午後の一コマ目、自由に作ってみろとの放任気味な調理実習で定番のクッキーが炭になるのはまだいい。
窓から突然吹き込んだ春風が舞い上げた薄力粉が鼻をくすぐり、二次災害でボウルの中身をぶちまけ真っ白になるのも、ある意味想定内だ。
そこまではいい。どうせ私なんか、と諦めている。だけど、そんな残念な私たちとは打って変わって料理上手なカナが「先輩に受け取ってもらえなかった」と目の前でポロポロと涙を流しているのが信じられなかった。
「そういうのは重いって言われたの。わたし、頑張りすぎちゃったのかな」
ちょっと変わってはいるが引っ込み思案でなかなか思った事を言い出せないカナが勇気をだしたのだ。報われず受けたショックの大きさは彼女の姿をみれば分かる。
肩を震わせて嗚咽をかみ殺すカナ。ただ手料理を食べて欲しかっただけなのに、どうしてこんなにも傷つけられなくてはいけないのだろう。女子力の差という現実を見たくないから彼女が何を作って渡したのかは知らない。でも、
「カナは私と違って、ちゃんと食べられるものを作れるんだああああああ!」
やはり理不尽だ。性格はちょっと変わってはいるけど、ちっちゃくて女の私からみても可愛いし、自然とこぼす笑顔なんて、もう……そんな女の子が無碍に拒絶されるだなんて。突き動かされるままに私は、その先輩がいるはずの教室へと駆けだしていた。
駆け込んだ上級生の教室で私は細見の優男に詰め寄った。「どういうことですか!」
知らない人から何かをもらうのは嫌かもしれない。それならそれで言い方ってものがある。そんなことを捲し立てていた。
どんな酷い奴なのだろうと思っていたのに、先輩は柔和だけど少しだけ青白い顔で、
「ごめんね」
と私を落ち着かせるためか、一言謝った。おかげで急に熱が引き、上級生達の視線を一身に集めているのに今更気付いてしまう。脂汗が額にじとりと浮いた。
「申し訳ないとは思ったんだけど、見た目通り胃が弱くてね。ちょっと昼食後には食べられそうにもなかったんだよ」
先輩は胃弱のようだが後で食べるとかあるだろう。言い訳めいた言葉に怯んだ心が怒りに上書きされていくが、
「伝えてくれないかな」
何か言ってやろうと思いあぐねている間に先手を打たれてしまった。
「大盛りチャーシュー丼。食べてあげられなくてごめんねって」