春になり、梅の花が芳香を漂わせる。男は梅の花をもぎ取り、集めながら家に向かった。
途中にあるサンクスに寄り、490円のノリ弁当とスーパードライを手に取った。
レジに行くと、若くて可愛らしい、女の店員がいた。
「ねえきみ、バイトは何時で終わるの?」
「えっ?……」
女の店員は言葉を濁した。見るからに下心ありの中年オヤジには、教えたくなかった。
「実は、きみは私と知り合いなのだよ」
「初めてお目にかかりますが?」
「私はきみの事を監視しているのだよ」
「どういうことですか?」
「私はストーカーなんだよ、タエコちゃん」
「気持ちの悪い冗談はやめてください」
女の店員は男を無視して、商品をレジに通した。
男は溜まった性欲を吐き出すように、若い女の店員を舐め回すように見てから、代金を支払って店を出た。
住んでいるのは地価の安い、治安もあまり良くない雑多な土地にある築30年のオンボロアパート。
甘ったるいような嫌なにおいのするピンクの合板ドアに鍵を差し込み、捻って開錠する。
同居人のいない部屋は、独り身の男の老廃物の臭気が発酵したような、嫌な臭いで噎せ返っていて、ドアを開けただけで臭いがモアッとする。
「ただいま帰りましたよぉ〜っと」
誰もいないのに、中年化した男は帰宅の挨拶をして、部屋に上がった。
居間の電気をつけ、丸い木のテーブルに弁当とビールの入ったコンビニ袋を置く。コートを壁のフックに掛け、テレビをつける。
お笑い番組がやっていて、やらせ臭い笑い声がスピーカーから流れてくるが、男の耳に入った声は、右から左にただ抜けるだけだった。