ワイが文章をちょっと詳しく評価する![37]

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932第二十八回ワイスレ杯参加作品
雄二は春休みを使って一人で遊園地に来た。
お一人様での遊園地と聞くと普通は憐れに思うだろうが、雄二は他に追随できる者はいないだろうと、むしろ誇りに思っていた。
二人以上の組でごった返す中を縫うように歩いてジェットコースターの列に辿り着くと、彼の中に優越感がこだました。
「ああ、なんて俺は精神力のタフな人間なんだろうか、人は一人で生きられないというのは、
一般人においてのみ通用する話で、俺には関係ない、一体この世界のどこに俺より精神の強い人間がいるのか」
雄二はぐるりと辺りを見渡し、誰も彼もが必死に孤独から逃げ出そうとしているのを見て、にやりと笑みを浮かべる。
すると、彼の後ろに黒髪の少女が並び「変な奴だな」とでも言いたげな目線を雄二に対して向けた。雄二も同様に、少女のことを変だと感じたが、
すぐに友人がやってくるだろう、まさか春休みの遊園地に一人で来る人間がいるわけないと思い、ゆっくりと列を進む。
しかし、彼女の友人は一向に現れる気配がなく、また、彼女が連絡を取るそぶりもない。
そのうち、なぜだか雄二には焦りが生じてきて、背後に立つ彼女について考えていると、だんだんライバルのような気がしてきた。
やがて雄二の順番が回ってきた。ジェットコースターには二人ずつ乗り込むことになる、彼の相席は彼女だった。
ジェットコースターが目も眩むような高さへ登っているとき、雄二は彼女に尋ねた。
「一人でジェットコースターなんて、どういうことですか」
答えはなかった。直滑降している間、雄二は隣人が一人でないよう願った。優越感の危機なのである。
右に左に曲がり、ジェットコースターはついに終点に到着する。
雄二はそのときになって初めて、隣人が消え失せていることに気がついた。
あたりが、幽霊が現れたと大騒ぎになる。このジェットコースターは有名な心霊スポットだったのだ。
血の気が引いた雄二は、あわてて、携帯電話を手にとり、誰かに連絡をしようとした。
そのとき、雄二は自慢の精神力のタフさという牙城が崩れ去っているのに気づき、愕然とした。
同時に、お一人様が自慢だなんて馬鹿げていると思い、彼は以前の自分を鼻で笑った。
すっかり親近感の湧いた見えない幽霊の彼女に向かって「また来るよ、そのときはよろしく」と言い、雄二はその場を後にした。