避暑地の林道に不釣合いなそのノイズは、今日も鳴りつづいている。
ラジオのチューニングが狂ったようなこの音が、いつから聞こえだしたかはもう忘れた。
耳鼻科へいって検査をしたこともあるが、耳自体には異常はないそうだ。
ただの幻聴、精神科へいけ。医者は暗にそういっていた。
ずいぶんと悩まされたものだが、もうその悩みは終わる。
日差しは少しきついが、雲ひとつ無い秋空だった。
俺は、道の脇に設置された汚いベンチに座り、木々の隙間からのぞく太陽に目をやる。
死ぬにはちょうどいい陽気だと思う。
人生の最後の日にきれいな太陽が見れた。
喜びという感情が湧いてくるわけではない。
ただ、太陽ってあたたかくまぶしいんだなと改めて思った。
その太陽も、自分の人生を照らすものではなかったのが残念だ。
自分が頭を打ち抜いて死ぬ瞬間のイメージが浮かぶ。
俺はどんな顔をして生を終えるのだろう?
ふと、ノイズに別の異音が混じる。
そちらに目をやると、白いワンピースを着た若い女がキャリーバッグを引いてこちらの方に歩いてきていた。
世界一周旅行にでも出かけるようなでかいバッグだ。
だが、その女はそんなことをする活動的な人間には見えない。
なぜあんなキャリーバッグを引いているのだろう?
まあ、どうでもいい。とりあえず、バッグを引く音がノイズと不協和になり耳障りだった。
「静かにしてくれ」無意識に思考が口からでた。
女は立ち止まり、俺に視線を向けきょとんとした表情を浮かべた後、額の汗を手の甲で拭った。
「いや、なんでもない」
俺がそういうと、また女は音を立ててバッグを引きずっていく。
ああ、なんて耐え難い不協和音、ほんと耐え難い、耐え難い……耐えられない。
女は地面に倒れた。
俺は倒れた女に、何度も拳銃のトリガーをひく。
女の全身が白いワンピースごと紅い液体でびしょびしょになった。
「ごめんな、ひどいことをした」
俺は自分が生きる価値のない人間であることを心から理解する。
でも俺は悪くない、このうるさいノイズが悪いんだ。
そうだろう?