クラス替えに一喜一憂する騒がしい教室を一瞬で静かにさせたのは小林さんの声だった。
驚いて視線を向けると、近くにいたカナコが私を見て笑いをかみ殺すような顔で舌を出す。小林さんが顔を真っ赤にして教室を飛び出していくと、また何事もなかったように教室は騒がしくなった。
「今の聞いた?」
カナコが私の机に来て得意げに聞く。何が? ととぼけて、小さな手鏡を覗き込む。実物より2倍の長さもあるつけまつげ。初めてにしては上手くいったと自分を褒めてやりたい。
「小林さん。見てたでしょ? ちょっとからかっただけで、どういうことですかって大きな声で」
あーと気のない返事をしてポーチから毛抜きを取り出すと、朝から気になっていた眉毛を一本抜いた。
「次はあの子にしようか」
「いいんじゃない」
カナコのいじめは徹底している。期間はぴったり一年間。この子だと決めたらどこまでもいじめ抜いた。カナコに言わせれば、あらかじめこうして誰をいじめるか明確に決めることで、他のいじめがなくなるそうだ。
感謝されこそすれ、非難される覚えはないというのが彼女の持論で、共通の敵を見つけると仲間の結束は深まるということを彼女は自ら率先しているのだった。
「チー、ノリ悪いよ」
「そう? 普通だよ」
私はといえば、そんなカナコにつかず離れず最適な距離を保って接している。女という生き物は遠すぎても近すぎてもいけない。この距離がちょうどいいのだ。
「決めた。次は絶対小林さんにする。ヒロやエリにも手伝ってもらおう」
嬉しそうに駆けていくカナコに私は小さなため息をついた。馬鹿な女だ。次はもう決まっているというのに。
もう一本、鏡の中に無駄な眉毛を見つけ勢いよく抜く。黒々とした毛根をぼんやり眺めながら、私はなぜかそれがカナコの横顔に見えてふっと吹き飛ばした。