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第二十八回ワイスレ杯参加作品:
「ぶぇくしゅっ! ぶぇくしゅっ! どういうことですかぁゆぅいぃー! コータくん!」
放課後の教室。聖痕十文字学園中等部二年、炎浄院エナが目を真っ赤にしてティッシュで鼻をかみながら苦悶の呻きを漏らしている。
春爛漫のここ数日、どういうわけだか急に目がゴロゴロして痒くて堪らず、クシャミと鼻水が止まらないのである。
これでは、ラーメンの食べ歩きも儘ならないではないか!
「シッ! シッ! こっちくんなエナ!」
花粉症は感染ると固く信じ込んでいるクラスメートの時城コータが、彼にすがるエナを邪険に追い払う。
「コータくん、そんな〜」
涙目のエナに追い打ちをかけるように、
「ほらほらエナちゃん、はやく掃除手伝ってよー」
同じくクラスメートの冥条琉詩葉が、燃え立つ紅髪を弾ませて意地悪く笑いながらエナに近づいてきた。今日は掃除当番なのだ。
ポフポフ……琉詩葉が手元で振ったハタキから、モワーンと埃が散って辺りを舞うと……!
「べくしっ! べくしっ! べくしっ! うぶぅあああああ!」
弱り目のエナの目と鼻を刺激して、更なるダメージを与えた!
「どーしたどーしたエナちゃん? 『自己管理』ができてないんじゃないのー?」
いつもは風紀委員のエナから遅刻や寝坊を、『自己管理』の出来て無さを散々責め立てられている琉詩葉が、千歳一隅のチャンスとばかりにハタキをポフポフ。
「うぐぅう琉詩葉! 殺す〜!」
花粉にやられて普段の元気もどこへやら。琉詩葉にいいようにされるエナだったが……!
「くしゅん! くしゅん! ……あえ? あたしも……? うそ!」
埃を吸いこんで、大きなクシャミをした琉詩葉が、驚きと恐怖に目を見開いた。
ぎらん! エナが燃える目で琉詩葉を睨んだ。
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それから三時間。ハタキを持ったエナは己がダメージも顧みず、琉詩葉が涙と鼻水を枯らして脱水症状で昏倒するまで彼女を責め立てた後、教室の片隅でブルブル震えてヘタリこんでいる時城コータを、穏やかな笑顔で見下ろして言った。
「おまたせ! コータくん。さ。今日はどんなラーメンが食べたいぃ?」