) 00:16
「やあ、冥王星適正生活者存在の諸君」
27 :
名無し左京:2001/01/25(木) 09:48
HAL9000は続けた。
「諸君ら13名は、これより第一次実地訓練に赴く。
目標は冥王星軌道上、宇宙座標X-44-RC3。
冥王星域探査ステーション「NOVA4」である。
諸君らはそこで3ヶ月間、衛星カロンの鉱物資源探査の任に就く」
それを聞いて、ハルの隣にいた男が呟いた。
「おいおい・・冥王星域っていやぁ、こないだ原因不明の
探査船消失事件があったばかりじゃねぇか」
28 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/25(木) 17:14
さらにHAL9000は続けた。
「今回は訓練であり、周辺星域に不穏な情報もあるため、
監視・監督の意味も含め中型武装艦が諸君らを護衛する。
諸君らは、安心して任務を果たしてほしい。以上。」
説明の終了と共にHAL9000の映像は消えた。
29 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/25(木) 18:03
ノッティングヒル中佐がHALのあとを引き継いだ。
「そういうわけだ。実地訓練の前に必要な講習等は宇宙船内で行う。
出発は明日だ。ここに0830時までに集合すること。
全員そろってからセンターの車で宇宙港に行く。
質問はないか? なければ今日はこれで解散だ」
30 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/26(金) 00:41
「遅れました!」
31 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/26(金) 02:03
眼鏡をおしあげながら、ハルが振り返る。
32 :
名無しさんの初恋:2001/01/26(金) 17:35
ハルは我が目を疑って思わず叫んだ。
「あ・・綾乃?!」
そのとき腹を割るような低い唸るような地の音が響いてきた。
壁から突き出た装飾物がガタガタ鳴り、空気を迫撃砲の弾が切るのに
似た音が背後から響いた。
「なんだ?」
ハルと綾乃は出会いを忘れ、辺りを見回した。しかし窓のないフロア
では何があったか解らない。わずかな間の後、照明が消える。
刹那の後照明がまた息を吹き返した。と、甲高い電子音がフロアを満たした。
「緊急事態! 緊急事態! 中型武装艦が宇宙港にて重大事故発生!
B−12−NからN−31−Nまでのエリアに居る要員は
可及的速やかにG−31待避所に待避せよ。繰り返す――」
34 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/27(土) 16:12
その場にいた人々は、中佐に引率されて待避所に向かった。
皆が整然としていられたのは、日頃の避難訓練の賜物であろうが、
訓練の時のような、どこか不真面目な雰囲気は、今は全くなかった。
進むにつれ、ハルたちの周りは他の避難者たちによって囲まれ、
非常に窮屈な思いをしてやっと、待避所の中に入ることが出来た。
35 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/28(日) 17:31
ハルはこの上ない幸福感に酔い痴れていた。
ドサクサにまぎれて綾乃のちちを揉んでいたのだ!
36 :
名無しさん@お腹いっぱい。 :2001/01/28(日) 21:48
綾乃の最終兵器、精神崩壊がハルに炸裂した。
「あへ〜」
ハルの頭に春が来た。
37 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/29(月) 05:02
「殺す殺されるはもうたくさんだ!油虫、醜い油虫よ、お前達の艶々とした背中を
見習って人類は羽を生やすべきだ。スマン綾乃、僕は空へ落ちていく」
ハルは頭を掻き毟りながらそう喚くと、意を決したかのように中佐へと体当たりした。
「おのれ、お前が肉般若だな!」ハルの途方も無い叫び。
クラスメート達の愚にもつかない悲鳴。
胸を押さえながら綾乃は思う。これが現実の光景かと。
38 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/29(月) 07:23
「小僧、やめろ、やめんか!!!」突然飛びかかってきた生徒に慄く中佐。
「牛乳をつきつけるな!!!」錯乱するハル。
二人はもみ合うように床に倒れこんだ。
次の瞬間、ハルの身体が軽く痙攣すると唐突に闘争は終了した。
荒い息をつき、立ちあがった。手にはレーザー銃を握っている。
綾乃がハルのところに辿り着いた時、ハルの生命活動はすでに停止していた。
39 :
名無し左京:2001/01/29(月) 10:04
「ハッ・・」
ハルはそこで目覚めた。一瞬自分がどこにいるのか解らなかった。
「・・・・あら。気が付いたのね」
声のした方に顔を向けると、白衣を着た女性がデスクに座っていた。
こちらに背を向けたまま、彼女は書類に目を通している。
「ハル・ショーター技師候補生。16歳。選考試験では合格者13名中12位の
成績・・・・ね」
ハルは、病室とおぼしき場所の簡易寝台に横たわっていた。
そうだ。中型武装艦の事故の連絡が入り、G−31待避所に入ったまでは
記憶がある。
そこからどうなった? ・・・・綾乃は?
思わず身体を起こそうとしたハルは、脇腹の強い痛みに思わず苦痛の呻きを上げた。
白衣の女性が振り返って言った。
「まだ起きてはダメよ。自己紹介がまだだったわね。私はサンディ・ゴールドウィン。
この艦のチーフ・ドクターよ」
サンディはやたら色っぽいお姉さんだった。ライトブラウンの緩い
ウェーブのかかった髪を無造作に後ろにアップして、白衣の下は薄紫
の、キャミソールだろうか、オパーイが零れ出そうなほどルーズに胸
元が開いていて……てゆうか軍医が勤務中こんなの着けてていいんだ
ろうか? ハルは再び錯乱しそうになった。
41 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/29(月) 14:30
「ハル・ショーターです。一体何が起こったんですか?」
「待避所も攻撃されたの。あなたはそこでケガをして、ここに運び込まれたの」
42 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/29(月) 22:19
「じゃあ・・・夢?でも油虫は」
「その油虫という単語を私の前で吐くな!」サンディの顔が憑りつかれたかのように歪む。
その変化の急激さにハルは恐怖を覚える暇もなかった。
43 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/29(月) 22:37
サンディはベッド上のハルに飛びかかった。
信じ難い速さでサイドポジションを取られると、袈裟固めの態勢から瞬時にマウントへ移行していた。
「あなたは・・・!」現実がまた歪んでいく。そしてわき腹の痛みがすぐに現実へハルを連れ戻す。
サンディの拳が顔に入った。一発ニ発。身悶えるようにうつぶせになるハル。
即座にサンディはチョークスリーパー。ハルはうなじのあたりにサンディの髪の感触を覚えつつ、意識を失っていった。
「医務のサンディ・ゴールドウィン大尉。アンダーソン副長がお呼びです。至急CICまで来て下さい」
45 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/30(火) 00:02
サンディは気絶しているハルの顔に唾を吐きかえると、乱れた着衣を直し、
大股に部屋を出ていった。
46 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/30(火) 00:08
2
「典型的な冥王星幻覚症状だ。最近、とみに多い」
「プルート・ミラージュ?」
黙ったまま大尉は少年の額を指でつついた。
47 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/30(火) 06:57
「君のここからな、電波生物が進入する。強制共生するのだ」
48 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/30(火) 07:53
「つい先日、ロスト(消失)した探査船K-071の時もこうだった。
最後は船員が錯乱状態になって、意味不明のことを通信機に向かって
叫んでいた・・・」
49 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/30(火) 20:32
「そしてこのプルート・ミラージュの恐ろしいところは自分の錯乱のさまを客観的視点から見れる、
正確には見た気になれる、ということだ。」
「どういうことですか?」ハルの不安は増していく。
50 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/30(火) 20:52
待てよ?ハルはふと気づく。
さっきまで軍医は女だったはずだ。目の前にいる軍医は男。
軍医はこの船に1人しかいない。軍医、軍医、軍医。
だとしたらサンディ・ゴールドウィン大尉、彼女は幻覚だったのか?
あのうなじにかかる髪の毛の感覚が幻覚?
あれが幻覚と言うのなら目の前の大尉も幻覚・・・
大尉?この部屋に僕はずっと1人だった。ロックはかかってる。
誰も入れない。そのはずだ。
なら目の前にいる地球人面をしたのは油虫か?
51 :
真っ当な方向へ:2001/01/30(火) 22:46
「どうした?大丈夫か?」大尉の声が間延びして聞こえる。
「僕は気付きました。サンディ大尉は油虫です。」
「落ちつけ、と言っても無理か。プルート・ミラージュの虜になっている。」
大尉は素早い動作でハルの右腕を取ると、無痛注射器をためらいなく刺した。
刺されたあとに何がなされたかに気づいて暴れるハル。
だが次第に動きが緩慢になっていく・・・。
「おやすみ、ハル君。次に起きる時はもう冥王星だよ。」
大尉のその声が意識を失う直前のハルには死刑宣告のように聞こえた。
52 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/01/31(水) 20:36
「どうですか?」
「まだ軽い症状の方でしょう。ひどいのになると錯乱してガニメデまでわざわざ行ってレーザーをぶっ放したのもいる。」
「それにしても油虫云々というのは一体?」
「それ以上は、ああ、軍機ということになりますな。」
「軍機?あの一少年の症状が?それは」
「それを尋ねるのも軍機ということになりますかな。」
「・・・現場の軍医ごときにはしゃしゃり出て欲しくない、そう言ってるように聞こえますが?」
「物事をどうとらえるかは自由だが、それを口に出すのは賢明な態度とは言えませんな。」
「了解しました。どのみちあなたはこの船には乗っていない事になっています。
幽霊に物を尋ねるのはやはり賢明な態度ではないでしょうね」
「そこまでわかっているのであれば申し分ない。ハル君と船長以外は私の顔を知ってはいけない。
そう決められている。あの冥王星に何が潜んでいるかを確認するまでは。」
「やはり冥王星が元凶なのでしょうか。」
「サンディ君。君はその魅力ほど頭が働かないようだね。」
「どういう意味ですか?」
「二つある。
一つは私は幽霊なのだから私に問い掛けても無駄だ、と言うこと。」
「もう一つは?」
「冥王星が元凶、その程度の問題なら地球連邦は総力を挙げたりしない、そういうことだ。」
二人の軍医の短い会見は終了した。
ハルは夢を見ていた。
赤い大地が地平まで続き、地球の月より小さい衛星が望まれて、
その向こうに青い惑星が望める場所だった。
火星。火の神と言われた星の大地にいた。
ハルは宇宙服のホットマイクが伝える自らの呼吸に気づいた。
「は……」
「ハル」ヘッドホンから声がする。その声は後ろからの物であると
直ぐに解った。ハルは振り返った。
「……」十六歳の少年は言葉を失った。
汗だくになりながら、ハルは飛び起きる。低血圧とは縁がない。
薄ぼんやりとした視界は、そこが宇宙船の一室であることをハルに伝えていた。
相変わらずの片肺飛行のような意識が正常な記憶に揺さぶりをかけて、そこにあるものの認識を妨げる。
映像。油虫の映像。火星を埋め尽す油虫。赤茶けた大地に黒の密集。
プルート・ミラージュなのだろうか?そう信じたい。だが。
自分の中にどうしようもない汚泥が溜まっている。それは確信だ。
「人が変われるのなら」どこからか声がする。
「それは成長ではなく、進化すること。そうは思わないかね?」
ハルには答えがわからない。それに構わず声は続く。
「人は進化しつづけてきた。だがそれは何世代もの時を越えてだ。
1世代で進化することはできない。人は進化に耐えられない。
それでいて進化は急務だ。宇宙に対応する人類は待ち望まれている。」
声は一切の感情が含まれていないように聞こえる。
神を信じていない宗教家の説法を髣髴させる声。
「我々は君に伝えなければならぬことがある」
55 :
名無し左京:2001/02/01(木) 10:33
「・・・俺には信じられねぇな」
宇宙技師訓練センターでの、ラム・アレン統括参謀自身による今回の大事故の
合同記者会見が終わったあと、「デイリーASIA」記者の小笠原 毅は
椅子に座ったままそう呟いた。まだまだ続いていた質問を打ち切って会場を去った
アレン参謀に対する不満と怒りの空気が残る会場は、まだ熱気とざわめきを失っていない。
「・・・何がです?毅さん」
取材に同行していた同僚女性カメラマンのケイトが聞く。
「訓練センターの港内で、中型武装艦のメイン・エンジンが暴走、爆発?
21世紀なみのアクシデントだぜ? あり得るか? 3重4重のセーフティ・ロック
があるんだぜ?」
「でも、あの悲惨な現場を見れば一目瞭然ですよ・・・・」
「俺にはそこが解せねぇな。普通ならあの守秘義務でガチガチの連邦局が現場を公開なんてするかね?」
「しかし、22名の人命が失われたわけだから、さすがに公開しないわけには」
「・・そのうち13名は技師試験にパスしたばかりの訓練生ってか」
「補欠待機の少女まで巻き込んでます。補欠とは言え、立場は民間人ですから
連邦宇宙局始まって以来、初めて民間人の死者を出したわけで・・・」
「・・・・しかし、ホトケの全部が黒こげで性別も年齢もわからねぇときてる」
「・・・毅さん、何が言いたいんです?」
「・・ちっ。何でもねぇよ」
話を切り上げた小笠原毅が、そっと呟いた次の言葉は、ケイトには
聞こえなかった。
「・・・・ホントに不慮の事故か?・・ホントに死んでるのか?」
56 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/02/01(木) 20:41
地球・軌道上統合管制センター 地球圏標準時2月1日21時35分
冥王星域探査ステーションNOVA4通信途絶の最初の報告から14時間が経過した。
1157号コロニーでの事故の後始末もろくに終らないうちにこのざまだ。
悪態をつく管制員たちの表情も暗い。
すでにガニメデの近辺にいた探査船に急遽NOVA4へ向かうよう指示は出されていた。
だが神ならぬ身の管制員たちにはその探査船に13名の訓練生と1名の補欠が乗っている事など知る由もなかった。
宇宙保安軍連合艦隊司令長官アンドレビッチ・カマロフは
連合艦隊所属の軍艦五十隻を率いて冥王星空域を目指していた。
土星軌道を出発して十五日、いくら世界や未来が発展しようと
冥王星はまだまだ遠隔地であった。
「長官」伝令の下士官が後ろに立っていた。
「なんだ?」
「冥王星より入電です」
58 :
denpa:2001/02/02(金) 19:51
たん♪た♪たりらりらん♪
「なんだ、この音楽は?」カマロフは己の聴覚を疑った。
艦内に音楽が流れるような時間ではない。すぐそばの艦長も不審な表情をしている。
旗艦の風紀が乱れている・・・?そういうわけではなさそうだ。
それにこの曲は聞いた事があるぞ?
艦長の呟きを耳にとめたカマロフ指令は、顔をこわばらせた。
全く同じことを考えていたからだ。この曲・・・この曲!
なんの曲だ?わしは遥か昔に聞いた・・・気がする。
冥王星からの入電は簡素なものだった。
「NOVA2より臨時探査艦隊指令へ。
冥王星宙域へ未確認の物体が不確定多数侵入しつつあり。
現在のところ隕石や流星であるとの確証は得られず。
確認後再度連絡す。」
60 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/02/03(土) 01:03
冗談ぬきで面白くなってきてるんであげ
「NOVA4インサイト、画面に出します」
女性隊員が言う。
ハルが精神錯乱に遭っている頃、彼を乗せた探査船はNOVA4まで
二時間の距離に近づいた。超望遠ビデオシステムがスクリーンに、
碧色のステーションを映し出す。何処か変だった。
「やはり駄目か…」
マイク付きヘッドホンを外し、長髪の男性隊員が操作卓から頭を上げた。
「通信相変わらずクローズドです。NOVA4応答しません」
スタートレックのピカード艦長似と言われる航宙長の士官は
報告をきき、スクリーンを見、手元の端末を操作して幾つかの情報を参照した。
と、下士官が現れた。
「司令部から入電。即時停船シ待機セヨ。連合艦隊トノ会合を命ズ。
会合予定ハ十二時間後。標準時二十三時五十一分。尚連合艦隊トノ交信許可」
「なに?」ピカード艦長似の頭が光った。
探査船、船長室。船長と二人目の軍医の会合。
「連合艦隊の方は貴官のことは承知しておるのですか?」
「まさか。政軍分離というのが我が連邦の麗しい伝統です。おそらく私をみても軍医としか思わないでしょうな」
「白衣を着ていれば誰でも医者には見える、確かに」
「軍は荒っぽい解決を考えているかもしれません」
「それは例えば生存者を確認せずにNOVA4を砲撃するような?」
「ハハハ、それでは白痴だ」
「軍医にしてはお言葉が過ぎますな」
「全く。少しはカバーを生かす努力をしましょう」
「軍はそれにしても何を考えているのでしょうな。50隻の軍艦?知られざる宇宙人が攻めてきたとでも?」
「あるいはそうかもしれません。そうでないかもしれません」
「・・・NOVA4・・・冥王星に何が起きているのですか?」
「ああ、私はこういうときは一言で返すようにしているのです」
「というと?」
「それは軍機ですな」
地球連邦政府の特務諜報員はそう言うと形容しがたい笑みを船長に向けた。
あ、3行目と4行目の空白はミス。
十時間後、こちらへ向かってくる武装艦が放つ標識灯群を、
居住区内談話室備え付けのスクリーンで見て、綾乃が不審そうに言った。
「あれが連合艦隊? それにしてはずいぶん数が少ないんじゃない?
小さい艦ばかりだし」
「そんなわけないだろ。あれは前衛の駆逐戦隊だよ」訓練生の一人が応じた。
「へー。あんた詳しいじゃない」
「まあね。親父と姉貴が軍人だからな」
少し離れたところでトランプをしていた二人が、
この会話に興味を持ったと見えて、こちらへやって来た。
「俺たちもまぜてくれよ。で、軍をよく知ってるキミとしてはさ、
連合艦隊がこんな太陽系のはずれに集まってきてるのはなぜだと思ってる?」
「うーん」
赤毛の訓練生はちょっと考えてから口を開いた。
「連合艦隊はいつも一緒に行動してるわけじゃないからね。
普段はあちこちに分散してるんだ。それがひとつに集まるのは、
太陽系全体に関わる問題が起こった時だけなんだよ。だから、
最近この冥王星域で起こっている事件が、その『太陽系全体に関わる問題』
であると、軍令部が判断したからだと思うね」
66 :
名無し左京:2001/02/03(土) 23:43
<我々は君に伝えなければならぬことがある>
それは「言葉」ではなく、ひとつの明確な「意志」であった。
ハルの頭の中に直接、その声は語りかけ続けていた。
<君は冥王星に降りなくてはならない>
「僕が?・・・冥王星に? なぜだ、そこに何がある?」
そのハルの質問には答えず、声はさらに続ける。
<恐れてはならない。歩みを止めてはならない。
我々はここまでやって来た。君たちはそれに応えなくてはならぬ>
「やめろ。僕にはわからない。なぜ僕なんだ。あの映像はなんなんだ?
人類の進化が必要? おまえたちは誰だ?」
<滅び行くものはあのようになる。あの死の油虫の群れのように。
進化を受け容れず、現実を見据えることが出来なかった愚かな
種族の愚かな結末だ>
<忘れるな。ハル・ショーター。
我々はここまで来た。君は冥王星に降りなくてはならぬ>
「やめろ。もうやめてくれ・・・・」
ハルは絶叫した。そして、簡易寝台の上で汗まみれになりながら、
今度は確実に目覚めた。
67 :
名無しさん@お腹へった:2001/02/04(日) 00:48
目覚めたその部屋は空気が異常だった。大気の構成云々ではないが
曇っているようにも見えた。違和感、その言葉が一番正しいのであろう。
しかしその場所が医務室であることには変わりなかった。
「ああ……」
脳の表面を針で刺すような痛みがした。彼は掌で頭を押さえ、痛みに耐えた。
油虫、火星、様々な映像がその痛みに収束して、ぱっと瞳の裏側で光が射したかと思うと
今までそれらが存在していなかったかのように、消えた。消えたと思うとまた瞬く。
その繰り返しがしばらく続いた。彼は頭を抱えると、哮った。
「僕になんの用があるんだ!」
部屋の隅で低いモーター音を立てながら、監視カメラが作動している。
そのカメラの捉えた映像を、白衣を着た特務の諜報員は無表情を表に出して
見つめていた。
「艦隊司令部と連絡が取れない?」管制部長の報告を受けた宇宙軍軍令部総長は、部下の正気を疑う目となった。
「はい。旗艦マッターホルン以下司令部直卒艦隊、全て応答無し、です。」
管制部長は視線に慄きながらも、声だけは毅然と報告を続ける。
「先遣隊及び第二支隊は定時報告を受信、異常無しとのことです。」
「・・・・・・NOVA2を呼び出せ!」
69 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/02/04(日) 23:50
3
「静粛に諸君!」
緊急招集された面々は、議長の声に注意をはらう余裕はなかった。
70 :
名無しさん@お腹へった:2001/02/05(月) 03:30
数分してようやく会場は静まってきた。会場にいる十人強の男女全てが
若者だ。宇宙技術訓練センター十七期入所予定だった者と、一人の候補生である。
皆がまだあどけない表情を持っていたが、目つきがどことなく普通の若者と違う
洗練されたものがあった。選ばれた者、そういう雰囲気があどけなさから垣間見えた。
綾乃・ベッケンバウアーは次第に静まりゆく、国会の予算委員会でみるような部屋で
幼なじみの姿を探していた。しかしその姿はなかった。
「冥王星の衛星カロン鉱石採掘の実地訓練は」もう七十代になろうかという議長は
立ち上がり話し出した。「中止になった。我々は冥王星域で人類がおそらく最初に体験するで
あろう、恐るべき"とあるもの"を先日発見し、ステーションNOVA4はその"もの"の
調査に使用されていた」
議長はゆっくりと優しい老人の口調で話していった。
71 :
話ぐちゃぐちゃなのでまとめ:2001/02/05(月) 12:36
綾乃はこれまでに起こったことを頭の中で必死でまとめていた。
あたしは宇宙センターに補欠で受かったんだけど、ちょぴっと遅刻しちゃったんだよね。
で、事故があって避難して、いきなりハルが胸触りやがったから何時ものように
猫だまし+アッパー+踵落しのコンボ(ハルは精神崩壊って呼んでるけど)食らわせたら、
ハルのやついきなりおかしくなったから教官にうたれたんだっけ。
で、ハルの馬鹿を宇宙探査船の医務室に運んで、予定を早めて出発になったんだっけ。
面会謝絶で会わせてもらえないけど、ハルのやつ生きてるかな?
で今、船内の大広場でお偉いさんの立体映像による通信が届いてるってわけね。
彼女は知らなかった。
ハルがおかしくなった理由も、冥王星ステーションが危険になっていることも
自分たちが情報操作によって死んだことになっていることも。
そのお偉いさんの話が続く
「そして、君たちに一つの任務を与える。その”とあるもの”を調査して欲しい。」
正体不明の物体の調査を、真空中での作業経験のない
訓練生にやらせるという議長の言葉に、会場は不審のどよめきを上げた。
「あー、ちょっと静かにしたまえ。
現段階で最も”それ”の正体を知っているのは、NOVA4の作業員だろう。
”それ”の調査のためには彼らの持つ情報が必要になるはずだ。
だが、通信が途絶したままで無事なのかどうかすらわからん。そこで、
諸君はこれからNOVA2を拠点とし、NOVA4の復旧作業にあたってもらう」
君達に頼むのは君達にしかできない特別な理由があるからなのだ。
修復作業には勿論技官達が指揮を執り、実際の作業を進めるのだが
そこからさきつまり"それ"の調査研究その他には君達の持つ
ある能力が必要なのだ。
74 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/02/07(水) 14:46
「ではここから先は君たちの指揮官に説明してもらう。紹介しよう、モハンマド・タワド大尉だ」
議長は浅黒い肌の男を指し示すと、口を噤んだ。
その男は腕を組み、沈思黙考しているようだった。
明らかに険しい表情。その視線は綾乃を貫いている。
「タワド大尉・・・?」議長が再度呼びかけるまでの十数秒、場は凍り付いていた。
「失礼しました、議長。ようこそ冥王星へ、候補生諸君!
私は地球連邦宇宙軍情報局特殊戦術部のモハンマド・タワド大尉です。
あなた方は臨時に私の指揮下に入っていただきます。これは宇宙技術訓練センターからも了解をとってあります」
タワド大尉は張りのある、いかにも軍人らしい声だった。
「NOVA2到着後、我々はステーション連絡船に乗り組み、NOVA4に向かいます。
同行者は連合艦隊所属の技術士18名、護衛の兵が54名、それに私と君達です。
連合艦隊の駆逐艦が1個戦隊、NOVA4まで護衛します。
NOVA2の到着3時間前までは行動は自由です。質問は?」
中央あたりに陣取っていた女性候補生が手を上げた。
「キム・ナムスン候補生です。大尉、どうしてもお聞きしたいことがあります」
「どうぞ」
「私たちは候補生です。なんら技術訓練も受けておりません。その私たちがなぜこのような
任務に選ばれたのですか?」
「宇宙技術訓練センターは軍の施設ではないが、ほぼ軍の影響下にあるといっても過言ではありません。」
「え?」
「私があなた方に丁寧な言葉を使っているのは、あなた方が軍人ではないからです。」
「質問への答えになっていません!」
「では答えましょう。それは『軍機』です。」タワド大尉は歪んだ笑顔を候補生達に向けた。
ハルの魂は蝕まれている。
逃れ様がない灼熱の砂漠、そこは地獄なのか。
問答は凄惨さを増していく。
「君は何をもって真実を確信する?」
優しくすら聞こえる声。
「この数日間、混乱しているだろう?目の前でおきた現実が現実ではない状況。
どこまでが本当のことだろうか?目の前の現実を認識できないという事はどういうことだろう」
意味がわかるようでわからない。
「真実はどこにあるのだろう」
声は淡々と、ただ淡々と続く。
「君は目の前以外、伝聞や映像などの情報を事実かどうかどう判断している?」
そんなことを言われても、考えたことも無い、とハルはぼんやりと思う。
「今まで培ってきた常識から、その情報の確度を割り出して判断するだろう?」
そう言われて見ればそうかもしれない。
「ではもう一つ質問しよう。飛びこんでくる情報が全て真実だとしたら?」
また訳がわからなくなった。
「目の前で起きたことは現実だとしよう。現実は常に真実だ。」
もうやめてくれ。
「君が、全てを知覚できるとしたら、情報は全て真実になるのではないかな?」
全てを知覚?
「全人類の行動を知覚できるなら、嘘は消えるだろう。それは真実になるだろう?」
・・・考えがまとまらない
「君たちが神と呼んでいる存在にもなれるかもしれない」
77 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/02/08(木) 00:02
平将門の時代、遠州美保の松原の浜に一人の女、おときがやって来た。
おときは服を脱ぐと泳ぎ始める。
浜の漁師、づくが木にかけられている女の服を見つけ、
その見たこともない衣服に見とれ、自分のもの
にしようとする。
それに気づいたおときは服を返してくれるよう頼む。
遠い空の国から来たというおときの話しに、づくはおときを何でも願いを
きいてくれるという天女だと思い
こみ、3年間だけ一緒に暮らすという願いをきいてくれたら服を返すと言う。
こうしておときは3年の間だけ暮らすことになった。
時がたちいつしか情も通うようになった二人の間には子供も生まれ、3年が経った。
このまま暮らすか去るか迷うおときであったが、そんな時、いくさの徴用でづくが
兵隊に取られそうにな
る。
おときはしまっていた服を都からの使いに差し出し、づくを見逃してくれるよう懇願する。
づくは、おときが止めるのも聞かず、服を取り返しに行く。
それから更に1年、おときはづくの帰りを待ち続けたがづくは帰って来なかった。
おときは千5百年の未来から来た未来人であった。
未来の戦争で孤児となり収容所に閉じこめられていた時、目の前に火の鳥が現れ、
好きな所に連れて
78 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/02/08(木) 00:15
三つ首オウム「いまのなしいまのなし77なしなしなし」
79 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/02/08(木) 00:27
「君たちが神と呼んでいる存在にもなれるかもしれない」
荒唐無稽。
誰もがそう思ったにちがいない。
だが、笑い飛ばすことはその場にいる誰にも出来なかった。
80 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/02/09(金) 17:35
艦橋は控えめに表現しても悪夢というべき情景だった。
マッターホルンは最早、軍艦の体をなさない他の何かとなっている。
マカロフはオペレーターの一人に噛みつき、副官は血まみれで悲鳴をあげながらのた打ち回り、
それ以外の要員も似たような状況に陥っている。
狂気、というだけでは表現できないもの。
纏わりつく悪意に人々は踊る。踊る。踊りつづける。
悲しむべきことに、この悲惨な眺めは連合艦隊司令部直卒艦隊、全てで同時に発生していた。
神よ、この者らに救いを。
デイリーASIA記者、小笠原 毅は、月の宇宙港で懐かしい顔を見つけた。
「ジョン!」
「毅か! 元気でやってるか?」
「おう、まあまあ元気だ。ちょっと話さないか、急ぐのか?」
「大丈夫だ。1時間半ある」
彼、ジョン・パッカードは大学在学中に学友4人と
コンピュータ・プログラム会社を起業した。
はじめの2年間はまさに綱渡り経営だったのだが、その後、
従来には無い新しい情報暗号化技術、「レッド・システム」を開発し、
大成功を収めたのだった。
喫茶店は出港時間待ちの客でいっぱいだったので、
二人は販売機でドリンクを買い、手近なベンチに掛けて話した。
近況や共通の友人の情報交換が一通り済むと、毅は話題を変えた。
「昨日、例の事故の遺族に会ってきたんだ」
「そうか、……あれは気の毒だな」
「それでな、遺体を見せてもらえないんだとさ。
子供さんの無残な姿を見るのはつらいだろうからってな」
「まあ、そうだろうな。性別もわからないくらいらしいじゃないか」
「たしかにそうだ。だがどうも気になるんだ」
ケイトは月に住む両親に会いに行っていた。待ち合わせまであと4時間ある。
その時ふと、毅の脳裏にある考えが浮かびあがってきた。
「たしかレッド・システムは軍も採用したんだったな」
「ああ、少し手を加えているがな。それがどうかしたか?」
「……解読できないか?」
宇宙軍軍令部総長は統合軍最高会議の席上で前置きもなく、こう言った。
「事態は危機と言うべきです」
彼ほどに情報を掴んでない者は著しい不審の目を向ける。
「あー、冥王星でNOVA4とかいう探査基地が応答不能になった件がどうしてそうなるのですか?」
大統領の顧問官が猜疑心の強い視線で宇宙軍令部総長を睨むように見る。
「簡潔に申し上げます。現在起きている事態は我々の把握している限り以下のものです。
@探査船K071の消失、推定時刻1月7日〜1月8日3時
A標準時2月1日7時、冥王星探査基地NOVA4の通信途絶
B標準時2月2日18時、臨時調査艦隊旗艦マッターホルン及び司令部直率艦隊の通信途絶
C標準時2月3日1時、冥王星探査基地NOVA2より未確認物体の冥王星域大量侵入との報告
D標準時2月3日9時17分以降、冥王星域全域との通信途絶。
以上となります」
会議場は静かだった。偶然が重なるにしては程がある、と誰もが思っている。
事態はこの時点でも悪化しているのだ。
83 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/02/10(土) 23:40
「なんということだ……」
84 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/02/11(日) 15:21
「現在、冥王星域の探査基地NOVA1、NOVA2、NOVA3、臨時調査艦隊の先遣部隊、第二支隊、
全て通信が途切れております。これは何か意図的な情報遮断の可能性もあります。」
宇宙軍令部総長は着席した。言うべきことは言ったのだ。
本来なら統合戦略局の情報部長を連れてきて発言させるべきだった。
しかしこの数日前に発生した中型武装艦の事故の隠蔽処理のため、わざわざ現場へ飛んでいるのだ。
もちろん軍令部総長は軍がひた隠しに隠しているある事実を政府に告げるつもりはなかった。
外敵。地球連邦は内乱に備えた軍隊ではある、が、外敵の存在はほとんど考慮していない。
必要性がなかったためだ。では何故、軍は動く?
兆候があったからだ。だからこそ軍は動いている。
しかしその状況がもたらす混乱を思えば自然、動きは慎重となる。
緩慢な対応しか出来ないであろう無能な現政府。
意味もなく民衆を縛ろうとする官僚と政治家。
軍は人類の未来の為にあえて泥を被る決意を持った。
その新しいフロンティアで人が生き残るために。
85 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/02/11(日) 18:42
「なんで気張って、そんな難しい言葉使おうとするんだ」
これが難しいか?早く日本人やめちまえ
核の閃光が冥王星を包んだ。
88 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/02/12(月) 02:01
その瞬間皆がBeast化し始めた
野獣の本能が皆を狂気の渦に引き込んでいく
89 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/02/12(月) 22:48
闇の中に声がこだまする。
「現在、およそ六人の覚醒が確認されています」
また、違う闇からもつまらなさそうな声が返ってきた。
「たった六人ンン?思ったより少ないねェ、
でも、男性体と女性体が半々で丁度いい。
・・・そんで残りはどう?まだ使えそうなのはいる?」
「皆無です。六人以外はすべてbeast化しました」
「あ っそ。じゃ、JK投入して片しといて」
「ジェノサイドキッズの無断使用は許可されていませんが?」
「えー、だってアレヤヴァイじゃん。あんまり近づきたくないんだよね〜
・・・・・・それとも君。行ってくれる?」
「私に与えられた主な役目は、軍の介入を妨害する事であって
貴方の補佐はあくまで副次的なものでしか在りません。あしからず」
「ちぇー。
ま、いいや。責任は僕が被るからJK10〜18まで出撃ね。
最優先事項はBeastどもの抹殺と覚醒体二、三体の奪取。
できれば軍から来たカスどもも殺っちゃっていいよ
・・・・・・という事でよろしく」
「イェッ サー」
いつ出撃する時間も決めていないというのに早くも
立ち去ってしまった上司を見届けた後、これからの計画を打診する為に
彼は“直属”の上司に超空間通信を開いた。
90 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/02/14(水) 07:31
パキューン
乾いた銃声が響いた。
91 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/02/14(水) 14:02
そして全員が死んだ。
−−−−−−−第1部完−−−−−−−
92 :
そして:2001/02/14(水) 15:20
第二部 突入!冥王星探査基地NOVA4
そのころ、探査船は冥王星の目前まで接近していた。
そして船内では、ブリーフィング(作戦会議)が行われていた。
「現在、こちらの通信はNOVA2を含め一切不可能な状況に陥っている。
原因は不明だ。本船の護衛に当たるはずの護衛艦が到着する様子はまだない。」
ざわめき声が辺りに漂う。が、中佐は構わず話を続ける。
「本艦はこれよりNOVA2に寄港するが、安全である保証はない。
各員、油断することなく気を引き締めておくように。以上。」
93 :
そすて:2001/02/15(木) 01:32
その時、地球からの連絡が入った。
「スペースワールドに帰還せよ」
94 :
結局:2001/02/15(木) 12:44
あーしかしなんということだろう!
探査船派はついにスペースワールドに帰還できず、
宇宙のザーメンとなったのでした。
ティッシュに拭き取られたやつね。
***********終了**************
95 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/02/15(木) 21:24
冥王星幻覚症状の伝播は致命的だった。
宇宙に波立つ通信にも意味不明なものが蔓延している。
正確に情報を読み取れる軍人を、どの基地でも欲していた。
96 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/02/16(金) 03:34
しかしその軍人も軍備縮小
おまけに民間船との接触事故により
軍全体がマスコミの袋叩きに遭い
基地なんて相手にしてる暇などあるはずもなかった。
97 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/02/28(水) 00:16
了解しました。
了解しました。
了解しました。
了解・・・・・・・・。
98 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/03/10(土) 09:41
つづきは?打ち切りなの?
低脳がつづけるよりは、おわりしたい。
100 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/03/19(月) 18:13
「遥けき宇宙の彼方、未知なるテレインの更に深奥より」
誰かが唄うように呟く。
「もう窓を見るな、虹を見ることも永久にないのだから」
また違う誰かの声。
ハルは目覚めた、長い道程から。
どうしようもない猥雑で下劣な声たちがハルを惑わせていた。
そのどれもが途方も無い欺瞞、ハルを狂わせるための囁きなのだ。
罠だ。それは全て罠なのだ。
「冥王星からテレインへ。テレインを越えて深奥へ」
また唄う声。
終りは無いのだろうか。救いは無いのだろうか。
「もう開拓地はないのだから、私たちが得られるものは。
満足を永遠に求めて、見えるのは同胞の血。
『神は来れリ』『神は来れリ』
船に帆を張って、テレインへ渡るのもいい。
何年も何十年も前に人々がそうしたように」
ハルはコールドスリープから目覚めた。
101 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/03/19(月) 18:18
あげー。
うお! 誰も書く人いないから上げてみたら……。
103 :
ほりれい:2001/03/19(月) 18:46
お!こっちもおもしろそう!
俺も書いていい?
104 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/03/19(月) 20:31
書くなら頑張ってください。私はこの板はここしか見てませんが、
どこかで書いている方なんですか?
SAVE ME!
コールドスリープから覚めたハルがまず目にしたのは、
仰々しい書体で天井一面に書かれた英語だった。
SAIL TO TELEIN.
JUST LIKE A FOREIGNER DID!
靄に包まれた意識に刷り込むように文字が入ってくる。
テレイン…デジャヴー?いや、違う。何年も何十年も聞いてきた。
急速に浮上してくるイメージ。
「あの歌だ…」ハルはそう声に出したつもりだった。
だが極端にしゃがれた、呻き声のようなものが喉から漏れただけで、
言葉としてそれは実を結ばなかった。
突然の、強烈な恐怖の認識。
油虫。
混乱した記憶が脳を激しく揺さぶる。
猛烈な混乱に襲われながらもハルは視線を下方へとずらした。
そこにあるのは黒々とした艶のある肢ではなく、
見なれた、人間の、人類の身体だった。
106 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/03/20(火) 00:56
振り返れば青空だたよ。
結局邪魔が入るか。はい、終了。
ま、オチもついたしな。
109 :
名無し左京:2001/03/20(火) 19:59
「・・・・ハル・ショーター・・」
冷凍睡眠槽から起き上がったハルに、突然、後ろから
誰かが呼びかけた。
ハルはまだ朦朧とした頭脳と戦いながら、振り返る。
そこにいたのは、1人の中年の女性だった。
年のころは、そう、40歳を越えているだろうか・・・
しかし、年月を超えても、ハルがその女性を見間違うはずもなかった。
「・・・君は、綾乃・・綾乃・ベッケンバウアー・・・・・」
43歳になった綾乃は、限りない慈愛と限りない哀しみをたたえた瞳でそこに立ち、
いまだ16歳のままのハルを、じっと見つめていた。
「・・・おかえりなさい」
そして、綾乃は、そう言った。
110 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/03/20(火) 23:50
…続いて良いのか迷うが、第二部
駄目なら、本当にすいません。
ハルの意識はぼんやりとしたままだった…。
直立する足は幽霊のように浮いた感覚がして、
手の感触はひんやり、目の前の穏やかで小さい室内灯に
彼の瞳孔は反応し、収縮する。
「ボクは…」
機械の作り出すらしい音が壁を伝わって、身体の奥へ伝わる。
綾乃はその横で黙っている。皺があり、学生の頃の雰囲気は消え
重々しく、母たる威厳を手に入れたようだった。
「…………」
そして彼女は何も語らない。しかし充分の説得力を持った。
「どういう…」
う…身体の奥で何かが蠢いた。
自分が立っているのか、座っているのか、それすらもわからない。
心地良い痺れが体全体を取り巻いて、眼球までもが意思を拒む。
綾乃は霞の向こうだ。室内灯の微かな光は霞を貫ききれず、
周りで静かに澱みを見せている。
「まだゆっくりしていていいのよ」
解りやすい言葉が霞の向こうの綾乃から飛んできた。
言葉というよりは心、そう感じる。綾乃の心。
「おやすみなさい、ハル。おやすみなさい」
霞の向こうにいるのは本当に綾乃、君なのか?
体の奥の不快感は何時の間にか消えうせていた
112 :
名無し左京:2001/03/22(木) 11:29
2320年。今から28年前。
冥王星探査ステーションNOVA4からの緊急通信が、地球連邦本部を震撼させた。
NOVA4が、冥王星上から突如発生し始めた、人工的な信号をキャッチしたのである。
連邦局の徹底した情報統制の下、当時で最高レベルの学識経験者、技術者から成る
調査先遣隊が緊急に、そして極秘裏に組織された。
冥王星上に降りた彼らが発見したものは、透明な三角錐の形をした巨大な人工建造物
であった。
当時で知られる限り、太陽系には存在しない物質で構築されたその透明な三角錐から、
謎の信号は送られ続けていた。
完全な単体構造物である三角錐の内部を伺い知ることは極めて難しく、それが先遣隊
の最優先任務とされたが、14名からなる調査先遣隊は、二度とNOVA4に帰還
することはなかった。冥王星上での調査活動を始めて4日目に、彼らからの通信は途絶した。
「黒い。私は怖い。助けて」
それがジョン・リード隊長から送られた最後の通信であった。
連邦局の情報統制がさらに進む中、デイリーASIA記者・小笠原毅は、独自の情報網
により、冥王星域で何かが起きていることを掴んでいた。
全ては、そこから始まったのである。
113 :
名無し左京:2001/03/22(木) 18:18
再び、集中治療室のカプセルに運ばれ、眠りについたハルを、綾乃は検査室の
ガラス越しに見つめていた。
綾乃の脳裏に、この20数年の間、数え切れぬほど反芻した過去の惨劇の記憶
が、今また蘇っていた。
2031年。冥王星域の宇宙空間で起こったあの悲劇。
旗艦マッターホルンを初めとする地球連邦艦隊の、狂気としか思えぬ同士討ちに
よる壊滅。突如、錯乱状態に陥り、無差別な殺戮を始めた同期の技師候補生たち。
そして・・・あのおぞましい変身。NOVA1、NOVA3の核爆発。
狂気の船と化した探査船。正気を保った人間の、NOVA2への決死の脱出。
正気を維持していた人間たちこそが「覚醒」したメンバーであり、冥王星にあの
三角錐の建造物を出現させたものが欲していた人間だった。
我々人類が、決してそのような覚醒を望んでいなかったとしても。
脱出行のさなか、突如襲来した8体のJK。殺戮のためだけの生物兵器。
惨劇の上に重ねられた惨劇。モハンマド・タワド大尉の死。皆が狂気の中で
死んでいった。
JKを生みだした者達こそが、今の直接の「敵」だ。しかし、その背後の存在。
彼らを狂わせた「もの」は、今も冥王星に在る。あの三角錐を冥王星に出現させ
た存在が。
我々はあの場所に、還らなくてはならない。
この長い長い戦いに終止符を打つために。人類の未来と誇りを賭けて。
114 :
名無し左京:2001/03/22(木) 18:21
キム・ナムスンと綾乃。そして赤毛の訓練生、ラディ・バックマン。
2人の女性と彼だけが生き残った。
そして、意識不明の状態にあったはずのハルが起こした奇跡を、
彼らは見た。
そのひとりであるナムスンは、10年前の戦闘で「敵」の手に落ち、
行方が知れない。
彼女がすでに「敵」に洗脳され、彼らの傀儡とされていることは想像に
難くなかった。
「敵」は今も欲している。綾乃やバックマンのように「覚醒」した
人間を。
そして、最も強力な覚醒者、ハル・ショーターを。
綾乃がそんな思いに耽っていたとき、側にやって来た下士官が
綾乃に告げた。
「小笠原大尉、ご家族の方が面会に」
「ああ・・・ありがとう。きっと、娘だわ」
綾乃は微笑みながら言った。
27歳の時、9歳年上の小笠原 毅と結婚した綾乃には、今、16歳
になる娘があった。名を、小笠原琴音といった。
115 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/03/22(木) 18:44
「ゆるやかに」技師の1人が抑えた声音で部下を叱責する。
装置を手早に操作する技師の緊張は、周りの人間をも包んでいた。
制御室はこの時だけ、大幅に人口を増やしている。
大勢の制服姿の人間が、制御室のガラスの向こう、
集中治療室のハルの冷凍カプセルを見ている。
「一度、覚醒したそうじゃないか?」
「はい、大佐。しかし時期尚早でした」
「確かにな。状況がわからぬまま起こされたところで、戦力にはなるまい」
制御室のあちこちで繰り広げられるヒソヒソ話。
どれか一つでも新聞屋にリークしたら、俺の人生もお終いだろうな、
と技師は心の片隅でふと考えていた。
「108時間で全て完了です」技師の報告を受けて、制服連中は帰っていった。
その108時間の間に、ハルは過酷な現実を受け入れなければならない。
眠っているハルの顔を覗きこむ綾乃の目には光るものがあった。
ハル・ショーター
物語の主人公。宇宙技術訓練センター第十七期生。最も強力な覚醒者。
二十七年間の冷凍睡眠から目覚める。
綾乃・ベッケンバウアー
ハルの幼馴染。センターには補欠として入所。覚醒者。
レナード・ノッティングヒル
第十七期訓練生の指導教官。
小笠原 毅
デイリーASIA記者。綾乃と結婚し、琴音という娘がいる。
ラディ・バックマン
赤毛の訓練生。覚醒者。
モハンマド・タワド
大尉。JKとの戦闘で死亡。
キム・ナムスン
訓練生。覚醒者。現在行方不明。
油虫
プルート・ミラージュ(冥王星幻覚症状)にかかったハルが見た幻影。
三つ首オウム
たまに現れ、話に関係なさそうでありそうなことをしゃべる。最高にシューター。
「ジュブナイルになってきてるてる」
117 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/03/24(土) 18:30
あげとくぞ。
あまりにうますぎて俺にはリレーできない。
たぶん、他のやつもそうだと思う。
「黙ってな厨房」とか言われそうだけどあえて言う。
このスレッドはリレー小説として破錠した。
>>118 別に俺は名無し左京さんと115さんの二人がまわしてるの見てるだけでもいいよ
またムチャクチャな展開になるよりはハイレベルな人だけでやっててほしい
その方が面白いし、何より見てて不快じゃない
いや、そんなこと言わずに書いてみてよ。
左京さんは確かに上手いけど、
それに比べて俺の文は真似ッこの悪文だから、誉められるほどではないし。
さらに言えば俺が書くと、どうも精神系の小説になってしまう。
他の人が書いたのを見て、俺も勉強してるので、是非。
特に名無し左京さん。
121 :
名無し左京:2001/03/25(日) 22:18
「・・・君と話したいと、ずっと思っていたよ」
爽やかに晴れ渡った6月のはじめの午後。
綾乃と3人で取った昼食の後で、自宅のテラスにハル・ショーターを導いた
小笠原 毅は、そう言った。
「初めて話すという気がしないな。何せ、ずっと君を・・見続けてきたからね」
毅は小さく笑って見せた。
デイリーASIA社を退き、今は大学で教鞭を取る毅は、人生の年輪を
感じさせる風貌を、いつしか身につけている。
誘われるままにテラスのアームチェアに腰を下ろしたハルの口数は少ない。
3日前に軍の医療施設から退院を許されたばかりの身であり、その身柄は大尉で
ある綾乃の預かるところとなっている。
108時間に及ぶ、記憶の呼び起しと、知識の植付けによって、ハルは現在の
自分が置かれている立場を、すでに理解しているはずだった。
その辛さを察し、毅は、どこから話を切り出していくべきか思案していた。
初夏の陽光に眩しげに目を細めているハルの瞳は、風のない湖面のような
静けさを漂わせたままだ。
それは、16歳の少年に似つかわしいと言える類のものではない。
「・・・何か飲むかい?」
毅の問いに、ハルはややあって答えた。
「・・・・・いえ、結構です」
=============================
「油虫」という発想は、私にはとても出来ないもので、最初、
なかなかショックを受けました。しかし、今では「油虫」が
この小説の重要なファクターのひとつになってきており、とても
面白いと感じているところです。
このスレは、立てた時点で当然、私などの手からは離れている
わけですから、たとえハチャメチャで荒唐無稽な展開となろうが、
多くの人が縦横無尽に書き込んでいくことが「リレー小説」の面白さ
と言えましょう。
別に続かなくなって終わりなら、それもひとつの在り方でしょうし。(笑)
===============================
俺は頑張って油虫を活かしてたのだけど、幻影ということになってしまった。
クスン…
とりあえず続きがんばりましょう
124 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/03/25(日) 22:49
「テレインとは何なのですか?」
ハルの唐突な質問はテラスを緩やかに抜けていった。
小笠原は少し間を置いて、敵のいるところだよ、とだけ答えた。
敵ですか
うん、敵だな
静かな会話だった。ハルはそっと黙りつづけている綾乃を見た
綾乃は口をはさまない。
28年の月日が軽やかな少女を変えていたことに、やがてハルは気づいた。
そしてその事実は未だ若きハルにとっても、綾乃にとっても重荷になるのだ。
125 :
116:2001/03/25(日) 23:03
>>115 すみませんでした〜。
あのですね、あれ、幻影ってことにするつもりは全くなかったんですよ。
これからどんどん重要になっていくだろうから、
一応書いておこうかなーと思ったのです。
幻影以外の書き方するとネタバレみたくなっちゃうかな〜、と。
というか、116自体不要でしたね。ごめんなさい!
いやいやすみません>116
けして批判するつもりはありません。
ジョークと受けてくださればありがたいな〜、ってむしがいいかな?
ずいぶん長いリレーなんで、どこかで一回まとめないといけない、
(書いててわからないことが多い)と思ってたんで、むしろ116は
ありがたいですよ〜
とりあえずあんまり書くとリレーの雰囲気を損なうのでそろそろ戻りましょう。
127 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/03/26(月) 14:01
小笠原はため息を殺すように唾を呑み込み、おもむろにハルに言った。
「最後の瞬間は思い出せたかな?」
「ええ」疲れが意識を濁らせている時のように、ハルには精彩が無い。
人間が本来持つ大事な何か…それが今のハルからは感じられない。
乾いている。あるようなないような、そこにいるようないないような、
ガラスのような存在…
綾乃は未だ黙している。言葉はハルを救えない。
28年…覚醒者でありながら、ただ眠りつづけてた28年が、
ハルを押しつぶそうとしている。それがわかっているからこそ黙っている。
「JK…テレイン…冥王星…油虫…覚醒者…」
呪詛のような小笠原の声。
それは知りすぎてしまったために仕事を失ってしまった男の、本物の思いなのだろう。
「JK」ハルは視線を落とし、呟いた。
「あいつらは同じ人類だった」
128 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/03/26(月) 14:24
「もちろん極秘だがね」
「あの時…」ハルの声は沈んでいく。
あの時、僕の目の前で次々と人間が何か他の者へと変わっていった。
ずっと船の病室で寝ていて、まともに会話に加われなかった僕に、
最初に声をかけてくれたアレッサンドロも。
リーダーのように振舞っていたバルバロも。
本当のプルート・ミラージュには耐えられずに変わってしまった。
変わってしまった奴らは船の人々を殺し、そして殺された。
タワド大尉と生き残った僕たちは、軍のやっぱり生き残った人達と、
救命船に乗りこんで、NOVA2へ向かった。
そこへJKが来た。
隔壁をこじ開けて、含み笑いを浮かべていた。
「助けにきたよ」と言ってタワド大尉を殺した。
咄嗟に銃を握った僕を、壁に叩きつけた。
そこで気絶したのだと思う。
あとは覚えていない。
129 :
名無し左京:2001/03/28(水) 13:54
・・・ラディ・バックマンの記憶。
「・・・・ラディ! キム!」
レナード・ノッティングヒル中佐の緊張した、しかし凛とした声が響いた。
船内には次々と爆発音が響き、レッドランプが激しく不規則に明滅する。
警戒信号が鳴り渡り、辺りには靄のような煙が充満し始めていた。
まだ生きているマザー・コンピュータが、船内の状態を維持すべく次々と
防護隔壁を閉じていく。
「は、はい!」
ラディとキムは、レナードの呼びかけに懸命に応答する。
「候補生と言えど、ブラスターくらいは撃てるなッ?!」
「候補生と言えど、ブラスターくらいは撃てるなッ?!」
130 :
ラディの記憶:2001/03/28(水) 20:41
数々の音が船内を一方的に騒がす。信号音は鳴り止まず、
鼓膜を他のごちゃ混ぜの音響と共に突き刺した。
「タワド大尉!」
ノッティングヒル中佐が何かタワド大尉に言っているのがわかった。
内容までは聞こえない。何が起きているのかも掴めない。
防護服をキムが手渡してきた。キムの不遜な顔立ちに緊張の色が見て取れる。
警護の兵士が3人、強化合成盾を持ってやってきた。
通路を塞ぐように盾を構える。この通路の隔壁、そのすぐ向こうで何かが起きているのだ。
「下がっていてください!」兵士が怒鳴る。
色々な音響の中に、新たな音が加わり始めた。隔壁がゆっくりと裂けている。
誰かが向こうから入ってこようとしている。
隔壁を破るほどの膂力を持った何かが。
「行くぞ!救命艇の用意はできている」タワド大尉が手を引っ張ってきた。
その言葉に従って、救命艇のある格納庫へキムと一緒に走り始めた。
通路を曲がる瞬間に少しだけ、あの隔壁を見た。
隔壁を破ってきたのは、1時間前までの友人たちだった。
131 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/04/03(火) 22:54
(切望アゲ)
「君を、殺さなければならない」
そうだろうな、とハルは思った。
この家が監視されているのは、来た時からわかっていた。
実際、陸戦隊一個旅団に包囲されており、
長距離砲の照準もこの家に合わせられている。
「もし、君が敵側につくなら、だけどね」小笠原は続ける。
「かといって、戦うのは嫌だ、のんびり暮らしたいんだ、
というのは許されない。既に平和は破られている」
「秘密を知っている人間が沈黙を守りつづける、等ということはお偉方は信じないんだよ」
小笠原は立ち上がった。
「私からできる忠告は一つ。君は我々を救える。だが人類全体を救えない、そういうことだ」
ハルは座ったまま、全く表情を変えずに言った。
「僕はあいつらを殺します。あいつらは僕の友達の命をためらいなく奪った。
僕が敵側につく?敵というのはなんです?同じ人類でしょうに」
小笠原の温和な顔立ちを、不釣合いな冷笑が駆け抜けていった。
「確かにそうだ、同じ人類だ、同胞だよ。同じ惑星で生まれ、
似たような環境で育ち、そして決定的に違った発想をする奴ら。
確かにハル君、君が敵になるわけがない。
ところでそろそろもう一人、登場人物を増やしていいかね?」
「お好きなように。ただ、最初からティーカップの数が合っていませんでしたね」
それを無視するように、小笠原は一人の男をテラスへ招き入れた。
「元軍医役のミカエル・ムスフ君だ」
「久しぶりだね、ハル君。16年ぶりかな?プルート・ミラージュは治ったかい?」
気持ち悪いほど下がってるなあ。
最近、ここの板も過疎板じゃなくなってきたのかな?
また一週間ほど研修なんで誰か続きを書いてください
136 :
名無し左京:2001/04/12(木) 00:50
ハルは、頬に薄い笑みを浮かべた。
それは、自虐の笑顔だった。
私が知っているハル・ショーターは、決してこんな表情を見せたことは
なかった・・・その思いが綾乃の胸を鈍く刺した。
「みんなが僕に、ひさしぶり・・と言うんですね」
視線を足元に落としてハルは言う。
「・・・・・僕は何も、誰も、知らなかったのに」
ムスフの表情に、一瞬だが、この時空を超えてしまった若者に
対する憐憫が浮かんで、消えた。
「いいかね、兄弟」
貧民窟の中でも最も下等な人間どもが集う裏通り、その端に汚物まみれの息を
吐き出す老人がいる。意味もなく、精力的に演説をまくしたてる老人。
「人類はな、冥王星まで行った。そしてテレイン!油虫どもを退けて、一万光年の長征だ!
あんたらに会えなければ人類は終っていた。運命がね、そうなっている」
彼が話しているのは未知なる宇宙のフレンドだ。もちろん他の人間には見えないフレンド。
今日もフレンドに囲まれて、老人は幸せだ。
おやおや紳士諸君、待ち給え。まだ話は続くのだよ。君たちはまさか、この痴呆の老人が、
くだらない妄想をわめきたてるこの狂人が、我らがハル・ショーターとでも思ったのかね?
だとしたら、それはどうしようもない侮辱だ。
人類最強の覚醒者として、我らが代表として戦いを続けてきた英雄ハルへの冒涜だ!
おや?不思議そうな表情をする。どうしてかね?
なんだって?ハルはならば、どこにいるのか?だって?
バカだなあ。正真正銘のキワメツケのバカ。
目の前の通り、あそこだよ。
老人の脇。
あそこで虚ろな瞳で演説を聞いている、浮浪者。
あいつはプルート・ミラージュでおかしくなっちまってね、
どうしようもないのさ。誰もあいつに何もしない。迷惑もかけないしな。
おい、待てよ、まだ話は続くんだぜ…
138 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/04/22(日) 13:09
話は終ったのだろう・・・
「応答せよ。冥王星域応答せよ。応答せよ、応答せよ……」
140 :
グラハム名無し:2001/04/22(日) 20:54
コールサイレンは終わる事なく響いていた。
そう頭の中で・・・。
141 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/04/22(日) 22:42
完
142 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/04/23(月) 00:56
おつかれさまでしたあ!
143 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/04/23(月) 01:22
はぁ、漏り上がったり漏り下がったり
忙しいスレだったな。
このようなスレを「躁鬱スレ」と云います。
って優香、俺が命名。
144 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/04/23(月) 02:26
いまだから言うが、ここを読んで古典SFを読むようになった。
「宇宙船ビーグル号」で感動した、2001年の春だ。
145 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/04/23(月) 04:01
終了ってことでいいのかな。
書き手の人もさすがに飽きたかな?
ここからは感想スレになりそう
146 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/04/23(月) 05:35
このスレの小説みたいなSFを読みたいんですが、
なにかおすすめありませんか?
147 :
ご冗談でしょう?名無しさん:2001/04/23(月) 14:46
「たったひとつの冴えたやりかた」J・ティプトリー・ジュニア ISBN4-15-010739-4
綾乃ちゃんみたいな勝気で可愛い少女が宇宙で油虫と出会ってしまうお話。
148 :
隊長:2001/04/23(月) 16:21
隊長!
「アナルから虫が出できました」
冥王星の鉱石を使って退治してもイイスカ?
149 :
名無し左京:2001/04/23(月) 23:15
終わりましたね。
どうも、お疲れ様でした。皆さん。
なかなかに楽しかったです。
150 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/04/23(月) 23:25
最高にシューターでしたね(ニコニコ
151 :
146:2001/04/24(火) 07:05
>147
ありがとうございます。
早速探してみます。
152 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/04/24(火) 17:29
ついに終わったかー。
153 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/04/25(水) 13:17
なんとかオチもついたし、いいんじゃないの?
154 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/05/24(木) 15:48
あげ
155 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/05/24(木) 22:06
たったひとつの>脳みそに回虫が住み着いて、大人は誰も助けてくれなくて死んじゃうあれですね。
156 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/07/12(木) 02:55
そうか……
俺がこのスレにはじめて書き込んでから、もう三ヶ月が過ぎたのか。
157 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/07/14(土) 00:18
「『回』って字は曲線を、『廊』って字は直線を意味するんだ」
小松左京
ハルの意識体は、無限時間平面を飛び続けていた。
無限時間平面は宇宙時空間を浮揚して存在するが、意識体は
宇宙時空間の実存であるハルの経験に縛られる。
ハル=意識体は、暗黒に浮かぶ巨大な光の輪を見ていた。
重力レンズ効果が、進行方向にある星の光を等距離に分散し、
一つの大きな円を形成している。
ハル=意識体の視界が、わずかに揺れた。
十六歳のハルと綾乃が笑っている。
そんな空景が、チラリと浮かんですぐに後方に流れ去る。
プルート・ミラージュ。
接近した冥王星が、ハル=意識体に影響を与えつつあった。
・・・・・・
かつて、無限時間平面の中に宇宙湖と呼ばれるべき局所時空間が
存在していた。
宇宙湖は、無限時空間に存在する超意識実存の引き千切られた
魂のかけらだった。
宇宙湖は、元の場所に戻るべく信号を送信する。
やがて、無限時間平面の辺縁で小さな爆発が起こり、一つの宇宙が
誕生した。
その宇宙は、宇宙湖の信号が受信出来る範囲まで膨張する。
その宇宙に含まれる情報の一部が、信号に影響を受けた。
宇宙湖に近づくにつれ、信号はより強度を増していく。
二十四世紀初頭、太陽系の最縁惑星となった冥王星が宇宙湖に
突入し、それと融合した。
星の重力と融合した宇宙湖は、より強い信号を出す事が可能に
なった。
158 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/07/14(土) 17:51
テラスに風か吹きつける。
ハル・ショーター。
小笠原 毅。
小笠原 綾乃。
ミカエル・ムスフ。
今、テラスにいる四人は沈黙していた。
めいめいが、過ぎてしまった二十八年間を偲び、これから始まる戦いへの
暗澹たる予感を感じていた。
ハルは、考える。
覚醒者とは何だ。奇跡を起こした?この俺が?
俺に、この俺に一体何が出来ると言うのだ・・・・
静寂を破ったのは、琴音の悲鳴だった。
『浮浪者が集会を開いている』
エマリケとイーサ、二人の都市警備官は通報を受けた場所に到着した。
リニアカーの速度を巡航速度に切り替えると、それまでわずかに聞こえていた磁力モータの音が殆ど聞き取れないくらいに小さくなった。
「ここが・・・・通報された地点ですか」
そこは、廃墟となったビル街の裏通りだった。
都市を巡回する清掃機械が、埃一つ残していない。
車内にいても、この辺りが清潔で、人の気配など全く感じられないのがわかった。
「つまり、がせねただったんですね」
「君は最近コロニーから来たから知らないだろうが、この都市に貧民窟など存在しない。俺は二十年以上ここで暮らしているが、浮浪者なんて見た事がないよ」
イーサは、チラリと空を見て、
「百年前とは違うんだ。収容する場所がある。浮浪者も犯罪者もみな地球の周りを回っているんだ」
と続けた。
「最初から、いたずらだとわかっていたのですか」
「市民の通報を無視しなかった証明として、写真を撮って帰ろう。都市警備官の主な仕事は、無駄足を踏む事さ」
イーサはリニアカーをゆっくり走らせ、エマリケは適当にカメラのシャッターを切っていた。
一瞬、ファインダーの視界をぼろ切れのような影がかすめた。
カメラから目を離したエマリケは、そこに信じられないものを見た。
「イーサさん・・・・」
振り返ったイーサの目が、驚愕で大きく開かれた。
かつては何百台の車を収納していたであろう、吹き抜けになった駐車場に何千人というぼろ切れのような服をまとった集団がいた。
浮浪者の集団は、同心円状に輪になって固まっている。
中央にいる男が、盛んに何かを叫んでいる様だ。
イーサは、リニアカーを停止させた。
そして、ドアを開けて外に出ようとするエマリケの腕を掴んだ。
「開けるな。奴等はひどく臭うらしい」
「でも、どうするんです?」
「逆に聞こう。銃で脅すか?大声で喚くか?どちらの手段もこの人数に通用するとは思えん。無用な刺激を与えるのは禁物だろう。応援が来るまで待機するしかない」
「地底にでも隠れていたんでしょうか。まるでSFですね」
「おとぎ話かも知れん」
演説をしている老人の横にいる、うつろな目をした浮浪者の体がぼんやりした光に包まれているのを見て、イーサはつぶやいた。
161 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2001/07/17(火) 03:32
三つ首オウム「マタ始マッタ! 始マッタヨ!
ミンナ、乗リ遅レルナヨ!
第3部ガ始マッタヨ! 」
なんだか話の展開が、昔手塚アニメで見たような
気がする。
でも、面白いから気にしない。
小高い丘に位置する小ぢんまりとした、だが豪奢な邸宅。
緑の芝生が目に優しく、建物の白いペンキが絶妙なコントラストを
なしている。
しかし、その建物に侵入を試みようとする者は、目前の牧歌的な風景に
だまされてはいけない。
家を囲む塀には四重の鉄条網が巻きつき、高圧電流が常に流されて
いる。放し飼いにされている、訓練を受けた大型の獰猛な黒い犬。
芝生のあちこちに見られるスプリンクラー状の金属棒は、人間の体を
空気のように貫通するレーザーの発射装置だ。芝生の中で時々光を
反射するのは、そこに常時録画をしているカメラのレンズがあるから
に他ならない。
そして、侵入を試みようとする者は奇妙な事に気がつくだろう。
システムの全てが、内側に向けられている。
その建物は、まぎれもない『牢屋』だった。
フレディ・ノートンは、朝から機嫌が良かった。
塀の外側の要所に設置された陸戦隊の簡易テントの中で、ひっきりなしに
冗談を言い、よく笑う。
いい加減迷惑そうな顔をする仲間もいるし、その事に気がついてもいる
のだが止まらない。
アナスターシャ。ぼくのカルメン。三ヶ月にわたる求愛が実を結び、今夜
は彼女との初めてのデートだ。
邸宅に続く道路の真ん中に、宇宙服を着た男が立っていた。
巨大な熱を浴びたように表面にすすがこびりついているが、確かに
宇宙服だ。最終選抜で弾かれたが、フレディは元々宙空軍に入るはず
だった。耐久訓練で半年間脱ぐ事を許されなかったあのフォルムを、ぼく
が見間違うはずがない。
でも、戒厳令が発せられ五マイルにわたり無人となったこの一帯に、なぜ
こんな奴がいるんだ?
黒焦げになっているのは、宇宙からまっすぐ落ちてきたのか、もう少し
現実的に考えるなら宇宙船にしがみついて来たのか……。
ばかげた空想だ!
確かに、最新の宇宙服は宇宙船の外壁と同じ素材から作られている。
大気圏突入の熱にも耐えうるだろう。だが中身の人間は、地表に着いた時
には、炭の塊のようになっているに違いない……。
フレディがそう考えた時、宇宙服の男がまるで瞬間移動をしたかのように、
目の前に現れた。
驚いたフレディの頭骸骨を、宇宙服の男──JKナンバーファイブは片手
で粉砕した。
苦痛と恐怖を感じる暇もなく、一瞬にしてもたらされた死。
それはフレディにとってせめてもの幸運であったろう。
飛び散った脳漿と血液にまみれ、今やただの肉塊と化したフレディが
地にゆっくりと崩れ落ちる。
その哀れな骸を、感情の欠片も持たぬ目でJK5は見下ろした。
止まっていた全ての事象が、示し合わせたかのように同時に、
そして急激に動き出そうとしていた。
それが、ハル・ショーターの最後の戦いの、始まりだった。
連邦宇宙局最高司令官室。
ラム・アレン統括参謀への第一報は、迅速にもたらされていた。
「統括参謀」
入室してきた第一級秘書官は、通常通りの冷静な口調で告げた。
「EA圏第9保安管区にJKと思われる生命体の侵入を確認しました。
標準時19日、21:05です」
「・・・何?」
さすがのラム・アレンも、突如もたらされた情報の衝撃の大きさに腰を浮かせた。
「馬鹿な。ジュピター・ラグーンどころか、最終ラインまで突破して地球に侵入し
てきたと言うのか?」
「本当にJKだとすれば、ですが」
ジュピター・ラグーンとは、木星付近に人類が多大な犠牲を払いながら建築した
長大な電磁防衛線のことである。
1機の全径が25kmに及ぶ巨大な円盤型反射アンテナ。その100機を越える
群隊が宇宙空間に、あたかも環礁(ラグーン)のように並んでいる。
冥王星から送られる恐怖の信号を跳ね返し、JKの襲来からも人類を守り続けるため
に築かれたそれは、太陽系の木星から地球までの空間を、地球連邦側の制空権とす
ることに成功していた。そう。この日、たった今までは。
「現在の状況は?」
「現地でEA-73陸戦隊が迎撃している模様です。特A級防衛体制は既に敷きました」
追加の指令を出しかけてから、ラム・アレンは気づいた。
「待て。EAの第9保安管区と言えば・・」
「はい。例のハル・ショーターを隔離しています。これは私の推測ですが、JKだ
とすると、侵入の目的はそこにあるのではないかと」
「・・とりあえず、民間人ではないということか」
********************************
大変申し訳ないですが、訂正です。
物語で28年の歳月が流れているのを考慮することを忘れていました。
統括参謀は「ラム・アレン」ではなく、
「エドワード・トンプソン」に変更させて下さい^^;よろしく。
*******************************
「琴音!」
最初に台所に入った小笠原綾乃が悲鳴を上げた。
小笠原毅に続いて中に入ったハルも、状況を理解した。
表面が焼け爛れた宇宙服を着た男が、小脇に少女を抱えている。
二重になった分厚い窓ガラスが破壊され、破片が床に散らばっている。
そして、ハルは見た。
綾乃の顔を垂直に赤い筋が走るのを。
真ん中で二つに割れた綾乃の頭部から、無数の油虫が噴き出した。
袖口からスカートの中から、油虫は無限に出て来る。
綾乃であった物体は、油虫で形作られた一体の彫像と化していた。
意思を持つ黒い霧のように、油虫の大群が宇宙服の男に襲いかかった。
油虫の大群に襲われた男は、両手で顔を覆ってもだえていた。
指の隙間から、皮をはがれ人体標本の様になった顔面が見えた。黄白色の
脂肪を食い、筋肉繊維の隙間にも容赦なく虫は入り込む。虫が青い血管を
食いちぎると、驚くほどの量の血液が噴き出した。悲鳴を上げようと
大きく開けられた口から、次々に虫が入っていく。
それは、地獄の光景だった。人間には想像する事の出来ない、悪魔の
所業による死だった。
目前の悪夢は、果たして現実なのか?
プルート・ミラージュ?
その時、ハルの二の腕に激痛が走った。ハエ、蚊に続き絶滅した
ゴキブリという昆虫は、深夜寝ている人の足の爪をかじった例が
あったと言うが、今、この油虫はハルの二の腕の肉を毟り取った。
激痛。噴き出す血。
これは、違う。これは、幻覚などではない!
(絶対、絶対に私もセンターに行くわよ)
(ハルのやつ生きてるかな?)
(ハルの馬鹿)
小笠原毅は、最初の強いショックから立ち直ると、妻を後ろから
抱き締めた。そうすれば、彼女が油虫に変わっていくのを防げると
信じている様に。しかし彼にも、恐らくは誰にも、その変身を止める
事は不可能だった。
綾乃の油虫を吐き出して二つに割れた頭は、のけぞった形で
後ろから抱き締めている夫の左の肩に乗っていた。彼女の喉が
ゴポゴボと音を立てた。
「アァァァァウゥゥゥゥ・・・・・・」
小笠原綾乃が絶命する時に叫んだのは、夫や娘ではなく、ハルの名前
だった。
********************************
名無し左京さん、お元気でしたか。(^^)
*******************************
戦闘用防護服に身を包み、ブラスターショットを抱えた
陸戦隊の兵士達がその場になだれ込んできた時、ほぼ、惨劇のすべては
終わっていた。
もはや綾乃でなくなった異形の「もの」を、小笠原毅は抱きしめたまま
茫然とその場に座り込んでいる。
気絶したまま倒れている琴音を、兵士の1人が敏捷な動きで抱き上げる。
それと同時に、別の数人の兵士が、宇宙服の中で身体組織のすべてを
食い尽くされて絶命しているJKに対し、至近距離からブラスターを乱射した。
ドムッ。ドムッ。ドムッ。
象ですら一発で仕留める殺傷能力を持った弾丸が至近距離から放たれるたび、
糸の切れたJKの身体が、鮮血をほとばしらせながら床の上で跳ね踊った。
ムスフは思わず、テラスの欄干の脇に倒れ込んで嘔吐した。
嘔吐を続けながら、彼は、28年前のモハンマド・タワド大尉の報告記録を思い
返していた。
「本日、訓練生全員と面会。綾乃・ベッケンバウアーに覚醒者としての陽性波動
を強く感ず」
28年前、冥王星に向かう探査船の中で、初めて訓練生達と接触した覚醒者・モハ
ンマド・タワド大尉の残した記録であった。 (※
>>74 を 参照)
(28年経ってから、完全覚醒するとは・・・しかも耐性が弱かった・・・今まで
見た中でももっとも酷い・・・)
ムスフは、そう思った。
******************
名無し素子さん、どうも初めまして^^
以前から書かれていましたか?
******************
闇の中に声がこだまする。
「うふん。ジェノサイドキッズゥゥ?」
ちくしょう。なぜ、俺の上司はいつもオカマ野郎なんだ。
内心の激しい嫌悪感を表情に出さず、彼は報告を続ける。
「連邦宇宙局最高司令第一級秘書官として侵入しているスパイからの
情報です」
「あたしは、そんな命令出してないもん。第一、あの電子レンジを
どうやってくぐれるのよ」
きいっ、と奇声を発して声は続ける。
「それにしても地球の連中、卑怯過ぎっ。あの声、あの優しい声
を増幅して兵器にするなんて、狂人の発想だわっ!きいっ!」
「”最初の十三人”には、どのように報告を?」
「もうっ。ナムスンちゃんに私の部屋に来るように言ってちょーだいっ。
あの子、この頃何だかおかしいの。まさかとは思うけど、確認して
みるわ」
「イェッサー」
ケツ穴野郎。氏ね。上司が肥満体の尻をプリプリさせながら
立ち去るのを、彼は最敬礼の姿勢で見送った。