897 :
第二十八回ワイスレ杯:
歩いていた。街灯がまばらな商店街、アクアスのスプリングコートの裾を気にしながら。
「どういうことですか」
ふん、笑わなければ保てない。内ポケットから取り出したシガリロに火をともす。
どうもこうもないさ、終わりなんだよ。それくらい察しろよ、何年銀座を舞ってるんだよ。
俺はお前を知っている、初めてクラブに姿を見せたのは二十三の時だったな、あの世界では
いい年齢だよ、俺にはお前の尖った顎と大きな瞳が際立って見えた。
その晩、ペニンシュラのスイートを借りてお前を引き取った。冷たい肉厚な体は俺の好みだったよ。
「どういうことですか」か。傑作だ。煙を吐いて吸って月にしかめ面を見せる。生ぬるい横風は
お前の吐息と似ているよな。知ったことか。
金は十分くれてやっただろう、店も持たせた、必要のない子供も産ませた、マンションもお前の名義だ。
半分残ったシガリロを捨てたアスファルト、弱い月光には俺の姿を染み込ませる力はない。
察しろよ。吐いた唾の先には何も見えない。
そういうことさ。俺はコートに手を突っ込んで、ジンターラの靴底の減りを気にしながら
商店街を抜けた。