夕暮れの中を川土手に座って私は裕子ちゃんとおしゃべりをしている。ファストフードのお店とかでもいいのだけど、ああいう場所は少し騒々しくて、私達はここできらきら光る川面を見つめながらおしゃべりするほうが好きだった。
川辺にはたくさんの彼岸花が生えていて、夕焼け色に染まった景色の中でもその赤色は一際映えている。ママなんかは気持ち悪いって言うけれど、この花は毒々しいくらい鮮やかで、でも少し儚げで、私はそんなところが結構好きだ。
「美希ちゃん知ってる?彼岸花って中国原産なんだけど、中国のやつは種が出来るのに日本のやつは出来ないんだよ」
「知らなかった。じゃあどうやって増えるの?」
「球根だよ」
裕子ちゃんは物知りだ。私なんかよりずっと頭がいい。でも頭がいい分だけいつも色々なことに悩んでいるようで時々彼女のことが心配になる。
特に最近は私のことが主な悩みの種になっているようで責任を感じてしまう。私のお気楽さを半分くらいわけてあげたい。
「人間もある日突然種が出来なくなったりしないかな、分裂とかで増えるの。おもしろそうじゃない?」
こういう変な発言が私を心配にさせるのだ。私は自分が分裂するところを想像する。体が右と左に真っ二つに分かれて二人の私が生まれるイメージ。少し気持ち悪かった。
「分裂したいの?」
「分裂はどうでもいいの。そういう世界だったら、私たちもこそこそ付き合わずに済むんじゃないかなって」
女同士でおおっぴらに好き合えないことが彼女には結構堪えているらしい。常識とか世間体とか、そういうやつが彼女を打ちのめしている。好きってだけじゃうまくいかないこともあるんだなあ、なんてことをぼんやり考えながら、私は何か冗談でも言って彼女を励まそうとした。
「でも恋愛ってさ、少し障害がある方がロマンチックじゃない?ロミオとジュリエットみたいで」
「ロミオとジュリエットって…。その場合私はどっちなの?ジュリエットは子供なだけだからまだいいけど、ロミオなんてロクデナシじゃない。私はあんなの嫌だよ」
「じゃあ裕子ちゃんのが3ヶ月年上だから、裕子ちゃんがロミオかな」
あ、ロミジュリってそういえば悲劇の話だっけ。今の例えはまずかったかな…。
少し不安になって彼女の顔を覗き込むと、彼女は静かに笑っていた。やっぱりその笑顔はどこか憂いを帯びていて、儚げで、でもとても綺麗だった。