扉を勢い良く蹴り開けると、そこに彼女がいた。煉瓦を積み上げたような質素な壁に四方を囲まれた黴臭くて陰気な薄暗い地下室。
「よお、久しぶりだな」俺はユウコに声をかける。ユウコは返事をしない、当然だ。彼女は猿ぐつわをかまされて両手両足を縛られた状態で転がされている。
「うぐ、うぐ」ユウコは身をよじらせて救いを求めるような視線を俺に向ける。破れたワンピースから覗くはだけた胸元や、白い太ももが眩しい。
ユウコの視線が俺の頭上に移る、それはとっくに読んでいた! 松明を勢い良く頭上に突き出して、反対の利き手で腰に差した剣を抜く。
頭上からの衝撃、軽い眩暈……やばい、脳震盪か。
「起きろっつってんだよ!」
教室の机に突っ伏してよだれを垂らしながら眠る俺の前にセーラー服姿の仙道が立っていた。
「痛い……」
「約束の時間になっても寝ているからだ」仙道は組んでいた腕を解きもう一度俺に拳骨をお見舞いしようとする。
「待って、ずっと前から起きていたから」「ああ?」「はい、たったいま目が覚めました」
俺と仙道は職員室に呼ばれていた。
可愛くて色気はあるがちょっぴり『漢気』にあふれた喧嘩上等仙道はわかるとして、ネット世界では歴戦の勇者でも学校では空気な俺が呼ばれるのは納得いかない。
「なんでかなあ、あたしとあんたが並んで歩くって、らしくないよね」仙道は上目遣いに俺を見上げる。
ちくしょう、かわいい。戦闘力が俺より下だったら今すぐにでも告るところだ。
職員室に入ると、担任の『マサイ』柴崎が俺たちを迎えた。マサイは、俺たちに今度卒業する先輩たちへの送辞を二人で述べる役割を与えた。
「俺が、仙道ユウコとですか?」……オレガ、セン、ドウユウコト、デスカ……デスカ……デスカ。(ミッション完了!)
仙道……ユウコが、軽く頬をピンクに染めて俺を睨む。俺は笑ってそちらを見ないようにする、本当は見れない、少し膝が震えている。
「ユウコって、馴れ馴れしいよ」職員室を出てから、仙道はぽつりと言った「でも、次からはそう呼んでもいいから」
今日帰ったら、PCに入っているあのゲームは削除しよう。
ちょっと勇気を出して吸った外の空気は、意外と俺にも暖かくって、だって春が近いから。