無造作に荒らされた我が家の中で、カナコは先程呼んだ警察に事情を説明していた。何度もおんなじことばかり聞いてくる間抜けな警官に、うんざりしながら彼女は答える。
「どういうこーとですか?」
「だから、盗まれたんですよ。夫から貰った大切な物なんです。早く犯人を見つけてください」
「そう言われましても、詳しく聞かないと探しようがないんですよ」
「はあ? 全くあなたじゃ話にならないわ! 他の人をよこしてちょうだい!」
苛々が募り、ついにぶちきれたカナコは、困り顔の警官に吐き捨てた。その後別の警官がやってきたが、結局大した捜査もせずに帰っていった。
突然入られた空き巣によって荒れ放題の部屋を、カナコは仕方なく片付け始める。なんであたしがこんなことしなきゃならないのよ。もうすぐ楽しい花見なのに、最悪な気分だわ。
ずーんと沈んだ気持ちのままで、なんとか片付けを終えた頃、夫が仕事から帰ってきた。ねえあなた聞いてよと、カナコは夫に泣きつく。
「空き巣!? マジかよ。で、それどういうこーとだよ?」
「はあ? あなたまで間抜けな警官と同じこと聞くの? もう、信じらんない!」
夫の返答にあきれたカナコは発狂した。夫は不思議そうな顔で、どうしたんだ、落ち着けよと言ってくる。
「あなたがくれた大事な毛皮のコートが盗られちゃったから悲しんでるのに、なんなのよ! 人の気も知らないで!」
「ああ、あのコートか。あれ高かったからな、まあ怒っても仕方ないだろ。で、ちゃんと警察には説明したのか? 盗まれたのはミンクの毛皮のコートだってさ」
夫の言葉を聞き、はっとしたカナコはようやく警官の質問を理解した。
あの人は、どういうことですかじゃなくて、どういうコートか聞いてたんだ。どうやら間抜けなのは、あたしだったらしい。
「犯人見つかるといいな。コートが戻ってこなかったら、また買ってやるよ。だから元気出せよ、カナコ」
「……そうね、ありがとうあなた」
その後カナコは、すぐに警察に電話をした。大事な毛皮のコートを探してくれと。