「いったい、ねえ、どういうことですか」
と、サラリーマン風の男が星田を尋ねて来た。
「え、すみません。どういうことですか」
何か約束をしていたか、それとも苦情かと問い返せば、満面の笑みで抱き締められた。
「え、うわあの、ど、どういうことですか」
星田の背中に回ったサラリーマン風の男の手が異様に冷たいと思ったのが最後、そこで星田の意識は途切れた。
その頃同じく喫煙中の土居のところにもサラリーマン風の男が路上で「どういうことですか」と尋ねていた。
「はぁ?なに、あんた。どゆこと?」
土居が煙草の煙を吐き出しながら問い返せば
「どおいうことおおおおおおおお」とサラリーマン風の男が天をあおいで絶叫する。
途端に、路地からマンホールから、植え込みの花壇から、わらわらわらわらと「どおいうことおおおおおたおおお」と絶叫する大小のものたちが出てきて土居を取り囲む。
「え、え、え、」
それしか言えない土居を囲み、「どおいうことおお」「どおいうことおお」と叫びながら、押し合いへし合いしながら土居を連れ去った。
さらに同じ頃、テレビのニュースキャスターが、いきなり渡された原稿に「どういうことですか」と、思わず呟いていた。
「し、信じられないニュースですが、宇宙人の襲来が確認されました。ナサによりますと日本語のどういうことですかという発音に似た言葉を発するとのことです。
なお、念のために申しあげますが、これはエイプリルフールの冗談ではありません。」
次に星田が目を覚ましたときには、同じルーツを持つ同胞よ、あなたは私達と地球の間を繋ぐ外交官になってくれと改造手術を受けたあとだった。
「どういうことですか」と星田が呟いたが、それは既に日本語ではなかった。