「一緒に幽霊を見にいきませんか?」
昼休みの教室で、何もせずぼんやりとしていると、大平裕美はだしぬけにこう言ってきた。
大平裕美は地味というか、近づき難い雰囲気を持ついかにも友達の少ないタイプだ。
俺は俺で、自分で言うのもなんだがとてもつまらない退屈な、友達のいない男だ。
本当に友達がいない。何故ならつい最近、唯一の友達が自殺してしまったからだ。
「大平さん……視える人なの?」つまらない返事をぼそぼそと返した。相手の目を見るのはなんか面倒くさい、というか怖い。
そんな俺の目をまっすぐに見ながら大平裕美は答えた。「わたし、視えない人だよ。だから一緒に見にいこうつってんだよ」
その晩、俺と大平裕美は通学路から少し離れた公園にいた。
「ここだよね、田中が首吊ってたのは」
大平裕美は広い公園の、周りもよく見えない不気味な暗がりの中に生える、太い枝の折れている木の下に立った。
「俺が偶然通りかかったら、そしたら田中がぶらさがっていて、手足がだらんとなってて、顔はうっ血して醜くゆがんで……」
「いいかげんにしなよ、田中」大平裕美が俺に言った。
「あんたはここで自殺を図った。でも失敗して落ちて気を失ってた。わたしが偶然見つけてあんたを助けた」
俺は意味が分らなかった。いや、思い出すのが面倒くさかった。いや、怖い。……思い出すのが怖かった。
「そのあと、ほったらかしにしてきたのは悪いと思ってる。わたしだって怖かったし、大ごとにしたらあんたも困ると思って」
大平裕美は俺の両手を握り、俺はどきりとした。
「あんたさ、わたしにだけは、時々うわ言のように自殺の話を『友達』に置き換えて話すよね」
まっすぐに俺を見つめる大平裕美。闇に浮き上がる色白の顔、きりりと結んだ唇、細い目、細い眉……。
にっ、と裕美は笑った。つられたようにぎこちない笑みを返す。
「とりあえず今度、遊園地に行こう」裕美は枝の折れた木を見上げた。
「大平、それって付き合うってこと?」
「いやそれはない」裕美はきっぱりと言った「ない、けど友達からなら始めることはできる。わたしも友達いないから」
肩を並べて歩き出した。次の日曜日に行こうと話した。公園を出て別れそれぞれ家に帰った。
とりあえず寝よう。起きたら明日になっている。