ワイが文章をちょっと詳しく評価する![37]

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986ワイスレ杯参加作品
 イカ釣り名人の先輩のコーチングのおかげで2kgの大物を上げる事ができた。「バカ前に立つんじゃない」という怒鳴り声に
キョトンとなっていると、堤防に寝かしていたイカが突然噴出した墨で靴と靴下が真っ黒になった。「ショック受けてる場合
じゃねーぞさっさと締めて早く投げろ、もう一杯いるぞ」「え?どういうことですか?」おそらくアホ面している俺が訪ねると
先輩は言う。「この時期のアオリイカは産卵のためにペアリングして接岸してきている、これは模様が雄だから雌が近くに必ず
いるぞ、同サイズの大物のはずだ」「え、それって…」俺は何か切ないものを感じた。ペアで産卵しに岸辺に来た所を一網打尽か。
「どうした」苛立って聞いてくる先輩に何か言いたくて顔をじっと見たが、結局黙った。渋々もう一度、先ほどヒットした付近に
疑似餌を投げると沈ませている途中ですぐに当たりがあった。「イェーイ!ビンゴ」大喜びする先輩を尻目に複雑な気持ちでイカを
引き寄せる。やはりかなりの大物だ。堤防下まで引き寄せて来ると水を噴射して抵抗しているが、ベテランの先輩が一発で
ギャフと呼ばれる鈎針を打ち込む。抵抗空しくまたもや堤防に寝かされたイカを目の前に俺は少し心が痛んだ。「これみてみろ
模様が丸いだろ、これが雌だ」「はぁ…」その時またイカが墨を噴出してぼーっとしていた俺の足にかかった。「お前バカだろ」
「はは、すいません」先輩が手早くナイフで眉間を突き刺して締める。色素を変化させて表面が波打っているかのようだったイカは
絶命して一瞬で真っ白になる。靴は汚れてしまったがこれぐらいの抵抗は許そうじゃないか。さて戦利品だが、ここは1杯づつ先輩と
分けるのが妥当だが、なんとかお願いして2杯とももらおう。何か埋め合わせを考えなくてはならない。