ワイが文章をちょっと詳しく評価する![37]

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938名無し物書き@推敲中?
 花見でもしようじゃないかと社長が言うので、斎藤はブルーシートを家から持ち出した。まだ夜も明けていない時間だというのに、公園にはすでにブルーシートやゴザが敷き詰められている。
 放置は禁止というルールが導入されたのは去年からだ。それらのひとつひとつに眠たそうな顔をした者が貼りついていた。しばらくうろついてみたが公衆トイレの前しか空いてる場所がなく、斎藤はため息をついてシートを広げたのだった。
 大学生だろうか。斎藤のすぐ隣のゴザで若い男がぼんやりと光る携帯の液晶を見つめている。ビニールひもで囲われたゴザの広さは十畳ほどもあった。数時間後には酔っぱらった若者たちで埋め尽くされるかと思うと思わず舌打ちが出る。
「花見の時だけ来やがって」
 斎藤の家は公園の敷地内にある。冷暖房はなく雨漏りもひどいが、捨てられていたカラーボックスで作った機能的な棚や、暖かい羽毛布団にソバがらの枕なんかは他の住人から狙われるほど良い物だった。
 斎藤がこの公園に来たのは三年前だった。よそ者を排除しうよとするのはどの社会も同じだ。初めのころは何度も追い出されそうになったが、斎藤のすぐれた収集能力を評価し、かばってくれたのは社長と呼ばれている男だった。
 以来、物々交換が主流のこの公園では、もう誰も斎藤を追い出そうとする者はいなかった。
 そんな恩人ともいえる社長が花見をしたいというなら、斎藤にとってブルーシートの屋根の一枚二枚はどうってことはない。
「どういうことですか? 場所ならもう取ってますよ? えっ! ちょっとすぐ行きますから」
 声につられて横を見やると、先ほどの若者が慌てた様子でゴザから飛び出していった。
「放置は禁止だ。馬鹿が」
 斎藤は嬉々としてゴザを囲ったビニールひもの杭を抜く。笑いを噛み殺しながら四畳ほど敷地を狭くして杭を戻すと、ブルーシートをトイレから遠ざけた。
「一口だけもらっても罰は当たらんだろ」
 胸元から取り出したなけなしのワンカップを斎藤は遠慮がちに口に含む。あとは社長に取っておこう。
 ちょうどそのころ、公園中央に見事に咲いた桜の下で一人のホームレスが殴り殺されていた。先に場所取りをしていたホームレスに、後から来た大学生が因縁をつけたのだが、それが社長だということに斎藤が気づくのはそれから三時間後のことだった。