程よく田舎であちらこちらに田んぼや畑が広がる。日用品には困らない。
自転車があれば、車がなくてもなんとかなるほどには拓けている。
たまに車が必要なときは、友人を頼ればなんということはない。農作業の手伝いをしあう仲で、お互い様だからだ。
実家住まいで、家で書き物をする日々だ。両親はちょっと大きな家庭農園というような田んぼと畑を耕している。
書き物と、農作物の出荷などを手伝いながら暮らしている。両親がいる間はなんとかやっていけるだろう。
近くには農場があり、親戚と近所の物々交換で食べ物には困らない。酒を買えればこと足りるのだ。
季節は春を向かえ、休耕田のれんげが咲く畦道を自転車で酒を調達しにいく。
帰ってくると、FAXが届いていた。農作物関係の連絡だろうか、母親に伝えなければ。
そう思って長い紙を手にとれば、自分宛のものだった。
自分は、地元のタウン誌で記事をいくつか担当している。この取材のため、いろいろと出かけることも多い。
地元の小さな出版社に知り合いもでき、編集サイドの話を聞けて作家業の匂いを感じるのが楽しい。この知り合いをたどって東京の出版社に原稿を持ち込んだこともあった。
また見せて下さい。持ってきてもらえればいつでも読みますよ、と言ってもらっている。それで毎日少しでも書くようにしている。
それで、この紙の用件は。と見ると、タウン誌が休刊するという、長々とした言い訳めいた謝罪であった。
「どういうことですか」
震える手で電話をかける。
きちんと説明してもらいたい。こんなぺらぺらの紙で現金収入と、書き物業をしている自分とを失う。納得できる訳がない。
電話台横の2ちゃんぬるを開いたままのパソコン画面には、自嘲するかのような名前が欄いっぱいに埋まっている。
電話の相手は、申し訳ない、どうしようもないのだと繰り返すばかりだ……