どんなにひどい仕打ちをされても許せると思っていた。
どんなにつらい運命に巻き込まれても乗り越えられると思っていた。
あなたさえいれば。
わたしはいつだって大丈夫だと信じていた。
――「これは一体……どういうことですか」
あの日、わたしは泣いていた。桜の花びらが少しだけ散って、ひらひらと舞い降りていた。今日と同じ、暖かな風が吹く春の昼下がりだった。
「大丈夫だよ、すぐ帰ってくるから」涙と鼻水でぐしょぐしょになったわたしに、彼はやさしい笑顔でそう答えると出て行った。
幸せなんて、長く続かない。だからもう少しだけ、彼にはここにいて欲しかったのに……。
わたしの嫌な予感は当たり、彼の言葉は裏切られた――
その時以来、春が来るとわたしは泣いている。
あれから3年。海の見える高台にあるレストラン。道端に見えるお地蔵様に向かってガラス越しに手を合わせる。ここで彼は……。
「あんたを置き去りにして他の女と帰ったって?そりゃあひどい話ね」
友人のエミが、鱸のムニエルを平らげながら相槌を打った。
「食事の勘定もわたしが払ったのよ! あんまりお金持ってなかったからギリだったわ」わたしはバッグからハンカチを取り出して目を軽くこする「あ、ヤバイ。鼻水出てきたかも」
エミは気の毒そうにわたしを見て、ちらとトイレの方へ目をやる。
「ごめん、すぐ戻ってくるから」わたしは席を立った。
「そのまま逃げないでしょうね? あんたの元彼みたいに」エミが悪戯っぽく笑う。
わたしは小さくパンチを繰り出す仕草を見せ、トイレへ向かった。彼と別れて以来、花粉症とは3年の付き合いだ。