月と風の夢
都会の深夜、絶え間ない人の声と
車がたてる騒音が消えてしまうと、それまで聞こえなかった音が聞こえてくる。
防音の効いたマンションの一室には、秋の虫の声と、風が高い建築物にあたって鳴る、ひゅうひゅうという音だけが、消え入りそうな小ささで聞こえてくる。
風の音、虫の声、手元で紙を繰る音、アナログ時計の秒針の音、すべてが調和し、メロディーとなって、本を読む僕の耳に映り込む。
それはいつしか、安っぽい現代文学と混ぜ合わさってふわふわとただよう雲になる。夜の闇に浮かぶ浮雲になる。
雲は中途半端に欠けた月を隠し、
照明が照らす暗灰色の街を虫の声が鮮やかに彩る。
刻一刻と陰影を変える外の世界を、風は窓を揺らして僕に届ける。
やがて風は止み、闇は一層深くなり、ページもあと残りわずか。
秒針の音を聞きながら、それも読んでしまうと、至高の時間は終わりを告げる。本の内容も、思考の片隅に追いやられる。
さあ、眠ろうか。
いい夢が見れますように。